《悲嘆の先導者》フォー・トゥーナ Lv 41 女性 ヒューマン / 墓守


司令部は、国民から寄せられた依頼や、教団からの命令を、指令として発令してるよ。
基本的には、エクソシストの自由に指令を選んで問題無いから、好きな指令を受けると良いかな。
けど、選んだからには、戦闘はもちろん遊びでも真剣に。良い報告を待ってる。
時々、緊急指令が発令されることもあるから、教団の情報は見逃さないようにね。


雲雀姫は煉獄にて歌う
普通|すべて

帰還 2020-01-11

参加人数 6/8人 春夏秋冬 GM
 それは魂へと響く歌声だった。  空に届くような清んだ音色は、聴く者の心を蕩けさせる。  蕩けた心は、現実から夢の世界に導かれ、心地好き微睡みに沈んだ。  「好き夢を」  夢の世界に導いた歌い手は、地面に倒れ込み、眠る人々に優しく囁く。  それは子守歌を聞かせる母親のような温かさがあった。  たとえ、殺すために意識を失わせるものだったとしても。  安らかな表情で眠る人々を見ながら、歌い手は小さくため息をつく。 (まだ、殺さなければいけない……)  それは悔恨や苦痛からではなく、疑問を抱いているから浮かぶ思い。  人ならざる歌い手は、疑問を抱きながら人を殺し続けていた。  歌い手は、人外である。  されど美しかった。  年の頃は30代、種族はヒューマンに見える。ステージドレスを身にまとい、彼岸花の髪飾りを付けていた。  艶のある黒髪を腰の辺りまで伸ばし、背には雲雀の翼を広げている。  彼女の名は雲雀姫。彼女自身が名乗った訳ではないが、歌い続けている内に、いつの間にか呼ばれるようになっていた。  スケール4べリアルである彼女は、本来ならば全身甲冑のような姿をしている筈だが、取り込んだ魂の生前の姿を真似る特殊能力『シェイプシフト』により人に近い姿をしていた。  シェイプシフトは、エレメンツの魔力探知ですら見破れない擬態精度を誇るが、その代償に能力の低下を招いてしまう。  それでも彼女は今の姿を好み、ベリアルとしての姿を封じていた。  なぜなら彼女は、べリアルとしての自分が好きではなかったからだ。  生物を殺し魂を蓄える内に、明確な自我と知恵が生まれて来た彼女は、いつしか思うようになっていた。  ――なぜ私たちべリアルは、生き物を殺すのだろう、と。  生き物を殺すことに、彼女は嫌悪感や罪悪感を抱いている訳ではない。  ただ、かわいそうだな、と思っていた。  死ぬのは苦しくて恐ろしいのだろう。殺す時は皆、苦痛と恐怖を顔に浮かべていた。  それが彼女は不満だった。  べリアルである彼女は本能として、生物を殺し魂を取り込まなければ、という欲求を抱いている。  それを否定する気は、彼女には無い。  けれど、だからといって苦痛や恐怖を感じさせるのは、違うと思っていた。  殺したい。でも苦しめたり恐ろしい目に遭わせたくはない。  その思いを抱きながら、生物を殺し続けた。  殺して殺して殺して、殺し続け――  なぜ? と浮かぶ疑問は積み重なる。  そうする内に、少しずつ感情が摩耗し、虚ろな感情のまま生物を殺していった。  だが、今は違う。  安らかな気持ちと、焦がれる想いを胸に生物を殺している。  それは、あるべリアルと出逢えたからだ。  彼の名は、ギガス。もっとも強力な3体のべリアルの1人。3強たる彼は、彼女に声を掛けた。 「励んでいるな」 「ギガスさま!」  背後から掛けられた声に、雲雀姫は片膝をつき平伏しようとする。  それをギガスは手で止めると、続けて言った。 「以前よりも、魂を多く取り込んだようだな。善き哉。このまま魂を取り込み続ければ、近い内にスケール5べリアルへと進化できるだろう」 「本当ですか! では――」 「うむ。あの御方から言葉を賜る日は近い。励むが善い」  ギガスの言葉に、雲雀姫は夢見るような表情を見せる。 「ああ、もう少し……あと少しで、私が生まれた意味を、存在理由を直々に賜ることが出来るのですね」  それは雲雀姫の疑問の答え。なぜべリアルは、生物を殺し続けるのか?  それを造り手たる創造神から告げられることを意味していた。  全てのべリアルは、スケール5にまで進化すれば、創造神から直接言葉を掛けられる。  それにより自分達が生まれてきた理由と存在意義を知り、べリアルとしての名を与えられるのだ。 「スケール5べリアルへと進化すれば、あの御方より名を賜り、主の疑問にも応えて下さるだろう。だが――」  ギガスは視線を、村の入り口の方向に向けながら続ける。 「滅ぼされれば、それは叶わぬ。浄化師達が来ているようだ。逃げるか?」 「いえ」  返事は即座に。雲雀姫は言った。 「私の望みを阻む者が居るというなら、逃げません。苦痛を感じさせることなく、殺してみせます」 「そうか……だが、心せよ。浄化師は、強い。シェイプシフトを使っている今の主では、容易い相手ではない。それでも、シェイプシフトを解く気はないのだな?」 「はい。これが私のやり方ですから」  決意を込めて返す雲雀姫にギガスは返す。 「善き哉。その在りよう、あの御方も喜ばれるだろう。戦い殺せ。叶わぬなら、滅ぼされるが良い。その果てに、あの御方は必ず受け入れて下さる」 「はい」  夢見るような声と表情で、雲雀姫は応えた。  そんな状況で、アナタ達は現地に訪れました。  アナタ達は雲雀姫が出現したという情報を受け、それにより発令された指令に参加し、この場に訪れています。  村外れの、休耕状態の畑に人々を眠らせている雲雀姫と、離れた場所に居るギガスを発見した状況です。  指令で受け取った情報では、雲雀姫だけだったので、どうするべきか迷い、動きが止まっています。  そこに、雲雀姫は魔力を乗せた歌を響かせました。  睡眠効果のある歌は、聴いた者を幸せな夢に落とします。  この歌を聞いたアナタは――?
縁と絆を深めて・その1
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帰還 2020-01-05

参加人数 8/8人 春夏秋冬 GM
 浄化師は、家族に会いに行けない。  これは浄化師の身内であることが知られることで、危険が及ぶことを考慮してだ。  間違えではない。  だが、いささか言葉が足らない。  教団の本音としては、戦力であり、貴重なサンプルとなり得る浄化師が他所に行かないようにする目的もある。  外部との関係性を断ち切り、教団のみに従属する便利な駒として確保する意味合いの方が大きい。  それを是としない者も居る。  例えば、教団本部室長であるヨセフ・アークライトも、その1人だ。 ◆   ◆   ◆ 「浄化師の諸君が、家族と会えるようにしたいと思う」  ヨセフは室長室で、部屋に集めた皆に告げた。 「いいんじゃない。むしろ遅いぐらいだし」   軽い口調で返したのは、魔女セパル。 「浄化師だからって家族に会えないの、おかしいよねー」  この言葉に、部屋に集まった皆は賛同しながら、それぞれ言葉を返していく。 「会いに行けるようにするのは良いと思いますけど、普段から会いに行けるようにするのですか?」  死んだふり浄化師のセレナが問い掛けると、ヨセフは応える。 「いや。あくまでも指令として会えるよう、便宜を図るということだ」 「それと同時に、護衛の手配を行う、という流れで進めていくのが、今回の目的ですね」  死んだふり浄化師のウボーの言葉に、ヨセフは応える。 「そうだ。浄化師の家族に万が一が無いよう、今の内から護衛の手配をしておく。  これから教皇を含めて国の中枢と事を構えるからな。  我々に協力してくれる浄化師の諸君が、後顧の憂いなく動けるようにしておきたい。その主体は――」 「魔女と冒険者、でしょ?」  セパルがヨセフの言葉を引き継ぐように続ける。 「ボクの方で、魔女の手配はしておくよ。気付かれないように、皆の家族を守れるよう、動いて貰うよ」  セパルに続けて、ウボーが言った。 「私の方は、アークソサエティの冒険者ギルド、そしてノルウェンディ出身者で作る冒険者ネットワークに動いて貰います。  必要な経費は、私の家とノルウェンディ王家が捻出するので、資金面で外部から手繰られることは無い筈です」 「そうして貰えると助かる」  ヨセフは頭の中で目まぐるしく状況を組み立てながら言葉を返していく。 「家族が明確に判明している浄化師については、それで良いと思う。  だが、それだけでは足りない。中には何らかの事情で、家族と離れている者も居るだろう。  それだけではない。アンデッドの者に顕著だが、過去の記憶が無いせいで、家族のことを思い出せない者も居るだろう。  そういった者達には、教団本部で集めた情報を照らし合わせて、過去を取り戻す助けが出来ると良いと思っている。  しかし中には、それだけでは足らない者も居るだろう。だから――」 「私に協力して欲しい、ということね」  ヨセフの言葉に、カルタフィリスであるマリエルが応える。 「終焉の夜明け団が持っていた情報は、幾らか知っているつもりよ。生き残るために、色々と調べていたから。  だから、力になれることもあると思う。みんなには助けて貰ったから、協力させて」  マリエルの言葉に賛同するように続けて言ったのは、少し前までマリエルの内で魂だけの存在であったマリー・ゴールドだった。 「私にも、協力させて下さい。調べ物をしたり、誰かを守るために必要だというのなら、戦います」  これにヨセフは、マリーの姿を見詰める。  黒猫のライカンスロープに見えるマリーは、マリエルと同じく10代半ばの少女の姿をしていた。 「その気持ちには感謝するが、君達は、黒炎魔喰器の製造に必要な人材だ。危険な場所に行かせるには、それだけの実力がなければ――」 「大丈夫です、室長」  ウボーがヨセフの懸念を晴らす。 「大元帥のお墨付きです。試しで、少し模擬戦を行われたんですが、十分な実力があると判断されています」 「クロートが、そう言ったのか?」 「はい」 「そうか……」  少し考えるような間を空けて、ヨセフは言った。 「分かった。正直、使える人材は使いたい。協力して貰おう。マリエル・ヴェルザンディ。マリー・ゴールド」 「ええ」 「はい。お願いしますね」  2人の返事を聞いて、ヨセフは話をまとめるように言った。 「浄化師の諸君の、縁と絆を守るために、力を貸して欲しい。そのために必要な書類作成や手続き、根回しや裏工作はこちらでする。  楽な仕事にはならんだろうが、よろしく頼む」  ヨセフの頼みに、皆は応えるのだった。  そんなやり取りがあった後、ある指令が出されました。  それは浄化師が家族に会えるよう、指令の形で便宜を図るので、希望者は申請して欲しいというものです。  それだけでなく、離れ離れになってしまった家族が居るのなら、その家族を探す手助けをしてくれます。  また、記憶を無くしたりなどで、家族のことが分からない場合は、その記憶を手繰ることから協力してくれるとの事でした。  縁と絆を手繰る、この指令。  アナタ達は、どう動きますか?
【冬祭】スターリー・ナイトで会いましょう
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帰還 2020-01-04

参加人数 8/8人 oz GM
 ここは常夜の国シャドウ・ガルテン。  そう私たちが住んでいるのは『ニュンパリア』。妖精とヴァンピールが共存する町よ。  シャドウ・ガルテンでは一日中、真夜中だからどこにでも街灯やらランプがあるのは当たり前。私たち月夜のピクシーにとっては少しばかりまばゆいけれど、仕方ないわよね。ヴァンピールは夜目がきかないんだから。  『スターリー・ナイト』が近づくと星の道ができあがる。たくさんの星のランプが通りを飾るの。どのお店もどこの家でも星や月のオーナメントで飾り立てられ、町全体が星空へと近づいていくよう。  そうスターリー・ナイトは妖精にとっても特別な日。  この日にふさわしい星月夜をモチーフにしたドレスを着るの。  夜空を連想させる紺色や黒の生地を使ったドレスやスーツが定番だけれど、それじゃ、つまんないわよね。  今年はどんな星月夜のドレスを着ようかしら。毎年頭を悩ませるわ。去年は確か、そう! 柔らかなラベンダーのドレスに陰気の魔結晶を砕いて夜空の下に咲く花畑をイメージしたの。  そうね、この日のシンボルといってもいい『ポムドール』の大樹をイメージしたドレスはどうかしら。  そうポムドールよ! 今年はたくさん実が生ってるから、人手を多めに借りなくちゃ。  私たち妖精だってこの日しか食べられない黄金の果実『ポムドール』は絶対に欠かせない。  そのまま齧っても頬が落ちそうなくらい美味しいけれど、毎年さまざまな工夫を凝らして調理されるの。今年はポムドールのパフェが美味しそうだって仲間たちが話してたわ。他にも色々あるけど、やっぱり自分の目で見て選ばなくちゃね。  今年の果実酒の出来はどうかしら、それも楽しみだわ。  スターリー・ナイトは元々寒さが厳しい冬を無事に越せるよう祈りを込めた厳粛な儀式だったんだけど、今は飲んで食べての大騒ぎ。でも、私はこっちの方が気に入ってるけどね。  元々は魔術儀式の一環だもの。望む結果を模擬的に祝うことで現実を引き寄せるんだから、厳粛に行おうが楽しんで行おうが同じことだわ。祈りとはそういうものだもの。  それにね、星は光の象徴なの。こんなに星や月の飾りが溢れているのだって亡くなった人が道に迷わないように、それに紛れて悪いものを家に入れないように。  そうそうポムドールだって『長寿』の意味合いがあるらしいわね。  私たちにとっても特別な果実だけれど、人間にとってはちょっと違うみたいね。なんだってそんなに人間は意味付けしたがるのかしら。ありのままを受け止めればいいのに。分からないものがそんなに恐ろしいのかしら。  まあ、そんなところも人間って面白いなと私は思うけどね。  ああ、話がずれたわね。  なによりスターリー・ナイトの本番は夜。とはいっても、シャドウ・ガルテンはいつだって真夜中だけどね。  夜になると、ボタフメイロ(振り香炉)を鐘のように揺らすの。そうすると、広場は香しい煙の帳が下りるわ。  そうして夜の香気に触れると、まるで焚き火にあったたように体が温まる。だけれど、暗くないのは煙のベールが仄かに輝いているせい、それとも星のランプの灯りが導くように揺れているからかしら。  煙のベールの中はとても不思議なの大勢の人がいる筈なのに朧気にしか人影が見えない。まるで煙のカーテンが二人を隠すのよ。  きっと誰の目も気にせず踊れるわ。  でも。妖精である私たちはこっそり覗き見してるかもね。最初に謝っておくわ、ごめんなさいね。  邪魔するほど野暮じゃないから。  素敵なスターリー・ナイト。  この日は時間が矢のように過ぎていく。  実際にどんなに素晴らしいひとときなのかは、スターリー・ナイトを過ごしたことがない人には分からない。きっとどんなに言葉を尽くしても伝わらないわ。  あらもう時間だわ!  また、スターリー・ナイトで会いましょう。
虚偽のサクリファイス
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帰還 2020-01-03

参加人数 6/8人 留菜マナ GM
● 「何も恐れる必要はありません」  凛とした声が、屋敷にある礼拝堂に響き渡った。  金髪の髪を揺らした修道服の女性は、祈りを捧げるように指を絡ませる。  女性は手に持つ十字架を優しく胸に抱き、ステンドグラスに描かれた美しき神の絵を見上げた。  拝跪するその姿は、まるで聖女のように神々しい。 「カタリナ様……」  近くで参列していた『サクリファイス』の残党達も感極まる思いで跪き、祈りを捧げた。  カタリナ・ヴァルプルギス。  神を盲信し、滅びの運命を許容するべきと提唱していた宗教組織『サクリファイス』のリーダーだ。  しかし、彼女は、浄化師達との戦いで倒されたはずだった。 「神の御心の体現者である私を滅ぼしたということは、神への叛逆行為に他ならない。冒涜者たる存在には、これから我々の手で鉄槌を下すのですから」  カタリナは恍惚とした表情で絵を見上げながら、己の理想を物語った。 「しかし、今の私には、それだけの力はないのですわ」 「「――っ」」  蘇えらせたカタリナは、かっての魔力を失っている。  その事実は、サクリファイスの残党達の心に重くのしかかった。  魔術研究をおこなっていた終焉の夜明け団の男――イヴルとの出会いは、サクリファイスの残党達にとって大きな転換点になった。  カタリナを蘇えらせてやるという誘い文句に引かれて、サクリファイスの残党達は藁にもすがる思いでイヴルの協力を得ていた。  サクリファイスの残党達による苦渋の決断は、一見、成功したようにも思えた。  だが、蘇ったカタリナは、膨大な魔力そのものを失っていた。  これではいずれ、教団と相対したとしても、返り討ちに合うのが関の山だろう。 「力を取り戻す方法がないわけではない」 「「――っ」」  イヴルの発言に、サクリファイスの残党達は大きく目を見開いた。  カタリナ様の力を取り戻す方法があるというのか?  それは、この場にいるサクリファイスの残党達、誰もが抱く疑問だった。 「まずは、各地に散らばっている『サクリファイス』の者達を可能な限り、集結させろ」  目を見瞠るサクリファイスの残党達は、ただ静かにイヴルの次の言葉を待つ。 「教団は既に、私達の動きに気づいているのだろう。『レヴェナント』の者達が、この付近に隠れ潜んでいた」 「くっ……!」  イヴルは、捕らえたレヴェナントの者達の一人を床に放り投げる。  『レヴェナント』。  それは、薔薇十字教団の管轄下で、世界各地で終焉の夜明け団とサクリファイスの動きを追っている組織である。 「カタリナ・ヴァルプルギス! 何故、貴様が生きている!」  床に放り出されたレヴェナントの男が、怒涛の勢いで叫ぶ。  だが、カタリナはそれに動じることもなく、憐憫に満ちた目で彼らを見つめる。 「可哀相な人達。間違った観念を植え付けられ、名を奪われ、過去を消され、生をも弄ばれている。けれど、喜ぶといいわ。あなた達の魂は、私の力を取り戻すための礎となるのですから」  レヴェナントの者達は、鳥肌が立つ思いでカタリナの顔を見ていた。  イヴルは手を掲げると、レヴェナントの者達に対して魔術を発動する。  やがて、凛烈さをはらむ済んだ青空と、雪化粧を施す屋敷に、彼らの断末魔の叫びが響き渡った。 ● 「上出来だ」  カタリナの命を受けて、サクリファイスの残党達は屋敷から去っていく。  その様子を窺っていたイヴルは、天啓を得たように目を輝かせた。 「これでサクリファイスは、カタリナを筆頭に再起を図るに違いない」  イヴルの心に、過去に抱いた感情と似た想いが再び、込み上げてくる。 「そうなれば、危険分子である教団も何らかの動きをみせるはずだ。カタリナを殺した危険分子は、全て排除せねばならない」  イヴルは、幼い頃にカタリナとともに求めた理想を体現しようとする。  それは、カタリナの人生を狂わせた教団への強い憎しみによるものだった。  当時、世間を賑わせたエレメンツの少女がいた。  『ヴァルプルギス』一族の一人娘として生まれた彼女は、類稀な才能と努力によって、若干八歳で魔術士の国家資格を手に入れた。  周囲から脚光を浴びていた彼女。  そんな彼女と運命的な出会いを果たしたのは、偶然だったのだろうか。  互いに貴族の家柄であり、エレメンツ同士、同じ年齢だったということも重なって、二人は意気投合し、和気藹々と語り合った。  だが、その幸せな日々は瞬く間に崩壊する。  教団の調査によって、ヴァルプルギス一族の母方が、魔女の家系であることが明かされたからだ。  カタリナの両親は、魔女裁判にかけられ、今も教団地下深くに投獄されている。  イヴルの両親も、カタリナの家族を庇ったことで投獄されていた。  イヴルは、カタリナを救うことができなかった己の無力さを呪った。  あの日感じた雨の冷たさを、彼は今でも覚えている。 「咎人は断罪する必要がある。ここで、私達の話を盗み聞いている、失敗作の『ドッペル』どもも含めてだ」 「「――っ!」」  ドッペル達は逃げ出そうとしたが、イヴルが放った拘束の魔術によって身動きを封じられてしまった。 「教団に、場所を知られてしまったようだからな。拠点を変更する」 「全ては、神の思し召しのままに……」  イヴルが憎々しげにそう告げると、カタリナは片膝をついた姿勢のまま、誓いを交わした。  一介の終焉の夜明け団の信者に対して、忠誠を誓う『サクリファイス』のトップ。  それは、どこか滑稽で狂気に満ち溢れた光景だったのかもしれない。  しかし、そのことを訝しむ『人物』は、この場にはいなかった。 ● 「寒いな」 「寒いね」  凍てつくような風が肌身に染みる中、あなたとパートナーは肩を震わせる。  ここは、ミズガルズ地方の北に位置する樹氷群ノルウェンディ。  樹氷と霧氷が美しく、一年を通して国土に雪氷が覆う国だ。  あなた達は指令を受けて、終焉の夜明け団が魔術研究の際に使っていたとされる屋敷の調査に再び、赴いていた。  魔術研究で産み出された特殊なドッペル達の報告をした後日、『サクリファイス』の残党達がこの地で暗躍しているという情報がもたらされたからだ。  しかも、あのカタリナ・ヴァルプルギスが、神の奇跡により再誕したという。  それが真実なら、途方もなくおぞましい事態だ。  真相を探るために、調査に向かったレヴェナントの者達の足取りは途絶えてしまっている。 「とにかく、調べてみるしかないな」  あなたは己に言い聞かせ、屋敷へと向かう。 「なっ!」 「――っ」  だが、そこで、予想外の光景を目の当たりにして、あなた達は全身が総毛立つような感覚に襲われた。  訪れるはずだった屋敷は、立ち上る黒煙とともに炎に包まれていた。  人の心に巣食った闇は知らない間に、あったはずの彼らの未来をも奪っていく――。
【雑魔】ベリアルが襲う奇術師の館
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帰還 2020-01-02

参加人数 3/8人 鞠りん GM
 アークソサエティ内ソレイユの一画に、『奇術師の館』と呼ばれる、今は廃墟と成り果てた、かつて稀代の大奇術師と呼ばれた魔術師が住んでいた大きな館がある。  見た目はただの朽ちた古い洋館だが、その中は未だに無数の魔術を使った仕掛けが生きており、時より好奇心を出した子供たちが入り込み、ちょっとした騒動になることもある。  ――今まではその程度だった。  だがこの誰も近付かない館に、いつの間にか低レベルのべリアルが多数侵入し、現状はべリアルの巣窟となっている。  なぜそうなったのか、それは誰にも分らない。  押し寄せるベリアルの脅威なのか、それともこの館に惹かれるものが存在するのか、はたまたベリアルがベリアルを呼ぶのか、その詳細は一切不明である。  住民から話を聞いた教団は、浄化師を送り込み奇術師の館に存在するべリアルの殲滅と指令を出した。  ただし場所は奇術師の館。浄化師もべリアルすらも、過去の仕掛けに引っ掛かるのは心得たほうがいい。  奇術師のマジックを込めた仕掛け、それはどのようなものなのか?  浄化師をも傷つける仕掛けなのだろうか。  そしてこの大きな館の中でうごめくべリアルの大群。  その全てに君たちは立ち向かわなければいけない。  覚悟を決めて、混沌と化した奇術師の館へと入る浄化師たち。  さあ戦おう、このトラップとべリアルに。それが可能なのは君たちだけなのだから。
イフの選択
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帰還 2019-12-30

参加人数 4/8人 虚像一心 GM
 ――目を開ける。  視界には炎が村を包み込み、その身を激しく主張している光景。それと建物の周り既に息絶えた村人たちの屍。  立ち込める死臭に、何かから怯え逃げ惑う村人たちの悲鳴。そして絶え間なく聞こえる断末魔。  何が起きているのか……そんなもの、考えるまでもない、と。  逃げることを許されない浄化師は震える足を無理に動かしながら前に進む。  そう、これはベリアルの仕業だ。本能のままに、ベリアルは殺戮を行っているのだ。  浄化師として、ベリアルは倒さなければいけない。ここで倒さなければ更に被害が大きくなる。そうなる前に止めなければならない。  戦えるのは自分一人、パートナーはいない。  己の獲物を強く握り、浄化師は今まさに村人たちの命の灯を消す怨敵と対峙する。  そう……それが。  正気を失い、ベリアルと化してしまった……愛しきパートナーであっても。  村人の息の根を止めたパートナーは浄化師に気づいたのか、浄化師に視線を向ける。  ――その瞳にはもう光はない、ただただ黒い闇が見えるだけ。  ――その顔に懐かしき面影はない。眼前の獲物を殺し、その肉を喰らい、快楽に溺れた魔物の顔だ。  愛しきパートナーは我らが怨敵となった。護るべき者から倒すべき者へと堕ちたのだ。  その事実に涙を流さずにはいられない浄化師は、だが涙を拭い、獲物を強く握り、心を殺す。  目前にいる敵は、今ここで倒さなければならない、故に情という不要なものは捨てなければいけない。  ――それはパートナーに向ける最後の優しさか、それとも平和のためか。それを考えるのはあまりにも馬鹿らしい。  浄化師は覚悟を決め、呼吸を整え、力を込める……だが、無意識に手が震えている。  悲しみを抑えきれないのだろう。しかし、情と平和を比べれば、どちらを取るべきなのかは明白だ。  葛藤する迷いに、堕ちたパートナーは本能のままに浄化師に襲い掛かる。  どの選択肢を取るのか、それは――……。  ――これは、いずれ訪れるかもしれない『イフ』の話。  自身の目的を失い堕ちたパートナーに、自分はどうすれば良いのかを求めるもの。  殺すのか、殺されるのか。または別の道があるのか。  最も正しい道を選ぶため――その未来を訪れさせないために、円卓を囲んだ浄化師たちは『イフ』の未来を語る。  自分はどの選択を選び、どのように堕ちたパートナーと向き合ったのかを。
【冬祭】月夜の妖精の秘伝レシピ
簡単|すべて

帰還 2019-12-29

参加人数 8/8人 oz GM
「スターリー・ナイトをご存じですか?」  浄化師達は初めて聞く言葉に首を傾げる者もいれば、軽く相槌を打つ者など様々だ。 「知らない方が多くても無理はないです。シャドウ・ガルテンでも一部でしか伝わっていない伝統行事ですから」  教団へ依頼人であるヴァンピールの名士『マテュー・リュデケ』が穏やかに微笑む。  落ち着いた雰囲気の室内には彼の趣味なのかドールハウスやミニチュアのテーブルや椅子が飾られていた。 「他の国々でいうところのクリスマスやユールのようなものだと思って下さい」  この町『ニュンパリア』の名士であるマテュー・リュデケは窓の外へと視線を向ける。 「もう町をご覧になったでしょう。あれも星の祝祭『スターリー・ナイト』に向けての準備なんです」  浄化師は納得したように頷くと、ここに来るまでの街並みを思い浮かべる。  町の至る所に星と月のランプやオーナメントが飾られ、町全体が星月夜となって輝いていた。  マテューの周囲を仄かに輝く何かが横切った。 「もうまどろっこしいわね、マテューは。ほら、早く本題にはいりましょう」  どこからか声が聞こえる。  宙に散る燐光。  いつの間に現れたのだろう。菫色の二枚羽をもつピクシーだ。  羽ばたく度に月光にも似た銀の光をまき散らしながら、ピクシーは美しいカテーシーを披露する。 「改めまして妖精とヴァンピールが暮らすニュンパリアへようこそ。私は月夜のピクシーのニアよ」  月夜のピクシーを代表してここにいるの、とニアは告げる。 「私がピクシーたちの代理として依頼を出しましたが、あなた方にはボタフメイロ(振り香炉)に使う香をピクシー達と一緒に作って欲しいんです」 「私たちピクシーはそれぞれ独自のレシピを持ってるんだけど、この時期になると、どの香りがいいか競い合うの。スターリー・ナイトにふさわしいのは、どれなのかをね」  妖精にとっては自分のレシピが選ばれることは大変名誉なことらしい。 「正確に言えば試作品ですね。あなた方の作った香を参考にしてピクシー達が本番に使う香を仕上げるんです」  浄化師の一人がどうやって決めるのか疑問に思い尋ねると、ニアが愉快気に笑いながら答える。 「私たちが選ぶんじゃないわ。くらがりの森が選ぶのよ」  ニアはそれ以上答える気がないのか、マテューの肩に座って足をぶらぶらとさせる。 「実際にその年にふさわしい香りが不思議と選ばれますからね」 「今年の香りはどうしようかしらっておしゃべりしてたら、誰かが浄化師を巻き込もうと言い出したのよね。浄化師は魔力が多いし、なにより面白そうだと思って。なによりもポムドールも賛成したしね」  ピクシーたちの友人であるポムドールの大樹の意思も絡んでいるらしい。 「てっきり、娯楽のために呼び寄せたのかと思ったんですが、違ったんですか?」 「それもあるわ」  マテューが驚いた顔で尋ねると、ニアがきっぱりと答える。  ピクシーたちの娯楽のために浄化師をほいほい呼び出すな。そう突っ込みたくなる発言だ。もしや自分たちが娯楽の対象にならない為に、身代わりにされたのではという考えすら浮かんでくる。  心なしか冷たい視線を向けてくる浄化師たちに気づいているのか、いないのか。マテューは人の良さそうな笑みを浮かべたままだ。 「我が国シャドウ・ガルテンと教団のよりよい交流になればと思い、今回依頼させていただきました。私も手伝ったことがありますが、科学の実験みたいで楽しかったものです」 「国の為とかどうでもいいけど、外から来る住人ならではのアイディアを期待しているわ」  浄化師の何か物言いたげな表情もなんのその、二人はマイペースに話を続ける。 「材料は色々あるけど、メインとするものは乳香よ。後は適当に選んじゃっていいわよ」 「ニアもう少し詳しく説明しないと分かりませんよ。乳香の他にも様々な樹脂香があります」  ニアの投げっぷりに浄化師が唖然としていると、慣れたようにマテューが補足する。 「次にハーブとスパイス、香木もちろん、花や樹木の葉を入れたりすることもありますね。さらにこの町では果物の果皮あるいはドライフルーツを入れることが多いです」  実際に材料を見てみた方が早いだろうとマテューは安心させるように微笑んだ。 「材料は粉末状にしたものを使ってもいいですし、切り刻んだり、そのまま使っても大丈夫です」  まるで料理みたいでしょう、と笑いながらマテューはニアの代わりに説明していく。 「それをアルコール度数の高いお酒で混ぜるんです。この町では大抵赤ワインを使いますけどね」  シャドウ・ガルテンは果実酒や赤ワインの名産地だ。土地に馴染みのあるお酒を使うとより良い香りになる気がすると、マテューは口元を綻ばせる。 「魔結晶も扱うわ。ここがちょっと難しいけど、浄化師なら大丈夫よね」 「火気や光気の魔結晶を入れておくと煙を浴びたとき、体が温まるんですよ。煙のカーテンが下りて、星空を紗に透かしたように見えて本当に美しいんです」  その光景を思い起こすように目を細めながらマテューは饒舌に語る。随分と思入れがあるのだろう。その声は僅かに熱がこもっていた。 「魔結晶を混ぜるときは私たちと協力して魔力を少しずつ注ぎ込むの、中々根気いるかもね」  ニアが言うには多すぎても少なすぎてもダメらしく、一定の量の魔力を込めなければならないそうだ。 「注ぎ込んだ魔力によって香りがまた変化するの。同じ相手が魔力を込めるのが理想なんだけど、ボタフメイロに使う魔結晶はえげつないくらいに多いから無理なのよね。せめて相性の良い魔力同士じゃないと……」  だからこそ、魔力が多い浄化師へ依頼がきたのだ。パートナー同士なら魔力の相性が悪くないとの判断らしい。 「同じ魔力をしている人はいないと言われていますからね。個人の魔力の違いか、それとも魔力の属性が影響しているのかは分かりませんが、面白い現象ですよね」 「そして最後の仕上げに月輝花を少々。月光の元で熟成を促す魔法をかけるの」  ニアが何気ない顔でさらりととんでもないことを言う。  月輝花はシャドウ・ガルテン固有種の純白の花だ。百合にも似ている、月と星の光がそのまま花の形をしたかのような美しさ。それ故に、摘めばじわじわと崩れていってしまう。  手折ることができないからこそ、『幻の花』とも呼ばれていた。  どうやってと尋ねる前にニアが鈴の音のような声で釘を差す。 「この町では月輝花も使っているのよ。――……どう摘むのかってそれは私たちだけのヒミツ」  ニアが口元に人差し指を当てて無邪気に笑う。どこからかクスクスと二重に聞こえた。見えないだけで他にも妖精達がこちらを伺っているのかもしれない。  話を元に戻すようにマテューが口を開く。 「そう難しい作業ではないので安心してくださいね。魔力切れする方もいますが、あなた方なら大丈夫でしょう」  やはり完全に魔力目的だ。華やかな祝祭の裏側を垣間見た気がする浄化師達だった。 「ふざけて変なの作ったらピクシー総出で悪戯するから覚悟してね」  ニアはにっこりと妖精の女王のごとく微笑んだ。
【冬祭】雪積もるエドで過ごそう
簡単|すべて

帰還 2019-12-27

参加人数 3/8人 夜月天音 GM
 満月輝く冬が訪れたエド。  朝から昼に降った雪が積もり、通りのあちこちに雪だるまや雪兎、かまくらが建ち並んでいた。  それにあわせて、どこもかしこも温かな飲み物と食べ物で暖を取る人で溢れていた。 「みんなで、雪合戦だ」 「雪だるまを作るぞー」 「雪兎も作りたい」  通りでは、子供達が雪遊びに興じている。 「子供は元気だな」 「こういう時はほっこりとおしることか甘酒とか、温かくて甘い物だろ!」  甘味屋では、料理人が沢山の温かい甘味を作り客達の胃をほっこりさせた。 「雪と言えば、酒! 美味しい料理!」 「雪見酒だと。大人は酒で体を温めるとしよう!」  食事処では、賑やかな雪見酒を盛り上げるべく料理人が酒と料理を作り、客達の寒さを吹っ飛ばそうとしていた。 「井戸のある開けた場所で、かまくらを作って、宴会だー」 「甘酒婆の甘酒と餅でゆっくりするか」 「かまくらで過ごすのもいいけど、雪だるまを作ろうかな」  人間や妖怪が仲良く住まう裏通りの長屋『江川(えがわ)』の住民達は、浮かれ気味にかまくらや雪だるま作ったり食べたり飲んだりと夜通しの宴会が始まろうとしていた。  白銀の世界が広がり、吐く息白く住民達は満月に照らされながら寒い夜を温かく過ごしていた。
慟哭の鎮魂歌
とても難しい|すべて

帰還 2019-12-23

参加人数 8/8人 土斑猫 GM
 今より少し、遠くの話。人が、その傲りから禁忌と神の怒りに触れた時代。  降り注ぐ魔雨の中で、人々は狂気に堕ちる。  数ある竜種の中で、最も古いとされる『古龍(エンシェント・ドラゴン)』。その心臓の血が、ベリアルへの堕落を防ぐという噂が流れた。只の、狂言。されど、狂った人々は踊る。彼ら大挙してドラゴンの領域へと踏み込み、一頭の古龍を殺した。彼は、人を同じ世界に住まう同胞と見ていた。彼は同胞の恐怖を理解し、哀れみ、それが癒される事を願った。もたらされる暴虐を、甘んじて受け入れる事によって。  その惨劇が、一頭の古龍を狂わせた。彼女はかの龍の、母。不条理に命奪われる子の、苦痛と悲しみ。理性を凌駕する、母の想い。憤怒と憎悪の慟哭と共に、彼女は降り荒ぶアシッドを飲み込んだ。其が意味を、何処までも深く理解しながら。  己が魂を贄に、強大なベリアルと化した彼女。殺戮衝動のままに領域内にいた全ての人間を虐殺すると、その意識を外界へと向けた。更なる血と、魂を求めて。欲するモノは、母の想いからベリアルの本能へと変わっていたけれど、そんな事は些細な問題だった。  踏み出した彼女を待っていたのは、多くの戦士と、まだ人間の傍に在った魔女達。壮絶な戦いの末、彼女を深い氷河の底に封印すると、人間と竜の一族は彼女の歴史全てを焚書にした。荒廃した世界の中で、新たな道を切り開くために必要だったのはそれぞれの絆。それを綻ばせる記憶は、忌まわしきモノとして氷の底へと沈められた。  全ての証を奪われて、彼女は眠る。いつかの目覚めの果てに、今は亡き願いの成就を夢見ながら。  そして――。  鳴り響く、轟雷の如き咆哮。山岳を割り、氷河を砕きながら現れた威容に、教団から派遣されていた偵察員達は息を吞んだ。 「でかい……!」 「あれが、ベリアル……?」  身体を焔と共に彩る赤紋。胸の部分に輝く、魔方陣。正しくそれは、ベリアルの証。されど、果たしてかの概念に収まるモノか。  かなり離れているにも関わらず、視界のほとんどを占める巨体。巨蛇の様な六本の頭。六枚の巨翼。大河を思わせる尾。何もかもが、想定の範囲外。  踏み出す足は一踏み毎に、無残に大地を割り砕く。羽ばたく翼が起こす豪風は周辺の森林を紙切れの様に捲り剥がし、うねる尾はそれだけで山を砂楼の様に崩した。  些細な動作一つで世界を破壊していく様は、まさに『大災』。 「……化物だ……」 「何とか……何とかしないと……!」 「しかし、どうすれば……」  狼狽する団員達の一人が、思いついた様に口にする。 「そうだ!! メフィストだ!! ベリアルを浄化出来る彼ならば……」 「確かに、『羅針盤』によってこちらに合流はしているが……」  それでも、他の団員達の反応は暗い。 「出来るのか……? 『アレ』を……」 「出来まーす」  突然後ろから飛んできた声に、飛び上がる団員達。振り返れば、いつの間にかカイゼル髭を生やした男性が立っていた。 「メフィスト……」 「『アレ』とて、ベリアル。黒炎での浄化は可能でーす」  彼の言葉に、皆の顔が明るくなる。けれど。 「ですが――」  目を細め、思案する様に髭をしごくメフィスト。 「あのままでは、無理でーす。膨大な存在率ゆえに、浄化に時間がかかりまーす。何とか、動きを止めなければいけませーん」  聞いた皆の顔が、再度引きつる。 「止めるって言ったって……」 「『アレ』は、複数の属性を持っていまーす。六つの頭がそれぞれの属性を司っていて、その相互作用によって巨体をコントロールしているのでーす」  頭を捻る。言わんとしている事が、分からない。 「六つの頭の額。ソコにある宝珠に、それぞれ相剋関係にある属性の魔術を打ち込むのでーす。全ての宝珠にそれを成せば、しばらく行動を停止させる事が出来まーす。その間に、私が浄化しまーす」 「そんな事……」 「やらなければ、人が滅ぶだけだ」  割り込んできた声。主は、メフィストの隣に立つ小柄な少女。名を、『麗石の魔女・琥珀姫』。名は知れていたが、公衆の前に姿を表す様になったのはつい最近の事。 「見てみろ。既に探知している様だぞ。己の行くべき場所を」  言われ、視線を戻す。その先には、六つの頭をある方向に向けている魔龍の姿。 「あの方向……。ノルウェンディの首都の様ですねー」 「道中には、大小の村々もある。軒並み潰していくつもりだろう。さて、どれだけ死ぬかな?」  二人の魔女の言葉に、絶句する団員達。さらに追い詰める様に、琥珀姫は言う。 「『アレ』は、まだスケール2だ。今言ったとおりの所業を許せば、当然大量の魂を捕食する事になる。そうなれば……」 「――――っ!!」 「分かりますねー?」  完全に血の気の失せた顔で、通信係の団員が魔石回線を展開する。震える手で起動しようとした時、釘を刺す様に姫が言った。 「烏合はいらないぞ」 「?」 「相応の腕と、覚悟がある者以外はいらない。足手まといの面倒までは、見れない。敵は……」  琥珀色の瞳が、崩れ果てた山岳と氷河を見る。 「『アレ』だけでは、ないのだから」  途端、積み重なる瓦礫の中に灯る、無数の赤光。  キリキリ……。キリキリキリ……。  昏く響く、駆動音。そして――。  ガタン。  通信係の手から、器械が落ちた。他の者も、愕然とその光景を見つめる。  崩れた山跡から、湧き出す様に舞い上がった無数の影。  白く光る甲殻。  深紅に輝く、コア。  知らない者は、いない。  それは、紛う事なく。傲慢の罪過を刈り取る為に神が落とした、断頭の刃。 「ヨハネの……使徒……?」 「何だ……あの数は……」  呆然とする団員達の眼前で、ヨハネの使徒達は魔龍に追随する様に移動していく。その様は、まるで女王蟻を守護する兵隊蟻の群れ。 「神が、『彼女』に授けた福音でーす」 「ヤツラは、『アレ』の魔力に寄生して動く様にチューニングされた特別製だ。何処までも行動を共にし、『取り残し』を狩り歩く」 「通った後には、一人の人間も残さない……と言う訳でーす」  万物を破壊しながら歩む、異形の巨帝。付き従う、純白無血の死神の群れ。その様は、正しく地獄の行軍。 「分かったのなら、早くしろ。時間は、さして無い」  腰から崩れ落ちた通信係に向かって、琥珀の姫は冷たく言った。 「それにしても、よく出てきたモノでーす」 「うん?」  古い知人にかけられた、声。琥珀姫は振り向く事もなく、答える。 「貴女が、今更人の為に動くとは思いませんでしたー。何かありましたかー? ミズ・アンバー」 「さあな」  そっけない答え。予想どおりだったのだろう。苦笑して肩を竦める、メフィスト。そんな彼に、問いが返る。 「……あの二人は、どうした?」 「心配ありませーん。浄化は間に合いましたー。もう、堕ちる心配はないでーす」  その答えに、ふと緩む顔。 「たいしたものでーす。あそこまで堕ちかけた魂を、引き戻すとは。それがなければ、手遅れになったでしょー」 「ああ」 「?」 「だからだよ」  ぶっきらぼうな呟き。それが、先の答えと知って、道化の魔女はクスリと笑む。  気付かないのか。それとも振りか。彼女の視線は、ゆっくりと進みゆく魔軍に向けられたまま。  メフィストは、言う。 「ならば、賭けてみましょー。閉じ篭った時さえ動かした、彼らの力に」 「………」  答える事はなく。ただ彼女は、朱焼けた空を仰ぐ。  長い一日が終わり、始まろうとしていた。
【冬祭】Play with snow
とても簡単|すべて

帰還 2019-12-20

参加人数 2/8人 ナオキ GM
 一年中雪に覆われているノルウェンディが、その幻想的な魅力を最も活かせる季節がやって来た。  至るところで冬祭りの準備が進められ、木々や固定氷塊で作られたモニュメントは電飾の飾りを纏って輝き出す。  人気スポットでもあるアイスラグーンから、トナカイの牽くソリに揺られること一時間弱。  この地では毎年、冬季限定でとあるコンテストが開催される。 「はよう作りに行こうや!」 「今年こそはわしらが優勝しちゃるけえの」  必要最低限の防寒対策だけして、子どもたちは各々スコップを持って駆け回る。  それを止める大人はいない。  にこにこ笑って見守るか、同じように道具を片手にその後ろを追いかける者だけだ。  鼻を赤く染めた人々が受付のテントで貰うのは、特殊な魔術をかけてコンテスト期間中は溶けないようにした、まっさらな雪。  一、チームは二名から五名までとする。  二、作品の大きさは必ず縦三メートル、横二メートルの間に収めること。  三、使用する雪の量に上限はなし。  この後も四、五、と説明が続く文書こそが――本日開催されるスノーコンテストの参加要項だ。  制限時間は三時間。  審査員たちの票とは別に、道行く一般市民や観光客も投票が可能。  小さくとも緻密で繊細な造りの作品を生み出す者もいれば、大きく豪快で迫力ある作品を作る者もいる。  優勝者には巨額の賞金が、などといった目も眩むような褒美はない。  獲得出来るのは商店街で使える商品券と、そして注がれる惜しみない称賛。  鳴り止まない拍手と、作品の出来を見てうっとりと紡がれる羨望の溜息を得る為に、毎年ノルウェンディ内外から多くの参加者が腕を鳴らして集まる名物行事なのである。  ちらちらと小ぶりな雪が舞う中、参加者たちは割り当てられた区域で作成図と睨み合って開始の合図を今か今かと待ち構えている。  激闘を眺めに来た観光客は、湯気の立つココアやコーヒーを楽しみながら今年の優勝者の目処をつける。  審査員らが公平に作品と向き合うことを誓って、いよいよ開始のファンファーレが勇ましく辺りに響いた。