~ プロローグ ~ |
教皇国家アークソサエティのルネサンスに夜が訪れる。 |
~ 解説 ~ |
パートナーと二人で花火大会へ行ってください。 |
~ ゲームマスターより ~ |
花火大会という夏の風物詩を活かして、楽しんでもらえると嬉しいです! |
◇◆◇ アクションプラン ◇◆◇ |
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【浴衣】 クラウスは白地に淡青の水紋、クラルは黒地に彼岸花のモチーフの共にシンプルな浴衣。 妻に彼岸花の髪飾りを付けてあげる。 前髪を上げて結うといつもと違う印象に。 「…地味だったかしら」 「そうかな、僕は好きだよ。それに、こうすると…ほら、もっと綺麗だ」 【屋台と怪我】 何もかもが初めてで興味津々に屋台巡りをしていた所、 慣れない下駄でクラルが鼻緒擦れ。手当てがてら休憩する。 「…平気よ、これくらい」 「僕が手当てしたいんだよ」 【花火】 手当中の花火。 空から降り掛かる様な光に、2人して魅入る。 「…浴衣も、屋台も…そして花火も。あなたとまた新しい『初めて』が作れた事。それが、とても嬉しい」 「……うん。…僕もだよ」 |
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■浴衣柄無 ロス:赤と黒炎っぽい ティ:青と白川辺っぽい ■屋台 全種制覇!張切るロスに付いて行くティ 片っ端から買って行くので持ちきれなくなった分はティが持ち 綿菓子林檎飴旨そうなのがあればロスはティの口に放込み 「旨ぇから食ってみ 「自分で食べれ…もごっ 「手が塞がってっから無理だろ 「美味しい 「だろー 他の浄化師見掛けたらすっ飛んでいく 一緒に行けるようなら一緒に ラブオーラ満開の人からは遠くから幸せオーラ貰うだけで 箸巻焼鳥ロスが好きそうな食べ物を買溜めするティ ■花火 「すっげぇ!楽しっな! 今にも走り出しそうなロス 「風情楽しむというのは 「風情? 「…ロスさん食べます? 買って来た食べモノを差し出し 「食う!さんきゅーな! |
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■屋台巡り ナツキがルーノを連れ出して来た 子供の頃を懐かしむナツキと、昔を思い出すと心中複雑なルーノ 「なんか懐かしいな。昔は皆で祭りに出かけたりしてさ、楽しかったなぁ。ルーノもあるだろ、そういうの」 「…無い、な。家が厳しくてね、こういう場で遊んだ事がないんだ」 「そっか…よし!じゃあ今日はめいっぱい遊ぼうぜ!」 「いや、私は」 「こういうの初めてなんだろ?だったら楽しまないとな!遊び方なら教えるからさ!」 「…わかった、よろしく頼むよ」 ■花火 ルーノは静かに見物 ナツキは大興奮 「すっげーなぁ!」 「子供か君は…でも、確かに綺麗だ」 「な!来てよかっただろ?」 「まあ…悪くはなかったかな」 「へへ、素直じゃねーの」 |
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花火大会かあ、行ってみようかな 屋台もたくさん周りたいな 【会話】 人、多いですね 「そうだね」 …… 「……」 (うう、会話続かないなあ……) あ、あれ食べたいです 「ふむ」 あっちもおいしそう…… 「リズはよく食べるね」 ……あ、ごめんなさい!ジェイドさんもどうぞ! 「……(むぐむぐ)」 どうですか? 「まあまあかな」 わあ、花火綺麗ですね! 「そうだね。こんなに迫力があるとは思わなかったから、少し驚いているよ」 ……(うーん、前の人の頭が邪魔で……) 「もう少し人の少ないところに行こうか」 へ!? 「リズは背が低いから、ここだと花火が見えづらいだろう?」 え、あ、はい……(びっくりした……) |
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浴衣を借りて 屋台を回って 花火を見る ◆アユカ 浴衣姿のかーくんを見て驚く すごく…すごく似合ってるよ…! 屋台がたくさんで楽しそう 飴細工のお店見てもいい? 花火を綺麗だなあ~…と見ていたら、彼から質問 どうしてそんなこと聞くの? かーくんは、わたしが頼れる唯一の人だよ それじゃダメなのかな… ◆楓 浴衣に袖を通すのは久し振りだ 動き回る彼女から目を離さないよう注意 花火の時間、事前に教団に聞いたよく見える場所へ 聞きたいことがあった アユカさんにとってパートナーとはどういう存在ですか? 寂しさを埋めてくれる友人ですか それとも… すみません、楽しい祭りに水を差しました 駄目…ではないです あなたにそう思ってもらえるのは、光栄ですよ |
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二人とも浴衣レンタル 季節が巡るのは早いものですね 春になったばかりだと思っていたのにもう花火の季節です やっぱり服装が変わると、雰囲気も変わりますね とてもよくお似合いですよ あ、鼻緒擦れに気を付けてくださいね 慣れですよ、慣れ 花火の時間まで屋台巡り 定番どころはしっかりあるみたいですね はい、どれも楽しそうです 私、あまり手先は器用ではなくて… 恥ずかしくて目をそらす 二人並んで花火を見上げ 綺麗ですね そういえば、どうなんでしょうね?考えたこともなかったです。 リシュテンさん楽しそう 普段もそうですけど、今日はなんだかすごく笑い方が無邪気な感じがして あ、そんな気がしただけ、なので… また夏がきたら見れますよ はい、ぜひ |
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※浴衣をレンタルする (ララエルの浴衣姿を見て)綺麗だよ。良く似合ってる。 (褒められ)そ、そうかな。どうもありがとう。 (屋台を巡りながら)チョコバナナが珍しいの? 一本買ってこようか。 (戻ってくるとララエルがナンパに絡まれている) お前ら、何してる! この子に近寄るんじゃない! (ナンパが退散) (夜空を見上げ) ララ、ほら、花火があがったよ。 ララ、怖くない?(ウットリと花火を見ているララエルの横顔に見惚れ) (ララエルにとっては花火も初めてだもんね。 もっと初めての事を増やしてあげたい。 喜ばせてあげたい) (ララエルの小さな手をぎゅっと握る) (守りたい。もっと、この子の笑顔を。この子の命を) |
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■動機 花火大火のチラシに見入る珠樹 「どうしたんだ、珠樹。へぇ、花火大会か」 「千亞さんは花火、お好きですか?」 「あぁ、好きだよ。夏の風物詩だしね。珠樹は?」 「好き…だと思います」 推測の珠樹。千亞が首を傾げれば 「いえ、花火はわかるのですが、まだちゃんと現物を見てなかったなぁ、と思いまして。過去の私は見てるかも、ですが」 (珠樹、過去の記憶がないんだもんな。何か思い出す切欠になるかも…) 「それじゃあ…一緒に見に行くか?」 ■行動 浴衣を借り、二人で屋台を巡り。 落ち着いた場所で花火を楽しむ。 珠樹「嗚呼、綺麗ですね…!」 千亞「そうだな」 珠樹「花火を背景にした千亞さんが、です。ふふ…!」 千亞「なっ!(赤面)」 |
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~ リザルトノベル ~ |
『◯月×日 ヴェネリア「ベレニーチェ海岸」花火大会 19:00~ 花火大会を盛り上げる目的として、エクソシスト派遣要請 ※教団より浴衣貸出あり』 その指令を受けて、今日ヴェネリア「ベレニーチェ海岸」に、エクソシスト達が集まっていた。 夏ということもあり、じめじめとした肌にまとわりつく空気の中、夏の夜特有の気持ちのよい涼しい風が肌を撫でる。 辺りは賑わい、様々な屋台が食欲をそそる香りを醸し出して、人々は思い思いに花火大会を楽しんでいた。そして、今日のメインイベントである花火が夜空に打ち上がるのを、心待ちにしながら、夏の一時を味わうエクソシストが、またここに一組……。 ~クラウス・クラーク&クラル・クラーク~ クラウスは、熱気漂う人混みの中、隣を歩くいつもとは違う妻の姿に、表情を変えずにしかし内心目を見張っていた。 クラルが着ているのは、教団から貸し出された、黒地に彼岸花のモチーフが描かれたシンプルな浴衣。しかし、その黒と赤のコントラストが、彼女のイメージにピッタリ合っていて、彼女の美しさをより際立たせている。 クラウスはというと、白地に淡青の水紋とこちらもシンプルだが、本人に合う浴衣を身に纏い、和らぐ雰囲気を作り出している。 「……地味だったかしら」 クラルがいつもそうするように、俯き加減で言う。すぐ俯いてしまうのは、クラルの癖だ。クラウスもそれが分かっていて、着ているものがいつもと違っていても、変わらない中身に、優しい笑みを浮かべた。 「そうかな、僕は好きだよ。それに、こうすると……」 クラウスが優しい手つきで、クラルの前髪を上にあげるように結う。 いつもはクラルの長い前髪が隠してしまっている右半分の素顔が現れ、彼女はそれを手で遮りながら、 「やめて」 と、顔には出さず、照れた様子で前髪を元に戻す。 彼女の普段見えない素顔は、彼女が思っているよりもずっと綺麗なのに。と、クラウスは少し考え込みつつ、ポケットに忍び込ませてた物の存在を思い出してハッとした。 「クラル」 優しくその名前を呼んで、今度こそは、とその前髪を手であげながら、同時にポケットから取り出した彼岸花の髪飾りで、前髪を巻き込むようにして髪の毛に挿した。 彼女のイメージに合うと思って前もって借りておいた彼岸花の髪飾り。それが、まさか浴衣も彼岸花だとは思わなかった。と、予想通り彼女に似合うその髪飾りを見て、ほっと笑みを零す。 「こうすると……ほら、もっと綺麗だ」 先ほどは、言いかけて止めた言葉の先を、そっと落とした。 クラルは、やはり目を伏せて俯いてしまう。クラウスは、そんなクラルの姿も微笑ましくて、満足していると、 「……ありがとう」 と、隣から小さく聞こえて、胸が鳴った。 周りが喧騒に包まれていても、はっきりと聞こえた声。 その声に、「自分が彼女を喜ばせている」という惜しみない幸せの思いが溢れ、ハッとした。 ほんの一瞬、でも確かに心に湧いた微かな優越感と喜びを、クラウスは心底恥じて、激しく嫌悪した。自分のこの体は、『本物』を元にして作られた体で、『本物』が経験しなかった事を、自分が経験していることの優越感なんて……と、クラウスは自己嫌悪に押しつぶされそうになるのを振り切るように、思考をシャットアウトした。 と、クラウスが思考を払っている時に、 「痛っ」 隣から小さな声がまた聞こえる。 クラルは平然な顔をしているが、クラウスが足元を見ると、クラルが慣れない下駄で鼻緒ズレを起こしていた。足の指の間が真っ赤に腫れている。 「クラル、少し止まって」 脈絡も無くそう言ったクラウスが、クラルの鼻緒ズレに気づいて言ったのだと、彼女は分かっているのだろう。 「……平気よ、これくらい」 そう言うと、そのまままた歩きだそうとする。そのクラルの手を、クラウスが優しく掴んだ。 「僕が手当てしたいんだよ」 優しく言うと、クラルは観念したらしい。クラウスに従って、近くのベンチまで行くと、その足をクラウスに言われるまま差し出した。 彼女の足を優しく手に乗せ、地面に膝をつくクラウスに、なんだかクラルはむず痒くなってしまい、思わずまた目を伏せる。 クラウスは、装備していた簡易救急箱から消毒液を取り出すと、包帯で彼女の赤く腫れた指をそっと拭いた。 「……用意が、いいのね」 「うん。こんなこともあるかと思ってね」 クラウスは優しい。彼の魂を現世に止めた事で、自分はまたこうして彼と幸せな日々を紡ぐ事が出来る。変わらない優しさと暖かさに、クラルは今だけは不安も何も感じない。と、自身の体をそっと自分で抱きしめて、彼が生きて隣にいる喜びと有難さを、心から噛みしめた。 刹那。 ドーンッ。 と、激しい破裂音のような音がして、クラルは思わずビクリと肩を揺らす。 「クラル、見て」 空を仰ぐクラウスに誘われて、クラルは空を見上げる。 夜空に、様々な色をした光の大輪が咲き乱れていた。それは、次々とその姿形を変えて、夜空をキャンパスにしたように、自由に次々とその姿形を変える。 ドーンッ。 と、また大きな音がして、今度は違う種類の大輪が咲いた。度重なるその重低音が、心臓を揺らしていく。 視線は夜空に残したまま、クラルがそっと口を開いた。 「……浴衣も、屋台も……そして花火も。あなたとまた新しい『初めて』が作れた事。それが、とても嬉しい」 「……うん。……僕もだよ」 二人を包む夏の夜に咲く花々は、今の幸せを噛みしめる彼らを祝福するように、いつまでも咲き乱れた。 ~ロス・レッグ&シンティラ・ウェルシコロル~ 花火大会へのエクソシスト派遣の話を受けた直後、ロスが激しくはしゃいでいた。 「花火だ! 花火!」 楽しそうなロスを横目に、シンティラが、 「私も見に行きたいですが」 と、ロスの勢いに気圧されながらも言う。 「火が、ばばばん! って、楽しそうだよな!」 本当にロスは火が好きだな。と、呆れたような暖かい笑みを零した。 「折角だから、浴衣も拝借しますか」 「おう! そうだな! 浴衣ってやつも着てみてえ!」 二人とも、花火大会を楽しみに胸を躍らせた。 ●花火大会当日 花火大会にちなんで、街中はお祭りムードに包まれていた。辺りには、数々の屋台が出され、ロスとシンティラの食欲をくすぐる香りが、広がっている。 「ティ、食いもん全制覇すんぞ!」 言うと思った。と、シンティラは心の中で思いながら、ロスが好きな箸巻き焼き鳥があれば買い溜めしておこうと、心に決めるのであった。 「よーっし」 と、今にも涎を垂らしそうなロスを横目に、視線をロスの首から下へと、シンティラは移していく。教団から貸し出された浴衣を、ロスのために選んだのは自分だ。ロスのイメージに合うものと、赤い下地に黒炎がよく映える浴衣を選んだ。自分はというと、白い下地に、濃い青や薄い青など様々な青で、川のせせらぎのような模様が映された浴衣にした。そして、我ながらその選択は正解だったと思う。と、人知れず頷くシンティラ。 「お、ティ、あれ見ろ」 ロスの声でハッとしたシンティラは、ロスの指差す方を見た。ロスとシンティラがよく懐いている、クラウスとクラルが二人とも浴衣に身を包んで歩いていた。 「クラウスさん達も、来ていたんですね」 「みたいだな。にしても、二人とも幸せオーラ満開だな」 クラウスさんは、いつも通り優しい表情だが、クラルは飄々としている。幸せオーラというものが出ているのだろうか? シンティラは、首を傾げながら、 「幸せオーラ、出てますか?」 と、ロスに聞くと、ロスは弾けたような声で、 「おう! 出てるぞ!」 口に買った食べ物を頬張りながら言った。 シンティラは、そんなロスを見て、目を見開く。すでに、彼の腕いっぱいに、いつの間に買ったのか、屋台の食べ物達が抱えられている。 「い、一体いつ買ったんですか……」 「ん? なんか、ティがぼーっとしてる時に。お! あれも美味そう!」 全制覇と言ったロスは、本当に片っ端から買っていく。そして、いよいよロスが持ちきれなくなると、その分はシンティラが持つことになった。 気づくと、シンティラの両腕にも沢山の屋台の袋がぶら下がり、その中には、勿論ロスが好きな箸巻き焼き鳥の姿もあった。 現在、綿あめを美味しそうに頬張っているロスを見ながら、なんだか自分が好きな景色を観る余裕は無いな、と思っていると、 「ん? 綿あめ、欲しいのか?」 と、ロスがシンティラの内心とは異なる事を口にする。 「いや、そんなことは」 「いいから、美味ぇから食ってみ?」 シンティラの言葉の途中でそう言ったロスが、綿あめをシンティラの口に持っていく。 「自分で食べれ……もごっ」 主張虚しく、見事に綿あめに口封じされる。 ふわふわの綿あめは、口に入れるとすぐに溶けてしまい、その代わりにほんのりと甘い味がシンティラの口の中に広がっていく。 「美味しい」 思わずシンティラがそう言うと、 「だろー?」 と、ロスが嬉しそうに言った。 暫く、そうして二人で屋台を楽しみながら周っていると、人々が道の脇に腰を落ち着かせ始める様子を見て、シンティラはそろそろ花火なのかもしれない、という考えに至った。 「ロスさん、そろそろ花火の時間かと」 「お! そうか! 楽しみだな!」 ロスが言い終わるか言い終わらないうちに、ドーンッと大きな音と共に、夜空に様々な光の大輪が咲き乱れた。パチパチと火花のようなものを散らしながら、空いっぱいに広がっては消え、また広がっては消え、を繰り返している。 綺麗だ。と、シンティラが思ったのも束の間、 「すっげえ! 楽しっな!」 今にも走り出しそうなロスが隣ではしゃぐ姿を捉えるシンティラ。 「ロスさん、風情を楽しむというのは……」 「風情」 キョトンとして聞くロスに、なんだか彼らしさを感じて、思わずシンティラは、買って来た食べ物をロスに差し出した。 「……ロスさん、食べます?」 「食う! さんきゅーな!」 美味しそうに食べ物を頬張るロスを横目に、自分たちはこれでいいのかもしれない。と、満足げにシンティラは夜空を見上げた。 ~ルーノ・クロード&ナツキ・ヤクト~ 「おおー! すっげぇ!」 街の様子を見て、ナツキは目を輝かせた。 普段とは違って、街の道には様々な露店が出ており、はしゃぐ人々の声や、店引きをする活気のある声。そして、食欲を唆るような香ばしい香りが辺りに広がっている。 ナツキの高いテンションとは対照に、ルーノはやや複雑な表情をしながら、 「そう……だね」 と瞳を揺らしながら呟く。 ルーノは、辺りの賑わう街や人々に目を向けて、自身の幼い頃の記憶に思いを馳せる。元々厳しい家庭に育った上、祓魔人と分かってからは邪魔者扱いで、年相応に遊ぶ事ができなかったのだ。だからルーノは、お祭りに来ても遊び方が分からないということもあって、行く事を渋っていた。しかし、ナツキがルーノを説得するような形で、今日を迎えたのだった。 そんなルーノの内心を知ってか知らずか、ナツキは興奮しながら、 「なんか懐かしいな。昔は皆で祭りに出かけたりしてさ、楽しかったなぁ。ルーノもあるだろ、そういうの」 と、ルーノに言う。 ルーノは、まるで見透かされたみたいだな。と心の中で苦笑しながら、複雑な気持ちでナツキに答える。 「……無い、な。家が厳しくてね、こういう場で遊んだ事がないんだ」 「そっか……よし! じゃあ今日はめいっぱい遊ぼうぜ!」 ナツキは、どこまでも真っ直ぐだ。 「いや、私は」 「こういうの初めてなんだろ? だったら楽しまないとな! 遊び方なら教えるからさ!」 「……わかった、よろしく頼むよ」 ルーノは、ナツキのどうにか自分を楽しませようという純粋な厚意が嬉しくて、思わず頷く。 屋台を歩き周る中、ルーノはナツキの格好をチラリと見る。ナツキは雰囲気が出るからと言って、教団に浴衣を借りた。確かにナツキはいつもと同じように、振舞っているが、自分はどうにも慣れない。と、戸惑い気味で自分の浴衣姿を見下ろした。 「お! ルーノ! あれも美味そうだぜ!」 そう言って、屋台に吸い寄せられるように近づくナツキ。気づけば、ナツキの手には既にいくつもの屋台の袋がぶら下がっていた。 ナツキは、買ったものをルーノに差し出した。 「ほら、食ってみろって」 「な、なんだこれは」 「チョコバナナって言うんだぜ」 食べてみろって。と、もう一回言ったナツキに促されて口に運ぶルーノ。 「美味しいね」 「だろ!?」 ナツキが嬉しそうに満面の笑みを零すと、今日はナツキに甘えて楽しんでみても良いのかもしれない。という考えが、ルーノの中にほんのりと浮かんだ。 「次、あれな!」 休む暇もなく、ナツキが指を指した先には、長い銃が置かれ、その奥の棚に様々な景品が置いてある店だった。 ナツキが意気揚々とそのお店に入ると、店主と話をして、銃を構える。適当に的を絞り、一つの景品をめがけて引き金を引く。が、打ち出された弾は景品を逸れて、虚しく壁に当たって落ちた。 「くそっ。やっぱり、当たらねえ」 もう一回構え、引き金を引くが、やはり当たらない。 「ルーノもやってみろよ」 ナツキが銃をルーノに差し出す。 「いや、私は」 「いいから、やってみろって」 ナツキが銃を無理やりルーノに握らせると、ルーノは観念したように、銃を構えた。先ほど、ナツキが狙って当てられなかった景品をとりあえず狙うことにする。 照準を定めて、引き金を引くも、ナツキと同じく弾は景品を逸れ、壁に当たって虚しく落ちた。 「意外と、当たらないものだね」 「だろ!? でも、それが当てたくなるんだよなあ」 その気持ちは分からないでもない。とルーノは内心納得した。 「いやあ、あれは当たらねえな!」 射的のお店を後にして、楽しそうにナツキが言う。 「悔しくは、無いの?」 不思議そうにルーノが言うと、一瞬ナツキはキョトンとしてすぐ様笑顔になる。 「あれは、悔しいって思うところまでが、楽しむ要素なんだよ!」 「そういうものかな」 「そういうもの!」 ナツキが言いながら、次に向かうお店を探している時に、突然頭上で大きな振動がした。 見ると、ドーンッという大砲のような音をさせながら、夜空に様々な色の光の大輪が咲き乱れている。 人々が、感嘆の声をあげ、ナツキとルーノを包んだ。 「すっげーなぁ!」 ナツキも、その感嘆の声に負けず大声を張る。 「子供か君は……でも、確かに綺麗だ」 ルーノは静かに見物しながらも、ナツキの意見に同意した。 「な!来てよかっただろ?」 「まあ……悪くはなかったかな」 「へへ、素直じゃねーの」 嬉しそうに満足げなナツキを横目に、ルーノは『良い思い出ができた』なんて考えが浮かんで、らしくないと苦笑した。 ~リズ・クレアリーフ&ジェイド・ミニスト~ リズは、教団から花火大会へのエクソシスト派遣の指令を受けて、頭を抱えていた。 (花火大会かあ。行ってみようかな。屋台も沢山周りたいな。でも……) と、自身のパートナーが頭に浮かんだ。リズはジェイドと出会って間も無い。リズはジェイドと仲良くなりたいと思ってはいるが、どうにも今一歩踏み込めずにいた。 花火大会は、二人で周るとなると緊張するけど、仲良くなれる機会かもしれない。リズは、その考えを胸に、よし、と密かに拳を握って気合を入れた。 ●花火大会当日 リズとジェイドが街に着いた時は、すでに人がごった返していた。しかし、賑やかな人々、美味しそうな香りを出している幾つもの露店。お祭りムード満載な雰囲気に、自然とリズもいつもより気持ちが高揚した。 「人、多いですね」 「そうだね」 「……」 (うう、会話続かないなあ……) しかし、そんなリズの思いも虚しく、ジェイドは相変わらずの態度で、会話が中々弾ま無い様子に、リズは一喜一憂してしまう。 (落ち込んでても、ダメだし、屋台を見て周ろう!) 決めた途端に、リズの鼻に美味しそうな香りが飛び込んでくる。 「あ、あれ食べたいです」 「ふむ……」 思わず引き寄せられるように、お店に近づくリズに、ジェイドは何も言わずについてくる。 お店に並んで、たこ焼きを手に入れると、リズは恍惚とした表情で湯気が出ているたこ焼きに串を刺した。 「気をつけた方がいい。熱そうだ」 淡々と言ったジェイドに、しかし心配してくれたのかもと、嬉しくなったリズはジェイドの忠告を忘れて、一気にたこ焼きを口に頬張った。たこ焼きの中身が口の中で弾けて、味わうよりも先に熱さに飛び上がる。 「あ、熱っ」 「だから、言ったんだ。ほら」 ジェイドが持っていた水をリズに渡して、リズは水で一気にたこ焼きを喉の奥に流し込んだ。熱が喉を通って胃に落ちていくのが分かる。 「あ、ありがとうございます」 たこ焼きを食べた後に、甘い物が欲しくなって、リズは綿あめを見つけた。 「あ、あっちも美味しそう……」 リズは言いながら、綿あめのお店に向かうと、幸せそうに口いっぱいに頬張った。 「リズはよく食べるね」 心なしかいつもより優しい顔をしているジェイドに、リズはなんだか慌てて綿あめを差し出した。 「……あ、ごめんなさい!ジェイドさんもどうぞ!」 差し出したのはリズなのだから、そうなる流れも納得なのだが、リズは差し出した自分の手から直接綿あめを頬張ったジェイドに、思わず顔を背けてしまう。 緊張なのか、はたまた違う何かなのか、さっきから心臓の鼓動が早い。 (仲良くなり始めてるのが、嬉しいのかな……) 一生懸命頬張っているジェイドを横目に、 「どうですか?」 と、おずおずと聞くと、 「まあまあかな」 ジェイドがからかうような口調で、答えてくれたことになんだか嬉しくなる。 「そろそろ花火の時間だ。見えやすいところに行こうか」 「そ、そうですね!」 花火が見えやすいところには人が沢山いた。やはり、皆考えることは同じなのだろう。見晴らしはいいが、背があまり高くないリズは、視界が遮られてしまう。 と、待ちに待ったその瞬間が訪れる。 ドーンッ。 と、体を芯から揺らすような低くて大きな音がして、夜空に様々な色の光の大輪が咲き乱れた。 「わあ! 花火、綺麗ですね!」 思わずリズがはしゃぐと、 「そうだね。こんなに迫力があるとは思わなかったから、少し驚いているよ」 と、ジェイドも同意してくれた。 しかし、 (うーん、前の人の頭が邪魔で……よく見え無い) リズが、そう思いながらどうにか花火を見ようと、つま先立ちをしたり、左右に頭の位置を変えてみたりしていると、 「もう少し人の少ないところに行こうか」 ジェイドの声が耳元で聞こえた。 「へ!?」 「リズは背が低いから、ここだと花火が見えづらいだろう?」 「え、あ、はい……」 (びっくりした……) なんだか、まだ胸がドキドキしている。これは一体なんなんだろう。その答えを、見つけようとしても見つけられずに、リズは今を楽しむことに専念する。 「リズ、こっち」 そして、ジェイドはそんなリズの内心を知ってか知らずか、人ゴミから抜け出そうと、リズの手を掴んで人ゴミを抜けていった。 暫く歩いて、人の少ないところに出ると、その場に腰を下ろす。夜空に咲く花達が、まるで落ちてきそう。と、花火の迫力に見とれながら、リズは手元に視線を移した。 人ゴミを抜けても尚、手は離されない。 なぜ、手を離さ無いのか。隣を見ても、いつもと変わら無いジェイドの表情に、聞くに聞けずにリズはモヤモヤしながら花火に視線を戻す。 「……今日は、ありがとうございました」 視線を花火に残したまま、手の温もりだけを頼りにジェイドに言葉を落とす。 「うん。私も、楽しかったよ」 ジェイドの方から柔らかい声が聞こえて、今日は少しだけ距離が近くなれたかもしれない。と、リズは、満開に咲く花火の下、顔を赤らめながら少しだけ手を握る力を強めた。 ~アユカ・セイロウ&花咲・楓~ アユカは楓の浴衣姿を見て驚いた。 楓の黒髪に似合う、同じく黒の浴衣に白の縦ストライプが入り、帯は黒よりも少し明るめの青色で控えめに、しかし確実にアクセントを加えている。楓は、元々東方島国ニホン出身だから、和装も似合うとは思っていたけれど、ここまでピッタリとは。 「かーくん! 浴衣、すごく……すごく似合ってるよ……!」 思わず感嘆の声を漏らしたアユカの言葉に、照れたように視線を逸らす楓。そのまま、横目でチラリとアユカの浴衣を見た。彼女は自分に浴衣が似合っていると言ってくれたが、彼女こそ似合っている。 アユカの淡い紫色の髪の毛に合わせたように、楓と同じく黒の下地に、紫の紫陽花の模様がよく似合う。それに、いつもは下ろしている髪の毛を、まとめて上げているのも、楓の胸を鳴らす要素の一つとなっているのは、間違いない。 「アユカさん……も」 「んー? 何?」 アユカは少し前のめりになって、楓に聞き返すが、楓はその仕草に言葉を詰まらせる。 「いや……行きましょうか」 「うん……行こっか!」 街に出ると、人々が大勢集まっていて、目を離すと、逸れてしまうそうなくらい、ごった返していた。 アユカは、はしゃいでいるから、彼女から目を離さ無いようにしないと。と、密かに心に誓う楓をよそに、アユカは嬉々として屋台を見て周ろうとする。 「凄い! 屋台が沢山、たのしそう」 「アユカさんは、何か行きたいところありますか?」 そう聞いた楓に、うーん。と、顎に人差し指を置いて考え込むアユカ。 「飴細工のお店を見てもいい?」 なぜだか、飴細工のお店に無性に行きたくなり、二人で飴細工のお店に向かった。 「わあ、凄い……綺麗、かわいい!」 露店の中の一つにあった飴細工のお店では、様々な可愛らしい動物の形をした飴細工が沢山置いてあった。 アユカは、その可愛らしさにはしゃぎつつも、自分の知ら無いところで懐かしさを感じている感覚に、不思議な思いに陥る。その感覚を抱えながら、白と黒の猫の飴細工を手に取った。 「これ……」 「それが、気になりますか?」 「うん……」 すると、楓がアユカの手からスルリと猫の飴細工を受け取ると、その店の店主と手際よく話をして、お金を払い、アユカの手にそっと乗せる。 「え! かーくん、わ、わたし、自分で……」 「いいんです」 「でも……」 「私が、アユカさんにプレゼントしたかったので……」 最後まで言えずに、楓はアユカから顔を背けた。 「じゃあ、ありがとう! 嬉しい!」 そう言って、満面の笑みを見せた彼女に、楓の心臓が大きくなって、締め付けられた。屋台にはしゃぐ彼女を見て、心が和む。でも、心にあるのはそれだけじゃない。微かな痛みも感じる。少し前に、彼女が、自分を男性として意識していないことを知ってショックを受けた。それでも、一体、彼女は自分の事をどう思っているのか。聞きたい。聞いてみたい。あわよくば、この花火大会の間に。グッと拳を握り締めた楓の隣を、アユカは楽しそうに歩いていた。 暫く屋台を楽しんだ後、事前に教団に聞いたよく見える場所へ行き、アユカと楓は腰を下ろした。 一時も経た無いうちに、ドーンッと大きな重低音がして、同時に夜空に満開の光の大輪が咲き乱れる。 「綺麗……」 打ち上げられる見事な花火に、目を奪われるアユカ。その隣に座っている楓は、何度も響く重低音に、つられて心臓が高鳴り、今なら……と口を開いた。 「アユカさんにとってパートナーとはどういう存在ですか? 寂しさを埋めてくれる友人ですか? それとも……」 途中で言い淀む彼に、アユカは視線を花火から楓に移し、眉尻を下げた。 「どうしてそんなこと聞くの? かーくんは、わたしが頼れる唯一の人だよ。それじゃダメなのかな……」 楓は、彼女の表情を見て、困らせてしまったと自責の念にかられた。やはり、いつも通りふるまおう。そう思って、トーンを通常に戻して、アユカに答える。 「すみません、楽しい祭りに水を差しました。駄目……ではないです。あなたにそう思ってもらえるのは、光栄ですよ」 そう答えた楓の表情を見てハッとする。今だから気づいたけど、さっき自分に質問した彼の表情は、なんだか泣きそうに見えた。自分が、そうさせたのかもしれない。自分が、彼を苦しめているのかもしれない。アユカは、楓の素を初めて見た気がして、彼の心を何も知ら無いのだと、思い知る。 二人は、それぞれの思いを口にせず、花火と共に空に打ち上げ、そして、夏の空気の中に溶かしていった。 ~唐崎・翠&レガート・リシュテン~ 「季節が巡るのは早いものですね。春になったばかりだと思っていたのにもう花火の季節です」 教団からエクソシスト派遣の指令が出て、花火大会にくると、街はもう人でいっぱいになっていた。沢山の屋台が置かれ、ライトアップも華やかにされている。そんな様子を見て、翠がそっとつぶやいた。 「このままだとあっという間に一年経ってしまいそうですね」 相槌を打ったレガートは、隣を歩く翠の様子を横目で見る。彼女は、東方島国ニホン出身で、普段から袴を着ているからだろうか。浴衣姿が、とても様になっている。それに……と、レガートは自分の足元を見た。 普段履きなれ無い下駄に、どうにも気を取られてしまう。 「やっぱり服装が変わると、雰囲気も変わりますね。とてもよくお似合いですよ」 レガートが見ていたのに気づいていたのだろうか。翠がタイミングを見計らったかのように言った。 「そうですか? こういう格好は初めてなので、なんだかちょっと緊張しますね。特にこの下駄が、風情はあるんですがなかなか曲者で……翠さんはすごいですね……」 翠は袴に合わせて普段から草履を履いているから、下駄もなんなく履きこなしている。 「慣れですよ、慣れ。あ、鼻緒擦れに気を付けてくださいね」 翠が鼻緒と言って指を指したところを見るレガート。そうか、ここが擦れるのか。と、余計に気を取られてしまった。 二人で歩いていると、色々な屋台が目に入ってきた。食べ物は勿論のこと、食べ物以外の遊べる屋台も沢山ある。レガートは初めて見る、催しものに、ワクワクしつつ、 「ちょっと遊んでいきませんか?」 と、翠を促した。 「そうですね。どれも楽しそうです」 同意した翠を連れて、一番最初に目に入ったヨーヨー釣りのお店に向かう。 ヨーヨー釣りは、針のついた糸を操作して、ヨーヨーの持つところの輪っかに引っ掛けて釣り上げるのだが、翠にとっては力加減が難しいらしく、何度も糸を切ってしまったり、針自体が折れてしまったりしている。 それを横目で見ながら、レガートは器用にヨーヨーの輪っかに針を通して、釣り上げた。 「リシュテンさん、お上手ですね」 「そうですか? ありがとうございます」 暫く楽しんだ後、次はここに行きましょう。と言って、レガートが翠を連れて、金魚すくいのお店に入る。大きな鉢の中に何匹もの赤い金魚や、黒い金魚、大きいものから小さいものまでいる。それを、薄い紙のついた、ポイでレガートは次々と器の中に入れていく。 「翠さんも、どうでしょうか」 レガートに促されて、翠も挑戦するが、何度やっても、ポイの紙が破れてしまう。暫くして手が止まっている翠を、レガートは不思議に思って覗き込むと、少しだけ顔が赤くなっている翠が、目をそらしながら、 「私、あまり手先は器用ではなくて……」 と言ったのを見て、思わずレガートは微笑ましく思った。 屋台で一通り遊ぶと、そろそろ花火の時間になったのに気づき、見晴らしの良いところを探して、翠とレガートは腰を下ろした。 暫くしないうちに、ドーンッという盛大な音がして、すぐさま視線を夜空に向けると、そこには大輪の光の花が今にも溢れおちて来そうな勢いで咲き乱れる。 「綺麗ですね……」 感嘆の声を漏らす翠の言葉に、 「はい。花火、凄いですね、いったいどういう仕組みなんでしょう」 と、いつもより目を輝かせて同調するレガート。 「そういえば、どうなんでしょうね? 考えたこともなかったです」 言いながら、翠はチラリとレガートを見た。 無邪気に楽しむレガートに、 「リシュテンさん、楽しそう」 と、翠も素直な感想が出た。 「あ、いや、普段もそうですけど、今日はなんだかすごく笑い方が無邪気な感じがして。あ、そんな気がしただけ、なので……」 驚いて翠をみるレガートに思わず、弁解のように付け足す翠。 レガートはそんな翠を優しく見守りながら、 「また花火、見たいですね」 と言葉を零した。 「また夏がきたら見れますよ」 「では、翠さん。また来年もここで一緒にみてくれますか?」 笑顔の先を読み取れ無い彼の表情に、翠は、 「はい、ぜひ」 と、自分も柔らかい表情で答えた。 夏の暖かい風が二人を包み込む。 咲き乱れる光の花々は、いつまでも二人を照らした。 ~ラウル・イースト&ララエル・エリーゼ~ 街に行く前に待ち合わせをしていると、ラウルの元にララエルが少し小走りでやってきた。 「え、えへへ……ユカタ、というそうです。ど、どうですか? ラウル」 ラウルの前でララエルは一回りすると、両手を上げて、振袖の部分を最後に見せた。ララエルは彼女によく似合う、薄い青色の下地に、カラフルな花が散りばめられている浴衣を身に纏い、いつもは垂らしている長い銀髪は上の方で結っていた。 「綺麗だよ。よく似合ってる」 ラウルはいつもとは違う彼女の姿に、見惚れつつ、少しだけ目を逸らして言った。 惜しげもない褒め言葉に、少しだけ頬を染めながら、 「ほ、本当ですか!? えへ、ラウルも涼しげで良く似合っています!」 と、黒のシンプルな浴衣に身を包んだラウルに褒め返しをした。 「そ、そうかな。どうもありがとう」 ラウルも少しだけ照れたように言うと、早速二人は街へ向かうことにした。 街は、楽しげな人々で盛り上がっていて、屋台が沢山並んでいる。 それらを見て回りながら、歩いていると、 「ラウル、あの黒い棒はなんですか?」 怪訝な顔をしながら、ララエルがチョコバナナを指差した。 「チョコバナナが珍しいの? 一本買ってこようか」 「ちょこばなな……? はい、食べてみたいです!」 「分かった。じゃあ、買ってくるからここで待ってて」 「はい!」 チョコバナナのお店の方に向かうラウルの背を見ながら、ララエルは自分が知ら無い未知のものに触れられるワクワクを噛み締めていた。 と、その時、 「まだガキだけど良い線いってんじゃねぇ?」 ラウルじゃない下衆びた男の声がララエルの頭上から降ってきた。 見ると、嫌な笑みを浮かべた男が二人、ララエルを挟むようにして立っている。 「ねえ、何してんの? 一人? 一緒に遊ば無い?」 先ほどとは違う男が、ララエルを上から下まで見るようにして、言うと、ララエルの背中に嫌な汗がつたる。 「わ、私、人を待っているので……」 「えー、でもさ、今一人じゃん? だったら遊ぼうよ」 男は引かずに、もう一人の男とアイコンタクトを取ると、ララエルに手を伸ばす。 「や、やめてください!」 ララエルが足を震えさせながら、ぎゅっと目をつぶる。 瞬間。 「お前ら、何してる!」 ララエルが欲しかった声がした。 見ると、ラウルが瞳に怒りの炎を燃やして、男達とララエルの間に立ちはだかっていた。 「この子に近寄るんじゃない!」 ラウルの大きな声に辺りはざわつくと、 「ちっ、男持ちかよ」 男達は捨て台詞を残して去っていった。 「ララ、大丈夫だった? 一人にしてゴメン」 ラウルは、少しの間でもララエルから目を離したことを酷く後悔した。自分が守らないといけなかったのに、自分が危険な目に合わせてしまった。その悔しさに、ギュッと唇を噛む。 「ラウル……ラウルー!」 先ほどまでは、強気で男達に言葉を発していたララエルだが、やはり怖かったのだろう。ラウルの姿を見て、安心したのか、ララエルの目が潤んでいく。 泣き出しそうなララエルに、ラウルは買ってきたばかりのチョコバナナを差し出した。 「ほら、これ食べて元気出して? そろそろ花火も見れるころだから、ちょうどいい場所に行こう?」 ラウルに促され、頷いたララエルは、ラウルと一緒に花火がよく見える場所に行って、腰を下ろした。 「これ、美味しいです……」 「本当? 良かった」 ララエルの美味しそうに頬張る表情に、思わずラウルが笑みを浮かべると、ドーンッという大きな音と共に、夜空に様々な色の大輪が咲き乱れた。 「ララ、ほら、花火があがったよ」 夜空を見上げた後、そう言いながらララエルの方を見たラウルは、彼女のウットリと花火を見ているその横顔に見惚れた。 「ララ、怖くない?」 ララエルは、そのラウルの言葉に、視線を夜空から離さずに返事をした。 「わ、ラウル、あれが花火ですか? 何て綺麗……夜空に咲いた星座の花みたい……」 刹那。 ラウルがララエルの手を、ギュッと握る。 ララエルはビクリと体を揺らし、途端に顔を真っ赤にさせた。 ラウルとずっとこうしていたい。時が止まってしまえば良いのに。と、内心呟くララエルの隣で、ララエルの命を、笑顔を、もっと守りたいとラウルが心に誓ったことを、花火だけがそっと夜空から見守っていた。 ~明智・珠樹&白兎・千亞~ 教団から花火大会へのエクソシスト派遣のチラシに見入る珠樹。 花火大会というものは知っているが、情報としての把握のみで、自身の体験として今の自分は持っていない。と、思いつつチラシの最後の文字を見て、珠樹が固まる。 そこには、教団から浴衣貸し出しの文面。そして、珠樹はパートナーの千亞の姿を脳内に思い浮かべる。 千亞は、普段男装をしているが、かなり整った顔をしている。 これは、ぜひとも自分が選んだ女性ものの浴衣を着させたい! そう密かに珠樹が脳内で策略を練り始めた。 そこへ、後ろからヒョイと千亞が顔を覗かせた。 「どうしたんだ、珠樹。へぇ、花火大会か」 千亞が言うと、珠樹はチラシから視線を逸らさ無いまま、 「千亞さんは花火、お好きですか?」 と尋ねてみる。 「あぁ、好きだよ。夏の風物詩だしね。珠樹は?」 「好き……だと思います」 だと思う? 千亞が疑問に思い、首をかしげると、 「いえ、花火はわかるのですが、まだちゃんと現物を見てなかったなぁ、と思いまして。過去の私は見てるかも、ですが」 微かに笑みを浮かべながら言った珠樹に、以前珠樹が自分の過去の記憶がないと言っていたのを千亞は思い出した。 もしかしたら、何か珠樹の記憶を思い出すきっかけになるかもしれない。そのわずかな希望を抱いて、 「それじゃあ……一緒に見に行くか?」 千亞が珠樹に言うと、途端に彼の目が輝き、 「千亞さん、浴衣を着てみませんか?」 と、千亞に詰め寄った。 「そうだな。あまり着たことないし、着てみたいかも」 「見繕ってきますね、ふふ……!」 何かありげな珠樹の笑顔に、半ば不安になりながらも、千亞は当日を迎えるのであった。 ●花火大会当日 待ち合わせ場所に来た珠樹を見て、手に持っていたものに目を見開く。 「千亞さん、借りてきました」 「ちょっ……これを僕が?」 珠樹が手に持っていたのは、自分用に黒の浴衣。そして、千亞には艶やかな紫の女性ものの浴衣だった。 普段男装寄りな千亞にとって、この女性ものの、しかも浴衣というのはかなりハードルが高い。それを着させたかったのだろう。千亞は、先日の珠樹の裏がありそうな笑顔の理由はこれだったか。と、あの時の自分を深く反省した。 「千亞さんに絶対似合うと思いまして。お嫌でしたら、この女性ものは私が着ますが……」 千亞は頭を悩ませた。自分が女性ものを着るのも抵抗があるが、しかし、女装した珠樹と一緒に歩くのも、耐え難い。千亞の中で検討した結果、 「あー、もう、わかった僕が着るっ!」 見事に珠樹の策略にハマることとなった。 各々着替えると、ウッキウキの珠樹が千亞をまじまじと見る。 「初めて千亞さんが女性の服を着てらっしゃるの拝見しました……!」 「あまり見るな」 思わず千亞の顔が真っ赤に染まる。 それが自分でもわかった千亞は、それをごまかすように、 「……林檎飴食べたい」 と、珠樹の顔を見ずにつぶやいた。 「喜んで!」 屋台に向かった二人は、ごった返す人混みに気圧されつつも、どうにか林檎飴のお店まで行くと、珠樹は宣言通り千亞に林檎飴を買って渡した。 「はい。どうぞ、千亞さん」 「……ありがとう」 千亞が満足げに林檎飴を頬張る様子を見て、珠樹は嬉しそうな顔をする。というか、千亞を見るたびに、自分が選んだ浴衣を千亞に着させているという満足感に、幸せそうな顔をしているのだ。 それはそれで、珠樹が喜んでいるなら嬉しいような複雑な感情を抱えつつも、千亞は珠樹と引き続き街中を見て回る。 そうやって、なんだかんだ屋台を一通り楽しむと、落ち着いた場所で二人とも腰を下ろした。 暫くすると、ドーンッという重低音のような破裂音のような音と共に、夜空に満開の光の花が咲き乱れた。 「嗚呼、綺麗ですね……!」 珠樹が思わず感嘆の声を漏らすと、 「そうだな」 と、千亞も珠樹が楽しそうな様子を見て、笑みを浮かべながら呟く。 「花火を背景にした千亞さんが、です。ふふ……!」 「なっ!」 突然の、珠樹の甘い言葉に、思わず赤くなってしまう千亞。 そして、当初の思惑を思い出した。そういえば、自分は珠樹の記憶を取り戻すきっかけになればいいと思っていたんだった。と、考えながら珠樹をチラリと見た千亞は、楽しげな珠樹を見て、珠樹が楽しそうだから、まぁいっか。という気持ちになってしまった。 夜空にあがった花火は、二人を見守りながら、静かにその花を散らした。
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*** 活躍者 *** |
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[10] ナツキ・ヤクト 2018/06/07-23:07
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[9] アユカ・セイロウ 2018/06/07-21:57
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[8] 唐崎・翠 2018/06/07-01:00
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[7] クラウス・クラーク 2018/06/06-04:05
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[6] リズ・クレアリーフ 2018/06/06-00:20
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[5] 明智・珠樹 2018/06/05-21:51
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[4] ロス・レッグ 2018/06/05-19:00 | ||
[3] ララエル・エリーゼ 2018/06/05-09:54
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[2] ナツキ・ヤクト 2018/06/05-00:45
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