~ プロローグ ~ |
晩春の風は日毎に暖かさを増し、今では初夏とも呼べるほどの気候が続く日もあった。そんな、5月末のよく晴れた日。薔薇十字教団に一つの依頼が持ち込まれた。指令掲示板でそれを見つけ興味を持ったあなたたちは、詳細を聞くために受付へと向かった。 |
~ 解説 ~ |
このエピソードは、結婚式で使われるブーケを作るための植物を集めることが目的です。 |
~ ゲームマスターより ~ |
PCの皆さま、PLの皆さま、こんにちは。久木です。 |
◇◆◇ アクションプラン ◇◆◇ |
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★郊外へ 花言葉の知識はないわけじゃないけど メジャーなのしか知らないから 予め図鑑を読んで、目星つけておきましょうね へえ……いいわね、乗った! (碧希から少し離れて) ……あった! 丁度今の時期なんだってね これを少し貰って……っと ……しかし碧希君、遅いわね まさか敵か何かに遭遇してる? ううん、此処は安全だって言っ…… !(声の方へ駆け) ……な、なんだなかなか見つからなかっただけか……(安堵) ★花言葉 花菱草 花言葉は『希望』 意味も色合いも似通っちゃったわね でも、ええ、そうね(微笑) 式は私も是非 トスは……私にはまだ早いかしら でも、新郎新婦も、取った人も、取れなかった人も 私は皆応援したいわ! ……えっ何その変な隊!? |
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郊外の森へ。 デューは度々一人で散歩に来ていた場所 案内するのは少しひらけた場所にあるヒヤシンス群生地 デュー 飛んだり跳ねたりしながら向かう リンリーこっちだ!早く早く!この前凄い場所見つけたんだ! じゃーん!すごいだろ?一面の…なんて花だ? よくわかんねーけどブーケにはぴったりだろ?(にかっ) リンリー花好きなのか?俺にも花言葉教えてくれよ! リンリー 置いて行かれ気味。なんとかついていく デュー待って。早いよぉ。やだ、ツタが絡まっちゃった わぁっ…素敵…!街の近くにこんな場所があるなんて これはヒヤシンスね。いろんな色がある そうね、じゃあ…黄色と青。うん。これがいいわ |
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◆リームス 図書館でマナーや花言葉を勉強してから 首都の品揃えの良い花屋へ。 不吉とされる色の花を避け、結婚式に人気の花を確認し、 花言葉を思い出し、また選別して、を繰り返していたら 好きな花? 「……考えたこと、なかったな」 そんな機会も、必要も、今までなかった。 きっとカロルにはあるのだろう。 同じ問いを返してみる 薔薇? 「じゃあ、この花にする」 カロルが好きな花なら問題ないと思って。 白の薔薇一輪を贈る 領収書を頼むしな、オレンジ色の薔薇一輪も購入。 こちらは自費で。カロルに渡すよ 結婚式には不参加。 その、どんな態度で臨めばいいのか…… でも、花を受け取ったカロルが見せたような笑顔が 式を挙げる二人にもあるといいと、思う |
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沢山の人が祈りをこめて… 素敵な風習ね わたしも綺麗な花を探そう ふたりが幸せになれるよう 薔薇とか百合とか、ガーベラも可愛いよね 花嫁さんの好きな色 聞けばよかった シリウスはどんな花がいい? 返ってきた応えに瞬き きまりの悪そうな視線に ふふと笑って じゃあ 第一印象で選びましょう? 花嫁さんの気に入りそうなものを 花:カモミール 白い花なら他のどんな花にも合うかもと シリウスの花も綺麗 バラは愛の言葉が多いから結婚式にぴったりね 安心したように息を吐く彼が可愛くみえて笑顔 結婚式 アリシアちゃんの隣りで目を輝かせ力いっぱい拍手 花嫁さん、とっても綺麗ね そう、かなあ?わたしより シアちゃんのがきっと似合うわ ブーケトスにもチャレンジ |
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お互い何の花にするかは秘密、なんて、ちょっと面白そう あなたがお花屋さんに行くなら、私は自生している花を探すわ 郊外の日当たりの良い野山を散策し、これというのを見つけた 真っ直ぐ伸びた蔓に白い5枚の花弁 綺麗だけど刺があるのね…薔薇の仲間かしら? 手を傷つけないよう気をつけて摘む 戻ってきてトールに教えてもらう この花、何だか分かる? そう、これが野ばらなのね…故郷の森では見なかったわ 髪飾りに手をやりながら 「私だって結婚式を祝福くらいするわよ」 こんな世界でも、誰もが懸命に生きてるもの 結婚式出席 別に外すのは構わないけど… 「その台詞は、私にもアガパンサスをくれてから言うべきじゃないかしら」 ブーケトスは見てるだけ |
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詳細を聞いて、いつも手入れをしている花壇の事を思い出しました… 一緒に行って貰っても…?とクリスを見上げたら、そのまま花壇の方へ…… え、あの、私…花壇の場所教えてない気が…どうして知ってるの…? 花壇には遅めに咲いた数種類のチューリップ その中からとびきり綺麗な紫色のを一つ選んで切ります 赤でもいいんですけど…紫のは「永遠の愛」って意味があるので… クリスは気に入ったお花あります…? それはゼラニウムですね…あ、白いのはダメです その花なら赤にしましょう…花言葉は… 結婚式 花嫁さんの笑顔に幸せな気持ちに はい、とても、綺麗ですね… きっとリチェちゃんの笑顔にも、よく、似合うと思います 私は…あんな風に笑えるのかな… |
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●目的 ブーケ用の植物を集め、結婚式にも参列したい。 ●心境 千亞「素敵な風習だな、と思ったけど…痛ましい襲撃もあったんだね」 珠樹「精神的にも、勿論肉体的にも庇護できるよう、心を込めて選びたいものですね、ふふ…!」 ●行動 千亞「植物はなんでも構わない、と言われたけれど…せっかくだから縁起のあるものが良いよね」 珠樹「…ふふ、千亞さん。図書室で素敵な花を花言葉を調べてまいりました…!(リストを渡し)」 千「珠樹、何時の間に…!ありがとう、採集というよりはやっぱり花屋かな?」 二人で花屋へ行き、楽しく選び 千亞→ブルースター 「結婚式の定番だよね」 珠樹→紫色のラナンキュラス 「あぁ、華やかな美しさにうっとりです…!」 |
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~ リザルトノベル ~ |
1718年6月上旬、教皇国家アークソサエティ首都エルドラド。ブリテン地区で行われる結婚式の前々日に、指令を受けた浄化師たちは思い思いの方法で植物を調達していた。空は眩しいほどに青く晴れ渡り、街角や郊外に息づく緑は日差しを受けて輝いていた。 ●『朱輝・神南』『碧希・生田』 「花言葉の知識はないわけじゃないけど、メジャーなのしか知らないから……」 魔術学院の図書館で、二人のアキは向かい合って植物図鑑を広げていた。二人は予め目星をつけてから、郊外で植物採集をしようと考えていた。しばらくして、彼女のパートナーは何か思いついたのか、「あっ」と呟いて朱輝を見た。 「折角だからさ、お互い何探すか内緒にしない? で、見つけたら見せ合うんだ」 楽しそうでしょと笑う碧希の提案に、朱輝は喜んで乗った。 「――あった! 花菱草、丁度今の時期なんだね」 開けた場所に花菱草の群生があった。そよ風に揺れる花は、ちょうど今頃の日差しのように眩しい。朱輝はひときわ美しい一輪を摘んで、花を陽光に翳した。 「しかし碧希君、遅いわね。まさか敵か何かに遭遇……ううん、ここは安全だって――」 パートナーの身を案じ始めた瞬間、彼の叫びが響き渡る。朱輝は声のほうへ駆け出し、口寄魔方陣の展開に備えた。 「あっ、朱輝! 見て、あったよ! レンギョウの花、遅咲きのが残ってたんだ!」 花をいっぱいにつけた枝と貸し出された剪定鋏を手にした碧希が、笑顔で立っていた。ここまで来るのに何があったのか、彼の髪と制服は草だらけだ。朱輝が拍子抜けした顔で立ち尽くしていると、碧希が話しかける。 「レンギョウの花言葉は『希望の実現』。へへ、朱輝は何にしたー?」 「ええっと、私は花菱草。花言葉は『希望』。意味も色合いも、似通っちゃったわね」 「へへ、でも俺達らしいじゃん。二人の未来にも、希望があるといいよな」 困ったように笑う朱輝に碧希は明るく話しかけ、彼女はその答えにほっとしたのか、短く返事をして笑う。陽光を閉じ込めたような二つの花が、そよ風に揺れた。 ●『デュー・プラティセカ』『リンリー・リシアンサス』 初夏の小道を、教団の制服を着た半竜半人の少年が駆けていく。少年の後ろに続く少女は、大きな耳を持ったライカンスロープ。やはり同じように制服を着ているが、背丈や歳は彼女のほうが上に見えた。 「リンリー、こっちだ! 早く早く!」 「デュー、待って。早いよぉ」 姉のリンリーは遅れ気味に小道を走る。少年の目指す場所は、森の中だった。 「この前散歩してたらさ、凄い場所見つけたんだ! 指令にぴったりだと思う!」 デューは森を突き進む。リンリーはなんとか付いていくが、不意に現れた細い蔦が髪に絡んだ。千切れた蔦を取りながら進むと、前方でデューが止まっているのが見えた。足音に気づいて彼は振り返り、にかっと笑って横に飛ぶ。棘のある枝にでも引っかかったのか、彼の顔にはいくつか擦り傷があった。 そして、リンリーは思わず息を呑む。色とりどりのヒヤシンスの群生地が、そこにあった。 「わあっ……素敵! 街の近くにこんな場所があるなんて!」 「じゃーん、すごいだろ! 一面の……なんて花だ?」 首をひねる弟に、彼女は花の名を教える。彼はしきりに頷きながら話を聞いていた。 「ヒヤシンスって言うのか。よくわかんねーけど、ブーケにぴったりだろ?」 「そうね、じゃあ……黄色と青。うん。いろんな色があるけど、これがいいわ」 司令部で借りた花鋏を使って、遅咲きのヒヤシンスを2輪摘む。くるりと曲がった沢山の花弁が、静かに揺れた。 「花、好きなのか? 花言葉だっけ、俺にも教えてくれよ!」 帰り道、好奇心旺盛なデューが彼女に尋ねた。彼女の腕の中で、ヒヤシンスが並んでいた。 「黄色いヒヤシンスの花言葉は『あなたとなら幸せ』。青い花だと『変わらぬ愛』って意味になるの」 弟がどこまで言葉の意味を理解しているのかは分からないが、初めて受けた指令の成功に貢献できたことを、彼は心から喜んでいるようだった。それを感じたリンリーは、姉の見せる優しい表情で微笑んだ。 ●『リームス・カプセラ』『カロル・アンゼリカ』 二人のマドールチェが、花を探していた。彼らは背の高い花や観葉植物の陰に隠れてしまうほどの可愛らしい背丈で、少女のほうは歳相応の楽しそうな表情で花を眺めていたが、少年のほうは澄んだ紫色の瞳で店内を見回し、考え、時折店員に人気の花などを聞いている。その姿は、書類仕事を単調にこなしているようにも見えた。 (心構えは立派だわ。でも、堅物すぎないかしら) 図書館でマナーや花言葉について調べたリームスとカロルは、首都でも品揃えが良いと評判の花屋に来ていた。ブーケ作りの指令にリームスを誘ったはいいものの、彼はいつも通りの真面目を通り越した姿勢のまま。パートナーの表情の変化にも気付かない。そんな彼に、カロルは話しかけた。 「ねえ、リームス。あなたの好きな花はなあに?」 少年の動きが止まる。振り向いて彼女を見る紫色の瞳は、硝子玉のように丸かった。 「……考えたこと、なかったな」 リームスは呟くように答えた。そんな事を考える機会も必要もこれまで存在しなかったが、きっとカロルは何度も出会ってきたのだろう。彼女の好きな花なら何を贈っても問題無いような気がして、リームスは同じ問いを返した。 「私? 私は――」 カロルは歩き出し、フロア中央で足を止めてくるりと振り返る。リームスが彼女の後ろに見たのは、一等種類の豊富な花。庭園で咲き誇り、野山で優しく微笑む、薔薇だった。 「じゃあ、この花にする」 そう言うとリームスは、店員に白い薔薇を一輪頼む。カロルは目をぱちくりさせてから、ピンク色の薔薇を頼んだ。 「確かに贈り物に薔薇は全く問題ないけれど。でも、どういう結論に辿り着いたの?」 何も答えぬまま会計へ向かう少年の後ろ姿を、カロルは不思議そうに見つめていた。 会計を終えたリームスに呼びかけられてカロルが振り向くと、彼の手には薔薇が3本。 「これは僕の自費。オレンジの薔薇はこれしか無かったけど、これをカロルに」 「――まあ。まあ、まあ!」 いつもと変わらぬ表情で少年は花を差し出す。この色が示す花言葉を、おそらく知っているにも関わらず。彼女は零れるような笑顔で五分咲きの薔薇を受け取ると、弾むように扉を開けた。小さなベルがからんと鳴って、少女たちを見送った。 「ねえリームス、本当に参列しなくていいの?」 帰り道、カロルに尋ねられたリームスは少し考えてから口を開いた。 「その、どんな態度で臨めばいいのか、分からない」 カロルは愛らしいものでも見たかのようにくすりと笑う。参列者は新郎新婦を笑顔で言祝ぐだけでいいのだが、きっと彼には笑顔の表現がまだ難しいのだろう。彼が行かないのなら、自分だけで式に行く必要も無い。なら、それよりは。 「花を届けたら、花瓶を見繕いに行きましょう。あなたのくれた薔薇ですもの、一緒に選ばないといけないわ」 誘いに短く答え、リームスは歩き始める。花を受け取った彼女のような笑顔が、式を挙げる二人にもあればいい。そう考えて一歩踏み出すと、いつもより靴音が高く響いた。 ●『リチェルカーレ・リモージュ』『シリウス・セイアッド』 リチェルカーレとシリウスは、彼女の実家の花屋を訪れていた。話には聞いていたものの、シリウスが実際に足を運ぶのはこれが初めてだった。ドアを開けると、彼女の母親が店の奥から顔を覗かせる。 「沢山の人が祈りを込めるブーケ……。素敵な風習ね」 店内の椅子に座って、リチェルカーレはシリウスに話す。彼女は普段からおっとりとしているが、今日は一段と穏やかだった。彼女の弟と妹もいつの間にかやって来て、姉にじゃれついている。 「わたしたちも、綺麗な花を探そうね。ふたりが幸せになれるよう」 微笑む彼女に、シリウスは短く答えた。 陳列された色とりどりの花を、彼女は目を輝かせながら眺める。歌うように話すその姿はいつになく楽しそうで、シリウスはほんの少しだけ眩しそうに目を細めた。 「――ねえ、シリウスはどんな花がいい?」 不意の質問に驚き、彼は押し黙る。記憶力に自信はあったが、花の名前は興味の外でほとんど知らなかった。 「……バラとユリなら、知っている」 咄嗟に答えたものの、どうにもきまりが悪かった。彼女はそんな様子に気付いたのか、ふふと笑って語りかける。 「じゃあ、第一印象で選びましょう? 花嫁さんの気に入りそうなものを」 「気に入りそうな、と言われても」 歩き出した彼女の後ろで、シリウスがぽつりと呟いた。 リチェルカーレが選んだのは白いカモミール。他のどんな花にも合うようにという理由が彼女らしかった。そしてシリウスは、淡い色合いのクラシックローズ。 「シリウスの花も綺麗。薔薇には愛の言葉が多いから、結婚式にぴったりね」 彼は安心したように息を吐く。花嫁の好みなど分からないから、隣の少女に似合いそうなものを。そう思って選んだこれは適切だったらしい。すると彼女はシリウスの様子に、思わず笑顔を零した。 (花を選んだ理由までは、知られずに済んだだろうか) ころころと笑う彼女に僅かに困った顔をして、今度は彼女に悟られないよう、シリウスはそっと息を吐くのだった。 ●『リコリス・ラディアータ』『トール・フォルクス』 彼岸花の髪飾りを付けた少女が、初夏の野山を歩いていた。青々と伸びた草を踏みしめるたび、濃い緑の香りに全身を包まれる。鳥が木々から飛び立ち、彼女の長い耳がぴくりと動く。彼女はリコリス。遠くに、白い花が見えた。 彼女が見つけたのは、真っ直ぐに伸びた蔓に5枚の花弁を持つ花。可憐で美しいが、茎には薔薇の仲間と分かる棘がいくつもついていた。手を痛めないように摘もうとするも、込み入った根元が手の甲に幾つかの小さな刺し傷を作る。鋏と一緒に、手袋も借りてくるべきだったろうか。そんなことを考えながら彼女は帰途に着く。パートナーとの待ち合わせ場所は、教団本部のエントランスホール。互いの花は、その時まで秘密だった。 同じ頃。首都の大きな花屋を、鮮やかな朱の髪の青年が訪れていた。彼は花に詳しいのか、迷わず一輪の花を選ぶ。彼は用途を尋ねる店員に「教団の指令で」と答え、領収書を頼む。優雅な姿のその花は、薄い空色の包装紙によく映えた。彼の名はトール。彼のパートナーは「あなたがお花屋さんなら、私は自生している花を探すわ」と言って郊外へ出かけていた。 トールがエントランスで待っていると、見慣れた少女が現れた。彼女の左手には絆創膏が数枚。ここへ来る前に、病棟で応急手当を受けてきたらしい。 「その手、大丈夫か?」 「ただのかすり傷。それよりトールは、何にしたの?」 彼女に促され、花を見せる。彼の花はアガパンサス、その名が示す通りの愛の花。リコリスは左手で受け取ると、右手に持った花をトールに渡す。彼女は花の名を彼に訊いた。白い、野ばらだった。 「そう、これが野ばらなのね。故郷の森では見なかったわ」 「野ばらはこの季節に自生するバラ科の植物。見た目も可愛いし、花言葉も『純朴な愛』だからな。ブーケにぴったりだ」 トールは彼女の選択に少し驚いていた。彼女が婚礼に相応しい花を持ってきたのが、意外だった。 「不思議そうな顔ね、トール。花言葉は知らなかったけど、私だって結婚式を祝福くらいするわよ」 リコリスは髪飾りに手をやりながら、普段と変わらぬ表情で答える。こんな世界でも、誰もが懸命に生きている。だからこそ彼女はこの指令を選んだのかもしれない。リコリスが司令部へ向けて歩き出すと、トールも後に付いていった。 ●『ヴォルフラム・マカミ』『カグヤ・ミツルギ』 二人は首都にある花屋で、ブーケ用の花を探した。彼らが選んだのは、白とピンクのカスミソウ。控えめな主張ながらも美しく、他の花々と互いを引き立てあう、花束に欠かせない存在だ。ヴォルフラムの提案したこの花は、カグヤが持つ花言葉の知識に照らし合わされた結果、適切なものだと判断された。 それぞれの願いや祈りを込めて、二人は花を司令部の受付に提出する。受付に居た教団員は書類にチェックをつけ、ヴォルフラムとカグヤに往復の旅券を渡した。当日の身だしなみについてあれこれ考えるヴォルフラムを、カグヤは彼の隣で静かに見つめていた。明後日の彼が見せる姿が、楽しみだった。 ●『アリシア・ムーンライト』『クリストフ・フォンシラー』 「お待たせ、アリシア。今日はどこへ行こうか」 「……私がいつも手入れをしている、花壇があります。その、一緒に行って貰っても……?」 アリシアが長身のクリスを見上げると、彼はにこりと笑って歩き始め、待ち合わせ場所のエントランスを出るとそのまま花壇の方向へ迷うことなく進む。 「え、あの、私……クリスに花壇の場所、教えてない気が……どうして……」 「ふふ、どうしてかな。内緒だよ」 クリスは笑ってはぐらかす。「あの時」のことは、もう少し黙っていたかった。 花壇に着くと、そこには遅咲きのチューリップ。アリシアはとびきり綺麗な紫色の花を選んで摘む。 「紫のチューリップか。どうしてその色にしたんだい?」 「……赤でもいいんですけど、紫には『永遠の愛』って意味がありますから」 答えにクリストフが頷く。彼はアリシアの紫色の瞳を見ながら、花言葉を呟くように繰り返した。 「クリスは気に入ったお花、ありますか……?」 彼は隣の花壇の花に手を伸ばすも、アリシアがそれを止める。 「あの、白いゼラニウムは、駄目です。『愛を信じない』という花言葉が、ありますから……」 「ああ、それは駄目だね。それじゃあ、隣の赤いのはどうかな」 確認すると、彼女は「その色なら」と言ってクリスに鋏を手渡した。鋏の音が、ぱちりと鳴る。 「……赤いゼラニウムは『あなたがいて幸せ』。だから、大丈夫です」 「赤と白では真逆の意味か。面白いんだね、花言葉って」 鋏を彼女に返し、二人はそれぞれの花を持って司令部へ歩いて行った。 クリスが初めて彼女を見たのは、この花壇の前。彼女が花壇の手入れをする姿は、絵画のように美しかった。だからこの依頼も、彼女が好きそうだと思っていた。 ――でもその時のことは、もう少し黙っていよう。クリスはその記憶を心にしまって、アリシアと並んで歩いていった。 ●『明智・珠樹』『白兎・千亞』 よく晴れた午後、薔薇十字教団の浄化師が二人、噴水の見えるベンチに座っていた。一人は妖艶なヴァンピールの美青年、もう一人は兎耳が特徴的なライカンスロープの美少年――あるいは、美少女。二人は花を集めに行く前に軽く相談をするため、この公園に立ち寄っていた。 「ブーケ作り、素敵な風習だな、と思ったけど……痛ましい襲撃もあったんだね」 千亞は視線を落とし、僅かに表情を曇らせる。 「新郎新婦を精神的にも、勿論肉体的にも庇護できるよう、心を込めて選びたいものですね。ふふ……!」 「そうだね。植物はなんでも構わないと言われたけれど、折角だから縁起のあるものが良いよね」 千亞が話し終わると、珠樹は懐からライラックの封筒を取り出して渡す。千亞がそれを開くと、中から花の名前と花言葉を書き連ねたリストが現れた。 「……ふふ、千亞さん。素敵な花と花言葉、図書館で調べてまいりました」 「珠樹、いつの間に……。ありがとう」 彼女はリストを上から順に眺める。どれも結婚式にふさわしいものばかりだった。花の目星をつけた千亞は、花屋へ向かうことにした。 花で溢れる店内で、千亞と珠樹は候補を一つずつ見ていた。端正な容姿の二人が花々の間を並んで歩くさまは、少女たちの夢物語を形にしたよう。 「ブルースター、結婚式の定番でもある素敵な花だね。僕はこれにしよう」 「それでは、私はこのラナンキュラスを。――ああ、華やかな美しさにうっとりです……!」 選ばれた花は、どちらも初夏に似合う爽やかな色合い。きっとブーケを美しく彩ってくれるはずだ。他の浄化師が何を持ち寄り、どのようなブーケが出来上がるのだろう。二人は心を躍らせながら店を出た。 ● 結婚式前日。浄化師たちが集めた花々を持って、担当の教団員が始発列車でエルドラドを発った。依頼人に届けられた花は当日早朝にブーケとなり、結婚式の前に行われる婚約式で新郎から新婦へ手渡され、結婚式の後で参加者たちへ投げ渡される。二人の受けた庇護と援助が、他の者にもあるようにとの祈りと共に。浄化師たちはその日の午後に汽車に乗り、ブリテン地区へと向かった。 ――そして結婚式当日、ブリテン地区中心部アルバトゥルス。 式場の旧アルバローズ修道院庭園は数百年前の修道院を利用した庭園で、普段は一般開放されている。訪問者は自由に季節の花を楽しめ、結婚式などの催事には貸し切りも可能だ。今は修道院時代から植えられていたアルバローズを筆頭に、薔薇が見頃を迎えていた。 会場に着いた浄化師たちは、参列者の中に見慣れた制服の女性を見つける。彼女は受付に居た教団員で、前日に花を納めたあと、司令部代表として式に出ているとのことだった。 参列者が揃った頃、婚約式が行われている建物から歓声が響いた。間もなくドアが開け放たれ、立会人たちが一斉に飛び出す。婚約成立と結婚式開式の合図だ。テーブルに置かれたブーケは華やかながらも整った印象。しかしそのブーケは、寧ろ花束というべき大きさをしていた。指輪を交換し、誓いの口付けを交わして花束を持つ花嫁の笑顔は、式場にある何よりも美しかった。ヴォルフラムやカグヤ、リチェルカーレなどの参列者全員が、割れんばかりの歓声や拍手で祝福する。 「花嫁さん、とっても綺麗ね」 「はい、とても。リチェちゃんの笑顔にも、よく、似合うと思います……」 でも自分は、あんな風に笑えるのだろうか。アリシアが考えていると、リチェルカーレは「シアちゃんのがきっと似合うわ」と笑顔で答える。シリウスはそんなリチェルカーレを見て、僅かに表情を緩めた。 参列者は一足先に中庭へ、新郎新婦は中庭に面したバルコニーへ。デューとリンリーは渡された花籠を持って、屋上から花びらを撒いて二人を祝福した。 「なあ、リンリーもお嫁さんになりたいのか?」 「えっ! そ、そういうのじゃないの。ただ素敵だなって」 「何で赤くなってるんだ? おっかしーの!」 弟の純粋な質問に、リンリーは顔を赤らめる。デューはそれを子供らしい笑いで流し、花びらを掴んで思い切り撒いた。中庭ではニッキオ地方の婚礼歌のあとに、アークソサエティ全域で歌い継がれている祝いの歌が歌われた。 ブーケトスに参加する浄化師は、リチェルカーレ・クリストフ・千亞の三人。千亞は珠樹に押されて参加したようだ。他の参列者たちは、トスの参加者たちを遠巻きに眺めている。 「朱輝、本当にいいの?」 「うん、私にはまだ早いかなって。でも、新郎新婦も取った人も取れなかった人も、私は皆応援したいわ!」 「……そっか、朱輝は恋路応援し隊だもんね!」 難しい表情をした後、碧希は笑った。心に浮かんだ僅かな感情が何だったのか、彼自身にも分からなかった。彼女は「何その変な隊!?」と言って驚いていた。 参加者の様子を見計らって新郎の姉が中庭から合図すると、新婦は後ろ向きになってブーケを思い切り投げた。花束を纏める空色の紐が、青空にひらひらと舞った。ブーケは参加者の一人の近くへ飛んでいく。その人物は驚いて目を瞑り、顔を背けて腕を精一杯伸ばした。 千亞が目を開けると、視界は花で覆われていた。大きな歓声が幸運の持ち主を祝福し、同時に披露宴の開式が宣言される。中庭のあちこちで、コルク栓の抜かれる軽快な音がした。 「結婚、おめでとうございます。どうか更に幸せになってくださいね」 「素敵な式に参列できて光栄です。私も夢膨らみました、ふふ……!」 参列者に礼を述べて回る新郎新婦を、千亞と珠樹は言祝いだ。媒酌人を務めていた依頼人の老夫妻も、浄化師たち一人ひとりに心からの感謝を伝えている。テーブルには先ほどのブーケが置かれ、ヴォルフラムとカグヤはそれを見るために二人のテーブルを訪れていた。 「千亞さん、次は私たちの番ということですね。ふ、ふふ……!」 「なっ、お二人の前で何言ってんだ!」 「照れる千亞さんも愛おしいですよ、ふふ……!」 珠樹の熱い眼差しを無視し続けていた彼女も、遂に堪え切れずに口を出す。態度とは裏腹に動く彼女の兎耳を、人々は優しく見守るのだった。 「アリシア、リチェちゃん達が居るよ。改めてご挨拶しに行こうか」 「……はい、そうしましょう。そして、他の浄化師の皆さんにも」 ジュースの入ったグラスを手に、アリシアとクリストフは会場を回る。会場では酒も供されていたが、教団からの参加者は全員がソフトドリンクの飲用を言い渡されていた。 二人に気付いたシリウスが軽く会釈ををし、アリシアとリチェルカーレが楽しそうに会話する。幸福で満たされたこの空間は、自分は場違いかもしれない。けれどパートナーが嬉しそうに笑う姿を間近で見ることができるのならば、それも悪くはないと、今のシリウスには素直に思えた。 「リコ、今日は髪飾り外してくれてありがとな。代わりに同じヒガンバナ科の花で我慢してくれ」 「別に構わない。でもその台詞、私にもアガパンサスをくれてから言うべきじゃないかしら」 中庭の隅のテーブルで、リコリスとトールは静かに食事を味わっていた。披露宴ではブリテン地区とニッキオ地方の伝統料理が、ビュッフェスタイルで供されている。 「はは、それもそうだな。戻ったらあのブーケに負けないくらいのを買ってやるよ。 ――あっ、トスに参加しなかったのはもしかしてそれが狙い……」 トールが彼女の顔色を窺うと、リコリスはむっとして顔を背ける。 「じょ、冗談だってリコ! ブーケのプレゼントは本気だけどな!」 慌てて言い訳をするトールに、リコリスはほんの少しだけ笑った。あれだけの大きさのブーケを本当に貰ったら、部屋のどこに置こうか。そんなことを考えるのが、何故だか楽しかった。 ● 数日後、受付であの教団員があなたたちを待っていた。彼女はカウンターから小さなクッキーの箱を取り出し、「追加の報酬です……なんてね。一度言ってみたかったんです。新郎新婦さんからのお礼、今朝届きましたよ」と笑顔で言った。
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*** 活躍者 *** |
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[9] ヴォルフラム・マカミ 2018/06/02-22:40
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[8] リームス・カプセラ 2018/06/02-18:28
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[7] アリシア・ムーンライト 2018/06/02-14:49
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[6] 朱輝・神南 2018/06/02-09:07
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[5] リチェルカーレ・リモージュ 2018/06/01-22:03
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[4] 白兎・千亞 2018/05/31-23:09
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[3] デュー・プラティセカ 2018/05/31-19:13
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[2] リコリス・ラディアータ 2018/05/31-15:07
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