桃山・令花の1日
普通 | すべて
1/1名
桃山・令花の1日 情報
担当 桂木京介 GM
タイプ シチュエーションノベル
ジャンル 日常
条件 すべて
難易度 普通
報酬 通常
相談期間 0 日
公開日 2021-11-13 00:00:00
出発日 0000-00-00 00:00:00
帰還日 2021-11-13



~ プロローグ ~

※イベントシチュエーションノベル発注のため、なし。


~ 解説 ~

※イベントシチュエーションノベル発注のため、なし。


~ ゲームマスターより ~

※イベントシチュエーションノベル発注のため、なし。





◇◆◇ アクションプラン ◇◆◇

桃山・令花 桃山・和樹
女性 / 人間 / 占星術師 男性 / アンデッド / 墓守
メフィスト様に随行しての異世界間交渉を終えて帰宅する令花は珍しく浮かない顔

心配する和樹と叶花に、令花はその日の出来事を話す

協議相手の勇者候補生タスク・ジムが最近起きている種族分断に心を痛めていること
その協議の直近に実際にそれを目の当たりにする出来事(【泡麗】始動編)がありショックが大きいこと
何か打つ手はないか、しかし自分に何ができるのかと悩んでいること
彼を何とか元気づけたいと令花は思う

和樹は
異種族の一団は殺す気ではなく手柄を奪い自分達の威を示すための妨害
それはスポーツに似てないか?
俺なら敵チームも一緒に楽しみたい
スポーツは競いながら楽しむ目的は一緒
学園と彼等だって平和を守る目的は一緒だろ、と


~ リザルトノベル ~

 沈みゆく太陽はまるでブラッドオレンジ、朱(あか)というには黄色すぎ、橙(だいだい)というには赤すぎた。
 陽を背負う『桃山・令花』の影はすうっと長い。
 視線で影を追いながら、令花は機械的に左右の足を前に進めていた。やや前傾姿勢だ。意思をもつのは令花ではなく影で、彼女は影にひきずられているかのようだった。
 まなざしも安定しない。令花が見ているのは足元ではないからだ。
 耳に聞いているのも、暮れる街のざわめきではなかった。
《困ったことになっています》
 四半時ほど前に彼女が聞いた言葉だ。声の主は『タスク・ジム』、令花とは不思議な因縁で結ばれた少年である。
 タスクのいる世界は令花の世界とは異なる。ここでいう『世界』は比喩ではない。物理法則すら異なる文字通りの異世界だ。科学のレベルは中世なみで、内燃機関すら実用化されていない。政体も王制や部族制が主流である。しかし魔法の存在はこちらの世界を圧倒的に上まわっており、天変地異すら発生させられる規模だ。秩序も渾沌も魔力の多寡が左右するという。ドラゴンや妖精(エリアル)、その他想像もつかないような幻想生物も当然のように存在している。令花の好むファンタジー小説のような世界といえよう。
 タスクは令花にとって、ある種の鏡像のような存在だ。生い立ちはもちろん年齢も性別も異なるが、令花は彼に強い共感をおぼえている。
 タスクは、令花が書いているファンタジー小説の主人公そっくりだった。令花が考えそうなことを考え、令花であれば言うであろうことを口にする。もしかしたらタスクは、自分の創造物ではないのかとすら思ったこともあった。
 けれどおなじことはタスクにも言えるのではないか。令花は考える。タスクが夜ごとに見る夢、目覚めとともに蜃気楼のように消えてしまう物語の主人公は自分なのかもしれないと。
 それだけに、彼の語る言葉は令花の胸に切実に伝わった。
《対魔王陣営……つまり僕たちのあいだで内紛が発生しているんです》
 この世界と彼の世界をつなぐポイントは特異点と呼ばれている。特異点をつらぬく手鏡を通し、タスクは令花にうちあけたのである。
 タスクの世界を闇で支配せんとする勢力を魔王軍という。現在魔王軍は複数の勢力に分裂しているらしい。しかし、同様の事態は対魔王陣営にもあてはまる。
 泡麗(ローレライ)、天遣(アークライト)と呼ばれるふたつの同盟勢力が最近、タスク属する魔法学園フトゥールム・スクエアの主導に異を唱え、あろうことか学園に対し妨害工作を開始するようになった。つい先日も、学園の受けた依頼に泡麗族のグループが介入するという事件があったばかりだという。介入の場にはタスクも居合わせた。相当なショックだったらしい。
 魔王軍は少しずつ、着実に力をたくわえている。幹部らしき存在も顔を見せるようになった。無益な主導権争いをしている場合ではない。だというのに傍観しているしかない自身を、タスクは歯がゆく感じているのだ。
《……すみません、愚痴っぽくなってしまって》
 タスクの言葉に苦渋がにじんでいる。
 うちあけてくれたことを感謝しこそすれ、迷惑とは令花は思わなかった。できるなら協力したいとすら願った。
 しかし、令花が自分の気持ちを言葉にしようとしたところで、
「はい今日はここまででーす。ごめんなさいねー」
 両世界の仲介者『メフィスト』の宣言とともに、ふたりの交信はぶつりと終了したのである。タスクの世界とはまた別の、未知の世界と混線しそうになったためだという。
 そのときがきたら連絡しますよー、と特徴的な口ひげをひねりつつメフィストは請け負ってくれたものの、次回またタスクと話せるのは、いつになるか予測もつかないらしい。

 令花は教団施設を後にして帰路を歩いている。
 影にひきずられているように感じるのも仕方ないだろう。令花はまだ、心をあの手鏡の前に残したままだったから。
 なので左右からステレオで、
「ねーちゃんってば!」
「ママー!」  
 同時に大きな声をだされ叶花は飛び上がった。だしぬけに意識をつかまれ成層圏まで引っ張り上げられたみたいだ。
「え!? な、なに!?」
「やっぱ聞いてなかったなー」
 明るい煉瓦色の前髪を手で直しながら、『桃山・和樹』はあきれたような口調で言う。
「オレら何度も呼びかけてたんだぞ」
 和樹は教団の制服姿、そろそろ寒い季節だが詰め襟は開いている。
「ママぼんやりしてたの~」
 人化した魔導書『叶花』が言う。人形のように愛らしい幼子で、鈴を転がすような声をしていた。大きな瞳で令花を見上げている。無視されたと怒ってもよさそうなものだが、叶花はむしろ心配そうに、
「もしかしてママ、おなやみあった?」
 と眉を曇らせた。
「……さすがね」
 令花は口元をほころばせた。
 叶花にはお見通しだったらしい。

 近くの公園に場所を移した。
 公園は無人だ。ジャングルジムにも遊ぶ子の姿はなく、滑り台のぴかぴかした表面も、冷えて久しいように見えた。
 乾いた落葉を踏みしだき、片隅のベンチに腰を下ろす。
 座ったとたん令花の膝に、ひらりとイチョウの葉が舞い降りてきた。きれいな扇形だ。べっ甲のような黄金色をしている。
「きれい!」
 と言う叶花にどうぞとイチョウを手渡して、令花は今日あったことを語った。
「さっきまで、メフィスト様に随行して異世界間通信をしていたの。『鏡』を通して」
 タスクが種族間の断絶に悩んでいると知ったこと、彼の悩みを自分の悩みのように感じていることもすべて明かした。
「そうか……」
 難題だな、と和樹は腕組みする。
 羊を守るシェパード犬のように、姉にかかわる男には自動的に敵意を抱いてしまう和樹だが、タスクに対してだけは例外的にそのような感情はなかった。そればかりか彼には、令花に通底する親しみすら感じている。理由はわからないのだが、ときとしてタスクを姉と錯覚してしまうほどに。
「無意味に対抗心を剥き出しにしてくる連中ってことか。だいたい、こっちの世界にもそんなやつはいっぱいるからなあ」
「みんななかよし、どうしてできないの?」
 当然といえば当然な叶花の問いかけに、浮かぬ顔で令花はこたえる。
「そうね、争う必要なんてないのに」
「争う……か」
 和樹は唇に指をあて、しばし考えこむように秋空を見上げた。令花の言葉にヒントを見出したらしい。
「どうしたの?」
 弟は姉に向き直る。
「ローレライと、アークライト……だったか? ふたつの種族集団はなにも、フトゥールム・スクエアと殺し合いたいってわけじゃないんだよな?」
「ええ。あくまで敵は魔王軍よ。学園としては不本意なことながら、二種族の代表はどちらも、フトゥールム・スクエアを競争相手とみなしているようね」
「オレさ、スポーツ好きなんだ。特にバスケな」
「パパはバスケットボールが大好き!」
 叶花が嬉しそうに合いの手を入れる。
 どうしたの急に? と、令花は怪訝な顔をする。
「というか、何を今さらって話じゃない?」
 和樹は下手をすれば三度の食事よりスポーツを好むタイプの少年だ。ひとたび没し、アンデッドの身となりよみがえってからも変わらない。むしろ『生前』より拍車がかかったといっていい。自他共に認めるスポーツ馬鹿なのである。馬鹿は死ななきゃ治らないと俗に言うけどな――和樹はよく言っていたものだ――オレのスポーツ馬鹿は、死んでも治らなかったってことだな。
「まあ最後まで聞いてくれ。そんなオレがふと思ったんだ」
「何を?」
「スポーツに似てないか? ってな」
 つまりだ、と和樹はまず右手を上げる。
「二種族はどっちも、学園を妨害しようとしてる。でも殺し合う気はなくて、学園の手柄を奪って自分たちの威を示そうってだけなんだろ? だから堂々と宣言してから仕掛けてきたってわけだ」
 今度は左手を上げた。
「つまり、これは戦争じゃない。ルールのある競い合いだ。それって……」
「スポーツに似てないか? ってことね」
「そういうこと!」
 左右の手をパンと合わせ和樹は笑った。
「さすがオレの姉ちゃんだ。話が早い」
「わかったっ」
 叶花もバンザイするように両手を上げた。
「それって、かけっことか、玉入れみたいな。楽しい競技っていう感じだね!?」
 叶花の頭に和樹は手をおく。
「叶花もさすがだな。しかもいいヒントをくれた。オレも『楽しい』ってのがキーワードだと思う。スポーツだと考えりゃ、たとえ一時火花を散らすことはあっても、殺し合うよかずっといい。オレがバスケやるのも究極的にはそこに理由があるんだよな。どうせなら、敵チームとだって楽しみたい。敵味方なんて関係ない。スポーツってのは楽しむためにやるもんだろ? 同じさ」
 だってそうじゃないか、と和樹は言うのだ。
「学園と彼らだって、平和を守るという目的は一緒のはずなんだから」
 和樹の考えを、お花畑だと嘲う人もいるかもしれない。
 ただの理想論だと非難する人も。
 でも令花は胸を打たれた。
 戦争と競い合いをわかつものを、見出すことができたから。
「たしかに、これまで私たち教団だって、たくさんの対立を乗り越えてきた。もちろん戦うこともあったけど、話し合いで合意したことだってあったよね。だからわかる……目的さえ同じなら戦いは避けられるはず」
 令花は立ち上がっていた。体が勝手に、内側から突き動かされるようにして。
「学園、ローレライ、アークライトこの三つ巴の競い合いだって、一緒に楽しめばいいじゃない!」
 雨降って地固まるのたとえもあるよね、と令花は歌うように言うのである。
「競い合いが、三勢力の融和とさらなる団結につながる可能性だってあるはずよ。私はそれを望みたい!」
 雲間が割れ光が射しこんできたような気持ちだ。
 この気付きがある限り、令花は……タスクは、きっと絶望しないだろう。
 このとき一陣の風が吹き、令花の足元から、あるいは和樹の背後から、叶花の目の前から、無数のイチョウを舞い上がらせた。
 吹き上がった葉にあらたな落葉がくわわって、黄金(きん)の吹雪のように降りそそぐ。
「わあー!」
 期せずして生じた光景に、叶花はくるくると回転して喜びを表現した。
「これって、きっとうまくいくってしるしだよ!」
 ええ、とうなずくと令花は弟に言う。
「ありがとう和樹。私、今度タスクさんと交信できたとき、今日の想いを伝える」
 その弟は、照れくさげに鼻の頭をかいた。
「オレはヒントを出しただけ、きっかけをくれたのは叶花だし、結論を出したのは姉ちゃんだよ」
 そういえば、と令花は言った。
「タスクさんには幼い妹がいるそうよ」
「何歳くらいの?」
「ちょうど、叶花とおなじくらいの」
 えっ、とさっそく叶花は興味をひかれたらしく、おしえておしえてと令花にせがんだ。
「どんな子?」
「それは会ってのお楽しみ、ってのはどうかしら?」
 ふふっと令花は、いたずらっぽい笑みを浮かべた。
「今度メフィスト様から、あの世界につながったと連絡が入ったら、きっと叶花も、もちろん和樹も連れて行くよ。そしてタスクさんには妹さんを紹介してもらおう」
「マジ?」
 とのばした和樹の手と、
「やくそくだよっ」
 とのばした叶花の手、その両方を握って、
「もちろん。約束よ」
 とほほえむ叶花の頭には、一枚のイチョウの葉が乗っている。



桃山・令花の1日
(執筆:桂木京介 GM)



*** 活躍者 ***


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