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教団本部、室長室。
そこでヨセフは、オクトの一員であるグリージョに言った。
「オクトと協力関係を結びたい。首領であるヴァーミリオンに連絡を取って欲しい」
「本気かい?」
訝しげにグリージョは返す。
「アンタ、うちがどんな組織か分かってるんだよな?」
「だからこその提案だ。反目している今の状況を正したい。お互いの利益になる筈だ」
「利益ねぇ」
グリージョは値踏みするようにヨセフを見る。
彼が所属しているオクトは教団に敵対している。
それはこれまで教団が表には出さずに行ってきた様々な非道が原因のひとつだ。
「良い目を見せてやるから下につけってんなら、無理だぜ。それで言うことを聞くぐらいなら、今みたいなことになってねぇ」
「前提を間違えている。先程も言ったが、我々が望んでいるのは協力関係だ。お互い対等の立場で手を取り合う必要がある。そのための方法が、これだ」
そう言うとヨセフは、ひとつの宝玉を執務机の上に置く。
「そいつは?」
「支配の王玉でーす。虚栄の孤島の正当な王家の血筋が持てば、好いことがありまーす」
グリージョに返したのは、魔女のメフィスト。
彼にグリージョは応える。
「うちの姫さんに持たせようってのか? 何が起るってんだ?」
「島に眠る膨大な量の魔結晶を手に入れられまーす」
「どういうこった?」
「虚栄の孤島には、強力な八百万の神が眠りについているのでーす。そして島全体には、魔力を結晶化させる魔方陣が敷かれていまーす。それが八百万の神から漏れ出た魔力を結晶化させているのでーす」
「……ちょっと待て。つまり、あの島には強力な八百万の神が眠っていて、それが垂れ流している魔力を結晶化させる仕組みがあるってことか?」
「そうでーす。100年以上過ぎてますから、相当な量の魔結晶が生成されている筈でーす」
「それが本当なら、旨味のある話だな。だからってそれだけで――」
「あくまでもそれは資金源としての話です」
話の途中で、大貴族の子息であるウボーが言った。
「本命は、虚栄の孤島に独立国を作ることです。そのためには、かつてあそこに存在した国の正当継承者が必要になります」
「……つまり、うちの姫さんを利用しようってか?」
「利用じゃなくて、王さまになって欲しいってことだよ」
魔女であるセパルが言った。
「そこにボクたち魔女を国民として受け入れて欲しいんだ」
「魔女を?」
「うん。ヨセフくんや浄化師の子達のお蔭で、表立って魔女がどうこうされることは無くなったけど、それでも大っぴらに動ける訳じゃないから。他のみんなと同じように、日常が送れる場所が欲しいんだ。そのためなら、ボクたち魔女は君達の力になるよ」
「……随分な話だが、そんなことが実現できるってのか?」
「すでに根回しは済ませています」
ウボーのパートナーであるセレナが説明する。
「サンディスタム国王であるメンカウラー様と、ノルウェンディ国王であるロロ様。そしてシャドウ・ガルテンのブラフミンであるウラド・ツェペシェ様にも、虚栄の孤島に存在した国を復興することの賛同を得ています」
「……下準備は全部終わらせてるってことか」
「そうだ」
ヨセフはグリージョに応える。
「オクトのことを知り、浄化師達に助けて貰い、そこまでこぎつけることが出来た。この支配の王玉も、グリージョ、お前の家族である浄化師が皆と現地に赴くことで手に入れたものだ」
「……そうかい。あの2人が」
グリージョは支配の王玉をじっと見つめると、静かに返した。
「分かった。今の話なら、こちらの理念にも反してねぇ。ヴァーミリオンの旦那も、興味を持ってくれるだろうさ。それで、連絡を取れば良いのか?」
「可能なら、直接話し合いたい。こちらは浄化師を連れていくつもりだ。そちらも、連れてくる者は好きにしてくれて良い」
「場所はどこにする?」
「そちらの国となる虚栄の孤島が良いだろう。支配の王玉は、先に渡しておく。王族の血筋が持てば、あの島にある魔法の罠を自由に動かせる。身を守ることも出来るだろう」
「……良いのか? そっちが来た途端、罠に掛けるかも知れねぇぞ」
「その時は、力付くで跳ね除けて、話をつけるだけだ。そうならないことを願っている」
「分かった。これは姫さまに渡しておく。戻って、ヴァーミリオンの旦那に、そちらの意向を伝えておく」
「頼む。その時には、以前話した人物には気をつけてくれ」
「……ライナーさんのことか」
眉を寄せグリージョは返す。
「今でも信じられねぇんだが、本当に、人形遣いって言ったか? そいつと同一人物だってのか?」
「こちらで調べた限りは間違いない。それとナハトが食い込んでいる形跡もある。話を伝えに戻る時は気をつけてくれ」
「……ナハトねぇ。まぁ、うちも一枚岩じゃないのは分かってたけど……俺達がここに来る切っ掛けとか考えたら、ジータ隊長なんだろうな」
ため息をつくと、グリージョは支配の王玉を手に部屋を出て行った。
それから数日後、戻ってきたグリージョから以下の内容が伝えられました。
ひとつ、虚栄の孤島の王城跡地で会談すること。
ふたつ、ヴァーミリオンと王女であるメアリーが同席するので、ヨセフが来ること。
みっつ、同行者として浄化師を連れて来ることを許す。
とのことでした。
これを受け、ヨセフは浄化師に指令を発令。
現地に一緒に赴いてくれるよう頼みました。
その際、メフィストが――
「何かヤベー予感がしますからー、魔導書の子達を連れて行って下さーい」
と言って、セパル達と一緒に魔導書っ子達が連いて来ることになりました。
そして現地に赴くその日、先に訪れていたヴァーミリオン達から少し離れた場所で、彼らを襲撃しようとする者がいます。
「クソ、ふざけるなよ」
神経質そうに爪を噛みながら、元教団の研究員であり、オクトに所属している筈のイアスが手勢を率いて隠れている。
「ヨセフを殺すためにオクトに居たというのに……ここに来たら殺してやる」
そこまで呟くと、背後の手勢に向かって言いました。
「べリアルになりたくなければ、あいつらを殺せ」
イアスの視線の先には、教団の外で作られた浄化師達。
彼らは転魔と呼ばれる、パートナーの1人に負荷の全てを押し付けることで、理性を保ったまま覚醒する魔術が掛けられています。
それを利用して、いつでもイアスは彼らを暴走させべリアル化させることが出来るのです。
もちろん、そんなことはアナタ達は知りません。
警戒しつつも、会談場所である王城跡地に訪れようとしていました。
この状況、アナタ達は、どう動きますか?
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カツン。
手から、注射器が落ちた。
中身は、ヒュドラの血から精製した毒。
低位であれば、八百万の神すら殺せると言う、顕界最強の猛毒。
これを、濃度が十倍になるまで濃縮した。
それを、通常致死量の十倍の量、注射した。
注射器の半ば程まで入った時点で、苦悶の末に悶死する。
通常で、あれば。
けれど。
だけど。
生きていた。
否。
『生きている』というのは、語弊があろう。
死んだのだ。
確かに、死んだのだ。
其に到達する、苦痛を経て。
全ての生命活動の、停止を持って。
彼女は、尚、生きていた。
その記憶に、体感した死の全てを内包したまま。
ドンと言う、音が鳴る。
執行者が、壁によろけた音。そのまま、ズルズルと崩れ落ちて顔を覆う。
七回。
前の処刑人から役を引き継ぎ、執行した回数。
先の者は、四回彼女の首を断ち、挫折した。
物理的な方法では無理と分かり、薬殺に切り替えられた。それでも尚、彼女はこの世に在り続ける。
毒。
劇薬。
魔術薬。
あらゆる選択肢の中で、最凶のモノを選んで投与した
『決して苦しめる事なきように』と言う、教団の意思に反してまで。確実に、死をもたらす筈のモノを。
でも、彼女は死なない。
否。死んで、そしてまた生きる。
死に至る苦しみを、繰り返しながら。
もう、駄目だ。
執行人は、嘔吐しながら嗚咽する。
一度の面識。一度の執行。極時折の、断罪の落刃。
だからこそ、耐えられる。
過酷だけど、耐えられる。
けれど、彼女は……。
己の意思で、担った職務。自他共に認めた、強靭な精神。
罪を断するのならば、理において常に正しき者であれ。
そう。
だからこそ。
彼はもう、耐えられない。
理を。正しきを理解するからこそ。
もう、壊れるしかない。
死出の苦しみ。残る余韻に戦慄きながら、疲れ切った目で彼を見る。
自分を殺す。殺し続けると言う苦悩に屈した、彼を見る。
虚ろな、瞳。
ゴポリ。
薄く開いた口。零れる、血の塊。流れるそれに頬を濡らし、『レム・ティエレン』はハァと息を吐いた。
蝶が、舞う。
◆
「春に桜が香る夜は……雲雀が恋歌歌うまで……父の背に乗り眠りましょう……。夏に蛍の灯火燃ゆる夜は……椎に空蝉止まるまで……婆の歌にて眠りましょう……」
灯りの落ちた、教団の団員寮。その一室のベランダから、静かな静かな歌が聞こえていた。
部屋から持ち出した椅子に立ち、小さな身体を手摺に預けて。長い白絹色の髪を揺らす少女が一人。遠い夜空を見上げて歌っていた。
「秋に雁が渡る夜は……サルナシの実が熟れるまで……爺の語りで眠りましょう……。冬に雪虫舞う夜は……雪が星に変わるまで……母に抱かれて眠りましょう……」
口ずさむそれは、子守歌。教えてくれたのは、優しい先輩達。遠い日に別れた人が、最期の絆に置いていったモノだと。もう、顔も思い出せないのだけど。
「お目々覚めたら上げましょう……雲雀が歌った恋歌を……空蝉止まった椎の枝……青くて甘いサルナシを……雪色に光る星の屑……。だからお休み……可愛い子……お眠り……お眠り……愛しい子……」
歌が、止まる。
見上げる、朱い瞳
満天の、夜空。
浮かんでいたのは。
朱い、陰陽。
「あら?」
無邪気な、声が尋ねる。
「貴女は、だぁれ?」
微笑む様に歪む陰陽。
差し伸べられる、白い手。
蝶が、舞う。
◆
「………」
微かに聞こえた声が、浅い悪夢に微睡んでいた彼女を覚醒させた。
「………?」
身を起こして、声のした方を見る。
格子の向こう。誰かが、立っていた。教団本部の地下最下層。凶悪犯だけが監修される、大監獄。訪れる者など……ましてや、今の自分にそんな相手などいる筈もないのに。
「ねえ、貴女……」
また、声。子供。それも、自分より幼い少女のモノ。
目を凝らす。
確かに、女の子。長い三つ編み。白絹の色。見つめる瞳。深紅。尖った耳は、彼女がエレメンツの血を引く証。
「こっちに、来て」
招く。酷く優しく。澄んだ声。
立ち上がって、歩み寄る。誘われる、ままに。
歩み寄り、格子越しに見つめる。嬉しそうに微笑む、愛らしい顔。
「可愛い耳。獣人(ライカンスロープ)なのね」
「……誰だよ? お前……」
「知ってるわ」
答えは、返ってこない。
「貴女、死なないんでしょう?」
「………!」
自覚したくもない、現実。吐き捨てる。
「だったら、何だ!?」
「素敵。 貴女、最高に『良い人』なのね」
思いもしない、言葉。目を、丸くする。
「何、言ってんだ? お前……」
「だって、そうだもの。 だから、貴女は『死なない』のだから」
「オレが、何をしたか……」
「死んだのは、その人達が『悪い人』だったから」
水を流す様に紡がれた言葉。息を、飲む。
「そうでしょ? 良い人は、どんな事だって乗り越えて生きる。悪い人は、死ぬ。そういうものだもの」
熱に浮く深紅の瞳。浮かぶ、色は……。
「皆が、証明してるわ。お姉様方も、お兄様方も。皆、皆、生きて帰ってくるもの」
「お前……」
「さあ……」
少女が、格子越しに両手を伸ばす。
「証明しましょう」
綺麗な声。危うい程に。儚い程に。
「わたし達が、良き者たる事を……」
戸惑う彼女の耳に、別の声が響く。
少女の後ろ。浮かぶ、モノ。
朱い、陰陽。
導く、ままに。
合わせた掌。隙間も生じず、ピッタリと。喜びに満ちる、少女の顔。しっかりと、握り合う手。繋がって。
同調率、100%。
蝶が、舞う。
◆
「随分と、奇異な事で……」
「全くだ。そうなった過程も、理由も。彼女は答えてくれないしな……」
教団本部の一室。卓についた男性と、立った女性が向かい合っていた。
「それでも、結果が結果だからな。捨て置く訳には、いかない」
卓上に置かれた書類を、女性が取る。
「祓魔人は『ディアナ・ティール』、喰人は、『レム・ティエレン』。どちらの子も、結構な曰く付きですね」
「ああ……特に、レムの方はな……」
「かの無差別テロの、実行犯。そして、『数多の死を背負う者』」
「どうしようもない、罪人だ。だが、その『特性』は……」
女性が、嘲る様に目を細める。光がない故、その所作は酷く心を穿つ。
「利用、するおつもりで?」
「……強硬派から、意見が出ている。『刑の執行が出来ぬなら、研究材料として有効利用し、償いとすべし』とな」
「上層部(あちら様)と、大差ないお考えの様で」
「全くだ。だが、これ以上教団の分裂を招く訳にはいかない」
溜息をつくと、班長の男性は女性に告げる。
「彼女らの、有用性を証明したい。見聞役を頼む」
「他の方々も、追随なられるのでは?」
「彼らは、ディアナと縁が深い。余計な情が挟まると、困る」
言って、班長の男は女性を見る。
「……正直、君の思想は好きではない」
「結構な事です。と言うか、貴方様方に同意されては困ります」
悪びれなく微笑む女性。また、溜息。
「……だが、故に君は適任だ」
差し出す、指令書。
「『ヘクトン村』近隣で、低スケールベリアルが多数闊歩している。殲滅を、『ディアナ・ティール』・『レム・ティエレン』ペアと他数チームに銘じる。ついては、『光帝・天姫(みつかど・あき)』。君は皆に追随し、彼女達の適正と可能性を見極めてくれ」
「……お受け、致しました」
白魚の指で指令書を受け取り、凶骨の令嬢は恭しく頭を垂れた。
蝶が、舞う。
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薄暗い小部屋の中で、少女は静かに笑っていた。
銀髪と紫眼の少女。
彼女の座る椅子の脇に設けられた水晶盤には、巨大な光の檻が映し出されている。
「プリムローズ様、間もなくですね。これで兄の無念を晴らす事も出来ましょう」
壁際に侍っていた女性は満足げに呟く。
やがて、先を見据えるように、銃の装填を確認した。
「私も他の幹部の方と同じように、神の救済のお力になりたかった……。でも、その願いはもうすぐ叶う」
少女は――プリムローズはそっと手を伸ばして、愛しそうに水晶盤に触れる。
「全ての人々を、安らかな夢の世界へお招きしたい」
窓から細く月明かりが射し込む中、プリムローズは人々を教唆し、若しくは幇助して死へと導こうとしていた。
●
天を仰ぐ。降りしきる光が、身体を伝って、体温を奪っていく。
「一体、どこで」
誰に聞かせるでもない声は、
「『彼女』を間違えたんだろうな……」
閃光の中に消えていく。
「ドッペル達は逃げ切れたかな……」
今日、何度吐いたか解らない呟きと共に、右手に渾身の力を込めた。
掌から伝わる感触が、彼の中にある感情の輪郭を浮かび上がらせる。
サクリファイスの奸計に嵌まり、彼ら――浄化師達はこの光の檻の中へと閉じ込められてしまった。
その際、不意を突いた事により、同行していたドッペル達だけは逃がす事が出来た。
痛し痒しの反撃だったが、しかし、それでも窮地には変わりない。
先に尽きるのは体力か、それとも気力か。
どちらにせよ、終わりの時が近づいている事は、彼ら自身がよく分かっていた。
●
そこは、数時間前まで何の変哲のない村の一つだった。
村人達が集い賑わい、平凡で平穏な日常が流れる村。
しかし、そんな村はもう何処にも無い。
あるのは日常を逸脱した凄惨な光景。
辺り一面、血と死体で埋め尽くされた場所。
村にはただ、死だけが漂っていた。
「……おにーちゃん、おねえちゃん、あの子だよ」
「そうか」
幼い少女――コルクは同行したあなた達と一緒に、その惨状を産み出した少年と出くわしていた。
あなた達は、襲いかかってきた少年を即座に倒し伏す。
「……もう大丈夫だよ」
駆け寄ったコルクは少年に対して、記憶改竄を解除する魔術を施した。
「ぐっ……」
やがて、洗脳が解けた少年は喘ぐような声を上げ、目を覚ます。
「ここは……」
「ご、ごめんなさい……」
上半身を起こした少年に、コルクは今までの顛末を説明する。
話が進むにつれ、少年の表情が深刻さを増していく。
コルクが全てを話し終えた後、少年は辛辣そうな表情を浮かべていた。
「僕は、そんな事を……」
一瞬の静寂の後、少年は痛恨の想いをそのまま口に出した。
「ごめんなさい……ごめんなさい……」
責苦を負う覚悟で、コルクは何度も深罪する。
失った痛みはきっと消えない。
けれど、それでも前に向ける。
コルクはあなた達と共に、サクリファイスの信者へと変えられた者達を元に戻し、誤りの螺旋を断ち切っていた。
『コルク、お母様に操られている人達を元に戻したい』
時は、数日前に遡る。
コルクは、あなた達にそう懇願してきた。
事の発端は、サクリファイスの幹部である義母――フィロ達が、サクリファイスの信者にする為に、魔力蓄積量が高い者達を浚って集めていた事に繋がる。
その際、抵抗出来ないように、薬品によってフィロ達の命令を遂行するだけの存在に変えられていた。
サクリファイスの信者へと変えられた者達の惨劇。
それはかって、操られていた自分が犯してしまった過ち。
コルクも、サクリファイスの手によって操られていた過去がある。
だからこそ、利用されている人達を救いたいと願ったのだ。
「あなた、名前、何て言うの?」
「……リブラ」
「コルクだよ。よろしくね」
コルクは頬を緩め、少年に――リブラに笑みを向ける。
真っ直ぐに視線を合わせてくるその眼差しに、リブラは思わず、呆気に取られてしまう。
「それにしても、光の檻の調査に同行したドッペル達は大丈夫かな? あれから暫く間、ドッペル達の姿を見かけないけれど」
「コルクの話だと、もう少し調査に時間が掛かるみたい」
あなた達は2人のやり取りを見守りながらも、調査に同行したドッペル達が未だに指令から戻って来ない事に懸念を抱いていた。
ブルーベルの丘の近くで発生した光の檻。
あなた達がその調査に赴こうとした矢先、コルクから今回の相談を持ち掛けられたのだ。
その際、ドッペル達だけが別の浄化師達と共に、光の檻の調査に向かう事になった。
しかし、ドッペル達が光の檻の調査に赴いてから、かなり時間が経っている。
その間、ドッペル達からは何の音沙汰も無い。
何かの謀略に巻き込まれたのではないだろうか――。
あなた達の危惧は、その一点にあった。
「そろそろ戻ろうか?」
「そうね」
詳しい事情を聞く為、このまま、リブラを教団に連れていこうとした時、後方に殺気を感じて立ち止まる。
「皆の仇だ! 死ね!」
あなた達が振り返る間もなく――振り下ろされた斬撃がリブラの背中を抉った。
「……っ!」
最初に感じたのは衝撃。次に熱さ。痛みは最後に来た。
背中から吹き出した血の霧を纏いながら、リブラはその場に倒れ伏す。
「リブラ!」
コルクの呼び掛けにも、リブラには答える余裕が無かった。
「しっかりしてー!」
悲痛なコルクの声に唯一、応えられたのは、微かな吐息だけ。
リブラは死の淵に沈もうとしていた。
「何をしているんだ!」
「止めて下さい!」
「離せ! こいつが皆を殺したんだ!」
あなた達は即座に、ナイフを振り下ろした村人を取り押さえる。
どうやら、村の生き残りの男が、村人を虐殺したリブラの息の根を止めようと隙を窺っていたようだ。
「待ってて、すぐに回復するから!」
駆け寄ったコルクは屈み込み、リブラの回復に専念した。
コルクの掌から注がれる光が、リブラの傷を癒していく。
(今のは、まさか……?)
男を拘束していたあなたは、その光景を目の当たりにして息を呑む。
「……アライブスキル」
あなたが目にしたのは、コルクがリブラに対して『天恩天賜』を掛けている姿だった。
コルクは魔術の素養はあっても、浄化師としての素質を持ち合わせていない。
魔術は使えても、アライブスキルを扱う事は出来ないはずだった。
それなのに、コルクは当たり前のようにアライブスキルを使っている。
「コルク、あなた……」
到底、見逃せない現象を目撃したパートナーは、コルクに詰め寄った。
リブラの傷は塞がり、顔色も赤みが帯びている。
理性よりも先に、直感が結論を出した。
「コルク、いや――」
あなたは男を縄で縛り、身動きを封じると、コルクに呼び掛けた。
「おまえは誰だ?」
あなたの一声が、廃墟の村に沈黙を強いる。
「コルクはコルクだよ?」
あなたの問いかけに、コルクは不思議そうに首を傾げた。
「コルクは、浄化師としての素質はない。アライブスキルは使えないはずだ」
「なるほどねー」
冷めた表情で断じたあなたに対して、コルクは人懐っこい笑みを浮かべる。
「で、コルクが偽物だと解った所で、おにーちゃん達はどーするのかな?」
囁く声。
コルクと同じ顔で呟かれる疑問に、あなたは決意を固める。
「リブラを助けてくれた事は感謝する。だけど、コルクの姿を模して、俺達の前に現れた理由は何だ?」
「うーん。目的は教えられないけれど、本物のコルクの居場所なら、コルクと遊んでくれたら教えてもいいよー」
コルクの弾むような声は、嗜虐的な響きを持って空へと流れた。
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その日、見上げた月は、息子が出奔した日と変わらぬ輝きをしていた。
「万斉殿」
聞き慣れた声に、月を見上げていた初老の男、斉藤万斉(さいとう・ばんさい)が視線を向ける。
そこに居たのは自分と同年代の男、八狗頭源隆斉(やくと・げんりゅうさい)だった。
「話は付きましたか?」
「いや。鍔競り合っておるよ」
剣呑なことを言いながら、しかし源隆斉は稚気に溢れた表情をしていた。
「懐かしいな」
思わず、万斉は昔のような砕けた口調で言った。
「久方ぶりだ。お前のそんな顔を見るのは」
「そういうお前こそ。懐かしい喋り方になっているぞ」
お互い苦笑する。
かつて八家当主を担い得る長子として、共に親しく語り合っていた頃に、2人は戻っていた。
「好き月だ」
「ああ」
2人は共に月を見上げる。
それは自分達の長子が、家を出て行った時に見上げた物と変わらず、2人を照らしていた。
いま2人が居るのは、氏神である大口真神(おおぐちまかみ)の神社の境内だ。
本殿では、跡継ぎ候補に誰を出すかという話し合いが続いている。
かつて、万斉と源隆斉の属する武士団、真神八家は、八家全体の当主を巡って騒動を起こしていた。
だが浄化師の協力もあり、根本的な制度を変えて対処する、という話に落ち着いた。
しかしそこで問題になったのは、誰を出すかということである。
持ち回りで特定の家から出すのではなく、能力がある者が、複数の補佐を置きながら合議制で当主としての役割を全うする。
それ自体は問題ないが、やはり誰を出すかという話に戻ってくる。
そもそも、当主として必要な仕事は多種多様。それを細分化することで役に就く者は増えるが、増えれば増えたで誰がその役に就くかでもめていた。
より少しでも多く、自分の家から役に就く者を出すために、役職そのものを増やそうとする者まで出る始末。
「選定の時には真神様も御出でになるというのに、とてもではないが、今の体たらくをお見せできぬな」
ため息をつくように言う源隆斉に、万斉は苦笑しながら返す。
「全くだ。このような無様、曝さぬためのしきたりであったが、変えぬ方が良かったか」
「本気で思っておるか?」
「まさか」
万斉は笑みを浮かべ返す。
「ただの愚痴よ。許せ」
「許す。ただ、どうせなら茶でも飲み、甘い物でも楽しみながらにしたいものだ」
「確かに」
お互い笑みを浮かべる。
厳つい風貌に反して、この2人は甘党なのだ。
とはいえ、家の当主としての威厳を保つため、人前ではそぶりを見せないでいた。
今までは、であったが――
「八狗頭の当主の座、青葉に正式に譲り渡すことにした」
源隆斉は静かに告げた。
「御上には、すでに届け出ておる」
「そうか。私も、内内に準備は済ませた」
万斉も静かに返す。
2人は、それぞれの家の当主であったが、八家当主選定制度が変わるに当たり、名実ともに、その座を退くことにしていた。
「年寄りが退かねば、若い者は好きに動けぬからな」
「違いない」
気心が知れた者同士笑い合いながら、けれど万斉は心残りを覗かせる。
「気になることでもあるのか?」
「……なに。あいつにこれを渡せずじまいだったのを悔んでおるだけよ」
万斉は、自分で彫った仔狼の根付けを取り出し見詰める。
「家を出る時に、置いていきおった。家に迷惑を掛けることを詫びる書状と共に、残してそれきりだ」
「……」
無言で話を聞いていた源隆斉は、どこか稚気の溢れる笑みを浮かべ言った。
「新当主に関わる選定、浄化師に手を貸して貰うとしよう」
「どういうことだ?」
聞き返す万斉に、源隆斉は応える。
「なに、今のままでは話が先に進まんからな。いま揉めておるのは、要は誰が相応しいか決められんからだ。なら、自分こそは相応しいと示す場を作れば良い」
「……試合相手を浄化師に務めて貰う気か?」
「それも良かろう。血気盛んな者も多い。少し痛い目を見させてくれる相手が居た方が、先のためだ。のみならず、当主に就くには武の技量以外も肝要よ。それらを示すための知恵を借りれるなら好かろう。それに――」
万斉の持つ根付けに視線を向けながら源隆斉は続ける。
「その根付け、渡せるやもしれん。悪い話では無かろう」
「……今の騒動を利用しろと?」
「人聞きの悪い。どのみち、浄化師に頼むのは前から考えておったよ。一族同志で後の禍根を残さぬためにも外部の助けは要ると思っておったからな。お主はどうだ?」
「先を越された」
万斉は、源隆斉と同じく稚気に溢れた笑みを浮かべ応えた。
「私もそのつもりであったよ。まったく、お主にはいつも先を行かれる」
「その後追い抜いていくのだから、構わんだろう」
「その後に、追い付いて来るではないか」
「競う相手が居るのは楽しいからな。力も入るというものよ」
2人は笑い合うと、いまだ話し合いの続く本殿へと向かった。
そして、浄化師も参加する、次期当主選定試合が行われることになりました。
そこには――
「楽しみにしておるぞ!」
話を聞きつけた暴れん坊将軍、徳川吉宗が来ていました。他にも――
「はははっ! 励むが好い!」
なぜか守護天使ヤマトタケルも来てます。
「……2人とも、はしゃぐのは、ほどほどに」
胃痛枠の狼の八百万の神、大口真神が引率の先生みたいな感じで、吉宗とタケルの相手をしてたりします。
そんな中で、アナタ達には協力要請が来ています。
選定試合で勝負の相手になるも良し。
単純に観戦者になるも良し。
試合以外で、当主としての資質を見極める試験などを作って、その試験官になることも出来ます。
あとは、選定が終わった後に宴が開かれる予定なので、そちらの手伝いをしたり、単純に参加しても好いでしょう。
そして今回の指令に参加すると、記念として真神八家特製の根付けが貰えるとの事です。
この指令、アナタ達は、どうしますか?
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その日は穏やかな陽気だった。
辺りは爽やかな風が吹き、優しく甘い水の香りで満ちていた。
初夏の日差しが差す運河を、遊覧船がのんびりと往く。
「綺麗……」
ドッペルは甲板の手すりから身を乗り出して、運河を囲む街の景観に見とれている。
未知のものが、目の前にあるようなワクワクした顔だ。
ここは、教皇国家アークソサエティの南部に位置する大都市ルネサンス。
あなた達はドッペルを連れ添って、遊覧船でヴェネリアの運河を巡っていた。
やがて遊覧船が、運河の上に架けられた橋を通り抜ける。
その瞬間、視界いっぱいに抜けるような青空が広がり、薄暑光を再び浴びた水面が宝石のようにきらきらと輝いていた。
「ドッペルは、遊覧船に乗るのは初めてだったみたいだな」
「保護されるまでは寒い所に居たから、物珍しいのかもしれないね」
あなたの誠実な声と共に、向かい風がパートナーの髪を靡かせる。
ドッペル達が保護された場所である、ミズガルズ地方の北に位置する樹氷群ノルウェンディ。
そこは、一年を通して国土に雪氷が覆う国だ。
今まで、目の前のような光景を見る機会は無かったのだろう。
「こんにちは」
明朗な少女の声が、あなた達の耳朶に触れた。
あなた達が視線を向けると、お菓子の入ったバスケットを持った少女が柔らかく微笑む。
「この近くにあります、『スイーツショップ』の新作お菓子になります。もし、よろしければ、貰って下さい」
「ありがとう」
船内を行き来していた少女から、あなた達は新作のお菓子を受け取る。
船内から見る建物や景色は壮観だ。
あなた達は受け取ったお菓子をドッペルに渡す為に、甲板へと歩いていった。
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機械都市マーデナクキス。
その中でも発展めざましい、天使を失った街『ロスト・エンジェルス』。
幾つもの高層建築が立ち並ぶ、その狭間。
ビルとビルの隙間に、その建物は有った。
幾つもの魔術的迷彩と、建築学を駆使した配置により、その場所を知らぬ者は訪れることが叶わない。
そこに『初期マドールチェ』の1人であるオッペンハイマーは居た。
「どうしたんですか? マスター」
20歳半ばほどの、金髪碧眼のマドールチェの女性がオッペンハイマーに尋ねる。
「手紙を読んでいたんだよ」
きしりと音をさせ、体重をあずけていた椅子から体を起こし、オッペンハイマーは応える。
今2人が居るのは、隠密型セーフハウスの一室。
秘密裏に活動する彼らの拠点のひとつで、オッペンハイマーは2通の手紙を読んでいた。
「懐かしい相手と、君達の姉か、もしくは妹かもしれない子からの手紙だよ、ヴァイオレット」
この応えに、戦闘人形として製造された『ドール・シリーズ・タイプ・カラーズ』の1人であるヴァイオレットは、手紙を取り読んでみる。
「……私は逃げない、ですか」
「ああ。君好みの応えじゃないかね?」
「そうですね……抱きしめてキスしたくなるぐらいには、嫌いではないです」
「ふふ、相変わらず情熱的だ」
「相手は選びますよ。それで、こちらの手紙は――」
「シャルルからの物だ。べリアルを新たな人間種族にする手伝いをして欲しい、ということらしいよ」
「あら、出来るんですか?」
「クリアしないといけない点は幾つもあるが、不可能ではないよ。私だけでは無理だが、シャルルや、他にも何人か居れば可能だろう」
「なら、手伝うんですか?」
「さて、ね……」
オッペンハイマーは2通の手紙を丁寧に片付けると、続けて言った。
「科学者としての私は、手伝いたいと思っている。だが、皆の指導者としては、そんな余裕はないよ」
今オッペンハイマーは、マーデナクキスでの誘拐や人身売買を潰す秘密組織のトップについている。
それは戦闘用のマドールチェを作ろうとしている動きがあるからだ。
かつてべリアルや使徒に対する兵器として。
あるいは、いずれ来る人同士の戦争のため。
子供の頃に浚われ、全ての記憶を無くしマドールチェとして造り替えられ、あと少しで使い潰されそうになった。
そんな悲劇を2度と起こさせないと、かつての同志と共に暗躍している。
「シャルルの望みに応えてやるには、私は同胞の想いを見捨てないといけない。だから出来ない。だが――」
オッペンハイマーは、教団本部の中枢人物についての詳細が書かれた報告書に目を通しながら続ける。
「こちらに利のある物を差し出せるなら、考えないでもないよ。
今シャルルは教団本部に保護されているらしい。中枢に位置する者達との伝手もあるようだ。
だから、ひとつ課題を出したいと思う」
「課題、ですか?」
「ああ。我々マドールチェが、マドールチェになることで失った記憶。それを取り戻させてくれれば、考えないでもない、とね」
「……相変わらず、課題を出される時は厳しいですね」
「それだけ期待しているのさ。応えて来るかは……解らないがね」
そう言うとオッペンハイマーは、シャルルへと返信の手紙をしたためた。
そして教団本部に、その手紙が伝わり――
「出ー来まーすよー」
「お前なんでもアリだな」
呆れた声でヨセフは、魔女メフィストに返した。
「別に何でもでは無いですよー。琥珀姫の苦労を借り(パク)るだけですしー」
メフィストはそう言うと、ひとつの羅針盤を取り出した。
「それは確か、蜃の羅針盤だったか?」
ヨセフの問い掛けにメフィストは返す。
「そうでーす。この羅針盤の中に組み込まれている蜃には、過去この世界で起ったすべての出来事が記録されていまーす。それを介して、失われた記憶を取り戻しましょー」
「……リスクはないのか?」
「膨大な蜃の記録を一端取り出した上でー必要な物だけ転写しないといけないのでー、大抵の人は処理がおっつかなくなって発狂しまーす」
「ダメだろ」
「そこは大丈夫でーす。私が現地に行って使いますからー」
「そうか……なら、私も行こう」
「室長もですか?」
この場にいる者のひとり、ウボーが尋ねる。
「本部を離れると、暗殺に動くかもしれません」
「分かっている。だから、対外的には本部に居ることにする。幸い、皆のお蔭でドッペルが本部に居るからな。影武者として手を貸して貰うことにする」
「ドッペルに、室長に変身して貰うんですか?」
ドッペルとは、対峙した相手の姿に変身できる生物だ。
一般的なドッペルは会話をすることが出来ないが、とある理由で生れた特殊なドッペル達は、幅広い種類のものに変身できる上に、人と話が出来る。
そんな特殊なドッペル達を浄化師が保護してくれたお蔭で、いま教団本部で協力関係ができているのだ。
「姿だけでなく、声も同じに出来るからな。影武者としては申し分ない」
「それはそうかもしれませんが……ですが、それでも危険です。代わりに私達が行って、室長からの親書の形で、こちらの意図を伝えた方が」
「それでは足らん」
ヨセフは断言した。
「マドールチェは過去のことで、教団に対して不信が強い。それを少しでも和らげるためには、こちらもリスクを取って誠意を見せる必要がある」
そこまで言うと、ヨセフは頼んだ。
「本部を離れる間、影武者となるドッペルの護衛とフォローを頼む」
「……分かりました。ですが、護衛として浄化師と共だって下さい。彼らなら、きっと安全に守ってくれます」
「そうだな……いつも苦労を掛けるが、今回も協力して貰おう」
などという話し合いがあって数日後。
ヨセフから極秘指令が出されました。
内容は、マーデナクキスに行って、現地の秘密組織の指導者であるオッペンハイマーと交渉するので、護衛として来て欲しいとの事です。
現地には事前に話をして、交渉の場が設けられているとの事ですが、過去に教団がやらかしたことにより、現地のマドールチェの教団に対する不信は根強いです。
そんな中、万が一にも何も起こらないよう、連いて来て欲しいとの事でした。
場合によっては、浄化師として彼らに対して発言を求められることもあるかもしれません。
この指令に、アナタ達は?
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それは魔女メフィストの一言から始まりました。
「お使いに行って来て下さーい」
室長から指令があるということで、室長室に集まった貴方達は、そこでメフィストに言われたのでした。
詳細を聞けば、メフィストは説明します。
「虚栄の孤島の、王城跡に行って、そこにあるお宝をガメて来て欲しいのでーす」
虚栄の孤島とは、島ひとつが丸ごとダンジョンに認定されている場所のことです。
かつてそこには小国があったのですが、今では滅んでいます。
「昔あそこの王さまとは、知り合いだったのでーす」
メフィストは昔話を語ります。
「その時に色々と、国の色んな場所に、仕掛けをさせて貰ったのでーす。中でも王城には、支配の王玉を隠しておいたのでーす」
支配の王玉とは、虚栄の孤島にある無数のトラップを解除する鍵のひとつとして作った物とのこと。
そして効果としては、もうひとつ。
「王家の血筋が手にすると、島にある宝を手にすることが出来るのでーす」
メフィストの説明によれば、将来国に危機が来た時に、子孫が困らないようにしてくれと頼まれ作った物とのこと。
そこまでメフィストが説明すると、ヨセフが続けて言いました。
「宝はともかく、王家の血筋が証明できる物は手に入れたい」
何故ヨセフが、こんなことを言うのか?
それは少し前、教団本部に訪れた反教団組織オクトの人員からの話を聞いたからです。
浄化師の家族とも言える幽霊と共に行動していた3人組は、最初は警戒していましたが、徐々に気を許し、オクトのことも考えてヨセフに事情を話してくれました。
話によれば、今オクトには、虚栄の孤島に存在した王国の王家の血筋に連なる少女が居ると言うのです。
オクトの首領、『銀朱の』ヴァーミリオンは、祖父が王家に仕える騎士であり、亡国の復興を考えているようです。
それは、自分が首領を務めるオクトの人間や、オクトを頼りに集まってきた奴隷達が安心して住める故郷を作るためでした。
「その話が、どこまで本当なのかは分からん。だが確かめるため、そしてオクトと交渉する取っ掛かりにするために、支配の王玉を持って帰って欲しい」
ヨセフの要請に、アナタ達は頷きます。
そこにメフィストは続けました。
「頑張って下さーい。トラップありますから気をつけて下さいねー」
ちょっと待て。
思わずツッコミを入れるアナタ達に、メフィストは笑顔で応えます。
「解くのは無理でーす。私は作っただけなのでー、その後は知りませんからー。それに自己進化で、勝手に作り変わりますからー。今どうなってるのか私でも分からないのでーす」
朗らかに言うメフィストに、眉をひそめるアナタ達でした。
そうしてアナタ達は、虚栄の孤島に上陸し、王城跡に訪れました。
静かな廃墟を進んでいくと、突如アナタ達は、それぞれが別々の場所に跳ばされました。
それは罠が発動した瞬間でした。
そのひとつ。
ソファやら家具やらベッドやらある、ほど良い大きさの部屋に、アナタ達は居ます。
そして部屋には扉が何処にもなく、明らかに密室でした。
脱出しようとする貴方達の前に、突如一匹の猫が現れます。
「よーく来ーたにゃー」
気が抜けるような声で猫は言いました。
「ここは、いちゃいちゃしないと出れない部屋にゃー。出たかったら、いちゃいちゃするにゃー」
わけの分からないことを言うと、猫は消えました。
(……どうしろと?)
頭痛を覚えながら、貴方達は再び脱出しようとしますが、どうにもなりません。
どうやら、あの猫の言うように、いちゃいちゃしないといけないようです。
そんなバカバカしいトラップに、皆さんは掛かりました。
幾つも種類があったので、人によっては違うかもしれません。
そんなアナタ達のドタバタを、『視』ているものがいます。
「さて、どうなるか。見せて貰いましょ」
流麗な女性の声を発したのは、一匹の黒猫。
ゆらりと尻尾を揺らめかせると、一瞬尻尾が9本になり、すぐに戻ります。
「メフィストの気配がするから、縁がある子達なんでしょうけれど。少しぐらい遊んでも、好いわよね」
楽しそうに目を細めながら呟くと、配下の騎士達に言いました。
「遊んで来なさいな」
「わかったにゃー」
「遊ぶにゃ遊ぶにゃー」
ワイワイ騒ぐのは、やはり猫たち。
全員、6回以上死んで生まれ変わり、魔法を使えるようになった猫たちです。
そんな猫たちが、アナタ達で遊ぼうと、一斉に走って消えました。
行く先はもちろん、トラップに掛かったアナタ達の所です。
この状況、アナタ達は、どう動きますか?
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広大なノルウェンデイ領内。その果てにある、キグナート山脈。
純白の山峯と、麗氷の氷河に抱かれた聖域。
けれど、今その場所は無残に荒れ果てていた。
崩れた山脈。割れ砕けた氷河。そこかしこに残る、壮絶な破壊の痕跡。
それは、かつてここで行われた戦いの証。
世界を呪い、滅びを願った強大なる古龍。
その憎悪と悲しみを刻みつけ、消えたかつての氷獄の主。
――『慟哭龍 アジ・ダハーカ』――。
かの忌憶は癒す術なく。深々、深々と。白く冷たい、柩に眠る。
◆
白雪が積もる針葉樹の森を、複数の人影が走る。息を潜め。足音を殺し。気配を消して。目深に被った、黒い外套。覗く左手の甲には、浅く埋め込まれた十字架。
『終焉の夜明け団』。
神の御座を狙う天人。其に傅く、外法の手下(てか)。
「ここか……」
リーダー格らしき男が、立ち止まる。
続いて、他のメンバーも。見上げる彼らの前には、白く凍てついた岩壁。
リーダーの男が、指示する。
「やれ」
メンバーが取り出すのは、携帯型の投石機。装填されるのは、魔方陣が描かれた火薬玉。刻み込められた術式は、『ボマー』。爆発の威力を、倍加する。
放たれる、火弾。幾つも。幾つも。岩壁に当たり、弾ける。
砕け、削られる岩と氷。やがて、顕になる内部の地層。そして――。
「出た……」
感嘆の声を上げる、信者達。現れたのは、地層に半ば同化する様に埋まった巨大な球体。玉虫色の表面が、鼓動する様に輝く。
「エイバム、『コレ』が……」
問われたリーダーの男が、『ああ』と頷く。
「慟哭龍……アジ・ダハーカがベリアル化する前に遺した、最後の卵だ」
見る事も叶わなった、母の名。反応する様に、震える卵。
「……生きているな」
「古龍種が孵化に必要とする千年は、過ぎた。間もなく、孵化する」
トクン。トクン。響く、鼓動。
「凄まじい魔力を有した、宝物(ほうぶつ)だ。卵殻、幼体。全てが、究極最上の魔術素材になる」
「アレイスター様の、助けになるか」
「ああ。引いては、デイムズ様の地位確立の主柱にもなろう」
『サー・デイムズ・ラスプーチン』。
教団上層部の一人。戦火と殺戮を愛する、転魔の凶将。
「口寄せ魔方陣の設置を始める。かかれ」
動き出す、信者達。
「急げよ。ヨセフの飼い犬共に気づかれると、面倒だ」
卵の周りに構築されていく、魔方陣。見つめながら、エイバムと呼ばれたリーダーの男は、独りごちる。
「愚かで傲慢なヨセフめ。あの方が到達された暁には、新世界における最初の粛清者となって華を添えるがいい」
「傲慢なのは、貴方方もどっこいどっこいですの」
「――――!?」
急に現れた声と気配。エイバムが振り返るよりも早く、悲鳴が響く。
「否、己の卑しさを自覚しない分、貴方方の方が始末が悪いですわねぇ」
一瞬で細断された信者達の肉片が、バラバラと落ちる。爪に付いた鮮血を払い、妖しげに哂う黒衣の少女。
教団関係者であれば、今や誰もが知る姿。
「さ、『最操のコッペリア』……」
「あらあら。ご存知の様で、結構な事」
ベリアル三強が一柱。『最操のコッペリア』。100の魔軍を統べる、悦狂の邪姫。
「な、何故……貴様が……?」
「何故も何も。不相応な宝石に集る地虫を、駆除しに来ただけですの」
エイバムの顔が、強張る。
「まさか……ベリアル(貴様ら)も、慟哭龍の卵を!?」
「聞いてませんでしたの?」
サラと揺れる、金色の髪。それだけで、背後から襲いかかろうとした信者三人が真っ赤な塵屑と化す。
「虫には、不相応ですのよ?」
美しく、怖気の走る笑み。
恐怖を飲み込み、エイバムは叫ぶ。
「こ、殺せ! 例え、スケール5と言えども、この人数なら……」
「どうにも、なりませんわねぇ」
嘲笑。
瞬間、信者の半数が肉片と散る。
「な……」
いつの間にか、複数の人影が立っていた。
「ベ……ベリアル……」
戦慄きながら、確かめる。
スケール3が、六体。スケール4が、四体。そして、美しい少女の姿をした個体が、二体。
「ま、まさか……」
「あら?」
笑む、コッペリア。
「スケール5が、三強(わたくし達)だけとでも思ってましたの?」
「――――っ!!」
現実を、直視する暇もなかった。
瞬く間に惨殺されていく、信者達。
相手にならないどころではない。数秒前に立つ事すら、叶わない。
「エ、エイバム……」
満ちゆく血臭の中、怯える一人の部下にエイバムは告げる。
「逃げろ……」
「え?」
「俺が時間を稼ぐ! お前は逃げて、応援を呼べ!」
「し、しかし……」
「大事なのは、アレイスター様の元へ卵(これ)を届ける事だ! 迷うな! 行け!」
意を決した様に走り出す、部下。
哂って見送り、コッペリアは言う。
「それなりの、矜持はありますのね。いいですの。少し、格上げして差し上げますの」
「ほざけ!」
剣を抜き、片手に魔方陣を展開して挑みかかるエイバム。
首が、飛ぶ。
「地虫から、蠅に」
吹き上がる鮮血。崩れ落ちる身体。頬に散った雫を舐め取り、コッペリアは壮絶に微笑んだ。
◆
「狩りますか? お姉様」
スケール5の片割れ。藍髪ロングの少女が部下の男が走り去った方向を見ながら、問う。
「構いませんの。『アルテラ』。放っておきなさい」
「何だ。つまらない」
もう一方の片割れ。朱髪ショートの少女が口を尖らせる。
「我慢なさい。『アルメナ』。あんな小虫、いくら喰らっても足しになりませんの。それより……」
クスリ。ほくそ笑む。
「虫は餌にして、大魚を釣るが定石ですの」
「ああ……」
「そういう事」
意を察した様に頷く、スケール5の二人。コッペリアは振り返り、スケール3・4のベリアル達に命じる。
「その辺りで待機してなさい。これだけ大きな魔力の塊、程なく子羊達も気づきますの。良い子で、待ってなさい。手は、出さずに。子羊達より前に虫共が来たら、それは狩っていいですの」
「あイ」
「御意」
受けたベリアル達が、姿を消す。
「それでは」
「アタシ達も、遊んでる」
スケール5の二人も消え、一人残るコッペリア。虹に輝き、鼓動する卵を見上げて、言う。
「さて、失望させないで下さいませね。子羊達……」
囁く声。何処までも何処までも、悦楽に満ちて。
◆
数時間後、異常な魔力反応を探知したノルウェンデイの調査団が到着。孵化間近の卵と、周囲の惨状を確認する。
現場の状況と死体の遺留品から、終焉の夜明け団及びベリアルの関与が判明。一般兵での対処は困難と判断。報告を受けた国王、『ロロ・ヴァイキング』の即断により、教団本部に助力要請の通達が届いた。
現状及び前例から、古龍の卵と言う逸物を終焉の夜明け団が諦めるとは考えにくい。ベリアルの介入によって目的が阻まれたのなら、次は対抗し得る戦力を整えて卵の奪還を企むモノと思われる。
一方、ベリアル側の目的も明白。生まれる古龍を、母であるアジ・ダハーカの様にベリアル化し、仲間に引き込むつもりだろう。
加えて脅威なのは、その戦力。現場に残された死体から算出された信者の数、およそ20人。彼らとて、無力な素人ではない。この人数なら、ベリアルといえど相応の対処が出来る筈。それも叶わなかったとするならば、答えは一つ。
襲来したのは、3以上の高スケール。それも、複数。
危険な戦いになる事は、確実。
それでも、浄化師達は志願する。
アレイスターの野望を、挫く為。
悪しき滅びを、阻む為。
そして、何より……。
――あんな、悲しい過ちはもう二度と――。
開くゲート。戦いの場への、道がつながる。
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教皇国家アークソサエティの王である、教皇ルイ・ジョゼフ。
彼の住まうヴェルサイユ宮殿に、サー・デイムズ・ラスプーチンは招かれていた。
「戦争を、させてやる。だから今は退け」
チェスの駒を動かしながらルイは言った。
「これはまた、随分ですな、ジョセフ殿」
後手のデイムズはキングを動かすと、視線を向け続ける。
「貴方の助けがなくとも、戦争は出来る。それでも止めると?」
「慎ましい戦争でも良いなら、止めん」
視線を合わせながら、ルイはクイーンを動かし言った。
「同じ戦争なら、大きければ大きいほど、貴兄は好物だと思ったが」
「ふむ、違いない。ただ、味には拘るのでね。このショートケーキよりも、絶品であるなら考えんでもない」
ルイが用意させたショートケーキを食べながら、デイムズは目を細める。
「美味い。これほどの物、誰の作ですかな?」
「ギヨーム・フエールの作だ。美味いに決まっている」
「ほぅ、これが。噂に違わぬ、否、それ以上の味よ。残念だ。これほどの味を作れる者が、居なくなるのは」
「そう思うなら、飽きるまで、そちらに菓子を届けよう。それまで戦争の準備でもしていれば良い」
「なるほど、それは確かに。ヨセフを殺すなら、関わる者は全て殺すつもりだったが、味わい尽くすまで殺すのは惜しい。だが――」
デイムズは、彼の背後に佇む人物に言った。
「お前はどうする、人形遣い。ジョゼフ殿は、私にオクトを捧げるつもりらしいぞ」
「そうですねぇ」
ねとつく笑みを浮かべ、人形遣いは応えた。
「教皇様のお考え通りに進むなら、オクトは教団本部と心中することになりますねぇ。デイムズさん、戦争になれば残す気は無いのでしょう?」
「無い。出された食事はすべて平らげることにしている。好き嫌いはせんよ」
「そうなると、今までオクトに費やしてきた労力、人、全てが無駄になりますねぇ。ああ、それはそれは――」
笑みを深め、人形遣いは続ける。
「愉快ですねぇ。無惨です。とてもとても無惨です。
亡き祖国の再興を望む者。虐げられ奴隷として辛酸を舐めた者。居場所なく、それゆえ故郷を望む者。
そして、彼らを駒として食い物にしようと画策する者。
その全ての思惑が、何もかも踏み潰されて無為になる。それはそれは、とても甘く苦く、楽しいでしょうねぇ」
心底本気で笑顔を浮かべ、人形遣いは楽しげに言った。
「構いませんよ、私は。筋書き通りに進むのも好きですが、即興劇も楽しいものです。ですから、ご随意に」
「そうか」
人形遣いの言葉を聞いたディムズは、チェスの盤面を見たあと言った。
「ステイルメイト(引き分け)ですな。さすがジョセフ殿、お強い」
笑顔を浮かべながらデイムズは続ける。
「今日の所は、退かせて貰いましょう。ただ、代わりにひとつ、遊ばせていただきたい」
「何を望む?」
ルイの問い掛けに、デイムズは応えた。
「なに、小手調べをひとつ。人形遣い、死人兵を率い、教団本部を襲え」
「はぁ。構いませんが、どういうつもりで?」
「目的は、ふたつ。威力偵察と、嫌がらせだ」
楽しげにデイムズは続ける。
「本番の前に、ヨセフ達の戦力を量っておきたい。それと、この前私が戦った時、邪魔した者達が居てな。その中に、お前の作った死人兵の縁者がいた。会わせてやれ。泣いて喜ぶだろう」
「おやおや、それはそれは。楽しそうですねぇ」
にちゃりと人形遣いは笑う。
今2人が話題にしている死人兵とは、文字通り死人の兵だ。
死後間もない遺体を魔術で処理し、生前と可能な限り変わらぬよう、遺体を修復。
そこに、あの世に行く前の魂を無理やり封入したもの。
ゾンビのように思えるが、ゾンビと違い魂が内在しているため、使役者が指示を出さずに柔軟に動ける。
さらに死者であるため、生きた人間であれば高確率で肉体の欠損が起る口寄せ魔方陣を使って、好きな場所に召喚できる。
しかも特殊な魔術により自我を封じているため、自身の欠損も、他者の殺害も、なにも感じず行うことが出来る。
戦場展開が容易な人型自律兵器。
それが死人兵だ。
人形遣いは、デイムズからの斡旋により齎された遺体を使い死人兵を作っていた。
デイムズは教団内の高い地位を利用し、浄化師の関係者や、あるいはヨハネの使徒やべリアルにより殺された者達の遺体を流用し易い立場に居り、長年そうしたことを続けていた。
「では、遊ばせていただきましょう」
「好きにしろ」
デイムズは応えると、用が無くなったと言わんばかりに、その場を後にした。
そして数日後。
人形遣いは、教団本部を襲撃しに現れた。
「さて、遊びますか」
いま人形遣いが居る場所は、教団本部の南部。正門からは200mほど離れている。
「死士操葬」
特殊な口寄せ魔方陣で、死人兵2人と1体のキメラを召喚。
1人はヒューマンの少女。
1人はヴァンピールの男性。
残りのキメラは、獅子を思わせる体に、頭だけが巨大な人の顔になっていた。
人形遣いは、それぞれに命じる。
「タオ、貴女は北部に。セイアッド、貴方は西部に。頑張りなさい。家族が会いに来てくれるかもしれません。その時は、歓迎してあげなさい」
人形遣いの言葉に2人は、それぞれ走る。
その眼に意志の光は無く、ただただ、命じられるがままに動く傀儡の虚ろしかなかった。
それを見届けると、キメラにも命じる。
「グロウギア。貴方は東部を目指しなさい。配置に就いたなら、吠えて知らせなさい。開戦の合図とします」
無言でキメラは命を受けると、即座に疾走。
それぞれが配置に就く前に、人形遣いは握り拳大のエリクサーを取り出すと、丸ごと呑み込んだ。
飲み干すと、ほぼ同時に、東部にある教団寮より200m先の配置に就いたキメラが雄たけびを上げた。
「ギアアアアアアアアッ!」
教団本部全てに響くほどの雄たけび。
それが本部に居る者達に異常を知らせる。
何事かと確かめると、教団の四方から進軍してくる襲撃者の群れに気付く。
北部に300。西部に300の人に見える何か。
エレメンツの魔術探知により、その全てが生者とは違う魔力循環をしていることが分かる。
東部からは、キメラの群れが400。四足獣型だけでなく、二足歩行や、蜘蛛のような多脚型の物も居り、複数種類の混成部隊だ。
そして南部には、1人の男が居る。
男は――人形遣いは見られているのに気付くと、笑みを浮かべ新たな軍勢を召喚した。
「十指操葬」
召喚したのは10体の特殊なゾンビ。
さらに、死人兵を100体召喚し周囲に配置する。
「さあ、遊びましょうか」
全ての配置を終わらせた人形遣いは、教団本部を陥落させるべく、軍を進めた。
この状況に出くわしたアナタ達には、本部防衛のための指令が即時発令されました。
緊迫したこの状況で、アナタ達はどう動きますか?
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教団本部室長室。
今回も今までと同じく、浄化師に関連する人物についての話し合いがされていた。
「浄化師の家族に対する護衛体制は、当初の予定率を完遂しました」
ウボーからの報告を受け、ヨセフは返す。
「第一段階は終わったということだな。第二段階への移行はどうなっている?」
「そちらについても進展しています」
報告書を渡し、セレナが言った。
「各地の浄化師の家族を護衛するために配置した人員を、いざという時に連携して行動できるよう連絡網の構築が進んでいます。魔女の魔法だけでなく、万物学園にも協力して貰い、広域通信の拡充を急速に対処して貰っています」
「そうか。現時点でも労力を掛けているが、これからも苦労を掛けるな。俺の方も出来るだけ予算を引っ張って来るから、それで少しでも報いることが出来るよう体制を作っていきたい所だな」
ここしばらく、徹夜仕事に近い勢いで書類仕事をしていたヨセフは、目元を揉んだあと続ける。
「護衛体制は巧くいきそうだが、個別の案件についてはどうなってる? そちらでも、出来る限り対処したい所だが」
これにセパルが返した。
「そっちも、巧く行ってるよ。それぞれの国で、根回しもしているし。何かがあっても最大限、手助けできるよう準備を整えているよ」
「そうか、助かる。あとは、本部で保護した者達についてだが――」
「そっちも、大丈夫よ」
ヨセフ達に協力している、カルタフィリスのマリエルが応える。
「この前来た先生も、上手くやってくれてるみたいだし。学生の子達の評判もいいわ。ただ、ちょっと研究室とかの片付けなんかが、大変みたいなんだけど……」
「時々、私達が片付けやご飯を作りに行かせて貰っています」
マリエルと同じく、カルタフィリスのマリーが続ける。
「お好きな物とかが分からないので、出来るだけ色々な物をお出ししてます。あと、オッペンハイマーさんにお手紙を出せないか頼まれました」
「そうか……分かった。向こうにも、幾つか動きがあったようだ。こちらとしても連絡が取れれば助かる。出来る限りのことをしよう。他には、何かないか?」
ヨセフの言葉に、マリエルは少し迷うような間を空けて返した。
「その……オクトの人達って、別に敵対する気はないのよね?」
「ああ、そうだが。この前受け入れた4人組に、何かあったのか?」
「ううん、そちらは大丈夫。幽霊の人は、メフィストが何か色々としたみたいで、前より存在が強化されて安定してるから、喜んでくれたみたいだし」
「うん。そっちは大丈夫だよ」
マリエルの言葉に続けて、セパルが説明する。
「肉体の代わりに、教団本部の建物を憑代にして安定できるようにしたから。性質的には、家憑き幽霊(シルキー)みたいな感じになってるんだ。多分慣れてきたら、本部内ならどこでも一瞬で移動できるし、自分の手足みたいに本部内にある物なら動かせるようになると思う。本部から離れちゃうと、そうした性質は一端途切れちゃうけど、戻れば同じようになれるよ」
「ふむ。利点は在れど、不利益はない、といった所か。彼女に同行した3人は、どうだ?」
「そっちも大丈夫。色々と本部の中を案内して、少しずつだけど警戒解いてくれてるみたいだし」
「なら良かった。それで、他には――」
「……他のオクトに関わってる子も、別に良いのよね?」
不安そうに言うマリエルに、ヨセフは返す。
「相手によるが……ああ、この前保護した女性のことか。色々と内部を探ったりしてるし、外部と連絡を取ろうとしてたりしたから軽く調べたが、まぁ、特に害はないから放置しているな。むしろ、色々とこちらの情報を流してくれた方が助かるから、もっとやって欲しいが」
「うん、その子なんだけど……あまり酷いことはしないであげてね」
「……ふむ。まぁ、それは構わん。ただ、悪い方向に行きそうなら止めるから、そのつもりでいてくれ。あと、教団と関わらない、そのなんだ、プライベートなことは関われないから、出来るだけ巧くしてくれると助かる。出来る限りのことは、するつもりだが」
「うん、分かってる……」
少しばかり悩むように目を伏せるマリエルに、どうした物かと思いつつも、ヨセフは皆に纏めるように言った。
「それでは、これからも今までと同じくよろしく頼む。浄化師と、その家族。そして関わる人物達が、好き日々を過ごせるよう、力を貸してくれ」
これに皆は、しっかりと応えた。
そんなやり取りがあった後、ある指令が出されました。
それは浄化師が家族に会えるよう、指令の形で便宜を図るので、希望者は申請して欲しいというものです。
それだけでなく、離れ離れになってしまった家族が居るのなら、その家族を探す手助けをしてくれます。
また、記憶を無くしたりなどで、家族のことが分からない場合は、その記憶を手繰ることから協力してくれるとの事でした。
他にも、今まで関連する指令に参加した者については、そこからさらに何かあれば尽力するとの事でした。
縁と絆を手繰る、この指令。
アナタ達は、どう動きますか?
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