【甘菓】その心を、詠む。
とても簡単 | すべて
3/8名
【甘菓】その心を、詠む。 情報
担当 じょーしゃ GM
タイプ ショート
ジャンル イベント
条件 すべて
難易度 とても簡単
報酬 なし
相談期間 5 日
公開日 2020-02-03 00:00:00
出発日 2020-02-11 00:00:00
帰還日 2020-02-17



~ プロローグ ~

 東方島国ニホン。
 土の温もりに、風の薫りに、光の眩しさに、神々の心を詠む国。
 その地に暮らす人々は、生きとし生ける万物に対して敬意を払い、またその厳かな美しさを言葉の芸術として残してきたという。
 降りしきる雪景色に想いを馳せた者がいれば、揺れる篝火の炎に思いを重ねた者だっていただろう。
 八百万の神々が作り出した情景に人々の心が重なり、十七の音として生み出される。
 そしてその十七音に込められた言葉がまた人々の心を揺さぶり、現れた涙や笑いが神々のおわす世界を彩っていく。

 ――その『心』を、ニホンの人々は『俳句』と呼んだ。

 ときには熱い愛の灯火となり、そしてときには涼やかな風の抜ける道となる。
 誰が始めたのかはわからないが、俳句はニホンの『心』と言っても過言ではないほどに根付き、馴染んでいる。
 この島国を訪れた浄化師たちもまた、自らの意識していないところで、その十七音が持つ独特のリズムを耳にしていることだろう。
「何が言いたいかというとじゃな、お主らにはその『心』を、学んで欲しいのじゃ」
 仙人のような長い白髭を生やした老人が語りかけてくる。
「ここニホンにはまだお主らが見たこともないような景色が溢れておる。そしてその世界を、まだ言葉に表せておらん」
 これまでに経験してきた数々の思い出。
 そしてこれから経験するかもしれない出来事。
 見たことのない景色。
 聞いたことのない音楽。
 そして、愛。
 自らが感じた世界の鼓動を、感動のままに終わらせず、しっかりと言葉に表したことがあっただろうか。
「たまには使命を忘れて旅に出るとよい。体いっぱいに、広い世界から神々の息吹を感じてくるのじゃ」
 幸い、アークソサエティに戻るまでまだ数日の休暇が残されている。
 このままニホンで過ごせば、アークソサエティ周辺の文化である『バレンタインデー』には間に合わないだろう。
 例年のように甘いチョコレートを贈り合うことは、お互いの気持ちを物に込めて伝えようとするもの。
 しかし今年は十七音の言葉に思いを乗せて、パートナーに伝えるのも悪くないのかもしれない。
「心は、決まったようじゃな」
 老人は髭を撫でながらそのしわくちゃな顔を向けて微笑みかけてくる。
「とは言っても初めて句を詠めと言われたところで右も左も分からんじゃろうて。じゃからお主らは、この数日を好きに過ごしてくると良い。そこで感じた思いをしっかりと心に刻むのじゃ。最後にわしが、その出来事を聞いて共に句を考えてやろうぞ」
 まぁ、隠居した身じゃがな――と、呟きながら振り向き、どこかに消えようとするその老人に、思い出したかのように尋ねる。
「あの、そういえばお名前を……!」
 顔だけをこちらに向け、不敵な笑みを浮かべた老人が答える。
「わしの名か……?」

 ――芭蕉、じゃよ。忘れてもよいがな。


~ 解説 ~

【概要】
 ニホンの中で様々な場所を旅して、パートナーとの思い出を作ろう。
 そして今までの経験も重ねながら、感じてきた思いを『俳句』にして詠み、パートナー同士で伝えあおう。

【詳細】
 旅をする場所はどこでも構いません。
 山に行くもよし、海に行くもよし、温泉に行くも、ただありふれた日常を過ごすもよしです。

 プランに記載していただきたい内容は以下の通り。
① どこに行ったか
② そこで何をして、どんな思い出を作ったか
③ 今回の旅と、今までの経験を重ね合わせて、パートナーにどんな思いを伝えたいか
④ そして出来上がった『俳句』

 俳句に関しては、『五・七・五』の形を基本としていれば、『季語を入れる』などのルールに則っていなくても構いません。
 逆に字余り、字足らず、破調など、ご自身が扱える技法を駆使していただいても結構です。
(難しいぜって方は、芭蕉の名を借りたじょーしゃがお手伝いしながら作成させていただきます!)

【その他】
・執筆に際して参考にして欲しい他GM様のエピソードがあればご記入いただければ読みに行きますよ!
・老人はみなさんがご存知の芭蕉かもしれないし、そうじゃないかもしれません。【マッツォ・芭蕉】です、えぇ、きっと。


~ ゲームマスターより ~

 約2年ぶりのディスメソロジア!!!!!
 初めての依頼でキメラを倒した浄化師のみなさんは、どのように成長されたのでしょうか。
 初めましての方も含め、みなさんが積み上げてきた思い出を覗かせていただこうと思います。
 レア度で言うとウルトラレアなじょーしゃのディメシナリオ! 参加忘れのないよう!!





◇◆◇ アクションプラン ◇◆◇

アルトナ・ディール シキ・ファイネン
男性 / 人間 / 断罪者 男性 / エレメンツ / 悪魔祓い

五七五ムズいとぶーぶー言うシキの言葉は耳に入らず 星空をぼんやり眺める

ん。聞いてる
シキ、

アンタとの最初の指令も 星が綺麗だった(1話
その反応 俺が忘れっぽいって言いたいのか
いつまで笑ってんだ…気持ち悪い
 シキはほんの小さな、些細なことでも それでも幸せそうに嬉しそうに笑う
(俺が最初の指令覚えてるのがそんなに嬉しいのか…?)
幸せそーだな
 くしゃみをしたシキに自分の上着を肩にかける
はいはい 風邪ひくなよ
結局これ…分かってたけど

3 星空を眺めていて、ふと思った(星空に)これまでと今を通して
時間が過ぎていく度(過ぎてく時間)
シキへの感情が変わっていくことに(変わる思い)

4 俳句
星空に 過ぎてく時間 変わる思い

参照EP
1話
レミネ・ビアズリー ティーノ・ジラルディ
女性 / 人間 / 人形遣い 男性 / 人間 / 断罪者
1エド
2通りで休憩して、ティーノがレミネを気にかける

会話
テ 休憩しよう、レミネ
レ う、うん
テ レミネ、大丈夫か?疲れてないか?寒くないか?何かあれば言ってくれ
レ え、あ、うん、その…ありがと。平気だから
テ そうか、それなら良いんだ(微笑み
レ (よく気にかけてくれる、な)

テ さ、そろそろ行こうか、レミネ?
レ うん、そう、ね
レ 差し伸ばされた手をおずおず掴んで立ち上がる
テ じゃあ、行こう
レ (手、繋いだまま。嫌じゃないからいっか、このままで。暖かいんだなあ…この人の手。もしかしたらこの人が優しいのは、性格なの、かも)
テ ちらっと彼女の俯き気味の横顔を盗み見て
  (レミネは俺が護っていかなくては)
  そう決意して前を向く
ユーベル・シュテアネ 灯火・鴇色
女性 / アンデッド / 墓守 男性 / ライカンスロープ / 断罪者
【目的】
新しい知識を学ぶ

【行動・心情】
は、はいく?
それは、手紙みたいなもの?
ごーしちごで文章を書く…

お狐様の故郷の文化なんだ
なんだかとても難しそうだけど…

…とりあえずやってみるね?

ご…しち…ご…

あ、赤い海
見渡す限り
広がるよ…?

あれ…これ…なんの記憶だったっけ…?
あんまりちゃんと思い出せない…

…でも、思い出せないのは、無理に思い出さない方がいいよね?(苦しそうな顔しながら

…難しい事、考えるのはやめよ
私には理解出来なかった
多分きっと、そういう事なんだ

えっと、お狐様
お狐様のはいくを聞かせてほしい
それを聞いてちゃんと頑張って作ってみるから

【補足】
死んだ時の記憶の俳句でしたが
死んだ時の記憶は曖昧です


~ リザルトノベル ~

■■■

 夜。
 星空。
 そして、海。
 アークソサエティではバレンタインのイベントが各地で催されているだろう、2月14日。
 遠く離れた東方島国ニホン。
 場所は……エドから少し離れたところ。
 ニホンでも最大級の砂丘海岸と呼ばれている場所に、二人はいた。
 その場所はクジュウクリと呼ばれる、島の輪郭に沿うようにして長く伸びている砂浜。
 遠く見渡しても同じ景色が続くような場所で、お互いに背中を預けて座りながら。
「んー、五文字と七文字と……」
 後ろの『アルトナ・ディール』に体重を預けて、『シキ・ファイネン』は悩む。
「え、また五文字? ムズいー! アルー?」
 反応はない。
 『むーっ』という声をあげながら、シキは不満を口にする。
「アル聞いてないでしょ? アルと契約して時間経つし、シキさんだいたいわかっちゃうんですぅ!」
 その言葉に、アルトナ。
 空に浮かぶ星をその目に映しながら、ぼんやりと、答える。
「ん。聞いてる」
 首だけ振り返り、『シキ』と、短く相棒の名前を呼ぶ。
 青色をした目に落ちた星には、どのような感情が込められていただろうか。
「なあに?」
「アンタとの最初の指令も、星が綺麗だった」
「え、覚えてんの?」
 シキがはっとした表情をする。
「その反応、俺が忘れっぽいって言いたいのか?」
「違うって。最初の指令、覚えててくれたんだなーって!」
 立ち上がり、二人で同じ空を眺める。
 同時に、アルトナと契約してから最初に受けた指令を思い返していた。
 アークソサエティ北部に位置する、ヴァン・ブリーズ地区。
 あの日は灯台の試運転を手伝う任務で、今日のような晴れた夜だった。
「アルぜんっぜん素直じゃなかったじゃん? めっちゃ綺麗な星空だったのに『悪くない』とか言ってさ~」
「……うるさいな」
「ほら! 全く同じ反応してる! アルトナきゅん変わってない~!」
 いつもと変わらない笑い声が、風に溶ける。
 誰もいない夜の砂浜で、波の音とシキの声が混ざり合って。
 指令を忘れて旅に出たこの日も『悪くないな』とアルトナは一人考えながら、相棒の顔を見る。
「えへへ、アルが覚えてる……嬉しい!」
「いつまで笑ってんだ……気持ち悪い」
「だってさー!」
 シキはほんの小さな、些細なことでも、それでも幸せそうに嬉しそうに笑う。
(俺が最初の指令を覚えてるのがそんなに嬉しいのか……?)
 その裏表のない笑顔に、最初は警戒こそしていたが。
 過ごしてきた時間と共に、それは純粋な好意なのだとわかってきて。
 そして彼に向けての感情が少しずつ変わっていることだってわかっていて。
「……幸せそーだな」
 視線を星空に戻しながらポツリ、と。
 そしてその言葉に対する、シキの『へ……?』という間の抜けた声。
「くしゅっ!」
 間の抜けた声……だったのか、ただのくしゃみの一部だったのか。
 コートを着ているとは言えど、2月の夜。
 しかも海風が直接肌に当たる砂浜だ。
 長い耳と鼻先を赤くしながら、シキは寒さに震えていた。
 『はいはい』と、ため息交じりにアルトナは自らの上着を脱ぎ、シキの肩にかける。
「風邪ひくなよ」
「うそ、アルいけめんじゃん!?」
 思いっきり笑って、寒さに震えて、そして今度は目を大きく見開いて。
 シキの表情は移りゆく季節のように様々だ。
「お前が倒れると、任務に支障が出るからな」
 と、そんな言葉を挟むが。
「アルトナきゅんっ! えへへ」
 聞いているのかいないのか、シキは相棒に思いっきり抱きつく。
「結局これ……分かってたけど」
 エメラルドとシルバーの髪が夜に溶けて、星空の一部になる。
 その一瞬はとても暖かくて、少しだけ心が通じたような気がして。
 シキは、自分を受け入れてくれるアルトナの優しさに気付く。
 抱きしめていた彼の肩を掴み、目を輝かせながらシキが言う。
「アル! 見つけたよ、五文字と七文字! ……と、あと五文字も!」
「俺はちょっと前に、思いついてた」
「えー! 俺の方が絶対早いって思ってたのに! アル隠してたな!」
 そんなことはない……と言うよりも早くシキはアルトナの肩から手を離し。
「おじいさんのところに戻ろう! 忘れちゃう前に!」
「騒がしいな……アンタは」
 二人が目指す場所は、九十九里の砂浜よりも遠く。
 それでも二人でいれば退屈はしないだろうという確かな自信の中で。
 大切な思い出を、満天の星空が見送る。

 そして場所は戻り、キョウト。
「うむ、なかなか良い旅をしてきたようじゃな」
 目の前にいるのは自らを『芭蕉』と名乗る男。
「めっちゃ寒かったけどな、楽しかった! な、アル?」
「あぁ、そうだな」
白髭の老人は、目を細めて嬉しそうに微笑む。
「ふぉっふぉっふぉっ、よいよい。して、句は出来たかね?」
 自信満々に『出来たぜ!』と答えるシキと、『大丈夫だ』と、一言だけ零すアルトナ。
「お主らが何を見て、何を感じてきたのか。込められた想いや愛情は様々じゃろうが……初めてのことじゃ。まずは完成した句を聞かせてくれるかな……?」
 老人の言葉を聞いて、シキが固まる。
「あ、アルが先に聞かせてくれよ……」
「どうしたんだ? あれだけ自信満々だったのに」
 もじもじ、と。
「なんかはずかしーじゃん!」
 なるほどそういうことかとアルトナは納得して、すぅーっと息を吸い込む。
「それじゃあ……」

 『星空に 過ぎてく時間 変わる思い』

「うー! アルうぅー!!!」
 句を聞いた瞬間、シキがアルトナに飛びつく。
「おい、急に……」
「その思いってさ、どんな思いなんだ!?」
 食いつくように、でも確かに自分のことだと信じて問う。
 アルトナも観念したように短くため息を吐いて。
「アンタと過ごした時間だ。最初は警戒しかしていなかったがな、それでも変わるものはある」
「うんうん、それでそれで?」
 まだ聞くのか……と。
 せっかくの機会だ、今日ぐらいは、いいだろう。
「——―いつもありがとうな、シキ……って、何で泣いてんるんだ!?」
「だって……アルが、アルが……!」
 はいはい……と、最高の喜びを見せる相棒の涙を拭う。
「それで……シキ。アンタはどんな句を考えたんだ?」
 そうだった……と気を取り直して、シキはアルトナの目をまっすぐに見つめ、息を吸い込む。
 
 『見つけたよ 君に宿った 優しさを』

「あ……シ、キ?」
 シキが自分に向けて句を読んでくるというのは十分に予想できていた。
「優しさ……か」
 アルトナの目は一瞬部屋を見渡すように滑り、シキの顔へと着地する。
 自分のことを『優しさ』と表現されたのは、初めてかもしれない。
「うん、今回の旅でアルが持っている本当の優しさに気付けた気がする」
 まっすぐにその目を見つめ、微笑んで。
「いつもありがと、アル」
 アルトナが抱いた感情は、何だっただろうか。
 喜んでいたのか、照れていたのか、それともいつも通りだったのか。
 シキにもそれはわからない。
 でもアルトナは確かに心の中で『たまには良いものだな』と思いながら。
「……悪くないな」
 と、そう口にして。
 二人の信頼と、それぞれに抱いた想いを目の当たりにした芭蕉は。
「ふぉふぉふぉっ、まだまだ青いのう! 羨ましい限りじゃわい!」
 と、満足そうに白髭を撫でながら、部屋の奥へと姿を消して行くのであった。
「えーっと……アル?」
「どうした?」
 じーっと、お互いを見つめながら。
「これからも、よろしくな!」
「ああ、よろしく」
 満面の笑みと、ぎこちない微笑みがあり。
 交わした短い言葉の中には、二人の歩みが溢れるほどに表れていた。

■■■

 エドの町を、『レミネ・ビアズリー』と『ティーノ・ジラルディ』は歩いていた。
 自らを芭蕉と名乗る老人に『俳句を詠んでみろ』と言われたのはつい先日の話で。
 ただその場で読めと言われても、普段から句を意識して世界を歩いているわけでもなく。
 それなら意識して世界を見る旅に出ればいいと、はるばるキョウトからエドまで、足を伸ばしたというわけだ。
 通りには甘味処や休憩所が並んでおり、たまには甘い団子を食べたりしながら、旅自体は順調に楽しんでいた……が。
「休憩しよう、レミネ」
 やはり旅路は長く、さすがに歩き疲れてしまう。
「う、うん」
 それにはレミネも同意したらしく、近くの休憩所で椅子に腰掛けながら。
 隣ではティーノが温かいお茶を頼んでくれていて。
「レミネ、大丈夫か? 疲れてないか? 寒くないか? 何かあれば言ってくれ」
 同じように椅子へと腰掛けた彼が、心配そうに訪ねる。
 二月も半ばに差し掛かった頃ということもあり、外を歩くだけで一苦労なのだが。
 そのうえで芭蕉から言われたのは、『世界を見て、俳句にして、詠む』こと。
 言ってることは簡単そうに見えるが、なかなか難しい。
「え、あ、うん。その……ありがと。平気だから」
 疲れに気をかけてくれるティーノに、少しだけぎこちなく答えるレミネ。
 ぎこちないのは慣れていないから、というよりはいつも通りで。
「そうか、それなら良いんだ」
 彼女の言葉に嘘がないことを知っているから、彼も微笑みながら言葉をかける。
 周りの目にどう映るかはわからないが、お互いに信頼していないわけでは全くないのだ。
(よく気にかけてくれる、な)
 レミネの双眸は、ティーノの服のあたりをちらちらと捉えながら。
 自分のことを心配してくれる相方へ、少しだけ疑問を覚えていた自分を思い出していた。
 初めの頃は『なんで私に構うんだろう』って、そんなことばかり考えていて。
 今になっても、まだ完璧にティーノの想いを理解することは難しく。
 話しかけることすらままならない自分を気にかけてくれることが、不思議でたまらなくなったことだってある。
「大丈夫、か? 温かいお茶もきたし、ゆっくりしていこう」
「あ、うん。ありがと」
 ティーノはお茶を手渡す。
 『熱いから、注意してね』と一言添えて、こぼさないようにゆっくりと。
 レミネが一口お茶を啜って、『……おいしい』と呟くのを聞きながら。
 教団に入ったときのことを、ふと思い出す。
 想いを寄せる彼女を、ただ護りたい一心で。
 それ以外の理由なんてなかったし、必要ないと思っていた。
 今になってもその想いは変わらないし、それが悪いことだとも思っていない。
 それでも、どうしても一つだけ引っかかることがあり。
「俺たち、少し前に喧嘩してしまったことがあったよな」
「え? えっと……うん。そうだね」
 まだ肌寒さも感じないぐらいの、季節が変わり始めた頃。
 レミネの想いを知らず、ふとした一言で彼女を傷つけてしまったことがあった。
「その時にさ、レミネの想いを知れてよかったって、そう思ったんだ」
 嬉しくはないきっかけではあったが、そのきっかけがあったからこそ、彼女が抱えてきた想いをティーノは知ることができた。
「私も。なかなか話せなくて、ごめんね」
 レミネが申し訳なさそうな顔をするので、ティーノは『違うんだ』と一言挟み。
「これからもぶつかることはあると思う。だからその時に誤解がないように、言っておこうと思って」
「言って、おく?」
 ティーノは一瞬だけ、間をおいて。
「俳句、出来たんだ。伝えるのは……芭蕉さんのところに戻ってからになりそうだけど」
 少しだけ目を逸らして、戻して。
 その一瞬で彼の決意は固まったらしく。
「さ、そろそろ行こうか、レミネ?」
 ティーノの表情を見て、何を思っているんだろうと考えるレミネは、少しぼーっとしながら。
「うん、そう、ね」
 と、静かに答えて。
 その声と同時に立ち上がったティーノが、振り向きざまに手を差し出す。
 レミネはその手をおずおずと掴み、ゆっくりと立ち上がって。
「じゃあ、行こう」
 優しく微笑む彼を追うように、歩き出す。
(手、繋いだまま。嫌じゃないからいっか、このままで。暖かいんだなあ……この人の手。もしかしたらこの人が優しいのは、性格なの、かも)
 考え事が多くなっているからか、すこしだけ俯き気味に見えるレミネ。
 ティーノはその横顔をちらっと、盗み見て。
(レミネは、俺が護っていかなくては)
 と、自らの決意を再確認しながら。
 その想いを燃やすような夕焼けに向かって、歩く。

 そして休暇の最終日。
 場所はエドからキョウトへと戻り。
 帰りを待ちわびていた芭蕉は、嬉しそうに二人を迎え入れる。
「うむ、いい顔つきになっておるのぅ。何か、良き想いに触れてきたのじゃろうて」
 独特な笑い声を発しながら、髭を撫でる老人。
「それで、どのような想いに触れてきた?」
「どのような『旅』だったのかとは、聞かないのですね」
 疑問に思うのも間違いない。
 旅に出ろと言ってきたのは芭蕉で、聞くなら旅の話のはずだから。
「ふぉっふぉっふぉ。旅をして来いと言うたのは、それが世界を全身で感じることが出来る手っ取り早い手段だからじゃ」
 芭蕉は、こちらをじっと見つめる。
「この手段でたどり着いた句は、大きく二種類に分かれるのじゃよ」
「二種類……ですか?」
 『まだわからんかね?』と、芭蕉は言いながら。
 ティーノとレミネを交互に見て、言葉を発する。
「旅の景色に自らの想いを重ねて詠むもの。そして、普段とは違う環境に身を置くことであらわになった、自らの心を詠むものじゃ」
 ニヤッと、笑って。
「お主らはきっと、自らの心に触れる旅だったのじゃろう?」
 ティーノが、呆気にとられる。
「さすがその道を究めた方ですね、その通りです」
 少しだけ頭を下げる礼儀正しさは、ティーノの性格なのだろう。
「ふぉっふぉ、よいよい。して、どのような句になったのか、聞かせてもらえるかね……?」
 返事をしながら、ティーノはレミネを一瞬見て。
 一瞬、息を吸い。
 静かに。

 『護ろうと 君見て想い 歩き出す』

 風に乗せるように。
 それでも、力強さは失わないように。
 優しく紡いだ言葉は、レミネの心を確かに揺らして。
「え、っと……」
 彼女の顔に見えるのは……少しだけの、戸惑い。
「きっとこれから、数々の困難を乗り越えていかなくちゃいけない。それは指令かもしれないし、もしかしたら俺たち二人の間に起こることかもしれない」
 まっすぐにレミネの目を見つめる。
「それでも、俺はレミネを護っていきたいって、そう思う」
 固い決意が、そこには見えた。
 それでも声色が柔らかかったのは、きっとティーノがレミネのことを想っていたからで。
「あり……がと」
 レミネも少し照れながらではあるが、感謝の言葉をしっかりと伝える。
「ふぉっふぉっふぉ、青年。とてもよい想いに触れたではないか。して、お嬢ちゃんはどうじゃ?」
 急に振られたレミネは、少しだけ焦る……が。
 彼女の中で、詠む句はもう決まっていたらしく。
 ティーノの目を見て、恥ずかしさからか一瞬逸らして。
 それから胸に手を当て、ゆっくりと息を吸い込む。

 『夕暮れに 繋いだ手 暖かい』

 絞り出すように。
 まっすぐに思いを伝えることは、難しかったが。
 自分が感じた温かさは、絶対に間違いではなくて。
 ティーノの心にも、その温かさが伝播する。
「うん、ありがとう。レミネ」
 頑張って詠んでくれた彼女へ、ティーノも微笑みながら感謝を告げる。
「うむ、よい。とてもよい。嬢ちゃんもなかなかやるのぉ……」
 そして芭蕉は白髭を撫でながら。
「うーむ。隠居した老人にはまぶしすぎるわい! 羨ましい限りじゃのう!」
 満足そうに、部屋の奥へと姿を消して行くのであった。

■■■

 東方島国ニホン。
 島国といえど様々な旅の目的地がある。
 山があり、もちろん海があり、季節によっては雪が積もるところだってある。
 そんな国を旅して回って、俳句にしろと言われたのはつい数時間前の話。
 『ユーベル・シュテアネ』と『灯火・鴇色(ともしび・ときいろ)』は、行き先を決めることなくキョウトでぼんやりと過ごしていた。
 どこか遠出してもよかったのだが、やはりこの街が心地いいらしい。
 夜のキョウトへ繰り出し、目的もなく少し歩いてたどり着いた木陰。
 そこで一旦足を止め、芭蕉から与えられた『俳句』というものについて考える。
「ふむ、してシュテアネ。俳句は分かるか?」
 灯火は自らの国の文化ということで、俳句というものに対して特に抵抗はないらしいが。
「は、はいく……? それは、手紙みたいなもの?」
 ユーベルは初めて聞く『俳句』というものに戸惑いを隠せないらしい。
 踝まである長い黒髪を揺らしながら、未知に対しての想像を膨らませる。
「そうさな、五文字、七文字、そして五文字。この限られた文字数とリズムの中で自らの心を詠むものだ」
「ごーしちご……で、心を詠む……」
 未だ俳句というものの全景を掴めていないユーベルだが、その目はとても興味津々で。
「頑張ってみるなら俺はとりあえず黙って見ているが……」
 灯火も彼女が成そうとしていることに関して、水を差す気はないらしい。
「お狐様は、俳句。やったことあるの……?」
「うむ、俺の国の文化だからな。究めた者と比べれば足元にも及ばんだろうが、ある程度は知っているつもりだ」
「お狐様の故郷の文化なんだ。なんだかとても難しそうだけど……」
 『うーん』と唸りながら、自分なりの五七五をひねり出そうとするユーベル。
 そこに灯火が、少しだけアドバイスを挟む。
「俳句というのはな、今までの自分が培ってきた経験や記憶。そして今この瞬間に自分が感じている景色や心を重ねて詠むものだ。難しいかもしれんがな……最初のうちは、五七五の音にだけでも当てはめてみるといい」
 この『俳句を詠む』という時間を楽しんでいることさえ、ひとつの描写になる。
 灯火は『流れていく世界に自らの心を重ねる』という俳句独特の考え方を、ユーベルに教えたかったのかもしれない。
「まだよくわからない……けど。とりあえずやってみるね?」
 灯火からの助言を貰い、考え方を変える。
 記憶、心、景色。
 自分が今まで培ってきた、見てきた……光景。
「ご……しち……ご……」
 そしてユーベルの頭に、浮かぶ。
 どこかで確かに見た、でもどこで見たかは思い出せない、景色。
「あ……」

 『赤い海 見渡す限り 広がるよ』

「……?」
 自分でも何でこんな景色が出てきたのか、わからない。
 赤い、黒い、海。
 その不安定さに吸い込まれるような感覚を覚えて。
「あれ……これ……なんの記憶だっけ……?」
 広がっていたのは、海?
 見渡したのは、自分の見ていた世界は……どこ?
「あんまり、ちゃんと思い出せない……」
 アンデッドになる前の記憶をなんとなくでしか覚えていない彼女にとって、この一瞬はとてつもなく長く感じたことだろう。
「……でも、思い出せないのは、無理に思い出さない方がいいよね?」
 ユーベルが、自らの心と戦う。
 そして灯火だけが、その心を少しだけ覗くことができた。
「……シュテアネ、無理をするな。『それ』はうろ覚えの記憶あのであろう?」
 彼は知っている。
 彼女が言う『赤い海』が何なのか。
 そしてなぜその記憶で苦しい顔をするのか。
 真相は二人の契約の日に遡るが、その日に何が起こっていたのか殆ど彼女は覚えておらず。
 でもその記憶は、いつか彼女が受け入れられる強さを手に入れたときに、自然に思い出すものだと信じているから。
 だからこそ灯火は。
 優しく、ユーベルの手を取る。
「なら思い出す必要はない『それ』を覚えていないということは、体が拒否しているということだ」
 不安そうな顔をするシュテアネに、安心させるような優しい声色で。
「無理に思い出すようなものでも、ないだろう?」
「お狐様……」
 シュテアネの不安は、きっと消えない。
 自らに降りかかる記憶の断片は、他人が思うよりも深いところで、心を抉る。
 それでも灯火がいるのなら、今は少しだけそれを耐えることができた。
「……難しいこと、考えるのはやめよ」
 目を瞑り、頭をぶんぶんと数回振って。
「私には理解できなかった。多分きっと……そういうことなんだ」
 一旦感情をリセットするように、大きく深呼吸を挟む。
 そして目を開き、その赤い双眸で灯火を捉え。
「えっと、お狐様」
「なんだ……?」
「お狐様の『はいく』を聞かせてほしい。それを聞いて、ちゃんと頑張って作ってみるから」
 自らの過去に飲まれそうにはなりながらも、俳句を作ることを諦めない。
 それは彼女の中で、少しだけ芽生えた強さなのだろう。
「ふむ、俺が見本を見せろと」
 目を瞑り、狐の面を少し撫でる。
 凛、と。
 風鈴のような音がひとつ、聞こえた気がして。
「そうさな……」
 シュテアネを見ながら、紡ぐ。

 『蕭条と 白侘助が 立ちつくす』

 それはとても美しく。
 どこか儚く、寂しげで。
 それでも景気の中に在る白が、全ての音を吸い込み、視線までも釘付けにする。
「きれい……なのはわかるけど……」
 本物の『俳句』というものを始めて知ったユーベルには、少しだけ難しかったようで。
 灯火に見えていた景色がどういう景色か、具体的に想像することはできなかったようだ。
「意味……? まぁ、わからんだろうな」
 『それも仕方ない』と言いながら、灯火はその句に込めた思いを彼女に話すこともなく。
(……この句は、お前を見たときの印象だが)
 そう心の中でつぶやきながら、空を見上げる。
 灯火が空を見上げたことで、ユーベルの視線には狐の面があり。
 その目として描かれた黄色い点と、視線が合ったような気がして。
 慌てて目を逸らし、灯火が見上げた月を、一緒に眺める。
「やっぱり『はいく』って難しいんだね……」
 と、ポツリ。
 それに灯火の答えが返ってくることはなく。
(無音の中に立ちつくすシュテアネが真っ黒だったはずなんだが……不思議と真っ白に見えたものでな)
 彼も彼で、その句に込めた景色を思い返していたところで。
(なんて、本人に言う必要も無いな。これは無かったはずの記憶。知らぬならそれに越さない)
 月は二人を見守る。
 闇に着飾られた記憶に差し込むのは、青く、淡い月光。
 その景色が確かな輪郭を持たずとも。
 その不安定から救ってくれる神などいなくとも。
 きっといつか、乗り越えられる日がくることを信じて。
「芭蕉さんのところ……帰ろっか」
「そうさな、寒くなってきた。風邪を引く前に戻るとしよう」
 二人は、また歩き出す。
「俺が詠んだ句、いずれシュテアネにも分かる日が来る」
「そう……なの?」
 あえて言葉を交わさない方がいいことだってある。
 世界は流れていくもので。
 そこに彼女の記憶と心が自然と重なる日が来ることを、ひたすらに待てばいい、と。
 人生と俳句と。
 その心を重ねながら、歩く灯火に。
「お狐様」
 ふと、彼女の声。
「なんだ?」
「えっと……いつもありがとう、ね」
 少しだけ、優しい笑いを漏らす灯火。
「うむ」
 と、一言だけ返し。
 交わす言葉と、交わさない言葉と。
 その美しさを感じているのであった。


【甘菓】その心を、詠む。
(執筆:じょーしゃ GM)



*** 活躍者 ***


該当者なし




作戦掲示板

[1] エノク・アゼル 2020/02/03-00:00

ここは、本指令の作戦会議などを行う場だ。
まずは、参加する仲間へ挨拶し、コミュニケーションを取るのが良いだろう。  
 

[4] ユーベル・シュテアネ 2020/02/10-21:31

こんばんはというか、挨拶遅くなってごめんね?
私はユーベル。
こちらは、お狐様。

えっと…はいく?
って何か分からないけど。
頑張ってみる。
宜しくね?  
 

[3] レミネ・ビアズリー 2020/02/09-22:02

よろしく、お願いします…レミネ、それとティーノ、です。
初めましての方ばかり…?です、かね…

…旅にはい、く…?が、頑張らなきゃ。  
 

[2] シキ・ファイネン 2020/02/08-12:10