~ プロローグ ~ |
武術とは突き詰めてしまえば、どんな手段であれ殺せればいいと言う技術だ。 |
~ 解説 ~ |
●目的 |
~ ゲームマスターより ~ |
ここまでプロローグを読んでいただき、ありがとうございます。 |
◇◆◇ アクションプラン ◇◆◇ |
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【目的】 鍛錬 【行動】 最近邪念に囚われてしまっている。邪念は捨てないと…同じ過ちを繰り返すだけ。 きっとまだまだ鍛錬が足りないから。邪念なんて考える余裕がなくなるぐらい…鍛錬しないと。 (11話)の事を思い出して中々眠れなかった為に夜中にこっそり修練場に… 途中で邪念の原因(成)に遭遇。1人で集中したいからと断っても着いてくるから訓練でのお手合わせをお願いする。 修練場) イレイスを交えての模擬戦。 手は抜かないでください。 迷惑はかけませから。 もし私に勝ったら…成の言うことなんでも1つ聞きますから本気で来てください。 手加減モードの成に本気を出させようと試みる。 こんな夜中に病棟に連れて行くつもりですか? 成が? |
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※アドリブ歓迎します (特に30話参照。30話で叱られた事から トーマス君の件で本音を叫ぶところまで成長する感じ) (深夜、修練場にて射撃訓練をしている) (もう誰も死なせない。危険な目にだってあわせない。 トーマス君の件だってそうだ。 僕が攻撃を外すから皆が危険な目にあう。 ララエルを守る。 約束したんだ、いつか故郷を復興させて 一緒に見に行こうって。一緒に生きようって) …って、ララエル!? こんな夜中にどうし… 大丈夫、大丈夫だから。ね? ララを守るのは僕だろう? |
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悪夢はもう見ないのよ、でも目の下のクマがとれなくって… つまりアレよね、健康の為にも運動しないといけないわよね! というわけで手伝いなさい、ラス ただ訓練しても面白くないとの理由で 互いの武器種を交換しての訓練 ラニ→斧 ラス→双剣 重っ…! なにこれ重たい!あんたよくこんなの振り回せるわね!? そりゃ火力はロマンだけど、これはいくらなんでも無理! い、いやでも気合で使えばいける…? 動く的を利用した自主訓練 扱えるといえば扱えるが「振り回している」状態 ラス、あんたすごいわね…これ、持てるようになるの大変だったんじゃない? あたしの武器はどうだった?軽い? ふふん、素直な性能と言いなさい もっと褒めなさーい! |
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自主練している喰人の様子を見にきた ヨナは4階を多用しこちらはご無沙汰 他の浄化師の訓練も気になりつつ邪魔にならぬよう壁際で見学 ヨナも散々やった教団の型稽古とは違う 見たことのない型練習 拳を使った彼の戦い方の基礎となっている事は分かる 力強く緩急があり それでいて優雅さも感じる動き 区切りついた所でヨナに気が付く ベ 来ていたのか ヨ 上が空いていなかったので ベルトルドさんの様子も気になりましたし ベ 気になる ね(にこり ヨ 変な風に取らないで下さい(むす ヨ その型はお師匠様から習ったんですか? ベ ああ 套路という。『天行は建なり 君子以て自彊して息まず』 爺… 師に散々言われたものでな 毎日これをやらないと身が引き締まらない ヨ 毎日 |
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魔喰器と魔術は使わず体術のみでの手合わせを行う しかしやはり魔術無しでの体力勝負では分が悪い 本気で打ち込まれてヒヤリとする こちらは息が上がり始めているのにナツキは余裕がありそうだ ナツキ:たまには魔喰器無しってのも悪くねぇな! ルーノ:あれだけ動いて、随分と元気だな… ナツキ:何言ってんだよ、これからだろ! まだやるのか…体力差を少し悔しく思いつつ、ひとまず休憩 ルーノ:契約したばかりの頃と比べると、そこそこ力も付いてきただろうか ナツキ:…まだ、全然足りねぇ。もっと強くならなきゃダメなんだ 思い詰めた顔で黙り込むナツキに、手合せの再開を促す 時間も遅い、普段なら切り上げたい所だが、今夜はもう少しだけ付き合おう |
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~ リザルトノベル ~ |
●『神楽坂・仁乃』『大宮・成』 途切れ途切れの夢ばかり見る。 それもあの幼い日の悪夢を繰り返しだ。 二人が死によって一度別たれた日のことを。 あの時は仁乃を庇って成が死んだが、夢ではベリアルによって殺されるのはいつも仁乃の方だ。 無惨な姿に成り果てながらも仁乃は心の底からホッとしたような表情を浮かべて、いつも成を置いていく。成はそれを見ていることしかできない。 それは拷問のような眠りだった。自分の夢なのに何もできず、ただ目覚めるのを待つしかない。 成は弾かれたように飛び起きると、荒々しく息を吐く。 (もしあの時死んだのがにのだったら……) 運命の歯車が一つ違えばあり得た可能性に成は身震いする。いや違う、本当に不安なのは悪夢が現実になってしまうことなのだ。 成はどうしようもなく仁乃に会いに行きたくなった。 ● 最近、仁乃は邪念に囚われてしまっている。 だから、何度も胸の内で言い聞かせる。 (邪念は捨てないと……同じ過ちを繰り返すだけ) 今夜もまたベッドに入っても寝付けない夜が過ぎる。 仁乃は無理にでも疲れた身体を少しでも休めようと、強く目を閉じる。 瞼の裏によみがえるのはアイスラグーンで成と過ごした事ばかり。 一つ思い起こせば、記憶が波のように押し寄せてくる。 仁乃の感情を掻き乱す存在は、いつだって一人しかいない。 あの時、成は「難しく考えすぎだよ」と励ましてくれたが、仁乃は幼き頃の罪を忘れられる筈がなかった。 気遣ってくる成の言葉を嬉しく思うと同時に胸が締め付けられる。 もう二度と成を失いたくない。彼を死なせたくない一心で強くなると決意した筈なのに、この頃揺らぎ始めている。 成への恋心が。この思いが仁乃を悩まし自分を律する事が出来なくさせる。 成といるといつもそうだ。一緒にいれることへの嬉しさと居た堪れなさが同居する。 それは甘やかな苦痛だった。 彼を失うぐらいなら、自分の感情なんて必要ない。そう言い聞かせている筈なのに、もう少しだけ今ある成と過ごす幸運を噛みしめたいと思ってしまう。 成が大切だと思えば思うほど、皮肉なことに仁乃の鎖は重く彼女を縛り付ける。 長年育まれた強迫観念のような罪悪感はそう簡単に消えはしない。それは罪意識であると同時に仁乃の心の傷なのだ。 仁乃は思い詰めた表情のまま、ベッドからゆっくりと上半身を起こした。 (きっとまだまだ鍛錬が足りないから。邪念なんて考える余裕がないくらい……鍛錬しないと) 今日みたいにどうしても寝付けない日は身体を痛めつけるように訓練して泥のように眠るのが常だ。身体を動かしている間は、余計なことを考えずに済む。 そんなことを続けているのを、おそらく成は気づいているのだろう。 何か言いたげな表情をしながら、そのことに触れる様子はなく、ただ心配だと眼差しが雄弁に語る。 (あんな表情をさせたいわけではないのに……) その表情に後ろめたさを感じても強くなると言い訳して見て見ぬ振りをしている自分のずるさに自己嫌悪が募る。 煩悶する思いとは裏腹に迷いない足取りで教団寮にある修練場へと向かう。 深夜を過ぎれば修練場も殆ど人気がなく、誰とも会わない筈だったのに。どうしてこういう時に限って成と鉢合わせしてしまうのだろう。 「にのったら、また修練場に向かうの?」 「成こそ何でこんなところにいるんですか……」 成はそれに答えずにこりと笑うばかり。 「こんな時間に女の子が一人歩きしてるなんて不用心じゃない?」 「ここは教団ですよ、それに成に言われたくありません」 成が心配して声をかけてくれたというのに、どうしてこんな言い方しかできないのか。 「教団内でも仁乃は女の子なんだから気をつけなくちゃ……修練場に行くんでしょ、なら僕も行くよ」 「……一人で集中したいんです」 そう遠回しに断ろうとしたが、成は知らん顔で勝手に話を進める。 「うん、いつものように僕は見てるだけだよ」 「きっとつまらないですよ」 「にのと一緒にいれるだけで嬉しいから……それに今日はなんだか眠れないんだ」 成の迷い子のような表情に仁乃は何か言おうとして口を開いたが、結局何も言えずじまいだった。当然のように修練場に向かう成に根負けしたように仁乃は歩き出す。部屋に戻る気がない成に仁乃はこっそりと溜息を吐き出した。 「成、どうせ見ているだけなら私と手合わせをお願いします」 修練場に着くと仁乃はもちろん手合せの相手が欲しかったのもあるが半ば八つ当たり混じりにそう提案した。 壁際で邪魔にならないように移動していた成は仁乃の突然の提案に一瞬固まり、困惑した様子で断る。 「え、嫌だよ……訓練でもにのを傷つけるなんて嫌だ」 「成には迷惑かもしれませんが、私はもっと強くなりたいんです。お願いです、成。手合わせしてくれませんか?」 そう仁乃に頭を下げられ、仁乃のお願いに弱い成は渋々と口寄魔方陣で魔喰器を取り出した。 「手は抜かないで下さい。……本気でなければ意味がありません」 仁乃はそう言うと静かに魔喰器を構える。 「もし私に勝ったら……そうですね、成の言うことなんでも1つ聞きますから本気で来て下さい」 手加減しようとしていた成の心を見透かしたように仁乃は真剣な表情で告げた。 「なんでも言うことを聞く?」 眉根を顰めて低い声で反芻する。 「そんな条件出して僕が無茶なことを言うと思わないかな。今はまだ思いつかないけど」 成はどこか固い表情で尋ねると、仁乃は不思議そうな顔を一瞬浮かべた後はっきりとこう答えた。 「成を信じていますから」 成は虚を突かれたように目を丸くすると、すぐに弱りきった表情を浮かべた。 「分かった。もし怪我したら隠さないで僕に言って」 「成、心配してくれるのは嬉しいですが……鍛錬に多少の怪我は付き物です」 仁乃は首を傾げて生真面目に答える。 「まさか、こんな夜中に病棟に連れて行くつもりですか?」 「違うよ、応急処置ぐらい僕でもできるから」 「成が?」 持ち歩いていた簡易救急箱を取り出して見せると、仁乃はいつの間にと顔に書かれていた。すぐに気を取り直した仁乃の声を皮切りに二人の手合せが始まった。 「それでは始めましょうか」 仁乃はピアノを奏でるような指使いで人形の成子を操ると、躊躇なく急所を目がけて成子が襲いかかる。 ガキンッ! 金属音が高らかに響く。 真正面からといえども仁乃の本気の一撃を成は余裕で受け止めた。 シールド・サイズで人形の成子ごと薙ぎ払う。その鋭さに残影が輝線を描く。 「本気なんだね……」 渋々と言った口調で成が乗り気ではないのが伝わってくる。 吹き飛ばされた成子はすぐさま仁乃が張った糸に飛び乗るとその勢いを殺すことなくこちらに飛んでくる。 迎撃する為に鎌を振り下ろそうとすると、何かに引かかったように動かなくなる。 いつの間にか振り下ろそうとした鎌は糸に絡め取られ、ギチギチと音を鳴らす。 成は体ごと回転させる要領で糸を振り切ると、その勢いで仁乃の手を目掛けて鎌を振り下ろす。 (……にの、ごめん!) 寸止めする筈だった鎌はキンッと音を鳴らし網目のように張られた糸で防がれていた。 成が驚愕した隙に仁乃が再び攻撃を仕掛けようとする前に、バックジャンプで距離をとる。 糸の存在を全く悟らせず、一瞬の間で成し遂げた仁乃の技量に成は驚く。 それだけの特訓を仁乃はしてきたのだ――力を求めて。 仁乃はいつの間にこんなに強くなったんだろう。あの守るべき少女は確かに強さを身につけつつあった。なのに、どうしてこんなに不安なのか。 間近で見ていた筈なのに、分かっていなかったことを改めて実感する。見ているようで見ていなかった。知ろうとしなかったのは自分だ。 苦い感情を噛み締めながら様々な感情が一斉に胸の内に去来する 成は乗り気ではなかったのが嘘のように真剣な表情で対峙する。成の変化に仁乃の口元が僅かに綻んだ。 二人は言葉もなく魔喰器を構えると激しい応酬が始まり、今だけは蟠りも憂いも愛も全てを捨ててまっさらなままの二人で激突する。 終わりなきダンスが始まる。 ●『ラウル・イースト』『ララエル・エリーゼ』 ラウルがいない。 どこにもいない。 一人はイヤだ。 深夜遅くにまるで夢遊病者のようにふらふらと出歩くララエルを心配したのか教団員の一人が声を掛ける。 大丈夫かと問われララエルは蒼褪めた顔色で、きょろきょろと視線を彷徨わせる。 教団員達の困惑した視線にも気づかず、ただただ幼子のようにラウルの居場所を問いかける。 教団員の一人がラウルの居場所を知っていたようで、修練場で見かけたと教えると、 「何でラウルは一人でいったんですか?」 ララエルはどうして、と言わんばかりに口にする。 「私なんかいらないって事ですか?」 声は悲痛さを増していく。 「私また捨てられたんですか?」 ララエルの情緒不安定な言動に教団員が眉を顰めたのを見て、ララエルはますます混乱し、周囲が敵だらけのように感じてさえいた。 急速に視野が狭くなり、視界が潤んで前がよく見えなくなる。 さすがに様子がおかしいと思った教団員が制止するのを振り切り、ララエルは逃げるように駆け出した。 ただただラウルに会いたい一心で鉛のように重たい身体を動かす。まるで自分の身体じゃないみたいだった。 得も言われぬ不安が影のように付きまとってララエルから離れない。 ああ、まただ。またどこからかざくざくとシャベルで土を掘る音が聞こえる。あれは自分を埋める為の穴だ。どこまでも真っ暗な墓穴が用意されようとしている。 あそこは嫌だ、本能的に嫌悪感を感じるのにどこに行ってもその音が止むことはない。とうとうララエルは嫌々と頭を何度か振りかぶると自分の耳を塞ぐ。さらに湿った土の匂いが漂い始め、ララエルは匂いのしないところを探す。 何も考えられない。考えたくない。 心の底にあった不安から生まれた化物はララエルの手に負えないほどに肥大化し、彼女を取って喰らおうとしていた。 ● 深夜遅く、修練場にある射撃場で銃声が鳴り響く。 ライフルの引き金を絞ると撃った反動で肩に衝撃が走ると同時にまた銃声が鳴り響く。 ライフルのスコープ越しに横に移動していく動く的に狙いを定め、ひたすらターゲットの中央を撃ち抜くことに集中する。 (もう誰も死なせない! 危険な目にだって逢わせない。トーマス君の件だってそうだ。僕がもっと強ければ……攻撃を外さなければ皆が危険な目に逢うことだってない) それになによりもララエルを守る為に。決意を込めるように引き金を引き、ターゲットを撃ち抜く――筈が、中央から外れてしまう。 自分はいつもそうだ。気持ちばかりが先立って実力が追い付いていかない。 強くなるには地道な鍛錬を積み重ねるしかない。 ラウルはそう自分に言い聞かせても焦燥感ばかりが募る。それでもラウルは途中で投げやりになることもなく、深呼吸をし照準を定める。 精密射撃とは、どんな状況であってもいかに毎回同じ事を正確に繰り返すことができるかである。 視線と銃身は延長線上に置き、その位置が崩れないように腰を捻って標的を追う。 銃を構えた際も力むことなく体がリラックスした状態で銃口が標的の方を向くようにするのが理想的な構えなのだ。 戦闘ではどうしても体が力む。悪魔祓いはその中でどれだけ冷静さを保っていられるのかが問われるアライブだ。 基本の構えはできているのに、何故照準が外れるのか。 彼はその答えに辿り着きつつあった。自分は視線ばかりが先行して、体が付いていっていないことに。 日常生活で動くものを目で追うことはあっても、目と体を一体化させて追うというのは普段やらない行動なのだ。普段やらない行動を身体に覚え込ませるのには時間がかかる。 だが、幾つもの戦闘を乗り越え努力を惜しまぬラウルは確実にその感覚を掴みつつあった。 ラウルが訓練をひたすら繰り返し、どれだけの時間が経っただろうか。 ● 薄暗い場所から足音が響き、うつろな輪郭の陰が現れた。 「……ララエル? こんな夜中にどうして……――っ!?」 ラウルはララエルの姿を見て言葉を失った。 普段は無邪気な笑みはなく、一切の表情がそぎ落とされている。いや、残されたのは背筋が寒くなるような深い絶望だけだった。 その青い硝子玉のような双眸は陰り、悲嘆に溺れていた。 目はどこか虚ろで焦点が合っておらず、ずっと見ていると深海の底に閉じ込められているような気持ちにさせられた。 ふらふらと危うげな足取りでララエルはラウルに駆け寄ると、縋りつくようにラウルに身を投げ出した。 慌ててラウルは銃を手放し、ララエルを抱き留める。 「ラウル……ラウル、どうして……いなくなっちゃたんですか……どこ、どこですか、ラウル……」 そう硝子のような瞳をラウルすら通り越して虚空に彷徨わせながら、ぼそぼそと囁く。 ――ラウルは私を必要としてくれますよね? その声は夜の静けさに掻き消されてしまうように小さかった。 「僕には君が必要だよ。……どこにもいかない。君の傍にいる」 ララエルの心が不安定に崩れていくのを目の当たりにしたのは、これが初めてではない。 それでもこのララエルの姿を見る度にラウルは静かな衝撃を受ける。 ララエルがこの華奢な身体でどれだけの不安に耐えていたのかと思うと自分のことにように苦しくて堪らなかった。 「ラウル……」 ララエルは頬に流れ落ちる涙にも構うことなく、ラウルの顔を見て綻ぶように笑ったかと思えば、一転して狂乱するように叫んだ。 「ねえ、私、また土の中ですか? ねえええッ!?」 「……大丈夫、大丈夫だから、ね?」 何度も宥めるようにララエルの背中を撫でる。それは自分に言い聞かせているようでもあった。 ラウルは彼女の髪を優しく梳くと全てから守るようにしっかりと抱きしめた。 「ラウル……ラウルを守るのは私ですよね」 ラウルが呆然としたまま何も言えずにいると、ララエルは涙を滂沱とこぼし、激情を剥き出しにして叫んだ。 「私がラウルの盾になって死ぬんですよね!?」 「……何を言ってるんだ。ララを守るのは僕だろう?」 それは血を吐くような叫びだった。ラウルはただ宥めるように言葉をかけることしかできない。その無力さを噛み締める。 とめどなく溢れ出る涙を拭っても、頬に伝う涙は止まらない。ただ硝子玉のような瞳から涙を落としながら、ぽつりと呟いた。 「……大体この教団おかしいですよね?」 その声の冷たさが、ララエルの心があらん限りの悲鳴を上げているようで、つらかった。 傍にいるラウルすら目に入っていない様子で己の恐怖心を吐き出し続けた。 「死者の遺体は家族に返されないなんて、大切な人とも会えずに暗闇の中で過ごせだなんて、どれだけの苦痛で寂しくて惨めなのかも知らないからそんなことできるんです……」 きっとこの言葉はララエル自身の言葉だ。 ララエルがこれまで呑み込んできた言葉を聞く度に、彼女の情緒不安定な精神状態の理由の一端を知る。 胸の底に沈めていた漠然とした不安は次第に現実として姿を現し、浄化師の定めがララエルを確実に蝕んでいた。 ララエルをひっくるめて浄化師の理不尽な運命への憤りの炎が紅玉の瞳の中で揺れる。 それは純粋な怒り。ラウルの中にある父から受け継がれた誇りが問いかける。これでお前はいいのか、と。 「ラウル、私から手を離さないでください、ずっとずっと……」 狂気の海に溺れ沈んでいくララエル。それでもラウルに手を伸ばそうとするララエルの切ないまでの思いが全身から迸っていた。 「ああ……約束しただろう。いつか必ず故郷を復興させて一緒に見に行こうって。一緒に生きようって」 ララエルの小さな手を握りそう伝えると、ララエルの瞳に光が戻り、堪えきれないように胸元に頭をすり寄せた。 「うぁ、ラウル、ラウルのお屋敷にいきたい……いきたいよぉ……うわああん、うぇええええっ!」 ララエルは喉いっぱいに泣きじゃくった。まるで全ての感情を吐き出すように。 ラウルはその痛々しい姿に唇を無意識に噛み締める。 ラウルは泣き止まぬララエルを優しく抱きしめる。決して離れはしないと伝えるように。 ●『ラニ・シェルロワ』『ラス・シェルレイ』 「中途半端な時間よね~、夕食まで後2時間ちょいあるし。何しようかしら」 「再調査だから仕方ねえだろ。他の指令を受理してもらったけど、出発すんの明日だしな」 司令部から突然指令の待機を命じられ、暇を持て余した二人は教団内をぶらぶらと歩いていた。 降ってわいた休暇は半日もない。どこか出かけるにしても夕食の時間が近く、遠出する気分にもなれない。 「そういや、最近眠れてるのか?」 「うん、悪夢はもう見ないのよ。でも目の下のクマがとれなくって……つまりアレよね、健康の為にも運動しないといけないわよね!」 何気ない素振りでラスは心配を表に出さずに尋ねると、ラニはあっけらかんと答えた。 「何時にも増して唐突だな?」 「というわけで手伝いなさい、ラス」 「お前が元気になるのはオレも嬉しいし、付き合ってやるよ」 幼なじみらしい軽快なやり取りの後、時間を潰しに教団寮にある修練場に二人は向かった。 ただ訓練しても面白くないと言うラニの提案で互いの武器を交換して特訓する。相手はラニが一度使ってみたいと好奇心から起動させた『魔術鍛錬人形(トレーニングドール)』 だ。 「お前っ……本当にコレ使うのかよ」 「確かに見た目はヤバいけど、技術班が作ってんだから問題はないでしょ……たぶん」 ラニもさすがにアレはヤバいと認識しているのに止める気はないらしい。渋っているラスとは反対に嬉々としてラニは「動く的」もとい「動く人形」が動くのを待っている。 するとマネキンのような白い人形がぎこちなく不自然に揺れながら立ち上がる。ラスは顔を引き攣らせそっと目を逸らした。 やっぱりやべぇ。 カタカタと音を立てながら、操り人形が崩れ落ちるのを巻き戻しにしたような動きで立ち上がる。 ホラー案件だ。 使用禁止されているわけではないのに、使われていないのは完全に見た目と動きのせいだ、とラスは確信する。 これを使おうとする者はラニのような好奇心に駆られた者と完全に何も知らずに起動させてしまった新人浄化師ぐらいだ。 周囲にいた者は「……勇者だ、勇者がいる」と恐れ戦く声が聞こえると共に、人形の方を決して見ないでいる。酷い場合は、人形が動き出した時点でそそくさと逃げ出していく有様だ。 立ち去っていく背を見送りながら、ラスは申し訳ない気持ちで一杯になった。 ラニが噂を耳にし、好奇心から使ってみたいと言った時、反対するべきだったと今更ながらにラスは後悔した。 「……わぁ、実物は噂よりもひどいわね……もうちょっとどうにかならなかったのかしら」 「……おい、他に言うべきことはもっとあるだろ」 もうちょっとデザインに拘っても良かったのではないだろうか。というか、あれを作った奴はセンスが壊滅的に違いない。性能が良ければ見た目など、どうでもよいとでもいうのか。 様々な疑問と突っ込みがラスの脳裏に過ぎるが、まるで他人事のようなラニをどついた。 トレーニングドールの性能自体はいい。武器の変更可能で自分の実力をトレースし、訓練できるという高性能ではあるのだが、いかんせん見た目がアレだ。普段は倉庫にしまわれている代物だ。 当然浄化師達にとっては大不評であった。 「深夜に動き出すとマジ怖いっ!」 「もうちょっと見た目をどうにかしてくれ!」 そんな声が多数挙がっているのだが、予算の都合上改善される予定はない。ホラーが苦手な浄化師はこの人形が嫌で、修練場に近づこうとしない者もいるぐらいだ。 2体の人形もといマネキンが迫り来る。 どこかカクカクとした動きで武装したマネキンが高速で襲いかかってくるのを見て、ぽつりとラニが呟いた。 「……やっぱり失敗だったかしら」 「お前がコレでやるって言ったんだろうが!? とりあえず戦うぞ!」 ラスの突っ込みを華麗にスルーするラニ。 二人は慌てて人形を迎え撃つ。 「重っ……!」 ラニが呻くように声を上げた。振り下ろした衝撃で手が震える。 メガトンアックスは両手斧であるが、どちらかというと斬るよりもハンマーのように叩き割ることを重視した武器だった。 「なにこれ重たい! あんたよくこんなの振り回せるわね!?」 慣れない重さに加えて斧は重心が先端にある為、取り回しに癖があり、ラニは使いこなすのに苦戦していた。 「そりゃ火力はロマンだけど、これはいくら何でも無理!」 扱えるといえば扱えるが、遠心力を利用し斧を「振り回している」状態だ。 一方、ラスもまた普段とは扱うことのない武器に戸惑っていた。 「軽い……そんでもってリーチが短い……!」 いつもならば敵が間合いに入ってくる前に叩き潰せばいい。だが、ラニの双剣だと先んじて敵の間合いに入り込み、瞬時に敵を切り裂かなければならない。 相手に主導権を渡せば自分が不利になる。 ラニの攻撃は「先の先」だ。静かに重圧のある連撃で相手を押して押しまくる。その猛攻によって僅かでも隙ができれば容赦なく首に食らいつく苛烈な戦い方をずっと隣で見てきた。 人形に斬りかかろうにも斧よりも間合いが狭いせいか、手数が多いがどうしても敵に密着した戦いになってしまう。 (そりゃあんな突っ込むような戦い方になるわけ……いやないな) 一旦納得しかけてラスは首を振った。 確かに密着した戦いになりやすいが、今ラスがやっているようなヒット&アウェーで戦えばいい筈だ。ラニの場合、自分自身すら顧みない肉を切らせて骨を断つと言えばいいのか。見ている方は堪ったものではない。 それにしても軽い。普段は重みのある武器だからか、どうにも落ち着かない。普段通りに動こうとすれば、空回ってしまう。 相手を正面から受け止めるには斧と違い心許なく、斬った手応えは浅く感じてしまうのだ。 「普段とは違った武器を扱うって難しいわね……」 「オレは潰す、お前は斬ることが重点的なアライブだろ……と言いたいところだが、やっぱり慣れない武器は使いづらいな」 自然と背中合わせで戦い合う二人は、溜息交じりに会話する。 互いに示し合わせたわけでなく、両側から襲い掛かろうとする人形を翻弄するように交差し、自分と反対側の人形を攻撃する。 ラスは素早く相手の懐に入り込み足を薙ぎ払った後、乱舞するように二連撃を浴びせ、ラニは遠心力を利用しメガトンアックスを胴体に叩きつける。人形がそのまま壁に吹き飛ばされるのを見たラニは思った以上の威力に呆然と呟いた。 「い、いやでも気合いで使えばいける……?」 「完全に持つ、というよりは勢いで動かしてるぞ?」 「ラス、あんたすごいわね……これ、持てるようになるの大変だったんじゃない?」 改めてこの武器を使いこなす事の難しさを痛感したラニは、ラスに話しかけた。 斧は使い手によっては非常に多彩な攻撃ができることをラニはよく知っていた。ずっと戦場で相棒を務めていたからこそ、斧特有の形を生かして相手の足や手首に引っ掛けて切り裂きながら相手を転ばせたり、柄の長さを利用して関節技を掛けたりすることも出来る。 それを考えるとラスはよく器用に使いこなすな、とラニは口にはしないが感心していた。やはり使ってみなければ分からない事もある。 「あたしの武器はどうだった? やっぱり軽い?」 「お前のは慣れりゃ使いやすいんだろうな」 「ふふん、素直な性能と言いなさい」 ラスは手に持った双剣を確認するように視線を向け、ラスは口元にうっすらと苦笑を浮かべる。 「オレは重いのに慣れちまったからな。……軽いと空回りしたけど……お前は凄いよ、本当に」 やはり自分の武器の扱いを誉められて嬉しくないわけがなく、ラニは自慢げに笑う。 「もっと誉めなさーい!」 調子に乗り始めたラニに呆れた眼差しを向けると、双剣を押しつける。 「満足しただろ、やっぱ自分の武器がいいわ」 「……やっぱり? あたしも丁度そう思ってたのよね」 そう互いに顔を見合わせて笑うと互いの武器を交換し、再び立ち上がって襲いかかる人形との訓練を再開した。 ●『ヨナ・ミューエ』『ベルトルド・レーヴェ』 ヨナは読み終わった本を閉じ、中途半端に空いた時間を持て余した。 本来ならば指令を受けていた筈が依頼人の都合により指令そのものがなくなってしまったのだ。ヨナは即座に他の指令があるか尋ねると、司令部の教団員が明日以降にまた来てほしいと頼み込まれ、半日程だが休暇と相成ったのだ。 互いに戦闘の勘が鈍らないように魔術学院4階にある魔術修練場で訓練をしようと思ったが、事前予約が一杯で断念したのだ。 ここで別行動となった。ベルトルドは他の場所で鍛錬すると言って教団寮にある修練場に向かい、ヨナはそのまま図書館を利用していた。 ベルトルドの教材選びをした後、ヨナ自身も最近読んでみたいと思っていた本を数冊借りたところまでは良かったのだが、それも先程読み終わってしまった。 他に本を読む気分でもなく、不意にベルトルドはどうしているだろうと気になった。 これまでは自身の得意分野である魔術の研鑽や実戦を想定した訓練にしか興味が無かった為、攻撃魔術の使用が禁止されている向こうはご無沙汰だった。 ヨナとは違い、ベルトルドはよく型稽古の為に利用しているのは知っていたが、鍛錬している様子をしっかりと見たことがないことに思い至った。 (……たまにはあちらに足を運ぶのもいいかもしれません、実際に他の浄化師がどんな訓練をしているのか興味もありますし) パートナーでもあるベルトルドが使う独特の体術のように他にも特異な戦い方をする者が教団にいてもおかしくはないと思うと、好奇心が疼いた 久しぶりに踏み入れた修練場には、魔喰器を用いて鍛錬している者もいれば、互いに手合わせしたり、ベルトルドのように型稽古を行っている者もいた。 邪魔にならないように壁際で見学していると、見知らぬ浄化師が教団の型稽古をやっていた。 教団が教える武術は一切の無駄を省いたシンプルかつ合理的なもので常に不利な状況を想定し、誰でも使えることを重視した護身術から発展したものである。前衛・後衛関係なく、さらに言えば性別・体格も違う人間が短期間の訓練で最大の効果を発揮できるよう考案されたものだ。 修練場の中でもベルトルドは一際目立っているように感じた。 彼がやっているのは型稽古などではなく、演舞のようだった。 力強く緩急があり、それでいて優雅さも感じる動きはまるで舞だ。 身体はリラックスしていて流水の如く淀みなど感じさせない。自然体なのに獣の如くしなやかであった。 ヨナも散々教官に叩き込まれた教団の型稽古とは違う、独特で見たこともない動作だ。 ベルトルドは目を閉じ両手を重ねたところで息を深く吸い込み調息しながら丹田に満たした内気を血管を通して全身に巡らせていく。 集中を解き、目をゆっくり開くと心地の良い春の日差しが肌に当たる。 不意によく見覚えのある見慣れた気配を感じ、視線を壁際に向けたところでヨナと目があった。 「来ていたのか」 「時間が空いたので、……ベルトルドさんの様子も気になりましたし」 「気になる、ね」 ベルトルドが含んだ笑みを浮かべると、ヨナはムスッとした表情で顔を背けた。 「その型はお師匠様から習ったんですか?」 「ああ、套路という。『天行は建なり、君子もって自彊して息まず』」 「聞いたことない言葉ですが、どういう意味ですか?」 「これは異国の言葉だ。天地は健やかに巡っていくこと、途切れることなく、規則正しく、健全に運行されていくということ、そのように君子も、自ら努め、学問に励み、人と交わり、職務を全うし、怠ることはなく規則正しく健全に行わなければならない」 ベルトルドは懐かしむように師に教えられた言葉を語る。滔々と語ることから師である老人から何度も何度も聞かされた言葉なのかもしれない。 「当時の俺はよく分かっていなかったが、今なら少し分かる」 ヨナは黙ってベルトルドの言葉を待った。 「套路は全ての基礎だ。先達たちが築き上げものがこの型に詰まっている。爺……師に散々言われたものでな、毎日これをやらないと身が引き締まらない」 「毎日」 ヨナは思わず反芻した。自分が知らなかったベルトルドの努力の一端を知った気がした。 ベルトルドが珍しく楽しげに饒舌に語る。 套路とは複数の技が連続して組み合わさって構成されており、攻撃から防御へと流れるように変化し、基本である姿勢、歩法、呼吸法、気功などを全てが詰め込まれた動作のことである。 「型」とはつまり古くから伝わっているもの、先達の智慧が詰め込まれている。 「最初から分かる必要もなく、分かる筈もなく、ひたすら型を真似ることでそれを理解していくのだ、と師匠は言っていた。……俺はまだその段階には達していないようだ……まだまだ師には程遠い」 どこか遠い目で語るベルトルドの目は少年のように輝いていた。思わず新緑の輝きに見入っていると、ベルトルドが立ち上がりヨナは我に返った。 「そうだ、見ているだけではなく手合わせするか? 丁度昼食前だ、昼飯でも賭けよう」 負けん気の強いヨナは自分に不利勝負といえど、受けて立つと言わんばかりに真っ直ぐにベルトルドを見据えた。 「魔術が使えないから……そうだな。ここに一発当てればお前の勝ちでいい」 ベルトルドは余程自信があるのだろう。自分の腹を指さし、ヨナに向かってにこりと笑った。そうでなくとも今日のベルトルドは機嫌が良さそうに見えた。 「ハンデ有りなんて随分余裕ですね」 ここまで言われては受けて立つしかない。 ベルトルドに乗せられているのにも気づかず、ヨナは真剣に勝つつもりでいる。 それなりに実戦を積み、体格差があるとはいえど自分も浄化師。魔術だけでなく、いざという時の体術も修めている。 それなりに動ける自負はあったのに、まるで一度も当てることができない。 ベルトルドはそれほど素早く動いていないように見えるのに、どうして当たらないのか。 ヨナが死角から繰り出した蹴りも全て危うげなく回避する。 足運びだ。ヨナは直感的に悟った。 どんな不安定な体勢からでも立て直すのが早いのだ。たぐいまれなバランス感覚の他にも何かあると思ったが、それ以上は分からなかった。 なら、逃げられないように組み合ってしまえばいい。 ヨナは一先ず容赦なく鳩尾に拳を叩き込もうとした瞬間、くるりと廻されて天井を見上げていた。 最初ヨナは何が起こったか分からず、呆然としていたが、胸の前に突きつけられた拳が寸止めされているのを見て自分は負けたのだとようやく気づいた。 「降参です、ベルトルドさんって強かったんですね……」 ヨナの素直な賞賛の言葉にベルトルドは満更でもなさそうな表情を浮かべる。 ベルトルドは突き出された拳を開き、手を伸ばされる。ヨナはその手を掴むと引き上げられるように身体を起こした。 結果は完敗だ。だが、負けたのに不思議と心は軽かった。 「丁度いい時間だ、これから昼飯でも食いに行かないか」 「そうですね、……今度は4階の方でまた手合わせしましょう。魔術を使って」 ベルトルドが時間を確認すると、ヨナがそう提案してくる。 楽しげな笑みを口元にうっすらと乗せたベルトルドが冗談を言う口調で問いかける。 「今度は俺がハンデをもらう側か?」 「ベルトルドさんはハンデが欲しいんですか?」 「まさか、魔術を使ったお前との勝負なら面白そうだ」 「……今度こそ負けません」 ヨナは悔しげな口振りとは裏腹にその足取りは軽い。 「教団ではあのような技は見たことありませんけど、カウンターの一種ですか?」 「さあな、俺も口で説明するのは難しい」 「なら、もう一度実践してみて下さい。先程は分かりませんでしたが、何度かやっている内に解明して見せます」 「おい、今から昼飯を食べに行くんじゃないのか」 ヨナは知的好奇心を満たす為、先程の技がどんなものか知ろうと食い下がる。ベルトルドはそんなヨナを宥めながら、修練場を後にするのだった。 ●『ルーノ・クロード』『ナツキ・ヤクト』 修練場のある一角で、ルーノとナツキが真剣な表情で相手の出方を窺っていた。 互いに魔喰器も魔術も使用禁止の体術勝負。 「ルーノ相手でも格闘戦なら負けないぜ!」 「君の得意分野だが、私もそう簡単に負ける気はないからね」 ルーノも純粋な力比べでは勝てるとは思っていない。だが、それでも戦いようはある。 (普段はフォローする君の隙、利用させてもらう) 皮膚の表面がチリチリと粟立ち、相手の気迫が自分も伝わってきて自然と心が奮い立つ。 膠着していたのも一瞬のことで、先手必勝とばかりに先に動き出したのはナツキの方だった。 「はあっ!」 腹の底から揺さぶられるような一声。 ただの拳が分厚い斧のように切れのある重い一撃。受け流しはしたものの、それでもルーノの手は骨まで痺れた。続けざま2発、3発と蹴りや拳が飛んできた。回避できるものは足運びで躱し、避けきれなかったものは受け流す。 「っくぅ!」 呻き、をこらえる それでも骨が痺れる程重たい一撃はルーノの動きを鈍くする。 この間合いは良くない。 ルーノは咄嗟に後ろに飛び退くように跳ねた。 相手の動きが見える距離に、常に戦況を正しく把握し、敵の動きを制限し利用する位置に、ナツキのフォローに回っていたが故に身につけた間合いへ。 ルーノが後ずさったのと同時にナツキはそれ以上のスピードを持って距離を詰めた。 ナツキの金色が獣の如く光り、左足が視界から消える。 「遅いぜ!」 まずい! 反射的にバックステップで威力を殺すが、本気の蹴りを打ち込まれてヒヤリとする。 だが、ここからが本番だと言わんばかりにナツキは一発目の蹴りはフェイントだったのか、本命の二段蹴りを放った。 「か、はっ……」 肺に残っていた息が吐きだされる。 恐ろしく強烈な一撃だった。激痛が全身に走り、膝をつきそうになる。これがもし戦闘ならばどれだけ痛手を負おうとも動きを止めることは死に繋がる。 (くそっ……やはり魔術なしでの体力勝負では分が悪い) こちらは息が上がり始めているのにナツキは余裕がありそうだ。 ナツキが容赦なく追撃をかけてくる寸前、しゃがみ込み足払いを喰らわせた。ナツキは軸足を蹴られ体勢を崩しはしたが、床に倒れるには至らない。 「ぐっ……はぁ、悪いね。私もやられっぱなしのままじゃ終われないんでね」 ナツキは驚異的なバランス感覚で持ち直し、その状態で殴り掛かってきた。その攻撃を回転してかわし、そのまま肘打ちを後頭部に入れる。 ナツキは突然脳天に走った衝撃に、ぐらりと視界が回転しふらついた隙をルーノは見逃さなかった。 無防備なナツキの背中へ、十分に狙いすました横蹴りが放たれた。ナツキは堪らず床に仰向けに倒れ込む。 拳を打ち込もうとしたルーノの襟元をぐっと掴み、前に崩した拍子に片足をルーノの腹部に押し上げるように強引に巴投げした。 互いに倒れ込んだまま、動かない。 「……私の負けだ」 ルーノが床に仰向けに倒れ込んだまま、降参とばかりに告げた。 「あの一撃なら脳震盪で動けないと思ったんだが」 「いやあれはマジ効いたわ……でもな――」 しみじみとした口調でナツキが言うものだから、負けたというのにどこか気分は爽快ですらあった。 「信じてたからな!」 ナツキの唐突な言葉に何を、とルーノが尋ねる前にナツキは晴れやかな笑顔で告げる。 「いつも俺のサポートをしてくれるルーノなら絶対にこの隙を見逃さないって!」 全幅の信頼を預けていることが一目で分かる笑顔に、さしものルーノも二の句が継げなかった。ナツキは両手を組みながら、「ルーノなら絶対に勝負かけてくる気がしたんだよな」と一人頷いていた。 ルーノはそれを聞き顔を覆った。「してやられた」という悔しさとパートナーだからこその信頼が透けて見えてルーノはどんな表情を浮かべればいいのか分からなかった。 様々な感情が居場所を見つけられず消えていく。 ナツキといるとこういうことばかりだ。同時にそれを悪くないと思っている自分がいてルーノの口元には微笑がいつの間にか浮かんでいた。 「でも、大丈夫か? 最後の方の蹴りは本気で入っちまったし」 「問題ないさ。まあ、青あざに程度はできているかもしれないが……そっちこそどうなんだ?」 「平気平気。でも結構ヒヤッとする事が多かったぜ……だから訓練だって忘れてつい本気で、わりぃ」 「謝ることはないさ。教官に嫌と言うほど言われただろう。訓練で本気でやらなければ実戦では半分も実力が出せない」 「そういや成り立ての頃は耳がタコになるぐらい言われたよな」 思い出すように眉根を寄せたかと思うと、すぐに満面の笑みを浮かべた。 「たまには魔喰器無しってのも悪くねぇな!」 「あれだけ動いて、随分と元気だな……」 「何言ってんだよ、これからだろ!」 頬に伝う汗を拭い取るルーノの息が上がっているのに対してナツキはまだまだ動き足りなさそうだ。 (まだやるのか……) ルーノの呆れた表情にも気づかず、飛び跳ねるようにナツキは立ち上がる。 「たまには悪くない」 一人型稽古を始めるナツキを見ながら、体力差を少し悔しく思いつつルーノは壁際に寄りかかるように座ると休憩に入る。 ナツキの強さへの欲求は時に貪欲な程だ。 それは生来の気質か、過去の影響なのか。 意外と基礎に忠実に型稽古を熟すナツキを壁際から眺めながら、その思い詰めたような表情が気に掛かった。 「……契約したばかりの頃と比べると、そこそこ力も付いてきただろうか」 「…………まだ、ぜんぜん足りねぇ。もっと強くならなくちゃダメなんだ」 何気なく呟いたルーノの言葉に、ナツキは拳を突きだすように答えた。 (前より少し強いぐらいじゃダメなんだ、全部守れるくらいじゃないと……孤児院が襲われた時の俺に力があったら皆死なずに済んだかも知れない) 同じ後悔はしたくない。 過去の幻影を打ち払うようにナツキは型稽古に熱が入る。 普段のナツキらしくない鬼気迫る表情で繰り出される技の一つ一つ冴え渡り、技を繰り出すごとに切れを増す。 「もっと強くならねぇとな……」 独り言のように呟いた言葉をルーノは聞き逃さなかった。 時計を見上げると時間も遅く、普段ならナツキを引っ張って切り上げたいところだが、今夜はもう少しだけ付き合おう。 ルーノは立ち上がり、ナツキに声をかける。 (何にせよ、ナツキが強さを求めるなら訓練くらいは付き合おう……それに体を動かせば余計な事を考える暇もないだろう) ● ナツキはより強くなるために仮想敵を想定する。これまで戦った敵を思い起こしながらイメージの世界に入り込む。 想定する敵は――ヨハネの使徒。 魔喰器は吹き飛ばされ、突進する敵を咄嗟に回転し受け身を取り、軌道を変え突進しようとする間に間合いを取る。 再び突進しようとしてきたヨハネの使徒の顔面を蹴り上げ、上空に飛び上がり魔喰器を取り戻した――不意にルーノの声が聞こえた。 集中力の糸がぶつりと切れたようにナツキはがやがやと喧噪のする修練場に戻ってきていた。 頭を掻きながら周囲をきょろきょろと見渡すと、ルーノが苦笑を浮かべて壁に寄りかかるように立っていた。 「――ナツキ、ナツキ! ……随分と集中してたみたいだな」 「わりぃ、気づいてなかった……」 「それだけ集中してたという事だろう」 尋常ではない集中力に何度も声をかけた事は事実だが、本人が気づいていない以上、追求するだけ無駄だ。 「十分な休憩も取ったことだし、もう一度手合わせ願おうか」 「……お、」 ルーノが珍しく遅くまで手合わせに付き合ってくれるのが嬉しいのかナツキの耳はピンと立ち、上機嫌に尻尾を振った。 「ああ、今度は私が勝たせてもらおう」 「よーし続きだ、今度も負けねぇぞ!」 この後熾烈な手合わせの結果、どちらに軍配が上がるだろうか。ただ手合せに熱中しすぎたせいで、後日病棟のお世話になることは確かだった。
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*** 活躍者 *** |
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[8] ナツキ・ヤクト 2019/04/06-20:54
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[7] ラニ・シェルロワ 2019/04/06-13:57
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[6] 神楽坂・仁乃 2019/04/05-22:03
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[5] ラウル・イースト 2019/04/05-18:33
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[4] ヨナ・ミューエ 2019/04/05-06:05
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[3] ナツキ・ヤクト 2019/04/04-13:40
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[2] ラウル・イースト 2019/04/03-08:44
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