【森国】はじめての、頼みごと
簡単 | すべて
3/8名
【森国】はじめての、頼みごと 情報
担当 米倉ケイ GM
タイプ EX
ジャンル イベント
条件 すべて
難易度 簡単
報酬 少し
相談期間 5 日
公開日 2020-02-27 00:00:00
出発日 2020-03-06 00:00:00
帰還日 2020-03-17



~ プロローグ ~

「だーれかぁー! たぁすけてーーー」

 アルフ聖樹森に浄化師らがちらほらと姿を見せていることは、集落の住人たちにはにわかに知れ渡っている今日日昼下がり。
 のっぽな円柱の小屋のそばを素通りしようとすると、情けない声で誰かが懇願しているのが聴こえる。
 その声をBGMにエレメンツの少女がひとり優雅にお茶をしている。
「エクソシストの皆さんにお話があります」
 話を聞きたいのはこちらである。
 などと、足を止めたがためにお茶に呼ばれてしまった浄化師の心の声はさておき。
 少女は皆の前に立ち、深々と頭を下げた。指先までピシリと制御したその所作からつい目を離せない。
「あらためまして、名をタトルと申します。このたびは急な招集にも関わらず、足を止めていただきありがとうございます。
 私は昨日、オープニングスタッフに採用していただきました。勤務先というのはほかでもない、皆さんの目の前にある……こちらの小屋です。
 この店は今日開店の予定でしたが、私が到着する10分ほど前に店内でどうやら崩落事故があった模様。森大工の手抜き仕事、本棚の崩壊、店長は下敷き。ええ、おおよそそんなところでしょう」
 店内からヨヨヨヨヨと泣き声が聞こえる。
 ざっくりな説明を聞いただけだが哀れだ。
「皆さんにわざわざご足労いただきましたのは、ほかでもない、この店の片付けを手伝っていただきたいのです」
 タトルが入り口の暖簾をサッとくぐり、誘導する。
 のっぽな木の幹の内部をごっそりくり抜いたその高さは森のなかでもなかなかのものだが、なんとその天辺近くまで本棚が作られている。
 が、なぜか棚は螺旋階段のように壁にグルッと沿って本が並ぶようになっている。おそらく上のほうに置いた本が倒れ、ドミノ式に全て倒れてしまったのだろう。
 床に山積みになった本が今回の『ヤマ』だ。
「なお店内の冊子の8割は店長の日記。0.5割が帳簿と事業計画書。あとは資源ゴミと見受けます」
 タトルの言葉に一同が不思議そうな顔をする。
 日記とは。
「……お伝えし忘れておりました。店長の日記というのは、ここの主要商品なのです」
「ボクの秘蔵しょっ……小説は捨てないでくれたまえ!」
 いまサブリミナルに抗議の声がしたあたりの『ヤマ』がもぞもぞ動いている。あの辺りに『店長』……店主が埋まっているのだろう。
「この森では、皆それぞれが自由気ままに暮らしています。ところが店長はふと寂しくなったのです。『独身気ままでマジサイコーなんだけど、あまりにも孤独死予備軍では? と気づいたウン百歳の夜』。と。
 ですので、店長は悩みに悩みぬき、ひとつの答えに至ったのです。『ボクの想いを、読んでもらえばひとりじゃないって気がする!』と。
 つまり、店長の日記とは蔵書……読み物・資料として提供される、『貸本』なのです。
 ……と、この最新の日記に書いてあります」
 タトルは手にしていた一冊の本を閉じる。
「ご興味があれば、ええ。皆さんも。本日はタダで読めます。しかしこんなことで時間の無駄をさせるわけにもいきませんので、私が贈り物を用意させていただきました。経費で」
 タトルはアルバイト初日とは思えぬ主導権をいかんなく発揮しているが、店主の抗議がこれといって聞こえないということはそのあたりは一任したのだろう。店主の日記を置く代わりに、真新しい手帳のようなものを見せた。
「日記というものは本来多くの場合、やすやす人にお見せするものではありません。ですからこちらは本当の意味で個人の物として。鍵つきの、秘匿性を重視した日記帳です。
 差し上げられるのは一冊だけなのですが、鍵は2つまでお渡しできます。パートナーの方と使うか、お一人で管理されるか、あるいは他の用途も。そのあたりは、お任せいたします。
 さまざまな文化を見聞きしたエクソシストの皆さんであれば、きっと上手く使えるでしょう」
 どこまでも淡々とした物言いだが、店に対しても、浄化師に対しても、彼女なりにそれぞれの筋を鑑みた一連の提案となっている。
 バイト初日だというのに、働きすぎではないだろうか。
 すっかり冷めてしまった紅茶に気付き、タトルはティーポットを手に立ち上がった。
「私も、まだ右も左もわからない身ではあります。ーーしかし、本日出勤してしまった以上は、日割りででもお給金をいただかないと」
 こちらに背を向けた彼女の声の強かで、揺るぎないことよ。たとえこの店がこのまま潰れたとしてもなんとかなりそうだと浄化師たちは心配の矛先を変えた。
 災難、もしくは試練と呼ぶべきか。
 この店の命運がどちらに転んでも、この淡白で損得勘定にシビアな少女の困りごとの解決になるのであれば、十分手を貸す理由になるーーかもしれない。


~ 解説 ~

このままお茶を飲んで優雅なティータイムを過ごすか、店主を救い出すか、タトルと協力することを重視するか。
お給料の心配はしなくて問題ありません。


【依頼達成目安について】
本の片付け方が効率的だったり独創的だったりと、工夫されていると進行度がたいへん良くなります。
アクションが「あっという間に片付けます」という表記でも問題ないですが、
「年代順に並べてゆきます」「スピード重視でパートナーと流れ作業をしていきます」など具体的なほうが評価が高いです。
タトルや店長と絡むと「交流」を深めたことになりますし、黙々片付けをしても結果喜ばれます。

パートナーと話をするだけ、アルフ聖樹森の文化に興味があって話をしたい、などなど目的は自由です。
主要行動はひとつに絞っていただくのがオススメです。

なお、効率や計画の完成度は、NPCとの親交には影響致しません。


【アイテム発行】
日記を入手できます。鍵はアイテムとしての発行はできません。
日記の詳細のご指定をお願いします。

アイテム名 : 10文字以内
解説文   : 60文字以内
ステータス : 運営側で固定値を入力します。


~ ゲームマスターより ~

・各プロフは目を通しますので、特に重視する補足があればご指定願います。
・店長の日記読んでも問題ありませんがネタが尽きたらお察しください。

それでは、どうぞよろしくお願いします。





◇◆◇ アクションプラン ◇◆◇

ショーン・ハイド レオノル・ペリエ
男性 / アンデッド / 悪魔祓い 女性 / エレメンツ / 狂信者
…これは、人選ミス、じゃあないよな…?
ぼそりと言ってドクターを見る
俺の独り言に気づいている様子はなさそうだ

とりあえず俺のすべきことは…と
開いている場所はあるな
おい。ここに本の山を移して店長を救出するぞ
ドクター、お手数ですが日付ごとに日記を並べて頂ければと
日付ごとにインデックスを付けて並べていたんだが…
…何か、静かすぎないか…?
声以前に音さえ…と思ったらドクター!
何しているんですか
動いて頂けないのであれば私にも考えがあります!
向こう三日間おやつ抜きです!
嫌なら動いてください!
ちゃんと並べて頂ければ美味しいおやつをちゃんと差し上げます
ドクターに指示しつつ神経を使った上での力仕事…
予想以上に疲れる…
リチェルカーレ・リモージュ シリウス・セイアッド
女性 / 人間 / 陰陽師 男性 / ヴァンピール / 断罪者
素敵な本屋さんだけど…
本の山から聞こえる悲鳴に慌ててそちらへ
大丈夫ですか?今 助けま、す…?
シアちゃんの声に第二弾の本の雪崩に気付く
当たる とぎゅっと目を閉じて衝撃に備えるが、音がするだけで痛みはなく
恐る恐る目を開くと 覆いかぶさるように庇うシリウスの顔

シリウス、大丈夫…!?
何だか疲れたような顔にきょとん
うん、わかった
大変なら言ってね 手伝うから

シアちゃん達と協力して本の整理
日付順にして ストッパーを
ここに日付を書いておいたら分類しやすいかしら?
レオノル先生 頑張って終わらせて皆でお茶にしましょうね

アイテム名:連絡帳
解説文:シリウスがスケジュールを、リチェが日々の振り返りを書いている。
もはや日記ではない。
アリシア・ムーンライト クリストフ・フォンシラー
女性 / 人間 / 陰陽師 男性 / アンデッド / 断罪者
大きな木がそのままお店だなんて、とても素敵、ですね…
私も、こんな所に住んでみたいです

外から見た時のその思いは中の惨状を見て吹っ飛び

た、たいへん…っ
あ、リチェちゃん、あぶなっ

飛び出していった友人を止めようとしてクリスに後ろから抱き留められる

え、あ…
シリウスさん、大丈夫、でしょうか…

わかりました、本の分類、ですね

男性陣が運んでくる本をリチェちゃんやレオノル先生と一緒に
もくもくと日記とその他の物に分けていく

日記は、日付順が、判りやすいですよね
本を並べるときは、途中にストッパーになる物を、固定した方が…
それなら、また崩れても、被害は最小限で済みますし

終わったら、みんなで、お茶しながら読書タイム、ですね


~ リザルトノベル ~

● 波乱の片付け〜序〜
 アルフ聖樹森では見渡すかぎり、ほとんど手付かずの森が広がっている。
 かつて地上の至るところはこのような光景であったのではないか。そう思わせるほどに、樹木の野性のままのありさまは起源的な存在感がある。
 ここに身を寄せるものたちの生き方は、文明で暮らしを切り拓くというより、文明が自然に間借りしているようだ。
 今回呼びこまれた、“店”と呼ばれるものであっても、見た目はまごうことなき樹木。
 慣れない者にとっては、集落の一角とはいえ、案内無しでは木の内部に本屋が構えているのを見つけることは困難だったかもしれない。
「大きな木がそのままお店だなんて、とても素敵、ですね……」
 『アリシア・ムーンライト』は飾らない言葉で感慨をこぼす。幹にそっと触れ、手のひらから伝わる感触に目を伏せる。
 入り口に立つタトルが同感を示すよう、頷く。
「老木を補強したそうです。エクソシストの皆さんにとっても、珍しいものですか?」
「憧れ、というか……。私も、こんな所に住んでみたいです」
「森や植物が好きなアリシアはこう言うの好きそうだよなあ」
 アリシアの感想に、隣にいた『クリストフ・フォンシラー』も納得した。
 が。中の惨状を目にして「でも」、と付け加え。
「中が『コレ』じゃあな」
 店の持ち主は今や本の下敷き。あらゆる意味で夢もはかなく崩れてしまう。
「もしこんな家を手に入れても螺旋階段状の棚は絶対にやめよう」
「新居をご入用の際には棚を改造してお譲りするのもやぶさかではないかと……」
「中古だし安くなる?」
「ボクの店が無くなる前提の話はよしてもらおうか?」
 クリストフとタトルの話が進んでしまわぬうちに、店主も山の下から主張を忘れない。
「冗談です」
 タトルはニコリともしないで、テキパキと道具の準備を始める。
「こちらに組み立て式・高さ調整可能の脚立。こちらが作業用の手袋。それと……」
 人手さえ揃えばあとは準備万端だったのだろう。相変わらず本の山からは「どうせなら最期の晩餐は好物だけ思いっきり食べるんだった……」などと声が漏れ聞こえる。
「た、たいへん……っ」
 アリシアが慌てる一方で、タトルは脚立の組み立てを着々と行う。
 『シリウス・セイアッド』は、いつもの無表情ながらも、声色に困惑を滲ませ思わず問いかけた。
「あれは無視していいものなのか……?」
「問題ありません。本をどかしてしまわないと、店長にも働いていただけないので」
 淡白。そしてあまりにも、事実重視。
 腑に落ちないまでも確かに今は作業が先だろうと、シリウスは皆に手袋を渡すべく店に入る。
 その時。
「大丈夫ですか? 今 助けまーー」
 アリシアと共に店に入った『リチェルカーレ・リモージュ』が、本の山に慌てて駆け寄っていく。
 その頭上に、棚に残った本がまた落下してくるのをシリウスは視界にとらえた。
「……!」
「あ、リチェちゃん、あぶなっ」
(近づくな!)
 言葉にするより先、シリウスはすぐさま反応していた。
「ーーっの 馬鹿!」
 目を瞑る彼女に覆いかぶさる。
 その逼迫した声はリチェルカーレだけに届いていた。

● 波乱の片付け〜その2〜
(落ちて……こない?)
 くると思っていた痛みが無く、リチェルカーレが恐る恐る目を開くと、シリウスの身体の下にいた。気づくや否や、床に突っ張った彼の腕が少し緩んで、互いに支えあいながら座り込んだ。
「シリウス……! 大丈夫?!」
「……っ 怪我は」
 無事を確認しあう。シリウスもほとんど無傷であると分かり安堵した。
 どうして危ないことをーー。八つ当たりに近い衝動をシリウスはなんとか落ち着かせ、深く息を吐く。
「ここは、俺がする。お前はアリシアの方へ行け」
「? うん、わかった」
 疲れた顔をしている彼の様子に、きょとんとして。
「大変なら言ってね。手伝うから」
 どこまでも素直にそう気遣ってくるリチェルカーレには、敵わなそうだ。

 一方、肝を冷やしたのはクリストフも同様だった。
 友人に続いて駆け出そうとしたアリシアをしっかりと抱き締め、引き留めることに成功。
「アリシアにリチェちゃん程の機動力が無くて助かった……」
 ついつい深いため息をこぼしそうになる。
 クリストフの心中を知ってか知らずか。彼の腕に引き寄せられたときアリシアも少し驚いたが、今はシリウスたちの様子が気になっていた。
「シリウスさん、大丈夫、でしょうか……」
 リチェルカーレとのやりとりの後、疲れた顔を見せている友人を心配そうに見つめる。
「たぶん大丈夫だろ」
 クリストフはあえてあっさりと応え、シリウスのもとへと近づく。
 きっと自分以上の気苦労であろう彼をねぎらうように、「お疲れさん」と声をかける。
「……どうして自分から、危ない方に飛び込むんだろう……」
 頭が痛い、とシリウスがぐったりしているのは、決して本がぶつかったせいではない。
 クリストフは励ましの言葉をかけるでもなく、無言で、友人の肩にポンと手を置いた。

● 波乱の片付け〜その3〜
 ……これは、人選ミス、じゃあないよな……?
 『ショーン・ハイド』の予感はもはや確信に近い。
 予感させてる源、『レオノル・ペリエ』をチラリと見る。
「凄い本の山だなぁ」
 のほほんとしたパートナーの声を聞くかぎり、先ほどの独り言が聞こえた心配はないようだ。
 一応、今日は親しい友人たちも一緒だ。これならやる気も出るだろうし、思いのほか捗るかもしれないという淡い期待も無くはない。
 ならば、と。効率よく作業を進めるため、店内を見回す。
(開いている場所はあるな)
 店主の埋まっているあたりは雑然としているため、全員が本の山を運ぶのは非効率的だ。そこから少し離れた壁際にちょうど良いスペースを見つける。
「おい。ここに本の山を移して店長を救出するぞ」
 まずは男性陣に告げる。クリストフ、シリウスが頷いた。
 そしてレオノルをアシリア、リチェルカーレとともに本を運ぶさきに待機してもらうよう促した。
「ドクター、お手数ですが日付ごとに日記を並べて頂ければと」
「ん? 日付ごとに並べるの? 分かった」
 具体的な指示で、レオノルも理解が早い。軽快に頷いてさっそく本を開き、ページの隅に書かれた日付に従い分類を始める。
「古い順だね?」
「はい。そこのスペースに、私たちが本を運びますから」
 この様子ならば心配いらなそうだ。ショーンは安心してシリウス、クリストフと店長を掘り出す作業に取り掛かることができたのだった。
 そう。この時までは……。

 クリストフ、シリウス、ショーンの3人は山から本を運ぶ。
 男手3人となると、こんもりあった本のヤマも驚くほど早く減ってゆく。
 やがて店主の姿が見え、シリウスとクリストフが本の下から引っ張り出す。
 助け起こされた店主は、ヨレヨレになった身なりを整えながら、3人に両手を合わせ頭を下げる。
「とんだ苦労をかけて申し訳ない! いや、でもボクはこのうえなく助かったよ。ありがたいことだが、エクソシストには親切な人が多いのかい」
「俺たちが通り掛からなかったら、自分の日記に埋もれたままだったかもしれないけどね。だいたい何で棚を螺旋階段にしたんだ……」
「そうだねえ。こうすることで、ボクの人生がひとつに繋がってるように見えるから……」
「なんだそれは。せめて途中にブックスタンドでも固定しようよ」
「なるほど。それは名案だね!」
 店主がパチンと指をならす。空腹のようだったが健康に問題はなさそうだ。
 しかしさきほどの惨事もある。
「店長、まだ危ないから。リチェたちのいるところ……あちらに避難していてくれ」
「それも名案だね。恩に着るよ」
 長いまつ毛が目立つウインクひとつ、店主は颯爽と女性陣の輪に加わる。
 すぐさまタトルに領収書を渡され、そのまま慌てて帳簿を探しまわっていた。

 アリシア、リチェルカーレ、レオノルの3人は日記の日付を確認し、並べてゆく。
「本を並べるときは、途中にストッパーになる物を、固定した方が……。それなら、また崩れても、被害は最小限で済みますし」
「ストッパーに日付を書いておいたら分類しやすいかしら?」
「それでしたら、何か接着するものも必要になりますね」
 手を動かしながら、3人寄れば文殊の知恵。
「あれ? レオノル先生……?」
 
 その傍ら、ショーンは本の山の次の作業へ移ろうとしていた。
 日記の分類はかなり進んでいる。
 これを、日付ごとにインデックスを付けて並べて……。
 …………。
 ………………。
 ……………………………………。

 ……何か、静かすぎないか……?

 ぱらり。
『天気、曇り。生暖かい気温。昨夜はカルチャーショックで眠れなかったが今朝のボクはすっかり立ち直っている。朝食のパンと論理的思考はサクッとこんがりしているものだ。アルフ・レイティア長老の美貌の秘密についてボクはいくつかの仮説を立て……』
(む、これは面白いな……)
 ぱらり。
『……と、以上がファンクラブの容態であり、一日千秋の思いの賜物といえるだろう。魔術技術に長老かの人が精通しているのは周知の事実だが、魔術の始祖であるアレイスター・エリファスもまた美丈夫。彼らから秘訣と、その手ほどきを受けることは困難だがいずれは……』
(素晴らしい着眼点……)
 レオノルの集中力は、完全に日記の中身にフォーカス。
 淡々と読みふける彼女を現実に引き戻すのは、ほかでもない。
(ふむふむ。『この成果はいずれニ、三十年のうちに』ということは続きがどこかに……ん?)
 ぱらりーー
 次のページに差し掛かったとき。目で追っていた文字に影が落ち、視界が暗くなる。
 嫌な予感はしたが確かめずにはいられず、そろりと視線を上げると。
「ドクター! 何しているんですか」
「!!」
 ショーンと目が合い思わず日記で顔を隠す。
(すっごく怖い顔してる…!)(ぶるぶる)
 ただでさえ眼光鋭いショーンである。決して付き合いの浅くはない連れ添い相手だが、怖いものは怖いのだ。
 一方のショーンは、日記で隠れようと追撃の手を緩めない。
「動いて頂けないのであれば私にも考えがあります! 向こう三日間、おやつ抜きです!」
「ピエッ!?」
(その脅し効果あるんだ!?)
 まるで小さな子供の世話をやくような応酬。店主が心のなかでツッコミをいれる。
「おやつ抜きはやだー!」
「嫌なら動いてください! ちゃんと並べて頂ければ美味しいおやつをちゃんと差し上げます」
「分かった急いでやるよ……」
 渋々感をいっさい隠せていないが、言うことを聞かないわけにもいかず。
(日付順か……シアちゃんもリチェちゃんもいるし大丈夫かな)
 急ぐとは言ったけれど、中を読むことができなければただの紙の束。なんだかやけに腕が重い。
 日付だけ見ては、並べ。日付だけ見てはとにかく並べ……。
「何かすごく疲れるなぁ……肩凝る……」
「レオノル先生。頑張って終わらせて皆でお茶にしましょうね」
 リチェルカーレの言葉にレオノルはこくりと頷く。
 友人の励ましを受けながら、なんとか止まらず作業を続けた。
 そしてそれ以上に、精神力も体力もすり減らしているのは。
(ドクターに指示しつつ神経を使った上での力仕事……。予想以上に……疲れる)
「……あっちも大変だな」
 ショーンの背に、シリウスはさきほどの己の心境をつい重ねて。
 片付けの采配とレオノルへの指示。ショーンの労力過多という尊い犠牲はあったが、その甲斐あって、着々と棚に日記が収められてゆくのだった。

●ふたつめの頼みごと
「おお……。見違えるようだ」
 数時間後。
 天井まである棚はきれいに日記で埋まっている。
 ストッパーで安定度が増し、ラベルのおかげで日付順になっているとひと目で分かる。店主は腕を組んで、まじまじ見上げている。
「ボクの人生というDNAに機能性が強化付与された……」
「計画性を持たないと、お客さんも困ることがある、ということです」
「アッハハ」
 タトルの指摘に、快哉と笑う店主。誤魔化したというよりは、ハッキリとものを言われて面白がっているようだ。
「さて。みんなありがとう。タトルも含めてね。今日はとても助かった。
 またこの森に来て足を向けてくれる気になったら、いつでも歓迎するよ」
 店主の言葉を区切りに、すっかり片付けてしまうまで、ずっと忙しなく過ごしていたことに気づく。
 一同が、広さを取り戻した店内を改めて見渡してみる。いくつかある幹の割れ目から陽光がさしこんでくる。タトルに声をかけられた時刻から、太陽がちょうど反対あたりまで移動しているようだ。
 アリシアが気持ちよさそうに目を細めたあと、ゆっくりと皆の顔を見回した。
「あの……お茶に、しませんか? ここに来たとき、タトルさんの、お邪魔をしたような……」
「賛成だ。心を潤すご褒美は大事だよね」
 アリシアの言葉にレオノルがうんうんうなずく。
 さきほどのティーポットを再度淹れ直そうとするタトルに、リチェルカーレが寄っていった。
「タトルさん。お手伝いさせてください」
「……はい。では、お願いしても良いですか?」

 お茶会はいつのまにか、店主の日記を読む読書会になっていた。
 書いた張本人はお腹が空いているからと、食事の調達に出かけている。
「さきほどは、本がまだ落下する危険性があると気づかずに。申し訳ありませんでした」
「大丈夫。私はシリウスが助けてくれたから」
 タトルはリチェルカーレの言葉に少し顔を上げるが、クリストフとアリシアにも目を向ける。
「あんな棚のある家、滅多に見ないからな。アリシアの動きはだいたい分かっていたし」
「驚いたけど……。怒っていない、ですから」
「お互いを、大切にされているのですね」
 心なしか、タトルの声がやわらぐ。ふと、シリウスは少し気になっていた疑問をなげかける。
「タトルは店長と仲が良くないのか?」
「嫌っている、ということはありません。……そのように見えますか?」
 あっさりと返され、すこし拍子抜けする。
「店長は私に労働の恩恵を受ける側で、私はお金をいただく身です。ただそれだけではありますが、言葉が増えていくにも、今は仕事を介するほかにない……というのが本心です」
「言葉で埋め尽くすのなら、読んでしまうほうが早いかもしれないよ」
 レオノルは、ご褒美のおやつを片手に持ちながら、店主の日記を差し出して見せる。
「ドクター。食べるか、読むかどちらかです」
「今のは違うのに……」
 ショーンとレオノルのやりとりに、くすり、とタトルが笑みをこぼす。
「店長はなんでも日記にぶつけてしまうようなので。皆さんのことも書いてしまうかもしれませんよ?」

 すこし建て付けの悪いテーブルに寄り集まって歓談にふける。物入れの奥にしまわれていた客人用のティーセットは思いのほか紅茶の色が映えるものだった。
 店主がすこし離れた場所から見た店先の光景は、今まであったものにすこし変化があっただけなのに。これまで一度も見たことのないものだ。
「……これは長くなってしまうかな」
 真新しい日記を開いて、立ったままペンを走らせる。
『春も近づく気配をみせる、昼下がり。ボクたちは浄化師(エクソシスト)と呼ばれる青年たちに出逢うーー』


【森国】はじめての、頼みごと
(執筆:米倉ケイ GM)



*** 活躍者 ***

  • ショーン・ハイド
    生きる為。ただそれだけの為ですよ
  • レオノル・ペリエ
    君が誰であっても私には関係ないよ

ショーン・ハイド
男性 / アンデッド / 悪魔祓い
レオノル・ペリエ
女性 / エレメンツ / 狂信者




作戦掲示板

[1] エノク・アゼル 2020/02/27-00:00

ここは、本指令の作戦会議などを行う場だ。
まずは、参加する仲間へ挨拶し、コミュニケーションを取るのが良いだろう。  
 

[4] レオノル・ペリエ 2020/03/04-19:57

 
 

[3] アリシア・ムーンライト 2020/03/04-02:20

 
 

[2] リチェルカーレ・リモージュ 2020/03/03-23:29