~ プロローグ ~ |
幼い頃のサニスは、毎日が楽しくて仕方がなかった。
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~ 解説 ~ |
●目的
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~ ゲームマスターより ~ |
こんにちは、留菜マナです。 |
◇◆◇ アクションプラン ◇◆◇ |
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◆繰り返す一日 わたしのお父様が健在だった頃 お父様の誕生日を祝うために、生まれて初めて料理を作った ロウハに教わりながら頑張ったけど、最後にミスをして失敗 それでもお父様は喜んでくれて、嬉しかった …それが最後にお父様におめでとうを言った日で、三人で最後に食事をした日だった 砂糖と塩、二つの調味料の瓶 前は右の瓶を選んで失敗した だから今度は左を選ぶ ロウハも「いい感じだな」って言ってくれた お父様、きっともっと喜んでくれるわね…! ◆スイーツ シュリ:D とても悩んだ末に決定 だってどれも美味しそうなんだもの ペンギンさんかわいい…わたしにも作れるかしら? ロウハ:B 魚料理好きだから即決 いやー、お嬢には10年早いだろ |
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■特別な一日 浄化師の契約をした日 本当に同じだと何度も驚きつつ契約が終わり 何気なく過去と同じ発言をするナツキ ナツキ:これからよろしくな、相棒! 以前のルーノはこちらこそ、と当たり障りなく返すだけだったが ふと思いつき、以前と違う言葉を選んでみる ルーノ:ああ。よろしく頼むよ、『相棒』 ナツキ:おう!…え。おま、今っ! ナツキは初めて相棒と言われて動揺 ルーノは「前と違う事を、と言われたからね」と悪戯っぽく笑う ■スイーツ 2人ともA ナツキ:美味いなぁ、通いたいくらいだぜ! ルーノ:それは良い、次は別のメニューも試してみたいね 店とケーキを誉め皆に広めたいと勝手に宣伝方法を考え始めるナツキに ルーノも苦笑しつつ付き合う |
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■目的 仕事済ませてお店繁盛? ■過去(ロス視点 「ロスー!行ったよー! 転がってくるボール ティは4歳ぐらいだっただろうか 「わんわんっ 転がってくるボールの上に乗り ティへと転がす 俺も幼かった この頃はティの両親もいて 俺はこのまま飼われる一生と思ってたけど 「よ、ティ 初めましてロスの人間姿な 人間形態になった俺をティは目を見開いて大泣きした …まぁ可愛がってた犬がいきなり人間になればな ぽりぽりと頬をかきながら泣くティを見下ろした ■祓魔人B、喰人C 「ほのぼのした一日が…怖いお兄さんに見下ろされてました 「俺も子供だったんだけど…ティ? 「皆さんはどんな過去がどうなりました? 「ティ、そこで俺をスルー!? サニス達の話も聞く |
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■目的 サニスのスイーツショップの怪奇現象を止める。 ■行動 店に入った時、特に「想い」の強そうな箇所や物の有無確認。 行動に出るのは、サニスとノアがお別れを済ませてから。 再体験は、二人が最初に出会った浄化師の適合診断。 当時は薙鎖がモニカに引き寄せられ、勢い余って手を繋いだまま押し倒した。 今回は開始と同時にモニカ吶喊、タックルの要領で薙鎖を抱きかかえ転がり、マウント取って手を繋ぎ合わせ合格。 係員怒髪天。当時の3倍怒られる。 スイーツは薙鎖B/モニカD 隙あらば自分の分もあーんさせて薙鎖に食べさせようとするモニカ。 自分ばかりが食べるのは気が引けるので、自分の分をあげようとする薙鎖。 最終的にはちょうど半々に。 |
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シチュ3話アナザー リボンは結わかれたまま会話を変える 前より気まずい 目線を足元に向けたままヨナがぽつりと話し出す …あの。この間はちょっと大人げが無かったです すみません 一応、言っておこうかなと ふはっと息を吐くように笑うベルトルド ヨナも殊勝な所もあるんだな 安心した 仕事に差し支えても困りますし そこは正直にいわなくていいんだが 私生活の事聞くのがまずかったか? 私生活というか…まあそうですね 仕事とプライベートは分けて考えたいです 今までそれで上手くやっていたのに急に探るような事言われたので、少し驚きました そうか。では無神経な発言をしていたんだな。すまん いえ。でもどういう心境の変化です? |
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~ リザルトノベル ~ |
●微睡みの楽園 お店を出た瞬間、広がったその光景に、シュリ・スチュアートは大きく目を見開いた。 彼女の父親、ユベールが所有する庵。 その調理場に、シュリはエプロン姿で立っていた。 「ロウハ、ここってお父様の……」 「ああ、驚きだな」 戸惑うシュリと同様に、ロウハ・カデッサは感慨深げに周りを見渡しながらつぶやいた。 (わたしのお父様が健在だった頃、お父様の誕生日を祝うために、生まれて初めて料理を作った。ロウハに教わりながら頑張ったけど、最後にミスをして失敗した。それでもお父様は喜んでくれて、嬉しかった。それが最後にお父様におめでとうを言った日で、三人で最後に食事をした日だった) 「お嬢、あの時と同じ料理を作るか」 「そうね」 シュリが感傷に浸っていると、ロウハは腕まくりをして料理の準備に取りかかった。 ロウハの指示どおり、シュリは前と同じ料理を作っていく。 そして、最後の難関である調味料に差し掛かる。 シュリが視線を向けた先には、二つの瓶があった。 砂糖、塩、二つの調味料の瓶。 「前は右の瓶を選んで失敗した。だから、今度は左を選ぶわ」 シュリは左の瓶を開けると適量を入れる。 「いい感じだな」 「お父様、きっともっと喜んでくれるわね……!」 試食をしたロウハの言葉に、シュリはぱあっと顔を輝かせた。 「――お父様っ」 シュリとロウハが向かったその先には、今は亡きユベールの姿があった。 今にも抱きつきたい衝動を押さえながら、シュリは料理を差し出す。 「お父様、お誕生日おめでとう。ロウハに教えてもらいながらだけど、初めて料理を作ってみたの」 「そうか」 ユベールが料理を口に運ぶ姿を、シュリはまるで祈るように見つめる。 「美味しいな」 「お父様、ありがとう」 ユベールはそう告げると、シュリの頭を穏やかな表情で優しく撫でてやった。 前と変わらないユベールからの賞賛。 だが、彼の口調とわずかに覗いた彼の表情が、それがユベールの純然たる本音であることを物語っていた。 シュリはロウハとともに席につくと、三人であの日と変わらない会話をする。 そして、三人で最後に食事をした日は、あっという間に過ぎ去っていた。 お店の前に戻った後、シュリはほっとしたように胸を撫で下ろした。 「あの日のこと、幸せな思い出だけど……少し心残りだったから、やり直すことができて、よかった」 そう言葉をこぼすと、シュリは滲んだ涙を必死に堪える。 「ずっと同じ日は続かない……。つらくても乗り越えねーとな」 「――っ」 確信を持ってその結末を受け入れているロウハの静かな声が、受け入れがたい事実を突きつけてくる。 「お嬢、泣くの我慢したな。偉い偉い」 「……もう子供扱いしないで」 ロウハに頭を撫でられて、シュリは少し照れくさそうに笑みをこぼしたのだった。 ●ありのままの言葉を 「すっげーなぁ!」 周囲を見渡しながら、ナツキ・ヤクトは歓声を上げた。 薔薇十字教団のエントランスホール。 先程まで確かにお店にいたはずなのに、突如、教団まで移動をしてしまったような状況下に、ナツキは驚きを隠せなかった。 「まるで、教団に戻ってきたみたいだ。おっ、あいつ、見覚えがあるな! 確か、前に俺達を案内してくれた係員だぜ!」 「子供か、君は。でも、確かに驚きだ」 興奮冷めやらぬナツキに応えるように、ルーノ・クロードは感嘆の吐息を漏らす。 ナツキが告げたとおりの係員に案内されて、二人は以前と同じ結果の適合診断を受ける。 祓魔人と判明した際、家族を危険に曝さない為にと、家を半ば追い出されて、遠縁の親族の元で育ったルーノ。 生まれて間もなく、親を失い、家族同然に過ごした孤児達が、ヨハネの使徒によって犠牲になった事をきっかけに浄化師の道へと進むことになったナツキ。 この日は――、今まで関わりなく生きてきた二人が、浄化師としての関係を結んだ特別な一日。 本当に前と同じだとナツキが何度も驚きつつも、二人の契約は終わった。 ナツキは何気なく、過去と同じ発言をした。 「これからよろしくな、相棒」 「ああ――」 こちらこそ、とルーノは当たり障りなく返そうとしたが、ふと思いつき、以前とは違う言葉を選んでみる。 「よろしく頼むよ、『相棒』」 「おう! ……え。おま、今っ!」 そこで、ナツキはルーノの台詞の不可思議な部分に気づき、ルーノをまじまじと見た。 「前と違う事を、と言われたからね」 ナツキの驚愕に、ルーノは悪戯っぽく笑う。 「おおっーー」 ナツキは初めて、ルーノから相棒と呼ばれて心底動揺していた。 (少しは頼りにしてもらえてる? いや、ただの気まぐれかも……) ナツキの思考は堂々巡りで、一向に一つの意見にまとまってくれなかった。 しかし、嬉しさのあまり、尾がひっそり揺れてしまう。 「まあ、それなりに、ってことかな」 動揺するナツキをよそに、ルーノは気恥ずかしそうに冗談めかしてごまかした。 ナツキを認め始めているからこそ、出た言葉だったのだが、ルーノ自身はそのことには気づかなかった。 「なあ、相棒。せっかくだし、教団内を見て回らないか?」 「君はあえて、『相棒』を強調するんだね」 ナツキの誘いに、ルーノは自嘲するように笑うと遠くへと視線を向ける。 ただ、私達の関係も少しは変わってきたのかもしれないね、とルーノは無意識にそう思い始めていた。 ●笑顔になれる魔法 それは良く晴れた、穏やかな日だった。 狼姿のロス・レッグは、幼いシンティラ・ウェルシコロルと一緒にボール遊びをしていた。 「ロスー、行ったよー!」 ころころと転がってくるボール。 (ティは4歳ぐらいだっただろうか) シンティラが手を振っているのを見て、ロスは懐かしそうに空を見上げた。 「わんわんっ」 ロスは転がってくるボールの上に乗り、シンティラへと転がす。 (俺も幼かった。この頃はティの両親もいて、俺はこのまま飼われる一生と思ってたけど ) ロスは再び、戻ってきた過去の日々に想いを馳せる。 シンティラがボールを拾い終えると、ロスは見計らったようにトランスを解いた。 「よ、ティ。初めまして、ロスの人間姿な」 「……ロ、ロスが!」 人間形態になったロスを見て、シンティラは目を見開いた後、大声で泣き出してしまった。 ロスはただ、シンティラを驚かせようとしただけだった。 だが、ロスが予想していた以上に、シンティラの驚きは大きかったようだ。 (まぁ、可愛がってた犬がいきなり人間になればな) ロスはぽりぽりと頬をかきながら、泣きじゃくるシンティラを見下ろした。 お店に戻った後、シンティラが浮かない顔をして告げた。 「ほのぼのした一日が……怖いお兄さんに見下ろされていました」 「俺も子供だったんだけど……ティ?」 シンティラの言葉に、ロスは焦ったように付け加える。 「皆さんはどんな過去がどうなりました?」 「ティ、そこで俺をスルー!?」 ロスの叫びを無視して、シンティラは落ち込んでいるサニス達に話しかけた。 「サニスさん達はどうなりました?」 「私達は、お父さんとお母さんにお別れをしてきました」 「うわああああんっ!」 その受け入れがたい事実を前に、ロスは両拳を強く握りしめて露骨に眉をひそめる。 嘆き悲しむサニス達を助けたくて、ロスは咄嗟にこう言った。 「サニス、ノア。いくら幸せでも進歩ねぇかったら、生きてるっつー実感が湧かねぇ……」 「ロスさん、ノアさんは――」 「あー」 (そういえば、妹は幽霊だった!) シンティラの指摘に、ロスはようやくその事実に気づく。 「ロスさん、ありがとうございます」 「ううっ……」 ロスの言葉を受けて、サニスは顔を上げると嬉しそうに笑みを浮かべる。 だが、ノアはまだ、泣き続けていた。 ほんわかな雰囲気から一転、張りつめたような静寂に空間が支配される。 だが、その重苦しい沈黙を押し返したのは、やはり彼だった。 「わんわんっ!」 再び、狼姿になったロスが、ノアの前で犬の真似をし始めたのだ。 「わんわんさんだー!」 (本当は狼だけどな) そう思いながらも必死に吠えるロスを見て、ノアは嬉しそうに笑った。 シンティラがロスを抱き上げると、ロスは愉快そうに笑った。 「やっぱー、こう、進歩あると、生きてるっつー実感が湧くよなー」 「そうですね」 ロスが勇気づけるようにそう言うと、シンティラは優しげな笑みを浮かべて頷いてみせた。 ●ワタシの見たい景色まで 浄化師の適合診断。 祓魔人と喰人がパートナーとして適合者なのか、非適合者なのかをテストする診断だ。 薙鎖・ラスカリスは、パートナーであるモニカ・モニモニカと向かい合って立っていた。 「あの時の再現ですね……」 独り言のようにつぶやいた薙鎖は、改めて周囲を見渡す。 紆余曲折の末、薙鎖は浄化師を目指すも、度重なる適合診断落ちが続いた。 『非適合者』。 その当たり前のように告げられた事実はただ、パートナーが見つからなかったということよりも、薙鎖にショックを与えた。 過去の適合診断では、薙鎖がモニカに引き寄せられ、勢い余って手を繋いだまま、押し倒される形となった結果、文句なしの合格になった。 (もう一度、診断があったとして、モニカさんは再度、受け入れてくれるのでしょうか?) 薙鎖の顔には、はっきりと不安と絶望の色が浮かんでいた。 「ううっ……」 そんな薙鎖を見て、モニカは妙に感情を込めて唸る。 薙鎖にとって苦い思い出がある適合診断の一日が再現されたのは、適合診断に落ち続けていた当時の薙鎖の姿がどストライクだったモニカの影響があった。 「ナギサーー!!」 適合診断開始と同時に、もはや我慢できなくなったモニカは声を大きく張り上げた。 「モニカさん――っ」 モニカの吶喊に、薙鎖は驚きを口にしようとした。 しかし、それを告げる暇も与えないまま、モニカはタックルの要領で薙鎖を抱きかかえて転がる。 そして、フィニッシュとばかりに、マウントを取って手を繋き合わせたまま、係員から合格の言葉を待った。 掠り傷一つ負わず、痛みもない状況に、薙鎖は目を見張る。 「て、適合です」 戸惑いの表情を浮かべる係員から、すぐに合格が言い渡された。 「ナギサ、やったねー」 まっすぐ視線を合わせてくるその眼差しに、薙鎖はどきっとした。 モニカの大きな深緑の瞳は真剣な色を宿している。 思えば、初めて契約をした日から、モニカはずっと真剣な顔をしていた。 天真爛漫な笑顔の多い彼女のそんな顔は、妙に鮮やかな印象を残す。 「モニカさん。その、そろそろ起き上がらないと」 「もう、ちょっとだけ」 モニカとのあまりの至近距離に、薙鎖は顔を赤らめたまま、身動きが取れなくなってしまう。 モニカの顔は、まるで太陽のような喜びに満ちていた。 希望を溢れさせるその顔を見て、薙鎖はどこか愛しさを感じてしまう。 「薙鎖・ラスカリスさん、モニカ・モニモニカさん、よろしいでしょうか?」 「ひぃ……」 唐突に聞こえてきた声に、モニカがびくりと肩を震わせる。 そこには、激しい怒りの表情を浮かべた係員が二人を見下ろしていた。 「ナギサは、ワタシが守るから!」 もはや驚きも枯れかけてきた薙鎖を守るように、モニカが係員の前に立ち塞がった。 そして、二人は係員に当時の三倍、説教を食らってしまったのだった。 ●結んだ願いの数だけ 教団員に、手首を赤いリボンで結ばれてしまった複数の浄化師達。 その一組であるヨナ・ミューエとベルトルド・レーヴェは、前よりも気まずい雰囲気に包まれていた。 (あの時と同じ状況ではあるが……) 前は、暖かくなってきたし、観光でも行きたいものだ、と告げて、ベルトルドはヨナを怒らせてしまった。 さらに追い討ちをかけるように、ベルトルドはキャンドル屋でヨナの怒りを買う行動をしてしまっている。 (前より、気まずいな) 話しかける言葉の方向性が掴めなくて、ベルトルドは困惑する。 そんな中、目線を足元に向けたまま、ヨナがぽつりと話し出した。 「……あの。この間はちょっと大人げが無かったです。すみません。一応、言っておこうかと」 全身から力が抜ける音がした。 ヨナの謝罪に、ベルトルドはふはっと息を吐くように笑う。 「ヨナも殊勝なところがあるんだな。安心した」 「仕事に差し支えても困りますし」 「そこは正直に言わなくてもいいんだが、私生活の事、聞くのがまずかったか?」 ベルトルドの疑問に、ヨナは視線をそらして言う。 「私生活というか……まあ、そうですね。仕事とプライベートは分けて考えたいです。今までそれで上手くやってきたのに急に探るような事言われたので、少し驚きました」 「そうか。では、無神経な発言をしていたんだな。すまん」 ベルトルドはそこまで告げると、視線を床に落としながら謝罪の意を伝える。 ヨナは視線を泳がせた後、不思議そうに問いかけた。 「いえ。でも、どういう心境の変化です?」 「あー。俺は物心ついた頃には、親が居なかったものでな。相棒の家族はどうなのか、ちょっとした興味本意だった。他意はない」 「すみません」 ベルトルドに相次いで、ヨナも粛々と頭を下げる。 あくまでも彼女らしい反応に、ベルトルドはほっとしたように安堵の息を吐く。 「いやなに、お互い様だ。さて、そろそろ小腹が空いてこないか? そういえば、以前はメシも食わせてもらえなかったな」 ベルトルドはそう言うと苦笑いする。 いつの間にか、二人の周りの景色は白く塗りつぶされようとしていた。 「違う言動を繰り返した結果か、この現象も収まりかけているな。戻るには、いい頃合いだろう」 「はい」 疑問はすべて提示したと言わんばかりのベルトルドに、ヨナはこくりと頷いた。 二人の手首に結ばれていた、赤いリボンがほどかれる。 それと同時に、靄がかかったように、二人の視界が白く塗りつぶされていった。 ●スイーツパーティーとお店の宣伝 「みんなで、スイーツパーティーしようー!」 ノアにそう打ち明けられたのは、お店で発生していた現象が止まった後、体験した出来事についてロス達が話している時だった。 ノアが晴れやかな声で告げるのを聞いて、ナツキは不思議そうに首を傾げてみせる。 「おっ、ノア。もっと落ち込んでいるのかと思ったけど、意外と元気そうだな」 「ロスさんが、サニスさんとノアさんを励ましたんです」 「そうなんですね」 シンティラの説明に、シュリは嬉しそうに笑みを浮かべた。 ロウハはこじんまりとした店内を見て、怪訝そうにする。 「で、そのスイーツパーティーっていうのは、どこでやるんだ?」 「テラス席!」 「そんなもんがあったのかー!」 ノアの言葉に、ロスは意外そうな声で言った。 実際、意外だったし、全く予期していないことだった。 「ナギサは、何が食べたい?」 「いえ、それはどんなものがあるのか、見てからでないと」 「あっ、そうか」 薙鎖の指摘に、モニカはどうやって薙鎖を甘やかせるかを考え始める。 「まあ、なんだ。小腹も空いたし、俺達も行くか」 「そうですね」 先行するノア達に導かれて、ベルトルドとヨナはテラス席へと向かった。 幻想的な運河が、どこまでも遠く広がっていた。 ヴェネリアの運河が見渡せるテラス席。 テラスの席の中央に置かれた円テーブルに、ロス達は集まっていた。 大きなお皿には、それぞれ四種類のスイーツが並べてある。 人数分のティーカップと、いろいろな種類の飲み物が入ったポットも置かれていた。 「ふはは、意外とカナッペ人気あったな! マジうめぇ!」 「魚料理好きだから、即決だ」 カナッペを選んだロスとロウハが、楽しそうに談笑した。 だが、テーブルの上のスイーツを見て、シュリは物憂げに嘆息する。 「やっぱり、ここは定番のイチゴ……でも、チーズケーキも捨てがたいし、ペンギンさんもかわいい……」 とても悩んだ末に、シュリはペンギンパフェを手に取った。 「お嬢、決まったんだな」 「ええ。だって、どれも美味しそうなんだもの。ペンギンさん、かわいい……。わたしにも作れるかしら?」 「いやー、お嬢には10年早いだろ」 「そんなことないわ」 ロウハの即座の切り返しに、シュリは不満そうに席に着いた。 ペンギンパフェにうっとりするシュリの隣で、ナツキとルーノがイチゴケーキを口に運ぶ。 「美味しいなぁ。通いたいくらいだぜ!」 「それは良い。次は別のメニューも試してみたいね」 「甘いものは幸せ感じますよね」 ナツキとルーノの言葉に、チーズケーキを選んだシンティラがぱあっと顔を輝かせた。 「薙鎖、付き添いかー。スイーツ、食わねぇの?」 「いえ、食べてはいますが」 ロスの指摘に、薙鎖はカナッペが置かれている小皿を見つめる。 「ナギサ、あーん!」 モニカはペンギンパフェのアイスをスプーンですくうと、薙鎖に差し出してきた。 モニカの懇願に、薙鎖は少しばつが悪そうにカナッペを切り分ける。 「モニカさん。僕ばかりが食べるのは気が引けるので、僕の分もあげます」 「ナギサ、偉い偉い!」 「ちょっと、今は……」 全力で褒め称えるように、モニカは薙鎖の頭を撫でた。 チーズケーキを食べるヨナを見て、シンティラはおずおずと声をかけた。 「ヨナさん、大丈夫ですか?」 「はい」 「……心配かけた。先程の現象で、ヨナと話すことができてな」 シンティラの思いを読み取ったように、ヨナが頷き、ベルトルドはそう答える。 「いいお店だね」 「ああ。客がいないのがもったいねぇよな」 ルーノのつぶやきに、ナツキは不満そうに店内を見渡す。 「うーし、このお店、宣伝しようぜー! 宣伝用のチラシを作って、看板も立て看板にした方がいいよなー」 「このお店、すごく素敵だから繁盛してほしいわ。宣伝用のチラシ、わたし達も作るわ」 どこまでも熱く語るロスを見て、シュリは穏やかに微笑んだ。 「それと、お店にこれを置いてみない?」 「これは?」 シュリは、一冊のノートをサニスに差し出す。 「お客さんにお店の感想を書いてもらうの。もちろん、わたし達も書くわ」 「――っ」 シュリの言葉に、サニスが断ち切れそうな声でつぶやく。 そんなサニスに、シュリは屈託なく笑うと意味ありげに続けた。 「最初のページには、ご両親やノアさんの言葉をサニスさんが記すのはどうかしら。……いつまでも、ご家族の心はこのお店と共にあるわ」 「……シュリさん、ありがとうございます」 そう言葉をこぼすと、サニスは滲んだ涙を必死に堪える。堪えた涙は限界を越えそうになっていた。 「じゃあ、めいっぱい宣伝しようぜ! よーし、まずは教団に広めてだな!」 「店が浄化師だらけになるな」 ナツキの提案に、ルーノは苦笑する。 「……みなさん、ありがとうございます」 次々と出てくるアイデアに、サニスは花が綻ぶように無垢な笑顔を浮かべた。 「みなさん、少しよろしいでしょうか?」 薙鎖は、街に宣伝しに行こうとしたロス達を呼び止めた。 「サニスさん達の店に入った時に、少し異質な反応を感じました」 「魔術道具ですね?」 感情のこもった薙鎖の言葉に、魔力探知で感じ取っていたヨナはわずかに目を細める。 しかし、サニス達の店にある魔術道具は、一般的に普及されている魔術道具だったため、特に気に止めていなかった。 「はい。氷を作り出す多目的発氷符に、ノアさんの強い想いを感じました。サニスさんにお話を伺ってみたところ、生前のノアさんは、この多目的発氷符で氷を発生させているところを見るのが好きだったそうです」 ベルトルドは、ヨナの目が薙鎖の説明にほんの少し逡巡するのを読み取った。 一般的に普及されているはずの多目的発氷符によって、今回の現象が発生した。 サニス達にとって思い出があるものかもしれないが、普通ではあり得ない現象だ。 そのことが気になっているのかもしれないな、とベルトルドは思った。 「僕達は、サニスさん達のご家族の写真の飾りつけなどをしながら、他にも同じような魔術道具がないか探してみます。後で、教団に全て回収してもらうつもりです」 「なら、俺達も行こう」 「そうですね」 ふっと息を抜いたベルトルドを見て、ヨナはなんのてらいもなく言った。 「ナギサ。ひまわり、ここに植えようか?」 「そうですね」 サニス達からお店に纏わる話を聞いた薙鎖達は、家族の思い出の花であるひまわりを店の周りに植えたり、家族の写真をさりげなくカウンターに飾った。 ロス達は宣伝のチラシを渡しながら、サニス達の店で同じ一日を体験した人達に話を聞いたりしていた。 「亡くなった夫とこの子と一緒に、ベレニーチェ海岸で海を見ていました」 「いい話ですね。もう一度、体験できるといいですね」 二度と体験は出来なくとも、新たに店で良い思い出を作ってくれることを、シンティラは心から願った。 「タッチ!」 「まだ、早くないか?」 「ベルトルドさんが鬼になりましたね」 ノアに捕まったベルトルドの訴えに、ヨナは淡々と表情一つ変えずに言う。 苦虫を噛み潰したような顔でしぶしぶ応じるベルトルドに、ノアはきょとんとしてから弾けるように手を合わせて笑った。 「何をしているのかな?」 「お店の飾りつけなどをした後、ノアと一緒に鬼ごっこをしていたんだよ」 ルーノの疑問に、モニカが楽しそうに答える。 「ふははは!! 鬼ごっこだ、鬼ごっこだ、鬼ごっこーー!!」 「鬼ごっこ、俺達も参加するぜ!」 「いいな!」 一拍遅れて爆発するロスとナツキのリアクションに、シュリと一緒にノートにお店の感想を書いていたロウハが参戦する。 「ワタシが、ナギサを鬼から守ってあげるからね!」 「ちょっと、モニカさん!」 モニカは、薙鎖を守るために抱きかかえた。 そんな彼らの様子を、サニスは穏やかな表情で見守っていた。 もうお店から出ても、同じ一日が繰り返されることはない。 今でも、両親のことを想うと泣きたくなる。 だけど、その何倍もの思い出が私達にはある。 繰り返す一日、だけど、そこに、もう私はいない。 大好きな家族に。 自分達を助けてくれた浄化師の人達に。 このお店が、永遠に輝く光となれますように――。
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*** 活躍者 *** |
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[12] シュリ・スチュアート 2018/06/19-00:22
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[11] シンティラ・ウェルシコロル 2018/06/18-21:38 | ||
[10] ルーノ・クロード 2018/06/18-21:22
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[9] ベルトルド・レーヴェ 2018/06/18-00:29
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[8] ロウハ・カデッサ 2018/06/17-03:31 | ||
[7] 薙鎖・ラスカリス 2018/06/17-00:48
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[6] ナツキ・ヤクト 2018/06/17-00:30
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[5] シンティラ・ウェルシコロル 2018/06/16-16:56
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[4] ナツキ・ヤクト 2018/06/16-00:55
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[3] ロス・レッグ 2018/06/15-23:43 | ||
[2] ナツキ・ヤクト 2018/06/15-00:58
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