~ プロローグ ~ |
連日の指令漬けで、疲れ果てた肉体を呼び覚ます音がする。 |
~ 解説 ~ |
雨の日の一日のお誘いにきました。 |
~ ゲームマスターより ~ |
梅雨時期になりましたが、せっかくなので、雨の日らしくまったりとした一コマを書かせてください。 |
◇◆◇ アクションプラン ◇◆◇ |
|
||||||||
コースA お喋りしてる ●リトル 休暇は別々に…と分かれてすぐ聞こえた音に驚き振り向く 疲れた体に鞭打って、パンプティさんを部屋へ運ぶことに …寮暮らしだったんだ、知らなかった 思えば僕は、彼女の事をほとんど知らない …僕は彼女の、邪魔になってはいないだろうか 無知ゆえに。いつもの不安が、胸をよぎった 「お目覚めですか?」 君の無事にホッとする あんまり長居はよくないと思ったけど…君が笑うから 思わず尋ねてしまった 驚いた 君は友人が多いから、僕なんて そう思っていたのに 僕、君に迷惑をかけまいと遠慮して… 素直に告白する 君と違い自分に誇れるものがないと 君の言葉に涙がにじむ もう少し此処に居てもいいですか せめて、雨が止むまでは。 |
||||||||
|
||||||||
A 自室のベッドで つい寝過ごしたのが悪かったのかもしれない 酷い夢を見た あの夜も雨だった 僕が、あいつから姉を庇い、死んだ時の夢 でも今日は違った 姉さんが、僕と繋いでいた手を離して そのまま僕の代わりにあいつの前へ― 目を覚ませば、そこに姉さんがいた 生きてる事を確かめたくて思わず縋り付く …姉さんが、死ぬ夢を見た、と 震えながらそれだけどうにか告げた 彼女の腕が、体温が、鼓動が、温かい どうして、姉さんはこんなにも強くいられるんだろう? 過去が分からなくて、恐ろしいのはきっと彼女の方なのに 手を、繋ぎたい…繋いで欲しい 夢の光景が蘇る もう決して手を離したくなかった ごめん…姉さん …愛してる 罪悪感に怯えながら目を閉じる |
||||||||
|
||||||||
◆リームス 選択:B 癒すとは具体的に何をすべきだろう、と カロルに相談したら彼女の視線は既にチラシに釘付けだった。 跳ねるように自室に戻るカロルを見送り 僕も言われた通りレインコートに袖を通す 【レイン】 僕は付き添いのようなものなのでカロルの後を付いて回る。 彼女が傘を選びながら 僕と傘を交互に見ているのが気になって 「僕の傘を選んでいるの?」 難解な返答だ しかも2本買うのだろうか 選んだ傘はピンクと黒のアーガイル。 購入した傘を早速使うのだと外に出たけれど なぜか僕の手にはカロルが選んだ水色の傘。 カロルが満足そうだから別にいいか。 そういえばチラシの文言が気になってた “雨の日が楽しくなる” きっとそういうことなのだろう |
||||||||
|
||||||||
A 【エリィ】 ようこそ、ここがワタシの城(部屋)デス! レイさん、どうしまシタ?? ひえっ…(レイさん、笑ってるのに怖いデス 話しかけても生返事なので、だんだん気まずくなる (むぅ…自分の部屋なのに、こんなに居づらいのは初めてデス 『多少』散らかっていた自覚はありマスガ… レイさんはもしや潔癖症だったのでショウカ とにかくさっさと片づけてしまった方が得策なようデスネ も、もう…怒ってませんカ?(思わずおそるおそる っ…!!(お手製と聞いてぱぁっと笑顔に とっておきの茶葉があるのデス!すぐにご用意しマス! (はっ、そういえばティーカップは先日割ってしまったのデシタ… レイさーん、マグカップとビーカー、どっちがいいデスカ? |
||||||||
|
||||||||
C 【目的】 ・契約したばっかだからスズ(喰人)のことあんまり知らないし、今日がよく知るきっかけになれば良いかな 【台詞】 鈴:……キリ。これ可愛いよね?(手に取ったアクセサリーを見せ 霧:んー……オレは、こっちが好きだなぁ 鈴:やっぱり? 霧:なにさ、やっぱりって 鈴:僕もね、これよりもキリが持ってる方が好きなんだ 霧:へえ、そう、……いや! スズが可愛いよねって言ってきたんじゃん 鈴:うん。君と僕の趣味が本当に合ってるか気になってさ 霧:ええ、オレを試したの……? 鈴:趣味が違っていても、僕はキリを嫌いにならないよ 霧:……っ!(なに今の、超カッコイイんだけど……!) これ、買おうかな……! 鈴:あ、じゃあ僕のもお願いね |
||||||||
|
||||||||
A ヴァン君は雨が嫌いだというが私は嫌いではないよ。 雨音を聞きながら読書をするのもいいものだ。 今日は雨だから外に出るのは面倒というヴァン君の意見を尊重しよう。 折角の機会だからこの間の約束を果たそうか。 「勉強を教える」というやつだよ。 とりあえず何冊か本を持ってきたからそれを一緒に読みながら読めない文字や文章を探してみようか。 まずは絵本から…いや、馬鹿にしているわけではないさ。 絵本や児童書は読みやすいし読むことができればモチベーションは上がるしね。 だいたいこの辺りの本がヴァン君のレベルにあったものかな。 この冒険譚を読むといい。少し長いが面白い話だ。 私も好きな本だから気にいってくれると嬉しいね。 |
||||||||
|
||||||||
【目的】 プランA、藤葉の部屋でのんびりティータイム 【会話】 藤葉:アメジス兄様、お茶でいいですか? アメジス:うん。…あ、藤ちゃんの故郷のニホン茶?あれが飲みたいな 藤葉:(嬉しそうに)はい、用意しますね 藤葉:(妹でもいいんです。こうしてお側に居られるなら) アメジス:(大事なこの子の笑顔を何時までも守ってあげたい) |
||||||||
|
||||||||
※プランB選択 雨の日限定ショップ……楽しそう ジェイドさんは、お買い物とか好きなのかな? 【会話】 (かわいいアクセも多いなあ) 「着けてみたらどうかな?」 えと……はい …… ど、どうでしょう? 「ふむ。かわいいね」 あ、ありがとうございます…… (ケーキ、どっちにしようかな) 「迷ってるのかい?」 あ、はい 「ふむ。両方頼んで、二人で分けるというのはどうかな?」 いいんですか? じゃあ、そうします! じゃあ、どっちも二つに分けますね 「待った」 はい? 「ここはリズが食べさせてくれるべきじゃないかな?」 食べさせて、って……? 「……(あーん)」 (え、そういうこと!?) ……うう、分かりました…… |
||||||||
~ リザルトノベル ~ |
パンプティ・ブラッディは一歩前を歩くリトル・フェイカーの背中を見つめる。
プライベートはいつも別々で、なにをしているのだって知らない。 「休暇は別々に」 リトルが口を開いたタイミングで、どざり、と音がして、驚いて振り返る。 「パンプティさん!」 雨の中、倒れたパンプティに駆け寄り、抱き起す。 相棒の不調を見抜けなかった失敗にリトルは唇を噛むと、パンプティを背中に抱えて、以前聞いた彼女の住まいへと向かった。 (……寮暮らしだったんだ、知らなかった) 寮母に事情を話すと部屋に運ぶのを手伝ってくれた。 すぐにお暇しようと思ったが、パンプティが心配だったし、自分も彼女もずぶ濡れだったのに親切な寮母からタオルを借り、体を拭かせてもらった。 あたたかなココアをもらい、リトルは冷えた肉体を温めながらパンプティの部屋を見つめた。 (思えば僕は、彼女の事をほとんど知らない) 胸がずきりと痛む。 無知な自分は彼女の邪魔になっているのではないか、そんな不安がこみあげていく。 「ん?」 薄く目を開けたパンプティが不思議そうにつぶやき、リトルを認めた。 「お目覚めですか?」 「アタシ……倒れたのか?」 「疲労がたたったみたいですね。ここ最近、忙しかったから」 「うん。そう、だな。ありがとう。あはは……何だか新鮮だなって。お前が部屋にいるの初めてじゃん」 パンプティの目尻が緩む。 「いいな、人が傍にいるのってさ。すげー嬉し」 「パンプティさんなら友達も多いし、すぐに看病してくれる人が」 「友達は多いけど、アタシはフェイカーとたまにはこうして過ごしたいと思ってた」 リトルは驚いた顔をしてパンプティを見つめる。 「本当はさ。寂しかったんだ。気づくと相棒は、独りでいたがるから……ズカズカ声かけるけど、嫌われたくはなかった」 絞り出す告白に、リトルは眼をぱちぱち瞬かせる。 黙っていると、パンプティが少しだけ恨めし気に睨んでくる。 「何か、言ってくれよ」 「だって、驚いたから……君は友人が多いから、僕なんて、君に迷惑をかけまいと……君と違い自分に誇れるものがないと思ってました」 リトルの告白にパンプティは顔を歪ませる。 「なんだよ、それ。そんなこと……誇れるとか、そういうの……アタシ、知ってるよ? アタシの為に陰陽師になったこと。得意なの、違ったんだろ?」 リトルは息を飲んで、沈黙する。 「努力家だって、知ってる」 「偽装屋ですから」 一呼吸おいて、リトルは言い返す。どんなモノも、本物にする。偽物も、弱いものも、必ず主人公にしてみせる。 「けど、僕もまだまだですね。こんなにも簡単にばれちゃうなんて」 「ばれるさ。だってアタシの主人公はフェイカーだ」 「パンプティさん」 目の奥が熱くて、俯いたリトルは鼻をすするとすぐに顔をあげて、笑ってみせる。 「もう少し此処に居てもいいですか? せめて、雨が止むまでは」 「ああ、勿論さ。話したいこと、沢山あるんだ」 パンプティの手が伸びるのに、リトルは、その手を握り返す。 ● 霧亜・クラレットとヴェルナー・シュノールには共通の趣味がある――アクセサリー収集だ。 今回はもらったチラシを頼りに【レイン】にやってきた。 青色のドアをくぐると、傘や合羽といった雨具に、奥のカウンターにはアクサセリーが並んでいた。 「……キリ。これ可愛いよね?」 ヴェルナーが手に取ったアクセサリーは、淡い空色の石がはめこまれた指輪だ。光の角度のせいか、透明な色に見える。 霧亜は眼を瞬かせたあと、 「オレは、こっちが好きだなぁ」 青い石が円となって両端をシルバーが囲むデザインの指輪は、どこからでも青を楽しむことが出来る。 「やっぱり?」 「なにさ、やっぱりって」 霧亜はきょとんとして言い返す。 「僕もね、これよりもキリが持ってる方が好きなんだ」 「へえ、そう、……いや! スズが可愛いよねって言ってきたんじゃん」 「うん。君と僕の趣味が本当に合ってるか気になってさ」 ヴェルナーは指輪を元の位置に戻して、霧亜が持つ、同じデザインの指輪を手に取って目を細めて眺めた。 「ええっ! オレを試したの……?」 驚いた顔の霧亜はヴェルナーを見る。 彼と初めて出会ったのは多くの候補がいるなかで、自分は誰とも合わず、独りぼっちで途方にくれたときだった。 そんななかで自分の手をとって笑いかけてくれたヴェルナー。話せばすぐに意気投合した彼はまだ知らないことは多いが、霧亜にとっては大切な人だ。 「趣味が違っていても、僕はキリを嫌いにならないよ」 ヴェルナーは霧亜を見つめたあと、出会ったときと同じように手をとってにこりと笑った。 (なに今の、超カッコイイんだけど……!) 霧亜は内心の胸の高鳴りを抑えて、慌ててヴェルナーから視線を逸らした。 「これ、買おうかな……!」 「あ、じゃあ僕のもお願い」 指輪を手渡された霧亜は、口元をほころばせて会計へと向かった。 ペアの青い指輪を購入し、サービスと言われて奥のカフェで紅茶をもらうと霧亜はそわそわとした気持ちになった。 (スズといるの、結構楽しいな。……そうだ! またオレと出かけてくれるか訊いてみようかなっ!) 「キリ、手を出して」 「え、うん?」 差し出した右手の人差し指に、先ほど買った指輪がはめられる。 「指輪はする場所に意味があるんだ、友情とか、勇気とか」 「……っ! よかったらスズのはオレがつけるよ」 右手を差し出すヴェルナーに霧亜は同じように人差し指に指輪をはめる。 「あのさ、また一緒にこうして出掛けたり、遊んだりしてくれる?」 勇気をもって一歩踏み出す。 ヴェルナーが嬉しそうに笑ってくれているのに、霧亜の胸にあたたかなぬくもりが広がった。 ● 名家らしい豪華な飾りと品のよい調度品。夜中の静寂に響くのは雨音。そのなかに血なまぐさい匂いが漂う。 恐怖に震える姉を守ろうとして、僕は 自分は無力すぎて。 いつもの夢、自分が死んだときの夢。 決して離さないようにと握りしめた手を姉はゆるゆると離す。 自分のかわりに血欲を求める獣の前へと リュシアン・アベールは息を飲んで、目覚めた。 不安げな姉の顔がじっと自分を見つめていた。 「シア……大丈夫? どうし、あ」 リュシアンの腕は伸びて、リュネット・アベールのほっそりとした肉体をぎゅっと抱きしめる。 小刻みに震えるその肉体を、リュネットは両腕で抱きしめると、頭を撫でる。 「大丈夫? 今日は、ちゃんと疲れをとるようにって、指令が出たんだ……どうしたの?」 優しい問いかけ。 「……姉さんが、死ぬ夢を見た」 小さな、雨音にも消えてしまいそうな声。 再び大きく震えるリュシアンは、腕に力をこめた。 彼女の存在、体温、鼓動を感じる。 どうして、姉さんはこんなにも強くいられるんだろう? 過去が分からなくて、恐ろしいのはきっと姉のほうだ。 そう思うのに過去を思い出してほしくないというのは自分のエゴだということをリュシアンは理解している。 「あのね、もしも……本当に、もしもだよ? 僕が、死んじゃう事があったなら……」 「そんなこと、いわないで」 「ごめん。けど、その時は、僕もアンデッドになる。シアが帰ってきてくれたみたいに。僕も、必ずシアのところに帰ってくる。誓ったもの。ずっと、ずっと一緒だって」 雨音。 静寂。 二人きり。 「……もう少し、眠っても大丈夫だよ」 やんわりと体をベッドに横たえて、二人は視線を交わす。 「手を、繋ぎたい……繋いで欲しい」 切実な声でリュシアンは告げる。 リュネットは黙って手を握り、指を一本一本絡めていく。決して離さないといいたげに。 自分よりもなにもかも優れた弟。守られるばかりで、申し訳ないとすら思っていた。 「ごめん……姉さん……愛してる」 すがるような視線を向けて、ゆっくりと瞼を落としていくリュシアンは罪悪感を抱えながら、ホットミルクみたいな姉の優しさに包まれて、今度こそ少しだけの安堵を覚えて眠ることが出来た。 「大丈夫だよ。うん、僕も愛してる」 リュネットは優しく声を返す。 雨音。 (……シアが苦しむのは嫌) 何もできない分、一緒に痛みを背負いたい。 ――死が僕らを別つまで、二人は一つと誓います スペルを、口のなかで声に出さずに呟いて、リュネットは弟の疲れた顔を見つめて、顔をほころばせる。 (けど、たまには……こんなに甘えてくるシアも、可愛いかも) ● ヴァン・グリムは雨が嫌いだ。アーカシャ・リリエンタールの部屋にきても、空から降る雨を恨めし気に睨むことに余念がない。 「雨が降ると鬱陶しくてかなわん。濡れるのは気持ち悪しな。だから今日はどこか行くとかだったら断るぞ?」 「私は嫌いではないよ。今日はヴァン君の意見を尊重しよう。折角の機会だからこの間の約束を果たそうか。「勉強を教える」というやつだよ」 「勉強をするって、あんたこの間のあれ本気だったのか。……わかった、教えてくれ」 アーカシャは部屋の本棚から本を吟味し、両手に抱えて、テーブルの前に礼儀正しく座っているヴァンのもとへと戻ってくる。 テーブルに置かれたのは絵がでかでかと描かれた――絵本だ。 「絵本って子供が読む本だろう。俺の事を馬鹿にしてるのか? まぁ、オレが子供でも読める本が読めない可能性もあるわけだが」 最後のところを真剣な顔で言うヴァンの素直さにアーカシャはふふっと笑った。 「馬鹿にしているわけではないさ。絵本や児童書は読みやすいし読むことができればモチベーションは上がるしね」 「そういうもんか」 「そういうものだよ。一緒に読みながら読めない文字や文章を探してみようか」 アーカシャが本を広げ、ヴァンは覗き込む。 彼女らしいセンスの良い絵本はイラストも美しいが、内容もまたユーモアに富んだものが多い。ヴァンが楽しめるように、と選んだだけのことはあった。 「この本はだいたい読める」 「次にいってみよう」 雨音が響くなかに、ページをめくる音と、二人の小さな声で紡ぐ物語が広がる。 「これはちょっとわからないのが多いな」 「ここらへんは少しまだ難しいようだね。だいたいこの辺りの本がヴァン君のレベルにあったものかな。だったら、少し待っていてくれ」 アーカシャが立ち上がり、本棚へと戻ると、一冊の少しばかり分厚い本を両手に持って戻ってきた。 「この冒険譚を読むといい。少し長いが面白い話だ。私も好きな本だから気にいってくれると嬉しいね」 「この本が? 長いし、分厚いな。しかし、あんたが好きな本? まぁ少し読んでみるよ」 本を受け取ると、ヴァンはゆっくりと本のページをめくる。それを見てアーカシャは邪魔にならいないようにと紅茶をいれ、自分も以前から読みたいと思っていた本を手にとると、ヴァンの横に腰かけて読み始めた。 ページをめくる音。 雨音。 ときどき疲れた体を伸ばしたり、紅茶をすすって。 「ん、こんな時間だよ。ヴァン君」 時計を見ればすでに夕飯前になりはじめている。 「もうそんな時間か。まだ全部読めてないんだが……子供っぽい話だが確かに面白いな」 少しばかり照れたように笑うヴァンに、アーカシャも満足げに頷く。 「あー、今日は付き合ってくれてありがとよ。また機会があったら教えてくれ」 「よかったら、その本はプレゼントしよう。幸い、私は二冊持っているから、ヴァン君が楽しんでくれたら、私もうれしい」 「そうかよ。ありがとな。雨の日もいいもんだな」 ヴァンが嬉しそうに本をぎゅっと抱く。その姿にアーカシャも、まったくだ、と心の中で返した。 ● 「癒すとは具体的に何をすべきだろう」 リームス・カプセラは真面目な顔で、チラシを熱心に見つめるカロル・アンゼリカに問いかけた。 「癒す? 自分を? 存分に好きなことをすべきだわ! さあ出掛けましょう! レインコートを着ていきましょうね! 用意したらまたここで落ち合いましょう! 急いでね!」 カロルはリームスの止める暇だって与えず、飛び跳ねるように行ってしまう。その背中を見つめて、リームスは至極まじめに 「レインコート、あったか?」 「色がじみね」 「支給品ですから」 「もう!」 ぴちゃん。水を鳴らしてカロルは進む。 しとしと。憂鬱にも、楽しい音楽会。 道中だって耳を澄ましてカロルは楽しむ。その背を無表情に、決められた足幅でリームスは進む。 レインは青を主色とした落ち着いた雰囲気の店でカロルの心をくすぐった。 晴れとは違う、優しい音に満ちた世界を道すがら歩きながら堪能したカロルだが、むろん、それだけで満足はしていない。 「耳だけじゃなく目だって楽しみたいわ。店員さん、今日は素敵な傘を求めるの。まぁ、こちらね。ありがとう! 見て、青だけでもこんなにもあるわ」 青空の青、透明な青、涙のような青、喜びの青……ずらりと傘が並ぶ。 「……の瞳のような青」 「え?」 「いえ。僕の傘を選んでいるの?」 「いいえ。私の傘よ? でもね。リームスに似合う傘じゃないといけないの。先ほど見ていたのはこれね? きれいな青ね。これがいいわ! そうね、柄は、これにしましょう!」 水色地に鳥のシルエットが内側にプリントされた傘を手にとった。 「リームスも私に似合う傘を選んで頂戴」 (本当はあなたの好きな柄を、とお願いしたかったけど、彼はまだ自分の“好き”がわからないから) 自分の出した難題に真剣に悩むリームスを見て今は、それで十分とカロルは満足する。 「これはどうですか?」 ピンクと黒のアーガイルの傘。カロルの心をときめかすほどの素敵な色。 二本の傘を手にして会計をするカロルの背を見て二本も買うのかと疑問をぼんやりとリームスは考えていた。 カロルに手をひかれ、リームスは外へと出る。 その手にはカロルが買った青い傘。 カロルはリームスの選んだピンクと黒の傘を広げ、くるくるとまわす。 煙る視界に鮮やかなダンスを踊るように。 リームスは青い傘をさして、ゆっくりと歩き出す。その姿を見てカロルは幸福に満たされる。 耳に届くのも、目に映るのも、みんな素敵なものたち。 「とっても似合うわ! その傘を見たとき何かつぶやいていたけど、何と言ったの?」 「カロルの目の色に似た青だと」 カロルは眼をぱちぱちさせて、そのあと嬉しそうに微笑んだ。 二つの傘が並び、雨の中を進む。 これはカロルの傘だけど、とリームスはカロルの楽しそうな様子に口を紡ぐ。 チラシは書いてあった。 雨の日が楽しくなる、――そういうことか。と思いなおして。 ● 藤葉・宮野はアメジス・ローザを誘い、紅茶を飲むことにした。 今日は互いを癒すため、ゆっくりすることに専念すると決めた。 藤葉の部屋は淡い青や緑の家具が置かれ、ソファとベッドにはそれぞれ触り心地のよさそうなクッションが備え付けて、藤葉のおっとりしているが優しい雰囲気をよく表していた。 「いい部屋だね」 「ありがとうございます。アメジス兄様、お茶でいいですか?」 「あ、藤ちゃんの故郷のニホン茶? あれが飲みたいな」 アメジスの言葉に藤葉は嬉しそうに笑って頷いた。 「はい、用意しますね。……よかったらソファに座って待っていてください」 アメジスがソファに腰かけると、藤葉はキッチンに向う。 棚には硝子瓶に入った紅茶やニホンの茶葉が数種類置かれている。 一つを手にとり、蓋を開けると、そっと鼻先で葉の匂いを楽しみ、藤葉はあたたかい茶をいれる。渋みは出来るだけおさえたいので、少しだけ熱い湯を使って。 「どうぞ。やけどに気を付けてくださいね」 「うん」 二人はソファに並び、お茶を楽しむ。 アツアツのお茶にふぅと息を吹きかけて。 「あつ」 「大丈夫? 藤ちゃん」 「ええ」 「人のことばかり気にして自分のことを大切にしないとだめだよ」 「ふふ、そうですね」 アメジストが手を伸ばして頭をくしゃりと撫でる。 出会ったとき、心細さで泣きそうなとき支えてくれた。大きな手。自分を強くしてくれた手。恋に落ちた手。 相棒となれたとき、藤葉は一人で泣いてしまった。 今、大切な、心の中に秘めている気持ちを抱く相手は、目の前にいる。 「明日は晴れになるかな」 「また指令をがんばりましょう」 「藤ちゃんをどんなことからも守れるようにがんばらないと」 「……私は、アメジスお兄様がケガをしなくていいように、もっともっとがんばりたいです」 「ありがとう」 優しい声は自分の求めているものではないと藤葉は知っている。 出会ったとき世話やいてくれた。それは兄として。だから藤葉もお兄様と呼ぶ。けど、時間は残酷で、降りしきる雨がいずれは大きな湖へと変化するように。 (妹でもいいんです。こうしてお側に居られるなら) 藤葉は背筋を伸ばす。 その凛とした横顔を見つめて、アメジスは思う。 (大事なこの子の笑顔を何時までも守ってあげたい) 雨音のなか、二人は優しいお茶を楽しむ。それぞれの気持ちを抱えて。 ● 絆を深める為にも、お部屋でのお茶会をレイ・アクトリスが提案すると、エリィ・ブロッサムは眼を輝かせて、では自分の部屋にどうぞ! とレイの手を引っ張って案内してくれた。 教団員は笑って、 「がんばってね」 ドアを開け、その笑みと言葉の意味をレイは知る羽目となった。 「ようこそ、ここがワタシの城デス! レイさん、どうしまシタ?」 絶句するレイ。 広がるのは足の踏み場もない、ものがごっちゃごっちゃになっている部屋。 「……エリィ」 にこり。 「ひえ!」 レイの笑顔に威圧を感じてエリィは声を漏らす。 「とりあえず掃除しましょうか、レディ」 「そ、そうじですかー?」 「この部屋でどうやってお茶をするんですか」 「こう、ものを足とか手で端っこへと追いやってあいた空間で」 「掃除をしましょう、レディ」 笑顔。 「……ハイ」 レイはもくもくと手を動かすのをエリィはしょんぼりとした顔で見つめた。 「これ、どこに置きましょう」 「あちらへ」 「これ、おいときたいのですが」 「使うんですか?」 「……」 「捨てましょうね?」 繰り返される会話にだんだんとエリィの口数も減っていく。 (自分の部屋なのに、こんなに居づらいのは初めてデス! 『多少』散らかっていた自覚はありマスガ) エリィの多少は一般常識からけっこう、いや、かなりズレている。 (レイさんはもしや潔癖症だったのでショウカ? とにかくさっさと片づけてしまった方が得策なようデスネ) エリィがやる気になって手を動かす。 一方、レイは大変真剣であった。 (ずぼらな性格は薄々感じていましたが、ここまでとは……せめて脱いだ衣服は片づけなさい! 今後は寮母に許可を得て、定期的に来るべきか? いや、自ら率先してやるように仕向けないと根本的な解決には……) パジャマやシャツなどを畳みながらレイは親身にエリィの心配をしていた。 「床がみえマス!」 「それが普通なんですよ」 「も、もう……怒ってませんカ?」 思わず恐る恐る聞くエリィにレイは苦笑いした。真剣にあれこれとしていてついつい顔が怖くなっていたらしい。いや、先ほどまでの部屋に対しては誰だってそうなる。 「別に怒っていたわけではありませんよ。スコーンを焼いてきたので、改めてお茶会しましょうか」 「っ! とっておきの茶葉があるのデス! すぐにご用意しマス! はっ、そういえばティーカップは先日割ってしまったのデシタ! レイさーん、マグカップとビーカー、どっちがいいデスカ?」 「……どちらかしかないのですか?」 あ、また笑顔が怖いデス! とエリィは震える。 レイはため息をついた。 本当に「こいつ、なんとかしないと」と痛感する。 「今度、ティーカップ買いにいきましょうね? それまでスコーンはお預けしましょうか?」 「そ、そんなひどいデス!」 レイはあえてとってもとっても怖い笑顔でエリィに告げた。 明日にはティーカップを買う約束により、おいしいレイ特製スコーンにエリィはありついたのだ。 もちろん、紅茶はエリィがビーカー、レイがマグカップである。 ● リズ・クレアリーフはもらったチラシを見て、目をきらきらさせた。 雨の日のショップ、レインにぜひとも行ってみたい。 「行ってみる?」 ジェイド・ミニストが口にしてくれたのに、リズはこくんと頷いた。 ジェイドのことは性格的に合わないかもしれないが、仲良くはなりたいと思っている。今日はいいチャンスだ。 店のカウンターには色とりどりのアクセサリーがあったのに、リズは目を輝かせた。とくに目をひいたのは青い石がついたネックレスだ。 「気になるなら、着けてみたらどうかな?」 「えと……はい。ど、どうでしょう?」 「ふむ。かわいいね」 「あ、ありがとうございます」 「せっかくだし、プレゼントするよ」 驚くリズをよそに、ジェイドはリズの手をひいて会計へと向かっていく。 「花火大会のときも、楽しかったからそのお礼だよ」 お店からのサービスと言われて、カフェを楽しむことにした。奥にある白いテーブルに二人は腰かけて、小休憩をとる。 リズは真剣にメニューを見て悩んでいた。いちじくのケーキと桃のケーキ、どっちも捨てがたい。 「迷ってるのかい?」 「あ、はい」 待たせてしまっただろうかとリズは慌てると、ジェイドはにっと唇を吊り上げて笑った。 「ふむ。両方頼んで、二人で分けるというのはどうかな?」 「いいんですか? じゃあ、そうします!」 すばらしい名案にリズは飛びついた。目の前のジェイドの笑みの深い意味にも気が付かずに。 ふわふわの生地にクリームのついたおいしそうなケーキが二つ。あたたかな紅茶とともにやってきたのにリズはさっそくフォークを手にとる。 「じゃあ、どっちも二つに分けますね」 「待った」 「はい?」 「ここはリズが食べさせてくれるべきじゃないかな? 二人で分けることにしたんだから」 「食べさせて、って……?」 意味がわからなくてきょとんとするリズにジェイドは口を開けて、指でここへとちょうだいと示してきた。 (え、そういうこと!?) 「……うう、分かりました……」 真っ赤になってジェイドの口のなかに切り分けた一口サイズのケーキを。 ぱくり、とおいしそうに食べるジェイドを見てリズはますます照れた。 「とっても甘くておいしいよ。ほら、リズの分は俺があーんとしてあげる」 「え、ええ!」 「二人で分けるんだから」 リズはゆでだこ状態で、ケーキとジェイドの誘惑に負けて口を開けてしまった。 ぱくり。 「おいしい?」 心臓の高鳴りでそれどころではないリズは真っ赤になってこくんこくんと高速で何度も頷く姿をジェイドは楽しそうに見つめた。 「本当にリズは見ていて飽きないね」
|
||||||||
*** 活躍者 *** |
|
|
|||
該当者なし |
| ||
[8] リズ・クレアリーフ 2018/06/21-00:27
| ||
[7] アーカシャ・リリエンタール 2018/06/19-05:21
| ||
[6] リームス・カプセラ 2018/06/16-20:53
| ||
[5] 霧亜・クラレット 2018/06/15-17:03
| ||
[4] エリィ・ブロッサム 2018/06/15-15:06
| ||
[3] 藤葉・宮野 2018/06/15-09:58
| ||
[2] リトル・フェイカー 2018/06/14-23:22
|