~ プロローグ ~ |
おとなたちの声がする。扉に耳をあてる少年に、その会話はほとんど理解できない。 |
~ 解説 ~ |
魔女の派閥、怨讐派と世俗派。 |
~ ゲームマスターより ~ |
はじめまして、あるいはお久しぶりです。あいきとうかと申します。 |
◇◆◇ アクションプラン ◇◆◇ |
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迷子はきっと、心細いですね…早く見つけてあげましょう 白い魔女の格好で手に持ったバスケットに購入したお菓子を詰めて 精一杯声を張り上げてクリスの芝居に付き合う 良い子にはお菓子をあげます、よ クッキー、チョコ、キャンディー、何がいいですか 頑張って笑顔を浮かべて 悪戯はしないで、くださいね、と 二人が出てきてくれたらしゃがんで目線を合わせて 無事で良かったです…と二人の手を取ってぎゅっと握り 良かったら、あなた達が離れないで済むように協力させて下さい 大切な人と引き離されるのは、きっと辛いと思います… 昔の私なら、その感覚は分からなかったですけど… 今なら少し分かります(チラッとクリスを見て 何とかしてあげたい、です… |
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緊張感のある話なのに何ノリノリになって仮装してるんですかドクター!? あとそれ「仮装」なんですか?身近にあるものでそれっぽく取り繕ってるだけじゃ…? …子供っぽさで胸を張らないでください 首筋のネジのずれなら自分で直しますからくすぐったいです とりあえずお菓子を配りつつ子供を探すか…って、うぉ!?集まるな!簡単に無くならないぞ。な?順番に、順番に 子供達にお菓子を配っている間にドクターが行方不明に どこだ!?と叫んだ直後、純粋な眼差しでこっちを見る子供…じゃなくてドクターにため息 勤務中なので差し上げません ポモナもサウィンも、その意気、気に入ったぞ ほら、お菓子だ。ずっと一緒にいられるといいな |
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■迷子捜索 仲間と手分けして捜索 目撃情報を追う為、サウィンがいなくなった場所の周辺から聞き込み 周囲が暗ければランタン使用 探しながらリュミエールストリートを回り、サウィン達の為にお菓子を用意 道中他の子供にも配れるよう多めに ナツキ:迷子の子、腹減ってるかもしれねぇだろ ルーノ:なるほど、珍しく気が利くね ナツキ:珍しくは余計だっ! ■発見後 「トリックオアトリート」にはナツキがノリノリでお菓子を渡す 浄化師である事、子供たちを探していた事をルーノが話す 子供達の怪我等ナツキが確認して無事なら一安心 二人が引き離される事を心配するならそんな事はさせないとナツキが勝手に話す ルーノはポモナの体調を気にかけ教団へ保護要請 |
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故郷を出てきてすぐに迷子…心細いでしょうね 早く探してあげなくちゃ 皆で手分けして2人を捜索 きっと不安なはず 楽しい雰囲気や話しかけやすい感じを出せたら 出てきてくれないかしら? ということで 赤ずきんちゃんの仮装 バスケットにお菓子を詰めて ふふ シリウスもよく似合うわ 後は子どもがきたら にっこり笑ってあげてね? 歌を歌い(歌スキル4) 子どもが来たら笑顔でお菓子を配る 悪戯されたりしたらきゃあと悲鳴 もう お菓子渡しているのにひどい 笑いながら追いかけっこ 視界に入ったシリウスの柔らかい顔に 胸がどきり ポモナくんとサウィンくんを見つけたら 無事で良かったと抱きしめ 大事なお友だちなのね 一緒にいられるよう わたしからも頼んでみる |
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~ リザルトノベル ~ |
● リュミエールストリートはオレンジ色の光とひしめく人々の賑やかな声に満たされていた。 「ハロウィン一色って感じで、わくわくするなぁ」 目を輝かせる『ナツキ・ヤクト』に、『ルーノ・クロード』はかすかに苦笑する。 「子どもたちの保護が先だよ」 「もちろん。ゆっくり見て回るのはそのあとだ。ってことではい、これ」 「……まぁ、ずっとなにを持っているのかと気にはなっていたけどね」 教団を出る前から大切そうに持っていた袋を、ナツキは上機嫌でルーノに渡す。受けとりつつ、彼は袋越しに感触を確かめ、察した。 「ハロウィンといえば仮装! ルーノの分も選んどいたぜ!」 私はいいよ、と断りかけたルーノはふと正面を見やる。 道の端に立つ二人の眼前を、多くの人々が行きかっていた。その大半が仮装している。 童話に出てくる悪役、物語に出てくる英雄。大人も子どもも普段とは違う格好をして、雑貨店を冷かしたりお菓子をねだったりしている。 隣に視線を移せば、ナツキが期待に満ちた眼差しを向けてきていた。ルーノは小さく息をつく。 「……まぁ、わざわざナツキが選んでくれたのだしね」 「あっちで着替えようぜ!」 表情を輝かせたナツキが店の裏手に回る。肩をすくめながらも、足どりは軽くルーノはその背を追った。 浄化師の制服の上から、ルーノは黒いフードつきのマントを纏い、髑髏の仮面をつける。ナツキは頭や手足に包帯を巻き、首輪もつけた。 「ルーノは吸血鬼と死神、俺は狼男とミイラ」 「ひとり二種ずつの仮装というわけだね」 「欲張りセットだぜ」 「悪くないんじゃないかな」 ハロウィンの喧騒に紛れるなら、これくらいでちょうどいい。 「よし! 任務開始だ!」 「まずは報告にあった、はぐれたところに行こう。そこから聞きこみをして、二人の居場所を探すよ」 「おう。絶対に見つけるぞ」 心細い思いをしている子どもたちを想ったのだろう、ナツキの顔つきが真剣なものに変わる。ルーノは頷き、頭の中で地図を展開して目的地に向かった。 「確かこのあたり……、ナツキ?」 隣にいた首輪つきの包帯男がいつの間にか消えている。さすがに迷子ではないだろうが、いつ怨讐派の魔女が襲ってくるかわからない状況ではぐれるなど冗談ではないと、ルーノは慌てて周囲を見回した。 すぐに発見。安堵と同時に、疑念に眉が少し寄った。 「ナツキ。なにをしているのかな?」 「お菓子の用意だぜ」 ほら、とナツキは両腕で持った大きな袋をルーノに見せる。中には飴にクッキーにチョコレートと、様々な菓子があふれんばかりにつめられていた。 「迷子の子、腹減ってるかもしれねぇだろ」 依頼主の魔女の説明から、保護すべき対象は二人いることが判明している。中でも怨讐派の魔女の子どもは腹を空かせているだけでなく、浄化師を警戒するだろう。 ナツキはきっと、警戒を解く道具としてお菓子を見てはいないが。 「なるほど。珍しく気が利くね」 「珍しくは余計だっ!」 「トリックオアトリートー!」 「おわっ」 近づいてきた子どもたちの手が、ナツキの服の裾を引く。思いついたルーノは袋から適当に菓子を出して、子どもたちに配った。 「どうぞ。ところで聞いてもいいかな?」 「ありがとー! なぁに?」 「このあたりで、これくらいの身長の子どもを二人、見なかった? たぶん、少し急ぎ足の」 子どもたちは顔を見あわせ、知らない、と首を横に振る。ルーノはお礼を言って、別の大人たちに突撃していく一団を見送った。 「お菓子をあげて情報収集か」 「そのためにたくさん買ったのだよね?」 「いやぁ、せっかくだからいっぱい配れるよう……」 「トリックオアトリートー」 言い終わる前に先ほどとは別の子どもたちが二人をとり囲む。腕にはカボチャの形の籠をさげ、揃いの三角形の帽子とローブを身に着けていた。 目を光らせる子どもたちの手には、ペン。お菓子をあげないと落書きされるらしい。 「あのさ、ルーノ」 「なんだい?」 手際よくお菓子を配り、情報を集めるルーノは、ナツキが言わんとしていることを先に把握していた。 「もしかして、一歩ごとに呼びとめられるんじゃねぇか?」 「少なくとも数歩おきにとめられるだろうね」 「予想より多いぜ……」 だからといって、子どもたちを振り切るのも忍びない。ナツキは悩みながらもじゃれつく子どもをうまくあしらう。 しばらくして、笛の音がした。 「ナツキ」 「見つかったのか!」 あらかじめ決めてあった、子どもたちを発見した際の合図だ。 ● 小芝居をしよう、と提案したのは『クリストフ・フォンシラー』だった。もしかしたら自分たちから出てきてくれるかもしれないと、『アリシア・ムーンライト』は緊張しながらも同意する。 リュミエールストリートの、露店と露店の間。童話によく出てくる魔女の格好ではあるが、ローブの色を黒ではなく白にしたアリシアが深呼吸を繰り返す。 「……よし」 覚悟を決め、声を張り上げた。道行く人々が横目に、子どもたちが半円を作るように、アリシアを見守っている。 「今夜はハロウィン。お菓子をたくさん用意しました。いい子にはお菓子をあげましょう」 「トリックオアトリート! 白い善き魔女さん、こんばんは」 快く協力してくれた露店の物陰から、カボチャの被り物とマントを身に着けたクリストフが現れる。おどけているのは口調だけでなく、声も奇妙に高かった。 思わず吹き出しかけたアリシアはとっさに目を背けて堪える。 「オイラ、悪戯はしないから、お菓子くれませんか!」 「ふ……っ、え、ええ、いい子にはお菓子を上げます、よ……。クッキー、チョコ、キャンディー。なにがいいですか?」 「やったぁ!」 ぴょこぴょこ跳ねたカボチャ頭が、半円の最前列ではしゃいでいた子どもたちの前に立ち、膝を折る。 「お菓子くれるって! みんなでもらおう!」 「ええ、お菓子はたくさんありますから……」 お菓子をつめこんだ大きめの藤籠を、アリシアが子どもたちに見せた。歓声が大きくなる。 「みんな大きな声で、せーの!」 「トリックオアトリート!」 屈んだままクリストフが子どもじみた口調で、大きな声で楽しそうに促す。子どもたちの声が揃った。 頑張って笑みを浮かべたアリシアは、真っ先に駆け寄ってきた少女にクッキーの包みを渡す。 「お菓子を上げますので、悪戯はしないで、くださいね……?」 「たくさんあるから、順番に! 押さないで、けんかしないでね!」 うまく子どもたちをまとめるクリストフを横目に、アリシアはせっせとお菓子を配った。目あての物をもらった仮装姿の少年少女は、口々にお礼を言いながら二人から離れていく。 「いませんでしたね……」 「場所を移してみようか」 ふぅ、と息をついたアリシアに提案してから、クリストフは思いついたように、語調をカボチャ頭のそれに変える。 「大丈夫かい? 少し休憩する?」 「だい……っ、大丈夫、ですけど、クリス、それはちょっと……っ」 「アリシアはこういうことでも笑う、と」 「だ、だって、普段と全然、違うじゃないですか……。だから……その、おかしくて……。場所、移しましょうか」 「アリシアはもっと笑っていいと思うよ」 (どういう意味でしょうか……?) そっとクリストフの横顔に視線を向けるが、無機質なカボチャ頭の顔はなにも語ってくれない。 移動中はとってもいいんじゃないでしょうか、と言おうかどうか、迷った末にアリシアは沈黙した。 「トリックオアトリート!」 「あ、わ……っ」 ぐいぐいとローブの裾を引っ張られ、アリシアは我に返ってうろたえる。白い魔女のお菓子入れに手を伸ばしたカボチャ頭が、子どもたちに焼き菓子を渡して回った。 「お菓子はたくさんあるからね! 魔女さんに悪戯しちゃだめだよ!」 「ありがとー!」 きゃあきゃあと子どもたちは去っていく。 「嵐のようですね……」 「容赦ないよね。ところでアリシア、お菓子、どこかで補充しようか」 「そう、ですね……。もう、ほとんど、ありません……」 小芝居の小さな観客たちに大方、配ってしまっている。子どもたちを見つけるにはもう少し時間がかかるだろうし、先ほどのような襲撃にも幾度か遭うだろう。 「相手は子どもだし、大した悪戯はしないと思うけど。アリシアが被害に遭うのはちょっとね」 「はい……。ローブが大変なことに、なりそうです……」 「ああうん、そうだね、うん」 「クリス……?」 表情はうかがえないが、微妙にごまかされたような気がしてアリシアは首を傾ける。それよりも、とクリストフは強引に話を変えた。 「あそこのお菓子屋さん、おいしそうだよ」 「そうですね……」 ちょうど列にもなっていなかったお菓子屋さんで、アリシアは焼き菓子を補充する。クリストフが被るカボチャに似た顔をしたクッキーが特に可愛らしくて、多めに購入した。 「これで、しばらくは……」 大丈夫、と言いかけたところで。 ピー、と甲高い笛の音が聞こえた。 「近くだね。行こう、アリシア」 「はい……!」 子どもたち発見の合図だ。 ● 人でにぎわうリュミエールストリートで、たった二人の小さな子どもたちを見つけるにあたり、浄化師たちは手分けすることを選んだ。 「仮装をしましょう、シリウス」 真剣な表情で『リチェルカーレ・リモージュ』は言い、黒い服を『シリウス・セイアッド』に見せる。シリウスは衣服と少女を見比べた。 「子どもたちはきっと不安なはずでしょう? それに、怯えているかもしれないわ」 片方は浄化師に助力を請うた世俗派の魔女の子だが、もう片方は怨讐派の魔女の子だ。もしかしたら、浄化師を敵だと認識させられているかもしれない。 不安に思っていても、素直に出てこられるとは限らないのだ。 「だから、楽しい雰囲気や話しやすい感じを出したら、出てきてくれないかしら?」 「……そのための仮装か?」 満面の笑みでリチェルカーレは頷いた。 「周囲にも溶けこめるわ」 「そうかもしれないが」 ハロウィンの中心地ともいえるここでは、多くの人々が仮装している。制服のまま動き回ってもただの警備だと思われるだろうが、誰にも警戒心を持たせたくないのなら、仮装した方がいいだろう。 「したい仮装、ある?」 「……なんでもいい……」 「じゃあこれにしましょう?」 嬉しそうなリチェルカーレに言われ、シリウスは気が遠くなるような感覚に襲われながら、ため息を吐いた。 店の裏で簡単な着替えを終え、少女はにこにこと笑む。 「ふふ、シリウスもよく似合うわ」 「そうか……」 童話に出てくる赤い頭巾の少女に仮装したリチェルカーレは、お菓子をいっぱいにつめた藤籠をシリウスに渡した。 「あとは子どもがきたら、にっこり笑ってあげてね?」 「……それは、無理だろう」 「大丈夫よ」 すでに疲れ切っているシリウスを励まし、少女は子どもたちがこの時期よく口ずさむ、ハロウィンの歌を歌い始めた。 「ハッピーハロウィン、カボチャ頭のジャックが言った、お菓子くれなきゃ悪戯するぞ!」 道の端で紡がれる、リチェルカーレの透き通るような歌声は、喧噪の合間を縫って人々の耳に届く。 引き寄せられるようにやってきた子どもたちに、シリウスはお菓子を配って回った。 「お化けも魔女も集まって、今夜は楽しいパーティだ!」 「トリックオアトリート!」 笑顔で、という注文は却下して、シリウスはいつもの無表情で子どもたちの手にお菓子を握らせる。ただ、視線をあわせるために屈んでいるためか、子どもたちが彼を恐れることはなかった。 「わぶっ」 「走ると転ぶぞ」 「えへへ、ありがと!」 勢い余って突撃してきた子どもを軽く受けとめ、飴が三つほど入った袋を渡す。その間にも、事前に特徴を聞いておいた子どもたちの姿が見えないか、注意深く周囲を観察していた。 「きゃあっ」 「リチェ?」 何事かと振り返ったシリウスは、びっくり箱を手にして笑う少年たちと、目を丸くしているリチェルカーレを見て、理解した。 「もう! お菓子渡してるのに、ひどいっ」 「きゃははっ」 逃げようとする子どもたちをリチェルカーレが追いかける。はやし立てる子どもたちの笑声の中に、リチェルカーレの笑顔があった。 「こっちも迷子になりそうだ」 呟くシリウスは苦笑を浮かべているが、苦みよりも柔らかさの方が多く含まれている。 横目でその表情を見たリチェルカーレは、不意に胸が高鳴るのを感じ、思わず足をとめた。 「どうかしたか?」 「え、えっと……、シリウス、あそこ!」 はっとしたリチェルカーレが人ごみの中を指さす。シリウスはそちらを見て、素早く腰を上げた。 一瞬見えただけだが、間違いない。例の子どもたちだ。 「行っちゃうの?」 「もっとあそぼー!」 「またね今度、ね?」 懐から笛をとり出しながらリチェルカーレが微笑み、シリウスは黒衣を握る子どもの頭をぽんと撫でる。 子どもたちは手を振りながら二人から離れ、別の大人たちにお菓子をねだりに行った。 見失わないよう、注意しながら二人は魔女の子らを追う。ピー、とリチェルカーレが笛を吹いた。子どもたちを見つけたという合図だ。 「やっぱりあの子たちだわ」 「ああ」 少年たちの歩みは遅いため、距離は縮まってきている。 「よかった、無事だったのね」 「憔悴しているようだ。早く保護を……」 不意に少年の片方、汚れたローブを身にまとう怨讐派の子どもが振り返った。リチェルカーレとシリウスの姿を見て、走り出す。 「気づかれたか」 「待って! わたしたちは、あなたたちを助けにきたの!」 焦りを帯びた声が、人ごみの中で響く。 ● 白衣を纏い、髪を下ろす。銀糸のような長髪は、リュミエールストリートのオレンジ色の光を受け、星光を編み上げたようにきらめいていた。 「あとはこの、ちょっと汚れた軍手をつけて……。はい、マッドサイエンティスト」 「なにノリノリで仮装しているんですか、ドクター!?」 「周囲に溶けこむためにも必要なことだよ、ショーン。子どもたちも、ハロウィンの期間は浄化師の制服を着ている大人より、仮装している大人の方が近づきやすいだろうからね」 さっきも説明したよね、と『レオノル・ペリエ』が首を傾ける。半ば強制的に仮装させられた『ショーン・ハイド』は渋面になった。 「聞きましたけれども。あとそれ、仮装なんですか? 身近にあるものでそれっぽくとり繕っているだけじゃ……?」 「大丈夫! 子どもっぽいから!」 「子どもっぽさで胸を張らないでください」 「重要だよ。子ども受けがよくなる」 胡乱な目をしたショーンの首に、レオノルが触れた。古い軍手のごわごわした感触に、ショーンは身を引く。 「あとほら、ショーンが死体から作られた怪物の仮装だから、私といるとコンビに見えるよ? 私がショーンを作りました、って」 「分かりました、分かりましたからやめてください、くすぐったいです」 「ほら動かないで。ねじの位置、ずれてるんだから」 「自分で直しますから!」 背中を軽くそらしたまま、それ以上退避することもできず、ショーンは結局されるがままになった。ひたすらこそばゆいのを堪える。 しばらくして、レオノルは満足したのか大きく頷く。 「じゃあ、作戦開始と行こうか」 「お菓子を配りつつ子どもを探すんですよね」 片腕で抱えた袋の中を見下ろして、ショーンが確認をとる。 あふれんばかりにつめこまれているのは、ストリートに店を出す菓子店で買い求めた、ハロウィンらしい個装菓子の数々だ。 「そうそう。私が配ってもいいんだけど」 「任せてください」 「そう? じゃあ、私は魔力の探知と周囲の警戒にあたるよ」 重々しくショーンは頷く。 子どもたちに悪戯をされるとすれば、菓子を配っている者だろう。相手は子どもだが、レオノルになにかあるかもしれない、と考えると嫌だった。 「お菓子!」 「トリックオアトリート!」 「うぉっ!?」 ひとりがショーンを見つけ、芋蔓式にわらわらと子どもたちが寄ってくる。あっという間にとり囲まれたショーンは、お菓子を子どもの手が届かない高さに上げた。 直接、持って行こうとした連中がいたのだ。 「集まるな、簡単にはなくならないぞ。な? 順番に、順番に」 差し伸べられる小さな手に、お菓子を次々握らせていく。なにを渡されても仮装した子どもたちは嬉しそうにお礼を言って、次の標的に向かって行った。 心に余裕が生まれ始めたショーンは、レオノルの位置を確認しようとして固まる。 いない。 「どこだ!?」 叫びながらなにも考えずに、腰あたりに伸ばされた手にお菓子をのせかけて、違和感を抱いた。 視線を下げる。オレンジ色に染まった銀髪、裾が地につきそうな白衣。子どもに比べれば大きな女性の手は、古い軍手に包まれている。 「……なにをしているんですか、ドクター」 屈んだレオノルが、純粋な目をショーンに向けて言う。 「トリックオアトリート!」 「じゃなくて!」 「ショーンのお菓子、いいなぁって。ほら、お菓子くれなきゃ悪戯するよ?」 「勤務中なので差し上げません」 「けちー!」 唇を尖らせつつ、レオノルは立ち上がる。周囲の子どもたちが楽しそうに笑っていた。ショーンはため息を吐き出す。 「ショーン!」 「なんですか。お菓子は諦めてください」 「違う、見つけた!」 人ごみの中をレオノルが指さす。ショーンも見つけた。器用に人と人の間を縫いながら、走っている二人の少年だ。 直後、ピー、と笛の音が高らかに響いた。楽団の演奏の一部にも聞こえるが、そうではない。保護対象である魔女の子らを見つけた合図だ。 「すぐに追いかけ……」 「トリックオアトリート!」 「待て、今は立てこんで……っ」 「お菓子くれなきゃ悪戯するよ!」 「だから待てと……!」 再び子どもたちの襲撃を受けているショーンと逃げる保護対象二名を見比べ、レオノルは決めた。 「ショーン、さっさとお菓子配って!」 「はい!」 このままでは子どもたちを見失うかもしれない。笛を吹いた浄化師は思うように進めないのか、姿が見えなかった。 「そこの二人、待って!」 単独行動の危険は承知の上で、レオノルは走り出す。 ● 「うあ……っ」 「ポモナ!」 とっくに体力の限界を超えていたポモナが足をもつれさせ、転ぶ。引っ張られる形でサウィンも倒れた。 振り返ればオレンジ色の光。前を向けば街灯がまばらに立ち並ぶ闇。 「追いついた!」 肩で息をしながら、白衣の女性が減速して少年たちのすぐ側に膝をつく。彼女の後ろから数名の浄化師がくるのが見えた。 それでもポモナは諦めない。熱に浮かされたようにぼんやりする頭を必死に働かせ、二人で助かる方法を、 「……え」 ぎゅっと抱きしめられた。 白衣の彼女は両腕で、子どもたちをまとめて抱擁する。サウィンもきょとんとしていた。 「怖がらせてごめんね。私は君たちを保護しにきた浄化師、レオノル・ペリエ。」 声と腕があまりにも優しくて、ポモナの中にあった緊張と恐怖がじわじわと溶けていく。 感情が涙になってあふれそうで、ポモナは懸命に堪えた。自分が泣いたら、サウィンもきっと泣いてしまう。 「無事でよかった」 赤い頭巾の少女が、レオノルと名乗った女性と入れ替わって二人を抱きしめる。 「本当に……。怪我もないようで、よかったです……」 白いローブを纏う女性が屈んで二人に目線をあわせ、そっと少年たちの手を握った。 それがとどめだった。柔らかな眼差しを向けてくるこの人たちに悪意なんてないと、ポモナはさとってしまった。 視界がにじむ。どうにかしなくてはと、少年は必死に考えて。 「トリックオアトリート!」 叫んだ。サウィンが口をぱくぱくさせる。間抜けな顔を見て、ポモナは少し笑った。 「おーっと! お菓子をあげるから悪戯は許してくれよな」 大げさに怯えた、手足に包帯を巻いて首輪をつけた青年が、子どもたちの手にクッキーが入った袋を握らせる。 「わたしたちからも」 赤い頭巾の少女と、白いローブの女性もそれぞれお菓子を渡す。 「ほら。……ずっと一緒にいられるといいな」 首にねじをつけた男は、飴玉が入った袋を渡しながらそう言った。ポモナは小さく頷く。 「おれ、サウィンと、ばらばらになりたくない」 「ばらばらになんてさせねぇ!」 力強い声に少年たちは目を見開く。ナツキ、と髑髏の仮面をつけた青年が首輪つきの包帯男を呼んだが、彼は黙らなかった。 「教団に頼んで二人とも保護してもらう。引き離したりなんかしねぇから!」 「また君は安請け合いを……」 髑髏の青年が額に指を添える。 首を大きく縦に振ったのは、赤い頭巾の少女だった。 「わたしからも頼んでみる。大事なお友だちと、一緒にいられるように」 「悪いようにはしない。……だから、もう逃げなくていい」 黒衣の青年がかすかに顎を引いて請け負う。 「二人のことは必ず守るからね。離れ離れは、寂しいもんね」 白衣のレオノルがわずかに目を細めた。 「協力、させてください」 「その前にひとつ、確認してもいいかな?」 白いローブの女性の隣に屈んだ、カボチャ頭の青年が棘のない声で問う。 「ここにいられるよう、協力するのはいい。けれど、君はもう両親に会えなくなるかもしれない。それでも構わない?」 両親にはもう会えない。あそこにはもう帰れない。ポモナは裏切り者になった。 全部、覚悟の上だと、頷く。 「うん」 「そっか。じゃあ、俺も協力するよ」 カボチャ頭の青年はくるりと半回転して、少年たちに背を向けた。 「おいで。教団まで送ってあげよう」 「お菓子は落とすと砕けちゃうから、ここに入れようね?」 赤い頭巾の少女が空の藤籠を二人に差し出す。 ポモナは浄化師たちの気遣いに甘えることにした。実を言うと、もう一歩も歩ける気がしない。 「じゃ、こっちは俺に任せろー」 「ひゃあっ」 ひょいと首輪つきの包帯男に抱き上げられたサウィンは、背を優しく叩かれて肩の力を抜く。ポモナはもう意識を手放していた。 「ところでショーン、私にお菓子は? これ以上お菓子くれないと悪戯するよ? 部屋のドアノブ隠すよ!」 「やめてください……!」 そんなやりとりに小さく笑って、サウィンも眠りにつく。 「大切な人と引き離されるのは、きっとつらいと思います……」 光と喧噪の中を歩きながら、白いローブの女性はかすかな声で言う。 「昔の私なら、その感覚は分からなかったですけど……。今なら、少し、分かります……」 ちらりと彼女は傍らの青年を見る。 「なんとかしてあげたい、です……」 「そうだね。……大事な人、か」 カボチャ頭の青年も思わず彼女の方を見て、視線が交わった。 咳払いをした彼の背で、魔女見習いはすやすやと眠る。
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*** 活躍者 *** |
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[8] ルーノ・クロード 2018/10/20-22:21
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[7] クリストフ・フォンシラー 2018/10/20-21:58 | ||
[6] リチェルカーレ・リモージュ 2018/10/20-21:49
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[5] レオノル・ペリエ 2018/10/19-20:28
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[4] リチェルカーレ・リモージュ 2018/10/19-00:11
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[3] ナツキ・ヤクト 2018/10/18-23:50
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[2] アリシア・ムーンライト 2018/10/18-21:20 |