~ プロローグ ~ |
「なぁなぁ! おもしれーもん見つけたんだ!」 |
~ 解説 ~ |
■場所:ミズガルズ地方、ソレイユ地区辺境の村。隣接する森林地帯。 |
~ ゲームマスターより ~ |
今回は戦闘エピソードです。 |
◇◆◇ アクションプラン ◇◆◇ |
|
||||||||
目的 ベリアルの討伐 ベリアルを見つけ、罠の外へ誘い出して戦闘するつもり。 行動 森へ行く前に、依頼人に罠の糸がどの位の広さに張ってあったかを聞いておく。 ベリアルの発見はエレメンツさんにお願い。 わたしたちも周囲に糸が見えないかと、木の枝を拾って進行方向の足元を探って注意しておく。 見つかったら誘き出し。 木の枝で罠の糸の端を刺激してみるか、ベリアルに向かって信号拳銃を撃ったら、こっちに向かってこない? 保護色対策 水彩絵の具(赤色)を水に溶かして、水筒とフラスコに詰めていく。 フラスコはベリアルに投げて当たって壊れたら、色で見つけ易くなるかも? 水筒は直接かけるか、蓋を緩めてから投げる。 攻撃が届く位になったら? |
||||||||
|
||||||||
◆作戦 出発前、依頼人に森の地理について尋ねる アユカの魔力探知でベリアル・罠の居場所を探る 楓の植物学で周囲との変化による罠を探る 判明次第即時仲間に伝達 ベリアルをある程度開けた場所に誘導 水筒・フラスコはベリアルの体に投げる 水筒が壊れなかった場合楓が素早く狙撃して破壊を試みる ◆戦闘 戦闘前に魔術真名使用 基本的に武器攻撃 魔方陣が判明したらそこを狙う ・アユカ 三度に一度程度の頻度でSH10使用 MPは回復のためある程度温存 仲間が負傷したらSH4での回復優先 前衛不足だと判断したら前に出る 攻撃を回避しきれない場合は下がる ・楓 初手DE9 魔方陣判明前は足を重点的に狙う 敵との間が遮蔽物に阻まれている場合SH10 威嚇目的 |
||||||||
|
||||||||
■ロス 近付くのが難関だなー ∇準 罠・糸形態位置等依頼人から聞く 毛布を水濡れ火消し用に 死霊の石は盾持つ左手に 献魂使用 登山スキルで木上登り 次々木々乗り移り 糸目指して樹枝を斧で切り落とす ・罠作動 ・下を走る前衛の走行補助 人間形態だが視覚聴覚活かし罠警戒 揺れる木々動きや糸飛ぶ音に気付ければ ∇避 糸が飛んでくるなら木や枝の後ろへ隠れやり過す 罠等の形が解れば仲間に大声で伝達 ∇攻 鎌を落とし俺も敵の真上へ落ち 盾・献魂で敵の攻撃防ぐか弾き 地烈での攻撃 地上では回避を活かし 距離を詰めて攻撃させない勢いで攻撃を ∇援 仲間の攻撃時には後方へ 釣りスキルで釣竿使い敵を可能なら岩へ絡みつかせ 攻撃は任せる 敵の動きを封じたらライター投擲 |
||||||||
|
||||||||
●共通 ・事前 仲間の案による絵の具を用意 目立つ色をそれぞれフラスコと水筒に詰めフィノが所持 ・方針 仲間との連携重視 危険な状態の仲間を庇護対象に ・糸対策 仲間が拘束された場合サバイバルナイフと鋏を使い分け救出 自分に対しては上着や盾を使い地震が拘束される前に脱出 ●ユン ・事前 常に魔力感知を張り索敵に専念 ・役割 消耗の激しい仲間優先でSH4による回復 前衛後衛問わず回復に走れる位置をキープ MPが足りない場合は庇護行動にてカバー 回復不要な場合は魔力感知にて敵を見失った際の索敵及び成長の兆しを警戒 同時に魔法陣の位置の特定も可能な限り行う 回復索敵不要な場合は魔法陣の位置の特定に専念 擬死についても魔力感知にて特定に集中 |
||||||||
~ リザルトノベル ~ |
ソレイユ地区の端にある小さな町。その近くにあるこれまた小さな村がベリアルによって壊滅したと一報が届き、町には避難命令が出された。朝焼けの中でも、しんと静まり返る通りには教団の戦闘員と騎士達が等間隔で立って警戒に当たっている。 「こちらになります」 白衣を着た教団の医師に促され、宿屋の一室に通されたエクソシスト達。そこには憔悴した様子の男性が椅子に座り項垂れていた。髪は抜け落ち、握り締めて蠟のように白くなった手には血が固まった痕がある。 「はじめまして。わたしは教団本部から派遣されました『シルシィ・アスティリア』と申します。こちらはパートナーの『マリオス・ロゼッティ』。お辛いでしょうけれど、ベリアルの姿形や罠の広さや状況をお聞きかせ願えませんでしょうか」 なるべく依頼人を刺激しないようにシルシィが尋ねる。 その言葉に男はゆらりと顔を上げた。 「ヒッ!?」 光を全く無くした瞳を向けられ『ユン・グラニト』が短い悲鳴をあげて一歩後ずさる。だが、それを庇う様に『フィノ・ドンゾイロ』が前に立つと安堵の溜息が後ろから聞こえて来た事にフィノは内心苦笑する。顔には決して出さないが。 「……頼む。あのベリアルを、倒してくれ」 男が途切れ途切れに声を絞り出す。 「あー、任せとけ。だから情報が欲しいんだ」 いつもは軽い調子の『ロス・レッグ』だが、今日は真剣だ。依頼人の肩にそっと手を置くと目を合わせて力強く頷いた。パートナーの『シンティラ・ウェルシコロル』は地図を手に持っている。恐らくベリアルの場所と地形を重ね合わせて戦闘を有利に導く為だろう。 「あのベリアルは、肉を……。人の肉を噛み千切っていた。俺の友人は、それで死んだ……それと糸だ。……大の大人を簡単に拘束できるような」 男は食いしばった歯の奥から搾り出すような声で話すとまた俯いた。 「ベリアルが居た場所は覚えていらっしゃいますか?」 フワリと爽やかな香りと共に穏やかな声がかけられる。『アユカ・セイロウ』だ。彼女は依頼人が落ち着くだろうと思い、レモンの香水を持ってきていた。レモンの香りには不安を取り除く効果もある。パートナーの『花咲・楓』には出発前に戦闘なのにそんなものを持っていくなんて……と苦言を呈されたのだが。 「……すまない。暗闇の森から抜けるのに必死で何処をどう走ったか覚えてない。闇雲に走っていたら俺の村では無く、森を越えた反対側のこの町に辿り着いていた。俺が……俺が村に辿り着いていれば留守を預かっていた妻も、女子供、老人達も死ぬ事は無かった……ッ!」 ギリギリと歯軋りをして奥歯を噛み合わせる男の口からついにバキリと歯が砕ける音が鳴った。口の端から赤い物が一筋垂れる。 「……その辺で。後は私が説明を」 教団の医師は緑色の液体を男に飲ませると、エクソシスト達に向き直った。男はガクリと体中の力が抜けた様子で椅子から崩れ落ちる。それを他の救護員達がベッドに寝かせた。 「即効性の睡眠薬です。……さて、彼の村はすでにベリアルによって壊滅しました。生き残りは残念ですが居ないでしょう……。位置ですが村の人間を襲った後はまた森の中に戻っているようです。これは教団の偵察部隊が確認しました。必然的に森の中での戦闘になります。恐らくは広場になっている場所に罠を張って潜んでいると思われます。ああ、地図で言うならココとココですね」 言葉と共に指で示すとシンティラが持っている地図に印を付ける。 「森の外におびき寄せる方法はどうでしょうか?」 シルシィが医師に問うと、彼は首を振った。 「大きな音を立てても囮を使っても不気味なほど反応がありません。森の外には出ていないと思われますが十分にご注意ください」 「オーケー、わかった。じゃあ行くか」 ロスが武器と荷物を担ぐと自分の頬をパンパンと軽く叩いて気合を入れる。 「急ごう。できれば陽が高いうちに討伐したい」 マリオスはそう言うと部屋を出る。他の7人も頷きで返すと彼に続いた。 ● 「フィノ君。ここ、暗い、ね」 「うん。結構木が多いね。逆に言うと罠が結構ありそうな地形かな」 森の入り口まで来たエクソシスト達。ポツリとユンが呟いた言葉にフィノが返す。 「エレメンツさんが沢山いらっしゃいますし、魔力の流れをアユカさんかシンティラさん、あるいはユンさんに視て貰おうと思っているのですが、可能でしょうか?」 シルシィが呪符を確認しながら3人に声をかける。 「じゃあ違った観点から調べてみたいのでそれぞれ魔力探知をしてみましょうか~」 アユカはそう言うと集中する為に目を閉じ、深呼吸してから目を再び開く。森を見回すと驚愕した表情を浮かべる。他の2人もそれに続くが……。 「これは……!」 「居ます、ね……」 シンティラとユンも同じように声をあげるが、それぞれ表情は違う。シンティラはしかめっ面でユンは若干怯えの色が入りつつも首をかしげている。 「おいおい、どうしたんだ?」 「ロスさん……。ちょっとまずいかもしれません。魔力の流れがかなり淀んでいます」 ロスがシンティラとユンに声をかけるが、渋い顔で答える。 「ユン、一体どうした?」 様子のおかしいユンにフィノも聞くが、彼女はその場で自分のコメカミをグリグリと押して考え込む様子を見せた。 「……地面に魔力の淀みはあるけれど糸の罠が無いのよ」 森を睨んでいるアユカが言い放つ。 「ユン、どういうことだい?」 「解ら、ない。地面の、罠……? 奥に、ドロドロ、した、嫌なのある」 フィノも怯えた様子のユンに尋ねるがこちらも要領を得ない。 「おそらく落とし穴か、足に絡んで動きを阻害する為の罠でしょう。ただ、木々の間に張り巡らされているような罠は見受けられないようです。ユンさんも言っていますが、奥にかなり強い魔力の淀みが見えます。ただ、今は一箇所に留まっている様子ですね」 シンティラが冷静に分析する。 「では止まっている今が好機だな。地面に注意して進もう。前衛はロゼッティとレッグで、中衛がドンゾイロ、呪符を使う女性陣。後衛がグラニトと私でどうだろうか」 楓が狙撃銃ラファエルのセーフティを外しながら提案する。 「皆、異議は無いようだ。ただ、絵の具とフラスコだが……。糸の罠が無いとすると少々荷物になってしまうな」 マリオスが色の付いた絵の具を溶かしたフラスコを腰のベルトに付けながら答えた。 「うだうだ考えていても仕方ねーって! ガーッと行ってガオーッと倒してくれば良いんじゃね?」 「ガオーッて……私達は、オオカミさんじゃないわよ」 「ははっ! それもそうだな! わりぃわりぃ」 ロスの勢いのある発言にシルシィがツッコミを入れる。その言葉で張り詰めていた場の雰囲気が少し柔らかくなった。 「じゃあ、行きましょう」 フィノも剣と盾を構えると三歩ほど空けてロスとマリオスの後ろに立った。 その言葉にエクソシスト達は森の中へ進むのだった。 ●(?) 森の中央。そこにはベリアルが居た。赤黒い触手を繭のように絡ませて。見る人が見ればまるで卵みたいだ、と感想を述べたかもしれない。 その卵がパキリ……パキリと音を立てて割れていく。卵の殻を脱ぎ捨てて現れたのは異形だった……。 ゆっくりと身体を伸ばすと子猫が馬車に踏まれたような、全身に鳥肌が立つような声をあげた。否、其れは本人からしてみれば世界に生れ落ちた事による歓喜の声だったのかもしれない。 其れは細い脚を器用に使い、辺りにある一番高い木によじ登り、全身を伸ばすと再び声をあげた。 「マミィイイイイアア!」 生き物が居ない死せる森の中で、その姿はただ一人玉座に座る滑稽な王か、母を求める幼い赤子のようだった……。 ● 「ッ! 今の、声!」 ユンが耳を押さえてブルリと体を震わせる。 「ぐぁぁ……耳がぁ……」 ペタリと狼の耳を寝かせて、ロスも頭を振っている。 「何だよ今の声は……」 寒気のせいで腕が鳥肌だらけになったフィノも盾を持つ手の甲でごしごしと擦っている。 「スケール2、ですね。魔力がかなり……ウッ!」 「おい!? ティ!?」 魔力探知を発動していたシンティラが急に口を押さえてえずく。心配したロスが駆け寄ろうとしたが、それを手で制した。 「き、ます……。注意してください!」 それだけ言うとシンティラは呪符を構える。その言葉に各々武器を構えなおした。 「かーくん! お願い!」 アユカが楓に駆け寄りアブソリュートスペルを発動する。 「雨のち、希望咲く!」 2人の瞳に信念の炎が灯り、魔力が高まっていく。 「! フィノくん! あそこ!」 と、ユンが木の陰を指差す。そこには土気色をした顔で半開きに口を開け、虚ろな瞳をしながら疲れ果てたような表情でこちらを見ている子供の顔があった。 「生存者! 罠にかかっているのか? 今助けてあげるよ」 「マ……ミ、ママ……」 虚ろな表情のまま、声を漏らす子供。フィノが駆け寄ろうとすると突如銃声が鳴り響いた。 「マァマアア!」 木の幹が弾け飛び、子供は悲鳴と共に更に太い木の後ろに隠れた。 「何するんですか! 楓さん!」 激昂したフィノが楓に詰め寄る。 だが楓は警戒しながらも次弾を込めながら冷静に言い放った。 「よく見ろ。アレは子供じゃない。ベリアルだ」 「なっ!?」 「その通りだ。どうやら芋虫では無くなったらしい……。まさかベリアルがこんな進化の仕方をするとは。……教団に報告せねばな」 驚愕するフィノと反対にマリオスが冷静に観察する。 そして木の陰からチラチラと見えていた子供の顔が全貌を現した。 「ミマァァア!」 それは芋虫から進化、いや、羽化をして蝶のようになったベリアルだった。しかし異形なのはその模様。羽に人間の顔と思しき物が付いている。光の加減だろうか、ベリアルが羽ばたく度に顔が変わっていく。子供から青年、青年から老婆へと……。 「おぇっ……!」 魔力探知を発動したらしいユンもえずく。 「大丈夫か? あまり凝視するな。子供には辛いだろう。蝶の中には光の加減で色を変える物も居ると言うが……チッ、距離感覚がおかしいな。狙いが付け辛い」 楓がユンの身を案じながらも照準をベリアルに合わすが、見るたびに変わる模様のせいでブレているようだ。 「遠距離職もかなり戦い難い敵ね。マリオス、お願い」 「ああ、分かった。てぇやああ! 獣牙烈爪突!」 シルシィが遠距離のアライブは敵と相性が悪いと考え、近接戦闘が得意なマリオスに指示を出す。 「マンマァアア!!」 だが、ベリアルは宙を飛びながら後退し、マリオスの剣は羽を少し傷つけるに留まった。そのままベリアルが反撃をする! マリオスに向かって羽ばたくと、鱗粉が彼の身体を包む。咄嗟に盾で防ぐが……! 「ぐぁああああ!?」 「マリオスッ!?」 盾を取り落とし、喉を押さえるマリオスにシルシィが悲鳴をあげる。 「チッ! こりゃいけねえな!」 ロスが飛び出し、盾を拾うとマリオスを半ば引きずるようにして仲間の元へ戻る。そのまま距離を取るとベリアルは勝ち誇ったようにキャッキャッと鳴き声をあげながら低空を飛んでいる。それを牽制するように続けざまに銃声と符が飛んだ。 「鬼門封印!」 「小咒!」 アユカとシンティラが同時に唱えると符がそれぞれ黒い光と火を放つ。 「ミギィアアア!?」 楓の銃撃もベリアルに当たり、胴体からぬらぬらとした緑色の体液を滲ませている。 しかし……。 「イタイ……。いタいヨ……」 ベリアルの羽に子供の顔が映し出される。たどたどしい口調だが、ベリアルの口から発せられる言葉は高い声で、子供の声を彷彿とさせた。 「くっそ、卑怯くせえ! おい、マリオス! 大丈夫か!?」 ロスが距離を取りながら飛び回るベリアルを睨み悪態を吐くが、今は喉を押さえながら苦しそうに呼吸をするマリオスの事が心配だ。見ると彼の顔は赤黒く変色しており、酸素が足りない状況によるものだと思われる。 「もしかして毒か!?」 呼吸をさせやすいようにマリオスの胸元を留めている教団制服のボタンを引きちぎるようにしてはだけるロス。そこにユンの声が響いた。 「天恩天賜!」 「ゴッハ! ゼッ! ハー……ハー……!」 柔らかい光が降り注ぎ、新鮮な空気が肺に入ったせいか咽るマリオス。ゆっくりと身体を起こすとユンに礼を言った。 「ありがとう。助かった」 「マリオスさん、何がありました?」 中衛を務めていたフィノが前衛2人が下がった為に、代わりに前に出て盾を構えている。ベリアルから視線を外さないままマリオスに声をかけた。 「……鱗粉を吸い込んだら呼吸ができなくなった。それから目が開けていられないほど痛くなったな。しかし、あのベリアルの姿は子供好きや女性陣には辛いだろう……」 自分が受けたダメージと症状を簡潔に述べるマリオスだったが、剣を杖にして立ち上がると再び武装を構えた。 「……蝶や蛾の仲間には鱗粉に微細な棘があるものも居ると聞く。ニホンでもそういう虫は居た。吸い込んでしまった時に肺と目に入ったのだろう。罠糸が無くなっているのもこの形態で自由に飛ぶためだろうな」 楓が銃を構えながら飛び回るベリアルを睨み、所見を述べた。 「そうですね。見たところ毒のような後遺症はありません。不幸中の幸いと言った所でしょうか。……何か口を覆うもの、ハンカチでもあれば」 医学知識のあるシンティラがマリオスを触診しながら少しだけ赤い顔で安堵した表情になる。顔が赤い理由はロスにはだけられてしまった胸元のせいだろう。視線はあらぬ方を向いていたが……。 「覆うもの、覆うもの……。あっ! ティ! でかした!」 「何ですか、ロスさん」 「毛布だよ、毛布! あれを切って口にマフラーみたいに巻けば鱗粉対策になるんじゃね!?」 ロスが閃いたように荷物袋を漁り、丈の長い毛布を取り出した。 だが、そこに悲痛な声が響く。 「フィノくん! ダメッ! そっちっ! だめっ!」 ユンだ。だが、ユンの声が聞こえないかのようにフィノは我武者羅に剣を振っている。 「お前らがっ! お前らのせいでっ!」 彼の背丈よりも少しだけ高い所をあざ笑うように飛び回るベリアル。それに釣られて仲間から離れて行くフィノ。しかし……。 「フィノくんっ!」 「うぁっ!?」 ズブリとフィノの片足が地面に潜り込む。ベリアルが芋虫の時に仕掛けていた落とし穴だ。穴の中には食い散らかした骨があった。死骸を隠す役目と、罠にかかった獲物に骨で傷を負わせる為に。まさに生物の本能としては一石二鳥だろう。 そしてベリアルがその隙を見逃すはずも無く、身動きが取れないフィノに襲い掛かる! 「ぎぁっあああ!!」 鎧の継ぎ目、露出している肌部分に鋭く尖った口吻を突き刺されてフィノはたまらず悲鳴をあげた。 「このっ! 何してっだあ! 地烈豪震撃!」 ロスの凄まじい重撃がベリアルに襲い掛かる! ベリアルは長く伸ばした口吻を切り裂かれ、体液を撒き散らしながら離れた。そのまま地面に叩きつけられた斧はフィノの足を罠から打ち上げる事に役立った。 「フィノくん! フィノくん! 天恩天賜!」 駆け寄ってきた涙目のユンがスキルを発動して傷を癒す。 「どうして、あんな事するの!」 「……ごめん……」 ユンの両目からせきとめ切れなかった涙が溢れ出す。フィノはそれを見て自分の頭が熱くなっていた事に気付き、彼女から目を逸らしてポツリと呟いた。 「ほら、3人とも。少し下がって。毛布を口に巻いておいで。少しだけ暑苦しいけれどね」 涼やかな声がかけられ、ロス、フィノ、ユンが顔をあげると毛布を口から首にかけて巻いたマリオスが立っていた。見ると他のエクソシスト達も同じように巻いている。 「ブフッ……!」 「プッ……!」 ロスがそれを見て吹き出すとどうやらフィノにも伝播したようだ。 「何かおかしいかしら~? 特にそこの鉄砲玉さんは後でお説教ね~?」 シルシィが氷点下の声で肩を震わせている2人に声をかける。 「い、いえ、ナンデモアリマセン。それと、ゴメンナサイ」 フィノが恐怖のあまり片言になってしまったが、何とか返す。後に、この時の彼女はベリアルよりも怖かったとフィノはユンに漏らして、また叱られる事になる……。 「陣形をあまり乱さないでくれると嬉しいのだがな」 楓が3人に毛布を切った物を差し出す。その目はベリアルから離れず、冷静に分析しているようだ。そして再び口を開く。 「どうやら体が大きいせいであまり高くは飛べない様子だ。一番初めに発見した時にも木に留まっていたことからして、あまり長くは飛べない事も推察できる。それから羽や末端を傷つけても活動が鈍らないのは痛覚が鈍いのではないかと思っている。最もベリアルは魔方陣を壊さない限り再生するが、見た所、羽には無いと考えられる」 「っつーことは仕留めるなら胴体を真っ二つにすれば良いんだな。後は……あの顔だな~。どうすっか」 ロスが頬を掻きながら悩んでいるとフィノが割り込んできた。 「さっき楓さんが言っていたけれど、あの顔……痛覚が鈍いって事は、本能に従っている部分があると思う」 「じゃああまり気負う必要もないですね。村人の魂を解放してあげましょう」 マリオスが盾と剣を構えて皆に語りかける。 「お墓、作ってあげたいです」 シンティラが呪符を構えてベリアルを睨む。 「ああ、村人の弔い合戦だな。スウィーピングファイア!」 楓も研ぎ澄まされた刃の様な視線でベリアルに狙いをつけ、引き金を引く。 「ミギャァアア!」 その銃弾はベリアルの羽部分。顔の模様がある部分を撃ち抜き、激昂したベリアルがロスとマリオスに向かい、はばたいだ。 「鱗粉が来るよ! 前衛は目を閉じて!」 アユカが警告を発する。鱗粉が届く範囲は狭いと判断し、中衛である自分がその間の目になるつもりだ。 「制裁!」 フィノがベリアルを回り込むようにして鱗粉を回避し、サイドアタックを仕掛けた! 「ギィイイイ!」 触覚を切り落とされ、平衡感覚を失ったのかフラフラと後ずさるベリアル。再生するまでは若干運動能力が下がるだろう。 「……なぁ、ティ。退魔律令を使ってもらっても良いか?」 「はい? 構いませんが。退魔律令!」 「おっしゃ! これで動きを止められる!」 「???」 疑問の表情を浮かべるシンティラとは反対にロスが満面の笑みを浮かべる。 「ああ! そういう事か! アユカさんとシンティラさんは小咒の用意を!」 「くっ……フフフ。まさか自分の身を囮にするつもりか? だが面白そうだ。私も援護するとしよう。……しかし山火事というのは洒落にならん。木の無い広場に誘導するとしよう」 マリオスと楓もロスが何をしたいのか気付いたようだ。 「あ! フィノくん、水筒とフラスコ、いつでも、投げられるように」 ユンも何をするつもりか気が付き、フィノに指示を出す。 「糸無いんだから色付けたってしょうが無いだろ。ユン、頭大丈夫か?」 「う~! 消火の、為!」 不満気な顔のフィノだったが、ユンの膨れっ面と非難の声で返される。先程涙を見せられてしまった手前、立場が弱い。渋々とそれに従った。 「ミギィイイイ!」 その間にも楓の銃弾でベリアルは広場に誘導されていく。 「っと、ここら辺で良いか。言いだしっぺの俺が突っ込むわ。保険もあるしな」 そう言うとロスは手首に巻いた死霊の石を掲げた。太陽の光でキラリと輝くそれは即死の一撃を腕と引き換えに一度だけ護ってくれるブレスレットだ。 「ああ、頼んだ」 マリオスはポンとロスの肩を叩き、自分もいざという時に助けに入られるように武装を構える。 「んじゃ行くぜぇ! 地烈豪震撃!」 ロスの斧が轟音を響かせて地面に突き刺さる。だが、ベリアルには当たらず、斧を抜こうとしているロスに襲い掛かる! 「ミギシィイイイイ!」 動けないロスに向かって鋭く尖った口吻を伸ばし、盾をすり抜け肩に突き刺す! 「グゥッ!」 歯を食いしばり、痛みに耐えるロス、そしてベリアルが勝ち誇ったように大きく羽ばたく! だが……! 「ギシャアア!?」 ベリアルが困惑した悲鳴と共に吹き飛ばされる! 先程シンティラが使った退魔律令が想定以上の効果を発揮したのだ。 「今だ! 詠唱無しの小咒を! 木の無いこの広場なら延焼は無い!」 マリオスの声にシンティラとアユカが呪符を投げる。ベリアルの左右の羽が燃え上がり、地面にドサリと音を立てて落ちた。 「ミギャアアア! ママァアア!」 羽を失い、悲鳴をあげながら地面を這いずり、逃げようとするベリアル。 「地烈豪震撃!」 「獣牙烈爪突!」 胴体に魔方陣を露出させ、もがくベリアルにロスとマリオスがスキルを放つ。 「じゃーな……」 ロスがベリアルに向けて火の点いたライターを投げる。それは鎮魂の為か、それともベリアルを完全に沈黙させる為かは分からない。 「ミギィイ……。……ア……ウ……」 断末魔の声をあげて消滅したベリアルに一同、ふぅと息を吐く。が、しゃくりあげて泣く声が聞こえて誰もがそちらを向いた。 「お、おいユン。どうして泣いてんだ? もしかして鱗粉が目に入ったか?」 フィノが目を擦りながら泣くユンに駆け寄り、目を調べようと両手を取る。しかし、ユンはそれを嫌々をするようにかぶりを振った。 「違う、の。……ベリアル、何回も、ママって、言ってたの……村、の、子供、かもって」 いつも言葉を区切り区切り話すユンだが、嗚咽のせいで更に聞き取り難くなっている。 ベリアルに喰われた魂が、ベリアルに影響することはない。だが、死者を彷彿させる声に対して、涙してしまう気持ちも理解できた。 「ああ、そうだな……。けど、皆救われたんだよ」 ベリアルに喰われてしまった魂を解放したんだとフィノはユンを慰め、天を仰ぐ。魂は天へ昇って行くのだろう。空は高く高く澄み渡り、どこまでも青かった。 「さてお墓、作りましょうか。この広場、陽が当たりますし」 シンティラが何処かに落ちていたのか太めの枝を拾ってくる。 「それならここに咲いているお花も供えましょう」 シルシィが簡単に花輪を作り、地面に立てただけの墓標にそっと通す。 戦闘後のエクソシスト達を秋の穏やかな風が撫でて行った……。
|
||||||||
*** 活躍者 *** |
|
|
|||||
|
| ||
[20] アユカ・セイロウ 2018/09/08-23:58
| ||
[19] ユン・グラニト 2018/09/08-23:55
| ||
[18] ロス・レッグ 2018/09/08-23:53
| ||
[17] シルシィ・アスティリア 2018/09/08-23:13
| ||
[16] ロス・レッグ 2018/09/08-22:57
| ||
[15] ロス・レッグ 2018/09/08-22:34 | ||
[14] フィノ・ドンゾイロ 2018/09/08-22:15 | ||
[13] 花咲・楓 2018/09/08-21:53 | ||
[12] ロス・レッグ 2018/09/08-20:31 | ||
[11] シルシィ・アスティリア 2018/09/08-18:50
| ||
[10] シルシィ・アスティリア 2018/09/08-17:44
| ||
[9] ロス・レッグ 2018/09/08-09:28 | ||
[8] シルシィ・アスティリア 2018/09/08-08:19 | ||
[7] 花咲・楓 2018/09/08-04:05
| ||
[6] 花咲・楓 2018/09/08-03:49 | ||
[5] ロス・レッグ 2018/09/08-03:37 | ||
[4] シルシィ・アスティリア 2018/09/07-23:51 | ||
[3] 花咲・楓 2018/09/07-20:43 | ||
[2] シルシィ・アスティリア 2018/09/05-20:46
|