~ プロローグ ~ |
※イベントシチュエーションノベル発注のため、なし。 |
~ 解説 ~ |
※イベントシチュエーションノベル発注のため、なし。 |
~ ゲームマスターより ~ |
※イベントシチュエーションノベル発注のため、なし。 |
◇◆◇ アクションプラン ◇◆◇ |
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「大切なひとほど殺してしまう」
両親も、故郷の皆も。ルシオだって。 俺が側にいてほしいと願った人は皆、死んでしまったから また誰かを殺すくらいなら もう誰も好きにならない そうすれば もう大切なものを失うことはないから そう思っていたけど ぐらぐらする視界に 誰かが映る 何かぶつぶつと 言われている気がする リチェじゃない 彼女より大きく骨ばった手の主を知っている 「…ショー、ン…?」 死んだと聞いた 襲われて 酷い怪我をして 「ーよか、った いきてた」 表情が緩み 思わず呟く 再度意識が飛び 目が覚めると傍らにショーンの顔 なんで彼がここに?と眉を潜める(先の記憶なし) 「…何?」 我ながら愛想のない声 なぜか髪を撫でられ 瞬き一つ |
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シリウスが倒れた。そう聞いて急いで彼の部屋に。
最初に見えたのは意識も朦朧として倒れているシリウスの姿。慌てて近付いて様子を見る。 どうしてこんなになるまで放っておいたんだ。思わずそんな言葉が口をつく。 とりあえず脈を確認。安定はしている。 次に傷口。よくもまぁこんな雑な処置のまま……。コイツらしいといえばらしいか。 とりあえず包帯と消毒液を用意するか。と思った矢先。 カタン、と音が。 なんの音かと思えばナイフ。……ナイフ? このナイフ、確か……。 記憶を探ってあっと声を上げる。 昔プレゼントに渡したものをまだ持っていたのか。 全く……義理堅いというかなんというか……。 直後、シリウスの身体が動いた気がした。 何事かと思えば、ぼうっとした目でこちらを見て。 |
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~ リザルトノベル ~ |
羽織ることすらもどかしく、『ショーン・ハイド』は上着を肩にかけただけで足早に歩む。駆け出したかったが自制した。走りだせばたちまち、取り乱す心を抑えられなくなるだろうから。 扉の前で『リチェルカーレ・リモージュ』が待っている。血の気の失せた顔色、目に悄然とした表情をたたえていた。 「お願いします」 リチェルカーレは扉を開けた。黙礼してショーンは部屋に足を踏み入れる。 絶句した。 目にしたのは、ベッドの上にある『シリウス・セイアッド』の姿だ。 枕元に死神が座っている、そう錯覚するほどの状態だった。 まあたらしい包帯を巻かれてはいるものの、呼吸は浅く肌は青白く、天井を向いた瞳もうつろだ。両手にすくいあげた海水のように、ぽたぽたと生命力がしたたり落ちていく音が聞こえるようだ。 「朝から容態が急変して……なのにシリウス、医務室にはどうあっても行かない、医療担当の人間にも会いたくないって言い張って……それで……」 リチェルカーレの肩が小刻みに震えていた。 可哀想に。彼女はきっと、誰よりも自分を責めている。 「大丈夫」 ショーンは、まずリチェルカーレに微笑してみせた。 「必ず助ける」 だからここは任せてと告げてショーンは扉に目を向け、一時退出をうながした。リチェルカーレ自身にも休息が必要だ。 ためらうようにリチェルカーレは、しばしシリウスを見つめていたがやがて、 「お願いします……」 深く頭を下げると、名残惜しげに振り返りながらドアノブを回した。 銀青色の髪が力なく、垂れたまま扉の向こうに消えた。 ショーンはため息をついた。だが次の瞬間にはもう、上着を投げ捨てベッドに駆け寄っている。 「シリウス」 だがシリウスは、視線をショーンに向けることすらない。 「お前、どうしてこんなになるまで放っておいたんだ……!」 怒鳴りつけたつもりだったが、ショーンの声は詰まり、囁き声と大差がなくなっている。 シリウスの自室は、よく言えば整頓されていた。だが悪く言えば、物らしい物のほとんどない部屋とも言えた。壁紙はなくカーペットもない。窓にカーテンすらついていない。大きなメタルラックもほぼ空で、下段に武器の手入れ道具と、小さな救急箱だけが申し訳なさそうに置かれていた。ワードローブらしいものは見当たらず、針金のハンガーにかけた制服が壁に吊されている。 寝台があればいい、着るものも最低限あればいい、そんなシリウスの考えが透けて見えるようだ。 シリウスが死にかかっている、そうリチェルカーレからの報を受けショーンはこの部屋に急行した。 最終決戦で負傷したシリウスは医務室に行かず、誰にも知らせぬまま部屋に転がっていたという。寝ていれば治ると過信していたのだろう。すんでのところでリチェルカーレに発見され手当されたものの、危険な状態であったことは疑いようがない。 しかも一夜明けて、一時的に鎮まっていたものが急激に悪化したというのだ。 脈は……安定している。 シリウスの手首から手を離し、その手でショーンは額をぬぐった。我知らず汗をかいていた。見た目ほど悲惨な状態ではないらしい。 けれど包帯をとき、傷口を目にするやショーンは顔をふたたび曇らせた。 「よくもまぁこんな雑な処置のまま……コイツらしいといえばらしいか」 皮膚に抽象画を刻印したようになっている。 やはりリチェルカーレには退出を願って正解だった。彼女が手当していたのである程度食い止められてはいるものの、負傷したその日から数日、放置に近い状態にしていたのがよくなかった。 だが手遅れではない。ショーンは袖をまくった。 持参した包帯、それに消毒液を取り出す。余るほど持ってきたつもりだったが、むしろ足りなくなるかもしれない。 大仕事になりそうだ。 深呼吸するべく伸ばしたショーンの腕が、目測を誤りベッドサイドの小棚に当たった。 カタンと音がして何かが床に落ちた。 拾い上げてみると小ぶりの短刀だ。 ……ナイフ? 刀身は短く細身で、ショーンの手であればすっぽりと収まるほどの大きさだった。取り回しはよさそうだが一般人向けだ。浄化師の魔喰器と比べれば玩具のようなものだろう。よく使い込まれているらしくグリップがすり減っている。 鞘から抜いてみた。刃は新品のように鋭く、冷たい光を宿らせていた。 このナイフ、確か……。 ショーンには見覚えがあった。記憶を探ってあっと声を上げる。 俺が昔、プレゼントに渡したものだ。 まだ持っていたのか。 柄の模様がほとんど消えていたので気がつくのに時間がかかった。刃が新品同様であるところからすると、シリウスが大切に使っていたことは間違いない。 「まったく……義理堅いというかなんというか……」 ナイフを棚に戻す。苦笑に似たものがショーンの唇から漏れた。 直後、シリウスの身体が動いた気がした。 幼子の手を離れた赤い風船のように、ぷかりとシリウスの意識は浮上した。 うん……? 最初は、沸騰した湯から気泡が生まれては消える音かと思った。 しかしすぐに、音は誰かのつぶやきだとわかった。 リチェじゃない。 深みのある男性の声だ。聞き覚えがあった。 「……ショー、ン……?」 かさかさの唇を動かし、首を右側に傾ける。 手が見えた。リチェルカーレよりずっと大きくて骨張った手だ。 手の主を見上げる。 やっぱり。 シリウスの表情がゆるんでいる。 「――よか、った。いきてた」 ショーンは言葉を失った。 シリウスが自分を見ている。 しかし彼は、本当に現在のシリウスなのか、応じる言葉がとっさに見つからない。 かつてシリウスがよく見せた笑顔だった。純粋で屈託がなく、ショーンのことを信頼しきっている表情。棒きれを飼い主の足元に落とし、投げてもらうのを待っている子犬のような。 けれど空に浮かんだ赤い風船は、たちまちしぼんで風に流された。 シリウスは瞼をおろし、まもなく寝息を立てはじめたのだ。 ショーンはそれでも、しばらく口を半開きにしてまばたきしていたが、 「『生きてた』か……それは定義によるな」 短くつぶやくと首を振り、作業を開始した。 どれほど時間が経っただろうか。 汚れ物をまとめて袋にしまうともう限界だ。なすべきことが一通り終わり、ぐったりとショーンは壁に寄りかかる。茹ですぎたブロッコリーにでもなった気分だ。もう、腕を上げるのだってわずらわしい。 このときシリウスが目を開けた。まるで、ショーンがダウンするのを待っていたかのように。 「……何?」 不審者に投げかける口調でショーンは言った。愛想がないのは声色だけではない。首だけこちらに向けて眉をひそめている。 なんでショーンがここに? シリウスには理解ができない。 俺、リチェに看病されていたよな――? そのはずだった。少なくとも昨夜までは。 だがそこから先はいささか記憶に自信がなかった。 ずっと夢を見ていたように思う。長い長い夢、これは夢だと自覚しながら、それでも目覚めることのできないような夢だ。 高熱が出ていたに違いない。暖炉みたいに火照る頭をかかえ涸れ井戸のようになった喉に苦しみながら、シリウスは自分の半生を振り返る夢路をたどっていた。 記憶は時間軸の通りには進行しなかった。しばしば寄り道し、飛び、戻って、同じ光景が何度か現れたりもした。 しかし中心テーマだけはぶれなかった。 シリウスが夢で見た己の半生、これをつらぬいたものはただの一言だ。 死。 『大切なひとほど殺してしまう』 死んだ。みんな死んだ。 両親が死んだ。故郷の村ごと、侵略者に焼かれて死んだ。目の前をよぎるのはベリアルの大きな影、使徒のぞっとするような眼差し。 ルシオが死んだ。それが宿命だというように、命の花を散らして消えた。 夢の中でひとつひとつの死を、シリウスは間近で再確認していった。 実際に目にした記憶がないはずの光景すら、スローモーションで見ることができた。炎の熱さも、血の臭いもねばつく感触も、ありありと感じることができた。 けれど誰の死も、どんな死だってシリウスには絶対に止められない。なすすべもなく眺めるしかない。 そして彼は繰り言する。 『大切なひとほど殺してしまう』 と。 俺がそばにいてほしいと願った人は皆、死んでしまった。 だからシリウスは決めた。 また誰かを殺すくらいなら、もう誰も好きにならない。 そうすれば、もう大切なものを失うことはないから。 そう思っていたけど――。 「……ショーン? よかった、生きてた」 でも長い夢の中で、ショーンだけは死ななかった。 これだけは現実と違っていた。 孤児になり教団の隔離施設に収容されたシリウスを、ときどき訪ねてきた歳上の友人、兄であり父のようでもあった存在、それがショーンだ。 研究協力者という名目で教団内での生活を認められたシリウスだったが、実態は人語を解するモルモットだったにすぎない。詳細は覚えていないが、定期的にRAN数値変動試験を課され、人体や精神面への影響を逐一調べられた。 当然といえば当然だが、実験動物と親しくしようとする人間はいない。教団の研究者たちはシリウスに対し、必要最低限の接触しかしてこなかった。 だから、 『お前、いつも一人だな』 とショーンが初めて話しかけてくれたとき、シリウスはそれが、自分にかけられた言葉だとしばらく理解できなかったくらいだ。 ショーンはナイフをくれた。護身用に、ということだった。 『ナイフというのはな、こうやって隠すものだ』 あのときショーンはそう言って、煙のように簡単にナイフを消してみせた。実際は袖に忍ばせただけなのだが、神業みたいに見事だった。格好良くて、憧れて、以来ずっと練習したものだ。 『手じゃない。ナイフは腕全体を使って投げる』 いくら投げても木の幹にはじかれたナイフが、ショーンに指導されたとたん、引き抜くのに苦労するくらい深く木に突き刺さった瞬間もよく覚えている。 『やればできるじゃないか』 ナイフ隠しの技にようやく成功したとき、誉めてくれたこの言葉も忘れられない。 ショーンの立場はシリウスとは異なる。十一歳から教団に所属し、エージェントとしての教育を受けていたという。シリウスと出会った時期は、運命の皮肉により反教団組織に身を置き、二重スパイとして教団を探っていた時期だったようだ。 ショーンがシリウスに優しかった理由も不明だ。情報を引き出すために利用していただけかもしれない。それとも、シリウスの身をあまりに不憫に思ったためか。 でもこれだけは間違いない。シリウスからすれば、当時のショーンは教団で唯一の、親身になってくれる存在だったということだ。 そんなショーンが、あるとき死んだと聞かされた。 襲われ、酷い怪我をして息絶えたという。 それきりまた、シリウスは教団で孤独になったのだった。 なのに熱に浮かされた夢の中でも、シリウスはショーンの死を見ることはなかった。 そればかりかショーンは無事だった。無傷でひょっこりとシリウスのもとに顔を出し『ナイフの手入れはしているか?』とたずねてきたのだ。 もちろん、とシリウスは答えたと思う。 そうしてベッド脇の棚に手を伸ばし――。 シリウスの手がナイフに触れた。 「動けるようになったか。いい兆候だ」 ショーンが近づいてくる。 腕を広げ歓迎したくなる衝動に駆られたが、『違う!』とシリウスは心の中で声を上げた。 違う。あのショーンは、違う。 一度『死んだ』ショーンだ。アンデッドとして蘇った男、俺を見て『誰だ』と言い放った男……! シリウスが普段通りなら、飛びかかってショーンの喉元にナイフをつきつけていたかもしれない。そうして『俺なら問題ない。出てってくれ』と冷ややかに告げたかもしれない。けれどいまは身を起こすのがやっとだ。 「大きく動こうとするな。傷口が開く」 刺すようなシリウスの目をものともせず、ショーンはグラスに水を注いで差し出した。 「飲むといい。必要なはずだ」 平気だと言いたかったが体は正直だった。シリウスはグラスをひったくるようにして受け取ると、ほとんど一息で飲み干した。冷たくておいしい。油膜が張ったような喉を洗い流してくれた。 だが、にこりともせずシリウスはショーンに言い放つ。 「手当ならいらない」 病院嫌いに手当嫌いはあいかわらずだな、とショーンは思ったが口にしなかった。かわりに言う。 「それで結構、手当ならもう終わった」 「……!」 シリウスはようやく気づいて我が身を調べた。ショーンの言った通りらしい。頭痛もずいぶん軽くなっている。熱が下がったのだ。 「礼なら彼女に言うんだな。俺を呼び出してくれていなければ、危ういところだった」 ショーンが見たところ、シリウスは何も覚えていないようだ。それならそれでいい、あとはリチェルカーレが説明してくれるだろう。 「俺ができるのはここまでだ。せいぜい養生しておけ」 と立ち去りかけたショーンを、 「――待て」 シリウスが呼び止めた。 真顔で空のグラスを突き出す。 「おかわり」 ショーンは口元を押さえた。不覚にも吹き出しそうになったのだ。だが咳払いしてなんとかしのぐと、黙って冷えた水を注いでやる。 もしかしたら、シリウスはショーンが近くに来るのを待っていたのかもしれない。今度は一息では干さず、半分ほど空けてからやっとポツリと言った。 「一応、礼は言っておく……」 意地悪をしたいわけではない。しかしうつむき気味に、ぽそっと告げたシリウスの姿がかつての姿と重なって見えて、どうしてもそのままやり過ごせなくなりショーンは口の端をゆがめたのである。 「何と言った? 声が小さくて聞こえなかったが」 シリウスが目を上げた。透き通るような翡翠の瞳、この部屋をショーンが訪れたときとはまるで輝きが違っている。分厚い埃をかぶっていたものが、きれいにぬぐわれたかのようだった。 「……すまん、助かった」 「もう少しストレートに言ったらどうだ?」 「お前……! 聞こえなかった、っての嘘か」 牙をむきそうな表情になったシリウスだが、もう諦めたのかまっすぐにショーンの目を見て告げた。 「手当してくれてあり……がとう」 これでいいな、と言うように腕組みして背を向けたシリウスの頭に、ショーンの手が乗った。 「やればできるじゃないか」 わしゃわしゃと撫でる。撫でるというよりは、髪をかき回しているというのに近い。 「……何する!」 ふりほどきたかったが、あいにくとシリウスの体はまだ思い通りに動かせる状態ではない。大変不本意だが、されるがままになるしかないようだ。 腹立たしくも妙にくすぐったく、なぜか懐かしくて気恥ずかしかった。 「昔はこんな子どもだったな」 ショーンが何か言っているが、シリウスは聞こえないふりをする。 「そう変わったわけではないようだ……俺も、お前も」 これも聞こえないふりをする。 後で追求されたら、頭痛のせいで忘れたとでも言ってやろう! このやりとりはドアの隙間から漏れている。 部屋の扉の外にはリチェルカーレが立ち、どのタイミングで入ればいいだろうかと迷っていた。
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*** 活躍者 *** |
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該当者なし |