~ プロローグ ~ |
「私はどうしても、あの桜が見たいのです」 |
~ 解説 ~ |
依頼主のおばあちゃんを護衛し、村から1時間ほど歩いた所にある桜を見に行くお話です。無事村に帰って来られれば依頼は成功となります。 |
~ ゲームマスターより ~ |
初めまして。あるいはこんにちは。あさやまと申します。 |
◇◆◇ アクションプラン ◇◆◇ |
|
||||||||
目的 おばあさんのお花見を成功させ、無事に安心させて家まで送り届ける 準備 ハンバーガーとお茶入りの水筒を二つ持っていく 手段 行きと帰り交代でおばあさんを護衛する 物々しくならないように…だけど油断だけは絶対しない イダと目配せ、周囲を油断なく物音もよく聞く 「…葉っぱの囁く声がする」 「アラシャはポエマーだな」 「む。イダにはハンバーガーあげない」 「おっとすまん。それは勘弁だ」 批難するような目をイダに向ける 戦闘があってもいいように、斧は背中に このくらいの物々しいのはちょっと我慢してほしい 「おばあさん、旦那さんはどんなひとだった?」 おばあさんがそこまで言うのだから、きっと仲が良かったのだろうと予想する |
||||||||
|
||||||||
【目的】 おばあさんの護衛。 【行動】 行き帰り共に、おばあさんを乗せた馬より後方につく。 後方の警戒を行う。 馬に蹴られたら大変なので、馬の真後ろには行かないように注意する。 ひろのは、周囲やたまに後ろを確認。 他の浄化師を見ては、他のところはあんな感じなんだなと観察。 後方から何かあれば、おばあさんの盾になるように相手とおばあさんの直線上に立つ。 ルシェは、常に周囲を軽く警戒しながらメンバーの速度を確認。 護衛とはいえ移動は一番足が遅い者に合わせるのは知っている。 後方で戦闘になるようなことがあれば、前衛を務めるつもり。 前方で何かあったときは、後方の警戒を怠らずに待機。 花見は、離れ過ぎない位置でのんびり眺める。 |
||||||||
|
||||||||
お婆さんのお花見を無事に行う ◆心情 ・ローザ ミセスの為にも、無事に護衛を遂行しよう それにしても…サクラとは、どの様な花なのだろうか ◆持ち物(二人分 市販のサンドイッチ等の軽食 お茶 ◆道中 ・ローザ 依頼主であるお婆さんが乗っている馬の後方で護衛 乗馬の心得はあるので、トールさん達の補佐をする ・ジャック ローザの横で警戒 警戒中に違和感があれば皆へ警告をしたい もしベリアルが登場した場合は依頼主を先に行かせ討伐を試みる ◆到着 護衛は交代で行う 穏やかに花見をしている皆を緊張させない様なるべく遠巻きに 見張り交代後には私達も花見をしようか ◆帰路 帰りも行きと同じ位置で護衛 花見でリフレッシュした分、気を引き締めて掛かりたい |
||||||||
|
||||||||
桜? 少なくとも私の記憶にある限りは見たことがない物ですが…え?バラ?アーモンド? 俺は道中周囲を警戒していよう いざとなったらライフルの銃声で威嚇も考えるが…用心に越したことはない うららかな春の雰囲気に合わせるのはドクター含め他の仲間がしてくれるからそれでいい 目的地に着いたら少し辺りを見回して…って? ドクター? 私に用事? え? 引っ張らないでくださ―って これが桜…確かに見事だ 「アンデッドはエルフより短命だから見ておけ」って、それは余計なお世話な気もしますが…お気持ちは感謝します 帰りはドクターをおぶりますよ おばあさんの警戒が少し薄れるのは申し訳ないですが 何にせよ、この機会を感謝せねばな… |
||||||||
|
||||||||
※名前呼び捨て 水筒にお茶を入れて持参 行き帰りとも、おばあさんから少し離れた前を歩く 何か飛び出してきたらおばあさんを庇えるようにしておく 斥候兼盾の役割ね 時々後方を振り返って確認 到着後、交代で見回り 私は先に見回りに行こうと思ったんだけど、トールが早々にお花見を始めちゃった 仕方ないから、私達は後半担当にするわ 浄化師なんだから、ペアで行動しないといけないでしょ 仕方なくよ、仕方なく 桜の思い出話か… 「私の育った森には桜がなかったから…」 でもこの花の美しさは分かるつもりよ ところでトールってお年寄りに優しいわよね… もしかして、年上が好きなの? な、何ムキになってるのよ!? …どうしてそんなこと気になるのかしら、私 |
||||||||
|
||||||||
お婆さんをしっかり護衛。 だけど緊張させちゃあお婆さんもゆっくりお花見できないから適度に力を抜いて、ね。 道すがら俺で良かったら旦那さんとの思い出なんか聞いてみたいな。 ふふ、任務だけどなんだかピクニックとか遠足みたいだね。 みんなで目的地に行って寛いだり遊んだり。 あ、綾ちゃんお弁当もってきてくれたんだ。おにぎりだねー。 この間も作ってくれたよね。ありがとう。 これならささっと食べられるし。 はい、僕からはお団子。お花見と言ったらこれだよね。 桜か…綾ちゃんは桜が好きだったよね。今でも好きなのかな?それとも覚えてないかな。 でも綾ちゃんはとても桜が好きだった。 花は咲き花は散る…だからこそ美しいと思うかい? |
||||||||
|
||||||||
目的 おばあさんを無事に、お花見に連れて行って戻ること。 行動 基本は護衛。 桜は護衛しながら遠目に眺める位で。 出発前におばあさんや村の人に、桜の場所までの道順や注意が必要な箇所等情報収集。 行き帰りはおばあさんに馬を借りてきてもらって乗ってもらって。 皆で前後を守りながら移動。 おばあさんに合わせてのんびりペースで。 他にいなければ、シルシィは手綱を引く役? 必要なければ前後の人数の少ない方に。 周囲の様子や音にも注意。どんな音が聞こえるか聞こえなくならないか…? 桜の場所に着いたら、お花見の邪魔にならないように、少し離れて周囲の警戒。 他にも護衛する人たちがいれば方向で分担、いなければゆっくり移動しながら? |
||||||||
|
||||||||
◆目的 おばあさんに安全に、心行くまでお花見をしてもらおう ◆持ち物 お弁当とお茶とお菓子 敷物と折りたたみ椅子(おばあさんが必要なら使う) かーくんがまとめて背負ってくれる ◆行き帰り 馬を借りておばあさんに乗ってもらう みんなは徒歩で周りを護衛しながら進む わたしもかーくんも後方につく かーくんは登山にちょっと詳しいから、足元や周りに危険がないか注意して、何かあったらすぐみんなに伝える ◆現地で お花見しながら交代でおばあさんを護衛しよう お弁当とお菓子、よかったらおばあさんもみんなも食べてね おばあさんの近くでお話を聞く わたしには過去がないから、誰かの思い出を聞くのはとても好き …かーくんも、おばあさんとお話したい? |
||||||||
~ リザルトノベル ~ |
●お出かけする前に 春の陽気も濃くなり、ぽかぽかと温かく晴れた日。アークソサエティの片田舎にある小さな村に、浄化師達は集合していた。護衛任務に出発する前に、諸々の準備と情報共有を済ませておこうというのだ。 「特別、ベリアルや野犬なんかが出たって噂は聞かなかったな」 「……ん」 マリオス・ロゼッティとシルシィ・アスティリアが聞いて回った情報を共有。その他みんなで地図を眺めて、気を付けるべき箇所なんかを皆で出し合う。今のところ、1番に気を付けるのは山道をどう歩こうかということくらいだった。 ●出発 「こんにちは浄化師さんたち。今日はよろしくお願いいたします」 依頼主の老婆はにこにこと頭を下げた。優し気な人だ。護衛任務ということでみんな背中に斧や銃を背負っていたり剣を携えていたりするが、彼女は特別気にした様子もない。 「じゃあ、初めは俺が手綱持つんで」 借りてきた農作業用の馬を引いて、トール・フォルクスは老婆に乗るよう示した。乗馬は何人か心得のある者がいたので、途中で交代しながら手綱を引く予定だ。馬は大人しく、良く言う事を聞いてのんびりと歩き出した。それに合わせるように、一行はゆっくりと村を出る。 事前に決めたように、老婆の乗る馬を囲んで山道を進む。山道や索敵に慣れた者が少し前を進んでいるが、木々の間から柔らかな日差しが差し込んでいたり、遠くで鳥の鳴く声が聞こえていたりとひどくのどかな道中だ。さらさらと流れていく風の中にも、不穏な鳴き声やら足音やらは聞こえてこない。 「……葉っぱの囁く音がする」 「アラシャはポエマーだな」 何か怪しい物音がしないかと耳を澄ませていたアラシャ・スタールードはぽつりと呟いた。隣を歩いていたイダ・グッドバーは、その小さな呟きを拾ってからかうように返す。 「む。イダにはハンバーガーあげない」 「おっとすまん。それは勘弁だ」 つん、と口をとがらせ非難するような目を向けられて、イダは素直に眉を下げて謝った。 「ところで、トールってお年寄りに優しいわよね……。もしかして、年上が好きなの?」 前方で斥候の役目を担っていたリコリス・ラディアータは、ふっと気づいたように振り返って、手綱を交代し前へ並びに来たトールへ尋ねた。 「ブッ!? そういうわけじゃない年下も魅力的だと思うぞ!?」 「な、何ムキになってるのよ!?」 思いもよらない質問だったのかむせるほど驚いたトールと、大袈裟な反応に驚くリコリス。会話はそこで止まってしまったが、彼女は内心どうしてそんなこと気になるのかしら、なんて首を傾げてしまった。 「……帰りは護衛に専念しよう……」 リコリスには聞こえないよう、トールはぼそりと呟いた。 「何かあったらの護衛だ。今からそんなに気を張ってどうする」 緊張している面持ちの最上・ひろのに、相方のルシエロ・ザガンが声をかける。馬の後方で後ろを警戒している2人だが、ひろのの方は初めての護衛任務ということもあってかそわそわと硬い表情で周囲を見回していた。 「そう、ですけど」 「俺も他の浄化師もいる。少し落ち着け」 「……はい」 緊張を解こうと彼女の肩を叩くルシエロ。だが、ひろのはビクッと肩に力を入れてしまった。ひとまず他の浄化師の方へ目を向け、適度にリラックスした様子で話したり周囲の様子を見たりしている彼ら彼女らを見て、他の所はあんな感じなんだな、と観察した。 浄化師のみながいるからか、老婆は安心した様子でのんびりと景色を眺めていた。 ●道中のお話 「おばあさん、旦那さんはどんなひとだった?」 道中の暇潰しにと、肩越しに振り返ってアラシャが尋ねた。 「わたしも聞いてみたいな、おばあさん?」 「ああ、良ければ俺も」 馬の後方で警護をしていたアユカ・セイロウが耳聡く便乗する。ねえ? と同意を求めた相方の方は相変わらず、硬い顔で曖昧に同意したが。のんびりと微笑みながら、ジエン・ロウもどうだろうかと首を傾げている。ふんわりとした笑いは春の陽気のようでもあった。彼の相方は少しばかり緊張しているらしかったが、笑いかけられて笑みを返している。他の面々も気になってはいたようで、一行は少し静かになってしまった。 「指令で話を伺ったときは羨ましいと思いました。あちらにいっても想ってもらえるなんて、羨ましいです」 珍しく敬語のイダに促されて、老婆はみんなを見回しくすくすと笑った。 「そんなにえらい人ではありませんでしたよ。頑固で我儘で、気難しくって。危ないからって言ったのに、あんな所に桜を植えるんだって聞かなくて」 愚痴っぽい内容を、しかし緩やかに語る彼女は、にこにこと微笑んだままだった。 「でも……そうですね、昔から。私が笑うと、嬉しそうに笑ってくれたわ」 恥ずかしそうにそう言い、それから彼女は浄化師達に尋ねる。 「桜の木を見たことはおありですか?」 幾人かは覚えがあると手を挙げ、他の者は知らないと首を振った。桜の木、桜の花、という内容について、話題が移る。老婆はどうぞご自分の目で見てくださいな、と笑った。 「少なくとも私の記憶にある限りは見たことがないものですが……」 「ショーンは桜を知らないの? バラの仲間だけど……八重のバラは似てないからなぁアーモンドに似てるって言っても分かんないだろうし」 馬の横を、歩調の合うように歩いていたショーン・ハイドは記憶をたどってわずかに首を傾げた。一方で、相方のレオノル・ベリエは知っているようで、どう伝えようか考えているようだ。植物の分類から、なんて少しずれた説明をしようとして、更に首を傾げられていたけれど。 「ま、百聞は一見に如かずだよ」 「……はい」 「サクラとは、どのような花なのだろうか」 油断なく木々の間を見ながら、ローザ・スターリナは呟いた。彼女は桜を見たことがないようだった。横に並んだ相方、ジャック・ヘイリーに向けた言葉だったのかもしれないが、彼はちらりとそちらを見ただけだった。いつも口論ばかりしているだけに、静かなのは少し変だとも思ったが。後ろでのんびり笑っている老婆に、この男なりの気遣いなんてものをしているのかもしれない。いつも通り悪い口が出そうになったのを、ローザは飲み込んで前を向いた。 今から見に行くのだから、そう詳しく説明することもなかろう、と。他の人もそういう結論になったらしく、昔見た、だの故郷にはなかった、だのそういった話に移っていく。 さらさらと流れる風は心地よく、道中にも春の花がちらほらと咲いている。きっと、花見には良い日和だった。 ●山奥に咲く、桜の木 細い山道を抜けた先に、その桜は咲いていた。木の下には少しだけ平坦な地面が広がり、今いる人数でならみんなで座って花見をすることも出来そうだった。他の木々に交じってぽつんと1つだけ花をつけたそれは、緑の間に遠くからでも良く見えた。樹木にしてはまだまだ若く、枝も幹も細い。だが、その枝一杯に咲いた薄桃色の花びらは、周りの緑に浮かんでよく映えていた。風にあおられてはらはらと花びらが散る様子は美しい。老婆の言った通り、その桜はちょうど満開の花を咲かせている。 「きれいな桜ですね~。まるで植えた人の心を表してるみたい。おばあさんの大切な人は、とても素敵な人なんですね。いつまでもこうして、おばあさんの心に花を咲かせてくれるんだから」 桜の木に近づいて、下からその花を見上げながら、アユカは老婆に向かって笑いかける。そんなことはなかった、と彼女は言ったが、アユカの言を受けて嬉しそうな笑顔だった。 「どうしたの、かーくん?」 何か言いたげだった花咲・楓へ、彼女は話を振った。驚いて少し固まった彼は、しかしいつもの表情をなんだか少し和らげて、桜の花を見上げる。彼はニホンの出身だし、もしかしたら故郷で桜を見たこともあるかもしれない。 「いや、その……。人の思いは、何時までも色あせることなく残る者なのだな…と思いまして。この先の春もずっと、咲き続けると良い……ですね」 やや緊張気味だが、彼はぽつぽつと、生まれ故郷を思い出したのか柔らかい言葉を選んで述べていた。楓はおばあさんと話したいのだろうか、とアユカはまず、老婆と共にお花見へ回ることにした。 「お弁当とお菓子を作ってきたから、良かったらおばあさんも皆も食べてね」 楓と一緒に、おばあさんが用意したレジャー用の敷物を広げながら、アユカはうきうきと花見の準備を進めた。楓が作った和風の弁当。その横に、アユカが作った果物のチョコレートがけが並ぶ。どれも春の食材が使われた鮮やかな品だ。 「かーくん、持ってくれてありがとうね」 「いえ、アユカさんに持たせるわけにもいきませんし、このくらい」 諸々の荷物までまとめて背負ってくれた楓に、アユカは礼を言ったが、彼はいつも通り少し不自然に視線を逸らして返答するだけだった。 他のみんなも、弁当や水筒にお茶を持ってきたりしているようだ。 「ふふ、任務だけどなんだかピクニックとか遠足みたいだね。みんなで目的地に行って寛いだり遊んだり」 「そうですね……そんなふうに私たちも楽しみましょう。その方がおばあさんも楽しめるはず」 花見のための作業を手伝いながら、ジエンの言に、吉備・綾音は頬を緩めた。気を張ってしまってはいけないと息を吐く。思い出は沸いてこなくとも、美しく咲く花を見上げて、用意した荷物の中から包みを取り出した。 「あの…お弁当におにぎりを作ってきました。相変わらず上手ではありませんが……お腹は膨らむと思います」 少しだけ遠慮がちに、綾音は持って来ていた包みを広げる。差し出された相方のジエンは、自分も包みを開きながらそれを覗き込む。いつものように、柔らかい笑顔で。 「あ、綾ちゃんもお弁当持って来てくれたんだ。おにぎりだねー。この間も作ってくれたよね。ありがとう。これならささっと食べられるし。はい、僕からはお団子。お花見といったらこれだよね」 「ジエンさんはお団子を持って来てくれたんですか? そうですね…お花見にはお団子……そんな気がします」 散る桜の下で、最初に警護へ回った組を除いてみんながそれぞれに荷物を広げているから、本当に和やかなお花見に来たようだった。 「綾ちゃんは桜が好きだったよね。今でも好きなのかな?それとも覚えてないかな」 「桜は今も好きだと思います。具体的な思い出にはつながりませんが」 覚えていない、と綾音は告げたが、彼女はさらに言葉を続ける。それを覚えているらしいジエンは、だけど多くを口にはしなかった。綾音はそれについて問うことはなく、朧げな記憶を口にする。 「確かにあの薄紅の花が散るさまを誰かと一緒にみていたのです。そして散る桜を美しいと思ってしまうのです」 懐かしい、とは少し違うかもしれないが、彼女は浮かぶ記憶に頭上の桜を重ねて眺めた。 「昔ニホンを旅していた時、見事な桜の樹を見たんだ。でもこの樹もそれに負けないくらい綺麗だ」 敷物やらの花見場所設営を手伝った後、桜の下に座ったトールは、陽の光の漏れる花を眺めながら言った。見回りに出ようと思っていたリコリスは、早々に花見を始めた彼の隣にちょんと座る。仕方ない、といったふうに息を吐きながら、桜を初めて見た彼女は懐かし気な彼の言葉を受けて呟く。 「私の育った森には桜がなかったから……。でも、この花の美しさは分かるつもりよ」 羨ましい、というふうでもなく。嬉しそうに微笑む老婆や、周りでぽつぽつと語られるみんなの思い出に、耳を傾けた。 「桜……」 敷物を敷いたお花見には加わろうとせず、シルシィはぼんやりと遠目に桜を眺めていた。 「ああ、本当にきれいだなあ。……シィはお花見しなくていいのか?」 それに付き合ってか、隣に立ったマリオスは尋ねた。特に嫌だという様子もなかったが、シルシィは首を横に振る。 「いい」 「……? そうだ。腹減っただろ? 弁当作ってきたから。僕が見てるから、先に食べろよ」 桜を眺める彼女はまんざらでもなさそうだった。マリオスはいまいち意図が分からなかったのか首を傾げたが、とりあえずと弁当を差し出す。 「ん、ありがとう……あ」 ひらひらと風に舞った花びらが2人の前に落ちて、シルシィは小さなそれに手を伸ばした。彼女の手をすり抜けた花びらを、マリオスが器用にキャッチして差し出す。 「……ほら」 薄桃色の1枚を受け取った彼女は、それを眺めてふわりと笑った。 「サクラとは……美しいな」 桜の木を遠巻きにし、最初の見張りを買って出ていたローザはぽつりと零した。特別誰に向けての言葉でもないようだったけれど、その言葉には同じく遠巻きに見張りをしていた相方の同意が返って来る。普段割と厳つい言動をするジャックは、なんだかいつもより刺々しい雰囲気ではなかった。 「貴方も、花を愛でるんだな」 彼女の方を見ることこそしないが、桜を見て呟いた言葉へ突っかかりも何もなく同意を返されて、内心驚いて言った言葉には、やっぱり少しきつい視線が返ってきたけれど。いつものように口論へ発展することもなく。普段より、穏やかな会話ではあったかもしれない。 相方が何を考えているかなんていざ知らず、気を抜かずに周囲を警戒しながら、ジャックは花見なんて何時ぶりだろうと少しだけ思いをはせていた。 「せっかくここまで来たんだ、花を見て行かないなんて無粋な真似は許さないよ?」 見回りは交代でという話だったのだが、山道の途中と言っても良いほど遠くで周囲を警戒しているショーンの手を、レオノルは引っ張って桜が見える所まで連れて行った。 「え? 引っ張らないでくださ……」 護衛に徹しようとしていた彼は、それでも木々の間から見えた桜に言葉を切る。 「これが桜……確かに見事だ」 「アンデッドはエルフより短命だから見ておけ」 「……お気持ちは感謝します」 付け足された言葉に少しだけ微妙な顔をしたショーンだが、レオノルにその自覚はないようだ。結局2人とも、交代が来るまでは、その場で遠目に桜を眺めることにしたようだった。 「まさか、此方でも桜を見ることができるとはな」 周囲の見張りを交代して、遠くから花見の様子を見ながら、ルシエロは呟く。一緒に護衛へ回っていたひろのも、内心同意してぼんやり楽し気な様子を眺める。 「混ざらないのか?」 「あまり……人と話すのは得意じゃ、ないので」 ごまかすように水筒の水を飲み、彼女は短く答えた。隣にいる彼の方が混ざればいいのに、なんて考えながら。 「そうか」 だが、彼女がそれを口に出すことはなかったし、彼の方も短く返しただけだった。桜、きれい。穏やかな風の中でそんなことを思いながら、ひろのはもう一口水を口に含んだ。 ●帰り道も、気を抜かぬよう しばらくの間、皆が持って来た弁当やお菓子を食べながら花見をし、片付けをして後は帰るだけ。来た時と護衛の位置は変わらないが、無事に花見を終えたことで少しだけ肩の荷が下りているようだった。周りを警戒しながら、それ以外を見る余裕も出て来たらしい。 「スターリナ」 短く相方を呼んでジャックが指差した先には、若い山菜が群生していた。珍しいこともあるものだ、とローザは相方を見返す。 「…………別に、そんな時もある」 彼の返答は、やっぱりそっけなかったが。結局皆の許可を得て、春の味覚を少し収穫した。 「まぁまぁ、美味しそうですね。そうだ、今日のお礼に、皆さまお夕食はいかが?」 嬉しそうにその様子を馬上から見ていた老婆の誘いは、残念ながら皆で丁重に断ることになったが。美味しいお土産も持って、また山を下る。 「イダも、死んだら想ってほしい?」 前方を2人並んで歩きながら、アラシャはぼそりと、思い切ったように尋ねた。彼はいつも通りの口調で返してくる。 「……縁起でもないなぁ。さっきの話だろ? そうだな、俺は少しでもいいから思い出してほしい」 「あたしは忘れない。ずっとイダのこと覚えてる」 はっきり告げると、今度は少し返事に間があった。 「それじゃあ、アラシャが死んだら俺がずっと覚えてるよ」 結局、声はいつもと変わらずはっきり聞こえたのだけれど。 「……さすがに、少しばかり恥ずかしいね」 ショーンの申し出受けたレオノルは、彼の背におぶわれて山を下っていた。周りが普通に流してくれているのも微妙な気分であるようだ。 「でも、疲れているでしょう」 わけもなく彼女を背負って、ショーンはすたすたと足場の良いとは言えない道を歩く。「そりゃあ、そうだけれど」 「下りたいとおっしゃるなら、そうしますが」 「……いや、良い」 周囲に気を向けても、時折鳥の声が聞こえる程度で至極平和な帰り道だった。 ●帰宅するまでが任務です 「浄化師の皆さん、今日はありがとうございました」 村に戻り、老婆は皆に向かって頭を下げた。1人ひとり丁寧に礼を言われて、浄化師達は帰還することになる。司令部に戻れば、わずかながら報酬が支払われることになるだろう。 何に春を感じるかは人それぞれだ。だが、出会いと別れの季節と言うように、老婆の思い出と春の花を見て、なにがしか思う所はあっただろう。戦いの合間の平和な小春日和に、少しばかり距離が縮まったかもしれない。
|
||||||||
*** 活躍者 *** |
|
|
|||
該当者なし |
| ||
[22] アユカ・セイロウ 2018/04/30-22:56
| ||
[21] リコリス・ラディアータ 2018/04/30-20:30
| ||
[20] トール・フォルクス 2018/04/30-20:28
| ||
[19] トール・フォルクス 2018/04/30-20:28
| ||
[18] 最上・ひろの 2018/04/30-17:34
| ||
[17] ローザ・スターリナ 2018/04/30-17:07 | ||
[16] トール・フォルクス 2018/04/30-11:32 | ||
[15] アユカ・セイロウ 2018/04/29-07:36 | ||
[14] アラシャ・スタールード 2018/04/28-22:47
| ||
[13] シルシィ・アスティリア 2018/04/28-21:25
| ||
[12] ジエン・ロウ 2018/04/28-15:09
| ||
[11] リコリス・ラディアータ 2018/04/27-23:32
| ||
[10] レオノル・ペリエ 2018/04/27-21:02 | ||
[9] シルシィ・アスティリア 2018/04/26-22:38
| ||
[8] リコリス・ラディアータ 2018/04/26-21:52
| ||
[7] アラシャ・スタールード 2018/04/26-07:02
| ||
[6] シルシィ・アスティリア 2018/04/26-00:13
| ||
[5] ローザ・スターリナ 2018/04/25-20:52
| ||
[4] ジエン・ロウ 2018/04/25-20:28
| ||
[3] トール・フォルクス 2018/04/25-15:59
| ||
[2] 最上・ひろの 2018/04/25-15:40
|