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指令を受けにエントランスへと訪れると、薔薇十字教団本部にて司令部受付を行っている教団員ロリクが、いつもの微笑みを浮かべて浄化師たちを出迎えてくれた。
「今回の依頼はちょっと精神的にタフなやつ向きかなぁだが、お前たち大切な相手はいるか?」
いきなりそんな問いかけのあと、指令の内容が口にされた。
ソレイユ地方の西の果てに存在する森には湖があるのだが、そこでその現状は起こっているそうだ。
見た目はただの森とかわらない。しかし、そこに足を踏み入れた者は必ず、【大切なもの】のことを忘れてしまう。
本人は必死になって思い出そうとしてもどうしても思い出せない。自分にとても大切なものが存在したことはわかるし、覚えている。だが、それがなんなのかがわからなくなってしまう。
「恐れることはない、この現象はニムファのせいだ」
ニムファは湖や泉に存在する睡蓮の見た目をし、近づかなくては害のないモンスターだ。しかし、水を汚す者や攻撃してくるものには容赦なく、根を鞭にして攻撃してくる。
ニムファは古来より薬にしたり、香水の原料として使われる。
またニムファは香りをかいだものに幻覚を見せる効果がある。
「この泉を調査してもらったところ、かなりの数のニムファが存在していてな。
その匂いに騙されて混乱した奴らが泉にはいって死にかけるといった事故が多発している。
このままじゃあ、死人が出ちまうかもしれない。
全部を討伐するのはさすがに難しい。数が多いせいで幻覚作用が強く出ているから、お前たちの手の届く範囲にあるニムファを刈り取ってほしいんだ」
それでな、とロリクはさらに注意してきた。
「今回出現しているニムファの匂い、恐らく生息域の影響なんだろうが、喰人と祓魔人で影響力が異なる。
どうやら喰人側がかかりやすく、祓魔人には効果が薄くかかりづらいようだ。
喰人は注意し、祓魔人はパートナーをいかに正気に戻すか、よく考えるんだな。
まぁ匂いでの軽い混乱だから多少乱暴でも殴ったり、小さな衝動があれば戻るだろうが注意しておくにこしたことはない」
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果て無い蒼穹を純白の雲が千切れながら飛んで行く。茫漠たる草原は大海原の如く波打ち、木々は倒れんばかりにしなっている。
「嵐でもやってきそうだな……」
今はまだ雨の予感すら感じさせない空を見上げ、ワインド・リントヴルムは呟く。
不意に、その視界を黒点が横切った。
鳥の陰――否。それは前触れなく進行方向を転じたかと思うと、ワインド目掛けて急降下してくる。次第に見えてくる大きさは、鳥の比ではない。
両足を踏ん張り、その突風の塊とも言うべき存在を受け止める。
「ひとりで散歩か、幼き竜よ」
全身を覆う鱗に一対の翼、鋭い爪――太古より天に君臨する神聖なる生き物、竜である。
ロスト・アモールによって世界が混迷するよりも遥か昔、人と竜とは相争う関係だった。
強力な魔法を行使する竜は、魔術の貴重な材料となる。死後、その体は時間を掛け個々の魔力属性に応じて自然へと還るが、そうして変じた土や水、竜の遺骸を苗床とした植物にすら利用価値があった。
人間は竜を魔術の道具とみなし、竜は人間を害悪とみなし、多くの血が流れた。
だが、現代においては違う。
此処は、竜の渓谷。騒乱の時を越え安寧を望んだ彼らが選んだ、終の棲家。
そしてワインドは額に角を、背に翼を持つデモン――ドラゴンとヒューマンが愛を育んだことで生まれた種族であり、この渓谷の守護者たるリントヴルム家の当主だった。
「アソブ、イッショ」
成長すれば体長二十メートルほどの堂々たる体躯となるが、ワインドに擦り寄るのは未だ三メートルにも満たない仔竜だ。発話も幼子めいてたどたどしい。鱗と同じ深緑の瞳が瞬く。
ドラゴンは名づけの文化を持たないが、ワインドはこの仔竜をヴァージャと呼んでいた。草木の緑を意味する名だ。
ヴァージャはしきりに自身の角とワインドの角とを合わせて、コツコツと音を立てる。これが彼の親愛表現なのだった。
「すまんが、私は仕事中だ。だが、そうさな……共に見回ってくれるか」
ワインドの役割はいくつかあるが、もっとも重要なのは渓谷の警備である。暗黒の時代が過ぎ去ってなお、私欲から竜を害そうとする不埒者はいる。広大な土地を隈なく見回るため、ワインドの一日はほとんど移動に費やされるのだ。
「イッショ、イク!」
ヴァージャは喉を鳴らして翼を広げ、再び空へ舞いあがった。
至近距離で羽ばたきの衝撃を受けたワインドは、苦笑して乱れた赤毛を掻く。
これが大人の竜であれば羽ばたきは人間にとって攻撃に等しい。竜のいう『アソビ』が大抵の場合人間にとってみれば命懸けになってしまうことも、仔竜が理解するには時間がかかりそうだった。
仔竜の影を追い、ワインドは力強く地を蹴った。無論、ヴァージャの飛行速度の方が勝るため、あっという間に仔竜の姿は遠くなってしまう。
「しようのない……」
口ではぼやいても、幼い竜の無邪気な奔放さは微笑ましいものでしかない。ワインドは頬を緩めたが、次の瞬間、その笑みは凍りついた。
――ドカンッ!
激烈な雷光が、小さな影を貫くように直撃する。
「ヴァージャ!」
仔竜の幼い翼は力なく風に煽られ、そうして、この土地の名の由来となった大地の裂け目、深い深い谷底へと落ちていく。
――キィァァァァ!
悲痛な叫びが、渓谷に響き渡る。
全力疾走の勢いそのままに崖から身を躍らせる。黝い翼を広げて滑空するワインドの目に映ったのは、川辺に倒れ伏すヴァージャ、そして黒い帯状の魔力に拘束された深紅の竜と彼らを取り囲む黒衣の集団だった。
囚われの竜――ワインドがグラナトと呼んでいる成竜は、巨体を揺らし咆哮と共に火を吐くものの杖を掲げた複数の侵略者によっていなされてしまう。
「何者だ!」
着地と同時に一喝したワインドに、悪辣な女の笑い声が応じた。
「あっは、なんだなんだぁ? 丁度良い獲物を落としたと思ったら、余計な奴までついてきちまった」
「貴様らっ……終焉の夜明け団か!」
フード付きの黒衣、そして左手に埋め込まれた銀の十字架。魔術の開祖アレイスター・エリファスを狂信し、その蘇生を目的とする異常者集団だ。
痛みの記憶が蘇り、かっと血が頭に上る。
「水よ、穿て!」
ワインドの詠唱に応じ、無数の鋭い水の杭が女を襲う。だが閃光がその全てを撃ち落とした。
殺意を楽しむように、女は甲高く笑う。
「なに、お前! 遠慮の無ぇ攻撃! シビれる予感がするんですけど~!」
衝撃波でフードが外れ、その顔が露わになる。胸元までイエローの髪がうねり、同色の双眸が爛々と輝く。左の頬には稲妻型の刺青。
顔を見られることを、女はどうとも思っていないようだ。
「やけに上手くいっちまって、時間までまだあるなって退屈してたんだ。暇潰しに、アタシの愛、受け止めてくれよなぁ!」
雷光が降り注ぐ。
ワインドは咄嗟に跳躍して回避しながら、周囲を見廻した。
女が主犯格なのか、他の黒衣の者らは口出しせずに黙している。その多くが杖や魔導書を携える魔術師だ。川岸には舟が二艘。しかし、アークソサエティの国土を囲む隔壁の外にある竜の住処は、独自にバリケードを持っている。単純に上流から川を下れば侵入できるというわけではない。それに、竜を拉致する腹積もりらしいが舟では到底運搬できない。
須臾の間に思考を巡らせ、ワインドは息を呑んだ。
「口寄魔方陣か!」
特殊な魔方陣を用いて物質を転移させる禁忌魔術だ。教団が所有する転移方舟に似たものだが、方舟とは異なり人を移動させることはできない。しかし、人間以外の生き物や物質であれば使用可能だ。
刻限になればバリケードの外で奴らの仲間が魔方陣を発動させ、竜を転移させる算段なのだろう。
「ご名答~! お前、頭良いなぁ」
「させるかッ!」
無数に出現させた水の杭を炸裂させる。今度は女のみならず周囲の者も武器を構えたが、その半分は即座に薙ぎ倒された。幾重もの拘束を受けながら、グラナトがその長大な尾で打ち払ったのだ。戒めに抗った鱗から血が流れている。
「我らが同胞よ、こやつらを許してはならぬ」
重々しい竜の声が告げる。
その怒り、悲しみを、ワインドは余さず理解することが出来た。
痛み――悼みの記憶を抱えてきたのは、ワインドだけではないのだと思い知りながら、詠唱を繰り返す。
幼い頃、ワインドには特別仲の良い竜がいた。親愛を込めディアと呼んだその竜は、ある時、渓谷に侵入した終焉の夜明け団によって意図的にベリアル化された。幼かったワインドは、親しい竜の姿をした化け物に襲われて尚、救うことができると信じた。その結果、両親は自身を庇って目の前で死に、ベリアルは他の竜をも食い散らかして成長してしまった。
最終的にベリアルは駆けつけた浄化師によって拘束され、後に処分されたが、ワインドは多くを喪い、暗く重い悔恨を抱えることとなったのだった。
「天空に告ぐ!」
信号用の呪文を唱え、頭上へ魔力弾を打ち上げる。蒼い魔力は崖を超え、更に高く昇りつめると派手に爆ぜた。
いまやリントヴルム家はワインドただ一人だが、渓谷には志を同じくするデモンの仲間が複数おり、随所に設置された見張り台に待機している。有事の際は固定魔信を用いて教団本部に連絡する手はずだった。転移方舟であれば本部から渓谷までは一瞬だ。
「閉じよ、綴じよ、鎖じよ!」
水の杭を渓谷の四方に打ち込み、詠唱と同時に魔力を込める。
「へぇ、結界か。でも、お前を殺せば問題ないよなぁ?」
女は動揺するどころか愉快そうに言って、凶悪な笑みと共に雷光を迸らせた。
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弔花
とても簡単|すべて
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久方ぶりの雨が降った翌日。白い造花を手にした教団員が一人、エントランスホールを歩いていた。彼はゆっくりとした足取りでホールの奥へ向かう。その先には、いつの間にか設置されていた小さな祭壇があった。首都内での任務を終えて本部へ戻ってきたあなたたちはそれを不思議に思い、その教団員の後を追う。彼は祭壇の前で足を止め、そして振り向く。どうやらあなたたちに気づいたらしい。軽く会釈をする彼に、あなたたちは造花や祭壇について尋ねる。彼は口を開いて、低く落ち着いた声で話し始めた。
彼は教団本部の病棟地下にある大聖堂で勤めている教団員で、普段は教団のために命を捧げた死者に祈りを捧げているのだという。そんな彼がエントランスホールまで赴いてきた理由は、どうやらこの祭壇にあるらしかった。
毎年8月頃になると、アークソサエティ各地では慰霊祭などが多く営まれる。それは『ロスト・アモール』に始まる一連の大災厄や、その後の混乱によって失われた人命を弔うためのもので、華々しい復興を遂げたここ首都エルドラドとてそれは例外ではない。首都では主に貴族階級・支配階級の者が、大戦で散った祖先や親族・友人などのため、合同で慰霊祭を開くケースが多い。薔薇十字教団に所属する軍事階級の者たちもそうした慰霊祭を執り行ってはいるが、彼らは長期の任務や緊急の出動などで本部に居ないこともままあり、数日ある慰霊祭に参加できない者も少なくない。そんな彼らのために設けられたのが、この小さな祭壇だという。
「これは本来ならば、病棟に設置すべきものであるかもしれません。ですが病院にお越しになる方々――特に入院中の方々は、『死』というものについて非常にデリケートになっておられます。それを強く想起させるものを置くべきではないという判断により、ここへ設置されたのです。例え、病棟地下に火葬場と霊安室が設置されていようとも、です」
彼の言葉に、あなたたちは病棟の構造を思い出す。地上は治療室や病室などばかりだが、病棟は地下へ行くにつれて死の気配が濃厚になる。解剖用の手術室の下には研究室があり、その下層には火葬場、霊安室と続く。そして彼が働いているのは、最下層付近にある大聖堂。薔薇十字教団本部で、最も冥界に近い場所だ。
浄化師は死した後も、自らの運命と教団に縛られ続ける。彼らの遺したものが、故郷や親しい者たちの手に渡ることはない。遺体の状況や遺品からは教団内部の情報が漏洩するおそれがあり、死者の家族構成を知られれば、遺された者たちが報復などの悪意に晒される危険性がある。そのため教団員の遺体や遺品は全て持ち帰ることが絶対となっており、遺体は病棟地下で火葬された後、霊安室に埋葬される。薔薇十字教団に入り、世界救済の為に命を捧げるとは、こういうことでもあった。
霊安室や礼拝堂には勿論、普段から祭壇が設置されている。だが、ここを訪れる者は少ない。そこがあまりにも、死を想起させる場所であるがために。
「ここへ仮の祭壇を設置すれば、多くの方の目に留まるでしょう。そしてこのエントランスホールは何よりも、地上1階にある。天国に近くもなければ、地獄に近くもない。花を捧げれば、すぐ太陽の下へと戻って行ける。魂が天上へ惹かれることも、地獄へ手招きされることも、ここでは無いのですから」
彼はあなたたちをちらと見、そしてまた祭壇へ目を落とした。
「かつて私はここへ赴任する際、浄化師に命を救われています。一人の『喰人』の命と引き換えに」
遠い過去を見遣るように、彼は僅かに顔を上げる。表情は変わっていないが、瞳だけは僅かに悲しそうな色をしていた。
彼は十年前、病棟地下聖堂の聖職者として教団に職を得、故郷からはるばるアークソサエティへと旅をしていた。当時は『ヴェルンド・ガロウ』の手により『魔喰器』が生み出されたばかりで、大半の浄化師たちの装備は今よりずっと悪いものだった。そんな状態で戦っていた当時の浄化師たちの死亡率は、やはりかなり高かったらしい。
交通の整備されていない片田舎の町から、彼は歩いて旅をしていた。最寄の駅までは山を一つ越え、それから歩いて数時間を要する旅程だ。そしてそんな山中で、彼はベリアルの群れと、それを討伐すべく派遣された浄化師に遭遇した。戦闘は激しく、彼は大木の傍で頭を抱えて震えることしかできなかった。そしてその戦闘で、一人の命が失われた。
そもそも通常の民間人は、ベリアルなどと戦う術を持っていないことがほとんどだ。彼がこれについて気に病む必要は無いのだが、生真面目で優しい彼はそうではなかった。彼を守って若い命を散らした喰人は、当時の彼より十歳も若い女性だったのだから。過去の出来事について淡々と語る教団員は、白百合の造花を手でくるりと回した。
「命からがら教団本部へ赴いた私が初めて行った仕事は、私を守って命を落とした浄化師の葬儀だったのです」
そう言って彼は、手にした造花を魔方陣の描かれた小さな台座の上へ置いた。透き通るように白い紙でできたその花は、しばらくすると花弁の先端に僅かに色をつけ、そして間もなく青い炎に包まれて消えた。灰のようなものは見当たらず、どうやら跡形もなく燃えてしまったらしい。
「彼女は白百合のブローチを左胸につけていました。それが彼女の好きな花であったのかどうか、私は知りません。それでも私は、毎年これを捧げているのです。彼女と引き換えに生き延びたことの意味や、彼女の犠牲に報いるために自分ができることについて、忘れないように」
言い終わると彼は瞑目する。祈りを捧げ、誓いを新たにするかのように。そして彼は胸につけられた団章を優しく撫で、あなたたちに向き直って頭を下げた。
「その、縁起でもない話をお聞かせしてしまいまして申し訳ありません。花はエントランスや司令部の受付にありますから、祈りを捧げる際はご自由にお持ちになってください。先に行ってしまった親しい人々や、ロスト・アモール以来の全ての犠牲者を悼むのでも結構です。ご自身の決意を新たにされるのも良いかもしれません。あなたがたのお持ちになっている祈りのかたちを、どうか捧げてください」
彼は説明を終えると、あなたたちに会釈してから去った。静かなエントランスホールを、規則正しい靴音が過ぎて行った。
祭壇に造花を燃やして捧げるのは、火葬された教団員たちに届くようにとの願いを込めて。それが紙製であるのは、今の命も仮初のものにすぎないからと再認識するためだという説があるが、その由来は不明だ。遠い昔に誰かが始め、いつの間にか習慣になっただけかもしれない。
大聖堂に勤めるあの教団員も、今このホールを行き交っている人々も、死後は皆灰となって病棟地下に埋葬される。彼らが故郷へ帰って安息を得る日は、二度と訪れない。それはあなたたちも同じだった。だがそれが明日なのか、来年なのか、あるいはもっと先の事なのか。それを知っている者は、誰一人として居ないのだから。
振り向くと、エントランス脇のテーブルに造花が置かれているのが見えた。あなたたちはそれを目指して歩き出す。白い弔いの花を誰に、あるいは何に捧げ、何を祈り、何を誓うのか。短く鮮烈な生の中で何を求め、避けられぬ終わりの時までに何を為すのか。死と隣り合わせの日々を生きる浄化師であれば、この機会にそれを見つめ直すのも、悪くないだろう。
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「あれ、まだ寝てなかったんだ」
夜もとっぷり更けた頃、煌々と明るいデスクに向かうパートナーに気付いて、様子を見に声をかける。
「修羅場なんだよ……今夜中に仕上げないと落とす……」
「あ、新刊? 大変だな~俺一般枠でよかっ」
――ガンッ!!!!!
先の尖ったペンを机にぶっ刺した相方の目は、ベリアルを相手にした時よりも狂気に満ちていた。
なんといっても明日は――もう日付は変わっているので今日だが――二人が待ちに待ったイベントの開催日なのである。
「いいよねぇ、締め切りのない人は……あー、字が書きたい……推しが書きたい……」
「今書いてるじゃん」
「文字を書いてるときは文字が書きたくなるものなの……」
「へ、へぇ……?」
なんだかよくわからないが、同人作家特有の発作みたいなものだから気にしないでと返されて納得した。
手伝おうかとも思うが、彼は言葉通り今回は買い専なので、してやれることは特別なさそうだ。
「買い物くらいは行ってやるから、無理すんなよー?」
「ありがと……壁は任せるからね……あたしもお昼になったら回るから……」
ひらひらと手を振るパートナーにおやすみと声をかけて、戦に備え早めに就寝した甲斐もあり、翌朝は良い目覚めだった。
パートナーも眠い目を擦りつつしっかり定刻に目覚めた。昨晩作業にふけっていたものはなんとか仕上がったようだ。
早朝、人でひしめく会場を前にして、二人の瞳は狩人へと色を変えた。
「途中で倒れるなよー? イベントで倒れてアライブスキル使うなんてごめんだぜ」
「そっくりそのまま返すわ。サークル入場分の働きは、しっかりして来てよね」
夏と冬の一大イベント。創作するもの、または性癖に従い薄い書籍を手に取るもの。
過酷な夏の戦が今年も始まる――!
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――月刊誌の臨時記者を募集します。詳細はアークソサエティ出版まで。
そんなポスターを目にしたあなたとパートナーは、早速出版社へ詳細を聞きに行くことにします。
「やあ、待ってたよ。早速だけど、君たちにはグルメ記事を担当してもらうよ」
出版社の担当者は、『グルメフェスティバル』と書かれたパンフレットをあなたたちに渡しました。
「ブリテンで開催されているこのお祭りに行って、出店の取材をしてきてほしいんだ。といっても、難しく考えないで、観光気分で楽しんで来てくれて構わないよ」
担当者は軽い調子でそう言うと、あなた達に取材先のお店のリストも渡してくれました。
『出張カフェ・リリアス』
普段はルネサンス地方の海沿いで営業しているカフェが特別出張。オススメは海の幸をたっぷり使った、『ピリ辛海鮮スープ』。
更に『ある試練』をクリアすると特別メニューが食べられるようです。
『たいよう農園』
ソレイユ地区の農場で採れた、新鮮な野菜や乳製品を使用。目玉は『オンリーワン・ピザ』。なんと自分で好きな具材を選んでトッピングできます。美味しいピザになるかは、あなたの腕次第!?
『くらげ酒場フェスティバル支店』
庶民派酒場がフェスティバルのために特別営業。オススメは、女将が丹精込めて煮込んだ『ことことシチュー』。まさにおふくろの味。
また、元伝説の賭博師と名高い大将とカードゲーム勝負も楽しめます。
『カルディアスイーツショップ』
数量限定で販売される、『天使のチョコレート』はフェスティバル内でも一番の人気商品。食べると幸せになれる、との噂も。
他にもホットチョコレートや、チョコレートケーキを販売。
「この4つの店の中から、君たちの好きな1か所を選んで取材してほしい」
担当者はここでああ、と声を上げて手を叩きました。
「大事なことを忘れていた!『店主の名前』と『お店の出店番号』は必ずお店の人に聞いてね。記事にも載せるから。それと、良い記事を持ってきてくれたら巻頭の一番目立つところに載せるよ」
依頼主はそう言うと、あなた達を笑顔で送り出しました。
あなたとパートナーは再び取材先リストに目を落とします。
どのお店も個性的なサービスを行っています。どこを取材しても、パートナーと仲良くなれそうです。
さて、どこに行こう?
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8月。今の時期には「精霊流し」と呼ばれる風習がある。
それは多くの命が失われた世界大戦「ロスト・アモール」の死者を悼むために始まったものだ。
発祥の地は東方島国ニホン。
ロスト・アモールにより死に、呪いとして幽霊になってしまった者達を成仏させるために始まった。
呪いとなってしまった無数の幽霊たち。
彼ら、そして彼女達が解き放たれることを願って、紙で作った船を川に流して鎮魂の祈りを捧げたのだ。
船には火を灯した蝋燭を載せ、死者への思い出や鎮魂の思いを記した文と共に川に流す。
夜闇の中、川に浮かぶ船の灯りは、死者を導く道しるべのように見えたという。
この時、川に流した紙舟は、今では「精霊船」と呼ばれている。
それは死者を悼んだ皆の想いが幽霊に通じ、呪いから解き放たれた無数の魂が空に昇っていく様子が、精霊が舞っているかのように見えたことが理由のひとつだ。
もうひとつの理由は、紙船にピクシーが楽しげにちょこんと座っている様子から、今では「精霊船」と呼ばれている。
それらが合わさって、一連の紙船を流す風習は「精霊流し」と呼ばれているのだ。
ニホンが発祥の精霊流しが広まったのは、教皇国家アークソサエティでも、それだけ多くの命が失われたという事でもある。
それほどにロスト・アモールは、多くの悲劇が生まれていた。
その悲劇を忘れぬ為に。
そしてこの世を去った死者を想うためにも、今でも精霊流しの風習は続いている。
とはいえ、悲しむだけが人間ではない。
死者を悼み、そして生きる今を楽しむのも人間というものだ。
弔いとしてだけでなく、イベントとして今では楽しんでいる。
そのひとつが、精霊船の出来栄えを競うお祭り。
リュミエールストリートのお店が協賛し、出来あがったものをお店に飾り、お客さんに票を入れて貰うというものだ。
精霊船の謂れのひとつである、紙船にピクシーが楽しげにちょこんと座ったことにちなんで、実際にピクシーに協力して貰う所もある。
リュミエールストリートにある、冒険者ギルド「シエスタ」に居るピクシー達も、そのために集められていた。
「それで、楽しいことはいつ始まるの?」
テーブル席のひとつ。
そこには3人の冒険者達と何人ものピクシー達が居た。
冒険者に連れて来られたピクシーの1人が、自分を連れて来た冒険者の1人に問い掛ける。
これに20そこそこの見目良い美女といった姿をしたセパルが返す。
「これからだよ。浄化師の子たちにも協力して貰えるよう頼みに行ってるから、ちょっと待ってて」
「えー、まだなのー」
拗ねたように言うピクシーに、さくらんぼをひとつセパルは上げて機嫌を取る。
「あー、私も私もー」
セパルにさくらんぼを貰ったのを見て、他のピクシーたちが騒ぐ。
そこに冒険者のひとりである涼やかな美女セレナが、リンゴをうさぎさんの形に切り分けて振る舞う。
「他にも欲しい物があったら言って。切ってあげるから」
「は~い♪」
喜ぶピクシーたちに、目を細めるセレナとセパル。
そんな2人に冒険者の最後の1人、20代半ばの厳ついにぃちゃんといった見た目のウボーは、頭にうつ伏せで乗ったピクシーに髪を三つ編みにされながら言った。
「そろそろ、クロアさんが頼んだ浄化師達が来てくれる頃だな」
「うんうん、そろそろだね」
「状況説明とか、した方が良いかしらね?」
3人が浄化師達を待っているのは、精霊船の出来栄えを競うイベントに協力して貰うためだ。
浄化師も参加するイベントとして箔を付ける、ということで毎年協力を求めているのだ。
そんな、精霊船の出来栄えを競うイベント協力指令を、アナタ達は受けました。
精霊船の制作と、それに乗るピクシーに何かしてあげて欲しいとの事でした。
ピクシー達に何か服やアクセサリーを付けてあげて、船と共に見栄えを良くしてあげる。
船の見た目に凝ってみる。
他にも何かアイデアがあれば、してあげて欲しいとの事です。
必要なものは、リュミエールストリートのお店から依頼を受けた冒険者達が用意してくれます。
この指令に、アナタ達は――?
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トラノの町に、ベリアルの大群が迫っている――。
森で暮らす狩人からその報せが届いた時、町の守備隊長を務めるグランは、頭を抱えた。
青霧の谷を抜けて、ぞろぞろと町へ向かってくるベリアルどもの数は、少なく見積もっても二十を下らないという。一体だけでも恐ろしいベリアルが、二十体だ。
かたや、グランが指揮する守備隊は、数日前に入隊したばかりのトムを入れても、たったの十二名。
戦力の差は歴然としており、まずまともな戦いにもなりはしないだろう。
「絶望的、だな……」
グランは自嘲気味に呟くと、オンボロ隊舎の端にある狭苦しい隊長室を出て、食堂と会議室を兼ねる薄汚れたホールへと向かった。
隊長がホールに姿を見せると、しばらく前にそこに集合して小声で何やら相談を始めていた隊員たちが、一斉に顔をあげる。
「グラン……今回ばかりは、相手が悪いぜ……」
グランに次ぐ年長者で、守備隊の副隊長も務めるベンが、開口一番あきらめ顔でいう。すると、
「そ、そうだ! ベリアルの群なんて、俺たちじゃ勝てっこねえよ!」
「こんなクソ田舎で、無駄死にするのはゴメンだぜ!」
若手の隊員たちが、怯えた顔で次々に叫ぶ。
「逃げよう! 町を捨てて、みんな一緒に逃げるんだ! そうすりゃ、全員生き残れる!」
ふとっちょのハモンが、ヒステリックな甲高い声でいうと、
「……いや、そう上手くはいかない」
グランは、疲れた顔でかぶりを振った。
「馬に乗る者や、脚に自信のある者なら、あるいはうまく逃げおおせるかもしれない。だが、年寄りや子供は、今から町を出てももう遅い。すぐにベリアルどもに追いつかれて、喰い殺されてしまうだろう」
「そ、そうだとしても、全員ここで死ぬよりマシだ!」
「そうだぜっ!」
隊員たちは、すでに自分が助かることしか頭に無いようだ。
まあ、無理もないか――。
グランは、臆病風に吹かれた彼らに同情する。
田舎町の守備隊勤めなど、給料はスズメの涙で、身分的にも町の道路清掃人と大差ない。町を守るために命を捨てろ、と言われても、迷わずに首を縦に振るのは容易なことではない。
「俺は、この仕事に誇りを持ってる。だから、戦って勝てる見込みが少しでもあるなら、俺は戦うよ……だが、今度ばかりはな……」
みじめそうにいうベンをみて、グランはため息をついたあと、口を開いた。
「町を捨てて逃げる、というのが、ここにいる全員の一致した意見なんだな?」
「………………」
無言で俯く隊員たちを睥睨した後、グランは深く頷いた。
「そうか、わかった……。お前たちには皆、故郷に愛する家族がいる。だから、この町を捨てて逃げるお前たちを、俺は責めたりはしない。トラノの守備隊は、ただ今をもって解散する! お前たちは、今すぐ好きなところへ逃げていい」
「……グラン、お前はどうする?」
ベンがぎこちなく訊くと、グランは片方の眉をあげて、ニヤリと笑った。
「幸か不幸か、俺には守るべき家族などいない。それに、俺はこれでもトラノ守備隊の隊長だからな。町にひとりでも守るべき住民が残っているなら、俺は最後まで戦うさ」
「……そうか……すまない」
ベンが俯いたまま足早にホールを出て行くと、残りの隊員たちも皆それに続き、グランひとりがそこに残された。
しばらくの後、トラノの町を囲む防壁の大きな門の前で、グランは町を去る仲間たちを見送った。
町民たちは、まだ家財道具などの整理に手間取っているらしく、なかなか町を出てこない。町を守るべき守備隊員が誰よりも早く町から逃げ出す、というのも皮肉な話だ。
「じゃあな、ベン」
「ああ……」
十年来の友をグランが笑顔で送りだした時――、街道の向こうからこちらへとやってくる一団の人影が目に入った。
「あれは……、教団の浄化師たちだ!」
グランは、近づいてくる者達の正体に気がつき、歓喜の声をあげた。
ベリアルが町に迫っているという一報を受けた時、ダメもとで町の危機を伝える狼煙をあげてみたのだが、どうやらそれが役に立ってくれたらしい。
時間的に考えても、首都から救援にやってきた者達ではないだろう。おそらくは、たまたまこの近くで調査活動でもしていた一隊にちがいない。
「浄化師たちがいれば、百人力だ」
グランが興奮気味にいうと、
「浄化師といったって、あれっぽっちの人数だ。ベリアルの大群相手に勝てるわけないぜ」
ベンも、そして他の元隊員たちも、力無く首を振る。
たしかに、いくら浄化師たちが強いといっても、彼らだけでベリアルの大群を相手にするのは厳しいだろう。
だが、もし……俺たち守備隊が彼らに力を貸せば――。
グランは、希望を捨て、守るべき町を捨てようとしている仲間達の前に、ゆっくりと立ち塞がった――。
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「あ、あの、このお店のスイーツ、ずっと食べに来てもいいですかーー!!」
かって、アレックスは初恋の相手にそんな告白をしたことがある。
あれから一週間が過ぎた。
結論から言えば、まだ初恋の相手とは交際に至っていない。
そして、アレックスの恋路と、彼を振り撒く環境は、どちらも最悪の一言に尽きる。
「おわあああああっ!」
人力車から、スプラッタ映画さながらの悲鳴が轟き渡る。
アレックスのペットである、空を泳ぐふぐ――もとい、パフィーフィッシュが毒針を飛ばしてきたのだ。
ここは、教皇国家アークソサエティの南部に位置する大都市ルネサンス。
アレックスはその日、初恋相手との交際を始めようとして、相棒のサムが引く人力車に乗ってヴェネリアの街中を駆け回っていた。
「よお、お嬢ちゃん。誰に許可を得て、ここでままごと遊びをしているんだよ!」
「うわあああん、ママ!」
ままごと遊びをしていた少女が泣きながら立ち去ると、アレックスはパフィーフィッシュの毒針を必死に避けながら腕を組んで高笑いを始めた。
「おら! そこの猫ども、戯れているんじゃねぇ!」
「にゃー!?」
アレックスが噴射した水鉄砲を浴びて、路上に戯れていた猫達は一目散に逃げていく。
「やめろ!」
「何だ、貴様は?」
しかし、突如、人力車の行く手を阻む存在が現れたことに、アレックスは目を見開いた。
サムが怯えたようにアレックスに助言する。
「あ、兄貴。あいつら、どうやら浄化師のようですぜ」
「な、なにいーーーー!?」
衝撃度満開なフレーズに、アレックスは全身を震わせた。
「兄貴、さすがに浄化師相手はやばいんじゃ……」
「心配するな、サム。アレックス団はな、ベリアルやヨハネの使徒からも、ファンクラブが結成されるほどの人気ぶりなんだよ!」
「さすが、兄貴!」
慣れた小言を聞き流す体で、アレックスはサムに人差し指を突きつけると勝ち誇ったように言い切った。
「さあ、いつものように行くぜ!」
「はい、兄貴!」
アレックスの言葉に釣られて、サムは浄化師達へ視線を戻した。
そして二人、声を合わせて叫ぶ。
「「ごめんなさい!!」」
「はあ……?」
刹那、場の空気がシンと静まり返る。
土下座をして何度も請うように頼むアレックス達に、浄化師達は言葉を失って唖然とした。
「実は、初恋の相手に交際の申し込みをしに行く途中だったんです」
アレックスにそう告げられても、浄化師達はあまりの滑稽無稽さに正気を疑いたくなった。
「普通に会いにいくことはできなかったのか?」
「これが、俺達の普通です」
間一髪入れずに即答したアレックスは、真顔で浄化師達を見つめてくる。
「頭が痛くなってくる…‥…‥」
あまりにも突拍子がない話に、浄化師達が思わず頭を抱えた。
「で、初恋の相手というのはこの街にいるのか?」
「はい。この街の外れにあるスイーツショップにサニスさんという方がいます。その方が、俺の初恋の相手です」
突然の展開についていけず、浄化師達がなんとも言い難い渋い顔をしていると、アレックスは得意絶頂でこう続ける。
「前に、俺が『このお店のスイーツ、ずっと食べに来てもいいですかーー!!』と告白したら、食べに来てもいいと了承の返事を頂いたんです。それからは毎日、サニスさんのお店に通わせてもらっています」
「……いろいろと前途多難だな」
言葉の意味を一瞬にして悟ると、浄化師達は目を丸くし、驚きの表情を浮かべた。
どうみても、ただの店員と客の関係である。
アレックス達は、サニスと付き合う前提で話を進めているみたいだが、街中の騒動のことといい、このままでは彼女から敬遠されかねない。
「浄化師様、どうかお願いします。いろいろと問題があるかもしれませんが、兄貴の恋路、どうか手伝ってもらえませんか!」
「なっ――!?」
予想以上の前途多難な恋路ぶりを目の当たりにして、浄化師達は困ったように眉根を寄せたのだった。
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「困った」
教皇国家アークソサエティ、薔薇十字教団の教団寮の食堂、調理室。八月某日の真夜中、ただひとりそこに残った青年はペンを握り締めたまま頭を抱えた。
「トマト……。トマトってなんだ……?」
あまりにも悩みすぎて、眼前の食材がもうよく分からなくなっている。このままではだめだと、まだまだ見習いだという自負がある料理人は目を閉じた。
「頼るかぁ」
本当は自力でどうにかしたかったのだが、ことここに至っては仕方ない。自分ひとりではもうなにも浮かばないのだ。幸い、この職場には頼りになる者たちが揃っている。
もちろんそれは、ライバルになりうる料理人たちではなく。
「ってわけで、知恵を貸してほしい」
ぱん、と手をあわせて頼みこんだ先は、浄化師だった。教団本部のエントランスホールに新規の指令の確認にきていた浄化師を適当に捕まえては、若き料理人はこうしてお願いをし続けている。
「トマト祭りで出す新作料理のメニュー開発、手伝ってくれ!」
八月下旬に、ヴァン・ブリーズ地区を中心に開催されるトマト祭り。収穫したばかりのトマトを街中でぶつけあい、豊作を祈るという行事なのだが、もちろんこれだけの催しではない。
トマト合戦の他に、トマト料理を出す多種多様な屋台が出たり、トマトを模した雑貨が販売されたりと、とにかくトマト尽くしの賑わいを見せるのだ。
またの名を、トマティーナ。
「そこでトマトの新作料理の屋台を出して、料理長に振舞いたいんだよ。ほら俺、料理長のこと大好きじゃん? 新鮮ですごいトマトの料理、食べてもらいたいじゃん?」
その情報は知らなかったし、特に興味もなかった、と浄化師の顔にはかかれていたが、青年はまるで気にしない。
「レシピを考えてくれるだけでいいから! もう俺だけじゃアイデアの限界なんだよー!」
情けない声を上げる料理人は、どうしようもなく必死だった。
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「汝らに依頼じゃ。くくく、このように指令を言い渡す仕事は久々よ。
なぁに、妻が夏病にかかっておので、暇で暇で暇で死にそうで、仕事をかわっておるのよ。
……はぁ、久々に調査から帰れば……はぁ」
指令を通達するのはユギル・霧崎である。
顔の半分を隠す狐面、唇しか見えないが、面白がるようににやにやと浄化師たちを見ている。
どうも新人が多くなった、というので、その品定め的な視線を感じる。
「今回の依頼は、ずいぶんと容易い依頼よ。新人の経験を積ます目的としては理にかなっておる。
むろん、手練れであっても油断すれば大けがの元、しっかりと精進するがよい」
都市部から数キロほど離れた森が近い村で、キラービーが現れたそうだ。森で遊んでいた子供が二人ほど刺され、毒による高熱に苦しんでいるそうだ。
「キラービーについては知っておるな? 魔力の影響を受けた蜂よ。
普通なら、毒よりナイフのような毒針に刺されて出血で死ぬのだが、幸いにも子らは急いで逃げたおかげで毒の苦しみだけのようじゃ。
調べてみるとキラービーが現れたところ、洞窟があってのう、長年森のなかでたまった魔結晶が見受けられた。
今回は、キラービー退治と魔結晶の回収よ。
キラービーは基本的に巣から離れん、巣のあるところは地図に描いて渡すゆえ、参考にするが良い。
ああ、ここの調査をした吾が言うのもなんじゃが、洞窟は二人の人間が並んではいればそれだけでいっぱいになる程度の広さしかない。
松明なんぞもっていけばかっこうの的となるだけゆえにすすめはせんよ。
外におびき出すか、それとも中で退治するかは自由じゃが、よく考えて行動することをすすめよう」
にこりとユギルは微笑んだ。
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