~ プロローグ ~ |
アークソサエティの東南にあるソレイユ地区にはチェルシー植物園がある。 |
~ 解説 ~ |
目的 |
~ ゲームマスターより ~ |
パートナーとともに童心に返って宝探しをするような、ワクワクした気持ちでケセランパセラン探しを楽しんだり、いろんな植物をみて楽しいひと時を過ごしてください。 |
◇◆◇ アクションプラン ◇◆◇ |
|
||||||||
【目的】 ケセランパセランを見る。できれば触りたい。 ついでに植物を見て回りたい。 【会話】 ル:帰るか? ひ:ぇ。……ルシエロさんは、それで。(※いいんですか、まで声が出ない ル:別に? お前はどうなんだ。 ひ:…………見て回りたい、です。(※ぐるぐる考えて発言 ル:さて、ならどこから回る。(※ニッと笑う ひ:(順番でいいと思うけど) ※はぐれた時の集合場所を決めて、園を回る ■美花の園 ル:これは美しいな。 ひ:(なんで並んで見劣りしないんだろ) ■毒花の園 ひ:なんでこんな形。(※ぽそっと ル:ここに説明書きがあるぞ。 ひ:!?(※反応されて肩が跳ねる ■薬草の園 ル:これが薬になるんだから、不思議なものだ。 ひ:(※小さく頷く |
||||||||
|
||||||||
■祓 背が高いサーシャを目印に行動 はぐれたら向日葵か彼岸花が咲く場所で集合 誕生日に以前サーシャから貰った香水を密かにつける 植物を見ながら焦らずケセラン探し 花の甘い香りに自然と頬が緩む 触れても平気な花に触る 不思議な形をした花を見たら感心する 台詞 幸運を運ぶ、か 俄かには信じがたいが 花…特に向日葵を見ると思い出したくない事を思い出す(教会が襲撃に遭った際、教会付近に咲く向日葵が全焼 …うるさい、少し感傷的になっただけだ(顔の傷に触れ ■喰 常に笑顔 アーノの香水に気付き満足気だが特に触れない はぐれたら空中捜索 駄目なら集合場所へ 台詞 息抜きも大事なのだよ たまには良かろう 綺麗な花には毒がある…まるで誰かを彷彿とさせる |
||||||||
|
||||||||
・目的 幸福を呼ぶというケセランパセランをカティスに見せたい。そしてあわよくば、これを機に距離を縮めたい。 ・順番 美花→薬草→毒花 ・はぐれ対策 腕を絡める。万が一はぐれた時はその場に留まり一歩も動かない様にと約束。 「わたくし良い方法を存じております」 「おじ様はわたくしと腕を組むのはお嫌?」 「嫌では無いが…一体何処で覚えて来るのだね、そういう事を」 ・探索 木気という事は…火属性のわたくしがいると避けられてしまったりするのかしら?勉強不足でよく分からないですけれど…。せめて水の多そうな所を探してみますわ。 ・対ケセラン 見つけたら可愛いとひとしきり愛でる。 その後に本題。 「どうかこの方を幸せにして下さいまし!」 |
||||||||
~ リザルトノベル ~ |
【花よりも美しいあなたと 最上・ひろの×ルシエロ・ザガン 】 天候に恵まれたある春の日、最上・ひろのはパートナーであるルシエロ・ザガンとともにチェルシー植物園に来ていた。 「人がすごく、多いですね……」 (来るの失敗したかも……毛玉、見たかっただけなのに) うららかな春の日差しの中だが、ひろのの表情は明るくない。 最近、チェルシー植物園には幸せを運ぶと言われている珍しい生物ケセランパセランがいるという噂が流れており、それを一目見ようと押しかけた客でいっぱいだった。 さらに本日は講堂で薬学会の研究発表が開かれており、それに出席するためにやってきた研究者たちも加わってごった返している。 たくさんの人が行き交う様子をチェルシー植物園の入り口から眺めただけでひろのは既に人に酔ってしまいそうになっている。 (ケセランパセラン見たい……だけど、ルシエロさんに迷惑かけるのは嫌だし……) どうしようかとひろのが葛藤していると、隣に立つルシエロが口を開いた。 「帰るか?」 「ぇ。……ルシエロさんは、それで……っ」 緊張からか、「いいんですか?」とルシエロに尋ねたいのに、まだ彼に慣れていないひろのの口からは言葉が出てこない。 「別に?お前はどうなんだ?」 ケセランパセランにも植物園にある花々にも大して興味がないルシエロは、人混みに固まってしまったひろのを見て帰りたいのでは?と思ったのだ。 ルシエロの問いにひろのは少し困ったように俯き、しばらく沈黙が二人の間に流れた。 「………見て回りたい、です」 ようやく伝えられたひろのの気持ちに嘘はないと感じ取ったルシエロは赤みがかったオレンジ色の目を細めてニッと口角を上げた。 「そうか。なら、どこから回る?」 (順番でいいと思うけど……) 植物園のパンフレットを眺めながらひろのに尋ねるルシエロの声は明るく、少し上機嫌になったようにも見え、ひろのは彼の機嫌を損なわずに済んだとひそかにほっと胸をなでおろした。 「あの、美花の園から……見てみたい、です」 美しいもの、綺麗なものを見るのが好きなひろのは、来る前から特に見て見たかった花園を勇気を出してルシエロに伝えてみた。 「じゃあ、そこから行ってみるか」 「は、はいっ……うわっ!」 ルシエロがパンフレットをたたんでいると、突然ひろのの驚いた声がした。何事かとルシエロが顔を上げると、ひろのが人混みに流されかけていた。 「ひろの!」 ルシエロは慌てて人をかき分け進むと流されつつあったひろのの手を掴み、ぐいと自分の方へと引き寄せた。 「あ、ありがとうございます……」 「こんな人混みではぐれたら大変だな。そうだな、集合場所を決めようか」 「は、はい……」 「どこにしようか?」 「あ……っえっと、とりあえず、手を……」 「ああ、すまん」 か細いひろのの声に、手を繋いだままだったことに気づいたルシエロはようやく手を離した。ひろのがまた人混みに流されそうになったら先ほどのように肩や手を掴めばいいか、と考え、特に集合場所も決めずに二人は歩き出した。 チェルシー植物園にある三つの花園のうち、各地の美しい花を集めた美花の園では、入った途端にむせるような花の香りに迎えられる。 濃いピンクから薄いピンクに色を変えている芝桜が足元を彩り、その奥に立ち並ぶ黄色い小さな花をつけたレンギョウ、白い大きな花の木蓮などの美しい花などが人々の目を楽しませている。 「これは美しいな」 (なんで見劣りしないんだろ) 美しい花々に手を伸ばし、香りを楽しむルシエロの姿をひろのはぼんやりと眺めていた。 初めて会った時から思ったが、ルシエロはとても見目がいい。こんなに美しい人と適合率100%だなんて、人生というものは何が起こるかわからないものだ。 美しい花をたっぷりと堪能した二人だったが、美花の園ではケセランパセランに出会うことはできなかった。そこで今度は毒花の園という、美花の園とは正反対のおどろおどろしい場所へと足を踏み入れた。ケセランパセラン探しが白熱している植物園だが、毒花の園は人気がないのかひっそりとしている。 ひろのとルシエロの二人は、混雑から解放され、少しホッとして毒花の園を散策していると、ひろのは気になる植物を見つけた。それは青紫色をした、まるで僧侶がかぶる頭巾のような形の花だ。隣には色違いで同じ形をした白いものもある。それを鈴生りにつけた植物をまじまじと見つめ、その不思議な形に首を傾げた。 「なんでこんな形……」 「ここに説明書きがあるぞ」 「?!」 突然聞こえて来た声にひろのの小さな肩がビクリと跳ねた。 独り言を呟いたはずなのに、思いもよらず隣にいたルシエロが言葉を返したので驚いたのだ。 「えーっと、なになに?これはトリカブトと言って、なぜこの形かというと受粉に役立つ虫を誘うため、だそうだ」 まだ驚きの余韻で心臓かドキドキしているひろのは胸に手を当ててため息をついた。せっかくルシエロが説明を読んでくれているのに、その内容は全く頭にはいってこなかった。綿毛をつけた花はあったが、毒花の園でもケセランパセランを見つけることはできなかった。 そして二人が最後に訪れたのは薬花の園だ。 薬草というから地味な場所かと思ったら、予想外に華やかな植物も群生しており、薄紫の小さな花をつけたハーブの一種でもあるローズマリーが涼やかに通路を彩っている。 そんな薬草の園で甘い香りを放つ、白く小さい花が球状になって咲く植物にひろのの目がとまった。プレートを見ると“ジンチョウゲ”と書いてあり、香りの良い花の部分を乾燥させ煎じると喉の薬になるらしい。 「これが薬になるんだから、不思議なものだ」 ルシエロの感心した声にひろのはコクコクと頷いた。 香りも良く、可愛らしく、さらに薬にもなるなんてすごい花だ。 「あれ……?」 ジンチョウゲの香りを楽しんでいると、視界の端で何か動いているものをみつけた。 よく見ると葉の間に咲く白い花の中に混じるように綿毛のような塊があり、それを見つけたひろのの心臓が跳ね上がる。ある期待にひろののほおが染まった。 「ねぇ、君はケセランパセラン?」 「うん、ケセランパセラン」 三歳児程度の知能を持つと言われている彼らとは簡単な言葉をやり取りすることができる。 「触っても、いい?」 「いいよ」 ケセランパセランからあっさりと許可を受けて少し拍子抜けしたひろのだったが、そっと手を伸ばして手のひらに乗せた。 柔らかな綿毛は軽く、手のひらに触れている感覚も感じられないほどだ。 「よかったな、ひろの。来た甲斐あったな」 ルシエロの声にひろのはびくりと肩をすくめた。こうして彼に驚くのは本日何度目のことだろう。 「は、はい……」 緊張に顔を引きつらせながらもひろのはルシエロにうなずくと、ケセランパセランに礼を言って元のジンチョウゲのところへ戻してやった。 「ありがとう、またね」 そして手を振ってケセランパセランに別れを告げ、ひろのとルシエロは薬草の園を出た。 「すぐに帰らなくてよかったな」 「はい……」 人混みに植物園を見ることを諦めていたらケセランパセランにも会えなかった。ひろのはルシエロに頷くとまだ柔らかな感触の残る手のひらを眺めた。 「そろそろ帰るか。冷えて来たし」 「は、はい」 夕日のオレンジの光に照らされつつ、二人は並び歩きながら教団への帰途へついたのだった。 【たまの息抜き ヴァレリアーノ・アレンスキー×アレクサンドル・スミルノフ】 相棒のアレクサンドル・スミルノフに連れられ、ソレイユ地区のチェルシー植物園へとやってきたヴァレリアーノ・アレンスキーは、目の前に広がる光景を見た途端表情を曇らせた。 普段は静かなこの植物園は本日が薬学の学会の開催日であることに加え、ケセランパセラン出現の噂も相まって、それを見にきた人でごった返している。これでは植物ではなく人を見に来たようなものだ。 「たまには良かろう?息抜きも必要なのだよ」 うんざりとした表情のヴァレリアーノとは対照的に、にこやかな表情のままアレクサンドルは涼しげに言った。 「俺には息抜きなんて必要ないのに……」 「そんなことはない。息抜きも大事なのだよ。それに、幸運を運ぶと言われているケセランパセランを見たいとは思わないのか?アーノ」 にこやかに問うアレクサンドルの言葉に、ヴァレリアーノはぐっと言葉に詰まった。 「幸運を運ぶ、か。そんな生物がいるだなんて俄かには信じがたいが……」 実はヴァリアーノもケセランパセランを見たくないわけではない。見かけたらやってみたいこともある。 「……仕方ないな」 再び踵を返したヴァレリアーノだったが、やはり途端に見えた人の数に心がくじけそうになる。 「しかしこの人混みではぐれたらたまったものではないな」 ヴァレリアーノは、他人より頭一つ分以上高いアレクサンドルならばどこにいても見つけられそうなものだろうにと思った。 「はぐれたら向日葵か彼岸花があるところで集合だ。それでいいだろう?」 「それよりも空から我がアーノを探した方が早くないか?」 半竜半人のサーシャは翼を持っており、空中探索ができる。 「それでも見つからなければ、アーノの言う通りにその花の元へと向かおう」 「決まりだな。まずは美花の園に行こう」 そう言ってスタスタと器用に人混みを進んでいくヴァレリアーノを、アレクサンドルは焦ることなくにこやかな表情のまま追いかけたのだった。 美しい花のみを集めた、と言うだけあり、美花の園は甘い花の香りに満たされている。 ヴァレリアーノは近くに咲くバラの花に顔を近づけると大きく息を吸った。上品なバラの香りが鼻から体の隅々まで行きわたり、自然と頰が緩む。薔薇だけではなく、白の大きな花びらをつけた木蓮や、可憐な蝶のような黄色い小花をつけたレンギョウなどが咲き誇り、二人の目を楽しませてくれている。だが残念なことにケセランパセランを見つけることはできなかった。 二人が次に訪れたのは薬花の園だ。 「このアロエという痛そうな葉の肉は傷に効くんだな」 アレクサンドルはトゲトゲとした葉肉を外用に使う植物を熱心に見ている。 そんな中、ヴァレリアーノの視界に季節外れの黄色い花が飛び込んで来た。それを見た途端胸に苦いものが渦巻いていく。 「ほう、向日葵も薬草なのだな。頭痛や歯痛に効くみたいだ」 アレクサンドルが向日葵の下にある説明が書いてあるプレートを読み上げているが、内容は全く頭に入ってこない。 「花……特に向日葵をみると思い出したくない事を思い出す」 ヴァレリアーノが7歳の頃、司祭であった両親と暮らす教会がヨハネの使徒に襲撃された。そのとき教会付近に咲く向日葵が全焼してしまったのだ。 思いがけず過去に触れてしまったヴァレリアーノに気づいたアレクサンドルだったが、彼を心配するでもなく、彼はにこやかな表情を崩さない。 「そのような昔話、とうに記憶から消し去ったものだとばかり思っていたがね」 アレクサンドルはヴァレリアーノの元へやって来ると向日葵の大きな葉に触れながらくっく、と喉の奥で笑った。 「前だけを見つめ、立ちはだかる障害を打ち砕く汝には不必要であろう?それに、あの時は辛かったろうと慰めを乞うているわけでもあるまい?」 アレクサンドルの言葉に、ヴァレリアーノは右瞼から頰にかけて走る傷に手を添えた。ヨハネの使徒に負わされた傷だ。 ヴァレリアーノは生前の両親や教会の人たちの姿を瞼の裏に思い出し、そしてゆっくりと瞬きをして気持ちを落ち着かせようと大きく息を吐いた。 「……うるさい、少し感傷的になっただけだ」 傷から手を離した手を拳にしてきつく握りしめたヴァレリアーノは身を翻すと、向日葵に背を向け歩きだした。 「待て、はぐれたら大変だろう」 アレクサンドルは難なくヴァレリアーノに追いつくと、結局またケセランパセランを見つけられなかった薬花の園をでて、今度は毒草の園へと二人揃って足を踏み入れた。 「こんな可愛らしい花に毒があるのか……」 毒々しいものばかりがあると思っていたのだが、予想外に可憐なピンクの花弁をつけたアザレアや真紅のアネモネなどもあり、花園を彩る色の鮮やかさに二人は驚いた。 「アネモネは蜜にまで毒があるのか……恐ろしいな」 一見可愛らしいアザレアのピンクやアネモネの鮮やかな赤さえ毒々しく見えて来るから不思議だ。 (綺麗な花には毒がある……。まるで誰かを彷彿とさせる) 「どうした、アーノ?」 「なんでもない」 アレクサンドルの問いに、ヴァレリアーノは他の花に視線を移した。 全ての花園を見終えたが、噂のケセランパセランには会えずじまいだった。 「どこの花園にもいなかったな」 息抜きだとか言っていたくせに、人混みに疲れただけだと文句を言うヴァレリアーノにアレクサンドルは笑みを浮かべたまま肩をすくめてみせた。 そもそもケセランパセランについてはただの噂だ。必ず会えると保証されているわけでもない。 「帰って早くピロシキが食べたい」 日はすでに傾き、暖かかった春風にも冷たさが滲んできている。 「なんだ……?」 帰ろうと歩き始めた途端、ヴァレリアーノの目の前に飛び込んで来たのはベンチの根元に咲いているタンポポだ。しかしそれは黄色い花に、不釣り合いなほどの大きな綿毛をもっている。 「ハラショー……!」 もしかして、と近づくと、それはずっと探していたケセランパセランであった。 「どうした、アーノ」 ヴァレリアーノの驚いた声にやってきたアレクサンドルも、タンポポの隣に居るケセランパセランに気づくと驚きに紫の瞳を見開いた。 「人気者は大変だな。汝を見るためにあのように人がたくさん来ておるのだぞ」 アレクサンドルの言葉にケセランパセランはふふふ、と鈴を転がすような笑い声をあげた。 「ケセランパセラン」 ヴァレリアーノは意を決して綿毛の生物に声をかけた。 「なぁに?」 「吹いてみてもいいか?」 それは、ヴァレリアーノがアレクサンドルからケセランパセラン探しに誘われた時から密かに思っていたことだ。 「たのしそう!いいよ!」 唐突なヴァレリアーノの頼みだったが、ケセランパセランは無邪気な笑い声をあげてヴァレリアーノの手のひらに乗った。 「スパシーバ!それじゃあ……」 ヴァレリアーノは大きく息を吸い込み、そしてケセランパセランに向けて一息に吹いた。 まるでタンポポの綿毛のようにケセランパセランは空へと舞い上がっていく。 「人などに決して捕まるでないぞ……」 アレクサンドルが呟いた言葉にヴァレリアーノは頷いた。あの白い綿毛には風と自由が似合う。そんな姿を羨ましく思った。 「たまにはこんな息抜きも悪くないな」 「そうであろう?だから息抜きも大事なのだと言ったのだよ」 アレクサンドルの満足げな言葉にヴァレリアーノは再び空に舞う綿毛を見上げたのだった。 【あなたの幸せのために ベルクリス・テジボワ×カティス・ロウ】 ベルクリス・テジボワはある目的を達成するためにカティス・ロウとともにチェルシー植物園を訪れていた。 その目的とは、ここで目撃されたと言われている幸運を運ぶ生物、ケセランパセランに会うことだ。 「しかしすごい人混みだ。はぐれたら大変だね」 カティスがううむと唸って辺りを見回しながら呟いた。チェルシー植物園にはベルクリスと同じようにケセランパセランを一目見ようという人と、薬学会開催のために訪れた研究者でごったがえしている。 カティスの言葉を耳ざとく聞きつけたベルクリスは、ぱあっと顔を輝かせた。 「わたくし、良い方法を存じております!」 そう言ってベルクリスはカティスの腕に自分の腕を絡めた。 「こうすればはぐれることはありませんわ!」 そして満面の笑みでカティスを見上げたのだが、途端に彼の困った表情を見つけてしまって絡めた腕を解いた。 「おじ様は、わたくしと腕を組むのはお嫌?」 「嫌ではないが……、一体どう言うところで覚えてくるのだね、そう言うことを……」 ベルクリスはカティスの親友の娘で、彼女を生まれた時から知っている。なので年頃になった彼女が大人びたことをすると親心にも似た気持ちで驚き、戸惑ってしまうのだ。 「なら、このまま参りましょう!」 嫌ではない、というカティスの言葉に瞬時に立ち直ったベルクリスは再びカティスに腕を絡めた。 「そ、そうだな。だが万が一はぐれた場合はその場から動かないこと。分かったね、ベル?」 「はい!わかりましたわ!」 途端に元気を取り戻したベルクリスと、戸惑うカティスの二人は人混みのなかをかき分けるように進み、美花の園へ向かった。 「この美しい園にはきっとケセランパセランがいると思いますわ!」 むせかえるような甘やかな香りが漂う花園で、ベルクリスは勝利の予感に胸を高鳴らせた。しかしケセランパセランも美しい花を好むに違いない。そう思っているのはベルクリスだけではないようで、人びとがひしめき合っていた。 「こんなに人がいたら、私がケセランパセランだったら逃げ出したくなるかもね……」 「おじ様、疲れまして?あちらで少し休みましょう」 「ありがとう。大丈夫だよ、ベル」 心配げに見つめるベルクリスに礼を言い、美花の園に咲く花々を楽しもうと人混みから花々へと視線を移した。 しかしカティスの言ったとおり、ケセランパセランも人混みを嫌ったのか美花の園に彼らを見つけることはできず、次に二人は薬花の園へ向かった。 薬草の園は美花の園に比べて人は少なく、ゆっくりとケセランパセランを探すことができた。だが、白い綿毛らしきものはなかなか見つからない。 「うぅむ、ここにもいないねぇ」 「おじ様……実はわたくし、不安に思っていることがありますの」 「なんだい?」 「ケセランパセランは木気だとか。わたくし、火属性なので彼らに避けられているのではないか、と……」 自分が近づくたびに彼らが逃げているのだとしたら、永遠にケセランパセランに出会うことはできないだろう。 ベルクリスは自分の望みが叶わないかもと思うと意気消沈した。 「それはどうだろうねぇ。火属性なのはベルだけではないだろう?この人混みの中にも火属性の人がいるはずだし、見つからないのは誰のせいでもないさ」 カティスは身をかがめ、足元に花を咲かせるローズマリーの身近な葉に触れながら灰色の瞳でベルクリスを見上げた。 「おじ様……」 幼い頃から知っている優しげな双眸に見つめられ、ベルクリスはその隣に腰を下ろした。 「それに私は水属性だし、心配しなくても大丈夫だよ」 ぽんぽんとカティスに頭を撫でられ、ベルクリスの頬が朱に染まった。 「わたくし、勉強不足でよくわからないのですけど、水の多そうなところを見てみませんこと?」 「ふむ……」 ベルクリスの言葉にカティスはチェルシー植物園入場の際に貰ったパンフレットを広げた。 「毒花の園に池があるみたいだね」 「そこにいるかもしれませんわ!おじ様、毒花の園に参りましょう!」 「ベル、あんまり急ぐと転ぶよ」 すぐに立ち上がってぐいぐいと腕を引くベルクリスに連れられ、カティスはよろけながらも苦笑しつつ歩をすすめた。 毒花の園の奥、人工池のほとりには水仙がうつむいて水面にその姿を映している。 「まぁ!水仙も毒草なんですのね?!知りませんでしたわ!あら、ヒヤシンスもあるのね」 「あまり色々触れてはいけないよ。ここにあるのは毒草なのだから」 中には触れるだけで皮膚がかぶれたり腫れたりするものもあるかもしれない。ベルクリスに何かあったら彼女の父親である親友に申し訳がたたない。 「あっ!」 そんなことを考えていると、驚いたベルクリスの声が聞こえてきて、慌てて彼女のそばに駆け寄る。 「見つけましたわ!」 「なにをだい?」 「ケセランパセランですわ!おじ様!」 ベルクリスの指す方をみると、水仙のラッパに似た中心部の上にちょこん、と白い綿毛が乗っかっていた。 「見つかっちゃったぁ」 ベルクリスの声にケセランパセランが子どものような声で言い、ふわりと浮かびあがって宙に漂った。 「どうぞ、こちらにいらしてくださいまし」 そしてさしだされたベルクリスの手のひらの上にちょこんと降り立ったのだ。 「あぁっ可愛い、可愛いですわ!!」 「ふふふ、おねえさん、くすぐったい」 まるでぬいぐるみを愛でるようにケセランパセランを撫でているベルクリスの様子が微笑ましく、幼い時の姿を思い出したカティスの口元が緩んだ。 ひとしきり綿毛を可愛がったベルクリスは満足したのか、改まったように姿勢を正すと咳払いをひとつした。 「さて、そろそろ本題に入らせていただきますわ。ケセランパセラン、お願いです、この方を幸せにしてくださいまし!」 「ベル……?」 思いもよらないベルクリスの言葉に、カティスは息を呑んだ。 「おじさんはしあわせじゃないの?」 ベルクリスの手のひらに収まっているケセランパセランはカティスに尋ねた。 「ふむ……考えたこともなかったよ。私には蘇る以前の記憶もないし、自分が正直何をしたいのかもよくわからないのだが……」 アンデッドのカティスは蘇ってから記憶だけでなく情熱さえも失ってしまっていた。自分の生計を維持するために教団へ入団したが、どこか無気力な日々を過ごしていた。 「しかし今日、こうして誰かが自分の幸せを願ってくれているとわかったことは……そうだね、今はとても幸せな気分だよ」 その「誰か」が自分のことだとわかったベルクリスはカティスの視線を受けて頬を赤く染めた。 「よかったね、おじさん」 「あぁ、ありがとう」 そのお礼の言葉もケセランパセランにむけてではなくベルクリスに向けられたものだ。 「わ、わたくしはおじ様のためにしたまでですわ!お礼なんて、そんな」 ベルクリスに向けられたその視線には親愛の情はあっても恋慕の色はない。まるで親が子を見つめるようなカティスの眼差しを受け、カティスへ想いを寄せるベルクリスは胸が苦しい気持ちになった。 それでも彼の口から「幸せ」という言葉が聞けたことは、ベルクリスは嬉しかった。 「さ、おじ様。まだまだ見て回るところはありましてよ!参りましょう」 ケセランパセランに別れを告げ、今はまだ「親友の娘」でもいい。他の植物たちの色々な姿をカティスとともに楽しもうとベルクリスは再びカティスに腕を絡めたのだった。
|
||||||||
*** 活躍者 *** |
|
|
|||
該当者なし |
| ||
[4] ベルクリス・テジボワ 2018/03/24-13:48
| ||
[3] 最上・ひろの 2018/03/23-09:14
| ||
[2] ヴァレリアーノ・アレンスキー 2018/03/23-00:53
|