~ プロローグ ~ |
教皇国家アークソサエティの首都、エルドラド――まであと少し、というところ。 |
~ 解説 ~ |
指令の帰り道、雨に降られてガゼボに避難しました。 |

~ ゲームマスターより ~ |
はじめまして、あいきとうかと申します。 |

◇◆◇ アクションプラン ◇◆◇ |
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ちくしょー降られた! けっこーびっしょびしょになったな(コート脱ぎつつ) ってなんでルドだけ濡れてないの!? エスパーなの!? あっなんだ。ってついでみたいに俺の悪口言うのやめて ったく、しょうがねぇな やむまで待つか …お、おうサンキュー (暇なので) ルドって見た目若いけどいくつなんだ? へー48歳かーけっこういってるな……48!? そ、おま、あ、エレメンツ。あ、はい ……この間の指令でさ ルドの過去のことちょっと聞いた お、怒るなよ。聞こうと思って聞いたんじゃねぇよ そのことについて嫌ならなんも言わないし、ルドが嫌なら触れない 本当だよ 俺の秘密や言いたくないこと教えたいけど、何にもないんだ ほんとに悪かった。ごめん |
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◆雨宿り ・梅雨の時期に備えて傘も雨具も持ち歩いていなかった ・唯月は制服の上に羽織っていた緑の羽織を脱ぎつつ 持っていたハンカチで雨で濡れた瞬の顔を無意識に拭く 唯(もう6月だと言うのに折り畳み傘の準備を忘れてしまうなんて… おかげで少し濡れてしまいました…ガゼボがあって良かっ)「っくしゅん!」 瞬「大丈夫?」 唯「あ、はい…すみません…」 (はぁ…お気に入りの緑の羽織りがずぶ濡れで冷たい… 早く脱がないと風邪ひきます…よね) 瞬「…何か羽織るものがあれば良かったねー」 唯「突然ですから仕方ないですよ…ほら、瞬さんも濡れてますよ?」 瞬「…え?」 唯「え?…ッハ!!す、すみませ…!!」 瞬「なんでー?ふふ、ありがとー」 |
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◆トウマル 暇。 気にする程濡れてねぇし、軽く頭振って終わり。 雨具はない。 この雨の中歩く酔狂さの持ち合わせもない。 暇。 ガゼボ内をうろうろして、アジサイ見て、 後は――必然、グラに視線が行く。 つっても話すことないしなア とグラ見てたら……「なあ。結構濡れてねぇか?」 髪は湿ってる程度だと思うんだが やたら大きな種族特徴がですね。 あ、だから服はあんまり濡れてないのか 「グラ。良い提案がある。ここにハンカチがある」 許可貰ってグラの翼やら尾やら軽くハンカチで拭ってく。 痛みやくすぐったさがあれば言えな、と声掛けるけど すぐに夢中になると思う。 髪はさらっさらなのに角や尾は無骨で 俺達の肌とは明らかに違う感触が不思議な感じ。 |
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向こうの方の空は明るいし、少しの間の雨宿りね 同じように遠くの空を見るシリウスの 彼の前髪や頬についた雫に気づいてハンカチを取り出す 驚く様子にこっちもびっくり あ、ごめんなさい 風邪ひいちゃうかなって… クシュンとくしゃみ 丸くなったシリウスの目に顔を赤く ひかないもん と口の中で呟く 優しくなった彼の目に はにかんだように笑顔 ベンチに並んで座る シリウスは雨は嫌い? あ、そうか ヴァンピールだものね 夏の依頼は気をつけないとね わたしは 青空も好きだけど雨も好きよ 紫陽花も綺麗だし それに… 目をやった空にぱっと笑顔 駆けだそうとして雨に滑り悲鳴 抱き止められる感触と間近にある顔に赤く …ご、ごめんなさい だけど見てシリウス とても綺麗! |
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目的 のんびり雨宿り。 会話 マリオス シィ、大丈夫か?ほら、これで…。 (シルシィを濡れないようにガゼボの真ん中辺りに行かせて、ハンカチ差し出し) シルシィ …どうして、庇うの?(渡されたハンカチを眺めて) マ え?だって風邪引いたらまずいだろ? シ 今だけじゃなくていつも。…わたしが小さいから? (手を伸ばしてハンカチでマリオスの髪を拭こうとしつつ、微妙に不満そう) マ い、いや、それは、僕の方が年上だし。(シルシィの動作にドキッとしつつ、半分図星) …なんというか、家にいた時は弟と妹の面倒見てたし? シ ?…弟と妹、いるの? マ あれ?言ってなかったか?(話題がそれてホッと) いるよ。それから父さんと母さん。どうしてるかなあ。 |
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■目的 東と会話を成立させること ■行動 いやぁ全く、ウチの東先生ときたらよぉ……口を開けば 「うるさい」「黙れ」こればっかりだ。 たまには毒のない穏やかな会話を楽しみてぇもんだぜ。 って事で、東のタバコを取り上げて俺から話し始める。 雨の中二人きり、ってのは まるで恋愛小説の中に出てきそうな状況じゃねぇか。 なぁ先生、アンタならどう描く? なに、ただの暇つぶしさ。短編を作って遊ぶんだよ。 フハハ、中々可愛らしい妄想をするもんだ しかし、この人が笑うなんざ初めてのことだ。 何を『思いだして』るんだろうなぁ。 嫉妬の炎がメラメラと燃える。 夢見るだけで満足なのか? 現実にしてやることも出来るぜ……この俺なら。耳元で囁く |
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ローザは駆け足で、ジャックは歩いてガゼボへ ◆ローザ 梅雨時期を舐めていた…ここまで雨足が強くなるなんて あまり濡れずに済んで良かったが…少々肌寒いな ガゼボに駆け込んだ後はハンカチで水分を拭き取ろう ん?ヘイリー…髪、濡れてるぞ 拭かないのか? ハンカチの一つ位持っていろよ…風邪を引いても知らないぞ …なんとかは風邪を引かない、だな おっさんも口が減らないな…!ほら!良いからこのハンカチを使え! 私より濡れていて見ている此方が寒くなるんだ! ハンカチを渡したら外を眺める …そのハンカチは、誰が持っていても可笑しくないデザインなんだ だから…貴方が持っていると良い 私の契約相手なんだから、少しは身嗜みに気を付けてくれよ? |
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降り始めてから大分経って、流石に人通りも殆どなくなったな。 雨の音とハルの気配しか感じない、何だか落ち着くな。 こうやって二人で静かに過ごすのも悪くない。 ハル、本当にお前心配性になったな…大丈夫だって。 今日の指令を思い出す。 救えなかった命のことはいつも酷く心に圧し掛かる。 勿論救えたものも、最初からどうしようもなかったものだってあるけれども。 何かしらの形で死と直面するのは、戦うのは、やっぱり苦手だ。 ごめん、別にハルに心配かけたかった訳じゃないんだ。 大丈夫、俺はまだやれる。 ここで俺に出来ることがあるのなら、今はそれを果たしたい。 本当、ハルは俺のことばっかりだな。 ハルこそ、辛いことがあったら俺に言えよ。 |
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~ リザルトノベル ~ |
●アシエト・ラヴとルドハイド・ラーマの雨宿り 「ちくしょー降られた!」 ガゼボの高い天井を振り仰いで『アシエト・ラヴ』が叫ぶ。『ルドハイド・ラーマ』は傘の代わりにしていたコートを軽く払い、長椅子に腰を下ろした。 「けっこーびしょびしょになったな」 アシエトは唇を尖らせてルドハイドの隣に座り、気づく。 「ってなんでルドだけ濡れてないの!? エスパーなの!?」 「コートを代わりにしていただけだ。見れば分かるだろう。お前は阿呆か」 「あっなんだ。ってついでみたいに俺の悪口言うのやめて」 ぎゃあぎゃあと騒ぐアシエトを、ルドハイドは面倒そうにあしらった。 「ったく、しょうがねぇな。やむまで待つか」 「そうだな。この雨ならしばらく待てばやむだろう」 淡々と応じたルドハイドが、アシエトの頬を指先で拭う。一拍遅れて、水滴を拭われたのだとアシエトは理解した。 「……風邪、ひくかな」 「馬鹿はひかない」 「俺の扱い、酷くない?」 沈黙が訪れる。ルドハイドは雨音に耳を傾けるように、目を閉じていた。 「ルドって見た目若いけど、いくつなんだ?」 「……四十八だ」 煩そうな返答にアシエトは一瞬だけ納得しそうになった。 「へー、四十八かー。けっこういってるな……四十八!?」 「言っておくが。見た目が若いからと言って、年齢も若いとは限らない」 「そ、おま、あ、エレメンツ。あ、はい」 エレメンツという種族なら、実年齢が外見年齢をはるかに上回っていてもおかしくはない。なるほどねー、とアシエトは心臓が跳ねるほどの驚きを静める。 しばらくして、アシエトは意を決する思いで口を開いた。 「……この間の指令でさ。ルドの過去のこと、ちょっと聞いた」 今度はルドハイドが驚く番だった。 思わず立ち上がり、男はアシエトを睨みつける。アシエトはしっかりとパートナーを見返した。 「お、怒るなよ。聞こうと思って聞いたんじゃねぇよ」 声が少し震えてしまったのは、ルドハイドの威圧感がやはり少し怖かったからだ。それでも、目を背けない。 「そのことについて、嫌ならなんも言わないし、ルドが嫌なら触れない。本当だよ」 一拍の沈黙を挟んで、ルドハイドは感情を押し殺した声を放った。 「忘れろ。二度と口にするな」 喪失の恐怖を思い出し、震えた体を投げ出すように、ルドハイドは再び長椅子に腰を下ろす。 「俺の秘密や言いたくないこと、教えたいけど、なんにもないんだ。ほんとに悪かった。ごめん」 心から反省して、悔いていることが分かる声音に、ルドハイドは小さく頷いた。 雨脚は徐々に弱まってきている。じきに晴れ間がのぞくだろう。 そうしたら、ルドハイドと一緒に帰ろう。アシエトは目を閉じて、雨がやむのを待った。 ●杜郷・唯月と泉世・瞬の雨宿り もう六月。例年なら雨の多い時期にそなえ、折り畳み傘などの雨具を用意するのだが、今日に限って忘れていた。 ガゼボに駆けこんだ『杜郷・唯月(もりさと・いづき)』は自らのうかつさに肩を落とす。急な雨が通りを濡らし、ガゼボの外に咲くアジサイを打っていた。 (おかげで少し濡れてしまいました……。ガゼボがあってよかっ) 「っくしゅん!」 「大丈夫?」 堪える余裕もなくくしゃみをすると、背後から案じられる。慌てて唯月は振り返り、パートナーである『泉世・瞬(みなせ・まどか)』に頷いた。 「あ、はい……。すみません……」 「謝ることないよ~」 にこにこと微笑む瞬に唯月はまた謝罪しかけて、口をつぐんだ。 (はぁ……。お気に入りの羽織がずぶ濡れで冷たい……。早く脱がないと、風邪ひきます……よね) 裾を絞るよりも脱いだ方が早いと判断し、唯月は緑色の羽織を外して軽くたたみ、長椅子の端に置く。肌寒さにまたくしゃみが出そうだ。 「なにか羽織るものがあればよかったね~」 「突然ですから、仕方ないですよ……。ほら、瞬さんも濡れてますよ」 背に負った杖を外し、長椅子に腰を下ろした瞬を見て、唯月はほとんど無意識に動いていた。 「……え?」 「え?」 自分がなにをしているのか、一拍おいてから自覚し、唯月はぱっと赤くなる。 きわめて自然に、あたり前のように、彼女は懐からとり出したハンカチで瞬の顔を拭いていたのだ。 「……ッハ! す、すみませ……!」 「なんで~? ふふ、ありがと~」 心底から嬉しそうな瞬に、唯月はこくこくと頷いた。 (びっくりしたけど、照れた顔もキラキラで可愛い~!) と、瞬が内心で絶賛していることなど、知る由もない。 ぎこちない動きで唯月は瞬の隣に座ったが、ともすれば彼女以上に瞬は気まずさのようなものを覚えていた。年齢はともかく、隠していた本業を妙なタイミングで知られてしまったからだ。 それでも、唯月の態度に変化はなかった。 (死んでから十五年……。いろんな人とかかわってきた。でも職業柄、立場柄、本音で語り合える人なんて、前のパートナーくらいだったことを思い知って) でも、唯月は違ったのだ。 彼女の隣は心地いい。唯月がいろいろな表情を見せ、声をかけてくれるたびに、身も心も軽くなったように感じられる。 (いづはちゃんと俺を見てくれてる。そんな気がするよ) 「瞬さん?」 「ん~?」 「あ……、いえ、寝ているのかと……」 「起きてるよ~。いづこそ眠くない~?」 「大丈夫、です」 パートナー以上の女の子だとは、思っていたが。 はにかむ唯月を見ていると、自分は恋をしているのだと、瞬はすんなりと納得してしまって、小さく笑った。 ●トウマル・ウツギとグラナーダ・リラの雨宿り 道の外れにひっそりと建つガゼボで、『トウマル・ウツギ』は頭を軽く振る。『グラナーダ・リラ』は長椅子に腰を下ろして、小さく息をついた。 二人とも、真っ直ぐに勢いよく降る雨の中、徒歩で帰るほど酔狂ではない。どうせすぐにやむだろうからと、必然的に雨宿りをすることになった。 しかし暇だ。 気にするほど濡れていないと即座に判断したトウマルは、暇を持て余してガゼボの中をうろうろと歩き回る。ガゼボにいてなお触れられるほど近くに咲いているアジサイを観察して、またすぐに落ち着きなく、あっちへこっちへ足を向けていた。 そんな姿を、グラナーダは悠然と座りながら見る。 (本当に落ち着きのない方ですね……) いつもながら、疲れないのかと感心するほどだ。 胸のうちの呟きが聞こえたわけではないだろうが、トウマルがふとグラナーダに目を向けた。話すことも特にないので、そのまま沈黙が下りるかと思ったがそうではない。 暇つぶしの矛先が、グラナーダに向けられた。 「なあ。結構濡れてねぇか?」 「貴方とそう変わらぬ濡れ具合だと思いますが」 実際、グラナーダの髪は湿っている程度だ。しかし、トウマルの視線はグラナーダの首より下、半竜としての種族特徴を示している。 なるほど、とグラナーダは小さく苦笑しながら顎を引いた。 「……まあ、雨具があったとしても、濡れてしまう箇所ではありますね」 靡かせた翼と尾は、同族の面々と比べても大きい方だ。あ、だから服はあんまり濡れていないのか、と納得した風に呟いたトウマルは、すぐさま懐からハンカチをとり出した。 「グラ。いい提案がある。ここにハンカチがある」 (それは貴方にとっていい提案では?) 思いはしたものの、これ以上目の前をうろつかれるのも気になる。答えはひとつだった。 「では、お願いしましょうか」 「痛みやくすぐったさがあれば言えな」 「はい」 後ろに回り、トウマルはグラナーダの尾を拭いていく。長椅子の低い背もたれは、障害にならなかった。 しばらくは気遣うような手つきだったが、すぐに夢中になったらしい。さらさらの髪に反して武骨な尾を、トウマルは磨くような手つきで拭いている。不思議な感触だとでも思っているのだろう。 (トーマ、存外に熱心ですね) 肌に比べて尾は感覚が鈍いため、グラナーダは厭うことなく座っている。トウマルは翼も慎重に拭き始めていた。 (……たまには、こういう時間もいいでしょう) 口には出さないが、心地いい。 そっと目を閉じ、グラナーダは雨上がりを待った。 ●リチェルカーレ・リモージュとシリウス・セイアッドの雨宿り ガゼボに駆けこみ、ふぅ、と一息ついた『リチェルカーレ・リモージュ』は、細い指で空を指さした。 「向こうの方の空は明るいし、少しの間の雨宿りね」 彼女の隣で、『シリウス・セイアッド』は小さく頷く。彼ひとりなら気にしないところだが、リチェルカーレを雨にさらすわけにはいかない。 (二、三十分というところか。やまなくても、多少雨足が緩やかになれば) 勢いのある雨でかすかに煙ったようになっている外を見つめ、シリウスは思案する。リチェルカーレはそんな彼の前髪や頬に雨滴がついていることに気づき、手を伸ばした。 「っ、なんだ?」 「あ、ごめんなさい。雨粒がついてて、風邪、ひいちゃうかなって……」 急に細い指先に触れられ、びくりと肩を跳ねさせたシリウスにリチェルカーレも驚いた。同時に、堪える間もなく衝動がこみあげる。 「クシュンッ」 謝られてとっさに首を横に振ったシリウスは、リチェルカーレのくしゃみに目を丸くする。リチェルカーレはぱっと頬を赤くした。 「そっちの方が風邪をひきそうだな?」 「ひかないもん」 口の中で呟く。軽口を放ったシリウスは、わずかに目をすがめていた。優しくなった彼の眼差しに、リチェルカーレははにかむように笑む。 「シリウス、雨は嫌い?」 並んで長椅子に座り、リチェルカーレは首を傾ける。シリウスはほんの一瞬だけ、悩むようなそぶりを見せた。 「……いや、特に。日差しが強い方が苦手」 「あ、そうか。ヴァンピールだものね。夏の指令は気をつけないとね」 「心配するほどじゃない。お前は?」 頭を横に振ったシリウスに問い返され、リチェルカーレはふわりと笑顔になる。 「わたしは、青空も好きだけど、雨も好きよ。アジサイも綺麗だし、それに……」 「それに?」 ふふ、とリチェルカーレは笑みを深くする。シリウスは瞬き、首を傾けた。 「見て、シリウス!」 他愛もない会話をしているうちに、いつしか雨は上がっていたらしい。空に目をやったリチェルカーレが幸せそうにぱっと笑って、駆け出した。 「リチェ!」 「きゃあっ」 ガゼボから出かけたところで、滑って転びかけたリチェルカーレをシリウスがすんでのところで抱きとめる。リチェルカーレは間近にあるシリウスの顔に頬を赤くした。シリウスも、至近距離で自分を見つめる青と碧の双眸に一瞬だけ息をとめる。 先に口を開いたのは、リチェルカーレだった。 「……ご、ごめんなさい。だけど見て、シリウス。とても綺麗!」 花が開くような笑みを見せながら、彼女の指が空を示す。見れば、大きな虹がかかっていた。 暗い空からは光が差しこみ、世界はあっという間に明るくなる。美しい光に似たものを、シリウスは知っていた。 「綺麗だわ……!」 それは、腕の中で感動している彼女の笑顔だ。 ●シルシィ・アスティリアとマリオス・ロゼッティの雨宿り 「シィ、もうちょっと真ん中まで行った方がいいよ」 後ろから『マリオス・ロゼッティ』に言われ、『シルシィ・アスティリア』は渋々ながらガボゼの中央まで歩んだ。 にわか雨に襲われて、雨宿りだ。近くにガゼボがなかったら、勢いよく垂直に降ってくる雨に打たれ、今ごろ目もあてられない濡れ鼠になっていただろう。 このくらいですんでよかったと、シルシィは小さく息を吐いた。 「シィ、大丈夫か? ほら、これで……」 「……どうして、庇うの?」 振り返ったシルシィは、受けとったハンカチを眺めて問う。マリオスはきょとんとしていた。 「え? だって風邪ひいたらまずいだろ?」 「今だけじゃなくていつも。……わたしが小さいから?」 わずかに不満そうに言ったシルシィは、ハンカチを持つ手を伸ばしてパートナーの髪を拭こうとする。 彼女の動作に心臓が高鳴ったマリオスは、半分図星だったこともあり、身を少し引いた。 「……なんというか、家にいたときは弟と妹の面倒、見てたし?」 「……弟と妹、いるの?」 遠慮ともとれるマリオスの動きに構うことなく、開いた分だけ距離を縮めて、世話を焼き返そうとしていたシルシィが手をとめる。 話題が逸れたことと、彼女が停止してくれたことに安堵しつつ、マリオスは頷いた。 「あれ? 言ってなかったか? いるよ。それから父さんと母さん。どうしてるかなあ」 「……わからない、の?」 「いや、故郷の村にいるよ。たまに手紙もくる」 頬をこわばらせていたシルシィは、その一言に安心したように力を抜く。でも、とマリオスは切ない郷愁を胸に抱きながら続けた。 「遠いんだ。家は裕福でもないし」 気軽には会えない。 ハンカチをシルシィの手からするりととって、マリオスは彼女の湿った髪を拭いていく。シルシィは拒絶することも、文句を言うこともなかった。 ただ、真剣な声で。 「……会いたい?」 「それは、もちろん」 「ふーん……。じゃあ、行こう。今すぐ、は無理かもだけど……」 それでもいつかと、真っ直ぐにマリオスを見つめて少女は約束する。 胸がつまり、一瞬だけ目を見開いたマリオスは、ふわりと微笑んでシルシィの頭をそっと撫でた。 「……ああ。……シィ、ありがとう」 (また、子ども扱い……) 不服だが、マリオスがあまりにも幸せそうに笑うので、文句をぶつける機会を逸してしまった。シルシィはまだ湿り気を帯びている毛先を払う。 不意にシルシィの足元から小さな声が上がった。 「にゃあ」 「……ネコ?」 「雨宿りかな」 どこの飼い猫なのか、湿ったネコの首には飾りが巻かれている。 顔を見あわせた二人はかすかな笑みをかわし、ネコを交えてしばらくゆったりとした時間をすごした。 ●黒憑・燃と清十字・東の雨宿り 薔薇十字教団本部に戻る最中、不運なことににわか雨に襲われた。 言葉にしてみればそれだけのことだと、逃げこんだガゼボの中で『清十字・東(セイジュウジ・アズマ)』は虚空を見ながら思う。隣にはパートナーである『黒憑・燃(クロツキ・ゼン)』が座っていた。なにか考えごとをしているような横顔から、目をそらす。 きっとろくでもないことだろう。 「なぁ先生」 すっと視界に入られ、東は眉根をかすかに寄せる。油断ならない隣人は、すっかり見慣れた邪気のある笑みを満面に浮かべていた。 「雨の中に二人っきりってのは、まるで恋愛小説の中に出てきそうな状況じゃねぇか。アンタならどう描く?」 唐突な話に、東はゆっくりと瞬く。ああ、と胸のうちで呟いた。理解した。 以前、物書き志望であることを黒憑に話してしまったのだ。だからきっと、からかわれているか馬鹿にされているのだろう。 「なに、ただの暇つぶしさ。短編を作って遊ぶんだよ。いいだろ? 先生」 無視をしたところでしつこく迫られるだけだ。もしかしたら、大幅に状況が悪化するかもしれない。 それに、どうせ他にすることもない。 小さく息をつき、東は物語を頭の中で練り上げる。雨。二人きり。人目につかないガゼボの周りには、アジサイが咲いていた。 「例えば」 雨音に、東の声が混じる。 「主人公は内気な男の子。傘を持っているのに嘘をついて、片想いの女の子と雨宿りをする、とか」 言ってしまってから、作家志望の男は気づいた。 (……なんて、これはほとんど『俺』の実体験だな) 妻とすごしたころを思い出し、くすりと笑ってしまう。 「最後は二人だけの世界で見つめあったり、勇気を振り絞って接吻するとか。そういうのがあったら、素敵じゃないか?」 実際にはお互いシャイだったため、黙って雨がやむのを待つしかできなかった。しかし、大切で愛しい過去だ。 「ふぅん」 柔らかな表情を浮かべる東に、黒憑は双眸を剣呑に細めた。 (なかなか可愛らしい妄想をするもんだ) フハハ、と内心で笑ってみたが、あまり面白くない。東が笑うところを、黒憑は今、初めて目撃したのだ。 (なにを『思い出して』るんだろうなぁ) 嫉妬の炎が胸を焦がすのを感じる。どうにも、まったく、気に入らなかった。 「あとは……」 「先生、夢見るだけで満足なのか?」 東に意図的に開けられていた距離をすっとつめて、黒憑は物語を紡ぎ続けようとする彼の耳元で囁く。 「現実にしてやることもできるぜ。……この俺なら」 「……っ!」 ばっと東は黒憑から離れ、ガゼボと外の境界近くまで身を引いた。 雨音がやけに煩い。 目を見開く東に、黒憑は口許だけで笑って見せた。 ●ローザ・スターリナとジャック・ヘイリーの雨宿り 駆け足でガゼボに入った『ローザ・スターリナ』のあとを、『ジャック・ヘイリー』が急ぎもせずに追う。 「ここまで雨脚が強くなるとは」 小さく息をつき、ローザはハンカチをとり出した。 雨の多い時期を舐めていた。急に降り出したと思ったら、瞬く間に激しい雨になったのだ。さいわい近くにあったガゼボに逃げこめたため、それほど濡れずにはすんだ。 とはいえ肌寒い。 「ん? ヘイリー、髪濡れてるぞ。拭かないのか?」 水気を拭いていたローザは、なにをするでもなしに外を眺めているジャックに声をかける。男は肩をすくめて見せた。 どうやらハンカチを持っておらず、わずかに濡れている程度なら気にもしていないと察して、ローザは呆れの息を吐く。 「ハンカチのひとつくらい持っていろよ……。風邪をひいても知らないぞ」 「華奢なお前と違って俺は丈夫なんだよ」 小ばかにするようなジャックの口調に、ローザは形のいい眉を吊り上げる。 「……なんとかは風邪をひかない、だな」 「ハッ。そういうお前は高いところが好きそうだな」 「おっさんも口が減らないな……!」 言い返すつもりが子ども扱いされ、ローザは苛立ち紛れにハンカチをジャックの手に押しつけた。 「ほら! いいからこのハンカチを使え! 私より濡れていて、見ているこちらが寒くなるんだ!」 不平も不満もありそうなジャックだったが、ローザが一歩も引かないと見ると観念してハンカチを受けとり、渋々といった様子を隠そうともせずに毛先や頬を拭き始めた。 その様子を隣で見ていたローザは、少しばかり動揺する。 髪が濡れているためだろう、ジャックの雰囲気がいつもと少し違っていた。 「雨、すぐにやみそうだな」 ざわめきを隠すために話題を振ると、ジャックはちらりと空を見上げる。 「この程度の雨、気にするモンじゃねぇだろ」 ひそかに隣人の様子をうかがっていたローザは、その回答に瞬いた。 「……別に、私を置いてひとりで帰ってもよかったんじゃないか?」 なにか言いかけたのだろう、ジャックの唇は少し開いている。だが、声がこぼれてくることはなかった。視線をかわしたまま、二人は固まる。 「……指令の報告は、二人揃ってじゃないと完了しないだろうが」 「ああ……」 思いあたらなかった、という事実をさとられまいと、ジャックはローザにハンカチを返そうとする。ローザは片手を上げてそれを制した。 「……そのハンカチは、誰が持っていてもおかしくないデザインなんだ。だから……、貴方が持っているといい。私の契約相手なんだから、少しは身だしなみに気をつけてくれよ?」 最後の言葉は照れ隠しだ。 「……まぁ、じゃあ、貰っておく」 「そうしてくれ」 ばつが悪そうなジャックにローザは頷き、外を見つめる。 二人揃って。そんなジャックの言葉にいい響きが含まれていた気がして、ローザは悪くない気持ちで小さく笑った。 ●テオドア・バークリーとハルト・ワーグナーの雨宿り 雨が降り始めてから少し時間が経過した。先ほどまで右に左に動き回っていた人々の姿も途絶えている。 道の外れにひっそりと建つガゼボの中にいることも相まって、まるで『ハルト・ワーグナー』と世界で二人きりになったようだと、『テオドア・バークリー』は思った。 ここには自分とハルトしかいない。他者の視線も声もなく、ただ雨音だけが響いている。 (なんだか落ち着くな) 二人でこうして、静かにすごすひとときは決して悪いものではない。 きっともうすぐ雨は上がる、と長椅子の低い背もたれに体重をかけそうになったところで、テオドアは閉じていた目を開いた。 「テオ君、大丈夫? 寒くない?」 ぴたりとテオドアの頬に温かい指先をひっつけ、隣に座るハルトが心配そうに眉尻を下げている。 「頬、けっこう冷たくなってる……。寒かったら俺に言ってよね」 「大丈夫だよ」 「こうなるって分かってたら、温かい飲み物、買っておいたのになぁ」 「ハル、本当にお前、心配性になったな……。大丈夫だって」 苦笑したテオドアの毛先についたわずかな雨滴を払うように、ハルトはパートナーの髪を撫でる。 「ずっとこのままいられたらいいのに」 雨に閉ざされた、二人きりの世界。俺とテオ君だけの世界。 告げてから、だめだなぁ、とハルトは気づいた。 「あー、でもテオ君を暖かい部屋で休ませてあげられないから、それはそれで考えものかも」 「ハルも、暖かい部屋で休まないとな」 上機嫌のハルトを見ながら、テオドアは今日の指令のことを思い出した。 救えなかった命のこと。ふとした瞬間にそれはひどく心にのしかかる。救えたものも、最初からどうしようもなかったものもあるが、その重さはすべて等しい。 なんらかの形で死と直面すること。そして戦うことは、やはり苦手だとテオドアは思う。 「いっそどこか、遠くに逃げちゃおっか?」 胸の内を見透かしたようなハルトの言葉に、テオドアははっとして、首を横に振った。 「ごめん、別にハルに心配かけたかったわけじゃないんだ。大丈夫。俺はまだやれる。ここで俺にできることがあるなら、今はそれを果たしたい」 「……そっか。テオ君が戦うって決めたなら、俺はそれに従うよ」 でもね、とハルトはテオドアの頬に手を添えて、穏やかに笑んだ。 「いつか本当に逃げたくなったら、俺に言ってね。教団のためとか、人のためとか。正直な話、そんなもの、俺にとってはどうだっていいんだ。ここがテオ君にとって傷つくだけの場所なら、俺がいつでもさらってあげる」 口調こそ優しいが、ハルトの発言は本心から放たれていた。テオドアはそんなハルトの頭を、軽く撫でる。 「本当、ハルは俺のことばっかりだな。ハルこそ、つらいことがあったら俺に言えよ?」 「うん」 「雨、上がりそうだな。帰るか」 「そうだね。あ、テオ君。虹だよ」 テオドアに手を引かれて外に出たハルトが、晴れ間がのぞく空を指さす。明るい虹を見上げ、テオドアは目を細めた。
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*** 活躍者 *** |
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[5] ローザ・スターリナ 2018/06/17-22:31
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[4] リチェルカーレ・リモージュ 2018/06/17-21:29
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[3] 杜郷・唯月 2018/06/17-17:17
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[2] トウマル・ウツギ 2018/06/16-13:44
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