~ プロローグ ~ |
「お前ら今回の実戦演習は終焉の夜明け団を想定して行うからな。今回は自警団に所属する魔術師に頼んで来てもらった……って、おっかしいなー、もうマヌエルさん来てる筈なんだけど」 |
~ 解説 ~ |
●エピソードについて |
~ ゲームマスターより ~ |
ろくでもなく不運な実戦演習へようこそ! |
◇◆◇ アクションプラン ◇◆◇ |
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【引きつけ役】としてマヌエルと交戦 魔術真名唱え全力で当たる 仲間と最大限協力、連携 撃破より凌ぐ事を念頭に先輩救出の時間を稼ぐ 重傷者が出たら役割問わず敵から引き離し遮蔽物の陰へ ◆セアラ 射程ギリギリの距離を維持 遮蔽物利用し移動を挟み狙い逸しつつ援護射撃 敵の足元や頭部を狙い行動を制限、前衛の負担軽減 冷静に慎重に戦況観察 前衛の作ってくれた隙見逃さずDE3蓄積を狙う ◆キリアン 前衛としてマヌエルと近接戦闘 茨警戒し他引きつけ役と方角分散 仲間と被害分担しながら凌ぎ後衛の攻撃機会を作る 余程の隙が見えればJM3で踏み込むが機会はよく狙う 敵は嗜虐を好む性質と見る ダメージを受けたら大袈裟に反応し救助役から目を逸らさせる |
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位置は前衛 女性先輩の救助役担当 茨の檻までは敵の標的にならないよう遮蔽物に隠れつつ 隙を見て一気に移動…を繰り返す 魔力探知で茨の檻を調べ、壊せそうな弱い部分がないか探す あればスキルで攻撃 檻が破壊できたら先輩に意識があるか呼び掛けて確認しつつ後退し 比較的安全そうな物陰等に運搬 救出・避難後もしくは失敗した場合 前衛に戻り撤退の時間を稼ぐ マヌエルを挑発して注意を引き、ターゲットの分散 「抗って死を迎える? そう思うのなら、まずはあなたが命を返すべきね!」 勝手に死ねば? 攻撃より回避重視で 自分の近くにいる仲間が重傷になったら、役割にかかわらず遮蔽物の陰に避難させる 自分が重傷になりそうなら無理せず下がって隠れる |
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引きつけ役 ◆目的 全員で生存 ◆心 怖いと言えば嘘になる でも今の僕なら言える 「それでも、皆と生きたい」 ◆行動 仲間同士がある程度バラけるよう配置 言葉と遠距離攻撃による挑発 敵を先輩達から引き剥がすことを第一目標 敵の攻撃は極力回避 万が一に備え、敵との間に障害物を挟むようにする 出来れば先に魔術を誘発して、敵を魔力切れに 対応: 敵との距離が近すぎ→全力移動で距離を置く 仲間が茨檻に捕まる→スキルと攻撃で檻を集中攻撃して即開放を目指す 側に重傷者→隙を見て遮断物の影へ運ぶ パンプティ: 前衛 基本回避に専念 暴撃は檻破壊にも使用 リトル: 中衛 遮断物に身を隠し移動しながら攻撃 話しかけ言葉の挑発に乗らないか試す 戦闘後は仲間の治療へ |
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目的 死亡者を出さない。全員が戦闘不能にならない。 行動 救助役と引き付け役に分かれて行動。 わたしたちは、引き付け役。 敵をNPC達・救助役・戦闘不能者から遠ざけるように誘導。 わたしたちの位置が深奥だから。 ある程度敵のほうへ近づいた後、押される振りで下がる感じ? 敵の妨害魔術の警戒のためにある程度分散みたいだから。 最終的にはゆるく包囲する感じかも? 戦闘 まずはシルシィが遮蔽物の位置を記憶。 これを利用して防御、移動しながら、攻撃はシルシィの通常攻撃かアライブスキルで。 なるべく敵の左右、背後から狙う。 近づかれた場合はマリオスが壁。回避に徹する。 |
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・ツバキ 相手は一人だけど、実力者なのよね?かなりキツイわ 引き付けはほかの人にお願いして、ワタシは攻撃を防ぐ方に力を入れるわ 壁も出して、受けれるとこまで受けるわ! でも危ないと思ったら無理しないで下がろうかしら いいことサザー、最悪あの人は助けれなくてもいいわ 出来るだけお互い怪我しないで時間を稼ぐこと いいわね、約束よ! ・サザーキア ボクは茨のオリを壊すニャ! みんなが攻撃してるところに向かっていっぱい攻撃をしていくニャ でもトゲが痛そうだニャ、邪魔なら折っちゃうニャ! 助けれそうならそのまま助けて、ムリそうだったらスキを見てツバキを抱えてみんなで逃げるニャ! ツバキの言われた事は守らないと、あとが怖いのニャ! |
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敵は強大。口惜しいが正面から戦って勝てる相手ではない ならば、僕は皆の救助を担当 まずは茨に囚われている先輩の救助を優先 ユウが持つ【魔力探知】で茨の魔力が弱い部分を探してもらい、救助組によるスキルの一斉攻撃で破壊を試みる 破壊できた後、先輩に声掛けをして意識の有無など状態を確認。遮蔽物まで移動させてからユウが持つ【簡易救急箱】を使って治療 運搬後は敵にやられた先輩の救助に向かい、同じく遮蔽物まで連れて行く 味方が負傷者を連れてきたら同じく遮蔽物まで運び、ユウに治療をさせる その間は僕が敵の動向に注意を払い彼らを守る 敵の攻撃が来たら回避に専念 その際も味方が攻撃に巻き込まれないよう立ち回る |
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目的】先輩を含めた全員で生き残る 行動】 魔術真名を唱え引き付け役が行動するまで待機 マヌエルの気が逸れたら重症の先輩の所へ二人一緒に全力で移動 辿り着いたらアリシアの「天恩天賜」で回復 すぐにクリスが先輩を抱えガードしつつ 傷に障らないよう気をつけて近場の遮蔽物の影へ移動 ひとまず先輩の容態が落ち着いたら後を救出役の仲間に任せて二人で引き付け役の仲間の所へ戻る アリシアは一番怪我の状態が酷い人から順に回復を クリスは彼女に攻撃が及ばないように常にガード マヌエルの意識がこっちへ向いた時は「エッジスラスト」を使って攻撃後、即離れるヒット&アウェイ戦法で できるだけマヌエルの死角になるように移動しながら回復させていく |
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【引き付け役】 喰) 他の前衛の様子を見て、突出しすぎないように 冒頭より魔術真名 グレールが前衛にて、敵をNPCから離れさせるように引き付けながら、攻撃、誘導開始 ○基本、攻撃は対象が自分以外に移りそうになった時のみ ○相手からの攻撃は、他者へと被害が出ない範囲を常に判断しつつ 遮蔽物を使用しての回避 ○もし回避することで、『物理攻撃』が中衛後衛に、 もしくは攻撃そのものが『救助組を巻き込みそうになった場合』は、防御に徹する ○味方に茨の魔術を使われた際には、敵の隙を窺い可能であればスキルで檻の破壊 祓) 魔術真名後、即前衛の後ろ、中衛へ ○魔術攻撃を邪魔させる、魔法攻撃の目標をこちらに向けさせる為 中衛からの通常攻撃 |
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~ リザルトノベル ~ |
「主よ、憐れみたまえ」 倒れた先輩達を助けに行きたくとも、マヌエルが立ちふさがるように静かに佇む。 助けに行きたくば、マヌエルを引きつけて救助するしかない。 「神よ、御身の栄光のために」 血に濡れても尚、マヌエルに殺意はなかった。あるのは神への信仰心だけ。 マヌエルとの位置はそう遠くない。互いに手を伸ばせば届く距離。マヌエルの側には気を失った先輩達がいて、迂闊に動けない。 そんな中、先に動いたのはマヌエルの方だった。 誰もが咄嗟に武器を構える。 「おやおや、若いものは血気盛んでいけない。魔術真名を唱えたらどうです? それまで待ちますよ」 「お前、ふざけやがって……」 パンプティ・ブラッディが憤怒の表情を浮かべる。逆に冷静になったリトル・フェイカーが真意を尋ねる。 「……どういうつもりですか?」 「どうせ死ぬのですから。それぐらい構いません」 怒りを滲ませる者もいたが、皮肉なことにその言葉のおかげで誰もが冷静さを取り戻した。 さらに客観的に周りを見ていた者は、これがチャンスでもあることを分かっていた。敵はこちらを侮っている。それは付け入る隙があるということだ。 「なら、遠慮なく『花束を』」 真っ先にリトル達が魔術真名を唱えたのを皮切りに、他の者も続く。 「聞いてないよ、こんなの! 先輩達を助けなくちゃ!」 「いやー、こりゃ想定外。……お嬢、いけるっすね」 「分かってるよ!『明日へ続く今日のために』」 取り乱しているセアラ・オルコット。落ち着かせるようにキリアン・ザジが手を掴み、二人は魔力の箍を外す。 「訓練をするはずだった、のに……どうして、こんな……」 「……どうやらサクリファイスが潜り込んでいたみたいだね」 クリストフ・フォンシラーはどんな状況でも笑みを崩さない。いつも通りに振る舞うパートナーを見て、狼狽していたアリシア・ムーンライトも少し平静さを取り戻した。 「今は……動揺している、時では……ありませんね……『月と太陽の合わさる時に』」 二人は手を合わせる。クリストフの手の体温を感じ、アリシアは「守りたい」という気持ちを強めるのだった。 「絶対に無理しちゃダメよ?」 「ニャ」 『骸に心を、獣に鎖を』 サザーキア・スティラは頷く。ツバキ・アカツキが差し出した小指に指切りげんまんしながら、魔術真名を唱える。 「全身ケガだらけで帰ってきたら、猫じゃらしは当分ナシよ」 「それはイヤニャー! ケガしないようにするニャー!」 戦場の中でも微笑ましい二人の隣で、男達は小声で密談を交わす。 『自由に、往きよ』 魔術真名を唱えるために近づいた拍子にグレール・ラシフォンの耳元に口を寄せた。 「グレイ、頼みがある」 「何だ?」 「敵の攻撃、かすり傷でも受けたら痛がれ。不自然にならない範囲でいい。大げさに声を上げろ、奴さんは苦しんでいる姿をご所望だ。恐らくそれを堪えて戦う姿に『悶え苦しむ様を、もっと見たくなるに違いない』」 「構わんが……」 「私もやる。互いに自尊心の許せん所はあるだろう。だが――お互いが生き残る為だ」 「なるほど……お前が望むならば、従おう」 傲岸不遜なガルディア・アシュリーがそこまでするのだ。必ず生きて帰るのだ、とグレールは僅かに満足げな笑みを浮かべ頷いた。 マヌエルの動向に注意を払いながらも次々と魔術真名を唱え、浄化師達は全身から魔力を解放させる。 「準備は終わったようですね。あなたたちが攻撃したら、それがスタートです」 戦いの幕は切って落とされた。 「あんたの相手は俺ですよ! 『エッジスラスト』!」 キリアンの一撃を皮切りに仲間達が一斉に散らばる。 遮蔽物に隠れたガルディアが援護するように占星儀から攻撃を繰り出す。 シルシィ・アスティリアは遮蔽物の位置を瞬時に把握すると、移動しながら呪符で足下を狙う。彼女のパートナーであるマリオス・ロゼッティも彼女を守るように動く。 「リコ、行け!」 トール・フォルクスは後方に下がると、ワーニングショットをボウガンから放つ。 リコと呼ばれたエレメンツの少女――リコリス・ラディアータは全力で走る。 仲間が引きつけている間に、遮蔽物を利用しながらマヌエルの気が逸れた隙に先輩達の元へと数名が駆け抜けていく。 「立派な心掛けです。足手まといを助けようとするなんて」 マヌエルの揶揄するような言葉にセアラは返事の代わりにチェインショットで応える。リトルも遮蔽物に隠れながら、呪符で攻撃を加える。 「全く……口惜しいとはこのことですね」 セプティム・リライズは自分の実力を正確に理解していたが故の呟きだった。敵は強大。ならば、無理をせず救助に専念すべきだ。 頭では理解していたが、敵を前にして手を出せない状況へ声に苛立ちがでていた。 パートナーであるユウ・ブレイハートと一緒に広間を支える支柱を利用して移動を繰り返す。 (ちょっと何あれやばい……) 「……でも、怖がっている場合じゃないわよね」 足が竦みそうになるのを必死で勇気づけようと声に出す。今ここで足を止めてしまったら、恐怖で今にも動けなくなってしまいそうだった。 だから、ユウは走る。 * 「ダメ! 血が止まらない! 誰か回復魔術が使える人は!?」 応急手当をしていたユウが声を上げる。 赤髪の男は呼吸が速く、浅い。唇は紫色で、皮膚は青白く冷たい。まるで死人のようだ。 ユウは必死に傷口にガーゼで強く押さえ圧迫するが、傷が深い上に負った場所が致命的だった。流れた血の量からして何時死んでもおかしくない。 まだ息はあるのに、助ける術がない。自分の無力さに打ちひしがれるアリシアにクリストフが声をかける。 「アリシア、君ならできるはずだよ」 「私は……まだ、一度も成功したことが……」 「大丈夫だ、アリシア。それとも俺のことが信じられない?」 アリシアは首を振る。クリストフに背中を押されて、前に進み出た。そのまま血で汚れるのも構わず、膝をつく。 「……できるかも、しれません」 「アリシアさん、お願いします!」 ユウは顔を上げる余裕もなく、止血を続ける。額から汗が流れるのも構わずに懸命に処置を施す。 「助けたい……」 零れ落ちる祈り。その願いに呼応するようにアリシアは魔術式を展開する。 「『天恩天賜』」 アリシアは手をかざすと暖かな月の光が生まれる。優しい治癒の光によって男の傷が少しずつ塞がれていく。 クリストフ・フォンシラーはアリシアの成功に笑みをこぼす。それも一瞬のことでアリシア達をいつでも庇える位置で周辺を警戒する。 一方、その近くでは茨に囚われた女性を助ける為に、リコリスは「魔力探知」で茨の弱点を探していた。目を凝らすように魔力の流れの循環点となる場所を捜し当てようと集中していた。 そんな無防備な背中を守るように猫耳を逆立てサザーキアが警戒する。 セプティムは茨の中にいる女性に声をかける。 「先輩、大丈夫ですか?」 (これが、僕らが見習うべき先達ですか……) 内心を綺麗に隠しきり表面上は先輩を心配しているように振る舞う。 セプティムの呼びかけに僅かに手足が動いた。ざっと見たところ男性よりは酷い怪我を負っていない。何らかの魔術をかけられている可能性もあるが、単に気を失っているだけの可能性もある。 「あった! ここだわ!」 リコリスはそう声を上げると、すぐさま行動を起こした。茨をマヌエルに見立てて苛立ちをぶつけるように、 「『ステップスマッシュ』」 軽やかなステップを踏むと循環点に短刀を突き刺す。リコリスに続くようにセプティムがクロス・ジャッジを放つ。最後の止めを刺したのはクリストフだった。 「『エッジスラスト』」 茨を両断する鋭い斬撃。あれほど頑丈だった茨は急速に枯れ果て消えてしまった。 「ウニャー……出番がなかったニャ」 次に攻撃しようとしたサザーキアは悲しげに鳴くとしょんぼりとしていた。 女性はその後すぐに目を覚まし、アリシアと共に回復魔術をかける。男性の容態が安定すると、すぐに比較的安全な遮蔽物へと移動した。 * マヌエルとの戦いは激しさを増していた。 先ほどの動きが戯れだったかのように、マヌエルは獣のごとき速さで姿を一瞬消す。忍び寄る死神のようにキリアンの背後に立っていた。 「キリー!」 セアラの必死な叫び。キリアンは死を覚悟した。 「『プリズン・ソーン』」 足下にも魔方陣が浮かび、幾重にも茨が地面から生えてくるとキリアンを閉じ込める檻を作り上げる。 無防備な背に剣を突き刺せば終わりだったはずなのに、嘲笑うかのように茨で捕らえるだけ。この男にとってこの戦いは、遊戯にしか過ぎないのだ。 「くそっ! 俺は囚われのお姫様って柄じゃないんすっけどねっ!」 苛立ちをぶつけるように茨に斬りかかるが、頑丈な茨の檻はびくともしない。 「キリー! 今助けに行くから」 「お嬢、来るな!」 キリーの怒声に、駆け寄ろうとしたセアラがびくりと足を止める。 「俺より、お嬢あんたは自分の心配をしてくれませんかねぇ」 「キリーのバカ! 死んだら許さないんだからね!」 わざとらしいほどいつも通りの軽薄な態度。セアラは唇を噛みしめ、片手弓を抱え遮蔽物に向かって走り出す。その姿を檻越しに見てキリアンは安堵する。 「美しい絆ですねえ……朗報ですよ。先ほどの魔術で魔力切れです」 一瞬の沈黙。その男が何を言っているのか誰も理解できなかった。 「どうしたんですか、あなたたちにとっては喜ばしいことでしょう?」 挑発なのか、それともブラフをかけられているのか。 「……敵の言う事、信じると思う?」 「おや、信じてくれないんですか。神に誓って嘘はつきませんよ。これでも信仰者ですからね」 物陰から窺っていたシルシィが否定するが、マヌエルはおどけたように肩をすくめるだけだ。 動きを捉えきれなかった事実に焦燥感は増し、否が応でも緊張感が高まる。 ひりつくような空気の中、トールのワーニングショットが放たれる。それはマヌエルの脇腹を掠り、支柱へとぶつかった。その隙をつくようにパンプティが弾丸のような勢いで懐に飛び込むと、 「『暴撃』」 大地を揺らす一撃。 急所こそ外れたものの確かに肉を斬り骨の折れた感触が斧から伝わる。 「はっ――」 激痛に耐えきったマヌエルの喉が震える。 「ふっはははははははっ!」 笑う。 哄笑する。 マヌエルの身体から放たれる威圧は桁違いに膨れ上がった。広間全体を覆うほどの殺気に重圧が増したように身体が重く感じる。 マヌエルが動いた。 全てをねじ伏せる凄絶な踏み込み。 ツバキが張った魑魅魍魎ノ壁を破り、パンプティの眼前に刃が迫る。 極限の状態まで高まった集中力。それによって時の流れが遅くなる。斧の柄を両手で握りしめ、パンプティは吼え猛った。 「ウオオオオォッ!」 全身全霊で無音の一撃に耐える。両足にこれでもかと力を入れて踏ん張る。 遠くで「パンプティさん」と叫ぶ相棒の声がする。 「誰が死ぬか!」 斧で押し返すように払いのけると、驚愕の表情を浮かべたマヌエルが目に入る。 「アタシが生きると決めたんだ! 指図は受けねぇ!」 激情のままに叫ぶ。 狂気をはらんだ笑みの奥に暗く光る金の瞳が見えた。底のない沼のような渇望があった。 「お前の本性はそれか。殺し合うことを楽しんでやがる」 パンプティは嫌悪感を露わにして吐き捨てる。 まだ手には重たい一撃に痺れる感覚が残っている。 「……楽しみはこれからですよ、お嬢さん」 否定することもせず、マヌエルは楽しげに笑う。 * セアラはマヌエルに狙いを定めようとするが、乱戦の最中では難しい。狙いが定まらない理由はそれだけじゃない。 (キリーが死んじゃうんじゃないかと思った) 「……誰も死なせないんだから」 セアラは自分を奮い立たせるように呟くが、矢を引く手はまるで自分のものじゃないように上手く動かない。焦燥感ばかりが募る。 こちらが圧倒的に数は有利なのに、マヌエル一人に対して押されている。仲間達の援護をしなければ、と思えば思うほど空回りしている感覚がつきまとう。 マヌエルが後方に吹き飛ばされ、チャンスが来る。 セアラは弓を射る。 だが、矢はマヌエルから逸れ、壁へ突き刺さった。 駆けつけたリコリスの協力もあってキリアンは茨から救出された。 外側からはシルシィは呪符を飛ばし、マリオスのエッジスラストを。中からはキリアン自身がエッジスラストを放ち、檻を壊した。 4人はそれぞれ散らばり、マヌエルを包囲する陣形を作る。 パンプティを支援するようにリトルの呪符が飛ぶ。避けたところをキリアンがエッジスラストを放つが、獣のごとき嗅覚で殺意を嗅ぎ取り、頬を切り裂かれながらも避ける。 「チッ、あれを避けるとか化け物すっかね」 シルシィは冷静に呪符を放つ。マヌエルは後方に吹き飛ばされたものの、すぐに体勢を整えたが、 「『エッジスラスト』」 飛び込んだマリオスによって斬られた、筈だった。 その瞬間までは。 柔よく剛を制す。 その言葉マヌエルは実践して見せた。魔力のこもった刃に対抗することなく、受け流す。そのまま自身の剣をマリオスの反対側に持って行き、素早く左斜めに踏み込んだ。 剣が振り落とされ、マリオスの肩を斬り裂いた。 さらにマヌエルが追撃しようとした瞬間、パンプティの捨て身の暴撃が横切る。それを剣でいなすと、キリアンが背後から斬りかかった。 さすがのマヌエルも防御できず、腕を斬りつけられる。 (くそっ……魔力切れじゃなけりゃ、もうちっとダメージが与えられたんすけどね) だが、目的は果たした。 マリオスを庇うようにガルディアが立ちふさがり、シルシィがマリオスに肩を貸しながら、前線から退いていた。 「マリオス、しっかりして……」 「シィ、大丈夫だ……しくったな……」 「後、少しだから、頑張って」 怪我を負ってない方の肩を小さな身体で背負うようにシルシィは歩く。傷口こそ深いものの、幸いなことにマリオスの意識ははっきりしている。 二人の歩いた跡には、血が落ちていた。 こちらに駆け寄ってくるアリシアとクリストフの姿も見えてシルシィは安堵する。 * 「『クロス・ジャッジ』」 敵の身体に十字架を刻むような斬撃。グレールを援護するようにガルディアも占星儀から攻撃を繰り出す。 リコリスがダンスを踊るようにステップスマッシュを決め、トールがワーニングショットを撃つ。魔力のこもった矢はマヌエルの腕を掠り、天井に刺さった。 セアラもチェインショットを足に撃ち抜く。それでもマヌエルは止まらない。リトルがトランプに偽装した呪符でセアラが撃ち抜いた場所を狙い、サザーキアが連続攻撃に加わる。 「『飛翔斬』ニャ!」 上空から振り落とされた一撃はマヌエルに届かない。 それは足を撃たれた人間の動きではなかった。 まさしく狂飆の勢い。 その勢いで放たれた一振りは、グレールの脇腹を抉った。 「ぐおっ……!」 急所こそ外れたものの脇腹から血が流れ落ちるのを見て、ガルディアは友の名を叫ぶ。グレールは倒れ込むように膝を突く。 「他愛もないですね」 つまらなそうにグレールを見る。 「『暴撃』」 パンプティが気を逸らそうと攻撃するが、その動きは見切ったといわんばかりに回避される。 ガルディアが怒りの表情でタロットカードを放つが、マヌエルの一撃により弾き飛ばされる。行き場を失ったタロットカードは天井へと突き刺さった。 「『魑魅魍魎ノ壁』」 仲間を守るようにツバキが魔力を引き延ばしたシールドを張る。 トールが足止めしようとワーニングショットを撃つが、足甲にひびが入るだけだ。リコリスが敵を引きつける為に動き、リトルも仲間の支援をする。 ガンッ! 足甲の壊れる音がした。 セアラがチェインショットによって、ついに足甲が壊れる。確実に足にも衝撃がいっている筈なのに、マヌエルは笑う。 その瞬間、動けないと思われていたグレールが斬りかかった。 「おや、まだまだ元気じゃないですか……」 足下を狙った一撃を間一髪で避けると、そのままグレールの脇腹をめがけて蹴りを入れる。 「がっ……!」 グレールは呻き声を上げ、その脇腹から血が地面に流れ落ちる。次の瞬間、苦悶混じりの顔で笑い声をあげた。 「……俺は、囮だ!」 その瞬間、待っていましたと言わんばかりにサザーキアが飛翔斬を上空から打ち込む。 まともに攻撃を受け止めても尚、マヌエルは倒れない。 「これでも立ち上がるのか!?」 ガルディアが驚愕の声を上げる。 「ああ、人は死に向かって進んでいく。傲慢なほど抗い続けるあなた方は素晴らしい」 場違いなまでに穏やかに語りかけるマヌエルに、リコリスは侮蔑の表情を浮かべる。 「抗って死を迎える? そう思うなら貴方が命を返すべきね!」 リコリスの挑発にトールは遮蔽物からひやひやした心境で見守っていた。 (リコ、気持ちは分かるけど、怒らせてどうするんだ!?) 今にも飛び出していきたい心境を押さえ込んで、トールはいつでも撃てるようにマヌエルを狙い続けていた。 前衛の消耗は大きい。相方であるパンプティが魔力切れになっていることにリトルは気づいていた。 リトルは少しでも時間を稼ぐ為に話しかける。 「抗って死ぬ。なら、君の兄が死んだとき……それも嬉しかったですか」 「ああ、そうですね。もちろん悲しみはありました。それ以上に兄の死は私に神の啓示を与えてくれたのですよ。これも兄のおかげですね」 マヌエルは兄の死を懐かしむように語る。 リトルは挑発が無駄だと悟った。この男との会話は無理だ。何を言っても彼には届かない。己の中にいる神の言葉以外、彼の中では等しく無意味なのだ。 「そうですか。僕は貴方が嫌いです」 「神は万人を愛せと言いますからね。私はあなたのことは嫌いではないですよ」 どこまでも男の言葉は借り物だ。偽装にすら劣る。 それは本当に君の言葉なのですか。その言葉をリトルは呑み込んだ。言ったとしても伝わらないだろうから。 相方が作った隙を使ってパンプティが斧を振りかぶる。連携するようにキリアンも剣を持つ手を狙った。 「下らん。神に委ねた愚か者が!」 ガルディアが二人を援護するように攻撃する。リコリスも「勝手に死ねば」と辛辣な言葉を投げかけ、ステップスマッシュで敵の気を引く。 リコリスが作ったチャンスを生かすようにトールのワーニングショットが足を撃ち抜く。セアラもチェインショットで狙うが、剣で軌道を逸らされる。支柱に矢は突き刺さり、元々罅の入っていた支柱は亀裂を大きくした。 刹那のことだった。 マヌエルがサザーキアの前に現れたのは。 トン、とあまりにも軽い音をたてて、腕が切断される。崩れ落ちる身体は受け身を取ることもできず、地に崩れた。 「ツバキィィイッ!」 庇われたサザーキアが叫ぶ。素早くツバキを抱えると、切断された腕を奪い取るように拾い上げ、その場から逃げ出した。 マヌエルはそれを追わなかった。ただ一瞬、笑みが消え、能面のような表情を浮かべた。 「……彼女はアンデッドでしたか」 今さっき気づいたとばかりに呟く。サザーキアに抱えられて去る姿をじっと見ていた。正確に言えば、彼女の切り落とした腕が再び肉体に癒合するのを。 その隙だらけの姿にグレールがクロス・ジャッジを放つ。 十字の斬撃はマヌエルを斬り裂いた。 が、同時にグレールの背中から剣が突き出していた。 ガルディアは自分の見たものを信じられなかった。頭が真っ白になって、倒れた友の元へと走り出していた。 「……す、まない、ガル、ディア」 「喋るな! 今、アリシア嬢の元へと連れて行く」 他の仲間がマヌエルを引き付けている間、ガルディアは友を腕に抱えて運ぶ。 「だから、……死ぬな」 グレールはその言葉を聞くことなく気を失った。 仲間達が次々と倒れていく中、それでも戦いは終わらない。激しさを増していくばかりだ。 セプティムは怪我人を連れて、広間の入り口近くにある支柱に身を潜めていた。 「怪我した人は来て! 薬がある限り頑張って治療するから!」 ユウは運ばれてくる負傷者に応急処置に集中する。不安を押し殺すように。 セプティムは広間の動向に注意を払う。剣を持たないの方の手は強く握りしめられ、血が滴り落ちていた。 「……腹立つのよ、あなたを見ていると」 リコリスは神を理由に仲間を害するこの男が許せなかった。その思いがステップスマッシュをさらに鋭いものとする。 「なるほど、あなたの考えは分かりました。私はね、思うんですよ。神を嫌うことも愛することも、どちらも大差はないと」 「なっ!?」 「何故なら、私たちは無関心ではいられない。あなたの憎悪もそうだ」 「私は違うわ!」 心の内を覗くような底の見えない目にリコリスは思わず声を荒げる。 「リコ! そいつの話術に乗るな!」 トールの叫びに我に返る。それはあまりにも遅すぎた。 回避することも防御すら許さない一撃。 熱い。数秒遅れて、リコリスは自分が斬られたことを自覚する。 自覚した瞬間、皮膚を裂く灼熱の痛みが全身に襲いかかる。呻き声さえままならない。そのまま少女は誰かに抱きしめられるのを感じながら暗闇に呑まれた。 「リコ!」 何度も何度もトールは彼女の名前を呼ぶ。 (また、俺は守れなかったのか……) 過去の記憶がフラッシュバックする。 クリストフがトールの肩を掴んで強引に振り向かせるまで、彼女を抱えたまま動けなかった。 前衛が押さえ込んでいる間、リトルとセアラがマヌエルの肩と足を切り裂く。マヌエルは攻撃した二人を獲物として狙い、動こうとした瞬間。 広間が揺れる。 老朽化した建物は戦いの余波に耐えきれなかったのだ。 広間を支える支柱には罅が入り、今にも倒れそうだ。天井からは瓦礫が崩れ落ちる。 ドゴッ。 突然降り注いだ瓦礫にマヌエルと浄化師達は互いに後方へと跳ぶ。その瞬間、本格的に崩壊が始まったようで、マヌエルと浄化師達を分断するように瓦礫が降り注いだ。 「早く! 崩れるわ!」 「急いでください!」 怪我人を連れて撤退準備をしていたユウとセプティムは、広間の入り口近くで叫ぶ。 アリシアとシルシィがマリオスを支えながら、走る。マヌエルと戦っていた者達も瓦礫が降り注ぐ中、命からがら逃げだした。 マヌエルは崩壊する広間から逃げることもせず取り残された。不敵な笑みを浮かべたまま、崩れ落ちた瓦礫の向こうにマヌエルは消える。 浄化師は崩壊する広間から怪我人を抱えて脱出する。死者こそでなかったものの、この戦いで負った傷は大きい。 しかし、生きている限りは敗北ではないのだ。 こうして激闘の幕は下りたのだった。
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*** 活躍者 *** |
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該当者なし |
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[38] リトル・フェイカー 2018/05/13-23:15
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[37] ガルディア・アシュリー 2018/05/13-23:10
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[36] アリシア・ムーンライト 2018/05/13-21:54
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[35] リコリス・ラディアータ 2018/05/13-20:19
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[34] ガルディア・アシュリー 2018/05/13-02:37
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[33] ガルディア・アシュリー 2018/05/13-02:13 | ||
[32] キリアン・ザジ 2018/05/13-01:35 | ||
[31] リトル・フェイカー 2018/05/13-00:00 | ||
[30] パンプティ・ブラッディ 2018/05/12-23:53 | ||
[29] シルシィ・アスティリア 2018/05/12-23:46 | ||
[28] ガルディア・アシュリー 2018/05/12-23:02 | ||
[27] ツバキ・アカツキ 2018/05/12-23:00
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[26] クリストフ・フォンシラー 2018/05/12-22:04 | ||
[25] ガルディア・アシュリー 2018/05/12-20:26 | ||
[24] シルシィ・アスティリア 2018/05/12-19:28
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[23] ガルディア・アシュリー 2018/05/12-13:01 | ||
[22] シルシィ・アスティリア 2018/05/12-02:22 | ||
[21] ガルディア・アシュリー 2018/05/12-01:27 | ||
[20] クリストフ・フォンシラー 2018/05/11-21:32 | ||
[19] ガルディア・アシュリー 2018/05/11-19:46 | ||
[18] セプティム・リライズ 2018/05/11-18:11
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[17] リコリス・ラディアータ 2018/05/11-16:22 | ||
[16] リトル・フェイカー 2018/05/11-14:57 | ||
[15] ガルディア・アシュリー 2018/05/11-00:23 | ||
[14] クリストフ・フォンシラー 2018/05/10-19:54 | ||
[13] シルシィ・アスティリア 2018/05/10-19:26 | ||
[12] セプティム・リライズ 2018/05/10-07:30 | ||
[11] リトル・フェイカー 2018/05/09-23:55 | ||
[10] キリアン・ザジ 2018/05/09-22:50 | ||
[9] トール・フォルクス 2018/05/09-22:15 | ||
[8] ツバキ・アカツキ 2018/05/09-21:22
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[7] シルシィ・アスティリア 2018/05/09-19:19 | ||
[6] リトル・フェイカー 2018/05/08-09:10 | ||
[5] セアラ・オルコット 2018/05/08-01:31
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[4] キリアン・ザジ 2018/05/08-01:28 | ||
[3] リコリス・ラディアータ 2018/05/06-20:14
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[2] セアラ・オルコット 2018/05/06-18:02
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