~ プロローグ ~ |
木漏れ日が降り注ぐ、木立の続く森。 |
~ 解説 ~ |
〇あなた達は、アルフ聖樹森で行われているハロウィンに参加する事になりました。 |

~ ゲームマスターより ~ |
こんにちは、留菜マナです。 |

◇◆◇ アクションプラン ◇◆◇ |
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B ブリジッタさんのところへ この間の、戦いの時から、気になっていたんです ブリジッタさん…少しお話ししませんか 日常と違う空気 今なら聞いて見ることができそうで思い切って ギガスさんとは、どんな風に出会ったのですか? どんな所に、惹かれたのですか? 良かったら、貴女の想いを、聞かせて欲しいと… 愛する人と、離れて行動しなきゃ、ならないのは きっととてつもなく、辛いと、思います 私は…私なら、きっと、心配で、死んでしまいそうに、なるかも ブリジッタさんは偉い、ですね もし私に、神様の力があれば こんな…戦いのない、世の中にしたかった でも私には、手の届く範囲の人にしか… ギガスさんに、私の…私達の手が、届くように 頑張りますね |
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はしゃいで走るドクターを見て思わず声掛け ドクター、コケないで下さいよー? そういやドクターはミズガルズ出身とか言ってたか… いくらここがエレメンツの里とはいえドクターにとっちゃ新鮮だよな そこまで走らなくてもツリーハウス逃げませんよ? 頬を膨らましたドクターに思わず笑み これまたツリーハウスではしゃぎ回るドクターをみて微笑ましくなっていたら、ドクターがどうしたのと これが俺にとっての新しい日常で、ずっと置いておきたいもの そう感じたのは秘密にして、なんでもないですと一言 やっぱり頬を膨らましたから思わず笑う ドクターの話、コギトエルゴスムってやつか… 夢と現実の境目…考えたこともなかったな… |
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B ブリジッタに聞かれて困惑 もし私が創造神だったら…? 私に神様なんて無理に決まってるでしょ 人には向き不向きがあるのよ きっとろくな世界にならないわ 心象を見るまでもなく分かるわよ それなのにどうして創造神に抗うのかって? 決まってるじゃない、今生きているこの命は私のものだからよ 上位存在だか何だか知らないけど、いいようにされてたまるものですか 私は今の自分が、今のトールが、今の世界が好きなの 創造神(あの子)が正しいかどうかは、私達が負けた時にでもまた考えるわ 参考にならなくてごめんね そうそう、私はベリアルは好きじゃないけど、 あなたのギガスへの想いは尊いものだと思うわ あなたのこと、そこだけは気に入っているの |
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良かった 聖樹森はだいぶ落ち着いたみたい シリウスを見上げてにこり リシェ様にご挨拶に行こうとして 様子を窺う人影に気づく B 心象× ブリジッタ、さん? ハロウィンに参加しにきたの? 頭を抱えるシリウスの気配に首を傾げる よろしければおひとつどうぞ てのひらサイズのカボチャのタルトを手渡す 最近思うの 創造神…彼は わたしたちを嫌いじゃないのかもしれない だけど 愛してもいない 少なくとも わたしの知っている愛じゃないわ 家族や友だちを想う心 特別な誰かを想う心 どれもとても暖かいもの 彼の言葉からは そんな暖かさを感じない 途方にくれたような彼女の眼差しに 小さく笑う 絶望の闇? あのねブリジッタさん 闇は 夜明け前が一番濃くなるものなのよ |
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■B 心象ではナツキが創造神、ルーノは管理官 環境を整えたばかりの世界に生物を造っていく ルーノ:馬に翼まで生やすのかい? ナツキ:だって飛べる方が便利だろ! ルーノ:…そうか より良い存在であるように、皆が幸せに生きられるように そう願って様々なものを造り、その為に環境を管理して… 元に戻り、心象の中での事を思い返す ルーノ:…絶望へ至る前に作り直すという考えも、創造神側なら自然な思考なのかもしれないな ナツキ:だな、よく分かったぜ。けどやっぱカミサマの作り直しってやり方には賛成できねぇな ナツキは元気が無い様子のブリジッタを心配 ルーノは心象を見た後、見せた理由を尋ねる 敵対する立場だった事は二人とも気にしていない |
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~ リザルトノベル ~ |
アルフ聖樹森は、ハロウィンで盛り上がっていた。 (ブリジッタさん……?) 『アリシア・ムーンライト』は、その中で儚げな視線を感じ取る。 そこには、集落の様子を窺うブリジッタの姿があった。 「この間の、戦いの時から、気になっていたんです。ブリジッタさん……少しお話ししませんか」 「あの時の浄化師どもやけん!」 歩み寄ってきたアリシアの誘いに、ブリジッタは虚を突かれたように目を瞬かせる。 ブリジッタはアリシアの願いに困惑を示しつつも、やがて小さく頷いた。 浄化師とベリアルが共に、煌びやかな催しを眺めている光景。 ハロウィンの賑わいが遠くに感じる。 日常と違う空気。 今なら聞いて見ることができそうで、アリシアは思い切ってそれを口にした。 「ギガスさんとは、どんな風に出会ったのですか? どんな所に、惹かれたのですか? 良かったら、貴女の想いを、聞かせて欲しいと……」 「うちの、ギガス様への想い……」 アリシアが振った話題に、ブリジッタはギガスと初めて出会った出来事を思い出す。 迷うような間を空けて、ブリジッタは搾り出すように言葉を発した。 「……ギガス様とは、アルフ聖樹森で出会ったけん。うち、その時はまだ、スケール5になったばかりだったっちゃ」 遠い記憶、微かに香る。 「ギガス様と出会った時、集落の人間の子供が、うちらに遊ぼうと言ってきたやん。すぐに人間が来て、子供を必死に連れて行きよったよんよ」 ギガスがアレイスターとの戦いに赴く際にも、胸に刻んだあの場所の記憶。 「うち、あの御方から名前を与えられて、絶望の未来を示されたばかりやったから、その時の人間の行動が不思議でたまらんかったっちゃ」 どうして、ベリアルである自分達に遊ぼうと言ってきたのか。 どうして、人間は殺されるかもしれないのに、必死に子供を守ろうとしたのか。 ブリジッタには、人間の行動自体が不可解そのものに見えた。 そんなブリジッタの不安を一蹴するように、ギガスは諭し、導いてくれた。 「ギガス様は優しいんっちゃ。うちが困っていた時、いつも助けてくれたけん。だから、うちはそんなギガス様の力になりとーと。あの日――そう誓ったんや……」 「愛する人と、離れて行動しなきゃ、ならないのはきっと、とてつもなく、辛いと、思います」 アリシアは、悲痛なブリジッタの想いを察したように表情を曇らせる。 「私は……私なら、きっと、心配で、死んでしまいそうに、なるかも。ブリジッタさんは偉い、ですね」 「そんな事ないけん。うちも……本当は今すぐにでも、ギガス様に会いたいっちゃ」 ブリジッタはギガスを信頼しつつも、一日千秋の想いを抱いている。 そんな彼女を気遣うように、『クリストフ・フォンシラー』は言った。 「俺も、ブリジッタの事は気になってたんだ。結局、ギガスはブリジッタを置いて、一人で戦いに行ってしまった」 クリストフは、あの時のギガスの真意を汲み取る。 「でも、あれはきっとギガスの思いやり。ギガスのブリジッタに対する想いは分からないけど。男としては、やっぱり自分を慕ってくれる女性を、戦いの場には連れて行きたくないよな」 「……そうなんやろか」 不安を滲ませるブリジッタを安心させるように、クリストフは応えた。 「俺も、最初はアリシアを戦いに連れて行くのは躊躇ったよ。こんなおとなしい子に戦わせるのか? って思ってさ」 クリストフは嬉しさと愛おしさと誇らしさ――溢れてくるそれらを形にして伝える。 「でも、一緒に行動してるうちに、いつの間にか彼女はとても強くなっていた。人間以外……ベリアルやホムンクルスとも心を通じ合わせられないかといつも試みていた」 アリシアが戸惑うブリジッタに寄り添う姿を見て、クリストフは微笑んだ。 「だから、ブリジッタには感謝してるよ。君は、アリシアの願いの1つを叶えてくれたから」 「うちが……?」 クリストフの優しさに満ちた眼差しに、ブリジッタは不意を突かれたように固まる。 「もし私に、神様の力があれば、こんな……戦いのない、世の中にしたかった。でも、私には、手の届く範囲の人にしか……」 温かな集落の様子を眺めながら、アリシアは切に願う。 「ギガスさんに、私の……私達の手が、届くように頑張りますね」 「うん、頑張ろう」 クリストフはアリシアの言葉に頷いた。 人間とベリアルを阻む壁は、あまりにも高く硬い。 でも、共に進む事くらいは出来るのかもしれない。 2人と過ごした時間は、ブリジッタの心に確かな温もりを感じさせた。 ● アルフ聖樹森に存在しているツリーハウス。 一本の木を支柱に作られているもの、複数の樹木を支柱として安定性を保っているものと様々だ。 「あれ見てすごい! あそこまで、大きなツリーハウス見たの初めて!!」 想定外の大きさのツリーハウスを目の前にして、『レオノル・ペリエ』は歓喜の声を上げる。 高揚の面持ちではしゃいで走るレオノルを見て、『ショーン・ハイド』は思わず声を掛けた。 「ドクター、コケないで下さいよー?」 ショーンは、そこでレオノルが胸を弾ませている理由に思い当たる。 (そういや、ドクターはミズガルズ出身とか言ってたか……。いくら、ここがエレメンツの里とはいえ、ドクターにとっちゃ新鮮だよな) 「ショーン、早く行こう」 レオノルは想到していたショーンの腕を引き、足早にツリーハウスへと向かおうとした。 催促するレオノルに連れられながらも、ショーンは呼び掛ける。 「そこまで走らなくても、ツリーハウスは逃げませんよ?」 「逃げないかもだけど、そういうもんなの」 頬を膨らませたレオノルの姿に、ショーンは思わず笑みを零す。 ツリーハウスに入ると、そこは入り組んだ秘密基地のような構造になっていた。 窓から零れる木漏れ日が、幻想的な雰囲気を醸し出している。 それは、空想の物語に迷い込んでしまったような錯覚を起こしてしまうような光景だった。 レオノルはまるで宝物を見つけたかのように、興味津々で辺りを見回している。 ツリーハウスではしゃぎ回るレオノルを見て、ショーンは穏やかに微笑んだ。 「ショーン、どうしたの?」 そんなショーンの様子に、レオノルは不思議そうな顔をする。 あの日、創造神の手によって、垣間見た忌まわしい過去。 ショーンの心は暗く沈み、軋んでいた。 レオノルは、そんなショーンの心を守るように優しく想いを告げる。 『今は、これからは幸せでいようね……』 レオノルの包み込むような温かな言葉と温もりが、ショーンの心に積もっていた穢れを散らしていった。 (これが俺にとっての新しい日常で、ずっと置いておきたいもの) そう感じたのは胸に秘めて、ショーンは一言だけ告げる。 「なんでもないです」 まるで秘密を口にするような口振りに、レオノルは頬を膨らませた。 (そういうこと、聞きたかったんじゃないけどな) レオノルの思ったとおりの反応に、ショーンは思わず笑う。 何気ない日常。 彼女と紡ぐ大事な思い出の一つ。 傍にいるレオノルと、彼女と過ごした日々を――ショーンは心から愛しく思う。 2人は他のツリーハウス探索にも乗り出し、ハロウィンを思いっきり楽しんだ。 思うがまま、ハロウィンを楽しんでいた帰り道、レオノルは見覚えのある姿を見かけた。 それは、息を呑むくらいに真剣な眼差しで、集落の様子を窺うブリジッタの姿だった。 「あれ? ブリジッタ?」 「人間はよく分からん……。それに――って、あの時の浄化師どもやけん!」 レオノルの呼び掛けに、振り返ったブリジッタは呆然とする。 集落の様子を窺う事に余程、集中していたのだろう。 ブリジッタはこの時まで、レオノルが近づいていた事に気付いていなかった。 自分の迂闊な行動に気付いたブリジッタは咄嗟に宙に浮かび、その場を離れようとした。 そんなブリジッタを呼び止めるように、レオノルは声を掛ける。 「どうしたの?」 悩んでいた内容を思い返し、ブリジッタは気恥ずかしそうに視線を宙に泳がせた。 やがて、地面に降り立つと、抱いていた疑問の一つを投げ掛ける。 「……教えてほしいっちゃ。現実と夢を分け隔てるものは何やろか? 夢と現実の違い。それっち、どうなん?」 ブリジッタが発した疑問に、レオノルは応えた。 「夢と現実の違い? 哲学的にはあらゆるものを疑う自分がいることだけは疑いようがないって所から自我を始めて、思考を繰り広げていくけど、それは夢の否定にはならないよね」 「……難しいけん」 レオノルが示した言葉に、ブリジッタは頭を悩ませる。 「難しい話だよねぇ。現実だと信じたい気持ちだけでいいんじゃないかな」 「そうなんやろか。現実だと信じたい気持ちだけでいいんやろか」 導き出された結論に、ブリジッタは自分に言い聞かせるように反芻する。 壊れた夢の欠片を探して、彼女は空を仰いだ。 (ドクターの話、コギトエルゴスムってやつか……。夢と現実の境目……考えたこともなかったな……) ショーンは2人のやり取りを見守りながら、心中で呟いた。 ● 鬱蒼とした森に点在する集落。 木々生い茂る細道には、住民達がそれぞれの集落を行き来し、ハロウィンを堪能している。 そんな中、ひしめき群がる樹木の片隅に隠れて、周囲の様子を探っている存在が居た。 ハロウィンの催しに招かれた『リコリス・ラディアータ』は、そこでその予想外な存在と遭遇していた。 「教えてほしい事があるけん」 その存在――ベリアルであるブリジッタは、藁から棒にそんな事を尋ねる。 「うちは絶望の世界は嫌や。世界を守りたいと願っているけん。それに、うちらだけではないんよ。人間も含めた全ての生物が苦しむ事になるんや」 ブリジッタは瞳に暗い火を宿して主張した。 「だから、教えてほしいんっちゃ」 ブリジッタは以前からの疑問に触れる。 「もし、あの御方のように『創造種』、無からあらゆるものを創造できる存在だったら、どうするんや?」 「もし、私達が創造種だったら……?」 リコリスは、ブリジッタに意外な事を聞かれて困惑した。 ブリジッタは自身の心象の能力で、その状況を垣間見る事が出来る事を説明する。 その上で、2人がもし創造神と管理神だったら、どうするのかを知りたいと申し出た。 「これは交渉とかじゃなく、ただのお喋りだからな」 事情を把握した『トール・フォルクス』は、リコリスと共に困惑しながらも、はっきりと意見を伝える。 「もし、私が創造神だったら……?」 「教えてほしいんや」 リコリスの確認に、ブリジッタはとある期待を抱くように促した。 「私に神様なんて無理に決まってるでしょ。人には向き不向きがあるのよ。きっと、ろくな世界にならないわ」 「心象を見てもいないやろ?」 「心象を見るまでもなく分かるわよ」 リコリスの明言に、ブリジッタの心境は混迷を極める。 「で、俺が管理神……?」 トールはリコリスと同様に、ブリジッタへの忖度は無しで正直に答えた。 「正直に言うけど、リコを管理するのは絶対に無理だよ。自分の意思で、誰に遠慮せず振る舞う、そんな自由なリコが俺は好きだな」 トールはリコリスへと視線を向けて、はっきりと口にする。 「だいたい、リコ一人で手一杯なのに、世界の全てを管理なんてできないし。もし、そんな力を手に入れたとしても、やっぱり、どうしてもリコの方ばかり気にしてしまうと思う」 トールは確信を込めて断言した。 「恋というのは、そんな厄介な感情だよ。……俺は、そんな自分も気に入っているけどね」 トールは真剣な眼差しで応える。 2人の瞳はどこまでも真っ直ぐで――だからこそ、ブリジッタはリコリス達が必死になる理由に固執した。 「うちには分からん。それなら、どうしてあの御方に抗うんや?」 「それなのに、どうして創造神に抗うのかって?」 リコリスは、躊躇うブリジッタの言葉を反芻する。 「決まってるじゃない、今生きているこの命は、私のものだからよ。上位存在だか何だか知らないけど、いいようにされてたまるものですか」 リコリスは視線をトールに向け、清々しいほど、力強く応える。 「私は今の自分が、今のトールが、今の世界が好きなの」 それは嘘偽りのない、リコリスの本心だった。 「創造神(あの子)が正しいかどうかは、私達が負けた時にでもまた考えるわ。参考にならなくてごめんね」 「悪い、ブリジッタ。聞く相手を間違えたな。たぶん他の人なら、もう少しまともなことを答えてくれると思うよ」 リコリスの意見に同調するように、トールは応える。 「そうそう、私はベリアルは好きじゃないけど、あなたのギガスへの想いは尊いものだと思うわ。あなたのこと、そこだけは気に入っているの」 「――っ」 リコリスの言葉に、ブリジッタは心を奪われたように頬を赤に染めた。 (うちは絶望の世界は嫌や。でも、人間達の想いは消えてほしくないけん) 世界を守りたいと思っている反面、リコリス達の想いは消えてほしくないと願っている。 二律背反に苛まれながらも、ブリジッタは不思議な感覚に襲われた。 『恋というのは、そんな厄介な感情だよ』 『あなたのギガスへの想いは尊いものだと思うわ』 トールとリコリスが伝えた言葉。 (うちの想いも、その感情なんやろか……? 尊いものなんやろか?) ブリジッタの胸が疼いた。何かが突き刺さった。 今まで頑なに信じてきたものが、一気に決壊しそうな気がする。 (ギガス様、教えてほしいけん……) 溢れる思いを抑えきれなくなったように、ブリジッタは今この場に居ない大切な存在へと想いを馳せた。 ● アルフ聖樹森は元の営みを取り戻し、人々はハロウィンの催しを謳歌している。 「良かった。聖樹森はだいぶ落ち着いたみたい」 『リチェルカーレ・リモージュ』は、隣を歩く『シリウス・セイアッド』を見上げてにこりと微笑んだ。 楽し気な集落の様子に、リチェルカーレは声を弾ませる。 そんな彼女の喜ぶ姿を見て、シリウスは表情を和らげた。 「こんな時間が、これからも続けばいい」 リチェルカーレの包み込むような優しさに満ちた声音。 そんな彼女の言葉に、シリウスは軽く頷いた。 細道を通り過ぎて、2人で賑わいのある集落の催しを順に巡る。 やがて、リシェが集落の住民達と語り合っている姿を見掛けた。 リチェルカーレがリシェに挨拶に行こうとした矢先、集落の様子を窺う人影に気づく。 それは、木陰に身を隠しているブリジッタの姿だった。 「ブリジッタ、さん?」 物悲しそうなブリジッタの姿を視界に収めた瞬間、リチェルカーレは弾かれたように走り出していた。 シリウスは何の戸惑いもなく、そちらへ向かうリチェルカーレを慌てて追い掛ける。 「ハロウィンに参加しにきたの?」 警戒心の欠片もないその言葉に、シリウスは憂慮した。 頭を抱えるシリウスの気配に、声を掛けていたリチェルカーレは思わず首を傾げる。 「……そんなはずないだろう……」 シリウスは思わず、ぽつりと漏らす。 想定外な言動に呆気に取られているようなブリジッタを一瞥し、シリウスは大きくため息をひとつ零した。 「よろしければ、おひとつどうぞ」 リチェルカーレは、ぽかんとした顔のブリジッタにてのひらサイズのカボチャのタルトを手渡す。 「……ありがとうっちゃ」 ブリジッタは戸惑いながらも、受け取ったタルトをじっと眺めていた。 リチェルカーレ達は、色鮮やかで美しいハロウィンの催しが展望出来る場所へと足を運んでいた。 祭りの終わり際――そんな安閑とした場所で、リチェルカーレはブリジッタに声を掛ける。 「最近思うの。創造神……彼は、わたしたちを嫌いじゃないのかもしれない。だけど、愛してもいない」 「そんな事ないけん。あの御方は、うちらを愛しているっちゃ!」 リチェルカーレは首を振り、ブリジッタの思いに応えた。 「少なくとも、わたしの知っている愛じゃないわ」 否定しようとした言葉は、ブリジッタの胸の中で溶けて消える。 リチェルカーレが、どこまでも優しい微笑みを浮かべていたからだ。 「家族や友だちを想う心。特別な誰かを想う心。どれも、とても暖かいもの。彼の言葉からは、そんな暖かさを感じない」 リチェルカーレが何を言っているのか、ブリジッタは直ぐには理解できなかった。 しかし、改めて、リチェルカーレの言葉を噛み締めて――ふと気付く。 (うちのギガス様への想いは、どうなんやろか……。そして、ギガス様は、うちの事をどう思っているんやろか……) その言葉から想起されたのは、切実さよりも愛しさの度合いだった。 シリウスは、2人が創造神の話をする様子を黙って見守る。 だが、わたし達を嫌いじゃないのかも、という言葉に薄い笑みを浮かべた。 シリウスは不意に、以前会った時の、あの神の言葉を思い出す。 『君たちを救いたいんじゃない。苦しめ続けたくないだけ』 「……馬鹿にしている」 シリウスは、彼女達に聞こえないくらいの小さな声で呟く。 リチェルカーレの語りに、ブリジッタは小さくも澄んだ声で訴えた。 「……でも、うちは終焉の世界は嫌や。あの世界を心象で視る度に、絶望の闇に飲み込まれそうになるけん」 途方にくれたような彼女の眼差しに、リチェルカーレは小さく笑う。 「絶望の闇? あのね、ブリジッタさん。闇は、夜明け前が一番濃くなるものなのよ」 「夜明け前?」 リチェルカーレが導いた一条の光に、ブリジッタは驚きに染まった顔で彼女を見つめる。 絶望の淵の後には、必ず希望がある。 そう思わせてくれるような、リチェルカーレの微笑み。 はにかむように笑うリチェルカーレを眩しそうに見て、シリウスはブリジッタへと視線を向けた。 「……お前は、この集落を見てどう思う。死んだ方が幸せそうだと、そう思うか?」 「分からんなったんよ……。死んだ方が、幸せになるはずやと思っていたのに、そう思っていたはずやのに……」 ブリジッタは心苦しそうに、自分の心情を吐露した。 だが、その悲痛な声は、ふと感じた温もりに霧散する。 リチェルカーレが声を震わせるブリジッタをそっと抱きしめていた。 (人間の想いは、とても眩しいっちゃ……) ● 「すげぇな」 目の前の光景に、『ナツキ・ヤクト』の高揚した響きが滲む。 ナツキ達は集落を練り歩き、やがて、森の細道の前で足を止める。 そこには、集落の様子を窺うブリジッタの姿があった。 「ブリジッタも、ハロウィンに参加しに来たのか? なんて……って、元気ねぇな。大丈夫か?」 ナツキの心配そうな言葉どおり、ブリジッタの表情には憂いが滲んでいる。 「ナツキに付き合って来てみれば……。ブリジッタだったか、なぜ、ここに?」 「教えてほしい事があるけん」 『ルーノ・クロード』が発した疑問に、ブリジッタは意を決したように言った。 「もし、あの御方のように『創造種』、無からあらゆるものを創造できる存在だったら、どうするんや?」 「創造種?」 ルーノの問いに、ブリジッタは何かを迷うような仕草をして応える。 「体験してみてほしいんや」 悲痛な声を上げるブリジッタの姿を目に焼きつけながら、ルーノ達の視界は闇に落ちていった。 気付いた時には、視界が一変していた。 ルーノとナツキが居る場所は――天界。 環境を整えたばかりの世界に、2人は新たな生物を造っていく。 「馬に翼まで生やすのかい?」 「だって飛べる方が便利だろ!」 「……そうか」 創造神であるナツキの提案に、管理神であるルーノは応える。 より良い存在であるように、皆が幸せに生きられるように――。 2人はそう願って、様々なものを造り、その為に環境を管理していく。 ナツキが世界を良くする為に奮起し、そんな彼を支えるようにルーノは支援する。 やがて、新たな生命が誕生し、その生物は周囲から大いに祝福を受けた。 それは、幸せが約束された、前途洋々の未来が待っているように感じさせた。 少しずつ意識が持ち上げられていく感覚。 視界が暗転し、2人はいつの間にか、元の場所へと戻っていた。 元に戻った事に気付いたルーノは、心象の中での事を思い返す。 「……絶望へ至る前に作り直すという考えも、創造神側なら自然な思考なのかもしれないな」 「だな、よく分かったぜ。けど、やっぱカミサマの作り直しってやり方には賛成できねぇな」 ルーノの考慮に、ナツキは決然として返した。 「ブリジッタ。どうして、私達にあの心象を見せたんだ?」 ルーノは心象を見た後、ブリジッタにそれを見せた理由を尋ねる。 しかし、真意を問われても、ブリジッタはあくまでも無言を徹した。 「心象を見せた理由くらい、教えてもらいたいものだが、別に不快ではない。創造神側の立場や思考を垣間見て、知る事ができたのは貴重だと思う」 ルーノは迷いのない瞳で、心象の世界で起きた出来事を振り返る。 「知る、というのは大切だ。知っている事が多い程、取れる手段も増え、望まぬ結果を変える事もある。……それが絶望の未来であっても、きっと」 ルーノのその眼差しは、真っ直ぐに逃げる事なく現実を見つめているようだった。 「創造神を心象世界で体験して、その気持ちも少しわかった気がする」 ルーノの想いに応えるように、ナツキもまた、心象で見た出来事を踏まえた上で伝える。 「でも、やっぱり俺はカミサマと戦う。良い事ばっかじゃないけど、それでも俺は今の世界が好きだ」 ナツキは決意を込め、ブリジッタを見据えた。 「だから守りたい、どうしても譲れないんだ」 その瞳に強い意思を湛えて、ナツキは言い放つ。 長い、長い静寂。 その静かさは清廉さすら堪えて、3人を包み込む。 「うち、知りたかったや。あの御方のように『創造種』だったら、どうするのかを」 ブリジッタはゆっくりと想いを紡いでいく。 「人間はどうして、ここまであの御方に抗うのか、その答えが知りたかったんや」 ルーノとナツキは信頼するように、ブリジッタの答えを待っている。 「でも、より良い生き物に生まれ変わったら、人間達が持つ想いもまた、消えてしまうんやろか。うちも生まれ変わったら、ギガス様への想いが消えてしまうんやろか」 本当に一番大事なものは、喪ってから初めて気付くものだ。 だけど、喪った事さえ忘れてしまう場合はどうしたらいいんだろう。 「怖いけん。うち、ギガス様の事を忘れたくないっちゃ」 「忘れさせねぇ」 ナツキのその言葉が引き金だった。 堰き止めていた感情が溢れ出て、ブリジッタの視界は一瞬で霞む。 「ああ。たとえ、それが君の望まない絶望の未来であっても、君がその意思を抱いたように世界は少しずつ変わっていけるはずだ」 ルーノはそんなブリジッタを導くように、誓いを口にした。
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*** 活躍者 *** |
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