~ プロローグ ~ |
1718年6月某日、ルネサンス地区ヴェネリア。密命を受けてこの地を訪れていた薔薇十字教団の要人が1名、何者かによって誘拐された。 |
~ 解説 ~ |
●指令の概要 |
~ ゲームマスターより ~ |
PCの皆さま、PLの皆さま、こんにちは。久木です。
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◇◆◇ アクションプラン ◇◆◇ |
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◆目的 要人誘拐の首謀者捕縛及び要人救助 ◆行動 あらかじめ普段着で倉庫と周辺状況確認 窓や出入口把握 情報共有と作戦手順さらい口寄 ボヤ騒ぎ合図に突入 突入口から見て右側階段へ駆ける ・トウマル 仲間からの援護受けつつ階段使い上層へ。 上層にも首謀者要人以外の敵いれば露払い。 基本は腕や脚狙い剣戟。アライブスキルは緊急用 仲間による罠対処策に加え床や天井の定式陣注意 捕縛用縄所持 ・グラナーダ キリアンと共に階段または上層下へ。 上層から死角となる位置から 階段上る仲間が交戦するタイミングで一気に飛び上がる 上層の敵の数多ければその場の敵へ符攻撃 首謀者・要人を引き離し、必要あれば天恩天賜で回復 回復優先順位は首謀者、要人、その他 |
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目的は首謀者捕縛と要人保護 倉庫近くに潜みボヤの煙合図に突入 味方罠に注意しつつ迅速に制圧 クヴァレ氏には囮を引き受けて欲しい 突入時は先頭に立って気を引いて貰う ◆セアラ 1階でリバティ戦線兵士足止め 遮蔽取り武器や四肢を狙い極力殺さず無力化 クヴァレが重傷や行動不能など危険時は遮蔽へ引きずり込み 応急手当で死なせない ◆キリアン 上層突入組 上層から姿が見えない角度を極力維持 他メンバーが階段から上がるのに合せ飛行で上層へ 上層の敵多ければ階段口付近の敵攻撃し階段からの仲間支援 敵3名以下ならグラナーダさんと協力し首謀者強襲、撹乱し要人と引き剥がしを試みる 階段組と合流後は密に連携 首謀者にJM3で猛攻かけ一気に押さえたい |
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目的 首謀者と要人の確保 ヨナ 倉庫裏手でFN4を使いボヤを起こす 敵に見つからないよう大回りで戻りながら突入口へ向かい 合流後1階で他メンバーとともに敵制圧に臨む 死角からロスや他の仲間を狙う敵の位置を魔力感知で把握しFN4を当てていく 二階へ向かおうとする敵も狙う ベルトルド ボヤの煙を合図に敵の混乱に乗じて突入 進行方向に敵がいなければ全力ダッシュ 左階段を使い2階へ。ロスから盾を受け取りつつ首謀者へ特攻を最優先 複数同時にアタック出来ればベスト 自身へのダメージは考慮しない ノワールバインドの抵抗は味方のスキルを信じる JM3を使い首謀者への間合いを詰め攻撃 魔術の要である結魔の位置に拳を叩きこむ |
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響:敵の下っ端を捕らえ、メイク道具を使って変装して侵入。仲間が侵入する際には、ヨナが起こした放火を合図にボヤ騒ぎを起こすなりして敵兵士を外におびき出し仲間の侵入を手引きする。可能ならば混乱に乗じて要人と共に仲間の元に移動する。 愛華:突入担当。響が予め突入時には騒ぎを起こすのを確認したら右階段から突入。響と要人の安全を確保する。 |
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喰「無益な殺生は避けたい だがこちらにも命が掛かっている」 祓: 突入前依頼主に 『要人の顔が分かる物(写真等)と倉庫全体の間取り図を要求』 得た情報は参加者全員に共有。喰はスキル記憶で双方を暗記 倉庫近くで気付かれぬよう待機 ヨナによる裏手ボヤの煙を合図に魔術真名 突入 入り口から入り、右手側の階段前を目指し『全力ダッシュ』使用 兎に角早く階段前につき次第 MG3を展開し 階段移動の仲間を待つ 階段移動する仲間の中央に立ち 前後左右で4名、階段幅が狭ければ前後2名と共に(2R内に増えない状況なら以下の数でも 残りMPが切れるまで希望者全員をMG3を使用し、階段往復し上層へ上げ 少しでも上層移動時の集中砲火ダメージ緩和を目標 |
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ロス:陽動 ティ:サポート ∇序 ロス:縄にカマを括り付け 盾はベルトルドに 魔術使用 ティ:突入直前に浄化結界を皆に ∇ヨナの合図で突入 ロス:ハンマー振り回し雄叫びを上げて 気迫を持ってど真ん中に突込む 木箱に乗り上を目指し 魔術使う首謀者に拳銃攻撃 煙で視野妨害できれば 縄付カマを上層に引っ掛けてアビリ登山で登ってみる Lv2なので無理ならフリだけ 仲間が無事に上層見届け縄手放し下に ティ:ロスの後ろをついて ロスを狙う敵に符攻撃 ロス拳銃発射で右の階段へ ∇ティ 浄化結界効果が無くならないよう 特に首謀者向かい組メンバー見つつ ビリヤード 敵が転がるなら追うように転がす 罠等確認 首謀者 味方の攻撃援助に 敵が体を乗出した時に制止狙い攻撃 |
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齟齬ある場合は仲間と足並みを揃える 突入前に魔術真名使用 ◆作戦 要人は可能ならば救出する方針 突入時は仲間の作戦行動に沿った形で ボヤ騒ぎで敵が外に陽動された機を見計らって一斉に突入 罠の場所が判明したらそこは避ける ◆アユカ 飛行先行組に続き右階段より上層に突入 最優先は要人へのSH4 届く範囲に到達したらすぐさま使用 要人を仲間が確保するまで彼の安全に注視 その後の攻撃はリバティ戦線の兵士優先 傷ついた仲間がいたら回復 ◆楓 初手にDE3使用 下層にて兵士の気を引き陽動・討伐を行う 兵士の突入組への攻撃・進行を妨害する 主に後方からの遠距離攻撃 全体を見渡し、障害物の陰に敵がいたら狙撃 手近に障害物があれば防御にも活用する |
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奴隷制度なんて大嫌い だけどそのことと、人を傷つけたり誘拐したりすることは別だと思う 首謀者の人を捕まえること 連れ去られた人を助けるため 仲間と協力して最善を尽くす 突入時に魔術真名詠唱 気を付けてとシリウスに 陽動班 回復と支援中心に動く 中衛位置から左側階段に登ろうとしていると見せかけ そちら側の敵に魔法攻撃 自分への攻撃は受け流しながら 退魔律令で対応 クヴァレさん 無理はしないでください…! 囮役をしている彼に声かけ セアラさんの手当てで足りなさそうなら回復魔法 仲間の体力に気を付けながら 6割を切ったら天恩天賜 敵は基本的に不殺 戦闘不能になった相手の怪我が酷ければ応急手当 動かないで 任務が終わったらちゃんと手当てをします |
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~ リザルトノベル ~ |
● 倉庫の図面を広げて最終確認を行っていた浄化師たちは、皆一様に複雑な表情をしていた。本来ならば最優先で行われるはずの要人奪還が全く考慮されておらず、教団からは代わりに「事件の首謀者を、何があっても生きたまま捕縛せよ」との命が下っていた。その事実には、気味の悪ささえ感じられた。 「実行にあたって、要人の特徴が知りたいのだが」 沈黙を破って『ガルディア・アシュリー』が口を開く。クヴァレは頷くと、その人物の特徴について説明を始めた。要人は40代前半、髪は短く栗色をしている。誘拐時点での服装は、白いシャツに茶色のベストとズボンだ。『グレール・ラシフォン』は、パートナーが引き出した情報をしっかりと記憶する。 「浄化師さん方は、あの迷子も助けたいんだったな。ま、上からやるなと言われたでもなし。俺はあんたたちに従うよ」 クヴァレは懐から金属製の小さな水筒を取り出し、中身を一口飲む。酒の香りはなく、代わりに薬草が何種類も混ざった奇妙な臭いがした。『花咲・楓』は男のその行動を注意深く観察する。彼の含みのある口ぶりは、まだ明かしていない思惑があることを示している。パートナーの『アユカ・セイロウ』も思うところがあるのか、表情を曇らせていた。 ● 月が天頂に昇る少し前、浄化師たちは倉庫付近で待機していた。『ヨナ・ミューエ』が裏手でぼやを起こし、先に潜入した『響・神原』がそれを合図に敵を倉庫外へ誘き出す計画だった。相談のうえとはいえ、『ベルトルド・レーヴェ』はパートナーが今回も危険な単独行動を取っていることに少々参っていた。 「案ずるな。響と同様、浄化師は皆優秀だ。貴殿の相棒もきっと上手くやってくれるだろう」 表情が険しくなるベルトルドに『神宮慈・愛華』が話しかけた。ベルトルドは短く答え、スチールクローを深く押し込む。 「会議中ほとんど喋ってなかったけど、いいのか」 剣の柄に利き手を置き、『トウマル・ウツギ』はパートナーに尋ねた。『グラナーダ・リラ』は淡々と答えるだけで、相変わらず思考を読ませてはくれない。 「貴方は確か、私を『どう使うか』相談していましたね。存分に使ってくださって構いませんよ」 怒ってはいないようだったが、考えが読めないことに変わりはなかった。リラはちらりと依頼人を見、トウマルもつられて視線を移動させる。こちらが不利とならない限り、あの奇妙な男の思惑に関わる気はない。しかし浄化師以外の動向には、注意する必要がありそうだった。 「じゃあクヴァレさん、囮をお願いしますね。方法はお任せします」 同行者に『セアラ・オルコット』が声をかける。男は頷いて、再び水筒の中身を飲んだ。 「あんたが良いなら良いんですがね。魔術師でもないのに、随分と強気じゃありませんかい?」 動揺一つ見せない男に『キリアン・ザジ』は皮肉交じりに言った。訓練を受けていない者が魔術攻撃を受ければ、到底無事では済まない。しかし当の本人は気にしていないようだった。 「奴隷制度なんて大嫌い。だけどそれが許せないからって、人を傷つけたり誘拐するのは、違うと思うの」 普段は柔和な『リチェルカーレ・リモージュ』の表情が、今日は険しかった。 「(貧富の差が大きければ不満も溜まる。そしてそこにつけ込む者も、居るのだろう)」 パートナーの『シリウス・セイアッド』は、ただ静かに目を細めた。倉庫の図面は頭の中に叩き込んであるが、不安そうな表情の彼女が心配だった。 「煙だ! ティ、頼む!」 裏手から上がった煙を『ロス・レッグ』が発見し、『シンティラ・ウェルシコロル』は浄化結界のため詠唱を開始する。間もなくして倉庫の重い扉が開かれ、敵と思しき男が二人出てきた。クヴァレは扉が開くや否や、結界の展開も待たずに飛び出す。呆気に取られる一方の男に、もう一方が当て身を食らわせ気絶させた。 「お待たせしました、お嬢。ばれそうだったので早めに切り上げました」 地面で伸びている戦闘員を後目に、響は口寄魔方陣を展開して装備を呼び出す。 「ルネサンス地区は、あたしのお店がある場所。ここでもこんな事件は起こっちゃうんだね。あたしの記憶も、もしかしたら……」 言いかけて、アユカは首を横に振る。確かに気にはなるが、今は余計な事を考えるべきではなかった。 「ううん、今は考えちゃだめ。かーくん、後ろは任せたよ。――雨のち、希望咲く!」 「黄昏と黎明 明日を紡ぐ光をここに!」 「作戦の成功を祈る。グレール、必ず生きて帰ってこい。――自由に、往きよ!」 三組が魔術真名を唱えると同時に、倉庫の中から眩い閃光が放たれた。囮として先行したクヴァレが早速仕掛けたようだ。浄化師たちは事前の作戦に沿って、突入を開始した。 ● 先程の閃光によって、誘拐犯たちは視界を奪われているようだった。楓は手近な木箱の影に滑り込むと、敵へ一度目のチェインショットを放つ。 「(悪人に情けをかける義理はないが、殺生を好まない仲間も多い。……それに、アユカさんも悲しむだろう)」 次弾を装填し、楓は仲間の動きに気を配る。シンティラが呪符で追撃を加えるが、敵は辛うじて持ちこたえた。クヴァレは木箱に身を隠すこともせず、中央で果敢に注意を引いている。首謀者の攻撃魔術が男の掠めたのを確認すると、リラは床を蹴って舞い上がる。上層で控えている狙撃手は、まだ視界が回復していないようだった。ロスが雄叫びを挙げながら跳躍し、手近な木箱の上に立つと、彼は首謀者めがけて信号弾を放つ。 「これでちっとは見えにくくなるハズだ、そっちはヨロシクな!」 ロスの援護に乗じて、リラは一気に距離を詰める。楓が同じ敵に二度目のチェインショットを放って撃破し、上層に突入する浄化師たちは全速力で階段へ向かった。 「追いつきました。これより戦闘に参加します」 「うん、お疲れさま! 一緒に頑張ろうねっ!」 合流したヨナにセアラが声をかける。彼女は味方の援護のために移動し、左階段脇の敵めがけてボウガンを撃つ。 「そんじゃ、お嬢は下に居てくださいよ。俺の華麗な活躍の、足引っ張られると困るんでね――っと!」 セアラの近くに居たキリアンは、翼を広げて舞い上がる。パートナーは少し心配そうな表情をしていたが、すぐに前を向いた。上空にはもう一人のデモン。二人が滞空していると、シリウスが左階段を駆け上がっていくのが見えた。 「敵の視界はそろそろ戻る。煙幕はまだ効いてるが、狙撃手には気を付けてくれよ」 クヴァレはデモンたちに叫ぶと、倉庫上層めがけて空砲を撃つ。音がよく響くように調合された火薬は、敵の気を引くには十分だった。 「――この男は、生贄に捧げなければならない。我々のような存在を知っていながら手を差し伸べようともせず、影から目を背けて生きるお前たちは、神が忌み嫌い滅ぼそうとした人間の罪そのものだ!」 首謀者が初めて口を開いた。男は吐き捨てると後方へ移動し、そのまま詠唱を開始する。下層からでも分かるほどの禍々しい魔力が倉庫に満ち始めた。クヴァレは舌打ちし、上層を睨む。誰もが、首謀者の正体を肌で感じ取っていた。事態は一刻を争う。もう、後へは退けなかった。 ● 先行したシリウスに続いて、ベルトルドとグレールが階段を駆け上がる。 「(ビリヤードボールを転がすつもりだったが、これでは戦闘時に却って邪魔になるおそれがある)」 それならば、とグレールは判断し、儀式を妨害するための方法を考える。儀式の完全な停止には魔術師の撃破が必要だろうが、妨害だけならば幾分か楽なはずだった。彼はそれをシリウスとベルトルトに伝え、次の行動に備えた。階段の下では、リチェルカーレとシンティラが懸命に敵を牽制していた。 木箱に上ったロスは倉庫上層を確認する。物を引っ掛けることができそうな部分は、あまり頑丈そうには見えない金属の手すりだけだ。鎌の耐久性にも大いに疑問があり、彼のような筋肉質のライカンスロープが登攀を試みれば、転落して大怪我をする可能性があった。 「ここから登れればと思ったけど、しゃーないな。計画変更だ!」 ロスは木箱から飛び降り、仲間の援護のために駆け出す。楓やセアラの姿を捉えている敵と彼らとの間に割って入り、敵の意識を自分へ向けた。敵の後ろでは、右階段に到達した仲間の姿が見えた。 「響、それに貴殿ら! このまま駆け上がる、私に続け!」 愛華は剣を構えて交戦に備える。彼女の後ろを走っていたガルディアが、ペンタクルシールドを展開した。 「一度きりだが、無いよりましだろう。お前たちの移動は私が援護する」 尊大な口調だが、ガルディアのシールドには一分の隙もない。下層と上層では、視界を取り戻したリバティ戦線の戦闘員が次々と武器を構え始めていた。 「――っ! 外した!」 セアラの射撃が回避され、敵が反撃の準備をする。しかし突如現れた火球が直撃し、男は呻きながら床に転がった。 「ファナティックの魔術、リバティ戦線の方には刺激が強すぎましたか?」 セアラが振り返ると、そこには魔導書を手にしたヨナが佇んでいた。背後を楓が駆け抜け、近付いてくる敵めがけて三度目のチェインショットを放つ。 「あと少しです。カウンターを繰り出せば、無駄なく撃破できるでしょう」 ボウガンをリロードし、楓が言う。次に攻撃されるのは彼かセアラだ。セアラが武器を握りしめ反撃に備えると、倒れた仲間を見て激昂した戦闘員が彼女に襲い掛かった。 「何が浄化師だ、何が教団だ! お前らが救う『世界』に、俺たち奴隷や食い詰め者はいつも入らない! そうだろう!」 戦闘員は力任せに斧を振り下ろし、セアラは銃身で受け止める。伐採斧は所々に錆が浮き、刃こぼれも見受けられた。とてもではないが、戦闘に使える代物とは思えない。 「セアラさん、聞いちゃ駄目です!」 シンティラが叫ぶが、セアラは動けなかった。男の眼には強い怒りが滲んでいる。リバティ戦線の大半は金品の強奪を目的とする者だが、中には行き場のない思いや現状への不満を抱え、燻らせた者も居るのだろう。だが、退くわけにはいかなかった。 「――目の前の敵を足止めする、それがわたしの役目!」 意を決したセアラは斧を押し返し、よろけた男の腹部を蹴る。そしてグリップで利き手を強く打ち据え、後退させた。男は右手を押さえ、浄化師たちを睨む。セアラは人間と戦うことに慣れてきた、自分に僅かな違和感を覚えるのだった。 上層から、二発の銃声が響く。一方は右から、もう一方は左から。右方ではシールドの砕ける音がした。倉庫上層での戦闘が、遂に幕を開けた。 ● 左階段ではベルトルドが先陣を切った。彼は浄化結界を信じて突き進むが、上層に踏み込んだ途端、脚を黒い帯が捉えた。彼の危機を察知した他の仲間が、急いで階段を上がってくる。首謀者は罠の作動を確認すると、再び詠唱を始めた。ベルトルドは強力な魔術攻撃に備えて防御の姿勢を取る。すると、下層からクヴァレの声が聞こえてきた。 「教団幹部の誘拐と被害者を用いた儀式、ルネサンス南部の訛り。痕跡を残しすぎたな、アンジェロ・サヴィーニ。貴様の身柄、『レヴェナント』の名において拘束する!」 ――レヴェナント。『サクリファイス』と『終焉の夜明け団』に恨みを抱く者で構成され、両組織への復讐を目的とする唯一の合法組織。敵からは猟犬として忌み嫌われ、彼らを知るごく少数の民衆からは、圧倒的なまでの生還率の低さによって畏怖される存在。普段は様々な理由で浄化師を動員できないような任務に就いているため、浄化師たちが彼らを目にするのはこれが初めてだった。 サヴィーニと呼ばれた男がフードを取る。その双眸には激しい憎悪の炎が燃えていた。男は目標を変え、クヴァレめがけて火球を放つ。彼は滞空しているデモンに退避するよう手で指示し、他の浄化師には今のうちに行動するよう叫んだ。火球が直撃した男は、後ろの木箱ごと派手に吹き飛ばされる。――だが。 「……くそっ。相克とはいえ、魔術は何度食らっても慣れんな」 咳き込みながらクヴァレは立ち上がり、落ちた帽子を拾う。彼はそれを被り直すが早いか、巻き添えを食った戦闘員にすぐさま殴りかかった。 魔術師の変化は、戦線の戦闘員にも伝わり始めた。浄化師たちはその僅かな隙を見逃さなかった。 「よそ見ですか。翼持つ我々も侮られたものですね」 滞空していたリラは最後の距離を詰め、上層に着地するとそのまま手近な戦闘員に呪符を放つ。よろけた男が後退すると、階段を登り切ったグレールが一息に要人の元へ駆けた。だがあと一歩というところで魔方陣が出現し、魔力の楔が要人の全身を貫く。 「今はこれしかできない、すまない」 彼は魔方陣に剣を突き立て、発動を遅らせるべく魔力を送り込む。その間に響も到達し、二人がかりで儀式を妨害していると、リラが前線から抜け出して要人の回復にあたった。グレールに続いて突入したシリウスが剣を一閃させ、狙撃手をただの一撃で切り伏せる。彼はそのままの勢いで魔術師との距離を詰めた。バインドの解けたベルトルドは、残った敵に強い打撃を放って気絶させる。 「(――こいつらは、オレだ)」 ベルトルドは拳を強く握った。スラム街育ちの自分が浄化師の素質を持たなければ、あるいは浄化師になっていなかったら、この場には逆の立場で居た可能性もある。バインドにかかってしまったのも、心に揺らぎがあったからかもしれない。それでも指令を遂行するしかない自分自身に、彼は悪態をついた。 右階段付近ではシールドの切れた隙を突かれ、ガルディアが右肩を撃ち抜かれた。彼は占星儀を左手に持ち替え、ペンタクルシールドを再展開する。 「神宮慈の戦いぶり、しかとその眼に焼き付けよ!」 愛華は一足踏み込むと、剣を抜き放ちざまに斬り付ける。狙撃手は防御を試みるが、重い衝撃で銃を弾き飛ばされた。武器を拾おうと駆け出したところに、階段を登り切ったトウマルが追撃を仕掛ける。 「あんまり抵抗するな。俺だって、アンタらを手に掛けたいわけじゃない」 足を払われた狙撃手は床につんのめり、顔を強かに打ち付けた。キリアンは翼を羽ばたかせて上層奥まで突き進み、懐に飛び込んで一閃を放った。 ● 仲間が一人、また一人と魔術師を囲む。 「そろそろ投降してはどうだ。勝つ見込みなど無いと思うが」 ガルディアは挑発とも勧告とも取れる言葉を投げかけるが、魔術師は退かなかった。男は再び詠唱し、シールドの及ばないトウマルを標的にする。彼は防御をしてその攻撃に耐えた。ベルトルドが魔術師めがけて走り、体をひねる勢いを乗せて重い打撃を叩き込む。男は弾き飛ばされ、背後の木箱にぶつかった。 「……はは。あの男、もうすぐ生贄になる。身代金と交換するより、余程意義のある使い方だ」 この世の全てを憎悪するかのような笑みを浮かべ、魔術師は口元の血を拭う。 「世界は滅びる。であればその束の間、奴隷に安息を与えたいのだ。かつての私のような、奪われるだけの奴隷たちに」 サヴィーニは瞑目し、詠唱を始める。男の周囲に一段と強い魔力が満ちた。 一瞬の後、浄化師たちが仕掛けると同時に、魔術師も渾身の魔術を放つ。互いの攻撃が互いの体力を削り、誰もが大なり小なりの傷を受けていた。それでもなお、彼らは戦意を衰えさせることなく戦い続ける。 ――そして、シリウスの閃光の如き剣技がサヴィーニを捉えた。 「お前が過去に虐げられていたとしても、それは他者を傷つけていい理由にはならない。観念しろ」 シリウスは剣を突きつけ、魔術師は片膝を付いて出血の激しい右腕を押さえる。サヴィーニは何事か口走り、折れた杖を胸に突き立てて最期の魔術を使おうとするが、愛華がそれを叩き落とす。そしてキリアンが、鞘で魔術師の頭を強く殴った。 「悪いな、魔術師さん。俺ぁぶん殴るしか能がないんでね」 男が崩れ落ちると、トウマルは縄で彼を縛り上げる。生かして捕らえた首謀者やリバティ戦線の者たちがどうなるのか、浄化師たちはそれについて何も聞いていない。 「(この指令、不可解な点だらけだ。でも俺は、任務を片付けるだけだ)」 トウマルの表情は普段と変わらず、冷静さを保っているように見えた。彼が本当に何も感じていないのか、それとも考えないようにしているのか。真相は、誰にも分からなかった。 ● 「そこまでだ。お前達のボスは我々が捕えた」 捕縛した首謀者を見せつけるようにベルトルドが宣言すると、リバティ戦線の者たちは急速に戦意を失っていった。救護が可能な浄化師は、敵味方を問わず怪我人の近くに駆け寄る。 「……俺たちはどうせ処刑される。治療したって無駄だ」 シンティラが治療しているのは、浄化師に強い怒りと憎しみを向けていた男だ。彼には最早、救いの手を払いのける力すら残されていない。 「それでも、私たちはあなたを助けます。私たちの使命は、世界を――人々を、守ることですから」 明日さえ見えない世界でも、それだけは譲れなかった。男は観念したように目を瞑る。男の顔は、シンティラよりも幼かった。 「かーくん、少し待って。この人を縛るのは腕を治してからだよ」 楓が敵を縛り上げていると、彼はアユカに制止される。倉庫への突入に手間取ったとはいえ、双方ともに死者が出ることはなかった。アユカを悲しませるような結果だけは避けられたことに、楓は安堵した。 上層では、リラが要人の治癒に付きっ切りになっていた。戦闘能力では一般人と大差ない彼の消耗は激しく、状況は予断を許さない。駆け付けたリチェルカーレは、リラの様子を見ると戦線の戦闘員の治療に回った。深い傷を負った彼らを放っておくことも、同じくらいに危険だった。 「奴隷制度が許せないのは私たちも同じです。だけどそれは、私たちだけではどうすることもできません。だからせめて、あなたたちの怒りや悲しみは、私たちが絶対に覚えておきます」 うなだれる戦闘員を治療しながら、リチェルカーレは彼らに言葉をかけた。それは自分への誓いでもあったのかもしれない。 「戦線の阿呆どもにも治療とはな。――さて、そろそろ良いか」 治療が終わったのを見計らい、クヴァレは外へ出て呼子を鳴らす。すると路地のあちこちで待機していた自警団が現れ、次々とリバティ戦線の者を連行していった。クヴァレによれば、リバティ戦線所属者の処刑は、過去の例に照らし合わせてもまずないだろうとのことだった。追い込まれた奴隷は時折、彼らを縛る『スティグマ』を消すために主人や奴隷商を殺そうとする。ここに居るリバティ戦線の者たちも、あるいはサヴィーニによって助け出されたのかもしれなかった。 「クヴァレ、と言ったよな。思惑は何だ」 倉庫内で自警団を手引きする男に、楓は問う。男は何も答えず、右足を引き摺って倉庫上層へと昇っていった。 「よう、サヴィーニ。冥途の土産に顔を拝ませてやりたかったが、無理みたいだな」 煤まみれのクヴァレは魔術師を見下ろし、それから要人を見た。彼はようやく意識を取り戻したが、治療していたリラは魔力をかなり消耗したようで青白い顔をしていた。 「それで、魔導書なんて本当にあったんですか?」 手当の終わった響が尋ねる。浄化師は全員、上層に集まっていた。クヴァレが首を横に振ると、落ち着きを取り戻した要人が口を開いた。 「魔導書の存在は確認されていない。情報そのものが罠だったようだ」 「でしょうな。サクリファイスは魔導書に興味が無い。どちらにせよ、あんなことを言ったのが運の尽き――」 言いかけたところで、クヴァレはコートを強く引っ張られて仰け反る。振り向くと、怒ったセアラが立っていた。 「手当も終わらないうちに動くなんて、怪我が悪化したらどうするんですか!」 彼女の気迫に押され、彼は流されるままに治療を受ける。キリアンはそれを、にやにやと眺めていた。 ● 一行は要人と気絶したままのサヴィーニを連れ、拠点の宿まで戻った。宿には見慣れない制服の教団員たちが待機しており、彼らは一行が入るや否や首謀者の引き渡しを求めた。彼らはクヴァレと要人に何事か話したあと、サヴィーニを担いで宿を出る。男の処遇について尋ねると要人は言葉を濁し、クヴァレは一言「忘れろ」と告げて口を閉ざした。 「エティエンヌ・マルケだ。普段は教団で魔導書捜索の任に就いている。私のせいで迷惑をかけた、申し訳ない」 「あなたの救出を決めたのは浄化師たちです。感謝なら彼らにしてください」 クヴァレの言葉を聞くと、彼は浄化師たちに深々と頭を下げる。彼らはレヴェナントと協力関係にあると言っていたが、詳しいことまでは分からなかった。 「そこの眼鏡の兄さん。さっき、俺の思惑がどうとか言ってたな」 話が終わったのを見計らい、クヴァレが口を開いた。 レヴェナントの原型は、かつて世界各地に存在した幾つもの民間団体や互助組織、秘密結社などだ。目的はその頃と変わっていないが、彼らが教団の正規組織として統合される際、レヴェナント初代長官は一つの掟を定めた。 それは「仇敵が法に裁かれることによってのみ、われらの復讐は果たされる」というもの。それから彼らは私的制裁の一切を禁じ、掟を破った者には厳しい処罰を加えている。どれだけ相手を憎んでいようとも、彼らを裁くのは国家や司法でなければならない。それがレヴェナントが敵対者との間に引いた、明確な一線だった。初めて会った時と変わらぬ調子でそう話す男の印象は、今では随分違っていた。 「才能のない俺達は全てを捨てて、復讐のためだけに生きている。強気なんじゃない、失うものがもう無いだけさ」 そう嘯くクヴァレの影は、新月の闇のように暗かった。レヴェナントの所属者は、そのほとんどが魔術師や浄化師ではない一般の人間だ。天賦の才を持たない彼らは厳しい訓練を積み、様々な道具を用いて戦闘能力を補う。クヴァレが度々口にしていた水筒の中身も、魔術への防御力を補うためのポーションだった。 彼は浄化師たちに礼を述べたあと、「また会うこともあるかもな」と言い残し、添え木の当てられた右足を庇いながら部屋に戻った。 翌日、浄化師たちは指令の報告のため、マルケと共にエルドラドへの帰途に着いた。クヴァレは朝早くに宿を去ったようで、浄化師たちが起きた頃にはもう、彼の姿は無かった。扉を開けて外に出ると、強い夏の日差しが一行を照らす。空は胸が痛むほど眩しく、青く、そして広かった。
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*** 活躍者 *** |
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[54] ガルディア・アシュリー 2018/06/27-23:44
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[53] ロス・レッグ 2018/06/27-23:26
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[52] トウマル・ウツギ 2018/06/27-23:21
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[51] グレール・ラシフォン 2018/06/27-22:49 | ||
[50] セアラ・オルコット 2018/06/27-22:46
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[49] ベルトルド・レーヴェ 2018/06/27-22:33
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[48] セアラ・オルコット 2018/06/27-21:56
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[47] 花咲・楓 2018/06/27-21:54 | ||
[46] ロス・レッグ 2018/06/27-21:37 | ||
[45] ベルトルド・レーヴェ 2018/06/27-21:24
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[44] トウマル・ウツギ 2018/06/27-21:17
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[43] ガルディア・アシュリー 2018/06/27-20:38 | ||
[42] キリアン・ザジ 2018/06/27-20:38 | ||
[41] 響・神原 2018/06/27-20:30
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[40] リチェルカーレ・リモージュ 2018/06/27-20:25 | ||
[39] セアラ・オルコット 2018/06/27-19:54 | ||
[38] ロス・レッグ 2018/06/27-19:38 | ||
[37] ベルトルド・レーヴェ 2018/06/27-17:51 | ||
[36] ガルディア・アシュリー 2018/06/27-17:04 | ||
[35] ロス・レッグ 2018/06/27-12:58
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[34] ロス・レッグ 2018/06/27-12:58
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[33] キリアン・ザジ 2018/06/27-10:45
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[32] キリアン・ザジ 2018/06/27-10:40 | ||
[31] ガルディア・アシュリー 2018/06/27-06:44 | ||
[30] ベルトルド・レーヴェ 2018/06/27-03:54 | ||
[29] ヨナ・ミューエ 2018/06/27-03:53 | ||
[28] キリアン・ザジ 2018/06/27-02:50 | ||
[27] グレール・ラシフォン 2018/06/27-01:17 | ||
[26] ガルディア・アシュリー 2018/06/27-00:59 | ||
[25] トウマル・ウツギ 2018/06/27-00:09 | ||
[24] 花咲・楓 2018/06/26-23:52 | ||
[23] グレール・ラシフォン 2018/06/26-23:14 | ||
[22] ガルディア・アシュリー 2018/06/26-23:00 | ||
[21] シリウス・セイアッド 2018/06/26-21:12 | ||
[20] シンティラ・ウェルシコロル 2018/06/26-19:54
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[19] ロス・レッグ 2018/06/26-19:42 | ||
[18] ヨナ・ミューエ 2018/06/26-18:26 | ||
[17] ガルディア・アシュリー 2018/06/26-07:50 | ||
[16] キリアン・ザジ 2018/06/26-02:02 | ||
[15] 響・神原 2018/06/26-01:39
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[14] ガルディア・アシュリー 2018/06/26-01:30 | ||
[13] ロス・レッグ 2018/06/25-23:52 | ||
[12] リチェルカーレ・リモージュ 2018/06/25-23:33 | ||
[11] トウマル・ウツギ 2018/06/25-21:30 | ||
[10] ガルディア・アシュリー 2018/06/25-20:21 | ||
[9] ロス・レッグ 2018/06/25-18:54 | ||
[8] ヨナ・ミューエ 2018/06/25-18:06 | ||
[7] ガルディア・アシュリー 2018/06/25-00:17 | ||
[6] ロス・レッグ 2018/06/25-00:14 | ||
[5] 響・神原 2018/06/24-15:41
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[4] トウマル・ウツギ 2018/06/24-02:17
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[3] ヨナ・ミューエ 2018/06/24-00:23
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[2] セアラ・オルコット 2018/06/23-12:49
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