~ プロローグ ~ |
この世界を生きるモノが眠りに就く時――それは必ず現れる。 |
~ 解説 ~ |
●目的 |
~ ゲームマスターより ~ |
たまに見る悪夢ってとっても嫌なことだった、と覚えていますよね。 |
◇◆◇ アクションプラン ◇◆◇ |
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ハル、今日は酷く魘されているな。 時間が時間だし眠たくない訳ではないが、心配なので暫くハルの傍で様子を見る。 以前、ハルが負の感情を無理矢理具現化する術にかけられたことがあった。 あの時、取り乱すハルに「ハルはハルだ」と言ったけれども、 どうやらハルにとってあの出来事は、すぐには消化しきれない程にショックを受けるものだったらしい。 寝言、なのか? 「……お前こそ、勝手に距離を作って離れていくなっての、この馬鹿」 また迷うようなことがあるなら何度だって言ってやる、ハルはハルだって。 その後も何度か手を取ってはもう魘されていないかを確認。 ハルが起きたら気分転換にどこか散歩してから食事にするのもいいかもしれないな。 |
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>夢の中 いつも浮かべている笑顔は消え 表情のない 冷ややかな視線を彼に ふだんほとんど動かないシリウスの顔 その彼の視線が 不安定に揺らいでいるのを 自分から伸ばすことを 酷く恐れる彼の手が 自分の方に僅かに動いた後 何かに耐えるように握り込まれたのを 僅かに瞳を眇め 無言でみつめた >現実 おはよう シリウス …どうしたの?具合でも悪い? いつもより青く見える顔に眉を下げる 熱でもあるのかと 額に手を伸ばす 「お前を殺してしまったら どうしたらいい」 何かに浮かされたような言葉に目を丸く ー怖い夢でも見た? そっと彼の頬を両手で包む 何かに怯えたような眼差しに 小さく微笑んで シリウスはそんなことしない わたし ちゃんと知ってるもの 額をあわせ呟く |
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悪夢を見る人:ラニ あらいやだ、おやつ隠れて食べたことバレた? …ぶっきらぼうな顔しちゃって 懐かしい顔しちゃって 一番最初に失敗したときの顔じゃない 最初の指令の時のこと、覚えてる? あたしは向こう見ずに突っ込んで、あんたがフォローしようとして怪我して あの時はごめんなさい、今は少しはまともになった筈よ 本当だってば!あの素敵なお洋服を作ってもらった時から あんたも話してくれてたんでしょ、あの子のこと …似合ってるって言ってくれてありがとう 本当にうれしかったの、本当なのよ? (大きくため息をつき …でも何も変わってない あんたは前に進んでるのに あたしは、まだあの時のままで あんたも分かってるんでしょ? |
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夢 ヨナ 広い空間に二人というのは心許なく感じ 喰人の方へ寄ろうとして向けられた嫌悪感に足が止まる 今まで呆れられた事はあるけれどそれでも突き放した冷たさは無かった どうしよう どうして 動揺してる これ程この人の事が 気持ちが気になるようになったのか いつからかは分からない 過去 …私は自分が面白い人間だとは思っていませんが そんな私を様々な場所へ誘ってくれた事 とても感謝しているんです ブリテンの古城#40、365日の歌#55、オーセベリの雪#63… 他にもたくさんの一緒の思い出があります 私が『浄化師』以外の事に目を向けられるようになったのは貴方のおかげです 一緒にいて私がどれほど助けられたか言葉では伝えきれません 続 |
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・悪夢を見る方:ルイス ※ルイス視点 【目的】 過去について語る。 【行動】 悪夢) モナの憎しみのこもった視線を痛いほどに感じる。 もっとも恐れていた事が現実になったのか。 出来事) 1.僕は元サクリファイス。家族にも誰にも望まれなかったから何に対しても愛なんて感情も持ったことがなかった。世界も自分の命さえもどうでも良いと思ってた所に勧誘された。 2.何に対しても愛情を感じた事なんてなかったはずなのにそれを変えてしまう出来事があった。モナとの出会い。 あの時は追ってから逃げてた。そんな所にも関わらずモナは僕を 匿って助けた。それからも何度も。 ※ウィッシュに続く |
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~ リザルトノベル ~ |
「――ハル、今日は酷く魘されているな」 深夜の一室にて、そう呟いたのは『テオドア・バークリー』。 彼の視線の先には、ベッドの中で魘されているパートナーである『ハルト・ワーグナー』の姿が。 魘されている……なるほど、悪い夢でも見ているのだろう。 夢は所詮夢でしかないのだから問題ない、時間も時間だしテオドア自身も眠たくないわけではない……が、心配なのでしばらくハルトの様子を見ることにした。 ――一体、どんな夢を見てるんだよ。 ――――…… 目を覚ますと、そこは真っ黒な空間に、けれどいつも共に過ごしているパートナーのテオドアの姿が。 だがその顔はいつも知っているテオドアのものではない。 自分に向けられる、その嫌なものでも見るような視線が……ああ、何故だと。 心が痛み、その視線と顔に耐え切れなくなったハルトは膝を崩す。 何故……どうしてだと。 ――しかし、ふと。 「……テオ君、さ」 ハルトの口からパートナーの名が出た。 「テオ君は知らないだろうけどさ、俺はさ、テオ君と出会えたことが嬉しかったんだ」 まるで懺悔をするかのようなその声は、言葉は。 ただひたすらこちらに嫌な雰囲気をぶつけるテオドアに放たれた。 「生きることを諦めてた俺を、テオ君は何の迷いもなく助けてくれたよね。そんなテオ君を、何があっても俺が守るって決めたんだ」 そう、それは少年時代の話。 大けがをしていたテオドアにハルトが傷の手当てをしてくれたのだ。 嗚呼、それは……懐かしい記憶だ。 「――故郷がベリアルに襲われた時が怖かった」 ハルトの語りは、続く。 「俺が街を離れていた時だったね。死に物狂いで退き返して、何日も街中を駆け回って、瓦礫を掻き分けて。……ああ、屋敷に隠し通路があるなんて知らなかったから驚いたな」 思い出すのは苦痛、けれど懐かしいその記憶は……無意識に口から言葉となって出ていく。 が、それでも眼前のテオドアの顔は変わらない。まるで石像のように微動だにしない。 ……それが、何とも心が痛い。 「……今更言うけどさ、俺は自分の執着心が異常かもと認識した時が怖かったんだ」 それは、以前の出来事。 「優しいテオ君を守りたかった、手段なんて選んでいられなかった――俺はただテオ君が傍にいて、笑っていてくれればそれだけで良かったのに……」 レイモンズ・ガネス邸にて、ハルトが負の感情を無理矢理具現化する術にかけられたことがあった。 あの時、取り乱すハルトにテオドアは『ハルはハルだ』と言ったが。 どうやらハルトにとって、あの出来事はすぐには消化しきれないほどにショックを受けるものだったらしい。 だからこそ、その衝撃を、自分の願望を言葉にして伝え。 けれどもテオドアの顔は変わらないままで。 あまりにも冷たいその視線に、ハルトは今にも泣きそうな自身の顔を手で覆いながら。 「頼む……俺を、そんな目で見ないでよ……」 今にも消えそうな声でそう言った。 ――――…… 魘されているハルトの横で、テオドアはただただ様子を見ていた。 額に汗を掻いて、必死に何かを伝えようとしているハルトだが、何を言っているのかがわからない。 でも何か大きな苦しみと戦っているのだけはわかる。 ――ふと。 「――だから」 魘されているハルトの口から、ようやく言葉らしい言葉が聞こえた。 ――寝言、なのか? それに気になったテオドアは耳を傾けると、 「お願いだから、俺から離れて行かないで……」 ああ、そういうことか――と、納得した。 その言葉を聞いたテオドアは魘されているハルトに、一言。 「……お前こそ、勝手に距離を作って離れて行くなっての。この馬鹿」 また迷うようなことがあるのなら、何度だって言ってやるさ。 ハルはハルだってな――と。 語りかけた後に寝ているハルトの手を取ると、不思議とハルトは魘されなくなった。 ようやく悪夢から解放されたハルト――今は休ませておこう。 起きたら……そうだな、気分転換にどこか散歩してから食事にするのもいいかもしれないな。 ■■■ 「――ぁ」 意識が戻った『シリウス・セイアッド』――周りを見ると、そこは黒一色の世界だ。 なるほど、これは夢の世界なのか――と、彼は即座にそう解釈した。 そも、彼は普段から夢見が悪い方だ。だからこのような夢を見ることは珍しくもない。 そう……故郷の事、両親の事に魘されて飛び起きることが殆どだから。 しかし今回の夢はまた一段と変わった夢だな、とそう思っていると。 「――ああ、リチェか」 暗闇の中から、己のパートナーである『リチェルカーレ・リモージュ』の姿が現れた。 夢の中にまで出てくるとは、本当に珍しいな――と、そう考えて近づこうとする、だが。 「……リチェ?」 今まで見たことがないその冷たい眼差しに、シリウスは息を止めた。 彼の視線の先にいる彼女は……いつものパートナーの姿ではない。 いつも浮かべている笑顔は消え失せ、表情のない冷ややかな視線をシリウスに向けている。 その顔に、その視線に……シリウスが呼びかけた声は酷く掠れていた。 だから……だろうか。 その声に何の反応もないリチェルカーレを見て――ああ、彼女も自分が嫌になったのだと。 冷えた指先と歪む視界の中で、どこかクリアにそんな風に思ってしまう。 「――お前は、いつも笑ってくれていたから……勘違いした。生きていてもいいんだと」 ポツリ、とシリウスの口からは彼女に向けての言葉が。 「自身の目的に傾倒しすぎて意識が遠のいた時も、お前の呼ぶ声が救ってくれた」 思っていたことを、想っていたことを語っても、眼前のパートナーの姿は変わらず。 だがそれでも尚、シリウスは続ける。 「お前に惹かれて自覚しただけで苦しかった」 懺悔か、それとも贖罪なのかわからない言葉を。 「俺が大切に想った人は皆死んでしまったから……俺がお前を殺すことになったら、俺はどうしたらいい……?」 いつも通りの彼女の眼差しと笑顔――触れる温もりに、泣きたくなるほどの安堵と。 ……僅かな恐怖を持ちながら。 普段殆ど動かないシリウスの顔が、その彼の視線が、不安定に揺らいでいる。 不安定なその感情に、まるで助けを求めるかのように、しかし自分から伸ばすことを酷く恐れる彼の手が僅かにリチェルカーレの方に動いた。 だがその後、シリウスが何かに耐えるように握り込んだのを彼女は僅かに瞳を眇め、無言で見つめていた。 ――――…… 目が覚めると、そこにはいつも通りの光景が広がっていた。 先ほど見たモノは……ああ、夢だったのか。 しかし一体どんな夢だったのか、思い出そうとしても上手く思い出すことができない。 でも……何か、とても嫌な夢を見た気がする、と思ったシリウスは自室から出る。 「あら、おはようシリウス」 部屋から出ると、そこには変わらないリチェルカーレの姿が、しかし。 「……どうしたの? 具合でも悪いの?」 どうやら今日に限っては、シリウスの方が変わっているらしく。 やはり嫌な夢を見たせか、傍から見ると体調が優れないように見えるようで。 いつもより青く見えるシリウスの顔に、彼女は眉を下げる。 そんな彼を心配してのことか、リチェルカーレは「熱でもあるんじゃないの?」と額に手を伸ばした。 優しく額を触られたシリウスは、ポツリと。 「――お前を殺してしまったら、どうしたらいい?」 「――――」 何かに浮かされたようなその言葉に、リチェルカーレは目を丸くした。 だがそれは、ほんの一瞬のこと。 「……なにか、怖い夢でも見た?」 すぐにいつもの表情に戻ったリチェルカーレは、そっと両手でシリウスの頬を包んだ。 彼女が覗き込むその眼差しは、何かに怯えたようなモノで。 だからこそ、彼女は小さく微笑み。 「――シリウスはそんなことしないわ。わたし、ちゃんと知ってるもの」 シリウスを安心させる為に、再度確認させる為に……そして。 彼の心は、思考は、自分が一番良く知っているのだと、そう告げる為に。 リチェルカーレは軽く目を瞑って、シリウスの額に自分の額を合わせて優しく……とてもやさしい声で、そう言った。 ■■■ ――珍しい夢でも見るものね。 暗闇の世界で目が覚めた『ラニ・シェルロワ』。 意識を失う前は自室にいたのに、目が覚めるとおかしな空間にいる。 それを彼女は、この空間を『自分の夢の世界』だと考えた。 だが夢だとすると、これは何かしらの意味があってのことではないか、と思うと。 「――あらやだ、おやつを隠れて食べたことがバレた?」 ニヤリ、と笑みを浮かべた。 何故笑みを浮かべるのか――それは視線の先に己のパートナー『ラス・シェルレイ』がいたからだ、だが。 「……ぶっきらぼうな顔をしちゃって」 その顔は、普段の彼のモノではない――とても冷たい表情だ。 「懐かしい顔しちゃって。それって一番最初に失敗した時の顔じゃない」 しかしそんなラスに怯えることなく、ラニは話しかけた。 「最初の指令の時のこと……覚えてる?」 それは、ベリアル討伐の際に前に突出し過ぎた話。 「あたしは向こう見ずに突っ込んで、あんたがフォローしようとして怪我をして……ええ、あの時はごめんなさい。でも今は、少しはまともになったはずよ」 昔とは違う、とそう言ったラニに、だがラスの表情は変わらない。 「~~っ! 本当だってば! あの素敵なお洋服を作って貰った時からっ!」 それは、仕立て屋のマリーがラニの為にワンピースを作ってくれた時の話。 「あんたも話してくれたんでしょ、あの子の事。……似合ってるって言ってくれてありがとう。本当にうれしかったの、本当なのよ?」 直接聞いたわけではないので本当のところはわからないが、そうに違いないと。 涙を零していた時に言ってくれた言葉に、感謝の言葉を述べた。 だがそれでもラスの表情は変わらず、何も言わない。 そんなラスに、ラニは大きくため息をついた。 「……でも、何も変わっていない」 ふと――ラニの雰囲気が変わった。 「あんたは前に進んでるのに、あたしはまだあの時のままで……あんたもわかってるんでしょ?」 「…………」 「そう……そうよ! 本当は気づいてるんでしょ――シィラは、殺されてなんかいないってッ!」 シィラ――それはラニとラスの幼馴染の名だ。 ヨハネの使徒に殺された、とラニはそう説明したが、だが実はそうではないのだと。 泣きそうな表情でラニは強く叫んだ。 「みんなが死んだ日、あんたとあたしだけが生き残ってしまったあの日……あの子が! あたし達を置いて行ったあの日を!! 覚えてるわけないわよねぇ!? だって……だって思い出してたら――」 耐え切れなくなった涙腺は崩壊し、けれどラニはお構いなしに。 「あんたはもうここにはいないもんなぁ――ッッッ!?」 ぐしゃぐしゃになった顔で、おそらく今生で一番と言っても過言ではないほどの、喉が裂けるのではないだろうかという大声で叫んだ。 ああ、今わかった――ラスのその冷たい表情は、ラニが思い描く顔そのものだ。 そう……真実を知った時の、ラスの表情だ。 だからこそ、思い出したらあんたは死ぬだろう――そう強く訴えるように叫んだのだ。 力強く叫んだことで息を荒らしくして呼吸を整えようとしているラニに、だがついぞラスは何も言わず表情を変えない。ただただ冷たい視線を向けているだけだ。 どれだけ言っても何も変わらない――そう悟ったその瞬間。 ラニの意識はそこで途切れた。 ――――…… 目が覚めると、外は既に朝を迎えていた。 視界を動かすと、傍にはパートナーのラスの姿が。 自分が寝ている間に何かあったのだろうか、ラスはラニの顔を覗き込むようにしている。 「おい、大丈夫か?」 「……嫌な夢を見た」 憂鬱な気分でゆっくりとベッドから起き上がるラニに、ラスは声をかける。 「……無理するな。指令もしばらくは止めとこう」 「別にいいわよ! あっ、どうせ休むのなら楽しい所に行きたいんだけど!」 別に悪夢自体はどうということはないが、しかしせっかくのことだ。気分転換をしたいラニ。 平然を装うその言葉に、だがラニはこう思う。 ああ、なんて白々しいんだろう……と。 ■■■ 「――ここは、どこでしょうか?」 目が覚めた『ヨナ・ミューエ』――彼女の周りは暗闇が広がっている世界だ。 はて、こんな場所に来ただろうか、と記憶を探っていると――ああ、なるほど。 どうやらここは自分の夢の中らしい。 夢だというのはわかったが、だが意識はしっかりあるし、体も自由に動かせるとは不思議な夢だな、と。 そう思いながら、ヨナは適当に歩いてみることに。 すると――ふと。 「――あ」 暗闇の向こうから『ベルトルド・レーヴェ』の姿が現れた。 この広い空間に二人というのは心許なく感じ、ベルトルドの方に寄ろうとしたヨナだが、ベルトルドから向けられた嫌悪感に気づいた瞬間、足が止まった。 今まで彼がこのような雰囲気を出したことはなかった。 今まで自分に呆れられた事はあるけれど、それでも自分に向けている突き放した冷たさはなかった。 ――どうしよう。 どうして……? まさか、という事態に遭ったヨナは激しく動揺する。 動揺……動揺してしまうほど、これほどこの人の事が、気持ちが気になるようになったのは、いつからだろうか。 だが、冷たい視線を向けられたことで、間違いなく自分は動揺している。 激しく動揺するその気持ちは、だがふと――、 「……私は、自分が面白い人間だとは思っていませんが」 ヨナの口から言葉を生み出した。 「そんな私を様々な場所へ誘ってくれた事を、とても感謝しているんです」 思い出すは、懐かしき記憶の物語。 一つ、ブリテンの古城『カステル・モンテ・デル城』を訪れた時。 ブリテン巡回の仕事が終わった後に、ベルトルドがヨナを連れて行き、傷んだ壁や使い古された椅子を見て心に広がる感動をヨナは感じたのだ。 ……だから、感謝している。 一つ、『365日の歌』と書かれた雑貨屋での出来事。 ベルトルドがヨナの誕生日を祝うと言いつつ、店のサービス向上に協力する、という建前で。 茶色い毛並みをした大きなぬいぐるみを、ヨナにプレゼントしたのだ。 ……あれは、嬉しいものだった。 一つ。『オーセベリの雪遊び』での思い出。 初めての雪合戦、初めて作った雪玉は、とても良い思い出になった。 ……とても、楽しかった。 「他にも沢山の一緒の思い出があります。――私が『浄化師』以外の事に目を向けられるようになったのは貴方のお陰です。一緒にいて、私がどれほど助けられたかは言葉では伝えきれません」 思い出を語ったヨナは、真っすぐベルトルドを見つめて。 「……だから、そんな顔をされたって……私は貴方の事、好きですからね」 ――己の気持ちを伝えた、だが。 「も、もう、やだ……こんなこと、言うつもりじゃなかったのに……!」 流れに身を任せてしまったせいで、言うつもりがなかった言葉を言ってしまったことにヨナは声を震わせながら目に涙を溜めて赤面していた。 そのヨナを見ているベルトルドは、だが……どこか、嬉しそうに。 ――――…… コンコン、と扉を叩く音で夢から覚めたヨナ。 晴れない気分のまま起き上がった彼女は、ふと気が付けば瞳に涙を湛えていた。 急いで袖で拭うものの、しかし寝坊している……が。 「――今日はどうしたんだ?」 その声が聞こえた途端、扉の前にいるのがベルトルドだと認識した瞬間。 「――……っ!」 ヨナはまるで突き動かされるように、寝起き姿であるのも憚らずに扉の先にいたベルトルドに抱き着いた。 突然の出来事にベルトルドは何事かと思うものの、だが抱き止めてあやすようにヨナを揺らす。 「私、あんなこと言うつもりじゃなかったんです……」 ベルトルドの体に顔を埋めながら、だが話しかけるのではなく自分自身に言い聞かせるようにそう言い。 そして顔を見上げると、そこには夢とは違う、自分の知った表情があることにホッとした。 だが同時にヨナは正気に戻ったのか、 「す、すみません! 着替えてきますッ!」 大慌てで部屋の奥へ引っ込んでしまった。 「……なんなんだ、一体?」 突然の出来事に訳がわからないベルトルドだが、朝から面白いものが見れたと軽く微笑み。 そう、ヨナの大慌てぶりを……。 ■■■ 暗闇が広がる世界にて、『ルイス・ギルバート』は目の前にいる己のパートナーの姿を恐れていた。 己のパートナー――祓魔人の『モナ・レストレンジ』。 彼女のその姿こそ……ああ、自分が最も恐れていたもの。 痛いほど感じる憎しみの籠った視線を、モナがルイスに向けているのだ。 その視線に心が折れ、膝を崩してしまったルイスは、だがしかし。 「……レストレンジ、聞いてほしい」 無意識に口から言葉を発していた。 「僕は――元サクリファイスなんだ」 そう、それはモナが知らないルイスの過去の話。 話したことがない、ルイスの黒い闇の話だ。 「家族にも誰にも望まれなかったから、何に対しても愛なんて感情も持ったことがなかった。世界も、自分の命さえもどうでも良いと思っていたところに勧誘されたんだ」 人類を襲うヨハネの使徒とベリアルを信仰し、教団を悪と考える組織『サクリファイス』。 ヴァンピールの家系に生まれた彼が家族から問題分子扱いされて、誰からも愛されていなければ、信者になることは避けられない。 そしてその事実は、何をしても変えることはできない。 「何に対しても愛情を感じた事なんてなかったはずなのに、それを変えてしまう出来事があったんだ――それはモナ、君との出会いだよ」 そう、モナとの出会い――それがルイスの運命を変えた。 ルイスが初めてモナと出会ったのは、教団に追われている中だった。 「あの時は追ってから逃げていた。そんなところにも関わらず、モナは僕を匿って助けた。それから何度も……」 元々モナはサクリファイスによって村を滅ぼされた身――誰よりもサクリファイスを憎んでいる。 だが幸か不幸か、そうとは知らずにモナは信者のルイスを助けたのだ。 助けて、助けられた……しかしそれで終わった。 ――かと思いきや、ある時二人の立場は逆転した。 ある日、モナはサクリファイスから逃げていた――だがその途中で命の危機に陥ってしまったのだ。 その瀕死の彼女を助けたのは……言うまでもない、ルイスだ。 朦朧とする意識の中、自分を助けてくれた命の恩人を彼女は今でも想っているのだ……だが。 「モナが会いたい王子様は、最も憎むべき敵なんだよ。命を助けたんじゃない……モナは、僕と関わったから命の危機に遭ったんだから」 そう、彼女が危険な目に遭ったのはルイスに関わってしまったから。 敵を助けて幸せな展開に……なんてことはない。それは創作の中の話だ、現実は違う。 そも、自分達の敵が近くにいるのなら、それは一刻も早く倒さなければいけない。 悪の芽を摘むのには、その命を刈り取るのが当たり前で。 縁を紡いだモナをサクリファイスが殺すのは当然のことだった。 だがその信者であったはずのルイスが、何故にモナを助けたのか――それは。 「あの時助けたのは、きっと自分の感情に気づいてしまったから……」 ――――…… 魘されているルイスの隣にいるモナ。 彼が何の夢を見ているのかはわからないが、でもとびきり嫌な夢であることは間違いないだろう。 だから、早くその夢から覚めることを祈るばかり……と。 「――え?」 急に目を覚ましたルイスは、モナの腕を掴んでいた。 恐らくは無意識でそうしたのだろうが、だが彼の次の一言がモナを驚かせた。 「――あの時助けたのは、きっと自分の感情に気づいてしまったから……」 それは、ルイスが夢の中で語った最後の一言。彼はそれを無意識に呟いたのだ。 目を覚ましたルイスに真っ直ぐな瞳で見つめられてそう言われたモナは思考が停止した……が。 ――あれ? モナの視界に映っているのは、いつ何時も行動を共にしていたルイスの姿だ。 けれどその姿は、自分を命の危機から助けてくれた命の恩人の姿……そう重なって見えていた。 ――まさか……いや、でも気のせいだよね。 ルイがまさか、あの場にいるわけがないし……うん、気のせいだよね。 気のせい……なんだよね? だがそれは、果たして本当に気のせいなのだろうか……。
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*** 活躍者 *** |
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[2] リチェルカーレ・リモージュ 2019/05/10-21:48
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