~ プロローグ ~ |
ヴェネリアの青い海辺に面したベレニーチェ海岸。 |
~ 解説 ~ |
このシナリオは個別描写のシナリオとなっています。 |
~ ゲームマスターより ~ |
夏らしいシナリオを提供させていただこうかと思いました。 |
◇◆◇ アクションプラン ◇◆◇ |
|
||||||||
◆幸福の鐘へ ・以前来た時に気になってたよね?と瞬に誘われる ・唯月は複雑な気持ちを抱いている 瞬「この前来た時にね いづが何か気になってたみたいだったから もう一回来てみたんだー」 唯「…そ、うだったんですね… 瞬さんお忙しそうなのに気を使ってもらって…」 瞬「いづが気になる事は俺も知れたらって思うから そんなに気にしないでー」 ◆鐘を見つめて ・唯月はあの時(31話)の思いを振返る 唯(わたしは臆病で…瞬さんの隣に立ててないと 認められてないと…あの時も鐘を鳴らす事は出来なかった 本当は一緒に鐘を鳴らしてみたいと思うくらい あなたの事が好き… それでも迷ってるのは不安なのは この鐘を鳴らしたら消えてしまうような気がして…) |
||||||||
|
||||||||
※双方ともアドリブ歓迎します 今日もベリアルの出現はなし、か… ララ、折角浜辺に来たんだし、幸福の鐘を鳴らしにいかないかい? ちょっ、違っ…! 別にそういう意味で言ったわけじゃ… ただ、パートナーとしてこれからも宜しくって意味だったんだ。 (大嘘つきめ、本当は下心があるくせに) (鐘を鳴らしつつ) ララは手を添えるだけで良いよ、僕が打つからね。 (ララ、好きだ、君が好きだ、自分だけのものにしたい、愛してる…でも、言えない。言ったら君が離れていってしまいそうだから) (鐘から手を離し、ララエルを抱き締める) ララ…どこにも行かないでくれ。 君を失いたくないんだ… |
||||||||
|
||||||||
任務で近くまではくることがありましたが。 休息中とはいえこうして【幸福の鐘】に訪れるのは初めてですね。 恋人達が鳴らすと幸せが訪れるというものですが…友達同士なんかでも鳴らす人もいるようですね。 誘った。理由ですか? うーん…やっぱり噂が気になったって言うか…一度は来てみたいなと思ったというか…。 ロメオさんと鐘を鳴らしたいなって思ったんです。 もー!おじさんだとかアンデッドだとかそういうの関係ないんですからね! ロメオさんは十分魅力的な方なんですから! (思わず熱く語ったが思い返して) あー言ってて恥ずかしくなってきました…! 他の人をしきりに勧められても嬉しくないんですよ! (私はやっぱり「子供」ですか?) |
||||||||
|
||||||||
◎ クロ「鐘の丘に行かない?あそこ見晴らしが良いし」 戦闘で病み上がりのロゼッタを気遣って気晴らしにクロエが丘へ誘う ロゼ「あの鐘って実際に幸福になったデータとかあるのかしら?」 「財布買ったら彼女が出来ました、みたいなアレよね(笑)」 クロエも信じてはいないがロゼッタ全然信じてなくて苦笑い 丘到着 ロゼ「あの辺で吹っ飛ばされて死に掛ったのよね♪」 クロエ、ドン引き ロゼ「あら、良い香りね、なんていう花かしら」 暫く風に吹かれながら花香を楽しみつつ綺麗な夕焼けを静かに眺めている クロ「…鳴らしてみよう」 思いのほか心地よい鐘の音が響く クロ「もう日も暮れる、帰ろう。寒くない?」 クロエが差し出した手を握って帰路へ |
||||||||
|
||||||||
◆アユカ 幸福の鐘、かあ…気になるよね ねえ、わたしたちも鳴らしに行ってみない? ほら、友達同士で鳴らしに行く人もいっぱいいたでしょ? パートナーとして鳴らすのもいいんじゃないかなって (そう かーくんと一緒にいて、ちょっとしたことで心を乱されるのは、きっと信頼が足りてないから だから、パートナーとして絆を強くすればきっと… …でも、それでいいのかな) そ、その、ただのパートナーじゃなくて! 「仲良しのパートナー」として、ね? ◆楓 鐘を鳴らすんですか?私達が? どういう風の吹き回し… …なるほど、パートナーとして いいですよ、行きましょう (彼女がパートナーであることを望むなら 俺も、それに徹すれば楽になれるかもしれない) |
||||||||
|
||||||||
■向 ロス 狼姿ティの横後ろでのんびり付いて行き ティ 景色見て鐘の音を聞き「行ってみます ティが行くのでロスもついて行く ■理由ティ 音に惹かれて 思い浮かぶは結婚式 幸福の鐘の話も歩きながら思い出し 亡き両親を思い浮かべ 以前聞いた結婚式の話を思い浮かべ 自分が現在鳴らす事は考えず 丘の上なら景色も綺麗だろうで足早に ■鳴 「ロスさんも鳴らします? ティは興味本位 ロスはどうでも良さげにゴロゴロ のんびり欠伸するロスをみて 「ご飯もここで食べましょう 鐘を鳴らす もう結婚してもおかしくない年齢だとか 妙に嬉々と話されてましたが ロスさんと契約して浄化師になりましたし 結婚する見込みはなくなったような お父さんお母さん その後少し移動して弁当 |
||||||||
|
||||||||
●理由 幸福の鐘はベレニーチェ海岸の名所の一つだし、 せっかくだから観光しようと軽いノリで一致 ●ユン (ホントはフィノくんとゆっくり話せる機会が欲しかったの) 綺麗な鐘、だね 今まで沢山の恋人さんや仲良しさんを祝福して来たのだと思うと労ってあげたい (恋人…フィノくんは違う…たぶん…たぶん) あのね、この間、フィノくんが泣いたあの日の事 あ、そうだよね泣いてない、泣いてない でもね、フィノくんのあんなに悲しそうな顔、初めて見たの あたしなんかでよければ理由を教えてほしいな (それでフィノくんの力になりたいの) うん、あたしも話すね でも今日はあまり時間ないよね 今度必ず (あたしの事だけじゃなくて、 きみのコトも知りたいの) |
||||||||
~ リザルトノベル ~ |
「以前来た時に気になってたよね~?」 『泉世・瞬』が笑って声をかけてくるのに、『杜郷・唯月』は、内心の動揺を悟らせないように視線を迷わせた。 「この前来た時にね~。いづが何か気になってたみたいだったから、もう一回来てみたんだ~」 「そ、うだったんですね……瞬さんお忙しそうなのに気を使ってもらって……」 「いづが気になる事は俺も知れたらって思うから、そんなに気にしないで~」 甘い、溶けた飴玉みたいに優しい言葉。以前とは違い、今はもうただ、怖いと思うそんな自分に自己嫌悪が募る。 (また鐘を見に行こうだなんて……もし告白の答えを聞かれる事になってしまったら……わたしはまだどんな答えがいいのかわからない) 自分を守りたい心が彼への好意を曇らせ、進めなくさせ、足踏みさせる。 わたしは、とても汚い。 瞬の微笑みにどこかで怯えて、誰か、彼を助けてほしいと思っている。 ぐちゃぐちゃな心。 なだらかな道を歩いている中途、手をとって互いに支える老夫婦と会釈を交わした。 「ああいうのっていいね~」 「そ、そうですね」 「いづのことは俺がぜぇんぶ守ってあげるから~」 「瞬さん」 「だからさ、誰かが……いづを守るのはいやだ、な」 風が吹く。 「いづ~、手、繋ごう」 「……あ、は、はい」 迷いながら唯月は手を重ねる。 昼を少し過ぎて、目に痛いくらい強い日差しに唯月はあいている片手をあげて影を作る。 (わたしは臆病で、瞬さんの隣に立ててないと認められてないと……あの時も鐘を鳴らす事は出来なかった。本当は一緒に鐘を鳴らしてみたいと思うくらい) 瞬の広い背中。今はどんな顔をして、どんなことを思っているのかわからない。 (あなたの事が好き) ざぁ。波の音がする。 (それでも迷ってるのは不安なのは、この鐘を鳴らしたら消えてしまうような気がして……) それでも手を引かれるから、前へ、進む。 「瞬さん」 「なに~」 「……瞬さんは……わたしのことを本当に好きなんですか?」 強い風が二人の間に吹く。 鐘の前で、互いに鳴らすための紐を持ったまま、唯月は瞬を見つめて問う。 「いづは俺にとってすべてだよ。いづは、俺が守らなきゃ……誰かがいづを守るのはもっとやだ!」 「わたしは……守られるだけの存在ですか? 今までいっぱいいろんな人に迷惑かけてきたけど、ひとつ、ひとつ積み重ねて、がんばって進んで、きました」 「いづ……?」 「今は瞬さんが……怖い。それはわたしのせいで……認められたいって」 「いづ、俺はいづを傷つける存在? だったら」 「違うっ!」 ざぁ。波の音がする。 「……っ、誰かに助けを求めるんじゃなくて、わたし、わたしが瞬さんを助けなくちゃいけないんだって、だって、瞬さんはいつも……わ、わたしを助けてくれたから……瞬さん、すぐには無理でも、わたしは、強くなります。あなたの横に立てるように、失敗しても、傷ついても……わたしは……あなたが好き。本当に、本当に、だから、わたしのことを好きになってほしい、です」 「いづ……よく、わかんないよ、だって俺はいづが好きなのに好きになってくれって~」 瞬が戸惑い、紐を離す。 唯月は泣き笑いの顔で見つめる。今、瞬が、もしも落ち着いたとしても、ここで自分が変わらなければ、そして、彼を変えるために自分が強くならなくてはまた同じことをしてしまう。 「こ、これが、わたしの答えです。わたしは、ずっと瞬さんの横にいます。だからゆっくりでいいです。わたしのことをちゃんと見て、それで……わたしのことを、ちゃんと好きになってください」 感情が高ぶりすぎて、震える両手で。それでも鐘をならそうと唯月が力をこめる。 今は、まだ、一人で鐘を鳴らす。 ● ぎらぎらとした日差しに『アユカ・セイロウ』はふぅと息をつく。さすがに昼間はとても暑い。 「大丈夫ですか?」 『花咲・楓』に声をかけられて、アユカは、はっとした。 「大丈夫だよ、ありがとう。そういえば、この近くに幸福の鐘があるんだって……気になるよね。ねえ、わたしたちも鳴らしに行ってみない?」 「鐘を鳴らすんですか? 私達が? どういう風の吹き回し」 「ほら、友達同士で鳴らしに行く人もいっぱいいたでしょ? 仲良しのパートナーとして鳴らすのもいいんじゃないかなって」 アユカの言葉に楓の眼鏡越しの目が少しだけ興味深そうに細められた。 「……なるほど、パートナーとして、いいですよ、行きましょう。巡回が終わったら休憩がもらえますから、そのときでいいですか?」 「うん!」 にこり、とアユカは笑って頷く。 楓にばれないように、こっそりと握り拳を作ったアユカは心のなかで思う。 (そう。かーくんと一緒にいて、ちょっとしたことで心を乱されるのは、きっと信頼が足りてないから……だから、パートナーとして絆を強くすればきっと……でも、それでいいのかな) アユカは視線をちらりと楓に向ける。 楓が自分に隠している気持ちがあるのはわかっている。ただ、それがなんなのかわからない。 日差しを受けて、額から顎へと伝う汗を手の甲でぬぐう楓はアユカの視線に気が付くと、レンズ越しに赤い瞳が気遣ってくる。 アユカは慌てて自分の足元を見つめて、拳にさらに力をこめた。 (そ、その、ただのパートナーじゃなくて! 「仲良しのパートナー」として、ね?) また、心臓がどきどきしはじめそうで、怖いのに、どうしても楓を目で追わずにいられないのも、きっと、これはパートナーだからだ。 楓は小さなため息を飲み込んだ。 (彼女がパートナーであることを望むなら俺も、それに徹すれば楽になれるかもしれない) 契約を交わしたときに受けた雷に打たれたような衝撃を、うまく言葉にも態度にもできないまま、いたずらに進む時間に、楓は目を伏せることを覚えた。 子供たちが笑いながら、浜辺をかけまわる声が聞こえる。まだまだ日の高い夕暮れ時。 二人は連れ立って鐘へと向かった。 「仲良しのパートナーとして、ちゃんとこれからもやっていけますようにって」 「ええ」 仲良し、仲良し、仲良し。 まるで呪文のように呟く。 アユカは楓に心が乱されてしまったことが、少しだけ、怖い。だって、パートナーだから。自分が望む気持ちを楓が持っているのかもわからないのだ。 鐘を鳴らすと同時に。 ざばぁん! 波の大きな音にアユカはびっくりして、体勢を崩したのを楓ががっしりとした腕で抱きとめる。 視線が合う。 アユカの、夕暮れのような、戸惑う瞳。 楓の、燃える炎のような、切ない瞳。 契約をかわしたときのような衝撃は――時間をかけ、経験を積み重ねて変化し、胸を苦しくさせるほど、強いものへと変わっていた。 ● 「今日もベリアルの出現はなし、か……」 「今日もベリアルが出なくて良かったですね!」 少しばかり不満そうな『ラウル・イースト』に対して『ララエル・エリーゼ』はルルを胸の中に抱いてにこりと微笑む。 そのとき、ちょうど巡回の交代だと声がかけられた二人は自由となった。 「どうします? せっかくですし、どこか観光――」 「ララ、折角浜辺に来たんだし、幸福の鐘を鳴らしにいかないかい?」 「え、幸福の鐘……ですか? でもあれは、恋人同士じゃないと鳴らしちゃいけないんじゃ……」 素直に疑問を口にするララエルにラウルのほうが焦ってしまった。 「ちょっ、違っ……! 別にそういう意味で言ったわけじゃ……ただ、パートナーとしてこれからも宜しくって意味だったんだ! ほら、鐘は恋人じゃなくてもつきにいってる」 ラウルが口にするタイミングで、ちょうど横を女性同士が「友達としてさ、鳴らしておこうよ」と鐘へと向かっていく。 「ほら、幸福の鐘は……同性でも、友達同士でも鳴らしていいんだ」 「あっ、そういう意味だったんですね! それじゃ、鳴らしに行きましょう!」 ララエルがぱっと花が咲いたように微笑むと、ラウルは胸がちくりと痛んだ。 (大嘘つきめ、本当は下心があるくせに) それを口に出来ない自分がもどかしい。 相手がベリアルやヨハネの使徒ならこんなにも臆病にならないのに。 たどり着いた鐘には紐がついていたのに、二人は手を伸ばす。 小柄なララエルが紐を掴むと背後から、彼女を守るようにラウルが立つ。 「ララは手を添えるだけで良いよ、僕が打つからね」 「えへへ、何だかドキドキしますね」 ごーん。 (ララ、好きだ、君が好きだ、自分だけのものにしたい、愛してる……でも、言えない。言ったら君が離れていってしまいそうだから) ごーん。 (私……ラウルが好き……大好き……あなたのものになりたい、愛されたい……でもこれを言ったら、今の関係が崩れちゃう……ラウルのそばにいられなくなっちゃう) 鐘が響く。 二人はただ一心に、揺れる鐘を見続けた。 煌めく太陽の日差しにラウルはめまいにも似た不安を覚えた。鐘が――止まったら、この幸福が壊れてしまう予感がした。 鐘の音にララエルが耳を傾けていると、不意に背後からなにもかも奪うような力強い抱擁が襲ってきた。 「ラウル?」 鐘の音がすべてをかき乱し、聞こえない。 ごーん。 「ララ……どこにも行かないでくれ。君を失いたくないんだ」 ごーん。 鐘の音がなにもかも覆い尽くしてくれる。だから自分の心を吐き出せる。 ごーん。 「……っ、はい、どこにも行きません。大丈夫です、ラウルのおそばにいますから」 ごーん。 ララエルにとって、ラウルが帰るべき所。それを失わないために、必死に自分の心を殺していく。 鐘の音が止まると、あんなにも頑なな抱擁は終わってしまっていて。かわりに手をとって先ほどの道を戻る。二人で決めたスペル――あるべき所へ還れ。 今は二人で歩いて進む、帰るべき場所へと。 ● ごーん、響く音に『シンティラ・ウェルシコロル』は目を細めた。 その横では狼の姿をした『ロス・レッグ』がきょとんとした顔をした。 「鐘の音だな」 「はい」 ごーん、また音がした。 「結婚式でしょうか?」 「こんなに鳴らすか?」 二人は顔を合わせる。 「行ってみましょう」 「おーう」 少しだけ不機嫌そうに見える表情でシンティラは口にする。ロスは尻尾をふって応じた。 なだらかな道を二人は歩く。 「確か幸福の鐘があるというのは聞きました」 シンティラが鐘の音に連想するのは結婚式……死んでしまった両親のこと。聞き及んだ結婚式のこと。 確か、幸福の鐘は恋人同士で鳴らすのがマナーだったっけ――いや、同性の人とか友達らしい人たちが向かっているから、絶対に恋人でないとだめ、というわけではないのは観光客をちらちらと観察するとおのずとわかる。 鳴らす? 鐘を? 景色がきれいだといいな、とは思うだけ。別に鳴らそうと思わない。 シンティラは今年で十八歳だ。 相手がいてもぜんぜんおかしくはない。 「結婚か、俺喰人だしなぁ気付くと恋人同士でセットされてっしなー。ティの結婚式みてぇかったけど」 シンティラの横や前をロスは尻尾を振って自由気ままに歩く。 「ロスがロスさんになって色々戸惑いますし、周りがそうなので真剣に考える事もあるのですが……ロスさんってキスとかしたら周りに言い触らしまくるイメージあるんですよね」 シンティラは考える。ロスが真面目な顔で好きとか、愛してるとか、真剣な顔で――キスされるとか、抱擁とか、それ以上のこととか。 「恋人同士でそうなったら嬉しっだろっし言いまくるよな?」 「当然のように言わないで下さい! 黙ってて下さい、黙って!」 思わず両手で顔を覆った。ここ最近、ロスのせいで表情が出やすくなっている。そういうとき、隠すほうにシンティラはなぜか努力を発揮しはじめた。 「恥らいから覚えて貰わなければ」 「俺にだって恥ぃなーとかあっけど」 「そう思っても即口にしますよね?」 「言わねぇかったら余計に恥ぃくねぇ?」 「ロスさん一生狼のままでいて下さい」 「俺もその方が楽だよなー」 シンティラは口元に、少しだけ笑みを作る。 そこそこに長い道を歩いて、少しだけ息がきれて、汗もかいた。 シンティラは大きな鐘を見上げる。 その横でへぇーとロスが感嘆の声を漏らす。 「……ロスさん、鳴らしてみますか?」 「んー? ティ、鳴らしてぇのか」 興味深々のシンティラに対して、ロスは大きなあくびをかみしめて、ごろんと大きな体を地面に転がす。 「……」 シンティラは両手で紐を持って、ごーんと力強く鳴らす。 (ロスさんと契約して浄化師になりましたし。結婚する見込みはなくなったような……お父さんお母さん) 澄んだ海色の瞳で鐘を見つめたシンティラは地面に転がるロスへと向き直る。 「ご飯もここで食べましょう」 「そうだなー。景色いいなぁー」 長く歩いた道の果てだけあって本当にきれいな海と、人々の暮らす街並みが見える。 シンティラは自分とロスのために作ったお弁当をしっかりと抱いて、ゆっくりと食事できる場所を探し始めた。 ● 「任務で近くまではくることがありましたが、休息中とはいえこうして【幸福の鐘】に訪れるのは初めてですね」 目をきらきら輝かせる『シャルローザ・マリアージュ』。その横でたばこをふかしているのは『ロメオ・オクタード』。 ことの発端は指令の合間に、ぜひとも幸福の鐘へと行ってみようとシャルローザがロメオを誘ったのだ。 「【幸福の鐘】ってあれだろ? 恋人同士で鳴らすと幸せになれるとかそんな噂があるやつだよな」 「はい。恋人達が鳴らすと幸せが訪れるというものですが……友達同士なんかでも鳴らす人もいるようですね」 断られないようにシャルローザは必死に食い下がる。 「友達ね。……こんなおじさんと鳴らそうなんてお嬢ちゃんは本当に変わってるよ。パートナーとして仲を深めるその一環なんだろうけれど。こいうところには本当に好きな人ときなさいな」 「そんなこと言わずに行きましょう!」 「なんでおじさんを誘うんだい」 「誘った、理由ですか? やっぱり噂が気になったって言うか、一度は来てみたいなと思ったというか……」 ごにょごにょとシャルローザは言葉を重ねて、最後に小声で。 「ロメオさんと鐘を鳴らしたいなって思ったんです」 恥ずかし気に俯いて告げるシャルローザにロメオははぁと煙と息を吐き出す。 「俺はお嬢ちゃんとはだいぶ年が離れてるしそれにアンデッドだし」 短くなった煙草を指で潰してロメオは茶化した笑みを浮かべた。 「お嬢ちゃんの相手には向かないんじゃないか?」 落ち着いた口調で、視線を合わせて告げるそれは、賢い大人が小さな子どもを嗜めたり、諭したりするときのそれだ。 ずきり、とシャルローザの胸は小さな痛みと腹立しさに見舞われる。 「もー! おじさんだとかアンデッドだとかそういうの関係ないんですからね! ロメオさんは十分魅力的な方なんですから!」 ロメオの内心を読ませない冷たい瞳にシャルローザは心が、ぎゅっと掴まれるように苦しくなる感覚を覚えた。 「言いたいことはそれで終わったかい?」 「はい。……あー言ってて恥ずかしくなってきました!」 火照る頬を隠す様にシャルローザはぷいと顔を反らす。 「悪い、悪い」 ぜんぜん悪びれない、いつもの飄々とした口調だ。 「そこまで熱く語ってくれるか。俺も捨てたもんじゃないってことかね。とりあえず鐘、鳴らすか?」 ロメオがにっと唇をつりあげて笑うのにシャルローザは慌てて振り返る。 「行ってくれるんですね!」 「ここまで情熱的に口説かれちまったらな」 ロメオの根負けした口調にシャルローザは満足そうに微笑んだあと、思い出したように付け加えた。 「他の人をしきりに勧められても嬉しくないんですよ!」 「はいはい」 肩を竦めてロメオは頷いた。 二人はなだらかな道を進み、鐘へとたどり着く。 「なかなかこたえるなー」 「汗がでますね」 二人は視線を交わして、大きな鐘についた紐を手にとる。 (私はやっぱり「子供」ですか?) シャルローザは心の中で問いかける。けれど、それを口にできるほどに子供ではなくて。 ぐい、と力強く、紐をひく。 (他じゃなくて俺を選んでくれてるって自惚れてもいいのかねぇ) ロメオは心の中で自分、いや、真横にいる彼女に問いかける。 盗み見た横顔の、汗で輝くその楽しそうな表情が、どきりと胸を打つほどに美しい。 (お嬢ちゃんを娘とか妹とかじゃなくて「女の子」に見えてくるから困ったものだよ) 鐘が鳴り、ロメオはふっと皮肉ぽく笑った。 彼女への言い訳が自分に通じなくなる日が来るのかもしれない。 ● 『ユン・グラニト』、『フィノ・ドンゾイロ』は警備を午前中に終え、ごはんを食べて、あらかた観光したあと、他の観光客から鐘について聞いた。 幸福の鐘。 ベレニーチェ海岸の名所で、ぜひとも行ってみたい。 「行きましょう!」 表情こそかわらないが、ユンの瞳は太陽を反射する水面のように輝いている。 フィノの曰くモップ掛けの名人であるユンのことだから、ずっと飾られている鐘を掃除したい気持ちがむくむくとわいたのかと思うと微笑ましくて、行こうと声をかけていた。 (ホントはフィノくんとゆっくり話せる機会が欲しかったの) 指令の大切さはわかっているから一生懸命取り組んだ。 観光もフィノに誘われて、今まで見たことのなかったものに触れて、楽しかった。 けど。 鐘へと向かう道ですれ違う人々はみな、手をつないだり、腕を組んだりしていた。 (恋人……フィノくんは違う、たぶん、たぶん……!) ユンは一歩前を歩くフィノの、無防備な手につい視線が向かう。 「ユン、この先は急だから、ほら」 手を重ねるとぎゅっと握られた。 男の子の、手だ。 「綺麗な鐘、だね」 つややかな金色の鐘は、定期的に掃除され、太陽みたいに輝いていた。 「今まで沢山の恋人さんや仲良しさんを祝福して来たのだと思うと労ってあげたい」 「うん。そうだね」 「……あのね、この間、フィノくんが泣いたあの日の事」 「全然泣いてないからな」 恐る恐るの声に、噛み付くような声。 まるで触れられると、痛くて、たまらないと訴えるような声に、ユノはもう一歩の勇気を絞り出す。 「あ、そうだよね。泣いてない、泣いてない……でもね、フィノくんのあんなに悲しそうな顔、初めて見たの」 「悲しくなんかも」 二人の間に流れるのは寄せては引く波の、穏やかな音。 「あ、あたしなんかでよければ理由を教えてほしいな」 フィノが言い返そうとユンを見る。ユンの真剣な瞳と、視線がぶつかり、言葉を飲み込む。 必死に自分のことを知ろうとするユンにずきりと胸が痛くなった。 フィノは自分がムキになって言い返してしまったことに後悔を覚えた。 「わかったよ、君が聞いてくれるのなら……ユン、俺も訊きたいんだ。ユンのこと」 言葉は所詮言葉だが、そうするしか知ることができないから。 もう既に夕暮れで、そろそろ帰る時刻が迫ってる。 「うん、あたしも話すね。でも今日はあまり時間ないよね、今度必ず」 「今日はタイムオーバーか。うん、必ず……今は鐘を鳴らそう? 幸福の鐘、なんだろ? ほら一緒に、盛大にさ!」 フィノに手をひかれて、ユンは紐を持つ。 悲しい、泣いてしまった昨日とはお別れをするために。 二人で、明日も、明後日も、いっぱい言葉を交わして、紡ぐように、理解しあえればいい。 笑顔がいっぱい広がればいい。 明日のために鐘は鳴る。 ● 「鐘の丘に行かない? あそこ見晴らしが良いし」 『クロエ・ガットフェレス』の誘いに『ロゼッタ・ラクローン』は目をぱちぱちさせたあと。 「あの鐘って実際に幸福になったデータとかあるのかしら?」 などとのたまう。 さらには 「財布買ったら彼女が出来ました、みたいなアレよね」 夢も希望もないセリフだ。 けれど、誘ったクロエを逆に誘い返すように歩き出す。 クロエが茫然としていると、ロゼッタは立ち止まり、振り返って微笑んだ。 「行かないとは言ってないわよ?」 苦笑いしてクロエはそのあとを追いかける。 鐘の効果は信じないが、負傷したロゼッタのいい気分転換になればと誘ったクロエの気遣いは大切にしたいのだろう。 気晴らしのために、客の多い時間はずらした夕暮れは冷たい風とさざ波が広がって、二人に安らぎをくれた。 波の薫りは思い出させる。 ……クロエ、ごめん。油断しちゃった。 そう告げた自分に、はじめて聞くようなかすれた声で彼女が。 丘からは果てのない海と、必死に生活している街の風景と沈んでゆく太陽の煌めきが幻想的に広がる。 ロゼッタは軽い口調で、それを指さして告げた。 「あの辺で吹っ飛ばされて死に掛ったのよね♪」 「……」 クロエはドン引きした顔でロゼッタを見つめる。 ふふっとロゼッタは微笑んだあと、何かに気付いたように視線をさ迷わせる。 「あら、良い香りね、なんていう花かしら」 「花の匂い? どこかに花なんて咲いてたかしら?」 クロエが不思議そうにロゼッタの横で声を漏らす。 さざ波の音、潮の香、そのなかに微かに零れ落ちる甘い香り。それをロゼッタはよく知っている気がした。 クロエの薫り。 風にのって漂ってくるいつもそばにいてくれる彼女の匂い。 もう懲り懲りだから、止めてよね……良かった。ロゼッタ、本当に良かった。 香りが、ロゼッタの心に思い起こさせる。彼女の声、必死に笑おうとして失敗している顔。体に広がる痛み。 もしかしたら運悪く死んでしまっていた可能性もある。けど、ロゼッタもクロエも生きている。 そう、ただ運がよかっただけ。 甘いクロエの薫りが鼻孔にずっと残っている。 もし自分が死んでしまったら? 世界は広くて、きっとたいしてかわらない。けど、目の前にいるクロエは、甘い香りは……歪んでしまうのだろうか? あのとき嗅いだ、潮の薫りに交じった甘いのに、少しだけ苦みのある香り。 太陽が沈み始めて、空と海の端が紺色に染まり、一番星が輝いている。 「帰る前に……鳴らしてみよう」 クロエの誘いにロゼッタは微笑んで頷く。 太陽が沈んで、消えてしまうその瞬間に二人は紐を手にとって、鳴らす。 音は思いのほか穏やかで、その音を聞いていると脳裏に浮かんださまざまなことがすとんと胸の底へと落ちていく。 「もう日も暮れる、帰ろう。寒くない?」 「そうね」 伸ばされたクロエの手に、ロゼッタは手を重ねる。 あたたかい。 小さな、けれど確かなぬくもりにロゼッタははにかむ。 二人はゆっくりと灯の溢れる街へと足を進めた。
|
||||||||
*** 活躍者 *** |
|
|
|||
該当者なし |
| ||
[7] フィノ・ドンゾイロ 2018/07/22-14:39
| ||
[6] ロス・レッグ 2018/07/22-05:43
| ||
[5] アユカ・セイロウ 2018/07/21-21:48
| ||
[4] ロゼッタ・ラクローン 2018/07/21-12:05
| ||
[3] シャルローザ・マリアージュ 2018/07/20-18:13
| ||
[2] ラウル・イースト 2018/07/20-05:33
|