~ プロローグ ~ |
「何々? パン屋さん主催の運動会?」 |
~ 解説 ~ |
・種目 |
~ ゲームマスターより ~ |
はじめまして! |
◇◆◇ アクションプラン ◇◆◇ |
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◆意気込み 唯「動機は欲にまみれていますが 運動…あ、あまりやる機会ないので… 足でまといにならないように…精一杯頑張りま、す…」 瞬「歳が歳だからどこまで動けるかなぁ〜?」 ◆1 ・卵運びは瞬が参加、唯月は補充 瞬「難しそうだけど…出来る限り頑張るよ」 唯「わ、わたしだったら…すぐ落としちゃいそう…です…」 ◆2 ・お互い知力は高め、二人で力を合わせて 唯「縦長でカラフルななびくもの…?」 瞬「ネクタイ?…でもなびく、か…」 唯「…は、ハチマキ…でしょう、か?走ってる時風でなびきますよ!」 瞬「じゃ、行こー!」 ◆3 ・身長差が激しいが信頼関係でカバーしたい 唯「ま、瞬さん…!」 瞬「大丈夫!ゴールまで頑張ろ!」 唯「はいっ!」 |
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∇卵 ・ティ 鍵開けの微妙な指先の揺れの動きを感じながら卵を運ぶ ・ロス 置場で卵持ってすぐ行けるよう準備 ∇宝 ティ:最終手段はロスさんにトランスして貰って! ロス:いやー置場以外のは失格だから? ∇二人三脚 ・ロス ゆっくりめ ティの腕をタイミングみて引っ張りながら進む ・ティ 大幅でロスの足を見ながらタイミングを合わせる ∇応援 ロスが大声と腕ぶんぶん回して応援 ティつられて体乗出し声出し ∇屋台 狼姿のロスと他の4人と一緒に「もふもふは正義!」と狼をもふりつつ ペット生活長くロスはじゃれ合いは好きなので男女構わずされるがまま ティ「どこ行きます?あっちに美味しそうなケーキが、あっちのキャンディも美味しそう!」 皆でまったり歩く |
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【目的】 妻のクラルと楽しい事を沢山経験したい。 だから、まぁ…どちらかと言うと、 優勝よりも身体を動かして楽しむ事自体が目的かな。 参加する他の皆も、楽しく良い思い出が作れると良いよね。 【行動】 卵運びは僕が出るよ。 落とさない様にそっと移動しないと。 うーん…慎重になり過ぎてスピードは出ないかもしれないね。 宝探しでは応援に回るよ。 メモには何が書いてあるんだろう、クラルは大丈夫かな。 いや大丈夫だとは思うんだけど…ドキドキするな。 二人三脚は正直楽しみなんだ。 上手く走れても、走れなくても、 隣に彼女がいるのならきっと凄く楽しい筈。 あとは、屋台も回ってみたいな。 折角だし他の人達と御一緒したいね。 |
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~ リザルトノベル ~ |
ここはソレイユ地区、パン屋と雑多な商店が集まり主催した運動会会場。商店の主達は屋台を出店し製品をここぞとばかりに売り込んでいる。 「おおー! うまそー!」 一際大きい声に、買い物を楽しんでいた人々が何事かとそちらを見た。 「ちょっ!? ロスさん!」 シンティラ・ウェルシコロルが肉を焼いている屋台に向かうロス・レッグを慌てて止める。 「あ、いたいた。ホラ、やっぱりロスだったでしょ?」 「本当だ。楽しそうだね」 しかし、その声に惹かれたのか他の参加者も集まってきた。 「やぁ皆体調はどうだい? 俺は歳のせいか腰がねぇ」 「……瞬さん歳聞いても教えてくれないじゃないですか」 泉世・瞬のおどけた調子に可愛らしく突っ込みを入れているのは杜郷・唯月だ。 「受付がすぐそこだったから皆のタスキを受け取って来たよ。こういうことは年長者がやらないとね」 静かだが、この喧騒の中でも不思議と良く通る声の持ち主はクラウス・クラーク。隣で穏やかな笑顔を浮かべているのは妻であるクラル・クラークだ。 「あ、ありがとうございます、クラークさん。あ、えっとお二人ともクラークさんだから……クラウスさん」 唯月はクラウスにお礼を言うとペコリと頭を下げた。 「構わないよ。はい、これ」 クラウスは皆に参加者用と書かれているタスキを渡す。 「ありがとう、クラウス」 「あ……ありがとう……ございます」 ニコニコと笑う瞬と、はにかむ唯月。 「ふはははー! 終わったら屋台なー!」 ロスが先導し、その様子に皆の笑顔が零れた。 *** 即席の競技場に入ると、卵運び競争の走者が呼ばれた。 「んじゃいづ、行ってくるよ~。応援していてね~」 「は、はい! 瞬さん頑張ってくださいね!」 ヒラヒラと手を振る瞬に唯月も返す。 「ティ、頑張ってな。主に俺のご飯の為に」 「ロスさん……。寝そべりながら応援されても嬉しくありません」 クァと大きな欠伸をしながら狼形態となったロスに胡乱げな視線を送るシンティラ。 「僕も行ってくるよ。クラル、サポートは頼んだよ」 「……ええ、任せてクラウス……どんな時も支えるわ……」 クラウスはクラルに微笑む。 「はい、ではこちらを持ってお待ち下さい」 係員が走者の3人にスプーンを渡し、順々に卵が載せられる。 だが、それに異を唱えたのはシンティラだった。 「あの、すみません。私とクラウスさんの卵は他の方より少し大きめなんですが」 「シンティラさんとクラウスさんですね。手先が器用そうなアライブの方や技能を持っている方には公平性を期す為にハンデを設けています」 係員が説明をする。 「鍵開けですか……」 「僕の方は医術だね。不器用な医者なんて怖いだろう?」 シンティラは渋々と納得し、クラウスは軽く冗談めかして笑った。 「それでは卵運びを始めます! 位置について……スタート!」 係員の合図と共に飛び出たのは瞬だ。 「おっ、はっ、とッ! はは、なかなか難しいね」 小さなスプーンの上で卵が揺れるが、絶妙なところでバランスを取っている。 「かなり不安定ですが……。それでも何とかなりそうですね」 一回り大き目の卵を運んでいるにも関わらず、瞬に続くシンティラ。 「結構難しいね。けれど少しペースをあげた方が良いかな」 クラウスの卵も大きいが医者としての集中力だろうか。シンティラを抜かし、瞬に迫る! 「うわわわっ!? クラウス速っ! あ!」 その姿に動揺したのか瞬が卵を落としてしまい、音を立てて割れた。 「瞬さん! 今、行きます……!」 待機していた唯月が走る。その姿に瞬は唯月が転ぶのではないかと若干ヒヤヒヤしたが、その心配は杞憂に終わった。 「ありがとう! 俺頑張るからね!」 「瞬さん、前! 見て……!」 卵を受け取り、振り返りながら唯月にウィンクを飛ばす瞬。割と器用な事をしているが唯月に注意され、ペロリと舌を出して前を向く。 「唯月さんって走るの速かったんですね……」 二番手のシンティラが呟く。 「でも私も負けてはいられません。手先の器用さには自信がありますし、ロスさんにも良い所を見せたいです」 シンティラは息を大きく吸って止め、一気にペースをあげた。そのままクラウスを追い上げる。 「うへっ、ティのやつ本気だ。集中力を高める為に呼吸を止めてるな」 「え……。それって大丈夫なんですか……?」 卵置き場で待機しているロスと唯月が話している。 「……血圧が急上昇するので……心臓の悪い人は注意ね」 クラルが二人に説明している。その間にもシンティラはクラウスに迫る! 「ゴーールッ!」 係員の旗が上がる。ほぼ時間を置かずに瞬もゴールに着いた。 「あちゃあ、三位かぁ。ま、次で巻き返すよ~」 瞬が人差し指で頬を掻きながら呟く。 「第一種目の卵運びは一着、シンティラさん! 二着、クラウスさん! 三着、瞬さんでした! この後の競技も頑張ってください!」 係員の声が響き渡る。屋台を回っていた観客も拍手と歓声をあげていた。 「おー。ティ、お疲れー。よくやったー」 「ロスさん……。口の周りが光ってますよ。つまみ食いしちゃ駄目でしょう」 「バレたかー。この卵新鮮で美味かったんだ」 選手待機所にシンティラ達が帰って来て若干の休憩を取る。その間に係員達が宝探し競争の準備をしているようだ。 「観客の皆さん! お待たせ致しました! 次は宝探しになります! 選手はスタート地点にお集まり下さい!」 「呼ばれたみたいだね。じゃあ皆、行こう」 参加者達を先導するクラウスにクラルが微笑む。 「どうしたんだい? クラル」 「……クラウスがまとめ役を買って出ているのが珍しくて……」 「ははは。この中では僕が最年長に見えるだろう? それに皆にも楽しんで貰いたいからね」 「……そうね。……私達も精一杯楽しみましょう……」 クラルはクラウスの隣で眩しそうに他の参加者達を眺めた。 「それでは、ルールを説明させていただきます。謎を書いた古文書がありますが、一人が先行して取っても構いません。宝物が置いてある場所は隣にありますので何を持って行くかパートナーと相談して下さいね」 係員の指示に頷く参加者達。 「古文書は俺が先行して取るよ」 「わ、わかりました……!」 瞬が先行して古文書を取るようだ。唯月の頭を撫でる瞬がニコリと笑う。 「ロスさんがトランスして一気に差をつけましょう」 「俺が先に行っても古文書が示している宝がわかるかなー」 「……ハッ!? ま、まぁ何とかなります」 トランスしてロスが先行するらしい。しかしロスの放った一言にシンティラが若干動揺している。 「古文書までは僕が先行するよ。クラルは転ばないように気をつけて」 「……ええ。……解ったわ……」 こちらも相談は終わったようだ。クラウスがクラルの身を案じている様子が微笑ましい。 「それでは宝探し競争を始めます! 位置について……スタート!」 スタートの合図が響き、先行する者達が全力疾走する。 だが、やはりというべきか一陣の風と共に躍り出たのはロスである。 「やりっ! いっちばーん! えーっと、なになに? ……やべぇ」 ロスはそのまま古文書の封を開き……固まった。 「これは中々難しいね~」 「こちらは何とか分かるかもしれない。クラルの意見も聞いてみなければだけど」 瞬とクラウスも古文書を開き、宝物置き場に向かう。 「ハァ、ハァ……。ロスさん、何が書いてあったんですか?」 「これ……」 震えるロスに差し出された古文書をシンティラが読む。彼が涙目に見えるのは気のせいだろう。 「……立つ者、黒い者、括る者、約束の地で其れを示せ。なんですかこれ」 「うわー! 頭がこんがらがってきたー!」 頭を抱えるロスを引っ張って宝物置き場に着いたシンティラ。 「蛇に噛み付くと旗を付ける物……蛇ならここにあるんだけど」 「へ、蛇は苦手です……」 唯月は瞬が手に取った精巧な蛇のオモチャを見て少しだけ青い顔をしている。 「……きる事ができるが……たつ事もできる……入れたりもできる物」 「ふむ、分かった! 答えは寝袋だ」 こちらはクラルとクラウスだが、一足早くクラウスが謎を解いたようだ。 「……待って。……クラウス、貴方……何か勘違いをしているわ……」 クラルが寝袋を持つクラウスの袖を引っ張り、止める。 「なんだい、クラル?」 「……寝袋で立てるかしら?」 「確かに。ごめんクラル。少し焦り過ぎたようだ。二人でもう一度よく考えよう」 クラウスの言葉にクラルは微笑みながら頷いた。 「ティー! 答えってこれじゃないのか? 三体の人形!」 「確かに纏めて括られていますし、黒い人形も居ますね。でも本当にこれでしょうか」 ロスのモフモフとした毛並みを撫でて考え込むシンティラ。 「いづ、後で触らせてもらう?」 「えっ!? あの……いえ……そういう目で見てたわけでは……」 瞬に声をかけられて唯月は飛び上がる。確かにあの毛並みを触ってみたいと言う願望が無いわけでは無いのだが、瞬に図星を突かれたので慌てて否定してしまったのだ。 「あはは、まずは謎を解かないとね。噛み付くって書いてあるから口があって、蛇のような物に旗を取り付ける……。これかな?」 「……あ! こ、これ!」 「うん! じゃあこれを持ってゴールに行こ~!」 「は、はい!」 瞬と唯月は目当ての物を探し当てたようだ。瞬に手を引かれてゴールに向かう唯月は謎が解けた嬉しさか少しだけ頬を朱に染めている。 「仲良きことは美しきかな、だね。クラル」 少しだけ眩しそうに目を細めるクラウス。 クラルが微笑みながら頷き、ある物を指差した。 「クラウス、私……これじゃないかと思うの」 「偶然だね。僕もそれだと思うよ。危ないから僕が持とう」 「……ありがとう……クラウス。……お任せするわね」 「ああ、任せられたよ。ほら、手を」 「……ええ」 クラウスが差し出した手にそっと手を重ねるクラル。 唯月達に続いて二着目にゴールだ。 「うーん。最後になってしまいました。やはりこの人形でしょうか」 「おっし。じゃあそれ持って行くぞー」 「ええ、ただ何かがひっかかります……」 最後に残ったロスとシンティラがゴールに着くと係員の声が響いた。 「宝探し競争終了です! では謎解きと行きます! 一着だった唯月・瞬ペアの答えは洗濯ばさみです! ……正解!」 「やったね、いづ!」 「は、はい……! よく見かけるものですし」 係員の言葉に瞬と唯月が歓声をあげる。 「蛇、つまりロープに旗って時点で何となく分かったよ」 瞬は洗濯ばさみを係員に渡す。 「はい! この洗濯ばさみは木工職人が一つ一つ手作りをしています! お買い求めは是非ブリダ雑貨店まで!」 ちゃっかりと宣伝する係員に瞬と唯月はクスリと笑う。 「今度雑貨屋を覗いてみようか」 「は、はい……。可愛い絵筆とか……あると良いですね」 拍手と楽しそうな笑い声に包まれる中で、係員の声が響く。 「続いて二着のクラウス・クラルペア! こちらも正解です!」 「やったね、クラル。君のおかげだよ」 「……ふふ。……クラウスが寝袋を持った時は……少しだけ……焦りを感じたわ」 クラウスは先端を相手に向けないようにしながら、係員に渡す。 「謎解きをいたしますとハサミです。きる事ができるが、たつ事もできる。ハサミを入れるとも言いますね!」 「うん。クラルが止めてくれなければ見事に引っかかっていたよ」 クラウスが笑いながら係員に話す。 その様子にクラルがそっとクラウスの肩に手を置く。 「……先に行かれたら……どうしようも無いもの。……止められて……良かったわ」 「……ああ、そうだね。大丈夫、僕はクラルの側にずっと居るよ」 クラルの言葉には色々な意味が込められているのかもしれない。 「仲睦まじいお二人の間にハサミを入れる事は出来ないようです! しかし、それ以外の物であれば何でも切れます! お買い求めの際は刃物店ドワーツまで!」 「僕達の絆は切れないそうだよ、クラル」 「ええ……そうね。いつまでも」 係員が囃し立てると仲睦まじい二人に観客の笑い声と拍手があがる。 「そして最後になりましたが、ロス・シンティラペアですが……残念! 人形ではありません!」 「おぅぇえっ!? なんでっ!?」 人間形態に戻ったロスが人形を掲げたまま固まって観客達から笑いが起こる。 「ロスさんの古文書にはゴールでそれを示せとあります。つまり何も持たなくて良かったんですよ」 係員の声が古文書の謎を読んでいく。 「あ、なるほど。これはお腹ですね」 「はい、シンティラさん! 正解です! つまりロスさん達は何も持たずにゴールしてお腹を指し示せば良かったんです!」 「なんてこったぁ……!」 シンティラの呟きは横で放送する係員にしっかりと届いていたようだ。ロスは膝から崩れ折れるとガクリと肩を落とし、その様子に観客と子供達がまた笑う。あえて面白く振舞っているんだろう。子供好きなロスらしい。 「三組とも二人三脚では逆転の可能性もありますので頑張って下さい!」 係員に促され、スタート地点へ向かう6人。 「いづ、もう少しくっついて。……そうそう、体が離れていると難しいからね~」 「は、はい……! 1、2、1、2……」 瞬と唯月が歩調を合わせる為なのか練習している。体格差もあるが瞬が上手くフォローしているようだ。 「俺がティを引っ張っていくから、合わせてくれな。最悪の場合トランスしてー」 「分かりました。転ばないように気をつけます。……トランスしたら二人を結んだ紐が解けてしまうじゃありませんか」 ロスとシンティラも作戦会議をしている。……が、シンティラに突っ込まれて何かに気付いたような顔をしているロスが可愛らしい。 「僕達はどうしようか、クラル」 「……いつも通りにしましょう。……肩を寄せ合って、お互いの体温を感じて進むの」 クラウスとクラルが話しているが、一緒に何かをするという事を一番楽しんでいるのはこの二人かもしれない。 「それじゃ足を紐で結びますね! 終わったらお食事は是非ウチの屋台でどうぞ!」 エプロン姿の可愛らしい少女がパートナーの足首を結んでいくと、係員に報告する。ちゃっかり宣伝するのも忘れない姿勢に参加者達が苦笑する。 「最後の種目、二人三脚を始めます! 位置について……スタート!」 一斉に飛び出す参加者達。先頭はクラウスとクラルだ。 「お~、流石に速いね。あの二人、息がピッタリだ。いづも頑張っているから俺も負けられないね~」 「あ、あの……瞬さん……?」 瞬は唯月の肩を抱き寄せると密着する。 「いづも俺の脇腹にしっかり手を回して。うん、そうだね。俺の体の動きが分かるでしょ」 「は、はい……」 唯月の顔が赤いのは気のせいではないだろう。瞬の匂い、そして体温が直に感じ取れる距離なのだから。 「クラル、大丈夫かい?」 「……ええ、クラウス。とても楽しいわ。あなたと太陽の下で息を合わせて走る事がこんなにも嬉しいなんて……」 クラウスとクラルの二人は掛け声を合わせなくても息がピッタリなようだ。クラルの左脇に手を差し入れているので彼女の心音を聴いているのかもしれない。無理をさせまいとするクラウスの心遣いが見て取れる。 「ティ、大丈夫かー?」 「勿論です、ロスさん。それに、もし転びそうになったら助けてくれるんでしょう?」 「ああ、任せとけー!」 ロスとシンティラは最後尾だったが、グッとペースをあげて隣のレーンを走っている瞬と唯月を抜き去った。 「う、嘘……!?」 唯月が驚愕した声をあげて一瞬足が止まってしまう。そのままバランスを崩して倒れると思った瞬間、大きな腕に抱きしめられた。 「いづっ! 大丈夫!?」 「あ、ありがとう……瞬さん……」 「ふぅ、びっくりした~。大丈夫だよ、落ち着いて行こう」 「はい!」 唯月が顔を上げて前を向き進みだす。その瞳はしっかりとゴールを見据えていた。 「ロスさん、もっと速くても大丈夫そうです」 「良いのか、ティー?」 「ええ、着いていけますから。それに唯月さん達に追い抜かれそうです」 「わかったー。っしゃー!」 ロスは気合を入れるとペースを上げる。 そしてクラウス達に並ぶと一気に抜いた。しかし……! 「っとと、ティー!?」 シンティラの腕を引いていたロスの手に妙な荷重がかかる。バランスを崩したシンティラがロスに倒れ掛かってくるのがスローモーションのように見えた。 「よっと!」 しかし、瞬きするほどの時間でトランスをしたロスは、倒れかけたシンティラを背中で押し戻す。ロスはシンティラに狼のしなやかな全身のバネを使ったのだ。 「ロスさん!? あ、ありがとうございます……」 「良いってー。んじゃ行くぞー、ティ」 先ほどの芸当を大した事でも無いという風に軽く流して人間形態に戻ったロスは、シンティラの腕を引き走り出す。二人三脚の為に結ばれた紐も一瞬の事だった為、解けたりはしていないようだ。 三組ともゴールは目前。そして、係員の旗と笛が鳴らされた。 「……一着はロス・シンティラペア! 二種目を制覇された為、優勝です!」 「よっしゃー!」 係員の発表にロスの雄叫びと歓声と拍手があがる。 「続いて二着は瞬・唯月ペア! 三着はクラウス・クラルペアになります!」 「いづ、頑張ったね」 「はい! ……ありがとう、ございます」 瞬にポンポンと頭を撫でられている唯月は顔を少し赤くしながらも嬉しそうだ。 「まさかあそこで一気に追い抜かれてしまうとは思わなかったよ」 「フフ……。私達、少しは体を鍛えた方が良いのかもしれないわね……」 クラウスとクラルも額に汗が少し浮かんでいるが、体を動かした充実感の為か楽しそうだ。 「それでは、ロス・シンティラペアに優勝商品の贈呈です!」 「あ、それなんですが参加者の皆さんと食べる事はできますか?」 係員にエトワールのパン試食権と焼印が押された木版を渡されたシンティラは手を上げて質問する。 「はい。特に制限はありません。但し、材料が切れた場合はご了承ください。ちなみに今、エトワールの職人はそちらの屋台にいらっしゃるので、すぐに召し上がる事ができますよ」 そう言うと係員は先ほど二人三脚をする時に紐を結んでくれた少女が働くパンの屋台を手で示す。 「と、言う訳らしいのでこの後皆さんと一緒に試食会兼屋台巡りといきませんか?」 「嬉しいです! シンティラさん……ありがとうございます!」 「……ありがとう、シンティラさん。……貴方はとても優しいのね……」 シンティラの提案に唯月とクラルが頭を下げる。 「それじゃあお疲れ様会と行きますか~!」 「おっしゃー! 食うぞー!」 瞬の明るい声にロスが答えて皆もそれに賛同した。 *** 「いらっしゃ~い!」 会場に居た少女がエクソシスト達を迎える。 「今日は私どもに付き合っていただいてありがとうございます」 「おう、コイツは俺の甥っ子でな。エトワールで修行を積んで店を任されるようなやつだ。味は保証するぞ」 屋台の脇から礼儀正しい青年と少女の父が出てきた。青年はレンガを積み上げた即席の石釜から、鉄板に載せられた焼きたてのパンを取り出す。ふわりとバターとクリームの香りが漂った。 木皿に載せられたパンと小さなフォークが配られる。 「いっただっきまー……アフッ! アチッ!」 我慢できなくなったロスがそのまま手掴みでパンに齧り付くが、かなり熱かったようだ。コップの水を一気飲みしている。 「ロスさん、大丈夫かしら。これは……表面がクリームチーズですね。上に乗せられている薄切りの果物は何でしょう。粉砂糖が雪みたいで綺麗……」 若干ロスを心配しながらも、視線はスィーツパンに釘付けのシンティラ。 「……美味しい! 表面はサクッとしてるけど……中はふわふわのデニッシュ……」 「……バターもかなり良いのを使っているわね。……クリームチーズだけじゃなくて中にカスタードクリームを敷いてあるのね」 唯月とクラルにも好評のようだ。その証拠に三人とも目尻が下がっている。 「俺はもっと量が欲しいなぁ……。甘いのも良いけど、こう……肉って感じのー。腹、減った……」 ロスは一口で食べてしまった為、若干不満そうだ。クタリと突っ伏し、そのまま狼の姿になる。 「おう! ならウチのハンバーガーでも食うか?」 「ありがとうございます。いただきます」 屋台に備え付けられている鉄板でハンバーグを焼き始める店主にシンティラは礼を言うと狼の姿になったロスの背中を撫で始めた。 その様子をじっと見つめる唯月。 「いづ、もしかして触りたいの?」 「はっ!? い、いえ……その……」 瞬に指摘され、しどろもどろになる唯月。 「俺はかまわねーよ。ティが良ければだけど」 寝そべったままのロスが声をあげ、シンティラが頷いた。 「いづ、良かったね~。ホラ」 瞬に背中を押されて背中を撫でる唯月。おずおずと触られるのがくすぐったいのかロスは耳をヒクヒクと動かしている。 「僕とクラルも良いかな?」 「はい。勿論」 クラウスの声にシンティラが答え、少しだけ横にずれる。 「えーっと、確か狼のツボは……っと、ここかな?」 「おぁぁぁフゥ!?」 「ロスさん!?」 首の後ろを押されてロスのあられもない吐息が上がり、シンティラの驚いた声が響く。 「人間が肩こりを覚える部分だね。狼の場合は首を水平に支えるので荷重がここにかかるんだ」 「……クラウス……待って。彼が動けなくなっているわ」 ロスの後脚をそっと撫でていたクラルがやんわりとクラウスをたしなめる。 見るとロスが息も絶え絶えになっていた。 「……はは、ごめんごめん。つい医師としての癖が出てしまったみたいだ」 「ロスは肩こりとは無縁だと思うよ。ただ随分と気持ちよさそうだったね」 「ハッ!? いや、もう勘弁だ」 瞬に頭を撫でられてロスがこちらの世界に帰ってくると、皿を持った店主から声をかけられた。 「おう、出来たぞ! 食ってくれ!」 「待ってましたー! って……ティ?」 ムクリと体を起こすがシンティラがやんわりと押し留めたので怪訝な顔をするロス。 「ロスさん、はい」 シンティラは手に持ったハンバーガーをロスの口元に近付ける。とても大きくて食べ応えがありそうだ。 「?」 一瞬不思議そうな顔をしたロスだったが目の前に差し出されたハンバーガーに齧り付く。 「うめー! 甘いものも良いけどやっぱ肉だよなー!」 満足そうに頬張るロスにシンティラがクスリと笑みを漏らした。 「さて、提案があるんだけど皆で屋台を廻らない? いくつか小物もあったし、クレープを焼いている屋台もあったね。せっかくだからもっと楽しんで帰ろう!」 瞬が明るい声で提案すると、皆の賛成の声で返された。 この楽しい催しはまだまだ続きそうだ……。
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*** 活躍者 *** |
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[16] クラウス・クラーク 2018/05/22-23:48
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[15] クラル・クラーク 2018/05/22-23:48
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[14] ロス・レッグ 2018/05/22-22:46
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[13] クラル・クラーク 2018/05/22-21:49 | ||
[12] ロス・レッグ 2018/05/22-21:42
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[11] 杜郷・唯月 2018/05/22-21:18
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[10] シンティラ・ウェルシコロル 2018/05/22-19:44 | ||
[9] ロス・レッグ 2018/05/22-19:41
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[8] クラル・クラーク 2018/05/22-09:07
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[7] 杜郷・唯月 2018/05/22-05:56
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[6] 泉世・瞬 2018/05/22-05:42
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[5] シンティラ・ウェルシコロル 2018/05/22-00:07 | ||
[4] 杜郷・唯月 2018/05/21-05:01
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[3] ロス・レッグ 2018/05/20-12:31 | ||
[2] 泉世・瞬 2018/05/20-05:15
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