【友好】洞への手紙と黒い影
普通 | すべて
2/8名
【友好】洞への手紙と黒い影 情報
担当 駒米たも GM
タイプ ショート
ジャンル イベント
条件 すべて
難易度 普通
報酬 通常
相談期間 5 日
公開日 2019-06-12 00:00:00
出発日 2019-06-20 00:00:00
帰還日 2019-06-30



~ プロローグ ~

 寝静まった林道に水気を帯びた靴音が続く。
 夜露に濡れた落ち葉は柔らかく、豊かな土の柔らかさを足の腹に伝えていた。
 燐光のような蛍の一群が浮かんでは消える。誰も口を開く者はいない。道すがら、絶え間なく流れ続ける小川のせせらぎを傍らを歩く片割れと共に聞いていた。
 ややあって振り子提灯の行列が歩みを止めた。
 藍を垂れ流した闇の中、茂った緑の羊歯が風に揺れている。
 雲と葉影の切れ間から三日月が顔を出した。
 林地に寂しげな乳白が射しこみ、苔むした石灯篭と石段を朧気に照らす。
 下段の石灯篭に朱色の火が灯った。
「昇っておいで」
 幽かに聞こえた緑の声には喜色の色が混じっている。
 一段、そしてまた一段と、導くように薄墨の灯篭に朱が灯った。
 段差を踏みしめるごとに足元に潜んだ影法師たちの数が増えていく。楽し気で虚ろ気な囁き声。好奇の視線が闇の中から浄化師たちを見つめている。
 長い長い石段の終点で、燃える篝火が焚かれていた。
 白い紙垂のついた注連縄。古びた社。そして、社に寄り添うように長い枝葉を伸ばした一本の巨木。
「よう来てくれた」
 人の声がした。
 否、人に非ず。
 枝葉のような髪。千草と朽葉の色を重ねた大袖の着物。
 フクシマ藩に住まう八百万が一柱、ミズナラである。
 外界に対し無関心を貫く神もいれば好奇心を隠さない神もいる。
 ミズナラは、どちらかと言えば後者よりの神と言えた。
 海を越えてきた浄化師なる者たちに会ってみたいという彼、または彼女の願いは速やかに叶えられた。
 満ちた腹に満足するかのような笑みを浮かべ、楽し気に海の外の話をねだっている。
 しかし二刻ほど言の葉を重ねた頃であろうか。その表情に陰りが見えはじめたのは。
 目端に留めたのは誰であったろうか。何にせよ、木器に注がれた甘い水と浮かれた気持ちがミズナラの口を軽くした。

「浄化師なる者たちが真に友誼に厚いと言うならば、その心を見込んで頼みがある。聞いてはもらえぬだろうか」
 柳眉を少しばかり下げたミズナラが唇を湿らせた。
「我(わ)には古い友がいる。台地の地下に広がる洞穴を住処にし、奉納された村祭りの道具たちと共に暮らしている一匹の鬼だ。
 そやつが気になることを文に書いておったのだ。最近、洞窟を訪れる人間がやけに多い、と。
 大雑把な奴が言う事だ。何事もなければよいのだが、どうにも気になって仕方がない。先日、手紙を届けた雨降小僧がその者たちの姿を見たというのだが……」
 ミズナラの言葉を遮るように傘をかぶった小さな鬼が一匹、浄化師たちの前へ飛び出した。
 浄化師のコートをしげしげと見つめると頭にかぶった傘を目元の方へひっぱり、左手の甲に十字を書いては掲げて見せる。
 数度一人芝居を繰り返すと、満足したのか出て来た時と同じようにミズナラの背中に隠れてしまった。
 せっかちな部下に溜息を吐いたミズナラが話を続ける。
「そなたらに似た装束を纏った気風怪しげなる者どもらしい。そなたらの同志か、ただの迷い人であれば良いのだが悪意を持った人間であるとも限らぬ。どうか友に手紙を渡すついでに、さりげなく近くの様子を見てきてはくれぬだろうか?」
 さて、どうしたものかと浄化師たちは顔を見合わせた。八百万の神に恩を売っておいて損は無いだろうが……。


~ 解説 ~

【指令】
 八百万の神、ミズナラと友好を深めよ

1、ミズナラより預かった手紙を洞窟に住む友人のもとへ届けてあげましょう。
2、最近、洞窟に入って来る人間が多いとの情報があります。
  手分けして洞窟に訪れているという人物について調べ、ミズナラへと報告してください。

 今回の指令は「調査」及び「報告」が求められていますが、浄化師たちの行動によっては「捕縛」や「荒事」が発生する可能性があります。
 プランの中に「ミズナラや鬼に対してどう思っているか(信用する/しない)」「洞窟内の調査はどのように行うか(ガンガン行くのか、慎重に行うのか、半信半疑なのか)」の二点が盛り込んであると助かります。


【舞台】

①地下洞窟入り口
 カルスト台地と呼ばれる広い平原の地下にある鍾乳洞です。
 雨降小僧が道案内をしてくれるので洞窟の入り口まで迷うことはありません。
 ミズナラの友人である鬼が住んでいます。歩きやすい道を通っていれば鬼のいる場所に辿り着くことができます。

②洞窟内
 非常に広く、入り組んでいます。
 村祭りで使った祭具が洞窟のあちこちに放置、もとい奉納されています。
 いくつかは妖怪(付喪神)と化しているようです。日が浅いので言葉を喋ることは出来ませんが、浄化師たちに何かを伝えようとしています。
 意志の疎通ができれば重要な目撃者となることでしょう。

③カルスト台地
 若草の茂った穏やかな丘陵地帯です。巨大な石灰岩があちこちに転がっています。
 ドリーネと呼ばれるすり鉢状の窪地があり、中には地下の鍾乳洞へと続いているものもあるそうです。


【協力可能 NPC】
 ミズナラ 八百万の神。心配性。
 鬼    ミズナラの友人。大雑把。
 雨降小僧 ミズナラの部下。洞窟や周囲に詳しいがとても怖がり。
 付喪神の皆さん 目撃物たち。


~ ゲームマスターより ~

 このたびは渡航成功おめでとうございます。
 ついに東方島国ニホンにやってきましたね!
 指令を発令させて頂きました、駒米たもと申します。
 当指令は、八百万の神に対する友好、調査、場合によっては捕縛までが範囲となります。
 全部一人でやろうとすると大変だと思いますので、パートナーや仲間たちと手分けして頑張ってください。

 ところでミズナラの木とタモの木が好きです。
 樹皮がストレートかつ、ゴワゴワしているところがたまりません。 





◇◆◇ アクションプラン ◇◆◇

ヨナ・ミューエ ベルトルド・レーヴェ
女性 / エレメンツ / 狂信者 男性 / ライカンスロープ / 断罪者
対八百万の神
オケアノスの言葉もあり協力したい それと彼らをよく知りたい
様々な姿形なので最初は少しおっかなびっくり

雨降小僧の案内に感謝伝え
まずは鬼に手紙を届け 洞窟での様子 心配事を聞く
質問の為 制服のヨナと頭から黒色の雨合羽を被った喰人で並び
終焉の夜明け団の可能性があれば警戒

雨降小僧に頼み洞窟の大体の地形と人が目撃された場所をメモ取り 調査へ
目撃頻度多い場所あればその付近 複数ならその内数か所
付喪神の伝えたい事を汲み取る努力もしつつ
仕掛の形跡 増えたり無くなった物の有無 魔力感知も使い変化を徹底的に調べる

私達の話している事自体は分かるのですよね?

付喪神への質問は
〇 音を鳴らしたり回って貰う
× 反応しない
で判断



リチェルカーレ・リモージュ シリウス・セイアッド
女性 / 人間 / 陰陽師 男性 / ヴァンピール / 断罪者
ミズナラ様の心配事を解決したい
雨降小僧さんは何を見たの?
並んで立つヨナさんたちを示し 目線を合わせ質問
小僧さんが見たのは どちらに似ていましたか? 
どこで見かけたのか 教えてくれませんか?

洞窟までの道のり ヨナさんたちとお喋り
他愛のない世間話をにこにこ
気配り…できているかしら シリウスの呟きにぷくり膨れて
シリウスの意地悪
ヨナさんたちは仲良しさんで羨ましいです
連携攻撃もとってもかっこよくて

鬼さんに会ったら笑顔で挨拶の後
最近洞窟にくる人間について詳しく聞く
付喪神さんたちが何を言いたいのか知りたい
ジェスチャーや簡単な質問 筆談等で意思疎通を目指す
隣人愛情使用 真摯な態度
人がいた場所がわかれば周知 皆でそこに


~ リザルトノベル ~

●カルスト台地~四人の愉快な旅路~
 轍の残る細道を、明るい世間話がなぞっていく。
 薄紫の花弁が揺れ、高原の上を薫風が通り過ぎた。
 遠くには積み木細工のような星見櫓が並んでいる。卵の殻に見える石灰岩や、長身を更に伸ばしている白樺。なだらかな柳緑の丘も。
 ミズナラの頼みを快諾した一行は、鬼の住む洞窟へと向けて出発していた。
「そういえば二人とはじっくり話した事なかったな」
 互いが顔見知りであったこともあり、道中、弾んだ会話が途切れることはない。
 麗らかな天気のような穏やかな声で『ベルトルド・レーヴェ』が目を細めた。穏やかな空の下、雑談を交わす機会に恵まれた幸運をゆっくり噛み締めているようにも見える。
「リチェの細やかな気配りにはいつも頭が下がる。シリウスも、この間の指令では危険な役を買って出てくれて助かった」
 賛辞を呈するベルトルドの隣で『ヨナ・ミューエ』が深く頷いた。
 怨嗟の声の中で『終焉の夜明け団』の企みを打ち砕いた者同士、思う所があるのだろう。
 嵐のような苛烈さと不動の胆力で敵の渦中へと飛び込んだ『シリウス・セイアッド』。
 囚われた魂、そして己が身を顧みずに傷ついていくシリウスに心を痛めていた優しき少女『リチェルカーレ・リモージュ』。
 戦端を切り開いた迷いなき鋭い剣戟を、安寧の旅路を願った優しき鎮魂歌を、ヨナは覚えている。
 しかしベルトルドとヨナから賞賛を向けられた二人は、キョトンと大きな目を一層丸くする。
 特にシリウスは聞き役に徹していたところ、突然会話の主役へと引っ張りあげられたことに戸惑っていた。彼にしては珍しく、わずかばかりの困り顔を表に出して、首を振っている。
「気配り……できているかしら」
 リチェルカーレは自分への評価が正当なものであるか。冷静に考えていた。
「え?」
 零れた自問に、驚き交じりの疑問符が差し込まれる。リチェルカーレは己のパートナーを見た。シリウスは単純に驚いているようだ。
 じわじわと膨れゆく自分の頬を自覚しながらも、リチェルカーレは止めることができない。遂にシリウスは気まずげに視線を逸らした。その反応にリチェルカーレはすねたように唇をとがらせる。
「シリウスの意地悪」
 じわり、じわり。綿毛のように溜まっていく不穏な気配に耐えられなくなったのか、ベルトルドが静々とシリウスの隣に並んだ。
「おい、シリウスだっていつも助けられているだろう」
 声を潜めつつ、助け舟を出す。しかし脇腹を肘でつつかれても、シリウスは心底不思議だ、と言う表情を崩さない。
「……助けられているのは事実だが、『気配り』……?」
 別に冗談を言っている訳ではなさそうだ、と判断したベルトルドはヨナと視線を交わす。ひょいと肩をすくめた黒豹の獣人に、ヨナもシリウスの呟きが聞こえたのか、小さく同様の反応を返してきた。
 一方、シリウスは思案に耽る。
(気配り。リチェの『あれ』はそういうものなんだろうか。もっと自然な、本人の在り方というか……)
 彼の考えが少しでも声に、顔に出ていれば、二人の関係は変わっていただろう。不幸なことに、鉄壁の表情筋と無口さは誤解を生んだままだ。
「ヨナさんたちは仲良しさんで羨ましいです。連携攻撃も、とってもかっこよくて……」
「そうか」
「そうですか」
 リチェルカーレの呟きにベルトルドが目を丸くした。ヨナは淡々と答えたが、相手の反応を見ようと顔を合わせたタイミングが同じで、驚きに少しだけ眉が上がっていた。
(ふふふ。ほら、やっぱり仲良しさんです)
 リチェルカーレの機嫌がふわりと浮かび上がる。
「リチェ」
「シリウス? どうしたの」
 先程まで拗ねていたことが嘘のように、名前を呼ばれてキョトンとリチェルカーレは首をかしげる。
 先導する雨降小僧は静かに道案内役として職務を全うしていた。
 最初こそ、黒い服を纏った浄化師たちを警戒していたが、主であるミズナラへの敬意を忘れず、和気あいあいとした空気を持つ浄化師たちを、臨時の配達人として認めたようだ。
 いつしか道の脇には紙垂がぶら下がり揺れている。
「ここが、鬼さんのいる洞窟なんですね」
「案内をありがとうございました。雨降小僧さん」
 立ち止まった小さな案内人に祓魔人の二人が声をかける。
 前を歩いていた傘がてててと暗い穴の中へと消えて行く。
 彼らの前には、常連縄を掲げた巨大な地下洞穴への入り口が口をあけていた。

●鍾乳洞入り口~鬼~
「おう、小僧。お前の主は元気か?」
 噂の鬼はすぐに見つかった。鍾乳洞の入り口で縮れ毛の巨体が、雨降小僧の頭を乱暴に撫でている。足元には付喪神らしき影が纏わりついていたが、雨降小僧が浄化師たちを指さすや否や、洞窟の暗闇へ逃げこんでしまった。
「こりゃあ珍しい客人を連れてきたな。お前さんはヒューマンだろう?」
 一つ角がリチェルカーレを見て親し気に微笑む。
「こんにちは。ミズナラ様からお手紙を預かってきました」

 親愛の情をこめてリチェルカーレは微笑んだ。
 隣で会釈をするシリウスは、何やら天井に隠れたコウモリたちが自分達に野次馬丸出しの視線を向けていることに気づき、そっとリチェルカーレの姿を自分の身体で隠す。
「もしかして、お前さんたちか? 最近洞窟に来るという人間たちは」
「いいえ」
 鬼の指摘をヨナはきっぱりと否定した。
「実はミズナラ様に頼まれて、洞窟を訪れる人たちについて調べに来ました」
 話を聞いて、鬼は少しだけ驚いた様子だったが、得心がいったようにニカリと牙を剥きだした。
「そりゃあ助かる! あの出無精の代わりに、お前さんたちが知恵を貸してくれるんだな? チビたちもピリピリして困っていたんだ。立ち話も何だ。付いて来てくれ」
 爪の先に提灯を掴むと、鬼はのそりと立ち上がった。

●付喪神の歓迎
「そうか。あんた達が噂の、海を越えてきたという浄化師なのか。使い走りみたいな真似をさせちまって悪かった」
 ――カラカラ。
 巨体の前を白い茶器や徳利たちが横切り、座布団を掲げて戻ってくる。
 食器が洞窟内を颯爽と駆けていく光景は中々に珍妙だ。ミズナラの所と違い、ここの付喪神は元気が有り余っているらしい。いちいち挙動が大きいのだ。
 歩く太鼓や三味線が持ってきた座布団に、ヨナはあくまで見た目は冷静に、内心ではおっかなびっくり腰をおちつけた。隣を見れば、ベルトルドも似たり寄ったりの反応で胡坐をかいている。
 座り方や礼儀もさることながら、嬉しげに尻尾を振るクッションに座る機会など、そうそう無い。
 リチェルカーレは座布団を持ってきた付喪神たちに礼をのべた。彼女の笑顔に魅せられたのか、急須が茶を沸かしながら、デレデレと近づこうとしている。
 シリウスは冷静に、淡々と、容赦なく、感謝の言葉を告げながら急須をリチェルカーレから遠ざけた。
 しかしながら、大半の付喪神たちは鬼の背に隠れていた。チクチクとした何十もの視線が闇から浄化師たちを観察している。
「すまん、個性的なやつが多くてな」
 頭を掻きながら、鬼は足元の徳利をつまみ上げた。ベルトルドに体当たりを目論み、失敗した一体だ。
「気にするな、慣れている」
 愉快な微笑ましさを表情にのせたベルトルドが、空気を読んで話を本筋へと戻した。
「先ずは話を聞かせてほしい。黒服たちを見かけてから、何か変わったことはなかっただろうか」
 鬼は腕を組み自身たっぷりに頷いた。
「特にない」
「!?」
 岩屋内に騒々しい音が満ちた。一大ブーイングである。言葉はなくとも、それは伝わったようだ。
「あるそうだ」
「そのようだな」
 頷いたシリウスの横では、雨降小僧が神妙に頷いている。呆れた気配を漂わせている小さな妖怪に、リチェルカーレは視線の高さを合わせた。
「雨降小僧さんが見たという人たちと、付喪神さんたちが見た人たちは同じ格好でしたか?」
 こくりと傘が肯定し、食器たちもガチャガチャと煩い音をたてて同意した。
「見てもらいたいものがあります。少し待っていてもらえませんか」
 ヨナが立ち上がり、ベルトルドに向かって何かを促した。喰人は得心したように頷き、クラッチバッグから黒い布地を取り出す。
 それは黒の雨合羽だった。
 深くフードを被り、ベルトルドは立ち上がる。その隣に教団の制服を着たヨナが並んだ。
 よく似た二つの黒。怖がらせないよう、リチェルカーレは二人の装束を示しながら穏やかに問いかけた。
「小僧さんが見たのは、どちらに似ていましたか?」
 おずおずと、雨小僧はベルトルドを指した。
 また一体、また一体。雨合羽の足元に付喪神が集まる。
「俺にはさっぱり違いが分からんが……。確か、十字架を手の甲にはめこんだやつもいたんだよな?」
 何気なく付け加えられた鬼の言葉に、浄化師たちに警戒が走った。
 目深にかぶった黒のフード姿、埋め込まれた十字架は『終焉の夜明け団』の特徴だ。断言はできないが、この洞窟で何かしらを企んでいる可能性が高くなった。
 その『何か』が起こる前に到着できたのは僥倖だ。
「で、お仲間かい?」
「恐らく違うでしょう。こちらの予想が正しければ厄介な相手です」
 言葉を選びながらヨナが続けた。
「もしかしたら鍾乳洞の中に罠をはるために訪れていた可能性もあります。調査をしたいのですが、地図はありますか」
「手描きで良ければあるぞ。小僧、持って来てくれ」
「それから、どこで彼らを見かけたのかも、教えて欲し……」
 リチェルカーレが続けようとした、その時だった。
 ――ガチャガチャピィドンドン!
 わたし、みたよ。ぼくもみた。
 あっちだよ。こっちだよ。
 ところで、この服なぁに?
 あなたはなぁに?
 一緒に行こうよ。
 だめだよ。わたしといっしょにいくんだから。
「ひゃっ、あ、あの。動けません……」
 賑やかを通り越してお祭り騒ぎの付喪神たち。
 リチェルカーレに殺到する小物たちを、シリウスが手際よくさばいていく。
 今日一番の騒音に間近で巻き込まれたベルトルドが足元に付喪神を纏わせながら器用に耳を折り畳んだ。
「話を聞くだけで苦労しそうだな」
「ベルトルドさんの声がよく聞こえませんが、別れて調査した方が良さそうですね」
 きりりとした表情のまま、掌で両耳をしっかりと抑えたヨナが頷いた。

●鍾乳洞探索~白い樹氷岩の部屋~
 ヨナとベルトルドは渡された地図にメモ取る。
「私達の話している事自体は分かるのですよね」
 ――コロコロ。
 鈴が答える。
「では、皆さんが不審な影をよく見かける場所に案内してもらえますか」
 コロンコロン。
 揺れるランタンを先頭に、続く群れはまるで百鬼夜行。多くの付喪神たちがヨナとベルトルドを案内する。
 そこは透き通った鍾乳石が垂れ下がる空間だった。乳白色の樹氷のような石灰岩が天や地から縦横無尽に生えている。死角の多いこの場所を手分けして調べて行く。
「こちら側はどうだ」
 ――。
「この辺りは」
 カチカチ。
 音を鳴らしたり、回ったり。無機物相手の会話に慣れてきたヨナが手を翳す。無造作に放られているのは祭りで使われていた小さな神輿だろうか。そこから僅かに感じる小さな魔力の澱み。慎重に解除を施し、ベルトルドは地図に、ヨナはメモ帳に印や雑感を記していく。
 これで異常な魔力を感知したのは三回目。不確かに見えていた魔力の点が何かの線を結ぼうとしている。そんな不気味な予感を感じながら、二人は次の部屋へと向かった。

●鍾乳洞探索~黒い地底湖~
 地底湖へと連れられたリチェルカーレとシリウスは人の痕跡や気配に注意しながら周囲を探っていた。
 簡単な聞き取りから作った見取り図。そこには既に真っ黒になるほどのメモが書かれている。
 リチェルカーレは手書きの五十音表を書き、指で示しながら会話を試みていた。
「この辺りで見失うんですね」
『はい』
『よにん』
 暗い洞窟内に幻想的な灯が浮かんでいる。
 赤や橙色の鬼火、紫や青色の狐火、緑や白の蛍火。
 ランタンの周りに浮かんでは消え、五十音の上に置いた丸いコインを動かすことでリチェルカーレと会話を試みていた。
『ここ』
『よくいる』
 シリウスは鍾乳洞の岩肌に背をつけ、地底湖の全体像把握に努めていた。地下水が溜まっているためか、空気は水を含んでひんやりと冷たい。
 シリウスは真剣な眼差しで意思の疎通を試みているリチェルカーレの様子に目を細めた。
 彼の隣では雨降小僧が不安そうにリチェルカーレと狐火の会話を見守っている。不安そうな傘に手を置くと、シリウスは地面に膝をついて雨降小僧と視線を合わせた。
「安心しろ。お前の主に問題は解決したと報告することだけ考えておけ」
 頭を撫でながら彼が浮かべる柔らかな笑みは、シリウスが見る彼女の顔とよく似ていた。
 おずおずと、雨降小僧がシリウスの袖をつまんで上を向く。
「何かあるのか?」
 雨降小僧につられ、シリウスは剣山のような天井を見上げた。
「あそこに何かある」
「狐火さんたち。あの辺りを明るくできますか?」
 ふわりと浮かんだ狐火が天井近くを照らす。
 天井に隠れるようにあいた穴。その先から黒く塗られた縄梯子が垂れ下がっていた。


●情報共有~捕縛までのカウントダウン~
「これは、書きかけの巨大な魔方陣に見えますね」
「間違いないです」
 互いの情報を共有すれば地図に浮かび上がったのはほぼ完成された円形の魔方陣。六芒星の最後の点が、地図上に空白地点となって抜け落ちている。
「次に相手が向かうのは、この場所しょう」
 偵察に出ている付喪神たちの話では、今日は未だ姿を見せていないという。ならば、チャンスはある。ヨナたちの存在も、魔力の澱みを解除したことも、相手はまだ知らないはずだ。
 油断したところを捕縛する。話はまとまった。狙うは暗闇にまぎれての捕縛だ。
 外に出ていた付喪神たちが慌てて話し合いの最中に飛び込んできた。怪しい人影が上の台地に現れたと騒いでる。
「では、始めよう」
 彼らは静かに行動を開始した。

 外は夕暮れ。しかし陽の光が射しこまぬ鍾乳洞の中は、篝火として壁面に浮かぶ鬼火の明りで薄暗い。
「妖怪どもにも、なめられたものだ。我々の存在に気づいているだろうに、何の対策もしてこないとは」
 人影。目深に下ろされた闇色のフード。埋めこまれた十字架ごと手の甲を振れば、音もなく新たに三体の影が現れる。
「順調なのだから文句を言うな。下手に感づかれて抵抗でもされたらどうする」
 前を歩く男が笑う。
「心配しすぎだ。この調子では陣を完成させたとしても気づくまい」
「仕事は早い方がいい。今日中に完成させるぞ。あれを正攻法で捕縛するのは骨が折れるが、罠にかけてしまえば、こちらが有利だ」
「ついでに拠点としてこの場所を譲り受けようではないか」
「そうだな、薔薇十字教団がニホンでの活動を始めたと聞く。姿を隠す場所が多いにこしたことは無い。教団の犬に冤罪をかければ我等に自由に動けるだろう……む?」
 先頭を歩いていた男が立ち止まった。
「おい、一人足りなくないか?」
「はぁ? そんな訳はないだろう。一本道だぞ」
 フードの男達は口をつぐんだ。
「いや、待て。普段は鬱陶しいほどに付きまとってくる付喪神の姿が見えない。何かがおかしいぞ」
 ――トン!
 思わず立てたその音に、空気が揺れた。
「そこかっ!」
 隠れていた鼓がバランスを崩し、岩陰から転がった。しかし洞窟の暗闇に紛れていたのは侵入者だけではない。反対側の岩陰から飛び出したシリウスが先頭を歩く男を抑えこみ、流れるような動きでベルトルドが後続を無効化していく。
「おいっ、貴様ら! 私たち『終焉の夜明け団』に手を出して無事に済むと思っているのか?」
 気絶をしている内に、付喪神たちが手際よく縄を巻きつけていく。
 目が覚めたのか、衝撃が浅かったのか。声を荒げる団員の前にヨナが進み出た。
 答える代わりに黒い教団服を見せつけてやる。
「ご丁寧にありがとうございます。聞く手間がはぶけました」
 過剰なまでに捕縛された侵入者たちはフクシマ藩へと送られ、事態の深刻さを重く見たミズナラによって念入りに尋問するように申し伝えられた。

●歓待~祭りと酒宴~
「この度は友の窮地を救ってくれたこと、礼を云う。今後、我は汝ら薔薇十字教団に力を貸そう」
「色々と世話になったな。何かあったら俺も力を貸すぜ」
 社の前に鬼とミズナラが並んだ。八百万とその眷属である妖怪たちは、わいわいと、好き勝手に騒いでいる。その騒音からは紛れもない感謝と、賞賛がこめられていた。
「俺たちは友好の為に来たんだ。そこまで堅苦しく考えないでくれ」
 深く頭を下げるミズナラ。隣で強引に頭を押さえつけられている鬼。同情を誘う光景だったのか、ベルトルドとヨナが苦笑しながらフォローにまわる。
「皆さんが無事で本当に良かったです」
「そうだな」
 リチェルカーレの隣でシリウスが頷く。二人の周りでは雨降小僧がはしゃいでいた。
「捕まえた終焉の夜明け団はどうなりますか?」
「恐らく、藩の総力をもって取り調べを受けることになるだろう。場合によってはエドに送られる。我が言うのも何だが、あの鍾乳洞には何も無い。だが夜明け団とやらが何らかの思惑を以て動いていたのは確かだ。それをつきとめねば」
 浄化師たちの気配に鋭さが加わったのを感じたのか、ミズナラは『さて』と明るく仕切り直した。
「せっかくだ。今から一献、どうだ?」
「良かったな。よな、べるとるど。無料酒だぞ!」
「いえ、私は」
「りちぇー、しりうすー」「こっち、こっち!」
「ずるい」「はやいものがち」「じゅんばんにしよう」
 鬼が手招き、狐火が暗闇に文字を描く。
 徳利たちははりきって足並みを揃え、雨降小僧が傘の上で皿を回す。鼓が拍子をとり、炎たちが踊る。
 石畳の上に涼しい夜風が吹いた。季節外れの祭囃子が、夜の社に響いている。


【友好】洞への手紙と黒い影
(執筆:駒米たも GM)



*** 活躍者 ***

  • リチェルカーレ・リモージュ
    わたしにできることは何?
  • シリウス・セイアッド
    …側にいられれば、それだけで。

リチェルカーレ・リモージュ
女性 / 人間 / 陰陽師
シリウス・セイアッド
男性 / ヴァンピール / 断罪者




作戦掲示板

[1] エノク・アゼル 2019/06/04-00:00

ここは、本指令の作戦会議などを行う場だ。
まずは、参加する仲間へ挨拶し、コミュニケーションを取るのが良いだろう。  
 

[12] ヨナ・ミューエ 2019/06/19-22:20

私達も、オケアノス様とのやりとりもありましたし、
基本的には信頼を前提として関わっていきたいです。

ああ、魔力感知は使わないのは勿体ないですね。
洞窟内に魔術的な仕掛けがされていないか、など調べてみます。
調査した情報は共有して、不審者がいそうな場所を予測出来るなら、
そうですね、この人数ですし皆で向かうのが良いと思います。

あとは付喪神たちと上手くやり取り出来ればよいのですが…。
が、頑張ります。  
 

[11] リチェルカーレ・リモージュ 2019/06/19-21:23

出発までもう少しですね。がんばりましょう。
あ、そうですね灯り。わたしたちもランタンを持っていきますね。

ミズナラ様や鬼さんを信用/積極的に聞き取りや調査 という方針でプランに記入しています。
ジェスチャーでお話きいたり、筆談したり、なんとか意思疎通を目指したいです。
ヨナさんたちは魔力の流れとか、そういう方面でも調査されるのでしょうか?
怪しい場所がわかったら、全員で向かうのがよいかもですね。  
 

[10] ヨナ・ミューエ 2019/06/19-02:26

そうですね、隣人愛情は有効に働きそうです。
種は違っても分かり合いたいという気持ちは同じでしょうし。

私もメモ帳を持っていくのを忘れないようにしますね。
シリウスさんに縄を用意して貰えるなら、ベルトルドさんには外套の代わりになるような何か…
ええと、「フード付き雨合羽」が使えそうなのでそれを持って行って貰って、格好の判別をするのに使おうと思います。
それから洞窟の調査があるのでランプなどの明かりも、ですね。  
 

[9] リチェルカーレ・リモージュ 2019/06/18-21:25

雨降小僧さんに同行してもらうとか、地図とかお願いするのいいと思います。
ミズナラ様のところでも、何か教えてくれていましたものね。
いろいろな種族?の人がいますし、たくさんお話して協力をお願いしてみたいです。
あまり使う機会がない、ヒューマンの特技(隣人愛情)を役に立てることができたらと思います。
あ、メモを忘れずに持っていかなくちゃですね。
あと、万が一悪い人の捕縛とかになった時用に縄を持っていくとシリウスが。  
 

[8] ヨナ・ミューエ 2019/06/18-17:36

少なくとも教団員か否か、出会う前に分かっていればあらかじめ用心も出来そうです。
付喪神たちが伝えたい何かも気になるところですね。うまく汲み取れればいいのですが。

メモ帳で筆談も出来そうならやってみたいですよね。
雨降小僧さんが洞窟や周囲に詳しいそうなので、探索に同行して貰えれば、
と考えたんですけど、とても怖がりみたいなのでどうでしょうね。
一緒ではなくても、メモ帳に大雑把な地図を描いて貰えれば探索はしやすそうです。  
 

[7] リチェルカーレ・リモージュ 2019/06/17-22:25

はい、教団員なら制服を見てもらって同じものをきていたかどうか聞けそうです!
どちらでもない可能性も残っていますが、まずは教団員か夜明け団か、確認したいです。
ヨナさんはいろいろ思いついてすごいです。
わたしも何かしていた場所があったら教えて、とか、案内してはお願いしてみたいと思います。
付喪神さんたちは「何かを伝えたい」と思っているそうですから。
その何かをしっかり聞きたいです。ダメ元でメモ帳を持っていって、筆談をできるようにしてみようかしら…。  
 

[6] ヨナ・ミューエ 2019/06/17-17:53

十字架のジェスチャー。あれは確かに終焉の夜明け団の可能性もありそうです。
あまり気にした事は無かったのですけれど、教団の記章も十字架で、同じモチーフなんですね。

終焉の夜明け団メンバーの特徴は黒い外套と十字架。
制服だけ着た人と、マントか何かをかぶった人を並べてみて、付喪神の反応を見てみれば
洞窟を出入りしてるのは何者か、の確信は得られそうですか、ね?

あと聞いてみたいのは
・何人いたか
・同じ場所で見たのか、いろんな場所か
・洞窟内や祭具に細工していなかったか

このあたりです。
他に何か思いつくことがあればどんどん聞いてしまいましょう。
お話を聞いてみないと分からないのですけど、目撃情報が多い場所(いつもこの道を通るとか)
があるならそこに向かってしまうのもいいかもしれませんね。  
 

[5] リチェルカーレ・リモージュ 2019/06/16-20:06

そうですね。まずお手紙を届けて、詳しいお話を聞くの、良いと思います。
鬼さんが元気な様子をお伝えできたらミズナラ様も喜ばれるでしょうし…。
その後、手分けして調べることも了解です。
付喪神さんたちは、わたしもジェスチャーくらいしか思いつきませんでした。
「はい」「いいえ」の質問はいいですね。
簡単なことならわかるかもできません。
後…考えすぎかもですが、OPでの雨降小僧さんの十字架のジェスチャー。シリウスが「終焉の夜明け団」の可能性はないのか、と。彼らは体のどこかに十字架を埋め込んでいるので…。
十字架(の絵とか)と、わたし達の制服。見てもらって「洞窟にいるのはこの模様の持っている?」とか聞いたら、わかるでしょうか。  
 

[4] ヨナ・ミューエ 2019/06/16-16:25

リチェルカーレさんにシリウスさん、今回も宜しくお願いしますね。

出入りするのが地域の人々なら恰好で分るでしょうし、
私達浄化師と似た装束とすると、ニホン支部の教団員かそれとも…。
何にせよ、心配事を解消出来ればと思います。

まずは預かった手紙を洞窟にいる鬼のご友人に届けて、もう少し詳しく話を聞いてから
調査に出向く感じでしょうか?
とても広い洞窟だそうですから手分けして調べる事になりそうですね。

目撃者である付喪神たちはお喋りはできないそうなので、
んん、そうですね…、ぱっと思いつくのは
「はい」「いいえ」で答えられそうな質問にジェスチャーで答えて貰うとか、
怪しい人間をよく見かける場所まで誘導して貰う、などどうでしょうか。  
 

[3] リチェルカーレ・リモージュ 2019/06/15-23:39

リチェルカーレです。パートナーはシリウス。
アライブは陰陽師と断罪者です。
ヨナさん、ベルトルドさん、どうぞよろしくお願いします。

わたし達に似た人間…教団の関係者でしょうか?
ご友人のお家の周りに怪しい人がいてはミズナラ様も心配でしょう。
しっかり調査をして、安心して頂きたいと思います。
付喪神さんたちから、なんとかお話きけないでしょうか…。  
 

[2] ヨナ・ミューエ 2019/06/15-17:02

狂信者ヨナ・ミューエおよび断罪者ベルトルド・レーヴェ。
ひとまず私達だけのようですが、宜しくお願いします。

さて、どこから手をつけましょうか…。