~ プロローグ ~ |
1718年12月――教皇国家アークソサエティは、「クリスマス(ユール)」ムードに包まれています。
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~ 解説 ~ |
現代社会とは、起源などが異なっていますが、基本的なイメージは同様のイベント内容になっています。
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~ ゲームマスターより ~ |
※イベントシチュエーションノベル『聖なる夜に祝福を!』の対象エピソードです。 |
◇◆◇ アクションプラン ◇◆◇ |
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スポット番号:11
【目的】 有名になる前にシャドウ・ガルテンのイルミネーションを楽しむ(建前) 自分から行動したがらない喰人を外に連れ出す(本音) いい雰囲気にできればなりたい(最終目標) 【行動】 イルミネーションを見る為にちょっと強引にシャドウ・ガルテンへ 連れ出して歩きながら、さりげなく恋人握りをしてみる(目標) 【心情】 ウィルは、あまり自分からここに行きたいとか言ってくださいませんわ 優しいから、いつも私を優先してしまう でも、そうじゃなくて 私が望んでいるのはもっと対等な関係で…今のままだと視線が ちぐはぐでお互いの事が見えていないのかも 私は貴方がしたいことをしたいですわ、ウィル …欲張りなのかしら? ウィルはこんなにいつも私に気を遣ってくれるのに 私も、ウィルと対等な目線で見て欲しいなんて 怒ってしまうかもしれないですわ でもね、貴方が庇護対象に見ているうちは…きっと私の事、 意識してくれないでしょう? |
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~ リザルトノベル ~ |
●クリスマスはシャドウ・ガルテンで
昨夜は眠れなかったわ……。 『アリス・スプラウト』が、ついため息をついてしまった。 「おや、どうかしましたか?」 『ウィリアム・ジャバウォック』の片目がアリスの顔を覗き込んだ。 二人は、シャドウ・ガルテンでヴァンピールが御者を務める馬車に、隣り合って座っていた。 今年のクリスマスはシャドウ・ガルテンでもクリスマスイルミネーションが行われる、と聞きつけて来たのはアリスだった。 「ねぇ、ウィル。今度のクリスマスは、またシャドウ・ガルテンに行きません?」 今後人気スポットになるらしく、まだ今なら人混みに揉まれる事無くイルミネーションを静かに楽しめそうだ。 「アリスが行きたいのであれば、何処へでもご一緒しますよ」 これである。 ウィリアムはアリスが何処かへ行きたいと言えば一緒に行くし、何かをしたいと言えば一緒にしてくれる。もちろん、それだって病弱でほとんど家から出る事のなかったアリスにしてみれば十分な喜びである。 でも……。 つい、おさげの先に結わえられた緑のリボンをもてあそんでしまう。 「クリスマスなのに、ウィルには行きたい場所はないのですか?」 「そうですね、特にはありませんね」 そう言ってウィリアムがアリスに微笑みかける。 「でも、いつも私ばかり付き合ってもらっているでしょ。だから、その、たまにはウィルの行きたい場所へ行きたいな、と思いましたの」 胸に秘めた思いがそのまま言葉として出てしまいそうになるのを堪え、言葉を選びながら話す。 そんなアリスの姿に、ウィリアムの目の奥が揺れる。 「私……、ですか? 特に行きたいところもありません。アリスが行きたいのなら、私も警護として着いて行きますよ」 ほら、やっぱり。 でも、このままでは押し問答になるだけだ。とにかく、このクリスマスはウィルと一緒にシャドウ・ガルテンのイルミネーションを見に行く。そう決めたのだ。 ウィルの行きたい場所。 アリスは確かにそう言った。これまで誰かが自分の事を優先してくれた事なんてあっただろうか。いやアリスは優しいから、そう言ってくれているのだ。アリスが行くと言うのなら、どこへでも一緒に……。 つい物思いにふけるウィリアムの手元では、ぬいぐるみのチェシャ猫が、妙にぴょんぴょん跳ねていた。 ●馬車の中 ゆれる馬車の振動は、寝不足のアリスに心地よく伝わり、つい気を抜くと欠伸が出てしまう。 昨日の夜は、興奮して眠れなかった。 手、くらいは繋ぎたいですわ。 そんな事を思い始めたら最後、どうやってどんな風に手を繋ごうか、そうだ、あの小説に出て来た恋人達のように、そっと手を添えて、それからそれから……。 気が付けばベッドに入って数時間が経過してしまっていた。 寝なければ、明日がつらくなってしまいますわ。 とは思うものの、つい手を繋いでいる様子を想像しては慌てて起き上がってしまい、いつまでたっても眠れなかったのだ。 何とか目を覚まそうと窓の外を見るものの、どこまで行っても窓の外は暗闇で、その暗闇の中にぽつぽつと見える家々の優しい光。 欠伸を何度か噛み殺したが、それも限界に達し堪え切れず欠伸が出てしまった。 「おや、どうかしましたか?」 欠伸に気付いたウィリアムに顔を覗き込まれてしまった。 「いえ、何でもありませんわ」 慌てて気を引き締めたが、それも何十秒と持たず、アリスの緑色の瞳は瞼によって隠されてしまった。 おや……。 窓の外見ていると思っていたアリスの頭が、こくりこくりと揺れ始めたかと思ったら、わずかだが寝息が聞こえ始めた。 確かに、規則的な馬車の揺れは心地が良い。 眠ってしまえれば、どれ程気持ちが良いだろうか。しかし、ここは少し前に大きな事件が起きた国だ。また何かが起きないとは限らず、気を抜くわけにはいかない。アリスを守らなければ。 ガタン 少し大きく馬車が揺れた。 静かに走って貰わなければ、アリスが起きてしまうじゃありませんか。 窓にもたれるようにして眠っていたアリスの頭が、馬車が揺れた弾みでウィリアムの肩に寄りかかった。 アリスの緑のカチューシャのリボンが、ウィリアムの頬をくすぐる。 「ウィルは優しいから……」 聞き取れるか、聞き取れないか、そんな小さな声。しかし、今間違いなくウィリアムの耳へと届いた。 「え?」 一瞬アリスが起きたのかと思ったが、ウィリアムの肩で静かな寝息をたてている。寝言のようだ。 私が優しい? とんでもない。ただ臆病者なだけだ。これまでのように合理主義で貴方を切り捨てて貴方から嫌われるのが怖い。アリス、美しい存在である貴方を失うのは耐え難い。こうして側にいるだけで、私には過ぎたものを既にもらっているのですよ。 チェシャ猫がゆらゆらと揺れていた。 ●着いたけど点いてない 「着きましたけど………」 御者のヴァンピールの声が聞こえた。 「アリス、着きましたよ」 ウィリアムの声に、うっすら目を開けたアリスは一瞬今自分が何処に居るのか分からなかった。が、直ぐに思い出した。 「私、寝てしまっていましたの?」 ウィリアムが面白そうに頷く。 「起こしてくださればよかったのに……」 先に降りるウィリアムの背中に呟いた。 前に読んだ小説では、お姫様が馬車を降りる時、 「さ、どうぞ」 と王子の手が差し出される。 のだが、アリスの場合、手を差し出したのは御者だった。 「ありがとう……」 もしかすると、手を繋ぐチャンスかもしれないと思っていたのに。 少しガッカリしながら差し出された手を頼りに、アリスも馬車から降りた。 馬車を降りた二人の前に広がっているのは、美しいイルミネーション、ではなく暗闇だった。馬車のライトと、御者の持つ灯りだけが、ただその場を照らしているだけ。 御者もポカンとしている。 「申し訳ない。もう、点灯しているはずなんですが……。おかしいなぁ。ちょっと、そこで待ってて下さい、様子を見てきます」 そう言うと灯りを手に、暗闇へと消えて行ってしまった。 「これは罠かもしれませんね」 ウィリアムが辺りを警戒し始めた。ウィリアムの操るぬいぐるみの動きも機敏になる。 「そうですわね」 アリスも、警戒をする。この国で幻影と戦った事は記憶に新しい。 が…… 「すみませんねぇ。少しトラブルがあったみたいで、もう少しみたんなんでぇ!」 暗闇の向こうからゆらゆらと揺れる灯りから、全く緊張感のない声が聞こえて来た。 先ほどの御者だろう。 二人は思わず顔を見合わせて笑った。 もう少し。 御者はそう言ったが、数分経っても暗闇のままだ。 もしこのままイルミネーションが失敗してしまったらどうしよう、アリスは不安に襲われた。これでは、手を繋ぐなんて雰囲気には到底ならない。何より無理矢理連れてきてしまったウィリアムに申し訳がない。 「ウィルは、本当に行きたい場所や欲しい物はないんですの? 貴方の今の願いを言って」 泣き出しそうになるのを、必死で堪えたが声は震えてしまった。でも、今なら引き返して、どこか他の場所へ行く事だって可能な筈だ。 ウィリアムが何かを言おうとした時、暗闇から声が聞こえた。 「あの、ちょっとご相談があるんですが」 灯りと共に現れたのは、先ほどの御者ではなく別の男だった。 もうイルミネーションは見られないのかもしれない。アリスはそう覚悟した。 「はい、何でしょうか」 つとめて明るい声を出した。 「準備が整いましてね後はスイッチを押すだけ、何ですが……。押しますぅ?」 「え?」 すっとんきょうな声が出てしまったが、逆にそれが気持ちを落ち着かせた。 「点灯式、なんて大げさなものじゃないんですがね、点く瞬間が綺麗なんで、お待たせしたお詫びに良ければ……」 「やりましょう、アリス」 返事をしたのはウィリアムだった。 ●点灯したのは灯りか、それとも 男に案内されて行く道すがら、ウィリアムはアリスの言った事を考えていた。 私の今の願い……。アリス、貴方の側に、私の居場所があるのがただただ嬉しいのにこれ以上貴方から何を貰えば良いのですか。あぁ、そうだ一つだけ、一つだけならある。 「アリス、あの……」 ウィリアムが言いかけた瞬間、目的地に着いてしまった。 今日は邪魔ばかりが入る日ですね。 自嘲をアリスに気付かれないよう、空を見上げた。星の光も見えない暗闇。 「他にまだお客がいないんですよ。クリスマス、ってんですかね。まだ、我々にはピンと来なくて。何で、好きに点けて下さい」 男はそう言って、幾つか種類の違うベルが並んでいる箱を指差した。 「ベルの音を聞き分けてエリア担当が付けるんです」 「一緒にならしましょう?」 ウィリアムを見上げるアリスの瞳が幸せそうに輝いている。 「もちろんです」 アリスが、ベルの一つに手をかけた。その手の上にウィリアムが、そっと手を添える。 「ウィル?」 アリスは自分の顔が紅くなっている事が恥ずかしくて、うつむいてしまった。 「さぁ、どうぞどうぞう」 案内してきた男にせかされて、ウィリアムの手に少し力が入り、その力がアリスの手へと伝わる。 ジリン! ベルがなると、少し向こうのイルミネーションが点灯した。 また一つ、また一つ、アリスとウィリムの鳴らすベルの音に、次々とイルミネーションが点灯した。 規模はそれ程でもないが、確かに美しいイルミネーション。やはり暗闇の国。灯りを魅せる技術だけでは、アークソサエティよりも上かもしれない。 「ウィル! とっても綺麗ですわね!」 嬉しそうにイルミネーションの中ではしゃぐアリスの姿を瞳に焼き付けるウィリアム。 「あっ!」 はしゃぎすぎたアリスの足元がもつれ、転びそうになった。 「危ない!」 すかさずウィリアムがアリスの腕を掴んだ。 「またウィルに助けられてしまいましたわ……」 「アリス、私はいつでも貴方を守り助けます」 「違うの! そうじゃありませんの!」 「え?」 アリスの目が潤んでいる。 「私は守られたいんじゃありませんの……。私は、私は」 ウィリアムがアリスを制した。 「欲しいもの、ないと思っていました。でも、今日一つ見つけました。私が欲しい物は、貴方が喜んでくれる事。だからアリス貴方が欲しい物はなんですか?」 「私の欲しい物……」 「貴方が喜んでくれる事、笑ってくれる事。私は、それが一番欲しい。だから貴方が欲しいと言う事を、出来るだけ叶えてあげたい」 アリスが意を決してウィリアムに一歩、歩み寄った。 本当に、自分の本当の思いがウィリアムに伝わったのかは定かではない。 でも、今が手を繋ぐ最大のチャンスである事だけは分かった。 「私の願いは」 ウィリアムの手を取り、イルミネーションの中をゆっくりと歩き始めた。 そっと指を一本、絡めてみる。一瞬ウィリアムの手が硬直した。しかし次の瞬間、するりと絡む。それから、ゆっくりと指を一本ずつ絡める。 五本の指がしっかり絡み合った時、 ぐぅぅぅ アリスのお腹が本能を訴えた。 くすりとウィリアムが笑い指さしたその先には、シャドウ・ガルテンの料理だろうか、聞いたことの無い料理の看板を掲げた屋台が見えた。 「あ、屋台ですわね」 「私もお腹が空きました。行ってみましょう」 二人はしっかりと手を繋いで、イルミネーションの中を屋台に向かって歩き出した。
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*** 活躍者 *** |
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