我が名は汝のイージス
普通 | すべて
2/8名
我が名は汝のイージス 情報
担当 GM
タイプ ショート
ジャンル シリアス
条件 すべて
難易度 普通
報酬 多い
相談期間 3 日
公開日 2018-09-15 00:00:00
出発日 2018-09-21 00:00:00
帰還日 2018-09-28



~ プロローグ ~

「今回任せる指令は……ここ最近浄化師としての志しに悩むことも多くなったし、いいチャンスだろう。
 お前たち、アムネシア・ベリアルの疑いのある者の対応にあたってほしい」
 ロリクの言葉に集まった浄化師たちは緊張の面持ちになる。
 浄化師には大抵自分の生きる道があるのだが、あまりにも意識しすぎると精神的におかしくなってしまうことがある。
「今回、俺の同期なんだよなぁ」
 え、ロリクさんの知り合い!
「その問題の奴のパートナーが今来てる。ほら挨拶しろ」
「あらあら、あらあら、みなさん、かわいらしい人たちねぇ」
 車いすに乗って、点滴している婦人……って、え! 病人ですよ。この人!
「はじめまして。私、アライブは墓守のエマです。今回はよろしくお願いしますね。……ええっと、こんな状態でごめんなさい。私、もともと体が弱いうえ、ごぼっ!」
 血、血を吐きました!
 ロリクさん、この人、大丈夫ですか。
「エマは昔から病弱、貧弱、貧相、教団では知る者はみな吐血のエマと呼ぶ女だ。
 あ、吐血については気にしなくていいぞ。いつものことだ。墓守としては優秀なんだが……いつもよりひどいな、なんで車いすに点滴?」
「それはおいおい話しますけど、今回は私のパートナーを助けるのに協力してほしいんです」

 エマのパートナーであり、喰人の名前は陸奥という。
 アライブは悪魔祓い。隠密行動を得意とし、スナイパーとして優秀だ。また絶対に前線に出ないことで一部の浄化師たちには知られている。
 戦い方も、エマが墓守として注意と防御を引き受け、その隙をついて陸奥が敵を根絶やしにするという息の合ったコンビネーションを発揮する。

「陸奥は自己防衛を信条とし、絶対に自分から敵に近づかないし、見つからないようにしていた。
 自分が見つかれば味方全体を危険に陥れることを危惧して……ひどく慎重な奴だったんだが」
 ただし。とロリクが付け加えた。
「あのバカ、最近、なぜかその戦い方をせずに前線に出まくっているんだ」
「理由はわかっているんです。私が指令中に倒れてしまってベリアルに襲われそうになったんです。
 そのとき、陸奥は私や仲間を守るために前線に出て戦って……。
 もともと、ベリアルに生まれた村を滅ぼされて必要以上に失うことを恐れていたんですけど……、
 それから陸奥はぼーっとすることが増えて、必要以上に手を洗ったり、眠れてないことがあって」
「典型的なアムネシア・ベリアルの症状だな。といっても、陸奥の場合は幸いにもまだ危険領域に来たに過ぎない。
 今回山のなかにベリアルが出たんだが、その退治に陸奥が参加することになっている。
 お前たちはベリアルを倒し、さらに彼に自己防衛をとるように促すこと」
「すいません。私も一緒にいきたいのですが、こんな有様で……ごふぅ」
「おい、もともと体が弱かったが、どうしたんだ、本当に」
「前の指令で倒れた原因にもあるんだけど……実は、妊娠しちゃったみたいなの」
「は」
 は。
 え、あ、あの、えーーー!
「だから、陸奥との赤ちゃんが出来ちゃったのよ。んふふふ、結婚してはや十年、諦めていたんだけど、ようやく!」
「お、おめでとうって、いまいうべきなのか! え、まて、それ、陸奥は」
「……言おうとしても、ぼーっとしていて、それに私が倒れてからますます混乱しちゃって、言うタイミングが」
「……」
 ……。えーと。これってさりげなく重要なことに重要なことが増えましたよね。ロリクさん。
「お、おう。ど、どうしよう、これは」

 こつん、と足音がしたのに、はっとして全員が振り返る。
 黒い外套に身を包んだ、白髪の男がやってくる。整っている顔立ちはどこか陰気ともとれるほどに疲れが滲んでいる。
 ぽたり、と何かが落ちた。
 血だ。
 よく見れば彼の両手は血まみれで、包帯がまかれていた。

「……エマ? 君は安静にしないといけない……と、先生が……っ……病室にはやく……手を、手を洗わないと、きたない……」
「陸奥、お」
「ロリク? ……今回組む浄化師たちだな? ベリアルとの戦闘……せいぜい、気をつけるんだな」
 ぼんやりとした視線をさ迷わせ、陸奥はそれだけいうと報告書の提出があると口にして行ってしまう。
「ありゃ、思ったよりも重症だな。お前ら、今回は他人事じゃない。今後のことも含めて、よくパートナーと話し合って、あいつの対応にあたってくれ」
「すいません。よろしくお願いします。私に出来ることはなんでもご協力しますから」


~ 解説 ~

 えらいこっちゃ。えらいこっちゃ。えらいこっちゃ。(三回いいました)

 今回の指令は【存在理由】偏りすぎてぼーっとしている陸奥の対応しつつ、ベリアルとの戦闘です。

 アムネシア・ベリアルは、自身の目的を失ってしまい、戦闘能力が低くなったり、感情、意識が薄れていくものです。
 最終的には記憶喪失になったり、廃人となってしまいます。
 陸奥の場合は【自己防衛】(自分の命を守る)自分に対する興味を持つ存在理由となります。
 0に近いと自分への興味を失い、高いと保身のためにあらゆる手を使ってしまうというものです。

 陸奥・ランドーラ・リリク アライブ・悪魔祓い 存在理由【自己防衛】。
 スナイパーとしての能力が高く、隠れて敵を根絶やしにするタイプです。現在、その戦い方を忘れてのばりばり前線野郎化してしまった。そんながんばりいらない。
 行動方針:とりあえず敵を見つけ次第即接近戦闘にはいる。今回もほっとくと勝手にベリアルを見つけて殺しにかかるのでご注意ください。
 陸奥はアライブの悪魔祓いと本来の戦闘スタイルから、戦闘能力よりも隠密・偵察能力が高めです。
 武器は狙撃銃。サブ武器でコンバットナイフ。

 戦闘フィールド
 山は背の高い木々に覆われ、鬱蒼としている。昼間でもそこそこ暗い。
 山の奥に進むと上流から流れる川が勢いよく落ちる滝がある。
 三メートルほど大きい川となっている。大きな岩が転がる岩場。岩には苔など生えており、気を付けないと滑る可能性が高い。
 川は一番深い箇所は中央部で、五メートルほどある。川の底も小石がごろごろしている。
 滝の裏側はむき出しの岩で行き止まり。滝の下の岩は常に濡れており、かなり滑る。
 現在川辺を鹿のベリアルたちが拠点としている。

 プランとしてほしいのは以下の通りです。
・存在理由を偏らせた陸奥への対応方法
 自分やパートナーならどうするのかと照らし合わせたり、エマに協力してもらい手紙をかいたり、言葉を考えたりしてみてください。
 その時間はありますし、エマは協力的です。
 陸奥はかなりぼーっとしているのでやや強引な手に出ないと伝わらない可能性が高いことです。

 陸奥の存在理由
 過去にベリアルによって大切な生まれた故郷・家族を奪われた恐怖感と妻、ひいては仲間を絶対に死なせず帰還させる、という信念のもとの行動です。
 説得では地雷も埋め込んでいるので気を付けてください。即爆破して、一瞬にして0になって廃人コースもありうる。


・敵のデータ
 大型の鹿ベリアル 三体
 注意すべきは鹿の角と、ジャンプ力(一メートルくらいの岩なら軽々と飛び越えます)。
 攻撃方法:後ろ足での強烈な蹴り、角での頭突き、噛み付き、体当たり、踏みつけ
 鹿ベリアルたちは群れとしての意識が強いわけでない、また一体、一体はそれほどに強くない。


~ ゲームマスターより ~

えらいこっちゃ。





◇◆◇ アクションプラン ◇◆◇

アリス・スプラウト ウィリアム・ジャバウォック
女性 / 人間 / 占星術師 男性 / マドールチェ / 人形遣い
【目的】
囮になる・陸奥さんを説得する

【事前準備】
持参してるワンピースをはさみで3つの端切れにする
端切れの両端に石を入れて重りをつける

【行動】
敵を見つけたらペンタクルシールドを使う
ランプに光を灯し水辺から離れる
こちらに向かって飛んで来たら用意してたブラックジャックもどきを足に向かって投げ遠心力を活かして敵の足に絡ませる
可能ならタロットで攻撃する

【心情】
まぁ!エマさんはもうすぐ子供が産まれるのですね!素敵ですわ!絶対産まれたら私達も呼んで下さいね!
隣には陸奥さんが居なきゃ駄目ですよ
私、物語はハッピーエンドが好きですの
だから、絶対に陸奥さんを説得しましょう!
前の戦闘から学んで足を絡めたらどうかしら?
ジークリート・ノーリッシュ フェリックス・ロウ
女性 / 生成 / 悪魔祓い 男性 / マドールチェ / 墓守
目的
陸奥さんの症状の軽減
ベリアルの討伐

準備
エマさんに陸奥さん宛の手紙を書いてもらう。
中身は、倒れた原因が妊娠のせいであること。

説得?
陸奥さんに指令の話(おかしくなる前の)を聞いて、以前の戦い方を思い出してもらう。

書いてもらった手紙を音読して、陸奥さんに聞かせる。
目的地へ行く途中、休憩の時にでも。
陸奥さんが信じないようなら、真偽は帰ってからエマさんに聞いてくださいと。

…陸奥さんはずっと、エマさんを前衛に出すのは怖かったのですよね?
でも、自分は悪魔祓いで。

エマさんも怖くないはずはなくて、陸奥さんを信じているから…。

今回はわたしたちが陸奥さんの仲間です。
みんなで、エマさんのところに帰りましょうね。


~ リザルトノベル ~

「まぁ! エマさんはもうすぐ子供が産まれるのですね! 素敵ですわ! 絶対産まれたら私達も呼んで下さいね!」
 話を聞いた『アリス・スプラウト』は目をきらきらさせた。
「隣には陸奥さんが居なきゃ駄目ですよ。私、物語はハッピーエンドが好きですの。だから、絶対に陸奥さんを説得しましょう!」
 指令に赴く自分自身を鼓舞するように、また仲間たちにも同じ気持ちになってほしくてアリスは口にする。
「そうですね、アリス。ただ問題は……陸奥さんへの説得方法です」
「そうですわね、考えなきゃ」
「出来たら、陸奥さんへ手紙をかいてもらいたいんですが、いいですか?」
 『ウィリアム・ジャバウォック 』が口にした。
 その横ではうーん、うーんと腕組みをして一生懸命考えているアリスが、ぱっと目を大きく見開いた。
「そうですわ。手紙ですわ!」
「どれくらい効果があるかはわかりませんが……」
 自分で提案したが先ほど見た陸奥の状態を考えてウィリアムは少しばかり自信がなく、笑みに陰りが出来る。
「でしたら、音読とかはどうでしょうか?」
 『フェリックス・ロウ』が言う。
「それですわ! 文字だけだと読んでいるかわかりませんが、私たちが音読すれば伝わる可能性は高いですものね!」
 素晴らしい提案とばかりにアリスが賛成する。
「あ、けど、どこで聞いていただきましょうか? 今からベリアルと戦いに行くとなると、陸奥さん、一緒にきてくれるのかしら? 戦闘中になると誰か一人が動けなくなりますし」
「あ、あの……行く途中や休憩のときにでも……目的地は同じですし、別々に行くことはまず、ないと思います……ロリクさん、どう、ですか?」
 『ジークリート・ノーリッシュ』が、視線を向けて問いかけるとロリクは頷いた。
「そこらへんは大丈夫だ。いくら陸奥があの調子でも目的地には一緒に向かうはずだ。そこらへんはこちらがきちんと対応しよう」
 その言葉にほっとジークリートの目が緩む。
 この指令はなかなかに大変な面が多い分、少しでも陸奥と事前に触れ合うことができることは彼を助ける手助けにもなる。
 人々を守れ――ジークリートの家族はそう口にしていた。
 陸奥も、そしてベリアルの危険に晒される人々もすべて含めて守り切る。それが今回の大いなる目的になる。
「では決まりですわね! エマさん、お手紙を書きましょう!」
 アリスが小さいながらも光を見つけ、やる気になった。
 エマも希望が持てて嬉しそうに微笑んだ。
「手紙ですか。喜んで……けぷっ! あ、嬉しすぎて血を吐いてしまいましたわ。ふふふ」
「血、血ですわっ、ウィルっ!」
「これはハンカチですか、袋が必要なんですかっ」
「わ、わたしの服でよければ……受け止めます!」
「リート、みなさん、冷静に……医療班を呼んだほうが?」
「落ち着け―、いつものことだ」
 思いっきり吐血するエマに、まだまだ慣れないメンバーは大いに慌てた。

「あと問題は内容ですわ。どういうものがいいのでしょうか?」
 アリスがまたしても難題にぶちあたったので眉根を寄せる。
 やることが決まったので、まずエントランスの端で出発までに準備を整えることにした。
 陸奥の説得が肝となるが、ベリアルとも戦うということでアリスはまず自分の持っている麻袋の調節にかかった。これに石をいれて投げたりできないかと思ったのだ。これがどれだけ役立つかわからないが、いくらだって危険性があるならそれに対抗する方法は考えておきたい。
「以前の戦いもそうですが、足をこれで絡めれたらどうかしら?」
 アリスは自分が弱いことをきちんと心得ている。だから一生懸命考えるのだ。
「二人の過去の事柄とかはどうでしょうか? 記憶を呼び覚ます、というので……今回は二人しか知らないことなども書いていただけますか?」
 とウィリアム。
「そう、ですね……こうなってしまう前の様子も聞きたいです……以前の戦い方を思い出していただければ……今回の戦力にもなってもらえると助かります」
 ジークリートがゆっくりと言葉を発する。
「惚気ても構いませんよ。今回知った内容は私たちも秘密にします」
 しめくくるように少しばかり茶化して明るい雰囲気をつくるウィリアムにエマは穏やかに微笑み、白い便せんに向かった。
「行く途中でもいろんな話を私たち出来たらいいですわね」
 とアリスが拳を握る。
「そうですね。出来るだけ私たちのことを陸奥さんが信用してくれるかも鍵だと思います……または気を引けるかが鍵ですね」
「陸奥さんの気を引く」
 アリスはまた悩み顔になるのをウィリアムが微笑んで言い返す。
「アリス、そんな難しいことはないですよ。陸奥さんの場合は、こうしていろいろと話しを聞いたのですから……最悪、私があなたの妻を頂きますと宣言しましょう」
 きりっとウィリアムが発言する。こんな間男のような真似は正直勘弁願いたいが、嘘でも愛する者を奪われるなどと口先だけでも告げれば黙ってはいられないだろう。
「まぁ! 奪うなんてロマンス小説みたいですね!」
「それは……ききそうですね」
「がんばって奪ってください」
「なんとなく、恥ずかしくなるのでやめてください」
 苦笑いを浮かべてウィリアムは言い返した。

 ぎりぎりまで陸奥をどうするか、そしてベリアルとの闘いについて考えを話し合ったメンバーは陸奥がエントランスに現れたのにまずはほっとした。陸奥は知らないだろうが、ここからが勝負なのだ。
「エマ……いってくる」
「陸奥、いってらっしゃい」
 陸奥は屈みこむと、エマを優しく抱擁し、額をくっつける。それにエマも優しく声をかける。
 じっとアリスたちがその様子を見ていると、エマはにこりと笑って両腕を広げた。
「みなさんも」
 陸奥のために考え、行動しようとしてくれる今回のメンバーにエマは心からの感謝をこめて抱擁とともに見送ってくれた。
 アリスたちにはエマから託された手紙と、思い出を抱えて歩き出す。

 目的の森へと向かう道はのどかな平野だった。太陽は眩しく、虫たちの鳴き声が聞こえる。
 アリスたちが先頭を、一番後ろを陸奥が歩く。
 ジークリートが陸奥への説得にあたるため、歩みが遅い彼にあわせてゆっくりと歩いた。
「あの……お話をしても、いいで、しょうか?」
「構わない」
 陸奥は静かに言い返す。
 ジークリートは横で、ゆっくりと手紙を広げた。
「陸奥さん、聞いてください。これは、エマさんの手紙です」
「……」
「陸奥さん!」
 ジークリートの声に陸奥がそちらを向く。少しだけ驚いたような表情だ。
 相棒のフェリックスが日常ではぼーっとしていることが多いせいか、こういう人の相手には慣れている。
「読みますね?」
「……ああ」
 エマの手紙はぬくもりに満ちていた。
 陸奥がエマに一目惚れして熱心に口説いてきたこと。はじめは戦いの方法がうまくできなくて二人ともいつも傷をつくっていたこと。陸奥はエマの説得で、悪魔祓いとして後方で戦うことを選び、二人はいつも、どんな危険な指令も乗り越えてきたこと。
 浄化師は互いに信頼してこそ本当の力を発揮することが、その手紙にはこめられていた。
「陸奥へ、とても愛しています、と……これで終わり、です。……陸奥さんはずっと、エマさんを前衛に出すのは怖かったのですよね? でも、自分は悪魔祓いで」
 信頼していても、もしも、のことを考えたらきっと、いつも不安で怖くてたまらなかったはずだ。
「エマさんも怖くないはずはなくて、陸奥さんを信じているから……もし、わたしたちのことが信じられないのでしたら、……真偽は帰ってからエマさんに聞いてください」
「エマは……強い」
 ぽつりと、陸奥は言葉を紡ぐ。
 少しだけ疲れた目に光が宿ったようだった。
「俺が弱すぎるんだ」
「そんな、ことは」
「……なら、お前は」
 陸奥は低い声で問いかけた。
「え」
「お前は自分のパートナーをきちんと信用しているのか」
 ジークリートは心臓を射抜かれたように身をかたくした。
「お前の相方は墓守だろう。墓守は基本、前に出て敵の攻撃を受けることになる。見たところ、マドールチェだな」
「は、はい……わたしが、お願いをして……契約をしてもらったんです、だから」
「だが浄化師だ」
 また、胸を、弾丸で貫かれたようにジークリートは拳を握る。
「ベリアルやヨハネの使徒と戦うことになる……それも承知のうえで、契約したんだろう? そして、お前の相方はそのアライブを選んだんだろう。あれは別に強制されるものじゃない、自分の意思で選ぶものだ」
「はい」
 フェリックスは日常では終始ぼーっとしていることが多いが、戦闘のときは活動的なことが多いこともジークリートは見て、知っていた。
 けど、彼に守ってほしい、と口に出来ない。
 それはジークリートが人々を守ることを、両親の教えを忠実に守ろうとしているからだ。否、本当は怖いのだ。
 守られることは、相手への信頼が絶対不可欠だ。
 それと同時に自分自身も強くないといけない。
 陸奥への説得がそのままジークリートの心を追い込む。
「わたしは……」
「俺にそう口にするなら、まず自分自身の行動で示してみろ」
 挑むような、どこかジークリートの心への共感をまぜた悲しみと苦しみの絡んだ声で陸奥は告げた。
 ジークリートは俯きがちに自分の前を歩くフェリックスの背を見つめた。

「うまくいったのかしら?」
「わかりませんね」
 前を歩く三人――アリスとウィリアムはそしらぬ顔をきめこみながらもどうしても気になってつい小声で会話していた。
「うむむぅ。やはり私も説得に参加したほうがいいのかしら? けど、ジークリートさんがまずはがんばってみるっておっしゃったし」
「信じましょう。二人とも黙ってしまいましたね」
「……リートが」
 ウィリアムとアリスは突然、会話にくわわったフェリックスに驚いて視線を向けた。
「ひどく、悩んでいるみたいです」
 ジークリートが陸奥に何か言われて俯いてしまい、ひどく真剣な顔でなにかを考えているようだ。
「なにがあったのかしら」
「そうですね」
「……」
 フェリックスはぼんやりとジークリートを見つめた。

 ベリアルが目撃された現場までくると、陸奥が全員を制し、地面に耳をあてた。
 地面の振動から敵の位置をある程度割り出す方法だ。
「ここから数キロ……石と水の音……川にいる。三体っ!」
 陸奥の目がとろんと闇を孕む。
「っ!」
 ウィリアムがチェシャ猫の糸をひき、陸奥の肉体を絡縛糸でぐるぐるに巻き付ける。
「貴様っ!」
「あなたを向かわせるわけにはいきませんからねっ」
 射殺すほどの眼力で睨まれたがウィリアムはわざと余裕たっぷりに言い返した。その間に陸奥の言葉を聞いたアリスたちが川へと向かう。その様子に陸奥が歯を剥いた。
「なんのつもりだっ!」
 もう別に笑う必要はないので、ウィリアムは無表情で陸奥と対峙した。
「あなたは奥方の手紙を読んでもらったんじゃないんですか?」
「……エマの手紙? ……エマ、ちがう、あれは……なんのことだ」
 ジークリートとのやりとりをぼんやりとしか覚えていない陸奥が混乱する。
 ウィリアムはジークリートから渡された手紙を再び音読しはじめた。焦られないように、ゆっくりと、落ち着いた声で。
「エマ」
 陸奥が混乱した顔で呟く。
「貴方の妻は今貴方の子供を妊娠しているそうですよ」
「にん、しん?」
 はじめて聞く言葉に陸奥が困惑した表情になる。
「そんな貴方が前線で戦い死んだら貴方の奥方はどう思うんでしょうか。まだ世界も知らない子供を片親にするつもりですか?」
「……」
「貴方は、もう少し他人がどう思うか考えるべきです。まぁ、これはアリスにも言えることなんですが……手紙の内容、貴方と恋人しか知り得ない内容でしたでしょう?」
「エマが託したんだな」
「そうです。……それでも信じないなら、貴方の妻を私が頂きますよ」
 陸奥が動きを止めた。
 この言葉はなかなかにきいたかとウィリアムが思った瞬間、陸奥が足底で地面を蹴り、体当たりを食らわせ、ウィリアムに馬乗りになる。
「っ」
「……俺から妻を奪う? よく言った。攻撃できないと思ったか? 俺には口がある。手足がちぎれても一人ぐらい道連れにすることぐらいできるぞ」
(あ、これは刺激しすぎました!)
 説得に熱をいれてやりすぎたとウィリアムは多少、いや、かなり、後悔した。
 みんながベリアルに向かっているのに自分が彼の束縛と説得にあたるということで多少、焦りがあったのかもしれない。
(これは、死んだ)
「さっさと解け」
「え、えっと」
「妻をお前みたいな顔だけの男に渡すわけにはいかない。さっさと指令を終えて帰る」
「……顔だけってひどくないですか」
 ひくひくと口角を震わせウィリアムは言い返した。


 先行するアリスの後ろを進みながら、ジークリートはフェリックスを見つめた。
 こくんとフェリックスが頷き、手を伸ばすのにジークリートは掌をあわせる。
「わたしは」
「僕は」
 声が重なり合い。
「あなた」
「貴方」
 力が満たされていく。
「守ります」
「守ります」
 決意が二人を強くする。

「フェリックス、無茶は……」
 いつもジークリートが口にする言葉をフェリックスが口を開いて言い返す。
「リート。無茶はしません、約束します。だから、リートも信じてください」
 真っすぐに見つめて、ジークリートは目を見開いた。

 アリスは事前に用意した布切れに石をまきつける。
「きましたわ」
 囮のアリスが川辺へと訪れると、黒い鹿――たくましい肉体の半分が黒い墨のようなものにのまれ、爛々と赤い目を輝かせている。鹿たちは静かに水辺にただすんでいたがランプに光を灯したアリスにすぐさまに気が付いた。一頭が駆け出すのに残りも続く。アリスはすぐさまに自分にペンタクルシールドを展開する。
 輝くタロットがアリスを囲み、守ってくれる。
 アリスは駆け出す。
 すぐにジークリートがきてくれる手筈になっている。
 ぬめりに足がとられないように注意するとどうしても遅くなる。
 迫り来る地響き。
 アリスは渾身の力をこめて作った武器を投げた――麻袋に石をいれたそれは拙いながらも鹿の足に絡みつき、一頭の動きを鈍くさせた。
 と、上から鹿が降ってきた。
「!」
 恐ろしいほどのジャンプ力を駆使して他のベリアルを飛び越えてやってきたのにアリスは恐怖に身が竦む。
 タロットと鹿のたくましい脚がぶつかり、弾かれる。そのまま鹿がさらに突進してくるのに今度こそ絶対絶命の状況にアリスは拳を握ったとき。
「アリスさんっ!」
 ジークリートが低く飛行し、アリスの身を抱えて鹿の前から逃げた。
「ジークリートさんっ!」
「後ろに下がりますね」
 ジークリートの胸に抱えられ、アリスは頷く。
 踏みつぶし損ねた鹿は荒々しい脚踏みとともに突進をする。
 ジークリートが逃げる先に待っていたのは鎌を構え、魑魅魍魎ノ壁を展開したフェリックスだ。
 薄い魔力の壁はどこかまがまがしさすら思わせるが鹿は怯まず突進する。シールドが破れ、鎌を盾にして弾く。その支援をしたのはアリスだ。
 ジークリートに降ろされたあと彼女はすぐさまにタロットを投げ、少しでも攻撃の隙を作る。
 鹿が怯んだ瞬間、いくつもの木々に弾かれた弾――トリックショットが脳天を貫いた。
「やりました!」
 アリスの嬉しげな声が響く。ジークリートもほっとした瞬間、鼓膜をひっかくような大きな地響きとともに二頭の鹿が突進してきた。
「フェリックス!」
 迎え撃つフェリックスが魑魅魍魎ノ壁を再び展開するが、ジークリートの脳内に恐怖が襲う。もしここで二回攻撃されたら――?
「アリス!」
 聞きなれた声がアリスの耳に聞こえてくる。
「ウィル!」
 見慣れたチェシャ猫が一匹の鹿の足に巻き付く。そのタイミングでアリスはタロットを投げた。
「え、けど、陸奥さんは」
「あの人でしたら大丈夫です」
 ウィリアムがそう言い返した瞬間、絶命近いベリアルが雄たけびをあげて襲い掛かろうとするも——その一頭が、一撃で吹き飛ぶ。
 アリスは瞠目し、ウィリアムも慌てて後ろに下がる。
「一体、どこから撃ったのか」
「すごいわ」

 もう一体の鹿をフェリックスが受け止める。鎌を盾にしてシールドが破れても、踏みつぶそうとする前足を鎌で受け止め、弾く。
「リート、いまです」
 ジークリートはボウガンを構え、力をこめて、引く。
 矢は鹿の眉間の間を見事に貫き、一撃で仕留めた。


「まぁ、正気に戻ったんですのね」
 アリスが奥から現れた陸奥を見て無邪気に喜ぶが、先ほどの軽い言い合いをしたウィリアムとしては背筋に冷たいものが走る。
 陸奥はジークリートを見る。
「あちらも、カタがついたようだな。はやく、エマに会いたい」
 ジークリートはフェリックスにケガがないかを確認して、ほっと目じりを緩めた。
「リート」
「よかった……フェリックスが、無事で」
「リートこそ、信じてくれて、ありがとうございます」
 その言葉にジークリートは黙って小さく頷いた。





我が名は汝のイージス
(執筆: GM)



*** 活躍者 ***


該当者なし




作戦掲示板

[1] エノク・アゼル 2018/08/29-00:00

ここは、本指令の作戦会議などを行う場だ。
まずは、参加する仲間へ挨拶し、コミュニケーションを取るのが良いだろう。  
 

[12] ウィリアム・ジャバウォック 2018/09/20-23:34

はい、拘束は私がさせて頂きますのでその辺は大丈夫ですよ。
ちょうど良いスキルもありますからね。
私も大体書けましたのでこれが最終確認になるかもしれませんが…。
それでは、宜しくお願い致します(軽く会釈し  
 

[11] ジークリート・ノーリッシュ 2018/09/20-23:26

プランは大体書きました…。
もう少し直しますけど…。

ええと、すみません、拘束はウィリアムさんがしてくださるということで良かったでしょうか…?
こちらも最初からの部分は書いておきましょうか…?  
 

[10] アリス・スプラウト 2018/09/20-20:55

>陸奥さんについて
あ!なるほど!
確かに内容確認すると陸奥さん会話してないけど隣に居らっしゃる!
じゃあ、最初から拘束できそうですわね!

>手紙の内容
あ、妊娠した事を書いて下さるなら、私は今までの指令の話を書いて下さるように頼んでみます!

>援護について
ありがたいですわ!
多分、私だけだと体力が追い付くか不安でしたので是非是非!  
 

[9] ジークリート・ノーリッシュ 2018/09/20-19:18

>手紙を音読する
では、やってみることにしますね…。
手紙の中身は、とりあえず倒れた原因が妊娠のせいであることを書いてもらうようにお願いしようと思いますけど、どうしましょうか…?
アリスさんたちで書かれますか…?
中身、他にも何かお願いしたほうがいいでしょうか…?

…ええと、わたしたちが教団を出発する時は、陸奥さんも一緒なんでしょうか?
それとも、出発してしまった陸奥さんを追いかける形なんでしょうか?
それによって、説得する場所が違って来ますよね?

出発する時は一緒なら、もう最初から腰に縄でもつけてしまいたいです…。
それで手紙を読むのは、行く途中にできればと…。

>目的の場所
そうですね。
川は岩が滑るみたいですから、木の生えている辺りで戦えるといいですね。
誘き出し、わたしも一緒に行きましょうか?
灯りで誘うとして…、わたしも天空天駆もありますし、アリスさんの援護くらいなら…。  
 

[8] アリス・スプラウト 2018/09/20-12:40

こちらこそ間が空いてしまい申し訳ありませんわ。
もう今日締め切りですものね。
詰めていかなければいけませんね。

>手紙を音読する
賛成ですわ!
多分、渡しても読んで下さるか微妙ですしね。
強制的にお耳に挟んで頂きましょう!

>目的の場所
場所が問題ですね…うーん。
木々が生い茂る暗がりなら休憩にもうってつけだと思うんです。
ただ、陸奥さんが水辺に居たら…多分敵に向かって行っちゃいますわよね…。
とりあえず、陸奥さんを捕まえてダッシュで後ろに逃げましょう!
敵が慣れてるテリトリーで戦う必要はありませんもの!

>今までの指令の話
とっても良いと思いますわ!
信じてくれないとしても、エマさんと陸奥さんしか知らない情報を混ぜて貰えれば勝機はある気がします。
それでも信じないようでしたら…もう私がエマさんを娶りますって宣言するしか…(苦悩)

>戦闘について
提案なのですが、私が囮になって鹿さんを誘き寄せるのはどうでしょうか?
ただ、私はスキル的に攻撃には向いていないし、陸奥さんを説得するまではウィルも攻撃に回れないのでお二人に攻撃を任せっきりにする感じになってしまうのですが…。

>具体的行動
囮になるなら、私がランプ持って暗がりに逃げ込みますわ。
それでかなり目立つと思いますし…。
私ならスキルで物理攻撃も軽減できますから。
一番逃げるのに向いていると思うんです。

時間がありませんが頑張っていきましょう!  
 

[7] ジークリート・ノーリッシュ 2018/09/20-00:42

…間が空いてしまって、ごめんなさい…。

強引、ですよね…。
ええと、エマさんにお手紙に妊娠のことを書いてもらうなら、それを音読するのはどうでしょうか…。
…目的の場所まで行く途中で休憩したりすると思うので、その時にとか…。
こういうお手紙は、自分で読んでもらうものだとは思いますけど…、ぼーっとしたままだとちゃんと読んでもらえるかわかりませんし…。

他には、今までこなした指令の話(おかしくなる前の)を聞いて、以前の戦い方を思い出してもらうとかも考えはしたんですけど…。

説得は…、エマさんやわたしたちを信じてくださいっていうくらいしか思いつかなかったです…。  
 

[6] アリス・スプラウト 2018/09/18-23:09

はい!ジークリートさんは初めましてですね。
私達だけじゃなくて良かったですわー!
宜しくお願いしますね!

一応、説得するにあたって考えてたのは

「貴方(陸奥さん)が死んだらエマさんがどう思うか」

「死んでしまえばもうエマさんに会えない」

この辺りが説得材料になるかなと。

あと、手紙には怪我をした訳じゃなく妊娠して倒れた事は書かなきゃいけない気がしますわ。

恐らくですが、誤解して暴走してるんじゃないかと思って…。

ただ、陸奥さんが信じるか信じないかがネックになりそうですわ。

多少強引な事…。
うーん、このままでいるならエマさんは私がお嫁に貰っちゃいますわよ!と脅しかけてみます?

一度信じてちゃんとエマさんと話し合えばきっと元に戻ると思いますわ。

死なずに生きて帰りエマさんに妊娠の話を聞いて貰えれば、戦闘に…協力してくれればいいな(希望)

この辺博打も博打な感じですが。  
 

[5] ジークリート・ノーリッシュ 2018/09/18-20:28

…あの、わたしは、ジークリート・ノーリッシュ。悪魔祓いです。
パートナーは、フェリックス・ロウ。墓守です。
あの…、はじめまして。どうぞ、よろしくお願いします…。

ええと、そうですね…。
陸奥さんは、敵を見つけ次第即接近戦闘にはいる、そうですから…、ベリアルと遭遇する前に拘束してしまうのはいいと思います…。
問題は、仰る通り、拘束に一人手が取られることと、同時に説得もするとなると…、ベリアル3体が相手ですから…。

ある程度は、行く途中でもお話ししてみたほうがいいかもしれませんね…。
陸奥さんに少しでも元に戻ってもらえれば…、ベリアルも群れとしての意識が強いわけでないそうなので、一体ずつ誘き寄せるとかできれば…?

説得は、どうしましょう…。
エマさんにお手紙を書いてもらうこともできるみたいですけど…。
どういう中身をお願いして、いつ渡すのがいいのか…?  
 

[4] ウィリアム・ジャバウォック 2018/09/18-12:11

恐らくですが…昔はスナイパーとしての戦い方が出来ていたので昔の戦い方さえ思い出せればどうにかなるのではないかと思うのですが…。

問題はトラウマですかね。
これまた推測になりますが、恋人の大怪我が元でああなったのだとしたらタブーは『大切な人の大怪我』になるのかなと。

まぁ、大切な人の大怪我は誇大解釈をした方が無難でしょうから『教団の仲間の大怪我』もタブーに入っていると考えた方が安心でしょう。

つまり、私達はあまり大きな怪我をせず、敵に勝つ必要があるのではないかと思ってました。  
 

[3] ウィリアム・ジャバウォック 2018/09/18-11:52

とりあえず、どう動くかの考察だけでも。

個人的に、勝手に動かれて陸奥さんが殺されるのは避けたいところですので陸奥さんを見つけ次第問答無用で拘束したいなと思ってました。

多分、お話ではぼーっとしてるようですし拘束するだけならそこまで抵抗はされないと思いますが…。

問題は敵と出会った際に飛び出して行くかどうかかと。

私としては人形と糸を巻き付けて拘束すれば恐らくは抜けられないと思うのですが…。

問題は私が攻撃出来なくなるという…。
敵に出会う前に説得するか、他に任せるか。

恐らくは後者が一番確実かなと。

…とりあえず、アリスはあまり戦闘に向いていないので誰か入ってくれるのを祈りたいですね(明後日の方向向いて
 
 

[2] アリス・スプラウト 2018/09/18-11:40

まだ私達だけですのね!

じゃあ、挨拶だけでも。

初めましての方は初めまして!
こんにちわな方はこんにちわ!

占星術師のアリスと人形遣いのウィルですわー♪
宜しくお願い致します!