~ プロローグ ~ |
教皇国家アークソサエティ内ブリテンにある毒花の森。 |
~ 解説 ~ |
森の一部に毒花が群生しているため、森に立ち入り何らかの活動をする際には、その毒気を吸わないように息を止めたり毒花がない地帯に定期的に移動する必要がある。 |
~ ゲームマスターより ~ |
ロケーション自体にリスクが設定されているような地域の設定があったため、そのリスクを探索・バトルの緊張感UPのための要素にして組み上げました。 |
◇◆◇ アクションプラン ◇◆◇ |
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・目的 討伐、遺品回収 ・作戦、索敵 襲撃された場所を目下の目的地として移動・索敵。 カティス 斥候及び囮として、瘴気の濃さや敵影に注意しながらゆっくり進む。 敵出現時、そこが毒花の群生地であれば目印を頼りに素早く後退し安全地帯へ移動。 射手が敵に狙いを定め易い様に、自分は防御に徹し出来るだけ動かない事で、敵の動きをパターン化出来たら良いと思う。 ベルクリス 前衛を視認出来る距離を保ちつつ、気配を抑えて進む。 戦闘時も身を隠しながら敵を狙撃(DE1)。 ・準備 瘴気対策 大きめのハンカチで鼻と口を覆う 安全地帯 布(シアン・オレンジ)とピンを幾つか準備。 目的地付近で木に貼り付け(もしくはナイフで傷を付け)目印にしたい。 |
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◆対毒(共通項 森へ入る前に毒を少しでも多くは吸わない様に大判のハンカチを使い、鼻と口を覆う様に巻きつける 両手を空く様にしておく 呼吸は最低限で行う ◆索敵 仲間と固まり動く 主に頭上の警戒を怠らず進む ローザは発見した地形情報やルートついて記憶しておく ◆危険地帯での会敵時 発見した安全地帯又は森の外へ誘導 ◆戦闘 ・ローザ あまり孤立しない様気を付けつつ、木の陰に隠れる様にし攻撃を行う 敵とは中距離を保ちたい 敵が擬態して隠れた場合は、DE2でのマーカー情報を皆に伝える 敵が空中に居る場合は動きを良く観察し、敵が地上付近へ降りてくる予備動作が無いか見極める もし予備動作を見極める事が出来たら、即座に皆へ情報共有を行おう |
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【共通】 毒はハンカチで口を抑え対処 探索中は固まって移動 敵発見後魔術真名詠唱(手を繋ぐ) 【祓】 トールの前に位置し、周囲を警戒しつつ襲撃地点を目指す 到着したら短剣で木に×印、近くに安全地帯があれば=印を刻み目印に 戦闘では、敵の目の前に出て気を引き誘導 釣れたら即座に安全地帯に後退、を繰り返す 周囲の地形を観察して、悪魔祓いの射線が通りやすいように立ち回りを心がける 【喰】 事前に冒険者達に毒花の特徴、襲撃を受けた地点と道のり、その周辺に安全地帯があるかを聞く 聞いたことは皆に共有 リコの後ろについて移動 いつでも撃てるようにしておく 安全地帯の木陰に潜み、敵を狙撃 潜む前に敵が来たら、森の出口方面に向かって逃げ撃ち |
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~ リザルトノベル ~ |
栄華を極めているように見える教皇国家アークソサエティ内にも、脅威が存在する。ここブリテンにある毒花の森も、そのうちの一箇所だ。 致死性の毒の瘴気を放つ毒花の危険は古の昔より語り継がれてきたことではあるが、昨今、この森の危険はそれだけに止まらない。 つい先日、とうとうベリアルらしき怪物の目撃情報が寄せられ、犠牲者を出す事態となった。唯一、ベリアルを滅することができる存在、エクソシストが集う『薔薇十字教団』にこの地のベリアルの探索と排除が命じられ、志願した三組のペアでパーティーが組織された。 派遣された三組のうち、エレメンツの魔性憑きの少女、リコリス・ラディアータと人間の悪魔祓いの青年、トール・フォルクスのペアは、冒険前の情報収集の大切さを訴え、それを聞き入れる形で、エクソシスト一行は、森の目前に疎らにある冒険者の詰所にいる冒険者から森についての聞き込みを開始した。 「リコは少し休んでいてくれ。俺が情報収集してくる。足を踏み入れたこともないところでベリアルとドンパチになるかも知れない。土地を知るのは冒険者の基本だ。基本を怠るようでは大切な人も守れない」 元・冒険者で、今度の事件の犠牲者にも同情を寄せているトールは言った。 相方のリコリスは、小さく黙って頷く。トールが時折見せる、こんなヒロイックな発言をどこか冷ややかに見ているが、当のトールはリコリスを守りきるということに強烈な使命感を持っていた。おそらく、過去ヨハネの使徒の襲撃で命を落とした相棒のことが胸にあるに違いない。 「俺も行くぞ」 痩せた顔に無精髭を生やし、額に二本のツノが生えた半鬼のジャック・ヘイリーがトールに声をかける。赤い瞳が鈍く光り、人相がすこぶる悪い。 「貴方は行かないほうがいい、ヘイリー。その人相じゃ冒険者に怖がられるだけだ」 ジャックのパートナー、ブルーの瞳と髪色がクールな印象を与えるヴァンピールのローザ・スターリナが声をかける。女性だが少し中性的な話し方と同様、立ち居振る舞いもどこか「王子様」然としている。 「ガキが偉そうに。気に入らねぇ」 パートナーではあるものの、初対面の時から気にくわないローザの言葉にジャックは毒づく。 「まぁ、そんな無駄なことで揉めても仕方がないだろう。ここは元冒険者に任せようじゃないか」 どこか力の抜けた虚ろな印象を与える銀色の短髪に顔色の良くない、一目でアンデッドとわかるカティス・ロウという男が、二人をなだめるように会話に入る。カティスの顔にある大小いくつかの傷が痛々しい印象を与える。それは全身に広がっており、それは彼が死亡した原因であるベリアルに襲われた時の傷だ。 「では、おじ様、情報収集はトールさんにお任せして、私たちもここで待ちましょう」 カティスのパートナーであるベルクリス・デジボワがカティスに声をかける。カティスの親友である豪商、ゴードン・デジボワが遅くにもうけて溺愛する令嬢だ。お嬢様然とした雰囲気で、綺麗な金髪の前髪をまっすぐ短く切っている。父の親友として、かつて同居していたカティスへの恋心から彼のパートナーとなるべく危険なエクソシストの道に足を踏み入れた少女だが、カティスとしてはベルクリスのことが気が気ではない。なぜなら彼は、『カティス・ロウと組んだものは死ぬ』という噂されるほど、過去に何人も相棒を失ってきたのだ。 しばらくしてトールが詰所から帰ってくるのが見えた。 「どうでした?」 相棒のリコリスが声をかける。 「あぁ、先日の事件で犠牲になった冒険者の仲間がまだ一人駐留していたので、彼から色々と聞けたよ」 トールは生き残りの冒険者から聞いた話をみんなに伝えたが、それは次のようなものだった。 まず毒花だが、群生しているエリアと生えていないエリアがまばらにあり、毒の瘴気は毒花が生えていないところではほとんど発生していないという。 ソードラプター型のベリアルと思しき生物は少なくとも三体は存在する。鳴き声は発せず、近づくとその大きな羽根の空気を斬る音がする。 擬態をするようだが、索敵に役立つスキルを持っている者がパーティーにいる場合は、見破ることはできるだろうし、ベリアル特有の身体から出た気味の悪い触手はどうやら隠せないようだ。 「ありがたい。これだけ情報がわかればかなり有利にことが運べる」 ジャックが強面を崩して余裕の笑みを浮かべる。 「その余裕が足を引っ張ることにならなければいいがな」 ローザが相方の余裕に釘を刺すように言う。 「この、ガキが。自信がないならエクソシストなんて辞めろ。ベリアルやヨハネの使徒とやりあうにはそれなりに覚悟も度胸も必要なんだ!」 「まぁ、情報も手に入ったことだし、そろそろ森に入らないか? あ、ベルはあまり私から離れてはいけないよ」 カティスが静かに淡々とたしなめる。 「また、おじ様ったら。私になにかあったらお父様に申し訳ないって言うんでしょう? 大丈夫ですわ。わたくしは歴代最強のおじ様のパートナーなんですもの」 一行はまだまばらに住居が残る街道を奥地へと進んでゆき、いよいよ毒花の森というところで揃って用意しておいた大きなハンカチを三角にたたんでマスクにし、口に装着する。毒花の群生地に長く留まるには何の効果もないが、短時間であれば毒花の瘴気を吸い込むのを防げる。 森は進むにつれて時間の概念が薄れるほど薄暗く、鬱蒼と草木が生い茂り、太古の昔のこの星の様子を彷彿とさせる。 「私が先頭に行く」 冷静な表情で周囲に視線を配りながら、リコリスが隊列の先頭にたつ。 「私が毒花の群生具合や地形を記憶しておこう。ベリアルが現れたら、できるだけ有利な地形、ポイントに移動しよう」 ローザが周囲に目を配り、つぶさに地形を記憶していく。一行はできるだけ団子状態になって昼なお暗い森へさらに分け入っていった。 「ここに誘導できれば毒花の瘴気も少ないですわね」 ベルクリスが木に短剣で大きな×印を刻み、安全地帯を示す目印にする。 「ベル、ちゃんとマスクはしているのか?」 「おじ様、心配しないで。さぁ、もう少し奥に行きましょう」 ベルクリスのことが心配でならないカティスの気持ちをよそに、ベルクリス本人の目は根拠のない自信で満ち溢れていた。 一行は毒花がひときわ群生しているポイントに差し掛かる。早めに抜けたい想いから自然と足を早める一行は、上空からゴーッという異音を聞いた。 「おいでなすったか? リコ、大丈夫か? いよいよ近いぞ!」 トールがリコリスを庇って叫ぶ。 「私は大丈夫です!」 あまり感情を入れず淡々と応えるリコリス。 一行は上を見上げる。鬱蒼とした森の木々に遮られ、空は全く見えない。が、一瞬、羽根を広げ、滑空する物陰が皆の視界を横切る。形は一般的なソードラプターと大差ないが、大きく違うのはその身体から長短いろいろな長さの触手が気味悪く蠢いているのが見える。 「一匹だけか? 報告では少なくとも三匹いるはずだが」 ジャックが上空の一匹を目で追いながら同時に周囲も見渡す。 「いずれにしろ、ここではまずい!」 ローザが足元に立ち込める毒花の瘴気を見つめて言う。 一瞬、一行は上空のベリアルを見失った。と、同時に風を斬るような音がすごい勢いで大きくなる。 「来る! ベル、走りなさい!」 「お、おじ様!」 ベルクリスを半ば抱きかかえるようにカティスが走り出し、ベルクリスが先ほど安全地帯を示す×印を刻んだ木を目指す。それを見た他のメンバーも同じところを目指し、走り出した。 いよいよ風切り音が一行の頭上、すぐ近くまで迫って来る。一行は目指す目印の木の手前で、ほぼ同時に倒れ込み、地面に伏せる。幸いにもパーティーメンバー各々の視界の範囲には毒花は一本も生えていない。 皆が倒れ込んだ瞬間、間一髪、裏側が鋭い刃物になっている羽根を目一杯に広げたソードラプター型ベリアルが皆の頭上を掠めるように滑空していく。 「よし、ここで応戦しよう!」 ベリアルが一旦、飛び去ったのを確認すると、トールが鮮やかな朱色の髪を揺らし、立ち上がる。トールの言葉を合図にしたかのようにリコリスがトールの前に躍り出て、ベリアルの注意を引くように、数回、手持ちの短剣を空に向けて振りかざす。敵を釣り出そうと言うのだ。 「リコ、無理はするな!」 「無理なんてしてないわ!」 トールの方を見ず、冷静で鋭い口ぶりでリコリスが返す。思惑通り、リコリスをめがけるようにベリアルが降下してくる。トールはリコリスの背後でボウガンを構え、一矢放つ。 ベリアルが急に進路を変え、同時に羽根が数十枚、ひらひらと空中に舞う。トールの矢は当たりはしたが羽根の先のようだ。致命傷にはならなかったが、敵は態勢を立て直すため、一旦飛び去り上空で旋回をした。 「よし、今のうちに詠唱を……」 リコリスは咄嗟にトールに駆け寄ると、その手を取り指を組む。リコリスが口の中で小さく魔術真名を詠じると繋いだ手を中心に魔力の奔流が迸り、身体中を巡るのが感じられる。二人は手をほどき、敵の次の襲撃に備える。 「飛んでるやつは、ひとまずあの二人に任せよう。他がまだ絶対にこの辺りにいるはずだ。毒花の多いポイントで奇襲を食らっては敵わない。まずは潜んでいるやつを捜そう」 ローザがアイスブルーの鮮やかな瞳を左右に動かしながら、そう言った刹那、ガサッと生い茂る木の葉が揺れ、一瞬黒い影が見えたかと思うとすぐ視界から消えた。 「ちっ、うまいこと隠れやがった!」 ジャックが毒づく。 「問題はない。私が探し当てる!」 ローザがそれを遮るように低く小さく呟く。 ボウガンを構えるローザの視界に魔術的な光るスコープが浮かんでいる。少し離れた木の幹にそのスコープの照準を合わせると、ローザの視界で固定化された。ローザが木に擬態したベリアルを発見したのだ。触手はうまく隠せないのか、よく見ると木の幹に絡まる蔦のように見えるものは間違いなくベリアルの触手だった。素早く空を飛び、おまけに身を隠すのがうまい敵に翻弄され、二人で固まって身構えているベルクリス&カティス組と比較的に近い位置にいる。 「そこの二人、一旦隠れろ! そこにいるぞ!」 ローザの声と指差す方向に気づき、カティスはベルクリスに覆い被さるように庇いながら十数メートル先に生える大木の苔むす幹の陰に走りこみ、身を隠した。 「なるほど、そこか!」 ジャックが手に持つウッドアックスの柄をぎゅっと握り直し、ローザの指の先にある木を見つめる。 「だが、毒花のかたまりに近すぎる!」 ローザが鋭く叫ぶ。敵のポイントは毒花がかたまって咲いている一帯に近く、毒花の瘴気が流れ込んでいた。闇雲に接敵するのは危険かもしれない。 「釣り出してやる!」 ジャックはターゲットの木に向かって走りながら『クラッシュスイング』を唱える。ジャックのウッドアックスが一瞬、力を纏ったかと思うと柄を握る手にも魔術の力がみなぎり、ジャックは半ば飛びかかるようにベリアルが擬態して潜む木にアックスを振った。 「グギャア!」 それまで鳴き声ひとつあげなかったベリアルが短く苦痛の叫びをあげる。黒い羽根が飛び散り、触手が何本か千切れ、地面に落ち、気味悪くうねる。 渾身の『クラッシュスイング』を放ったジャックは、少し態勢の立て直しに時間を要した。その一瞬をついてジャックの目前を黒い一閃がよぎる。と、同時にジャックは右肩に激痛を感じる。ジャックの繰り出した一撃で、飛ぶ能力を奪われた敵が、接近戦を挑んできたのだ。ジャックが自身の身体の傷を確認する。羽根の裏側の鋭い刃でやられたもののようで、出血は多いが何とかウッドアックスは使えそうだ。しかし問題は毒だ。ひとまず安全地帯までこいつを引っ張り出さなければ。 そう思ったジャックの目前に立ちふさがる大きな漆黒の影。形こそソードラプターだが、ジャックがそれ以上の大きさがあり、燃えるような紅い目が真っ黒な姿にひときわ目立って浮いていた。 「策なしで闇雲に突っ込むなと言っているだろう、このオッサン!」 吐き捨てるようにローザが言いながらボウガンを放つ。『リンクマーカー』によってより精密に放たれた矢は、ベリアルの右目を貫く。ベリアルはもう一度短く叫び、目に矢を突き立てながら、頭を狂ったように左右に振る。そのすきにジャックは安全地帯まで走り戻る。毒花の瘴気を少しだけ吸ってしまい、少し咳き込む。 「へっ! ここまで釣って来なけりゃ、埒が明かないだろうが!」 言いながらジャックは毒花の生えていないポイントまで戻り、近くに立っている木の陰に退避する。ローザもその隣の木に身を潜めながらボウガンを構える。『リンクマーカー』の効力でことごとく敵の身体には命中するが、敵は痛手にも関わらずどんどん接近してくる。燃えるような目で、飛ぶ能力を失った羽根を武器として、ブンブンと振り回しながら間合いを詰めるので、迂闊に応戦すればあの刃の餌食だ。 「しぶとい! 喰らえ!」 ローザの放った次の矢は『リンクマーカー』の効力を受け、的確に左目に命中する。両目に矢を突き立てたまま、敵は狂ったように身体をよじり悶絶する。 「ガキ、これは褒めてやるぞ。この隙にもう一回叩き込んでやる!」 ジャックはもう一度、口の中で『クラッシュスイング』を唱えながら隠れていた木陰から躍り出て、目の痛みにいまだ悶絶しているベリアルの脳天をめがけて一閃を繰り出す。 敵の身体に食い込むアックスの抵抗が負傷した肩に伝達され、ジャックは苦悩の呻きを洩らす。肩に生温かい感覚を感じ、また出血が強くなったのを知るが、それでもさらに渾身の力を込めてアックスを振り切る。 ドサリとベリアルは倒れ、ジャックは痛みと武器を振り抜いた反動で、荒い息で膝をつく。ハンカチのマスクを剥ぎ取り、一度、深呼吸をする。 「役立たずは、岩の陰にでも隠れていろ!」 容赦ない罵声をジャックに浴びせながら、ローザは上空を見る。もう一匹いるはずだ。 ベルクリス&カティス組が身を潜める大木の隣の木の枝から、まさに二人に奇襲を加えようとする敵をローザは見つけ、大声で注意を促す。 ローザの忠告にいち早く気づいたカティスはおなべの蓋を構えてベルクリスの前に立ちはだかる。上空から二人を狙っていたベリアルは高速で滑空し、一旦、カティスの前で二本の足を接地させ刃になった羽根をカティスに向かって振り下ろす。盾は構えたものの、弾かれ、羽根の刃はカティスの左太腿のあたりを鋭く切りつける。低く呻くカティスは、それでも盾を下ろさず防御の姿勢をとる。敵は、ヒット&アウェイでの戦法をとるつもりなのか、カティスに一撃を食らわしたあと、また上空に飛び上がった。 「ベル、出てきてはダメだ。君だけは守らなければ友に申し訳が立たないのだ」 怪我をしていてもなお、うわ言のような朦朧とした口調で心情を吐露するカティス。だがその表情は何か決意じみたものがにじみ出ていた。 「おじ様! こんな時にまたそんなことを!」 ベルクリスはそう言いながら、必死の形相で手にしたブロンズライフルを握り、大木の陰から敵が飛び去った方向に数発発射する。命中した気配はない。 「違う、あそこ!」 少し離れたところにいるローザが居場所を知らせてくれる。ベルクリスは『ワーニングショット』を静かに唱え、ローザが指差してくれた方向をみる。いた。黒い影が太い枝に止まり、攻撃の機会を窺っているようだ。『ワーニングショット』をその影に向けて放つ。木々の葉が激しく揺らぎ、敵の羽根が大量に宙に舞う。部位はわからないが命中したようだ。 と、突然、その敵がいまだ羽根を撒き散らしながらこちらに向かって滑空してくるのが見えた。ベルクリスの攻撃が効いているのか、不自然なほどスピードは遅いが刃物になった両の羽根を目一杯広げている。 「ベル!」 叫んでカティスがベルクリスの前に躍り出て、ベルクリスに迫ろうとしていたベリアルを真っ正面から受け止める。鋭い嘴が盾を打ち付けるが、構わず盾を振り、敵を叩き落とす格好になる。 「おじ様っ!」 緑色の瞳を必死の形相で見開き、ベルクリスはカティスの肩越しに『ワーニングショット』と片手撃ちしたライフルの二連射を浴びせる。 ほとんどゼロ距離で命中したその二種の攻撃はベリアルの首をもぎ、敵はどさっと地に堕ちた。 一方、リコリス&トールと対峙していたベリアルは、トールのボウガンの矢を数本受けて、上空を旋回し、体勢を立て直していた。もうすぐ反撃に転じてくることは想像に難くないが、このままでは場所が悪い。二人は、敵に対処しているうちに安全地帯を離れ、毒花の群生ポイントにまで移動してしまっていた。 「誘導の必要がありそうね」 と、リコリスは自らの『パーフェクトステップ』の効果を信じて木の陰から躍り出て挑発の言葉を叫ぶ。魔術真名の効果の下にあるリコリスの動きはダンサーのように滑らかだ。 「哀れなソードラプター! 今、解放してあげるわ!」 挑発の声に乗ったのか毒花を離れて安全なところまで走り出す二人をベリアルが追いかける。刃になった羽根を横に目一杯に広げ、目は赤く燃え、あり得ないぐらいの速さで滑空してくる。 もう追いつかれるという刹那、リコリスは後ろの敵を確認し、軽やかに敵を避けたと思った瞬間、短剣を翻すように操り、ベリアルが目一杯広げていた左の羽根の根元を斬りつける。流石に短剣の刀身では斬り落とすところまでは叶わなかったが、敵は傷から多量の血液と思しき体液を吹き出し、苦痛にのたうつように触手の生えた身体から着地した格好で墜ちる。が、リコリスもその瞬間、ぐっという声をあげ膝をつく。華麗に回避したように見えた一瞬、敵が苦し紛れに出した足の爪に太ももをかすめられたようだ。衣服が破れ、少し血が滲んでいる。 「リコ! 大丈夫か!」 「えぇ。それより集中して、チャンスよ!」 流石のリコリスも多少、高揚した様子で叫ぶ。 「死んだ冒険者の仇だ」 静かに呟き、墜落した敵の背後側に回りながら『ワーニングショット』を唱えたトールが攻撃を放つ。自由に動けなくなったベリアルにそれは直撃し、周囲に多量の羽根が舞い上がり、身体から剥がれた触手が辺りに跳ね落ちた。 一行は、自分たちが交戦したソードラプター型ベリアルが完全に動かなくなったのを確認し、ひとところに集合した。 「リコ! 怪我は? 血が出てるぞ! くそ、俺がついていながら……」 「大丈夫よ!」 「いいから俺に掴まれ!」 「こいつらがここにいたということは、冒険者たちが襲われたのもこの辺りに間違いないだろうな」 トールは、リコリスに肩を貸しながら呟き、 「せめて、せめて、形見だけでも見つけてやらないと」 「そうだな、だが早く探さないと、俺たちも毒花の瘴気への対策はこのハンカチだけだ」 ジャックは、そういうとすぐに冒険者の遺品捜索を始めた。 一時間後、一行は毒花の密集ポイントの一つで恋人だろうか、妻だろうか、女性の写真が入ったペンダントと、少し離れた木陰で家族に宛てたと思われる手紙を発見した。 手紙には家を空けがちな生活と、危険な仕事で心配をかけていることへの謝罪が綴られていた。 「俺たちは仇討ちできるだけでも恵まれているぜ……」 呟くようにジャックが言った。 一行は森を出て詰所まで戻り、死んだ冒険者の仲間に遺品を手渡し、教団本部へ帰還した。
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*** 活躍者 *** |
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該当者なし |
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[22] ローザ・スターリナ 2018/04/05-22:51 | ||
[21] リコリス・ラディアータ 2018/04/05-22:23
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[20] ベルクリス・テジボワ 2018/04/05-21:43 | ||
[19] リコリス・ラディアータ 2018/04/05-12:04
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[18] リコリス・ラディアータ 2018/04/05-12:02
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[17] ベルクリス・テジボワ 2018/04/04-17:04 | ||
[16] ベルクリス・テジボワ 2018/04/04-16:45
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[15] ベルクリス・テジボワ 2018/04/04-16:40
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[14] ベルクリス・テジボワ 2018/04/04-16:40 | ||
[13] ローザ・スターリナ 2018/04/04-16:07 | ||
[12] ローザ・スターリナ 2018/04/04-16:06 | ||
[11] リコリス・ラディアータ 2018/04/04-10:38 | ||
[10] リコリス・ラディアータ 2018/04/04-10:37
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[9] ベルクリス・テジボワ 2018/04/03-21:18
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[8] ベルクリス・テジボワ 2018/04/03-21:16
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[7] ベルクリス・テジボワ 2018/04/03-21:08 | ||
[6] ローザ・スターリナ 2018/04/02-19:22 | ||
[5] リコリス・ラディアータ 2018/04/01-22:35 | ||
[4] ベルクリス・テジボワ 2018/03/31-20:16
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[3] ベルクリス・テジボワ 2018/03/31-20:08 | ||
[2] ローザ・スターリナ 2018/03/31-13:12
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