~ プロローグ ~ |
春とはいえ、まだまだ肌寒い日。 |
~ 解説 ~ |
●エピソードについて |
~ ゲームマスターより ~ |
「教団内について知ろう」というテーマで書きました。とはいえ、今回は教団内を見て回るものではなく、魔術学院5階で資料集めの仕事がメインです。派手な戦闘とは違い、地道な書類仕事です。なんだか得意な方と苦手な方で分かれそうですね。 |
◇◆◇ アクションプラン ◇◆◇ |
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【目的】 五階「事件データ室」で資料集め。 【会話】 ア「アークソサエティの国境付近の、よね?」(棚を見る カ「はい、その中でもベリアルとヨハネの使徒関連のみですね。 ……半年の日付は、ここからのようです。」(一つ引き抜く ア「事件名だけじゃわかんないのもあるのね。」(溜息を吐き、意識を切り替え気合いを出す ア「(ひぇぇ、こんなひどい事件とかあるの? やっぱ、戦闘任務は遠慮したいわあ)」(若干青ざめて震える カ「アマツカ氏? 顔色が」 ア「うぇぇ!? な、なんでもない。 そこそこの量になってきたし、一旦渡しに行くわね!」(小声で叫ぶ カ「一人では持てないと思われます。私も運びます」 ア「…………はぃ」(居た堪れず小声で返す |
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(資料を読むのは好きだが、整理は苦手 ついつい手に取った資料を真剣に読み始めては、レイに怒られる) む~ダメです、(怒られすぎて)集中力が切れまシタ ちょっと散歩してきマス (立ち入り禁止の看板を見つけ) ……ワタシには分かりマス…… この先にはワタシの知らない未知の世界が広がっていると! いざ参らん…ひえっ!!?レイさん、いつの間に…?! 猫?猫がいるのデスカ?? そ、それは困りマス! 図書館に缶詰めは問題ないですが、好きなことをできないのは苦痛デス! 見ててくだサイ、すぐに終わらせてみせますカラ! |
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資料集め、みんなで協力して頑張ろうね~ ええと、この中から書類を出すんだよね? 半年分といってもいっぱいあるんだね~ せっかく分類されてるから、乱さないように… 時系列ごとに並んでるから、それを基準にしてみんなで分担しよっか わたしたちはこの辺の資料を分別しながら出していこう いろんな色の付箋を持ってきたから、それを貼っておけばわかりやすくなるかも この敵はこの色、この地方はこの色…みたいに決めて みんなにも提案しよう 他のみんなにも分別のアイディアがあったら話し合っていい、方法を決めよう 統一されてた方がわかりやすいからね 局員さんっていつもこういうお仕事してるんだね~、大変だなあ 後で会った時にお礼を言わなくちゃ |
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2人も事務処理は得意、クロエは即開始、ほぼ無言で淡々と処理、中身を確認しながらときおりメモを取る感じ。 ロゼッタの方は袋持込みでまずクロエの隣で茶と菓子の準備(即行で買ってきた)、で「よければどうぞ。」と笑顔で皆にお勧め。 後、「こんなところで茶菓子食ってもいいのか?」という空気を一切無視してやはり淡々と処理。 そのまま熟年夫婦コンビみたいな感じで最後まで突っ走る。 ただし「重大な案件の報告書」が「別の所」らしい、探すのならロゼッタは「Lv1.鍵開け」ができるので可能なら手段は選ばない。 あと他のPLさんが探検するようならロゼッタも同乗、クロエは不参加、後で謝るのは彼女の大役だし。 |
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◆目標 手分けして資料の収集 見終わった棚にはチェック済みのメモを貼っておく 余裕があれば作業の残っているチームの手伝いへ ◆会話 「さて、手分けして片付けよっか。僕は棚の上段から見ていくから、姉さんは一番下段から頼むね」 「うん…でも、シア、届くの?」 「失礼な、届くよ!多分!(必死に背伸びやジャンプして)ほら、ギリギリだけど! この中から必要な資料を、……(ある資料を見て手が止まる」 「シア…?」 「…何でもないよ(資料を戻して ごめん、やっぱり梯子を借りてきて欲しい。流石に一番上には届かないや」 「はしご…任せて、お姉ちゃん、すぐ持ってくるから…!」 「待って姉さん、走らなくていいから!ここ図書室だからあぁ!!」 |
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目的 整理整頓する 手段 ……運ぼう! あたしやイダはこういうことは苦手の部類… つまり肉体労働が似合う (おいおい、とツッコミが入るが無視) 棚から、少ない数(例えば4~8)から、整理する皆のところに持っていく 書類は無理せず、抱えられるくらい ベリアル、とヨハネの使徒でも、書類をぱっと見して分けられたら分けよう ゴーグルを外して、目印に こっち(ゴーグルのあるほうが)ベリアル ないほうがヨハネの使徒 全部運び込めたら、今度は棚に戻していく作業 まぜこぜにならないように、あたしがベリアル イダにヨハネの使徒を任せる「あいよー」 むむ、なんだか書類選別してる皆に悪いことしてる感じ 手伝おうかな 「ちょい待ち」 ん、わかった |
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・ツバキ 書類整理なんてしたことないけど、できるかしら……? 一つ一つ確認しなきゃいけないのね、根気のいる作業だわ ある程度の絞込みはできてるし、敵別に分類してみようかしら 他の人が別のカテゴリーでわけてくれてると助かるわね 分けた書類は分かりやすいように交差して置いてみるわ サザー、いいこと?今回は大人しくしてるのよ? ・サザーキア 紙がいっぱいニャ、紙だけがいっぱいニャ なんか色々分けるみたいだけどボクはよく分からないからパスなのニャ でもただ見てても落ち着かないニャー 分ける前の資料を読むくらいしていいかニャ あり?どれが分けた資料か分からないニャ えーいなんでもいいニャ!これにするニャー! うーん、なるほどニャ? |
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◆目的 ベリアルとヨハネの使徒の襲撃事件についてデータ収集 ◆会話 「なぜ私まで呼ばれたのですか」 俺読み書きはいちおうできるけど 難しい字とか言い回しとか苦手なんだよ。アンタ得意そうだし。 今日中に終わればいいな? 「……終わらなければ?」 休日返上だってさ ◆行動 まずここ半年分のファイルボックスを取り出し 中身を確認し該当事件の封筒を引き抜く。 重大案件の報告書も5階局員に場所を聞き確認。 同一事件の封筒が複数あったり関連性のある事件の場合は 注意書きのメモを添える。 まとめ終わったファイルの先頭にも索引を添付。 局員に渡す際には簡単な説明を加えスムーズに引き継ぐ。 (手順はほぼグラが考えた)(トウマルは指示通りに動く) |
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~ リザルトノベル ~ |
「なぜ私まで呼ばれたのですか」 珍しく不満げな表情を浮かべるグラナーダ・リラは、トウマル・ウツギにこれも指令扱いだからと言われて渋々「事件データ室」にやってきた。 「俺読み書きは一応できるけど、難しい字とか言い回しとか苦手なんだよ。アンタ得意そうだし。今日中に終わればいいな?」 「……終わらなければ?」 「休日返上だって」 「……そんなこと一言も聞いていませんよ」 あっさりとグラナーダにとって重要なことを告げるトウマルに恨めしげな目を向ける。 「アークソサエティの国境付近、よね?」 アキ・アマツカは天井近くまである書架を見上げる。 「はい、その中でもベリアルとヨハネの使徒関連のみですね。……半年の日付は、ここからのようです」 マドールチェにしては身長の高いカイン・レカキスがファイルボックスを引き抜くと、中に入っている封筒の表紙から日付を確認する。 「事件名だけじゃ分からないものもあるのね」 アキはため息を吐きながらも意識を切り替え、気合いを入れ直した。 「じゃあ、始めようか。僕は棚の上段から見ていくから、姉さんは一番下段から頼むね」 「うん……でも、シア、届くの?」 「失礼な、届くよ! 多分! ほら、ギリギリ……っと!」 双子の姉であるリュネット・アベールの指摘にムキになって背伸びしたり、ジャンプしたりするが、さすがに天井近くにある棚には届かない。リュシアン・アベールはがっくりと肩を落とし、姉の方を向く。 「……ごめん、やっぱり梯子借りてきて欲しい。流石に一番上には届かないや」 「はしご……任せて、お姉ちゃん、すぐ持ってくるから……!」 「待って姉さん、走らなくていいから! ここ図書館だからあぁ!」 この後、騒ぎに気づいた局員に二人揃って注意を受けることになる。 「紙の匂いがするニャ。紙がいっぱいニャ、紙だけがいっぱいニャ」 「サザー、いいこと? 今回は大人しくしてるのよ?」 そうツバキ・アカツキが言い聞かせるが、サザーキア・スティラは見慣れぬ場所に興奮したように、すんすんと鼻を利かせている。 「隙間が全くないニャ! 薄暗くていい感じなのに、残念なのニャ!」 本棚を登りそうなサザーキアの首根っこを掴みながら、「本当に大丈夫かしら?」とツバキは額を押さえるのだった。 「半年分といってもいっぱいあるんだね~」 「ファイルボックスだけでこれだけあるなら書類は推して知るべしですね」 ファイルボックスが隙間無く入った書架を眺めながら、アユカ・セイロウはのんびりと感想を述べる。それに素っ気なく相槌を打つ花咲・楓。 「かーくん、こんなこともあろうかと付箋を持ってきたよ!」 ポーチの中にはいろんな色の大量の付箋が入っていた。 「すみません、アユカさん。何の準備もなく来た上に、……実は書類仕事はからっきしなんです」 「大丈夫だよ、かーくん。みんなで協力して頑張るんだから、なんとかなるよ」 申し訳なさそうに頭を下げる楓を明るく励ました。 「……運ぼう!」 アラシャ・スタールードが唐突に宣言する。 「あたしやイダはこういうことは苦手の部類……つまり肉体労働が似合う」 おいおい、とパートナーであるイダ・グッドバーから突っ込みが入るがアラシャはスルーする。 「ま、運ぶしかないよな。お互いに肉体言語で分かりやすくていいや」 イダは肩をすくめ書架の方へと二人は歩き出した。 「こりゃあ、えらい数だな。半年つっても」 二人でファイルボックスを取り出してみると、ファイルボックス一つでも書類がみっしりと入っているようで重たい。アラシャは二つ持とうとしてよろめく。それをイダが支え、 「あんま無理すんなよ、落としたら大変だぞ」 「分かってる、無理はしない」 二人で閲覧スペースにある机にファイルボックスを置いていく。二人に続くように、楓がファイルボックスを運んでくる。 「ここでいいか?」 「ああ、でも俺らが運ぶぜ。なんせ二人揃って書類仕事が苦手だからな、せめてこれぐらいはしないとな」 「……私もだ」 ぼそっと呟いた楓に納得したようにイダが頷く。 「なら、俺らでさっさと運んじまうか」 無言で頷く楓とアラシャを伴って、書架へ戻る。三人に続くように他の仲間たちも加わって、あっという間に半年分のファイルボックスを運び出してしまった。 「皆さん、ちょっといいですか」 ファイルボックスの置かれた机に集まった浄化師達にレイ・アクトリスが呼びかける。 「局員さんに尋ねたところ、ファイルボックスの中身は大きく分けて事件別、場所別、敵別の見出しが付けられ、仕切られているそうです。 事件別の仕切の中に入っている封筒には、事件に関する書類一式がまとめて入っているそうですよ」 「ワタシたちが資料収集する書類は主にココからデスネ!」 レイは人当たりのいい笑みを浮かべながら話す。それにレイのパートナーであるエリィ・ブロッサムが口を挟む。 「そうですね、レディ。封筒の表紙には分類番号と事件名に日付が書かれています。それと場所別では、ベリアルやヨハネの使徒が多く現れた場所の統計データがまとめられているそうです。後は、関連があるかもしれない事象や事件について等もファイルにまとめられています」 仲間たちに分かりやすく丁寧に説明していく。 「敵別のところだとベリアル化した生物の特徴や対処法などがファイルにまとめられています。簡単に言ってしまえば、人に危害を及ぼす敵についてのデータファイルですね」 「さらに! 終焉の夜明け団やサクリファイス等の危険人物に関する詳細が載っているみたいデース! 面白そうデスネ!」 一通り説明し終わったレイの後を引き継ぐようにエリィが補足する。 その後、トウマルが軽く手を挙げ、発言した。 「俺からもいいか。重要案件の資料は俺らみたいな新人には見せらんねえみたいだ。だから、今回は関係ない」 「機密情報になっているみたいなんですよね」 トウマルの言葉に相槌を打つように話しかけるグラナーダ。 「ああ、一部の人間にしか見られんように奥の立ち入り禁止エリアにあるみたいだな」 トウマルが言った「立ち入り禁止」の言葉に反応する者が数名いた。 「書類仕事が得意ではない人には、簡単な資料収集をしてもらって、逆に得意な方には月別で全体の書類をまとめてもらいたいんですが、どうでしょうか?」 そう微笑を浮かべながら提案するグラナーダに「何企んでんだこいつ」というトウマルの訝しげな視線が突き刺さる。 「書類整理なんてしたことないけど、できるかしら……?」 首を傾げると少し困ったように呟くツバキ。 「大丈夫です。資料収集といってもベリアルとヨハネの使徒に襲撃された地名の書かれた書類を集めるだけですから」 封筒から書類を取り出し、「ここの部分を見て下さい」と優しく説明するグラナーダ。トウマルの視線がさらに痛いものとなる。 「国境付近の地名に関しては局員さんが渡してくれたメモに書いてあるので、後で各自メモを取って下さい」 グラナーダがにこやかに微笑みながら説明する。腹の内では休日を守り抜くために、なんとしてでも全員に働いてもらおうという思惑を隠していた。 「それなら、わたしいろんな色の付箋を持ってきたんです。ベリアルとヨハネの使徒の二つに書類を分けて、同じ地名ごとに付箋を貼っていったらどうでしょう?」 アユカがポーチから幾つもの付箋を取り出した。 「いいですね。手順としては該当事件の書類を集める。月別事に重複するものや関連性のある事件の場合は注意書きのメモを添える。まとめ終わったファイルの先頭にも索引を添付するといいでしょうね」 (久しぶりにこんなに長々と話したかもしれない。休日は絶対に守る。休日以外の自由時間も守ってみせる……だが、常に浮かべた微笑は守りきれるだろうか) 面倒くさいなという感情を悟らせぬように、グラナーダは優しげな微笑を浮かべ続けた。 幸いにもやる気がある者が多いようで、一組ずつ月別を担当することになったが、書類仕事が苦手だと宣言したアラシャ・イダペアとツバキ・サザーキアペアが申し訳なさそうに辞退した。 二組には主にグラナーダが言った資料収集と書類運搬等を担当してもらうことになった。 クロエ・ガットフェレスは誰よりも真っ先に書類整理を始めた。担当である4月分の資料を黙々と処理していく。時折気になる点があれば、中身を確認しながらメモを取っていく。 相方のロゼッタ・ラクローンはというと、こっそりと袋に入れて持ち込んだお茶とお菓子を「よければどうぞ」と笑顔で皆に勧めている。 誰もが困惑した表情を浮かべ、「こんなところで茶菓子を食っていいのか?」という空気が漂う。そんな空気にも動じず、フリーダムに動くロゼッタ。そんなロゼッタを放置したまま淡々と書類を進めていくクロエといい、似たもの同士のコンビだ。 やはりこの事態に気づいた局員が駆けつけ、「図書館内では飲食物は禁止です!」とロゼッタが持ち込んだ茶菓子を没収した後、長々と説教を受けた。 さすがのクロエも手を一旦止める。「甘いものを食べながら頭脳労働した方が捗りそうだから」と怒る局員に向かってマイペースに自分の意見を述べるロゼッタの代わりに、「申し訳ありません」と頭を下げていた。 「レディ、手が止まってますよ」 エリィは資料を読むのは好きだが、整理は苦手だ。ついつい手に取った資料を真剣に読み始めて夢中になってしまうからだ。その度にレイに注意されていた。 資料から目を離してもいないのに気付くので、どうしてのなのか不思議で仕方ない。 (でも、見えるところには第三の目はありませんネ。いいことを思いつきまシタ! レイさんに服を脱いでもらって確認すればいいのデス) 後でエリィから突然「服を脱いでくだサイ」と迫られ、驚愕することになるとは知らず、レイは手際よく書類を捌いていく。 今後の参考になるなと資料に目を通していくレイの横で、エリィは先ほど注意されたことを忘れて資料にまた没頭し始めた。 一方で書類仕事が苦手なアラシャとイダのペアは、まず数の少ない5月分のファイルボックスの資料収集から手をつけることになった。 アラシャは頭に填めていたゴーグルを外すと、 「こっちベリアル。ないほうがヨハネの使徒」 人差し指で指しながら、イダに説明した。 「ゴーグルの仕分けは分からんでもないが……まっ、俺たちは資料収集をするだけさ。後はいいようにまとめてくれるだろう」 「あたしが分ける。おっさんが地名に付箋を貼っていく」 該当条件に当てはまる書類をアラシャがチェックしている間、イダが地名のメモを片手に見比べながら付箋を貼っていく。慣れない作業ながら、二人は協力しながらこなしていく。 「さて、手分けして片づけよっか。この中から資料を……――」 リュシアンは封筒から取り出した、ある書類を見て手が止まる。 「シア……?」 「……何でもないよ」 心配そうにこちらを見る姉に安心させるように微笑むと、さっと資料を戻してしまう。 「姉さんは、こっちのファイルボックスをお願いできるかな?」 「……うん、お姉ちゃんに任せて!」 リュシアンからの頼みにはりきった様子で姉は書類整理を始めた。 果たして自分はちゃんと笑えていただろうか。 (見つけて、しまった) 胸の内をくすぶるように様々な感情が行き場もなく暴れ出すのを押し殺す。 (僕を一度殺したベリアル……あいつの情報を。あいつさえ居なければ、姉さんだって苦しめられることはなかったんだ) 慣れない手つきで一生懸命書類仕事をする姉の方を見ると、余計にその感情が強まる。 (姉さんにはもう昔の事も、こいつの事も思い出させたくない……) たとえ両親のことすら忘れてしまっていても。姉さえ笑っていてくれさえいればいい。そう祈るようにリュシアンは願った。 「局員さんっていつもこういうお仕事してるんだね~大変だなあ。後で会ったときにお礼を言わなくちゃ」 小声で話しかけるアユカに楓は無言で相槌を打つ。 (ふしぎだなあ、なんか楽しい気がする。わたし、記憶を失う前は局員さんだったのかも、な~んてね) 喋りながらも書類整理のコツを身体が覚えているのか、慣れた手つきで作業を行う。そんな姿を楓は資料収集している合間に、そっと気づかれないよう見ていた。 (アユカさん、目に見えて活き活きしてるな……こんな表情を見るのは初めてかもしれない) 楓本人は気づいていないが、アユカを見る目は熱の籠もったものだった。 ふっとアユカの手が止まる。その表情は憂い帯びた様子で資料を見ている。 「……こんなに、事件が起きてるんだね」 耳に届くか届かないか程の小さな声で呟いた。楓はいつも明るい笑顔を浮かべている彼女のこんな悲しそうに笑う姿を見たことがなく、なんと言葉をかけていいか分からずにいた。 「わたしたちで……減らしていけるかな?」 (資料にざっと目を通すだけでも、どれも痛ましげな事件ばかりだ。浄化師の力など気休めに過ぎないのではないのかと、そう思うこともあるが――) 「……減らせます」 結局、口下手な自分では上手い励ましの言葉など思いつくわけもなく。だから、楓は迷った末に自分の思ったことを正直に言うことにした。 「……そう信じて戦うんです」 一瞬驚いた表情を浮かべたアユカだったが、すぐにいつもの明るい笑みを浮かべて、強く頷いた。 サザーキアはどこか落ち着かない様子で書類整理をするツバキを眺めていた。さながら飼い主が構ってくれないときに限ってちょっかいをかけてくる猫のようにそわそわしていた。 (なんか色々分けるみたいだけどボクはよく分からないからパスなのニャ。でも、ただ見ているのも落ち着かないニャー……) 邪魔すれば、ツバキに怒られると分かっているので大人しくしていたが、それも限界がきはじめていた。 分ける前の資料を読むくらいしかしてこなかったサザーキアは、どれがどの資料なのか分からない。ツバキを手伝いたい一心で適当に書類の束の中から資料を引っこ抜いた。すると、書類の山が崩れる。 「ニャ? ニャー!?」 「あー! せっかく分けた場所がー!」 サザーキアのパニクった声とツバキの悲痛な叫びが重なる。慌てて散らばった書類をかき集めているツバキの横で暢気な相方の声が耳に入る。 「うーん、なるほどニャー?」 散らばった書類に気にかけることなく、資料を片手に首を傾げているサザーキア。その背後に威圧感すら感じる笑みを浮かべたツバキが仁王立ちしていることに気づくまで後5秒後。 カインが担当の資料を一つ一つ丁寧に確認してまとめていく横で、アキは手元にある資料を青ざめながら読んでいた。アキの手元にある資料はどれもこれも悲惨な結末しか書かれていない。 一つの事例を挙げよう。ある村がベリアルによって壊滅した。浄化師が駆けつけてきたときには、生き残った者は誰もいなかったという。未だそのベリアルは見つかっておらず、少なくともスケール2になっている可能性が高いと書かれていた。 まだこれは序の口だ。魔術書関連だとまた別の意味で怖い。ベリアルも恐ろしいが、人間の欲が絡むとさらに猟奇的な結末を迎えている。読んでいるだけでアキの胃を痛めつけるような事例も多く、震え上がりながら読んでいた。 (ひぇぇ、こんなひどい事件があるの? やっぱ戦闘指令は遠慮したいわ) 「アマツカ氏? 顔色が……」 無表情ながら気遣うカインに、肩をびくりと震わせ慌てて小声で叫ぶ。 「うぇぇ!? な、なんでもない。そこそこの量になってきたし、一旦担当者に渡しに行くわね!」 資料収集をしていたアキが山積みとなった書類に手を伸ばすが、 「一人では持てないと思います。私も運びます」 「……はぃ」 アキは居たたまれず、小声で返すのだった。 「不審な事件がありますね」 クロエは複数の資料に目を通しながら、小さく唸った。 「被害は小さな規模の窃盗事件だけど、遡ってみると場所は違うものの複数回。しかし、何らかの組織の暗躍が感じられる」 クロエが自分の考えをまとめるように小声で呟く。 どれも小さな規模の事件だ。窃盗事件の場所は一見何ら関係のない場所ばかりだ。教団が気づかないのも無理はない。 廃墟や裕福な商人の住む屋敷、あるいは酒場に宿。そして今は観光地となっている遺跡等だ。 見事にばらばらで地区も違う。 だが、これは単なる窃盗事件ではない。犯人を目撃したと思わしき人は全員殺されている。まるで口封じのようだ。 どの場所も何かを探し回ったように荒らされていたという。 金目のものを窃盗するだけの泥棒なら、顔を見られたとしてもその場から逃げ出すだけの者もいる筈だ。 なのに、この案件では急所を一突きで殺されていたり、魔術によって死亡した者もいる。これはただの泥棒の仕業じゃない。 一見ばらばらに見える場所も何らかの共通点がある筈だが、資料で読みとれるのは残念ながらそこまでだった。 「これは上に報告しなければ……」 思案気に呟くクロエ。その側にロゼッタの姿はどこにも見えなかった。 相方のロゼッタは書類整理をほっぽり出し、立ち入り禁止エリアにこっそりとやってきていた。 「ここに機密情報があるのね。ああ、無理。見るなって言われたら見たくなるのが人間ってものじゃないの」 好奇心赴くままに前に踏み出そうとするが、すぐに魔術によるセキュリティーシステムによって入れないことに気づく。 「ますます暴きたくなっちゃうわ」 舌なめずりをし、懐から通行証を取り出すと、門にかざす。だが、無情にも「あなたの認証ランクではここに立ち入ることはできません」と機械的な声で警告される。 ロゼッタは気品漂う外見に見合わぬ舌打ちを鳴らす。 「やっぱり正攻法ではダメね。でも、パスワードならどうかしら?」 楽しげに笑うと、ロックを解除するための暗証番号を解き明かすことに頭を回転させる。それはまるでクロエが事件を分析しているときに浮かべた表情と奇しくもよく似ていた。 エリィは書架の合間を楽しげに歩く。書類整理に集中していたレイに、 「む~ダメです、集中力が切れまシタ。ちょっと散歩してきマス」 返事を聞かぬまま一声掛けて席を立った。暫く歩いていると、立ち入り禁止の看板を見つけ、目を輝かせる。 「……ワタシには分かりマス……この先にはワタシの知らない未知の世界が広がっていると! いざ参らん!」 エリィが駆け出した先には、既に先客であるロゼッタの姿があった。 「オヤ? キミもデスか?」 「あら? あなたもなのね。気が合いそうだわ」 すぐさま意気投合する二人に忍び寄る影があった。突然エリィの背後から首根っこを掴まれ、引っ張られる。 「ひえっ!!? レイさん、いつの間に……!?」 「貴方達にはこの看板の文字が見えないんですか?」 頭を抱えたレイがため息を吐きながら、尋ねる。パートナーのエリィだけでなく、他にもこれほど好奇心旺盛な女性がいるとは知りたくなかった。 「ほどほどにしておかないと、好奇心は猫をも殺しますよ」 「猫? 猫がいるのデスカ??」 きょろきょろと辺りを見回すエリィに対して、悪びれもなくロゼッタは笑った。 「残念ね、今日のところはここらで止めておくわ。じゃあ、クロエのところに戻らないと、じゃあね」 手をひらひらと振りながらつかみ所のないロゼッタが軽やかな足取りで立ち去っていく。 「はぁ……もういいですから、戻りますよ。休日返上でここに缶詰したいんですか?」 「そ、それは困りマス! 図書館に缶詰は問題ないですが、好きなことができないのは苦痛デス! 見ててくだサイ、すぐに終わらせて見せますカラ!」 レイの言葉に慌てたようにやる気を取り戻すエリィ。それを見てレイはパートナーが素直な性格のエリィで良かったと心からそう思った。 (とはいえ、そのうちまたサボりそうですね……しっかり見張っておかないと、やれやれ) 早歩きで閲覧スペースに戻るエリィの後をレイは追いかけるのだった。 「分けるのもいいのだけれど、どうしてもごちゃごちゃするわねぇ。どうしたらいいのかしら?」 山積みとなった書類に目を向けるツバキに、元気よくサザーキアが手を挙げた。その背中には「反省中」と書かれた紙が貼られ、椅子の上に正座したままだ。 「こんな時は猫の手を借りるニャー!」 「余計に散らばりそうだからやめてね? サザーこういうの一番苦手そうじゃない」 「すぐ飽きるのは間違いないニャ!」 腰に手を当て胸を大きく張り、ふんすとドヤ顔を披露するサザーキア。 「なんで自慢げなのかしら? 誇ること一つもないわよ」 今日中に終わらなそうなツバキ達を見かねて、担当月が終わったリュシアン達が手伝いを申し出るまで二人のコントは続くのだった。 今日中に終わらせるべくグラナーダが猛スピードで書類を捌いていく。そこにはいつもの微笑はなく、無表情だ。トウマルもなんだかグラナーダが怖いので彼の指示通りに書類を片づけていく。 アキは専門用語や判りづらい言い回しは、カインに確認を取りながら書類整理を手伝っていた。 (こんな指令があったのね……、浄化師足りてるのかしら) 資料の多さに意識が逸れかけるが、カインの呼びかけに引き戻される。 「アマツカ氏」 「え!? 何かしら?」 「こちらの書類を先頭を空けてからファイルに順番に入れていただけませんか」 「分かったわ、上から順番通りに入れればいいのね」 はい、と頷くとカインはファイルの先頭に入れる索引を書き出していた。後少しで終わるとアキも気合いを入れ直し、作業に集中する。 資料収集も殆ど終わり、後は月別に書類をまとめるところまできていた。 アラシャたちは終わったファイルボックスを回収しながら、棚に戻す作業をしていた。時系列事にファイルボックスを戻していく作業も終わると、アラシャ達は仕事がなく手持ちぶさたとなる。 「むむ、なんだか書類整理をしている皆に悪いことをしている感じ。手伝おうかな」 「ちょい待ち」 閲覧スペースに戻ろうとするアラシャをイダが引き留める。 「俺達の仕事はここまでだ。手伝いたい気持ちは分かるが、我慢な?」 そう言うと、頭をぽんぽんと撫でる。 「ん、わかった」 イダに頭を撫でられるがまま、素直に頷く。 その後、浄化師達は努力の甲斐もあってか無事に休日返上することなく書類整理を終わらせることができた。その後、局員に月別に分けたファイルを渡しに行くと泣きながら感謝されることになる。予想以上に丁寧に分類されたファイルは局員達の間で好評だったそうだ。
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*** 活躍者 *** |
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該当者なし |
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[5] アキ・アマツカ 2018/05/06-10:35
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[4] トウマル・ウツギ 2018/05/05-02:07 | ||
[3] ロゼッタ・ラクローン 2018/05/04-05:27
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[2] アラシャ・スタールード 2018/05/04-03:38
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