《悲嘆の先導者》フォー・トゥーナ Lv 41 女性 ヒューマン / 墓守


司令部は、国民から寄せられた依頼や、教団からの命令を、指令として発令してるよ。
基本的には、エクソシストの自由に指令を選んで問題無いから、好きな指令を受けると良いかな。
けど、選んだからには、戦闘はもちろん遊びでも真剣に。良い報告を待ってる。
時々、緊急指令が発令されることもあるから、教団の情報は見逃さないようにね。


愛づる密月とドッペルの恋模様
簡単|すべて

帰還 2020-05-07

参加人数 8/8人 留菜マナ GM
 『レヴェナント』。  それは、薔薇十字教団の管轄下で、世界各地で終焉の夜明け団とサクリファイスの動きを追っている組織である。  組織は志願制を採用しており、所属者の社会的身分は様々だ。  大抵は『終焉の夜明け団』、『サクリファイス』に深い恨みを持つ者が志願している。  彼もまた、かってサクリファイスが引き起こした事件に巻き込まれ、平穏な生活を奪われた者だ。  その事をきっかけに、レヴェナントへと志願し、戦いに明け暮れる日々を送っていた。  教皇国家アークソサエティ『ブリテン』に存在する、ブルーベルの丘。  その近くにある村に泊まったレヴェナントの男は、そこで奇妙な光景を目撃した。  それは夢だった。  自分が見ている夢の中のはずだった。  口まわりにクリームをつけ、苺を頬張る幸せそうな男の子。  レヴェナントの男は、隣に立つ女性と共にその笑顔を微笑ましく眺める。  それは幸せだった家族の風景。  子供の誕生日を祝う、在りし日の光景。  しかし、本来、その場には居合わせていなかったはずの少女がそこに立っていた。  自分はその少女の事を知らない。  しかし、少女は真っ直ぐにレヴェナントの男を見つめてくる。  銀色の長い髪。  夢幻的な不思議な光を宿した紫水晶の瞳。  何もかも見抜いてしまうようなその叡智の目は――彼が抱える運命も宿命も見透かしているような気がした。 「見つけた」 「えっ……?」  少女が祈りを捧げるように指を絡ませる。 「あなたです」  少女は子守歌のように言葉を紡ぐ。 「私が探していたのはあなたです」  目を見瞠るレヴェナントの男は、ただ静かに少女の次の言葉を待つ。 「どうか、この世界をお救い下さい」  レヴェナントの男は、彼女の姿を目に焼きつける。  不可思議で、どこか幻想的な光景を、レヴェナントの男は微睡みから醒めるまで静かに見守っていた。 ●  夜明けの囀りが響く前に、少女はブルーベルの丘を彷徨っていた。  ブルーベル。青い釣り鐘型の花姿。  美しく幻想的な群生に魅力され、この時期になると多くの人々がこの場所を訪れる。  だが、今は、彼女以外には誰もいない。  聴こえる闇の静寂に呑み込まれそうになる。  孤独の破片が、彼女の胸を打つ。 「あっ……」  やがて、少女は表情に笑みを刻ませる。  その理由は、あるべリアルと出逢えたからだ。  彼の名は、ギガス。  もっとも強力な3体のべリアルの1人。  少女は――プリムローズは、サクリファイスの幹部の生き残りの1人だった。  あの日、カタリナ達と共に、ギガスに出会った事で彼女の運命は変わった。 「励んでいるな」 「お久しぶりです、ギガス様」  ギガスの言葉に、プリムローズは膝を付き、頭を垂れた。 「私も他の幹部の方と同じように、神の救済の――ギガス様のお力になりたい。ですが、私の力では他人の夢に干渉し、囁く事しか出来ない」 「その在りよう、善き哉」  ギガスは両手を合わせ、プリムローズに返す。 「主は、自らを卑下する必要はない。今より善くなろうとする在りようは、主をより望む自分へと近づけるであろう」  そう言うと、ギガスは柔らかな笑みを浮かべ言った。 「主の在りようは、儂の目指した在りように似ておる」  ギガスは、プリムローズを力付けるように、自らの在りようを語る。 「儂はコッペリアのように器用でも、トールのように持って生まれた才能が高いわけでもない。少しばかり頑丈なだけの凡百よ」  プリムローズの悲痛な想いに応えるように、ギガスは続ける。 「ゆえに、鍛えた。武術を、魔術を。コッペリアやトールのように、あの御方のお役に立つために。儂に出来たのは、努力を積み上げることだけであったからな」 「努力……。私のような者でも、神のお力になれるのでしょうか……」  打ち震える様子で漏らしたその言葉に、ギガスは応えた。 「うむ。励むが善い」 「はい……」  顔を上げたプリムローズは、感極まる気持ちで心を踊らせた。  ここに眠る夢物語。  遠く光る星は全てを照らしている。  私は今日もまた、他人の夢に囁き続ける。  いつか、私達の現実(ゆめ)を叶えるために――。 ●  なだらかな丘に、曙光が差し込んでいた。  春の靄が漂い、周囲のブルーベルの花が艶やかに湿る。  一面に広がる青紫の絨毯が続く光景は、神秘的な雰囲気を醸し出していた。  教皇国家アークソサエティ『ブリテン』に存在する、ブルーベルの丘。  そこで行われている花の祝祭。  訪れた人々は、咲き誇った花を楽しみ、周辺を散策している。  儚げな蝶が舞い、近くには多くの出店が開かれていた。 「見て見て、ブルーベルの花で作ったリース、すごく綺麗」  パートナーが意気揚々にそう言ったのは、出店に置かれたブルーベルのリースを発見した時だった。  ブルーベルの花には、不思議な言い伝えがある。  ブルーベルの花で作ったリースを頭に被ると、どんな人間でも真実のみを語るように誘導されるという。  また、ブルーベルのリースは、その輪の中のひとつの花を破らず、ひっくり返すことに成功したら、恋が叶うというお話もあった。  ただ、言い伝えの為、真偽は定かではない。  だが――。 「恋が叶う……」  指令に同行していたドッペルは、お店の人からその言い伝えを聞いて目を輝かせていた。  お店の人の許可を得たドッペルは、必死にブルーベルのリースをひっくり返そうとする。 「あ……」  何度も挑戦してみる。  しかし、どうしても上手くいかない。  ドッペルは悲しげに肩を落として、あなた達のもとへと歩を進めた。 「それにしても、『夢の聖女』か。この周辺で眠ると時折、夢の中に現れるかもしれない少女。何者なんだろう」 「うん。夢の中で予言めいた言葉を残して、立ち去るのよね。それに、その少女の夢を他の人が見ている場合、それ以外の人々の夢の中には現れないという特徴があるみたい」  パートナーが発した情報に、あなたは注目する。 「夢に干渉する能力の対象は一人、ブルーベルの丘周辺のみに発動し、それ以外の場所では行使する事が出来ないんだな」  異変の調査の為に、あなた達は周囲を警戒しながら出店を練り歩いていった。 「あ、あの」  その時、周辺を行き交っていた少女が、あなたを呼び止める。 「えっ?」  あなたが不思議そうに首を傾げると、少女は肺に息を吸い込んだ。  躊躇いも恐れも感じてしまう前に、少女は声と一緒にそれを吐き出した。 「私、あなたが好きです」 「なっーー」  少女の思わぬ告白に、あなた達は輪をかけて動揺する。  しかし、あなたに告白してきたのは、彼女だけではなかった。 「私もです!」 「お願いします! サインして下さい!」  いつの間にか、あなた達の周りは、熱狂的なあなたのファン達によって溢れ返っていた。 「……ど、どういう事なんだ?」 「この間、見た夢の中で、夢の聖女様が言っていたんです。ここで待っていたら、私の運命の人に会える、と」 「私も同じ予言を受けました」 「あっ、俺はここで待っていたら、浄化師さんに会えるって言われた」  矢継ぎ早の展開。  それも唐突すぎる流れに、あなた達は驚きを禁じ得なかった。
お家騒動に関わろう
普通|すべて

帰還 2020-05-03

参加人数 8/8人 春夏秋冬 GM
 東方島国ニホン。  その中枢はエドだ。  将軍を擁し、ニホンにある無数の諸藩を統治している。  そんなエドに隣接する場所に、かつてムサシの国と呼ばれた場所がある。  現在では、幕府直轄地であるそこには、強力な武士団がいた。  八狗頭(やくと)家を筆頭とする、真神(まかみ)武士八家である。  狼の八百万の神である大口真神(おおぐちまかみ)を氏神とする彼らは、犬や狼のライカンスロープで構成され、勇猛果敢であり卓越した武力を持っている。  幕府直轄地を治める者として、エドに何かあれば即座に軍を率いてはせ参じることを責務としていた。  それほどの役を幕府より仰せつかるほど、彼らに対する信頼は篤い。    逆に言えば、彼らに何かあれば、幕府もタダでは済まないということではあるが。  そんな彼らには今、不穏な空気が漂っている。  それは御家騒動が原因だ。  八家で構成される彼らは持ち回り制で、八家当主を選出している。  その任期は30年。  任期中に、何らかの理由で当主が亡くなれば、次の家に引き継ぐことになっている。  そうしたことがなくても、30年が過ぎれば自動的に次の家に当主が引き継がれる制度。  これは独裁を防ぐ仕組みであり、それを維持するため、厳しい決まりもあった。  それは長子後継。  男女性別関係なく、八家の当主を継ぐのなら、長子でなければならない。  長子が八家当主を継ぐ前に亡くなった場合は、その家は当主を継ぐ順番を飛ばされ、次の家の長子が当主の座に就くことになっていた。  これら全ては、余計な後継者争いをしないよう、氏神である大口真神との取り決めで定まったことだ。  だからこそ今でもかたくなに、この制度を続けている。  しかしそのせいで、今お家騒動が起きていた。  理由は、新たに当主の座に就くことになった八狗頭家が原因だ。  いま八狗頭家では、長子である娘が随分と前に出奔して居なくなっている。  それでも生きていれば、時間稼ぎをしている間に探してくる手段もあり得たが、今はそれも出来ない。  なぜなら少し前、出奔した娘の子が浄化師になっていることが分かり、彼から既に亡くなっていることが伝わったからだ。  これにより、それまで荒れ気味だった八家は、大いに紛糾した。  理由は、誰を次の八家当主にするか、である。  順当にいけば、八狗頭家の次に権利がある斉藤家が継ぐ筈だが、これも出来ないでいる。  なぜなら、斉藤家の長子である息子も出奔していたからだ。  しかも出奔した時期は、八狗頭家の長子の娘が出奔した時期と全く同じであり、娘の子である人物は、斉藤家の出奔した息子の面影まで持っていた。  普通に考えれば、八狗頭家と斉藤家の長子2人が、手に手を取って駆け落ちしたとしか思えない。  けれど、八狗頭家と斉藤家の双方が強烈に否定した。  そして斉藤家は、自分の所の長子は死んでいる筈がないと言い出し、次の八家当主を継ぐのは我が家だと主張。  そこに、斉藤家の次に権利がある藤原家が、自分の所にこそ八家当主の資格があると言い出した。  事態は、完全にドロ沼へと行きそうになっていた。  そこに助け舟を出したのは、ニホンの八百万の神をまとめる、なんじゃもんじゃだった。 「お互い、言いたいことはあるのでしょう。ですが、それで争ってはなりません。  どうでしょう、ここは、貴方達の氏神である大口真神に会いに行き、次の当主に関する取り決めを新たにしてみては」  これに八家の当主達は、しぶしぶ従った。  なにしろ、自分達の氏神である大口真神が仕える神が、なんじゃもんじゃである。  天之御柱(あまのみはしら)の異名を持つなんじゃもんじゃは、一説によれば、この国が出来る以前から居るとされるほどの古い神。  八百万の神に強い畏敬を払う彼らが、逆らえる由もなかった。  そして、なんじゃもんじゃは、さらに彼らに言った。 「いま大口真神は、私の迷宮である富士樹海迷宮に居ます。貴方達の代表者をそれぞれ選出して、会いに来なさい。  ただし道中には、侵入者を排除する守護者や罠があります。気を付けて。  そして浄化師に、此度の見届け人として参加して貰います」  これに疑問の声が次々上がる。  それを全て聞いた上で、なんじゃもんじゃは言った。 「公平かつ冷静な観点から意見を言える者が必要だからです。今の貴方達は、少し頭に血が上っています。  それでは、まともな話し合いは出来ないでしょう。  貴方達の頭を冷やす意味で、部外者である浄化師が必要なのです」  キッパリと、なんじゃもんじゃに言われ、渋々受け入れる八家だった。  それから数日後。  教団本部に指令が出されました。  内容は、お家騒動を治めるため富士樹海迷宮に行くので、同行して欲しいとの事でした。  これを受けたアナタ達は、ニホンに赴くことに。  現地では、それぞれの家の当主と直系の家族が数人、連いて行くことになっています。  例えば八狗頭家からは、当主である八狗頭源隆斉(やくとげんりゅうさい)と、彼の息子である青葉(あおば)が同行します。  斉藤家からは、当主である斉藤万斉(さいとうばんさい)と、彼の息子である素月(そげつ)、そして従兄弟であり神選組隊士である一(はじめ)が同行します。  他の家も同じように、当主とその子供や、近しい人物が同行することになっています。  かなりピリピリとした空気が漂う中、アナタ達は、彼らと共に富士樹海迷宮に訪れることになりました。  その頃、富士樹海迷宮の中では、ちょっとした騒動が起きてました。 「少しぶっ飛ばしましょう」 「落ち着かれよタケル殿」  やる気満々の守護天使、光の王ヤマトタケルを、狼の八百万の神、大口真神が必死に止める。 「お優しいことです。真神殿」  タケルは目元を抑えながら言った。 「しかしこれは義務なのです。あのバカ子孫共に、鉄拳を食らわしてやらねば!」 「貴方は守護天使なのだからそういうことをしてはダメでしょー!」  大口真神の制止を聞かないタケル。  ちなみに、守護天使は人間の英雄や聖人の魂を核にして創造神により作られるのだが、ニホンを担当している光の王は、元ニホンの武人である。  ニホン平定に大いに力を発揮し、現在の武士の開祖でもある彼の子孫は、武士の中にはかなり居る。  つまりは、いまお家騒動をしている八家も、遠く祖を辿れば、タケルに行き着く。 「止めないで下され! 子孫の不詳は我が不詳! 性根を叩き直しまするー!」 「だからそれは人間の頃の話でしょう! 前世の話を一緒にされてはダメですってー!」  なんとか止めようとする大口真神ではあるが、止められそうにない。  十中八九、迷宮を進んでいく途中で襲撃しに来るだろう。  この状況、アナタ達は、どう動きますか?
秘紅のプリフィア
普通|すべて

帰還 2020-05-01

参加人数 5/8人 留菜マナ GM
 ドッペル達の存在理由は、産みの親であるイヴルに尽くすことだ。  とりわけ、最も優れた個体として選ばれたドッペルは、その想いが一際強かった。  それはもはや、忠誠心というより、恋慕の情に近い。  だから、ドッペルは――彼女の仮面を被った。  声を聴かせて。  私を見て。  その瞳に映して。  ありのままの私でいられるように、あなたの側にいたい。 ● 「お願い、イヴルを止めて!」  アルフ聖樹森。 『ヴァルプルギス』一族の氏神となっている、リスの八百万の神。  彼女が住まう森の集落に、あなた達は訪れていた。 「止める?」 「イヴル、約束を果たしたら死んじゃうの」  あなたの疑問に呼応するように、少女があなたの裾を引っ張る。  少女は、『ヴァルプルギス』一族の氏神となっている、八百万の神『リシェ』だ。  自身の姿を変化させて、人の姿を取っている。  リシェは、集落に住むドッペル達から、イヴル達が為そうとしている事を聞かされた。  そして、彼が行おうとしている『理想の約束』の真実を知ったリシェは、教団に助けを求めてきたのだ。 「イヴル達は、あなた達と戦って死ぬつもりなの」  簡潔な言葉。  だが、その答えの描く醜悪さに、あなた達は絶句する。 「お願い……。イヴル達を助けて……」  リシェが縋るように呟く。  その力強さが、彼女の願いの強さを物語っていた。 ●  それは、春の麗らかな気候だった。  純白の花が場違いな長閑さで咲き誇っている。  陽光は彼らを祝福するように、きららかに満ちていた。  その為に尚一層、花畑の先にある町の悲惨は明瞭に際立った。 「ここか」  サクリファイスの幹部であるラウレシカに招かれて、イヴル達は落日に染まる町の廃墟を訪れていた。  待ち合わせの場所へと向かっていたイヴルは、記憶を辿るように町の廃墟へと視線を巡らせる。  脳裏に多くの人達が過ぎ去り、幾多の光景が遠退く。  最後に広がったのは、あまりにも鮮明な故郷の景色。  それは決して叶わなかった憧憬が見せた一瞬の幻だった。  帰れない場所。戻れない日々。今更のように胸を衝く激しい悲しみ。  だが、それでもイヴルはその哀切を振り切る。  幼い頃に、カタリナとともに求めた理想を体現するために――。  それは、イヴルにとって、今も昔も変わることのない不変の事実だった。 「ラウレシカは何処にいる……?」  噂をすれば影。  やがて、イヴル達は視界に彼らの姿を捉える。  ラウレシカは感極まる思いで跪き、祈りを捧げている。  イヴルが着目したのは、ラウレシカが敬っている禿頭の巨漢べリアルだった。  イヴルが感じた強大な魔力は、過去からの警鐘。 「主は、カタリナと縁があった者だな」 (――カタリナの事を知っているのか?)  イヴルが最初に思ったのは、そんな疑問だった。 「……誰だ?」 「儂は、最硬のギガス」  イヴルの疑問に、3強の1人――ギガスは名乗った。 「イヴル。貴様の為そうとしている事は、ギガス様にお伝えしている」 「……っ」  ラウレシカの言葉に、イヴルの表情が言いようもない陰りに覆われる。 「ラウレシカ、あなたは――」 「いつまでカタリナ様を騙るつもりだ、ドッペル」 「――っ」  ラウレシカの指摘に、擁護しようとしたカタリナは――ドッペルは当惑の色を見せた。 「お主は、エリクサーを生成しようとしているのだな」 「ああ」 「基は悪なり」  ギガスは両手を合わせ、言葉を続ける。 「それはカタリナを蘇らせることではない」 「――っ」  ギガスに諭され、イヴルは言葉を詰まらせる。  夕陽に照らされた顔は、不安をより浮き彫りにしていた。 「……私は、カタリナを蘇らせたい訳ではない。カタリナとの約束を果たす為に、エリクサーが必要なだけだ」 「イヴル……」  イヴルが留められない憂いを口から零すと、カタリナの表情に更なる影が落ちた。 「エリクサー無しでどうすればいい?」 「うむ」  ギガスは首肯し、カタリナを一瞥する。  すると自身の片腕を手刀で切り落とし、それを代償に強力な魔結晶を作り上げた。 「受け取るが良い。カタリナは善き者であった。彼女と主に縁があるというのなら、力を貸そう」  切り落とした腕を急速再生させながら、ギガスは言った。 「魔結晶……。これなら、エリクサーが無くても、カタリナとの約束を果たす事が出来る」  抑えようとしても抑えることのできない情動。  切実な何かを秘めた瞳がそこにあった。 「だが、滅ぼされれば、それは叶わぬ。浄化師達が来ているようだ。逃げるか?」 「そのつもりはない」  イヴルは即座に否定する。 「主がカタリナの理想を成そうというのなら、儂も興味がある。主の行く末を見届けよう」  ギガスの言葉に、イヴルは強く頷いた。  教団を憎む程に受けた苦しみ。  裏を返せば、それはカタリナを深く愛していたという証左でもあった。 「そうか……だが、心せよ。浄化師は、強い。今の主では、容易い相手ではない。それでも、逃げる気はないのだな?」 「ああ」 「その在りよう、善き哉。ならば戦い殺せ。叶わぬなら、滅ぼされるが良い。その苦悩、必ずやあの御方と……天上にいるカタリナに届くであろう」  イヴルは毒気を抜かれたように、強張っていた頬を緩める。 「カタリナ。あの日の約束を果たす為に、先に花畑で歌ってほしい」 「はい」  イヴルの決意に、カタリナは肩の荷が下りたように笑みを浮かべた。
行 き 止 ま り
普通|すべて

帰還 2020-04-26

参加人数 7/8人 土斑猫 GM
 その日の夕刻。教団本部の表門前で、男の遺体が見つかった。  状況から外部から持ち込まれたモノと推察されたが、微量の魔力残滓以外犯人に繋がる痕跡はなく。  所持品から、男がサクリファイスの支部構成員。それも、相応の立場にあった事が判明。さらに、集めた残党と共に無差別テロを計画していた事も分かった。  内容より、本人が死亡していても実行に支障なき事は明白。実行予定の時刻までに間はなく、教団は急遽対応に追われる事になった。  騒めきの中、より詳しい情報を得ようと行われた検死解剖。遺体の胸部を開いた執刀医の手から、メスが落ちる。  開胸と共に溢れ出る、大量の血。奥にあったのは、『原型を留めぬ程に、溶け崩れた心臓』。  行き着く死因、ただ一つ。  ……『殺人現象(タナトス)』……。  誰かの震え声が、呟いた。 ◆  夜の始まり。『レム・ティエレン』は小高い丘の上から、広がる街を見下ろしていた。  奥。耳を澄ませば、聞こえる喧騒。手前。ひっそり昏く、病んだ寝息。 「……くだらねぇ……」  吐き捨てる。  希望。未来。正義。愛。  人を。街を。世界を飾る、色とりどりの造花。  けれど、そのどれも、彼を抱いた事はない。  知る術なく。  得る術なく。  求める術なく。  眺める事すら、叶わなく。  生きる事。ただ一日だけを、蛇蝎の如く生きる事。全て。ただ、それだけが全て。  けど、それさえ今は意味がない。  消えた。  たった、一つ。繋がっていた筈の、絆が消えた。  意味はない。  もう、この世界に。何の意味も、未練もない。  けど。  だけど。  遺してやる。  取るに足らない蟲だけど。  飛ぶだけで落とされる蠅だけど。  おれが在った証。  あの女(ひと)が居た証。  おれ達が、確かに生きてったって証。  上辺だけを攫って悦に入ってる、『アイツ等』に。  遺してやる。  刻んでやる。  痛い。痛い。傷として。  そして、地獄に堕ちる手土産に。  せめても、神の生皮一枚。 「待ってて。『姉貴』……」  写真もない。  形見もない。  在るのはただ、虚ろな虚ろな記憶の像。  その彼女に口づけし、小さな獣人は丘を駆けた。  誰も、いなくなった丘。  小さな小さな、墓標が一つ。  そこに、かの女(ひと)はいない。  戻ってない。  ずっと。きっと。永遠に。  空っぽの墓標。  刻まれた名は。  ――『テナ・ティエレン』――。 ◆  空は、いつしか漆黒の雨雲に覆われていた。  夜の闇はより深く。より濃ゆく。照らす街灯も、虚ろな程に。  雨の、気配。察した人々は、足を速める。急ぐ帰路。取り込む、看板。  最後の家の戸が閉まり、街はほんの少し、早い眠りに落ちる。程なく降り始めた、雨。闇と水。二つの帳に包まれて、街は眠る。水底の様な褥の中で、混々。混々と。深く眠る。  いつもより、深い眠り。だから、誰も気付かなかった。  闇の向こうから迫る、真っ赤な光の群れに。  雨音を破り、眠れる街に襲いかかったモノ。それは、激流の氾濫と見紛う程の『ネズミ』の群れ。双眼を殺戮の衝動に染め上げたソレらは、人々の居住に到達するや否や、ガチガチと鳴る歯牙で壁を穿ち始める。  木板だろうと煉瓦積みだろうと、関係ない。瞬く間に齧り崩し、家の中へと雪崩込む。  あちこちから響く、絶叫。断末魔。肉を喰み、骨を齧る音。街路に溜まった水溜りが、見る見る内に赤く染まる。  魔鼠の食卓と化した家から、辛うじて逃げ出した人々。無数の噛み傷と叩きつける雨の痛みに怯えながら、見る。  街に溢れる魔鼠。その身体で蠢く触手。光る赤紋。魔方陣。  ――ベリアル――。  到達した結論に、彼らは再び悲鳴を上げた。 ◆  宣告された時間に対して、教団の動きは早かった。  それでも尚、時間は足りず。  大量のベリアルと被害者保護に対応するための、人員確保。  状況を打開する為の、魔術道具の手配。  大人数を短時間で転送する為の、準備。  全ての見通しを立て、行動が開始されたのは事が起こってから一時間と少し後。届く報告は、現場の切迫した状況を伝え続ける。  少しづつ浄化師を送り届けながら、練り上げる対策。  男の遺品から判明した計画。それは、文字通りの無差別テロ。  ラット・ベリアルを半永久的に召喚し続ける、『永続召喚符』六枚。  ベリアルの召喚数に連動して起爆する、『簡易型ヘルヘイム・ボマー』六枚。  そして、それら全てを街中に配置し、簡易型の起爆が阻止された場合、それを強制的に起爆させる『起爆装置』を所持した『実行犯』一人。  広い街の何処かに散りばめられた、これらの要素(ファクター)。全てを潰さなければ、計画の完全な阻止には至らない。  こうしている間にも、ラット・ベリアル達は魂を喰らい、進化する。  こうしている間にも、召喚符はベリアルを吐き出し、起爆の条件を満たしていく。  選ばれた浄化師チームに、術を託して送り出す。  時は、ない。 ◆  逃げ惑う人々に紛れ立ち、レムは地獄を見つめる。  道々には、魔鼠に貪られる骸。齧り崩された家材に、ランプの火が引火したのだろう。幾つかの家々からは、火の手が上がっている。炎に照らされる水溜りは濁った赤に染まり、ギトギト、ギトギトと重く光る。  人々の悲鳴。苦痛。断末魔。  満ちる死臭。鉄錆の臭い。  足元に、鼠に全身を集られた女性が倒れる。腕の中には、乳飲み子一人。もう、泣き声も上げない。それでも。せめてと言う様に、愛子の亡骸を差し出す。彼に、向かって。 「……見えてねぇ、筈なんだけどな」  レムは、『カメレオンヴェール』を羽織っている。魔力による、光学迷彩。魔力探知系の能力がなければ、認識は不可能。だから、かの母親のした事。それはきっと、想いが成したささやかな奇跡。  けれど。 「それだけだよな」  事切れた親子。カリカリ、カリカリと齧られていくそれを見下ろしながら、レムの表情は変わらない。  鼠に齧られる死体なんて、掃いて捨てる程見てきた。ドブ川の中か。街の中か。ただ、それだけの違い。  視線を上げて、空を見る。  降りしきる雨。その下に仕掛けた、召喚符とヘルヘイム・ボマー。もう少しで、ベリアルの召喚が設定数に達する。そうすれば、この街は終わり。  まあ、そんな事に興味はない。  人の生き死になんて、蠅のそれと同じくらいに意味がない。  自分も、含めて。  けど。  それでも。 「ほら、来いよ」  それでも。 「死んじまうぞ?」  傷は、遺そう。 「皆、死んじまうぞ?」  せめても。 「こんなチンケな街の連中でも、お前らには大事な御輿の一つだろ?」  せめても。 「だから。だから」  自分が。あの女(ひと)が。 「早く来い」  この世界に、確かに在った証を。 「浄化師共――」  雨が降る。  爛れ切った心。  行き止まりの、心に。  シトシト。  シトシト。  雨が、降る。
炎熱の理想郷
普通|すべて

帰還 2020-04-24

参加人数 8/8人 あいきとうか GM
●炎天の魔術王  仕方ないと思う。  人類は過ちを犯すものだ。完璧の存在である創造神ではなく、全知全能の権能を与えられた守護天使でもないのだから。  他の種族よりほんの少し上の知性と引き換えに禁断の果実を齧った。  欲を抱き猜疑に浸かり争い、犠牲と悲哀が更なる骸の山と血の河を求める。  それだけのことなのだ。ならば仕方ない。  そういうものだと思いながら見守ってやるのが、守護天使の役目なのだろう。世界を脅かすほどの過ちを犯すときにこそ、咎めてやればいい。  他は些事だ。  長い歴史の中の、きわめてささやかな波紋のようなもの。 「父上のゲームだとか、世界の崩壊だとか、本当はどうでもいいんだ。父上が決めたことなら仕方ないし、人類がそれに抗おうとするのも仕方ない。世界と心中しろと言われて、素直に首を縦に振る『種族』はいないだろう?」  個としてはあるかもしれず、こと人類においてはその『個』が寄り集まって『群』を作るかもしれないが。  それが種族の総意とはならないだろう。むしろ圧倒的な少数派のはずで、多数派に淘汰されるに違いない。 「でもまぁ、俺は無関心なわけでもないんだ。滅ぼすというなら滅ぼしてみればいいし、抗うというなら神すら殺して完全なる人の世を創ってみればいい。俺は観客席からそれを見よう」  サボテン酒でも片手に。  燃えるような赤髪の男は人類の王が住まう建物のてっぺんで、そう嘯く。  この国でも最近、大きな事件があった。全貌は知っているがそれを誰かに語るつもりはない。  真実を後の世に伝えるのは今を生きる人類の役目だ。その過程で多少ねじ曲がったところで、男は気にしない。 「草の一本も育たないような熱砂の地で、水があふれた。世界で一番長い川。魔術師と呼ばれる者たちに価値を見出された川」  懐かしいなと思う。  この国の最初の王は魔術を用いて大河を氾濫させ、砂地を水浸しにした人類だった。  以後、代々の子孫は王の証として年に一度、川を溢れさせ砂漠に水を撒いている。溢れた水は焼けた砂をいっときだけでも潤して、遥か底に命の種を埋めこむ。  強い生命は灼熱の日差しにも凍えるような夜にも、平時は水の一滴を手に入れるにも苦労するような環境に負けず、芽吹く。  この地に国を築くと最初に決めた人類が、そうであったように。 「俺にとっては瞬きのような時間だった。とはいえ、人類が歩むには十分だったのだろう。短命の種はいつも生き急ぐ。次の代により大きな功績を残すために」  それもまた仕方ない。  男は街を見下ろす。砂漠の街サンディスタム。ナーム川を命綱とする魔術国家。  行き交う人々を眺め、呟く。 「仕方ないことだ。だが悲しいことでもある」  シャドウ・ガルテンの守護天使である『きょうだい』から連絡がきた。地上で別れて以来、音信不通だったため、素直に驚き同時に喜んだ。  内容はいたって簡潔で、曰く『人類に協力しろ』。  他の『きょうだい』も受けとっていたなら、きっと鼻で笑いながら破り捨てただろう。現状、守護天使とはそういう存在になりつつある。 「どういう心境かは知らないが、カチーナもあちら側だという話もあるし。うん、いいんじゃないか」  男はどちらでもよかった。  世界がどうなろうと仕方ないことだから。  最後に立つのが神でも人類でも、仕方ないことだと思うから。 「とはいえ。同じ父上に創られた『きょうだい』がそういうなら、試練のひとつくらい与えてもいいだろう。その結果、俺がどちらかに加担したいと思っても、それはそれで仕方ないことだ」  男は炎だ。この砂漠にあり続ける、真なる太陽だ。  人類の精神にも炎は宿る。男はそれを知っている。  感情や意思と呼ばれる炎の美しさを、醜さを、知っている。 「ならば俺からの試練はただひとつ。――くるといい、人類の代表たち。俺はこの国の最初の魔術王にして、久遠の傍観者」  すなわち。 「第五天使『炎の王』、アモン」 ●夜の国より  その日、一羽の鴉が教団本部の室長執務室に侵入した。  細く開いていた窓に身をねじこませた鴉は、星を散りばめたような黒瞳で室内を見回し、不思議そうに自分を見ている人類を見つける。  すっと近づいて、カラスは一輪の白花と一通の手紙に変わった。  花は陽の光を浴びるとすぐに枯れて塵になってしまったが、手紙だけはヨセフの手に残った。  それから一時間もしないうちに、指令が出された。 「シャドウ・ガルテンの守護天使ニュクス様よりお手紙を頂戴しました。サンディスタムの守護天使アモン様との謁見の約束をとりつけたため、すぐにでも向かってほしいとのことです」  ただし、と続ける黒狐の司令部教団員の顔には、特大の緊張が宿っている。 「これまでの傾向から、なんらかの試練が課せられると予想されます。皆様どうか、万全の状態で向かってください」
【教国】幽霊な彼女と3人組
普通|すべて

帰還 2020-04-22

参加人数 8/8人 春夏秋冬 GM
 ヴェルサイユ宮殿。  教皇ルイ・ジョゼフは自室で、ナハトの報告を受けていた。 「なるほど。力もあり、手際も良かったと、そういうことだな」 「御意」  頭を下げ、反教団組織であるオクトに潜入しているジータは応えた。 「直接相対し確認いたしました。間違いございません」 「そうか。ならば、使える、ということだな」  ルイは笑みを浮かべ、さらに言った。 「今は、どの程度、手を回している?」 「今の所は、何も。猊下の命に従うのみでございます」 「ふむ、そうか。ならば命を下そう。その前にひとつ、お前に問う」 「なんなりと」 「お前がいま、潜入しているオクトの者達。生きていた方が良いか? それとも死んでいた方が良いか?」  ほんの僅かな間を空けて応えは返ってくる。 「全ては猊下の意のままに」 「ならぬ」  ルイは楽しそうに言った。 「私は、お前に聞いている。  別に、どちらでも良いのだ。死のうが生きようが。私には何の関係もない。  だが、人は己の望みに従う時、もっとも力を発揮する。  私は、お前という道具を最大限に使いたい。  だから答えよ。お前はオクトを生かしたいか? それとも殺したいか?」  頭を下げたまま、ジータは応えた。 「生かしていただけるなら、私は……」 「良い。認めよう。それがお前の望みというのなら、励め。オクトは生かし、浄化師を誘導しろ。必要ならば、死ね」 「御意」  迷いなく応えは返された。  その言葉の響きの確かさを確かめると、ルイは命じた。 「オクトと教団本部が関われるように動け。まずは内情を得られるようにしろ。適した者はいるか?」 「おります。まずは中枢ではなく、外縁に連なる者と関わる機会を作ります」 「ほぅ。それは、どういった輩だ?」  応えは、すぐに返された。 「幽霊でございます、猊下」 ◆  ◆  ◆  群れを成し、ヨハネの使徒は行進していた。  大小さまざまな大きさを見せているが、進む速さにズレはなく、近付けば轢き潰される威圧を感じさせる。  その行進の先。ヨハネの使徒達を呼び寄せているのは、2人の男女だった。 「来た来た。相変わらず、鬱陶しい奴ら」  うんざりした声を、ヴァンピールの女性は上げる。  年の頃は、ヒューマンで言えば20歳そこそこ。とはいえ長命種なヴァンピールなので、実際の年頃は分からない。  同じようにうんざりとした声で、年頃が似たヴァンピールの男性が応える。 「全くだ。あんなガラクタ共、とっとと潰して、綺麗なネェちゃんと酒でも飲みたいねぇ」 「バッカじゃないの、ペトル」  噛み付くようにヴァンピールの女性は言った。 「アンタなんかの相手をしてくれる人なんて、いないっての。そうやってすーぐ女の尻追っかけて。節操がないんだから」 「そう言うなよ、ケイト」  肩を竦めるようにして、ペトルはケイトに返す。 「男に生まれたからにゃ、可愛くて綺麗なおネェちゃん達に声かけるのは義務ってもんだ」 「だからって、誰彼かまわず口説いてんじゃないわよ。こないだなんか、リアちゃんに声かけて。困ってたでしょ」 「なに言ってんだ。普段から忙しい彼女を癒してあげたくて、俺は声を掛けたんだよ。彼女の好きな花だって、用意しちゃうし」 「そういう所はマメよねぇ。よくあの子の好きな花、知ってたわね」 「姫さまに聞いた」 「呆れた。あんたみたいなチンピラが、姫さまに近付くんじゃないっての。教育に悪いでしょ」 「なに言ってんだ。俺ぐらい品行方正な男は居ないんだぜ」 「言ってなさいよ、まったく」 「おいおい、戯れ合うのはそれぐらいにしとけ」  ため息交じりに、アンデッドの男が2人に声を掛けた。 「まったく、いつまでたっても子供だな、お前らは。そう思うだろ、シィラ」 「そうね。グリージョ」  くすりと笑みを浮かべ、幽霊のシィラは応えた。 (少しは、笑ってくれるようになったな)  シィラの笑顔に、グリージョは安堵する。  それはペトルとケイトも同じだろう。  彼ら4人は、かつて教団の暗部に捕まり、そこで人体実験を受けて以来の仲だ。  ペトルとケイトは、ヨハネの使徒をひきつけやすいという特殊な体質ゆえに。  シィラは魔女の弟子の家系のせいで、魔女狩りに巻き込まれ捕まり。  グリージョは純粋に実験台として捕まり、一度死んだ後にアンデッドとして蘇った。  自分達を人間以下に扱う研究者。時折やってきては玩具のように弄ぶ貴族。  彼女達は苦痛を味わい続け、やがて『刺し違えてでも奴らを殺す』という考えに至り、他の被験者と共に暴走。  その場にいた貴族と研究者を殺害し逃走した。  だが、その時に一緒に逃げることは出来ず、シィラだけは1人はぐれ消息が掴めない日々の中、やっと再会できた時には、彼女は幽霊になっていた。  その時には既に、反教団組織であるオクトに所属していたグリージョ達3人は、ヨハネの使徒を破壊するために、とある村に赴き、そこで使徒を破壊しているシィラと会ったのだ。  最初の頃は、記憶が定かでなく、ただただヨハネの使徒を破壊するだけの存在でしかなかった。  けれど必死になって3人で呼び掛け、シィラは自分達の事を思い出してくれたのだ。  嬉しかった。  けれどその頃はまだ笑うこともできず。ヨハネの使徒を破壊することばかり考えていた。 「あの子達が、少しでも安全に生きていけるようにしたいの」  話を聞けば、自分の命を投げ打ってでも、助けたい2人の子供達がいたようだった。  その子達のために、ヨハネの使徒を破壊し続けるというシィラを放っておくことなど出来ず、オクトに連れ帰った。  すると首領であるヴァーミリオンは、笑顔で受け入れてくれた。 「心配すんな。お前らの居場所ぐらい、作ってやるからよ」  それは力強くて、安心できる笑みだった。  そしてかつてのように、4人は共に行動している。 「さて、稼ぐわよ」  ケイトは2対の黒き魔銃を召喚。 「姫さまと俺達の国のために、ガラクタ共はぶっ壊す」  ペトルは2対の白き魔銃を召喚。 「良い部品が取れるように、ほどほどにな」  グリージョは2対の白と黒の剣を召喚。 「それじゃ、壊しましょう」  シィラは、自分が死ぬ原因となった禁術を操り、ヨハネの使徒を破壊するべく動き出した。  この状況に、アナタ達は出くわします。  少し前、とある指令が出されたアナタ達は、この場に訪れたのです。  指令の内容は、ヨハネの使徒の大群が見つかったので、それを破壊せよというものでした。  ちなみに、その指令が何処から出された物なのかは、分からないとの事です。  さて、この状況。  アナタ達は、どう動きますか?
【教国】悪意の先駆けを撃ち砕け!
難しい|すべて

帰還 2020-04-16

参加人数 8/8人 春夏秋冬 GM
 その日、ヨセフは教団上層部に呼び出され糾弾されていた。  糾弾理由は、琥珀姫を生かし、神宝の取得が出来なかったことである。 「どういうつもりだ!」  嵐のような怒声が次々ぶつけられる。だが―― 「無駄だ。やめろ」  静かな声が全てを遮った。たった一言で皆は黙る。それほどに、声を発した男は一目置かれていた。 「……しかし、サー」  上層部の1人が、初老の男、サー・デイムズ・ラスプーチンに怯えたように声を掛ける。  デイムズは一瞥すら返さず言った。 「茶番にすぎんと言うのだ。既に叛意がある男を脅してどうする。それで意を返すような男か。そうであろう、ヨセフ殿」 「茶番にも意味はあると思うが、デイムズ卿」  ヨセフは一歩も引かず返す。これにデイムズは、眼帯に覆われていない右目を細め応えた。 「生憎と回りくどい戯言は好まん。ヨセフ殿、ひとつ問う。  神とアレイスター殿、貴殿はどちらに就く」  周囲がざわめき青ざめる。それは本来隠すべき事。知れば命の保証などない。  だがヨセフは平然と応えた。 「浄化師だ。俺の目的は最初から変わらん」 「くだらん。だが、マシな部類だな」  デイムズは薄く笑みを浮かべ言った。 「神におもねるのでなければ、好きにすれば良い。どれだけくだらなかろうが、それが人の所業であるならば、私は構わん。  むしろヨセフ殿、貴殿の在り様は好ましいとさえ思っている。どうだろう、私と力を合わせないか?」  デイムズの言葉に、上層部の顔が引きつる。  それを平然と無視するデイムズに、ヨセフは返した。 「寝言は寝て言え悪党。俺に手を貸すというのなら、今すぐ自害しろ」 「ふむ、青いな」  どろりと、殺意を滲ませながらデイムズは返す。 「私が君の言う悪人だったとして、どこに問題があるのかね」 「遊びを邪魔されたクソガキの戯言など知らん」  ヨセフは断言するように言った。 「……ほぅ」  もはや息が詰まるほどの殺意を溢れさせるデイムズに、上層部は死にそうなほど顔を青ざめる。  だがヨセフは視線を合わせ言った。 「お前のことは調べた。人が起こした争いを、神の横やりで変えられたことが不満らしいな。それは単に、遊びを邪魔された子供の我儘とどこが違う」 「その通りだが、それがどうかしたかね?」  平然とデイムズは言った。 「それが人というものだ。私は人として生きているにすぎん。それを邪魔する神を殺す。目的は違えど、目指す場所が同じなら手を組めるだろうに」 「目的も目指す場所も違うわ、馬鹿者」  呆れたようにヨセフは言った。 「俺達の目的は未来。だから目指す場所は無限だ。確かにお前の目指す場所も、ひとつの道。だがそれだけに拘れば、他の道を捨てることになる。そんな物は断る」 「ふん、つまらん理想論か。ならば問おう。貴様は神をどうする?」 「罪に応じて処罰するだけだ」 「……は?」  虚を突かれたような声を上げるデイムズに、ヨセフは応えた。 「殺人に殺人幇助。他にも数え上げられないほど多くの罪を犯している。そのツケを払わせるだけだ」 「……正気かね?」 「だからどうした。罪を成した者がいれば裁く。それが人というものだろう」 「相手は神だぞ」 「それがどうした。その気になれば意思疎通が出来る相手なら、それは人だ。創造神というだけのヒトを、人が裁く。それが処刑になるのは、罪の報いというだけだろう」 「く、はははっ――」  デイムズは呆れたように笑う。 「なるほど、貴殿はそういう人間か。まったくもって、どうかしている。ははっ……殺すか」  そう言うとデイムズは左目の眼帯に手を掛ける。ヨセフは静かに見つめながら言った。 「肉親から抉り出し移植した眼か。解析の魔眼らしいな」 「そこまで知っているなら、味わってみるか?」  殺意が最高潮にまで高まった瞬間―― 「コケコッコー!」  鶏の鳴き声が響いた。 「そこまでにするのである」  突然部屋に入って来た兜の男が全てを止めた。 「ケッコー!」 「うむ。ランドルフ7世も猛っているのである」  兜の男は、頭に鶏を乗せながらデイムズに顔を向ける。するとデイムズは煩わしそうに既知の名を呼んだ。 「フェルナンデス、何しに来た」  大ヘラクス・フェルナンデス。  かつてヨハネの使徒の群れをパートナーと共に、援軍が来るまでの数時間戦い抜き、寒村を守り抜いた男。  その偉業から大ヘラクスと呼ばれる彼は、デイムズとは古い知り合いである。 「我輩が来た理由はひとつである」  はち切れんばかりの筋肉を誇示しながらフェルナンデスは言った。 「我輩と、我輩と心を同じくする者は、ヨセフに就くことにしたのである」  今は後進に譲りはしたが、かつては大元帥として、そして未だ多くの浄化師に支持される彼の元には、数多くの同調者が居る。それだけではない―― 「我輩達、浄化師だけではないのである。バレンタイン家を始めとした貴族連合と、各国の王がヨセフの支持を表明したのである。その表明書の写しを、持って来てやったのである」 「なるほど……」  デイムズは先程までの殺意を消すと、ヨセフを面白そうに見詰め言った。 「今までこそこそと、有象無象を集めていたか」 「縁を繋いだと言え。俺のような凡人が出来ることは、そのぐらいだ」 「ぬかせ」  噛み付かんばかりに獰猛な笑みを飲み込み、デイムズはその場を後にする。  後ろから聞こえてくる上層部の声を無視し離れると、何重もの盗聴対策をされた部屋に訪れ、マドールチェを材料にした特殊な通信機を取り出し交信した。 「聞いていたな、人形遣い」 『ええ。面白いことになってきましたね』 「そう思うなら手を貸せ。ヨセフの小僧と、その取り巻きを潰すのに、良い口実を作れ」 『それはそれは。また面倒な』 「出来んとは言わせん。貴様の事だ。遊ぶための仕込みはあるのだろう」 『そうですねぇ。では、オクトという組織の人員が活動している場所を教えます。そこを襲撃して皆殺しにして下さい』 「どういうことだ? そこは手駒にする予定の組織だろ。ナハトも動いている筈だ」 『だから、ですよ。手駒にするには、剪定は欠かせません。教団員である貴方が皆殺しにすれば、オクトの教団への憎しみは強くなる。そうなれば、あとは煽るだけです。私好みの形にしますよ』 「ふん、好きにしろ。私は戦えればそれで良い。それと、替えの喰人を用意しろ。前のは使い潰した。可能ならば、転魔の贄に出来る者を寄こせ」 『それはそれは。ふふ、お気に召していただけたようですね。デミ・べリアルを』 「貴様は好かんが、アレは好い。お蔭で存分に戦える」  肉食獣めいた笑みを浮かべ、デイムズは言った。  そんなことがあった数日後。  とある村で活動していた反教団組織・オクトの元にデイムズが手勢を率い襲撃しようとしています。  そこにアナタ達は派遣されました。  それはヨセフの手配です。デイムズの動向を探るべく、魔女セパルに探らせていた所、襲撃が発生。  同行していたウボー達が止めに入っている間に、セパルが本部に連絡をし、転移の魔導書アネモイの力を借り、現場に転移して貰ったのです。  この状況、アナタ達は、どうしますか?
【機国】魔導蒸気自動車生産に協力しよう
普通|すべて

帰還 2020-04-10

参加人数 8/8人 春夏秋冬 GM
 教団本部、室長室。  そこでヨセフは頭痛を堪えるように眉を寄せていた。 「グダグダだな、マーデナクキスは」  調査書を見ながらヨセフは呟く。  中身は、少し前に浄化師達が手に入れてくれた情報。それを足がかりに、より広く拾い上げた物をまとめている。 「このままだと内戦か、アークソサエティとの戦争は免れんな」  それが現状である。  なぜ、そうなったのか?  それはマーデナクキスの食糧事情と景気が原因だ。  マーデナクキスは天然の魔結晶資源の採掘で、爆発的に発展した都市である。  そのため、産業の根幹が魔結晶に依存し過ぎた。  結果、食糧自給を賄う農業分野に人は集まらず、とにかく魔結晶を手に入れて一攫千金という輩と、それらが消費する物品を賄う産業で成り立って来た。  しかし近年、マーデナクキスの魔結晶産出に陰りが見え始める。  それが恐慌じみた不安となって社会全体を覆い始めているらしい。  そこからの脱却として唱えられ始めたのが―― 「原住民の土地の没収……」  ため息をつくように、ヨセフは言った。  マーデナクキスのあるヨトゥンヘイム地方には、元々住んでいる原住民が居る。  エレメンツとライカンスロープが大半を占める彼らの土地を取り上げ、そこに眠る手付かずの資源を手に入れれば良い、というのだ。 「完全に喧嘩売ってるよね」  笑顔でセパルが言った。目は全く笑ってなかったが。 「物の価値を知らない野蛮人に資源を独占させるべきでない、だっけ? 昔の恩を忘れてよく言えるよ」  セパルの言う通り、恩知らずの極致である。  マーデナクキスに移民が渡った初期には、ろくに食べ物を手に入れることさえ出来ず、彼らは餓死して死ぬところだったらしい。  それを助けるために原住民であるネイティブ達は、自分達の食糧を分け与え、衣服や住居の世話までした。  移民が続いた初期は、そうしたことが多かったらしい。  その結果なにが起こったかというと、一部の移民による土地の占有である。  元々ネイティブ達には、土地の個人所有という概念が無かったのだが、一部の移民はそこに付け込んだ。  勝手に土地を区切り、土地売買の証文を勝手に作り、ネイティブを追い出した。  それをした移民はどう思ったかといえば―― 「物を知らない野蛮人は阿呆だ。俺達が文明ってものを教えてやる」  何故か上から目線で、物を教えてやっているつもりだったらしい。  それにより、もともとマーデナクキス周辺に住んでいたネイティブは他に移り住み、当時その場所に居た守護天使と共に居なくなったという。 「エア国王と、その周囲は止めようとしたみたいですけど、時期が悪かったですね」  セレナが調査書を見ながら言う。  当時マーデナクキスでは、ネイティブや移民、さらに他の地域から浚って来た子供達を使った戦闘人形計画があり、それを潰すために動いていたらしい。  さらに同時期、アークソサエティの大貴族達の干渉により、国の独立さえ危ぶまれたため、その対処で忙しく、ネイティブの移住を止められなかったようだ。 「エアからの書簡だと、政府中枢は秘密裏に、守護天使とネイティブとの問題解決のため交渉をしているらしいが、巧く行ってないようだな」  特に守護天使、塩の王・ジェロニモがガチ切れ寸前とのこと。  八百万の神とネイティブが何とか宥めているらしいが、それがなければマーデナクキスの人間を皆殺しにしかねないらしい。 「この状況で、アークソサエティからの税金増額と貴族特権はく奪。完全に、裏で手を引いてるな。あの腐れ貴族共」  ヨセフが珍しく口汚く言った。それぐらい、状況はどうしようもない。  そこに、同室している最後の1人、ウボーが穏やかな声で言った。 「問題は山積ですが、解決するべき中身は見つかりました。むしろここから、挽回していきましょう」  微笑みすら浮かべ、ウボーは言った。それをヨセフは見詰め、言葉を返す。 「当てはあるのか?」 「はい。浄化師のみんなが情報収集をしてくれて助かりました。お蔭で、うちの家が標的にされてることが分かりましたから。それを伝えましたので、本家と分家総出で協力すると言質を貰いました。金もコネも人も暴力も全部使って、関連する奴らは全員食い潰します」  武闘派大貴族出身のウボーは、変わらず笑顔で言った。  これにヨセフは肩を竦めるように息をつくと応える。 「頼りにさせて貰おう。それで、具体的にはどうする?」 「社会情勢を不安にさせている原因を潰します。つまり、食糧不足と産業創出です」  ウボーは計画を説明する。 「まず食料については、アルフ聖樹森からの輸入ルートを確立します。こちらは浄化師が、守護天使カチーナさまと関わってくれたお蔭で、目処が立ちそうです」 「カチーナが認めてくれたお蔭で、聖樹森の各地とのやり取りは楽になったからな。聖樹森を事実上管理しているエレメンツの長老、アルフ・レイティアには、俺からも書簡を送って協力の要請を頼む。こちらは問題なく進むだろう。それよりも大変なのは産業の創出だが――」 「こちらも浄化師のお蔭で、なんとかなるかもしれません」 「どういうことだ?」  疑問を浮かべるヨセフに、ウボーは返す。 「少し前に、ニホンの万物学園に行って貰いました。その時に、幾つか研究内容の話し合いがされたんですが、その中に、ひとつ良いものがありました」  そう言うと、ウボーは設計図を取り出しヨセフに渡す。 「これは?」 「魔導蒸気自動車の設計図、らしいです」 「なんだそれは? 蒸気機関車のような物か?」 「あれよりも小型で、レールが無くても走らせることの出来る物らしいです。浄化師のアイデアを受けて作ったらしいです。それをマーデナクキスで作って貰おうかと」 「出来るのか?」 「大丈夫な筈です。エア国王は、将来の魔結晶枯渇も見据え、技術進展に力を入れられています。そのお蔭で、複雑な工業機械を作る下地と工場があります。それを利用すれば」 「なるほど。作れる技術の下地はある訳か。だが材料はどうする?」 「ヨハネの使徒の残骸を使います。いまニホンでは、ヨハネの使徒を大量に狩ってます。そのお蔭で使いきれないほど残骸が集まっているので、値崩れする前にマーデナクキスに輸出できれば、お互いの利益になります」 「ふむ。やってみる価値はありそうだな。分かった。俺の方から指令を出して、浄化師にも手を貸して貰えるようにしよう」 「そうして貰えれば助かると思います。自動車作りもそうですが、他の仕事の協力も頼みたいですし」 「そうだな……製品アピールに、妨害者も出るかもしれん。ある意味、餌になって貰うことになるが、力を貸して貰おう」  などという話し合いがあった数日後、ひとつの指令が出されました。  内容は、マーデナクキスでの魔導蒸気自動車生産の協力です。  出来あがった物のアピールにも協力して欲しいとの事ですので、自動車作り以外にも仕事はあります。  この指令に、アナタ達は――?
愛執のテラリウム
普通|すべて

帰還 2020-04-08

参加人数 6/8人 留菜マナ GM
 大地にひしめくベリアルの大群が、緑野を黒に染めて町に迫り来る。  その夜、町には電光火花が迸り、烈風怒涛が大気を揺らす。  ベリアルは『サクリファイス・タナトス』によって進化し、サクリファイスの残党達に仕掛けられた『ヘルヘイム・ボマー』の爆破によって、人々は退路を塞がれた。  町の住民など、ひとたまりもない。  やがて、清廉の月明かりが、様々な色の血と屍に埋め尽くされ、憎悪と悲しみの声に抱まれた町の残骸を照らす。  しかし、町の救助に向かったはずの浄化師達は、その光景を見ても何の感慨も示さなかった。  町の住民を救いに行く事も、ベリアルと戦闘を繰り広げる事さえも一切行わなかったのだ。  その様子を見ていた女性――サクリファイスの幹部の生き残りの一人であるフィロは、傍らに立つ少女へと視線を向ける。 「前回は不覚でした。まさか、彼らが記憶を取り戻すとは……」  浄化師達の記憶を消して、サクリファイスの同胞へと招き入れる。  それが、教団に対する、再起を果たしたフィロの初手だった。  経過は、フィロの計算どおりに進み、最悪の誤算が全てを台無しにした。 「名誉挽回とは言えませんが、今回の薬品は前回とは些か趣向が違います」 「記憶はそのままで、浄化師になった理由だけ、『サクリファイスの一員として、教団に潜入するため』になっているんだよねー」  フィロの言葉を追随するように、少女は――コルクは軽い声で告げる。 「その通りです」  険のあるフィロの言に、サクリファイスの内通者へと変えられた浄化師達は頷くしかなかった。  彼らは、本来の記憶はそのままに、サクリファイスの一員だという認識だけを新たに植え付けられている。 「でも、お母様。教団にバレないかな?」 「教団では今、不穏な動きが見受けられます。多くの問題を抱えている状況では、彼らごときに構っている暇もないはずです」 「……そーだね」  コルクは矛盾を感じている。  おかあさんへの愛、お母様への憎しみ。  表裏一体となったその感情が、コルクを追いつめている。  現状、その矛盾を解消する方法は戦い以外にない。  その事がより一層、コルクを暗い気持ちにさせる。 「では、出来る限りの情報と新たな同胞を集めて来なさい」 「はい」  その命令は、嗜虐的な響きを持って夜空に流れた。 「行こう」 「ええ」  浄化師達は踵を返すと、指令を果たせなかった事を報告するために教団へと帰還した。 「アライブスキル、特殊な魔喰器『黒炎魔喰器』。人が、神の使いに対抗できる力をつけてしまう事。それは、許し難い事です。神が人間を滅ぼすと決めたのですから、人間は滅びを受け入れるべきなのです」 「……はい、お母様」  冷淡無情な宣告に、意図的にサクリファイスへの強迫性障害を植え付けられたコルクは肩を震わせながらも答える。  コルクは、フィロから更なる指示を受け、廃墟へと赴く。  やがて、コルクとすれ違う形で男がやってくる。 「……神の御心を分からぬ愚者は罪だ」 「カタリナ様亡き今、カタリナ様の意思を継げるのは私達、幹部だけです。その役目は、人である私達がするべき事であり、それが人の贖罪になり得るのです」  歩み寄ってきたサクリファイスの幹部――ラウレシカの言葉に、フィロは決然と答える。 「神よ……、全ての者達に救済を――。そして、ギガス様、どうか私達をお導き下さい……」  フィロはラウレシカと共に膝を付き、祈りを捧げた。 ● 「どうやって、情報収集する?」 「魔術学院にある図書館で調べたら、いいんじゃないか?」  町から帰還した浄化師達は、冷静に冷徹に機会を窺っていた。 「はーい! 私、司令部で、聞き込みしたらいいと思う!」 「おい! そんな事したら怪しまれるだろうが!」  和気藹々に見せかけたその話し合いは――しかし、一向に先へと進まなかった。  やがて、浄化師達の会話は途切れ、静寂の時間が訪れた。 「図書館に向かおう。あの場所には、希少な魔導書の類いも保管されている。それに、今まであった事件の情報も管理されているからな」  発案者の言葉に、その場にいた浄化師達は決意を固める。  重い空気を背負ったまま、彼らは魔術学院にある図書館へと赴いたのだった。 ● 「俺、調べるの苦手だよ」  浄化師の一人が、突っ伏していた机から勢いよく顔を上げた。 「もう、フィロ様の命令を完遂しないといけないでしょう」  声を潜めながら、別の浄化師が注意した。 「何か調べ物をしているのか?」 「――っ!」  その時、隣で同じく、調べ物をしていたあなたが疑問を発する。  浄化師達に緊張が走り、指令書のファイルをめくる手が止まった。 「あ、あの。私達、この間の指令に失敗して、多くの人々を救えなかったの……」  咄嗟の機転で、浄化師の少女は辿々しくも沈痛な面持ちで続ける。 「だから、少しでも、今までの事件の情報が欲しくて調べていたんです」 「そうだったんだな」  到底、聞き流せない言葉を耳にしたあなたは、虚を突かれたように瞬く。  彼女はそれを見越した上で、徹頭徹尾、サクリファイスのために行動を起こす。 「もし、よろしければ、力を貸して下さい。私達、亡くなった町の人達の弔いに行きたいんです」 「弔い?」  あなたは不思議そうに、彼女達の真偽を確かめた。 「はい。実は――」  彼女は虚実をない交ぜにし、知られたら都合の悪いことを伏せながら話を続ける。  彼女達は指令を受けて、ベリアルに襲われた町の住民の救助へと赴いた。  だが、突如、現れたサクリファイスの介入により、それが成し遂げられる事はなかった。  彼女が語った、前回の指令の顛末。  それは、真実と詭弁が入り混じった内容だった。 「今回も、予期せぬ戦闘が発生するかもしれない。俺達だけでは正直、心許ないんです」 「……分かった」 「……うん。私達も、お手伝いさせて下さい」  浄化師達の諦観に、あなたとパートナーはお互い示し合わせたように肯定したのだった。 ●  翌日、教団を発った浄化師達は、あなた達の協力を借りながら、町の住民達の亡骸を埋葬する。  辺りは、ただ重い沈黙が横たわっていた。  ベリアルによって焼かれ、砕かれ、無惨極まる姿に成り果ててしまった町のなれの果て。  それはまるで、今まで信じてきたものが、根本から崩れ去っていくような感覚。  その途方もない絶望的な現状を目の当たりにして、あなた達の胸に去来するのは寂寥感だった。 「なっ!」  その時、妙な胸騒ぎを感じたあなたは空を仰ぎ見る。  厚い雲に覆われた空から、魔術を伴った炎の雨が降り注いできた。  あなた達はかろうじて、それを避ける。 「浄化師のおにーちゃん、おねえちゃん。コルクの戦域へようこそ」  唐突な第三者の声。  コルクの高らかな声音は、廃墟に朗々と響いた。 「罪を犯した人間は滅び、世界を救済するための生贄にならないといけないんだよー」  コルクの宣言と共に、同行していた浄化師達は突如、あなた達に対して武器を突きつけてくる。  張り詰めた空は、真実を語らない。  悲しみの果てに行き着く先は、真実と偽りの狭間。  コルクの見上げた視線の先に、いつかの夢が遠くで見つめていた。
【教国】起点の始まり
普通|すべて

帰還 2020-04-06

参加人数 8/8人 春夏秋冬 GM
 教皇。  それは教皇国家アークソサエティの王として君臨する存在。  国すべての決定権を持ち、一言で様々な事柄を決定することができる力を持っている。  現在の教皇は、ルイ・ジョゼフ。  第10代教皇であり、ヴェルサイユ宮殿に住んでいる。  そんな彼が自身の居室で、暗部であるナハトの1人と会っていた。 「妖精を、殺さなかったのか」 「はい」  ナハトの男の返事を聞き、ルイは黙考する。僅かな間を空けて続けた。 「殺すか、あるいは死ぬと思っていた。それを覆したか、浄化師」  ルイが話題に上げているのは、浄化師により助けられた妖精の話だ。  復讐に囚われ膨大な力を手に入れるも、それを使い果たし消え失せる。  本来であればそうなっていたであろう結末を覆し、異なる結末を導いた者達。 「ヨセフの元に居る浄化師達は、それほどに強いのか?」  ルイの問い掛けにナハトの男は応えた。 「強いでしょう。ですがそれ以上に、抗う意志を持っているように思えます」 「それが摂理を覆したと?」 「あるいは」  断定はせず、ナハトの男はルイの応えを待つ。  ルイは静かに黙考し、やがて口を開いた。 「妖精達が、妖精と人類による叛神同盟(アリアンス)を提案して来た時、私は戯れに受けた。何故だか分かるか?」 「いえ」 「放っておいても崩壊すると思ったからだ。アリバとかいった妖精は、凶相の気配を感じさせたからな。だから滅ぼすことなく、捨て置いた。だが――」  どこか嬉しそうに笑みを浮かべ、ルイは続ける。 「私の予測を覆したか。面白い」  笑みを浮かべたまま、ルイはナハトの男に言った。 「問おう。貴様は、私のなんだ?」 「貴方様の腕でございます。教皇猊下」 「腕か?」 「はい。そうなるよう、私共は育てられました」 「なるほど。確かに、ナハトとしては、そうだろう。だが、私は貴様のことを訊いたのだ。答えよ」  これにナハトの男は、僅かな間を空けて応えた。 「……私はナハトでございます。それ以上でも、それ以下でもございません。教皇猊下の意を成すための腕。他の私達と同じく、それだけです」 「それは嘘だ」  愉快そうにルイは言った。 「教皇の意を成す腕? ああ確かに、お前達は腕なのだろう。自分の意志を捨て、頭たる誰かに命じられるままに動く。その頭は、私である必要も、教皇である理由もあるまい?」 「そのようなことは――」 「ある。だからこそ、私ではなく、枢機卿の命で動いている者達もいるのだろう?」 「恐れながら申し上げます。そのような者共は、ナハトではありません」 「お前の主義主張は知らぬ。事実の話をしている。教皇である私に、本当の意味で従うのは、ナハトの中でどれほどだ?」  応えはすぐには返ってこなかった。逡巡するような沈黙が過ぎ、ナハトの男は応えた。 「全体の2割程かと。他は、紛い物のナハトです」 「2割か。場を乱すなら、十分な数だな」  ルイは目まぐるしく思考を巡らせ、ひとつの命令を下した。 「オクトとかいう組織に、お前達は潜り込んでいるな?」 「はい。手駒として使えるよう調整中です」 「そうか。なら、幾らか融通が利く状況なのだな?」 「はい。多少であれば」 「それで十分だ。オクトの活動と浄化師の行動が重なるよう動け。見極めたい」 「はい」  ナハトの男は応えると、静かにその場を後にした。  残るは、ルイひとり。物憂げに呟く。 「さて、このことが知られれば、アレイスターはどう動くか?  まぁ、どうでも良いのだろうな、アレは。  もはやすでに、アレ1人でことを成せる段階まで来ている。あとは、時が満ちるのを待つだけ。  枢機卿共は、随分と暢気なようだがな」  皮肉げな笑みを浮かべ、ゆっくりと目を閉じる。  僅かの間、今を忘れ、過去の思い出に浸る。  貴方は、貴方で良いの。変わりは誰もいない。貴方は、自分を愛して良いの。 「……無理です。愛しきヒト」  初恋の彼女がくれた言葉を胸に抱きながら、ルイは呟く。 「貴女は、一時目にしただけの私を愛してくれた。それが他の全てに向けられる愛と同じだとしても、私は嬉しかった。けれど私は自分を愛せない。他の誰かと同じく、どうでも良い」  そう、どうでもいい。  アレイスターの再現を望まれ、品種改良めいた血統操作の末に生まれ、それでもアレイスターの域には届かず。  なれば後は、国の支配者として親族を喜ばせるだけの自分。  それしか求められず、愛を与えられなかったルイは、ただ1人、自分を見てくれ愛してくれた女のために全てを費やす。 「貴女は私を愛してくれた。けれど、求めてくれなかった」  ああ、でも、そうだとしても。 「愛しています。愛しき天使。貴女を束縛から自由にするためなら、私は全てを捧げても構わない」  エゴイストな愛を囁きながら、使える駒の全てをどう使うか、ルイは思案した。  そんなことがあった数日後。  とある指令が出されました。  その指令は、どこから出されたのかは分かりませんでしたが、ある村の周囲にヨハネの使徒が出没するようになったので、村を襲撃する前に討伐せよ、というものでした。  指令を受け、村に向かいます。  するとそこでは、すでにヨハネの使徒と戦っている一団が居ました。  彼らは10人ほどでしたが手練れのようで、ヨハネの使徒と互角以上に戦っています。  しかし問題がありました。  ヨハネの使徒は、8体も居たのです。  謎の一団は懸命に戦っていますが、村人を避難させていることもあり、このままでは人的被害が出てしまいそうです。  この状況、貴方達は、どう動きますか?