~ プロローグ ~ |
1719年12月――教皇国家アークソサエティは、今年もクリスマスムードに包まれています。
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~ 解説 ~ |
現代社会とは、起源などが異なっていますが、基本的なイメージは同様のイベント内容になっています。
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~ ゲームマスターより ~ |
※イベントシチュエーションノベル『聖なる夜は終わらない』の対象エピソードです。 |
◇◆◇ アクションプラン ◇◆◇ |
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2
シキに誘われ、彼の寮部屋に足を運ぶ 大声で呼ばれ振り返り なんだ、その荷物… じゃ、片方貸せ はいはい、手伝うって - ソファーに座り、まったり …飲むか?(ココア) …ああ、なんだ 同郷な上にアンタ、貴族…だったのか(びっくり) …変だとは思わない 兄貴たちが言ってたにしろ、感じ方はそれぞれ違うだろ 家族、なんだろ。嫌味言われて、腹がたっても だからアンタは兄貴の死を悲しめるんじゃないか? …俺は捨て子で子供の頃、育ての親や住んでた、ノルウェンディにある村をベリアルに滅ぼされた その育ての親の行方も、今では分からずじまい 生きてるのか死んでるのか分からない だからそんなベリアルが俺も憎い 大変…いや、今はそうでもない 俺にはアンタがいる いつも元気で騒がしいヤツの傍にいるから、今更どうってことない いや、多い、こんなに食え…まあ、良いか… そこまでにしないと塩にするぞ(対応のおはなし) はいはい…アンタは元気だな。メリークリスマス |
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~ リザルトノベル ~ |
「アル、このあと暇?」
「……特に予定はないが」 「じゃ、俺の部屋こねー? くる? やったー! 三時間後な!」 まだなにも言っていないが、と陽気に走り去る『シキ・ファイネン』の背を見て思いながら、『アルトナ・ディール』は小さく息をつく。 かくして三時間後、アルトナは教団寮のシキの部屋の前にいた。 扉を叩こうと手を挙げたところで、 「アルー!」 左右と後方に伸びる廊下のうち、後ろの方から大声で呼ばれて振り返る。 シキ、らしき人物がよたよたと近づいてくるところだった。両腕で抱えた荷物の量が多すぎて、顔が見えていない。 「なんだ、その荷物……」 「アルとクリスマスパーティーやりたいなーって! いろいろ買ってきたんだぜ!」 弾んだ声に言われて、アルトナは今日がクリスマスだと思い出した。そのために呼ばれたのかと納得する。 「じゃ、半分貸せ」 「えっいいのか?」 「そのままだと前も見えないだろ」 てっぺんの紙袋から順に、アルトナはシキの荷物をとっていく。ケーキにリース、オードブルやボードゲームまであった。 張り切って買いこみすぎている気もするが、なんだかんだと言いつつ一夜のうちに食べ終え、遊び終えている未来も予想できる。 「飾りはさ、アルも手伝ってくんね?」 期待とお願いが入り混じった双眸に上目遣いで窺われ、アルトナは表情を変えないまま、わずかに肩を竦めた。 「はいはい、手伝うって」 ぱっとシキの表情が明るくなる。いそいそとドアノブに手をかけた彼の鼻と耳の先は、赤く色づいていた。雪が降り出しそうな寒さの中、買い物に走り回っていたのだろう。 「……風邪をひくなよ」 「なに、アルトナきゅん心配してくれてんの? やさしー!」 「はぁ……」 嬉しそうにシキが笑声を上げた。これだけ元気なら一瞬だけ抱いた心配もきっと杞憂に終わる。 思いのほかきちんと片づけられているシキの部屋に入り、アルトナは肌寒い廊下と暖房が稼働し始めた部屋を隔てる扉を閉めた。 壁にはリボンや花に微妙な違いがあるクリスマスリース。天井近くには紙の輪を細々と繋げた飾りに、赤と緑の小さなフラッグ。 窓辺にはほのかに甘い香りがするキャンドルが置かれ、窓には雪だるまのステッカーが貼りつけられていた。ケーキや手でつまめる軽食がところ狭しと並んだテーブルのすぐ側に、クリスマスツリーが堂々と置かれている。 室内灯の白い光を、ツリーにつけられた赤や緑、白や銀の飾りがきらきらと反射する。シキが仕上げに頂点に刺した銀色の星のきらめきは、眩しいほどだった。 全体的に赤と緑と金を基調としている室内で、このツリーだけは白や銀をふんだんに使用している。それがまた、雪を被った木々を彷彿とさせ、どこか神聖な美しさを醸し出していた。 「ふいー」 大いに満足して、シキは沈むようにソファに座る。男二人で手分けしたとはいえ、重労働だった。 「やー、でも一時間で終わったのはすげぇわ。もっとかかると思ってた。ルーくんほんとありがと」 「ほとんどアンタがやったんだ」 「えー」 へにゃりと眉尻を下げて笑うシキの眼前に、キッチンから出てきたアルトナは二つ持ったマグカップの片方を差し出す。 ふわりと立ち上る湯気には、チョコレートの芳香が含まれていた。 「飲むか?」 「飲む飲む。ありがと」 受けとったシキは早速ココアをひと口飲み、表情をますます緩ませる。アルトナもシキの隣に腰を下ろし、同じものを口にした。甘い。 「……ちょっと聞いてくんね?」 両手でマグカップを包むように持ったシキが、虚空を見つめながらぽつりとこぼす。 「ああ、なんだ」 普段通り抑揚の欠ける声音で返し、アルトナは彼の視線を追った。 赤と白のポインセチアと、金色のリボンが豪華なクリスマスリース。シキは見るともなしに眺めているのか、思い起こすことがあるのか。アルトナは頭の片隅で思案する。 「俺の家は、ノルウェンディにあるんだ」 偶然性に少し驚いて、アルトナの思考は断ち切られた。反射的にシキの横顔を見る。 いつも溌溂としている彼の表情は、不安そうに、困ったように、曇っていた。 「……あー……、で、そこそこな貴族で、上に五人、兄がいる」 「同郷な上にアンタ、貴族……、だったのか」 「実はそうだったんだぜ」 へへ、とシキが力なく笑う。 予想外の事実に驚嘆していたアルトナは、無言で続きを促した。彼の様子から察するに、この先の話には、よくない結末が待っている。 ふっと笑みを引っこめたシキは、どこかに落ちてしまった言葉を探すように、しばらく俯いていた。 「……けど、一番上の兄貴は、ベリアルに殺された」 ――この世界では、ありふれたことなのかもしれない。 しかし、喪った者にとってそれは当然でなければ、割り切れるものでもない。アルトナも、その痛みはよく知っていた。 「兄貴は後継ぎだから、厳しく育てられて。俺は……末っ子だったから、自由がほぼ許されてて。嫌味とか、その兄貴に言われてた」 けどさ、と掠れた声でシキは接ぎ、アルトナを見る。迷子になった子どものような双眸だった。 「アル、俺は、兄貴を殺したベリアルを、憎んでる」 冷め始めたココアの水面が、小刻みに波紋を描いている。シキの手は震えていた。 「変だと思うか? 他の兄貴には、散々嫌味言われ続けたのに変だって、言われてたんだ」 「家族、なんだろ」 白昼夢から覚めるように、シキの目が見開かれる。 「嫌味言われて、腹が立っても。だからアンタは、兄貴の死を悲しめるんじゃないか?」 「……それは、確かに……」 良好な関係じゃなかったとしても。 ――家族だから。 武器を手にする理由なんて、それで十分だ。 「そっかぁ……」 潤んだ瞳を隠すように、シキが片手で目を覆った。アルトナはソファの背もたれに体重を預ける。 「……俺は捨て子で、子どものころ、育ての親や、ノルウェンディにある村をベリアルに滅ぼされた」 静かな告白にシキが息をのむ。 横目で言葉を失っている彼を見て、アルトナは淡々と続けた。 「育ての親の行方は、今も分からずじまい。生きているのか死んでいるのか、分からない」 「アルも、ベリアルに……」 呆然とシキが呟く。アルトナは目を伏せた。 「だから、俺もベリアルが憎い」 「そう、か……。捨て子で……」 「アンタがそんな顔をするようなことじゃないだろ」 「だって……。大変だったな、アル……」 すっかり落ちこんだ様子のシキに、アルトナはゆるりと瞬く。 「……いや、今はそうでもない」 準備をしながら食べて、休憩を兼ねて話し始めてから放っておかれていたフォークをとり、アルトナは自身の取り皿に載せられていたケーキを食べる。 不思議そうにシキは首を傾けていた。 「俺にはアンタがいる。いつも元気で騒がしいヤツが傍にいるから、今更どうってことない」 「ア、アル……っ!」 ぷるぷるとシキが身を震わせる。泣き出しそうなシキに、面倒なことが起こる予感を抱いてアルトナは顔を背けようとする。 一足早く、シキの感動があふれた。 「もー! アルのそういうふとした優しさ、ずるい……っ、ずるい!」 「……そうか。全く分からないが」 「ケーキ、おかわりあるぜ!」 「いや、多い。こんなに食え……、まあ、いいか……」 目の端に涙を浮かべながら、シキがアルトナの皿にケーキを二つ追加する。 苦言を呈そうとしたアルトナは、先ほどまでのしんみりとした空気を忘れたようにはしゃぐシキの姿に嘆息した。肩を落とした姿より、こちらの方がよほど彼らしい。 「待って? ルーくんが俺に砂糖!? 何気に初めてじゃん……!」 素っ気ない塩対応ではなく、比較的甘い砂糖対応をされたことに気づいたシキの胸がじーんと温かくなる。 大げさな反応にアルトナが微かにため息をついた。 「そこまでにしないと塩にするぞ」 今にも快哉を叫びそうだったシキに釘を刺す。途端に彼の顔色が変わった。 「やだっ! 砂糖がいい!」 「はいはい……。アンタは元気だな」 「褒められてる?」 星のようにきらめくシキの目から、アルトナは視線を逸らし、ケーキを食べる。 イチゴがふんだんに使われたショートケーキは、口に入れるとほろりと解け、あとには程よい甘さが残った。 「今すぐにじゃなくてもいいから、アルのこと、もっと教えて欲しいって言ったら、怒る?」 タルトをつつきながら何気ない口調でシキが言って、口許に笑みを刻む。 答えはすぐに浮かんだが、アルトナは一拍の間をあけた。即答すればシキのテンションがまた急上昇するだろう。 別に、今夜くらいはそれでもよかったが。 「そのうち」 「ほんとに?」 「……気が向いたらな」 「やったー! あ、もちろん俺のことも知っていってくれよな! ちなみに今回一番おすすめのケーキはこれ!」 「まだあるのか……」 ホールケーキではなく、個別のケーキを数種類買ってきたのは、ショーケースに並んだ宝物のような菓子の数々を見て決めかねたからなのだろう。 新たに皿に追加された、新雪を戴く小山のようなケーキを前にアルトナは口の端をほんのわずかに上げる。 「アルトナきゅん、笑った!?」 「笑ってない」 「もう一回! さっきのもう一回!」 「うるさい」 「あー! 塩対応!」 さっきまで砂糖だったのに、とシキが大げさに嘆く。 甘いものが連続してつらくなってきたので、アルトナは揚げたポテトに手を伸ばした。塩気が舌に沁みる。 「あっ、大切なこと忘れてた。ルーくん、マグカップ持って」 聖夜であっても目まぐるしいシキの表情の変化に胸の内で感心し、同時に苦笑もしながらアルトナはマグカップをとる。残り三分の一ほどになったココアは、すっかり冷めていた。 「メリクリ、アルトナきゅんー!」 「ああ。メリークリスマス」 こつんとシキがマグカップの縁を触れあわせる。アルトナは時計を見る。今日が終わるまで、残り三時間ほどだ。 「この後は朝までボードゲーム大会やるぞー! 負けた方が勝った方の言うことひとつ聞くってルールで!」 「……自分が負けた場合も想定しているんだろうな?」 「えっ」 視線をさまよわせたシキが、ココアを飲んでから真剣な顔で問う。 「ちなみにアル、強い?」 「さぁな」 「俺が負けてもお手柔らかにしてくれる……?」 無言でアルトナはポテトを食べた。 「アル!?」 「先に言っておくが、勝負を仕掛けてきたのはアンタだからな」 「あっこれ手加減してくれない流れだ!」 天井を仰ぎ見たシキは、激しく頭を左右に振る。 「いや、手加減されて勝っても嬉しくないし? 勝てばいいだけだし!」 「シキ、雪だ」 「ルーくん聞いてる? えっ雪?」 熱い決意表明を聞き流したアルトナが席を立つ。シキも彼について、窓辺に寄った。 ぽつぽつと明かりが灯っている教団敷地内の建物と、遠くに並ぶ街並み。その上から、ひらひらと雪が舞い落ちてきていた。 「ホワイトクリスマスじゃん、ルーくん!」 「積もるころにはクリスマスも終わってるだろ」 そもそも積もるかどうかも分からないのだが、シキには関係ないらしい。目を輝かせ、雪だるまのステッカーに片手をついて見入っている。 「……まあ、いいか」 折角のクリスマスだ。 細かいことはおいておくことにして、アルトナも夜空を見上げた。雪花はしんしんと降る。 薄くでもいいから積もればいいと、心の片隅で思った。
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*** 活躍者 *** |