~ プロローグ ~ |
1718年12月――教皇国家アークソサエティは、「クリスマス(ユール)」ムードに包まれています。
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~ 解説 ~ |
現代社会とは、起源などが異なっていますが、基本的なイメージは同様のイベント内容になっています。
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~ ゲームマスターより ~ |
※イベントシチュエーションノベル『聖なる夜に祝福を!』の対象エピソードです。 |
◇◆◇ アクションプラン ◇◆◇ |
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スポット番号:6
こういうところでしっとりするのもいいものですね。 こんなご時世ですから神に感謝とかはしないですけど。 ロメオさんと出会えたことロメオさんと過ごせたことそれは すべてロメオさんに感謝するべきかなと。 だから、一緒にエクソシストをしてくれて。一緒に生きてくれてありがとうございます。 ロメオさんが自分自身をどんなに嫌ったとしても私はロメオさんが好きですから。 あんまり自虐がひどいようでしたら怒りますからね。 だって私の好きなロメオさんでもあるんですから。 …昔の貴方のままだったらきっと出会うことすらなかったって気付いてますか? 貴方がアンデッドになって死にたくないって思わなかったら 私のパートナーにはならなかった。 こうやって出会えた貴方だから私はこんなにも大事に思えるんですよ。 多分、恋とか愛とかそんな感じのものなんでしょうね。 あぁ、そんな風に言っちゃうところが私らしいですかね。 |
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~ リザルトノベル ~ |
「こういうところでしっとりするのもいいものですね」 荘厳な絵画が並ぶ大聖堂の真ん中で。 大きく開けた天を見上げ呟いたのは浄化師のひとり、『シャルローザ・マリアージュ』だ。 ヨセフ・アークライトから与えられた、束の間の休息という指令。 街中には、家族連れや恋人同士の連れあいが溢れ返るこの季節。 クリスマスを過ごすのに、シャルローザとそのパートナーであるエクソシスト――『ロメオ・オクタード』が選んだのは、ここ『サン・グラデッレ大聖堂』だった。 ルネサンスに存在し、見る者の目を射止める美しい造形の建造物。 色々と歴史や謂れがあるとは聞いているが、外見の神々しさもさることながら、内部に足を踏み入れれば、その風景に圧倒される。 「ああ。荘厳というか、なんというか……場所自体が『神格化』されてるって言うのが、なんとなく分かるな」 彼女に続いて、絵画や装飾を見回しながら告げるロメオ。 「……こんなご時世ですから、神に感謝とかはしないですけど」 少なくとも、わたしは。エクソシストとしての使命を思い、苦く笑うシャルローザに「同感だ」とロメオも喉を鳴らす。 神が放ったとされるヨハネの使徒を打ち倒す浄化師たちは、神々への反旗を翻す存在だ。 そんな自分達が「ロスト・アモール」や「ラグナロク」を経てもなお倒壊せず、力強く現存し続けるこの大聖堂を訪れる事は、皮肉めいているようにも思える。 そう考えると存外、シビアな一面も持ち合わせているんだなと思えば、彼女は。 「ロメオさんと出会えたこと、ロメオさんと過ごせたこと。それはすべて、ロメオさんに感謝するべきかなと」 また、さらりと。なんでもないように、そんな事を言ってのけるのだ。 だから、と続けて。くるりと振り返ったシャルローザが、まっすぐにロメオを見据えて微笑む。 「一緒にエクソシストをしてくれて、一緒に生きてくれて。ありがとうございます」 ステンドグラスから差し込んだ光が、彼女の微笑みを一層際立たせる。 自分には、あまりにも彼女は眩しい。まるで聖女みたいだ、と思ってしまうのは、決して贔屓目ではないだろう。 「……お嬢ちゃんには、また気を遣わせちまったなぁ」 少しだけ、目を背けるような気持ちから。ロメオは視線を逸らして、ひとつ頭を掻いた。 ここを選んだのは二人の意思でもあるが、最初にここへ行こうと提案したのはシャルローザだ。 「サンタクロースのモデルになった牧師さんが管理してたなんて、クリスマスにぴったりじゃないですか?」とかなんとか、無邪気な事を言って。 ロメオに気を遣わせないように、彼女は何も言わなかったけれど、過去の一部を思い起こして以降、ロメオが人の多い所をそれとなく避けているのを、彼女はとっくに勘付いている。 たまに、そんなシャルローザの勘の鋭さが恐ろしくも感じる。 その透き通った空色に、ぜんぶ見透かされているようで。 「どうして、そんな事を……」 「……俺が嫌いなのは、自分自身だけど。昔の自分なら人混みっていったら、稼ぎどころみたいなもんだって思いだしたら……な」 きっといま、浮き足立った人々の行き交う街中になど放り出されたら、自己嫌悪に陥って、聖夜を楽しむどころではなかったかもしれない。 クリスマスムードには到底似つかわしくない、淀んだ感情を持て余して、今以上に酷い顔をしていたんだろう。 そうする事でまた彼女を心配させるのは、ロメオとしては本意じゃない。けれども、どうしたって、過去を知った罪悪感から抜け出せないままでいる。 「どうやったらお嬢ちゃんに嫌われないか考えるんだけど。お嬢ちゃんはどんな俺でも受け止めてしまうんだろうし。それが、俺には……」 もどかしい、やりきれない。自分にもよくわからない焦燥感。 見捨てられたくない、と思う反面、彼女なら絶対に見捨てたりしないだろうと、理解してもいる自分。 驕りにも似た確信は、けれどしっかりと的を得ていて。 何となくバツが悪そうな顔をしていると、下げた目線の先で、頬を膨らませたシャルローザが覗き込んできた。 「……あんまり自虐がひどいようでしたら怒りますからね」 「あ、ああ……」 「ロメオさんが自分自身をどんなに嫌ったとしても、私はロメオさんが好きです。私の好きなロメオさんを貶す人の事は怒ります。それがロメオさん自身だとしても」 「お嬢ちゃん……」 ロメオが瞠目する。 覗きこんだままのふくれっつらが一変、ふわりと花咲く。 ころころと、よく表情が変わる娘だ。こちらが予想しないような顔ばかり浮かべて、ひとつひとつ憂いを救いあげていく。 場所が場所なだけに、本当に聖女か天使の生まれ変わりなんじゃないか、なんて気障なことを考えていたら、彼女の白い手の平が、ロメオの節ばった手をそっと握った。 「ねぇロメオさん。貴方が昔の貴方のままだったら、きっと出会うことすらなかったって、気付いてますか?」 ――貴方がアンデッドになって、死にたくないって思わなかったら、私のパートナーにはならなかった。 続く言葉に、確かにそうかもしれないな、と内心で理解する。 過去の悪漢だった自分は一度死んで、文字通り生まれ変わって。 やっと、堂々と胸を張って、シャルローザの隣に居られる人間になれたのだろう。 彼女の隣に、過去のロメオは到底似つかわしくないけれど。 過去も今も未来すら踏まえて、全て受け止めてくれる、と。 驕りではなく本心から思える程度には、彼女を知るだけの時間を重ねてきたつもりだ。 「……こうやって出会えた貴方だから、私はこんなにも大事に思えるんですよ」 両手で、穴の開いたロメオの右手を、手袋の上から大切そうに包み込んで。彼女は祈るように瞳を伏せる。 大聖堂の鐘が、大きく厳かに鳴り響く。何かを、静かに誓っているような時間だった。 やがて残響が鳴り止んだタイミングで、また彼女はとんでも無い台詞をさらりと口にした。 「多分、私のこの感情って、恋とか愛とか、そんな感じのものなんでしょうね」 ……その瞬間の自分がどんなに間の抜けた顔をしていたのか、ロメオ自身にはわからなかった。 姿をうつすものでもあったら、後で確認したかったと思うほどに。 「そ、んなに、淡々と言われるとは、思わなかったなぁ……」 「そうですか? ……あぁ」 そんな風に言っちゃうところが、私らしいですかね、なんて。 どこか他人事みたいに、シャルローザは頬に人差し指を当て、小首を傾げて一人ごちたあと、もう少し見て回りましょうか、と歩みを進め始めた。 ワンテンポ遅れて彼女の背を追いつつ、あっさりした所がなんとも彼女らしい、とロメオも思う。 下手をすれば父親といってもおかしくないほどに、二人は歳が離れている。 彼女の落ち着いた立ち振る舞いと、過去の記憶の欠如も手伝って、普段はあまり意識した事がないが、シャルローザは多感な年頃の若い娘なのだ。 恋をしたっておかしくない。でも、その相手に相応しい相手が自分だと考えた事なんて――否。 意識する瞬間は、あった。幸福の鐘を二人で鳴らしたとき、ほんの少しだけ、彼女を見る目が変わった様な気がした。 けれども、あれからまた季節が流れて、知りたくなかった過去を知って、知られて。 ……無様に、彼女の真っ白さからどれだけ逃げ回っても、シャルローザはロメオの臆病さごと見透かして、包み込んでくれるのだ。 「ロメオさん。この聖堂の謂れやルール、知ってます?」 ふとした問いかけに、大聖堂の門前で聞いた解説を思い起こし、考え込むような仕草をする。 「あーと……いかなる宗派、思想であってもこの場所でだけは戦ってはならない暗黙のルール『不闘の約定』だったか」 「それもありますけど。最奥に飾られている絵画は、宗教や宗派を問わず、生きる道に迷える者を救う寛大な神が描かれていて……祈りや赦しを請いに訪れる者が、後を絶たないんだとか」 静かなホールにゆっくりと足音を響かせて、一際大きな絵画のもとを訪れた二人は、全ての人を救うとされる寛大な神を前に、神妙な表情を浮かべた。 「……神に感謝しないなら、やっぱり俺も感謝すべきはシャルローザなんだろうな」 「え? 何か、言いましたか?」 「んん、感謝してるよ、って話」 「なんですかそれ。ああ。クリスマスの?」 「それもあるが。お嬢ちゃんが最初に言ったんだろ? 一緒に生きてくれて、って――」 そこまで言って、先ほどのシャルローザの台詞を不意に思い出す。 ――愛とか恋とか、そんな感じのものなんでしょうね。 恋愛感情があって、一緒に生きてくれて、なんて言うのは――まるで本当に、愛の告白のようじゃあないか? 胸中を、顔にこそ出さなかったが。突然言葉が途切れた事に、彼女は不思議そうな顔をする。 以前に二人で鳴らした『幸福の鐘』。あの時から『女の子』としての彼女を意識し始めて、いま。 からかい混じりに『シャルローザ』と名前を呼ぶ事が、どこか気恥ずかしく思える。 「……また妙な事考えてませんか?」 「妙なことって」 「ロメオさんのことだから。また自分の事貶してたり」 「はは、してないしてない。お嬢ちゃんにこれ以上、嫌われたくないからなぁ」 「もう! やっぱりわかってないです、私は、ロメオさんのことがっ!」 「あああ、人が来た、人が! 分かったから、少し声を小さくっ」 むきになって、好意を必死に伝えようとするシャルローザをどうどうとなだめて、二人は大聖堂の中心で笑い合った。 彼女のくれる言葉は、とても心地いい。嘘やお菓子のように甘く、だめな方の自分を甘やかすものであっても、甘んじていたいと思う自分が居る。 彼女の大切さを今更ながらに自覚する。シャルローザは間違いなく、ロメオの心にそっと咲いた、唯一無二の救いなのだ。 (――君の為ならなんだってしてやる。嫌いな嘘だって、いくらでも吐くんだろうな) 自嘲気味に、仄暗く微笑んだロメオの胸中が、彼女に知れる事はなくても。 シャルローザの心に芽生え始めた感情が、ロメオの心を真に救う日は、きっとそう、遠くない未来に。
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*** 活躍者 *** |
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