~ プロローグ ~ |
※イベントシチュエーションノベル発注のため、なし。 |
~ 解説 ~ |
※イベントシチュエーションノベル発注のため、なし。 |
~ ゲームマスターより ~ |
※イベントシチュエーションノベル発注のため、なし。 |
◇◆◇ アクションプラン ◇◆◇ |
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軽くノック シリウス 中にいるの? 明らかに適当に済ませた手当てと 血の気の引いた顔に絶句 お医者さんにー 捕まれる手首に目を丸く 縋るような眼差しに眉を下げて もう、と小さく わたしと違って大けがだったんだから お医者さんがだめでも クリスさんとかショーンさんとか 頼ればよかったのに 迷惑なんて、思わないわ 絶対よ 力なく閉ざされた翡翠の眼差し シリウスは自分の不調には鈍感だ だからわたしが気づかなくちゃいけなかったのに ごめんね 来るのが遅くなって… 自分が不甲斐なくて ぽつりと零れる涙 熱を孕んだ目がこちらを見ている …側にいてくれなくちゃ わたし泣くわ 赤くなった頬を誤魔化すように笑って見せる のばされた腕に逆らわず 少しかさつく唇にキス |
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~ リザルトノベル ~ |
黄昏も黎明も、断片的に訪れては去って行った。 一日は短く、心のなかの日めくりカレンダーは手をかけるより先にひらりと舞い落ちてしまう。目を閉じて開けば、もう溶けた雪のように跡形もなくなっている。 今日が何曜日なのかすらわからなかった。時間もだ。朝なのか昼間なのか夕方なのかも、宵の闇なのか真夜中のそれか、あるいは日の出が近づいているのかも。 そんな状態が何日か続いた。 広大無辺にして往来自在、建造物のひとつとて見えぬ純白の大地、宿世と来世が混じり合う異空間で『リチェルカーレ・リモージュ』は、人化せし超越的存在ネームレス・ワンと対峙した。管理三神とメフィストに見守られた状況、薔薇十字教団えりすぐりの浄化師たちと肩を並べ、まさしく世界の存亡を賭した決戦に臨んだのだ。 戦いは勝利に終わった。ネームレス・ワンは劇的に、それでも穏やかかつ満足そうに灰燼に帰した。 「赤ん坊からやり直すから、しばらくは待ちなよ。それまでは、滅びちゃダメだよ――」 という言葉を残して。 大きく負傷したわけではない。しかし精根尽き果て疲労のあまり、翌日からリチェルカーレは発熱して床に伏せった。数日間起きることすらままならなかった。 病でもなくこれほど寝込んだのははじめてのことだ。 ああ、でも。 瞼を上げるだけで音が立つはずはないのだけれど、目覚めると同時にパチッと、スイッチが入る音がしたようにリチェルカーレは感じた。身を起こして大きく伸びをする。魂が出てしまうのではないかというほど長く息を吐いた。 憑きものが落ちたよう、というのはこんな状態を言うのだろうか。今朝は生まれ変わったみたいに爽快だ。いささかも疲れは残っておらず、体中に力がみなぎってくる。いますぐ最終決戦をもう一回やれと言われたって、えいやと飛び出せるような気がした。 ……それは無理かな。 苦笑してしまう。ぐうう、と抗議の声をお腹が上げたのだ。いろいろ詰め込んであげたい。朝ご飯とか。 夢うつつながらできるだけ毎日下着も寝間着も替え体も拭いてきたつもりだが、まずはシャワーを浴びたかった。最初はちょっと冷たいくらいの水温がいい。それからうんと熱くしよう。 ベッドから滑り降りると青く長い髪が、当然のようにくるくるっと跳ねてカールした。 身支度を終え久々の制服に袖を通して、リチェルカーレは食堂で栄養補給を開始した。これまで何気なく口にしてきたクロワッサンが最高にサクサクしててバターもきいていて、目玉焼きの黄身なんてふんわりトロトロで、サラダもシャキシャキで甘味すら感じたのは、よっぽど飢えていたからだろうか。 しかしその幸福もすぐに薄らいでいった。 「そう、見かけてないの……」 てっきりいつものお気に入りの席にいて、食後のコーヒーを片手に『遅いぞ』とうっすら笑いかけてくれるかと思っていた『シリウス・セイアッド』の姿がなかったのだ。食べているうちに来るかと期待したがそれも果たせず、周囲の友人に問いかけてみても、一様にしばらく見ていないという回答があっただけだった。 嫌な予感がした。 すっかりパサパサになり味もしなくなったパンの残りを大急ぎで片付け、リチェルカーレは席を立った。 寮母さんにお願いして、彼の部屋へ入れてもらおう。 シリウスの部屋の前に立ち、ドアを軽くノックする。 「おはよう、シリウス。中にいるの?」 リチェルカーレは期待した。『今起きた』とか、いっそ『いない』とか、そういう回答が戻ってくることを。 しかし、しばらくごそごそと音を立てたのちようやく、 「リチェ……か……」 ざらついた声とともに扉を開けたシリウスの顔を見て、 「顔を見ないと聞いたから 心配し……!?」 リチェルカーレは絶句したのである。 シリウスは一変していた。血の気の失せた顔は、もともと色白だが今は紙のように白く、うつろな目は濁り焦点が合っていない。垂れた前髪は汗で額に張り付き、頬にも暗い影がさしている。 「もう、起きられるようになったのか……よかった……」 自分が大変な状況になっているというのに、リチェルカーレを見て最初にシリウスが口にしたのはこの言葉だった。 立っているのもやっとだったらしい。ゆらりとシリウスはよろめいた。 その拍子にドアが大きく内側に開き、彼の全身をあらわにする。 体には包帯が巻かれているがいずれも不器用に巻き付けただけで、傷が完全には覆いきれていない。絆創膏の場所もずれている。軟膏を塗った跡にしたってむらがあり、分厚く塗布したところと傷に届いていないところがちぐはぐだった。 自分で処置したのは明らかだ。それも、かなりいい加減に。 一瞬悲鳴をあげそうになったがこらえ、リチェルカーレは身をひるがえした。 「お医者さんに……!」 と言いかけた彼女の手首をシリウスはすばやくつかんでいた。 「――言わないでくれ」 そうして重傷者とは思えない力で、リチェルカーレを部屋に引っ張り込む。 けれどこれが限界だ。背中から床に倒れ込みうめいた。 頼む、と言うかわりにシリウスは、すがるような眼差しをリチェルカーレに向けた。 あきらかに良くない、こんなこと。 一刻も早く医者に診せるべき、それは十二分にわかっている。 でも。 リチェルカーレの眉が八の字に垂れた。 あんな顔されちゃ……。 「もう」 小さくつぶやくと、リチェルカーレは後ろ手にドアを閉めた。 部屋のなかはうっすらと消毒液の匂いがする。 リチェルカーレに手を借り、シリウスは這うようにしてベッドに戻った。 リチェルカーレは周囲を見回す。シリウスらしいというか、こんな状態でもきれいに整頓されていた。 いやむしろ――決戦の前に整理して、そのまま? どうやらそのようだ。 「勝利して教団に帰還してから……何人かの声を振り切るようにして部屋へ戻った」 ぽつりぽつりとシリウスは語った。 「医務室には、行かなかったんだ」 「入れない。あの白い建物を見るだけで足がすくむ……」 リチェルカーレにはシリウスは素直だ。てらいもなく言って目を閉じた。 「寝ていたら治ると思い、部屋の扉を閉めたところで意識が途切れた」 自分で雑に応急手当したままなのはそのせいだろう。だが、教団の医務室で適切な治療を受けていたら、決してこんなことにはならなかったはずだ。 医学の心得があるのでリチェルカーレが彼の傷を調べた。さすが快復力はある。幸いにしてほとんどの傷はふさがっていた。汚れを拭き取り消毒してきぱきと処置を施すと、またシリウスの目が開いた。 「わたしと違って大けがだったんだから、お医者さんがだめでも、クリスさんとかショーンさんとか頼ればよかったのに」 言いながらリチェルカーレはシリウスを仰向けにし、火のように熱くなった額に冷たいタオルを乗せた。 シリウスの表情がゆるんだ。 けれどかたくなな態度は変わらない。 「……迷惑、だろう。あいつらだって酷い怪我をして……」 リチェルカーレは彼を遮り、力を込めて言った。 「迷惑なんて、思わないわ。絶対よ」 朦朧としていたシリウスの視線に生気が戻りつつあった。 なかば力なく閉ざされてはいるが、瞳はこれ以上ないほどに翡翠の色だ。はっとするほど美しい。 「来てくれてありがとう……助かった」 唇をなめてシリウスはつづけた。 「……そして、ごめん」 申しわけない、その気持ちに偽りはなかった。実際、今朝リチェルカーレが来てくれなかったらどうなっていたかわからない。 しかしそれと同時に、もしかしたらそれ以上に、シリウスは安らぎを感じている。 そばに誰かがいてくれる。それだけで、どうしてこんなにほっとするんだろう。 「タオル変えるね」 シリウスがうなずくと布がのけられ、水音が聞こえてまたのった。 「……心地いい」 「本当? 良かった」 タオルが、ではなく、リチェの細い指先がと言いたかったがそれは控えた。 母鳥に包まれる卵になった気持ちで、やがてシリウスは深く静かな眠りに落ちた。 リチェルカーレはシリウスの寝息を確認すると、汚れた包帯を片付けふたたび枕元に戻り、黙ってベッドに両肘をついて彼の寝顔を見つめた。 何時間かがあっという間にすぎた。 リチェルカーレは彼の元にとどまっている。まめに濡れタオルを交換した。 離れられなかった。飽きることもなかった。 こうしてすやすやと眠っているシリアスの貌(かお)は、よちよち歩きの子どもみたいに見えてくる。 その頃の彼はどんな子だったのだろう。 やっぱり強がりで、転んでも泣いたりしなかったんだろうか。 困ったことがあっても、全部一人で解決しようとしたんだろうか。今回のことみたいに。 故郷の村が使徒やベリアルに襲われるまでは家族とともに平穏な生活をしていたというから、もしかしたらそれまでは、今とは180度逆で甘えん坊だったかもしれない。 それはないかな。 でもきっと、寝顔は今と同じだったとリチェルカーレは思うのだ。 シリウス、あなたは強いけれど……自分の不調にはとても鈍感。 だからわたしが気づかなくちゃいけなかったのに――。 リチェルカーレは下唇を噛む。 小声で告げた。 「来るのが遅くなって……ごめんね……」 シリウスがこんなことになっているなどとは夢にも思わず、ただ寝たり起きたりしていた自分が不甲斐ない。 いつの間にかリチェルカーレの目には涙がたまっていた。 ぽつりと、一粒が零れ頬を伝う。 はっとなってリチェルカーレは目をぬぐった。いつの間に起きたのだろう、熱を孕んだ目がこちらを見ていた。やはり透き通った翡翠の色で。 「……お前は、何も悪くない」 シリウスの舌は乾ききっていた。だから掠れ声になってしまった。届いただろうか。 濡れた右手を袖で拭いてリチェルカーレは言った。 「ぐ、具合は?」 シリウスはうっすらと微笑んでうなずいた。 「良く、なってきた。俺は、平気……だから泣くな」 いつもの強がりかもしれない。けれど、眠る前より血の気がさしてきたのは確かなようだ。 「こうやって、そばにいてくれたら……それだけでいい」 そうだ。リチェは悪くない。 ――悪いのは、俺だ。 このとき白い稲妻のように、シリウスの脳裏にある言葉が連想された。 『お前こそが、災厄を招く』 過去に何度も聞かされた言葉、つきまとう呪詛だ。 シーツから出した右手、その指先が震えた。 「……リチェ、いいんだろうか。お前の横にいても、本当に」 胸が苦しくなる。 俺は災禍を喚ぶ者だ、ガスのようにまとりわつく黒い思念に悩まされる。 けれど彼に宿った闇を、たんぽぽの綿毛を吹くようにしてリチェルカーレが払った。 「何言ってるの」 シリウスの右手に自分の手を重ねる。 「……シリウスがそばにいてくれなくちゃ、わたし泣くわ」 「でもさっき、泣いてた……」 「泣いてないよ。うん、泣いてないから」 赤くなった頬を誤魔化すように、リチェルカーレは笑ってみせた。 「だって、シリウスがそばにいるんだから」 シリウスの心から恐れが消えたわけではない。今はまだ。 だけど。 彼女が望んでくれるなら、そばにいたい。 いさせてほしい、どうか――。 シリウスはリチェルカーレと結んだままの右手を引き寄せ、左腕も伸ばした。 リチェルカーレはさからわなかった。 そして重なり合ったまま、少しかさつくシリウスの唇にキスを与えた。
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*** 活躍者 *** |
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