【森国】不思議の魔女のおかしなパーティ
とても簡単 | すべて
6/8名
【森国】不思議の魔女のおかしなパーティ 情報
担当 oz GM
タイプ EX
ジャンル イベント
条件 すべて
難易度 とても簡単
報酬 ほんの少し
相談期間 6 日
公開日 2020-02-09 00:00:00
出発日 2020-02-18 00:00:00
帰還日 2020-02-28



~ プロローグ ~

 拝啓 時下ますますご清栄のこととお喜び申し上げます。
 我が君が大変お世話になり、ありがとうございました。
 つきましては日ごろの感謝をいたしましてささやかなパーティを企画しております。にぎやかなパーティにする予定でございます。
 いくらか寒さもゆるみ、この度のおかしなパーティを後押してくれるかのようで幸先良く感じます。是非とも万障お繰り会わせの上、ご参加下さいますようお願い申しあげます。 敬具


 ここはアルフ聖樹森の片隅。深い森の中に獣道が細々と続いている。鬱蒼とした森には様々な植物が生い茂る。さらに無造作に伸びた枝が折り重なり、その隙間から青空が見えた。
 ひしめき群がる樹木の海を深く進めば、ひっそりと隠れるように家があった。それはまるでおとぎ話に出てくるような魔女の家だ――それも本物の。魔女の家は古めかしく壁には蔦が無秩序に這いまわっているせいか、森に溶け込んでいた。
 招待状の送り主はここにいる筈だと、呼び鈴を鳴らすが、うんともすんとも言わない。まさか留守なのだろうか? 招待状の日付を確認するが間違っておらず安堵する。
 ドアを開けようにも鍵がかかっており、浄化師達は扉の前に立ち尽くす。その様子を見ていたかのように頭上から青い小鳥が白いメッセージカードを落とす。
 メッセージカードには、「どうぞ、4回ノックしてお入り下さい」と綺麗な筆跡で書かれていた。
 その通りに行動すると、がちゃりと音を立てて木の扉が開いた。

 浄化師達は唖然とする。
 深紅の間。壁も天井も椅子すらも薔薇のように赤かったが、不思議と品がある。中央には大きな長方形のテーブルがどんとあり、その上には様々な軽食とお菓子に加えてお酒やジュースなど各種飲み物が揃っていた。
 こじんまりとした家だった筈だ。こんな豪奢な大広間など家の広さ的にも可笑しい筈なのに、魔女の魔法だろうか。まるでアークソサエティにあるポーポロ宮殿のようだ。それなのに人っ子一人いないのが逆に奇妙だった。
 よく見れば入り口で落とされたメッセージカードと同じものがテーブルの上に置かれている。手に取ってみると、カードには次のような文章が浮かび上がった。
『魔女特製のおかしなお菓子です。食べたら身体が小さくなったり大きくなったりするかもしれません。時には頭に花が咲いたりすることもあるでしょう』
 暫くすると、また別の文章が浮かび上がってきた。
『この日の為に用意させていただきました。おかしなお菓子とはいえ味にもこだわっております。是非食べてみて下さい』
 確かににぎやかなパーティだった。お菓子が皿の上で動き回っているのだ。
 飴細工で作られた蝶がテーブルの上を一斉に飛び回り、ホワイトチョコで作られた骸骨が歌い出す。鉱石を模した美しいお菓子が甘い誘惑をし、モンスターの焼き菓子が「Eat me!」と目を引きつける。
 どれもとびっきり美味しそうなのに不思議な魔法がかかっているのだ!
 なるほど、文字通り魔女のおかしなパーティということだ。
 当の魔女は姿を現さず、目的も分からない。メッセージカードに書かれている文面は「是非食べて下さい」から変わらない……「どうぞ食べて下さい? え? 食べないの? Eat me! Drink me!」に変わっていた。
 誰も手を付けないでいると、メッセージカードはぶるぶると震え、「満腹になるまで部屋からは出れません」と書かれている。
 ドアノブをがちゃがちゃと回しても、ドアに魔喰器で攻撃してもびくともしない。どうやらテーブルにあるお菓子や軽食を食べなければ出さないと意志がひしひしと伝わってくる。
 魔女はどうしても目の前の菓子を食べさせたいようだ。
 さあ、何を食べる? 輸血パック入りのゼリーは疲労回復とラベルが張ってあり、効果が分かるものもあれば、食べられる花束のお菓子は美しく可愛らしいがどんな効果があるのか分からない。さらには入れ歯や目玉を模したお菓子は食べられるのだろうか。
 カードを読む限り効能は3日から10分までとまちまちだ。美肌効果や眼精疲労に有効なものもあれば、語尾に「にゃ」がつくようになるという罰ゲームに近いものもある。何の効果もないものはハズレらしい。
 お腹も空いている。ここから出るためにもあなたたちは魔女のおかしを食べるしかないようだ。


~ 解説 ~

●目的
 魔女のおかしなパーティを楽しみ、不思議な魔女と友好を深めよう。

●不思議な魔女について
 不思議の魔女は極度の人見知りなので、メッセージカードを通して話しかけて下さい。もし人前に引きずり出されたら確実にダンボールの中に引きこもり、まともに話すこともままなりません。
 隠遁派の魔女なので一般常識を知らず真面目に回答しているつもりで、斜め上の返答が返ってくる可能性が高いです。
 メッセージカードは一組一つ用意されています。

●おかしなパーティについて
 ガトーショコラやスコーンに甘いものが苦手な人のためにサンドイッチなどの軽食も用意されています。飲み物も各種用意されてあり、その場にないものでもメッセージカードに書き込めば目の前に現れるでしょう。

●不思議なお菓子の効果について
 天使の羽根が生えたり、妖精になったり、あるいは運気上昇など様々な効果があります。
 どんな効果に当たるか楽しみたいならば「効果おすすめ」と書いて下されば、GMの独断と偏見で選ばせていただきます。お菓子の方だけをお任せにするならば「お菓子おすすめ」とプランに書いて下さい。

(効能例)
・空飛ぶ飴細工の蝶→ピクシーになる。
・十二星座のアイス→星座ごとに効果が違う。(美肌効果、肩こり解消など)
・蜘蛛の巣のカップケーキ→どこからともなく玩具の蜘蛛が降ってくる。
・骸骨のホワイトチョコ→突然歌いだし始める。
・ボリューミーなたまごサンドイッチ→髪の毛が金髪に変わる。
・ほろ酔いホットチョコレート→体がぽかぽか陽気に当たっている気分になる。


~ ゲームマスターより ~

 バレンタインネタとして出そうと思ったエピソードですが、色んなお菓子を出したくなったので【森国】として出させていただきました。チョコレート菓子が多めなのは、その名残です。
 ある理由から魔女の友好度は高いのですが、世間ずれしているのと極度の人見知りなので人前に出ることが出来ません。
 魔女とカード越しに会話するもよし、魔女が友好的な理由を探るもよし、食事を楽しむのもよし。
 思い思いに行動し、楽しんでいただければ幸いです。





◇◆◇ アクションプラン ◇◆◇

ショーン・ハイド レオノル・ペリエ
男性 / アンデッド / 悪魔祓い 女性 / エレメンツ / 狂信者
…カードの文章が変わるのもとてつもなく気になるんだが
この菓子は一体…って言った側からドクターが食べてる!?
ドクター!?ドクター…ですよね…?
妙齢の女性になられて…
好みかという質問に思わず溜息
そりゃ好きか嫌いかで言えば好きですが
ドクターはドクターでしょう
いつもの姿でも成人なさっているのは存じ上げてますし、いずれにせよお慕い申し上げてますよ
…何で白けてるんですか?はい?タラシ?
何でベアハッグするんですか!?
いつもより痛い!!
違うってなんなんです!?
さっきから八つ当たりされてる気がするんですが!
というかどっちの選択肢も救いがないじゃないですかー!!
ルーノ・クロード ナツキ・ヤクト
男性 / ヴァンピール / 陰陽師 男性 / ライカンスロープ / 断罪者
ナツキはすぐに菓子を食べ始める
ルーノも脱出を諦めてテーブルへ
ナツキ:食べなきゃ出られないんだろ?早く食べようぜ!

ナツキは自分も食べながら美味しそうな飲み物や菓子を選んでルーノに持ってくる
どれを食べるか悩むルーノも取ってくれた物は何の疑問も持たず素直に食べる
(食べる菓子は全部「効果おすすめ」)
ルーノ:確かに味は美味しい。これはどんな効果があるんだい?
ナツキ:それがなんにも書いてなかったんだよなー
ルーノ:!?

魔女ともメッセージカードを使って会話
挨拶をしつつ、招待状にあった『我が君』とは誰のことなのかと、気になっていたルーノが聞く
ここに来て一緒にパーティしないのかと魔女に興味を持つナツキも聞いてみる
ヨナ・ミューエ ベルトルド・レーヴェ
女性 / エレメンツ / 狂信者 男性 / ライカンスロープ / 断罪者
ヨ 隠遁派の魔女からの招待状が…? 
  行きましょう 一人でも多くの魔女が私達人と繋がろうとしてくれる事に感謝を示さなければ(キリ
ベ それは尤もだが 本当のところは?
ヨ …森の中の魔女の家にとても興味があって…
ベ うむ 素直で宜しい

とはいえどちらも本心の様子
ヨナが明るく振舞っているように見えるのは#143での事を引きずっているのだろうか
まあ今その話をするのも無粋だろう と心の中に留める

緑豊かな森の中に構えた家はイメージの通り
中に入ってからは少しびっくり

ベ 取り合えず何か食べるか メッセージカードが切実そうだ
ヨ そうですね… 多分一生懸命作ったのでしょうし

二人の周りを飛び回る蝙蝠型のチョコレートをつまんで一口
リチェルカーレ・リモージュ シリウス・セイアッド
女性 / 人間 / 陰陽師 男性 / ヴァンピール / 断罪者
…何だか可哀想よ?震えているし
食べてあげましょう?
取り上げたクッキーを半分に割り 
はい あーん
ぽかんとしたシリウスの口にクッキーを押しこみ 自分も残りを口に
うん 甘くておいし…?

見た目も中身も幼く
不思議そうに周りを見渡し シリウスを見てにこっと
あなたは だあれ?
いつつ シリウスは?
おなじね おそろいね
じゃあ、シリウス
いっしょにあそぼ?
手を繋いで笑った後 不安そうな顔に
おかおいたそう けがしてる?
優しい言葉に安心したように頷く
かくれんぼ だいすき 
少年の手をぎゅっと握り ちょこちょこと部屋を駆けまわる
まじょさん どこですか?
もーいいかい?もぉいいよ?
いないねえ
いっしょにあそびたいな

こわくないよ
シリウスがいっしょだもの
アリシア・ムーンライト クリストフ・フォンシラー
女性 / 人間 / 陰陽師 男性 / アンデッド / 断罪者
お菓子、食べればいいのですか……?
それじゃ、えっと…この、白いアイスを…バニラ、でしょうか、これは

え、だって、私達の為に、用意してくれたって……
なのに、無視するのは、可哀相、ですし……

微妙な顔をするクリスにちょっとだけ微笑んで一口
……特に、何もない、気が……美味しいアイスですよ
(美肌効果に気付いていない)

魔女さん、美味しいものをありがとうございます
別のも頂きますね
どれがお勧めですか?

クリスがサンドイッチをつまんでいたので
カードに質問をしながら次のお菓子を

ふと見ると彼の髪が見慣れない色に……
ク、クリス……髪、が……

え、私の、背中?
そう言えば重い、ような……

女神なんて、そんな、褒めすぎ、です(赤面
タオ・リンファ ステラ・ノーチェイン
女性 / 人間 / 断罪者 女性 / ヴァンピール / 拷問官
ス、ステラ!?話を聞く前から食べ始めないでください!

どんな方が作ったかも分からないのに食べるなど
! 待ってください、これは……
あ、あんまんです!まさかこんなものまであるとは
うぅ……ですが……

し、仕方ないですね……どうせ食べなければ出られないのですから、いただきましょう
あむっ、んむ……
(思えば故郷を離れてから久しいですね、やっぱり……美味しいです)

食べてしまいましたが、特に変化は……ど、どうしたんですか?
って、なんですかこれ!?まさか猫の耳では………… っ!
い、いえ、おし……その……臀部がむずがゆくて…… まさか……


ス:おーい、まじょはたべないのかー?
知ってるかー?みんなでたべるとおいしいらしいぞー!


~ リザルトノベル ~

「隠遁派の魔女からの招待状が……?」
 依頼書を読み上げた『ヨナ・ミューエ』が『ベルトルド・レーヴェ』の方へと振り返る。
「行きましょう」
 決然とした面持ちでヨナはベルトルドを見上げる。
「一人でも多くの魔女が私たち人と繋がろうとしてくれることに感謝をしなければ」
「それは尤もだが、本当のところは?」
 滔々と弁じていたヨナが視線をさっと逸らし、
「……森の中の魔女の家にとても興味があって……」
「うむ、素直で宜しい」
 ベルトルドが満足げに頷く。その横でヨナが必死で魔女と友好関係を築くのも浄化師としての役目だと言い募っているのを、ベルトルドはうんうんと頷きながら聞き流していた。
 どちらも本心なのだろう。だが、ベルトルドの目にはわざとヨナがいつもより明るく振る舞っているように見えた。以前の指令を引きずっているのかもしれない。
 教団の過去の所業はこれまでの指令の中で幾度も聞いてきたが、人の尊厳を踏みにじる外道――それが教団内部の人間であったことに、また思うところがあるのだろう。
 今その話をするのも無粋だろうと、ベルトルドの心の中に留める。
 だからこそ、この指令がいい気晴らしになってくれればいい。



「これが魔女の家ですか……」
 森の獣道を抜けた先にあるこぢんまりとした住まいはヨナが想像する魔女の家そのものだった。
「可愛しいお家ね。おとぎ話に出てきそう……」
 『リチェルカーレ・リモージュ』もヨナと同じようなことを思ったようで、幼い頃に読んだ絵本の1ページを思い起こしていた。
「見たこともない薬草が、たくさんあります……育てるのが難しいものも」
 家の近くには個人のものにしては広大な薬草畑が広がっており、『アリシア・ムーンライト』が興味深そうに見つめていた。
「思っていたのと違うな……」
「ああ、琥珀姫のようなところを想像していた」
 『ショーン・ハイド』の言葉に『シリウス・セイアッド』が同意する。
「こんな辺鄙な森の奥にさえなければちょっと変わった民家でも通用しそうだよね」
 『レオノル・ペリエ』が言う通り、よく見れば出窓には白いレースのカーテンが揺れ、手作りの赤いポストが飾ってある。魔女の家にしては些か生活感がある。
 あまりにも長閑な光景だったから油断していた。
 ドアを開けた先は、素朴さとは無縁なゴシック感全開な深紅の大広間。アラベスク模様の絨毯も赤。ベルベットのアンティークチェアも赤。シルクのカーテンも真っ赤。
 家の外観との落差に『ステラ・ノーチェイン』は目を丸くし、『タオ・リンファ』は開いた口が塞がらなかった。
「マー! すごいな、これが魔法なのか!?」
「私達お城に入ったわけではありませんよね……? あれ、ドアが開かない!?」
 ステラが喜んでいる横で、タオはなんとかドアを開けようと奮闘していた。



「食べなきゃ出られないんだろ? 早く食べようぜ!」
「そうだな、それしか方法はないようだ」
 『ナツキ・ヤクト』はテーブルを埋め尽くさんばかりのお菓子を見て目を輝かせる。相棒である『ルーノ・クロード』もこれまでの経験から脱出を早々に諦めてテーブルへと足を進める。
「ほら、ルーノ見ろよ。お菓子だけじゃなくて、軽食もあるんだぜ。パスタとか数種類あるし、サラダとかスープもある!」
 ナツキは楽しそうにどれを食べようかとお菓子や軽食の前を行ったり来たりする。むしろどんな効果があるのかワクワクしていた。
 ルーノは姿が変わったり語尾がおかしくなるものは、いつ効果が切れるのかと若干不安に思っているせいか、中々選びきれないでいる。
「効果がないのは、むしろ当たりでは……?」
「面白い効果しかないみたいだし、そんな心配しなくても大丈夫だって!」
 思いっきりが良すぎるナツキの言葉にルーノは苦笑いする。
「どれも美味しそうだしせっかくだから色々と試してみるぜ。なんたってパーティって聞いて腹空かしてきたんだからな!」
(しかし、魔女に悪意はないようだ。思いっきり楽しむナツキに付き合っても問題ないだろう……たぶん、きっと、おそらくは)
 それにカードを見れば、「どうして食べてくれないんですかあ……味、それとも見た目がダメだった!?」と段々と泣き言のような言葉が浮かんでいた。



「……なんだか可哀想よ? 震えているし」
 すっかりリチェルカーレは魔女へ同情的なようだ。
「食べてあげましょう?」
「……食えと言われても効能を見ただけで食べる気がなくなる」
 震えるカードを呆れた眼差しで摘まみ上げると、その冷たい視線にカードがびくりっとする。
 警戒心の強いシリウスからすれば、いくら美味しそうに見えてもどんな効果があるか分からないものを到底食べる気になれない。
「いじめちゃダメよ、シリウス」
「……見ていただけだ」
 メッとリチェルカーレが言うと、シリウスは気まずげに顔を背ける。
 リチェルカーレがそっと摘んだのはトランプ柄のアイシングクッキー。一目見た時から可愛らしいと思っていたのだ。すごく細かく模様が描かれていて同じものは一つとしてない。
 少しもったいないと思いながらリチェルカーレはクッキーを半分に割ると、
「はい、あーん」
「……っ!?」
 ぽかんとしていたシリウスの口にクッキーを押し込む。反応が遅れたシリウスはクッキーを呑み込んでしまう。
 残ったクッキーをリチェルカーレが食べると、
「うん、甘くておいし……」
 リチェルカーレは最後まで言うことなく、時計の針が逆回転し時を巻き戻すかのように体が縮んでいく。
 先に食べたシリウスもまた幼子へと変化していた。服装も一緒に縮んだのは不幸中の幸いか。
 幼いリチェルカーレは不思議そうに周囲を見渡し、シリウスを見てにこっと無邪気に笑いかけた。
「あなたは、だあれ?」
 誰、という言葉にシリウスは息を呑む。瞬間、シリウスとは違い彼女は見た目相応に中身も幼くなっているのだと悟った。
「――シリウス。お前……いや、きみ、は、いくつ?」
 恐れと戸惑いの中、シリウスはできるだけ彼女を怖がらせないよう優しく尋ねる。
「いつつ。シリウスは?」
「俺も、同じ……」
「おなじね、おそろいね!」
 自分を知らない彼女の笑顔に息が詰まる。そのまっさらな青い瞳がまるであなたのことを知らないと突き放されているようでシリウスの胸がかき乱される。
「いっしょにあそぼ?」
 それでもシリウスの知る彼女と変わらぬ優しい眼差し。何も知らなくてもリチェルカーレは当たり前のようにシリウスに手を差し出す。その手を拒むことなどできる筈もなく、彼女の小さな手を取った。
 手を繋ぐと彼女は表情を綻ばせる。
 心配をかけたくない。中身も幼くなってしまった彼女なら尚更だ。
 なんとか平静さを保とうとすればするほど、焦燥感が募り、余計に顔が強張っていく。
 シリウスの瞳が昏く不安に揺れているのを見て、リチェルカーレはなんだか悲しくなった。
「おかおいたそう……けがしてる?」
「平気。どこもいたくない」
 シリウスの不器用ながら優しい言葉に安心したように彼女は頷いた。そんな彼女を横目にばれないようそっと安堵の溜息を吐く。
「……魔女がどこかに隠れているんだ。一緒に探そう」
 苦し紛れの嘘。だけれど、リチェルカーレを思ったが故の優しい嘘だ。
 リチェルカーレはそうとは知らずに彼の提案に明るい笑顔で大きく頷いた。
「かくれんぼ、だいすき」
 優しそうな少年の手をぎゅっと握りしめ、リチェルカーレはちょこちょこと部屋を駆け回る。
「まじょさん、どこですか?」
 テーブルの下に潜り込んで呼びかける。その間も、手はずっと繋がれたまま。
「もーいいかい? もぉいいよ?」
 今度は目を瞑って少女はかくれんぼの合い言葉を告げる。深紅の大広間は広かった。どこまでもどこまでも歩いても元の場所へと戻ってきてしまう。歩く先々にある家具や置物は変化するのに、最終的にはお菓子のあるテーブルに戻ってきてしまうのだ。
「いないねぇ……いっしょにあそびたいな」
 落胆するリチェルカーレの言葉にシリウスの胸が痛む。
 疲れて座り込んでしまった彼女。その手を引かれるまま大広間を巡ったが、魔女の影すら見つからない。
「――ごめん。こわいよな、知らない場所で……」
 幼い少女にとって家族もおらず閉じられた場所から出られないなんて、怖いに決まっている。なのに少女は疲れ切っているにもかかわらず花開くように笑った。
「こわくないよ」
 シリウスは思わぬ言葉に目を丸くする。
「シリウスがいっしょだもの」
 幼くなっても変わらずに向けられる信頼と親愛。シリウスは無意識に表情が柔らかく緩む。それを見てリチェルカーレも嬉しそうに笑う。
 幼くなった二人の冒険はもう少し続くのだった。



「とりあえず何か食べるか。メッセージカードが切実そうだ」
「そうですね……多分一生懸命作ったのでしょうし」
 ヨナがテーブルの上に視線を向けると、そこには手作りとは思えぬ出来映えの菓子がたくさん。その合間に黒のキャンドルホルダーに可愛らしい猫の置物が飾られていて、目でも楽しませてくれる。
 ヨナ達が座ったテーブルの前にはガトーショコラにザットハルテ、オペラといったチョコレートケーキがずらりと並べてある。その周りを小さな蝙蝠が飛び回る――正確にはチョコレートの蝙蝠だが。
「あ、掴むと動きを止めるんですね……」
 ベルトルドが簡単そうに捕らえたのを見て、ヨナも可愛らしくデフォルメされた蝙蝠チョコを見様見真似で捕まえた。
「動かないと普通のチョコに見えるな」
「本物そっくりじゃなくて良かったですね」
「……ああ」
 二人は深々と頷くと、タイミングを合わせたように一口齧る。その味に思わず顔を見合わせた。
「美味いな……」
 ベルトルドの言葉にヨナがこくこくと首を振る。
 上質なチョコレートが口の中で溶けていき、ゆっくりと広がるのは芳醇なカカオ。ほろ苦さや酸味といったチョコレートの奥深さ――ファンシーな見た目とは裏腹に本格派のチョコだ。
 これを皮切りに二人は何を食べようかと物色し始める。
「ん? ブランデーの匂いがするな……」
 ベルトルドが鼻をくんくんとひくつかせ、手に取ったのは焼きチョコブランデーケーキ。
 10日程熟成させたケーキは食べ頃で、ブランデーをこれでもかと贅沢にしみこませた生地はお酒好きにもチョコ好きにも堪らない一品だ。
「コーヒーが飲みたくなる味だな……」
 ベルトルドが思わず呟く。
 ブランデーの芳醇ですっきりとした口当たりの良さと甘さ控えめながら、しっとり柔らかな生地が口でほどけていく。
 隣に座るヨナもフォンダンショコラを幸せそうに舌鼓を打っていた。
 切り込みを入れると同時にカカオの香りと生チョコが溢れ出した。冷たいバニラアイスと温かな生チョコが絶妙にハーモニーを奏で、さらに酸味のあるフランボワーズソースと共に口元に運べば、また別の味わいが楽しめる。
 二人はいつの間にか食べきってしまっていた。ふっと何か飲み物が欲しいと思った二人の意を汲んだように、ティーポットや紅茶の茶葉が入った缶が空中に浮く。まるで透明人間でもいるように勝手にコーヒーミルが豆を磨り潰し始めた。



「お菓子、食べればいいのですか……?」
 テーブルに並べられた様々なお菓子をアリシアはゆっくりと頬に手を添えた。
「それじゃ、えっと……この、白いアイスを……バニラ、でしょうか、これは」
「待った、アリシア!」
 白薔薇の形をしたアイスを手に取ったアリシアに『クリストフ・フォンシラー』が慌てた様子で声をかける。
「これ、本当に食べて大丈夫なのかな?」
「え、だって、私達の為に、こんなにたくさん、用意してくれたって……なのに、無視するのは、可哀想、ですし……」
 アリシアが懇願するようにじっとクリストフを見つめると困ったように笑う。
「確かに、好意で用意してくれたのなら食べないのは失礼なんだけど……うーん」
 あまり乗り気ではないクリストフにアリシアは少しだけ微笑む。
「じゃあ俺が先に食べるから……って、ちょ、アリシア!?」
 考え込んでいた隙にアリシアがアイスを口にしたのを見てクリストフは呆然とする。
「……特に、何もない、気が……美味しいアイスですよ」
 伏し目がちな目を緩ませてアリシアは白薔薇のアイスを一口ずつ味わう。
(まるで、薔薇をそのまま、食べているよう……この香りが魔法、でしょうか……?)
 香水を楽しむように舌の上で刻々と香りが変化する。白薔薇のアイスに入っているのは美肌効果の魔法だけ。香りはその魔法に付随するおまけにすぎなかった。
 アリシアに異変がないか慎重に見ていたクリストフも内心首を傾げる。
(あれ? でも、そんなに変化ない? 心なしかアリシアの顔色が良くなった気がするけど……)
 アリシアの色白い肌がさらに透き通り、生命力を溢れ出したかのような色艶がそこにはあった。



「……カードの文章が変わるのもとてつもなく気になるのだが」
 シンプルなメッセージカードを得体の知れない物を見る目でショーンが唸るように呟いた。
 魔法のカードも気掛かりだが、それ以上にビュッフェもかくやといわんばかりの量ともに種類の多さは何だ。
「この菓子は一体……って言った側からドクターが食べてる!?」
 レオノルは椅子に座りチョコレートケーキを美味しそうに頬張っていた。
「ドクター! このお菓子を食べれば何らかの効果が出ると書いてあったじゃないですか!? どんな効果が出るか分からないものを食べてはいけません!? ……ああっ、それ以上食べないで下さい!」
 慌ててレオノルからケーキを取り上げようとするショーンだったが、
「せっかく用意してくれたんだよ。それに効果が出るといっても精々数日程度じゃん、問題ないよ」
 それに食べ物を粗末にするのは良くないからね、と言われればショーンも口をつぐまざるをえない。
「だからといって、ドクターが食べなくても……」
 俺が代わりに食べます、とショーンが口にする前にレオノルがフォークをテーブルの上に置き、口を開いた。
「いいかい、ショーン?」
 レオノルは教え子に講義する教師のように真面目な顔で語り始めた。
「これはね悪魔のケーキなんだよ」
「はい……?」
 真剣な話かと思って姿勢を正して聞いていたショーンは困惑混じりに聞き返した。
「デビルフードケーキはね、罪作りなほどにカロリーが高いからそう呼ばれているんだ。悪魔のように魅惑的で一口食べたら止められないケーキ……らしい」
 エンゼル型で焼いたケーキはチョコレートがたっぷりと溢れんばかりにかけられている。
「実際ほんとなのか確かめたくなって。これバターたっぷりな上にさ、ココアが入っていればいるほど砂糖も大量に使うんだって。そりゃカロリーも高くなるよね。うーん、……どうしてカロリーが高いものってこんなに美味しいんだろう?」
 ビターチョコを使っているのか大人味だ。どっしりもっちりした触感が美味しくてさらにリッチなチョコケーキを食べているという満足感すら感じられる。
「そんなケーキをドクターは食べているんですか……?」
「たまになら問題ないさ。時にはジャンクフードを食べたくなるだろう。それと同じさ。それに美味しいものが目の前にあるのに食べられないなんて拷問じゃないか」
 レオノルは茶目っ気たっぷりに笑みを浮かべ、一切れよそって勧めてくる。
「とにかく美味しいものは分かち合って食べた方がもっと美味しく感じるものだよ」
 ショーンはなんだか上手く話を誤魔化されたような釈然としない表情を浮かべている。
「ほら、ショーンも食べてみなよ、美味しいからさ……ん?」
 ふと気づくとショーンが絶句したようにこちらを見ている。
「あれ、なんか視線が高い?」
 レオノルが不思議そうに首を傾げていると、
「ドクター!? ドクター……ですよね……?」
 驚愕と困惑の入り混じった声でショーンが呼びかける。
「妙齢の女性になられて……」
「妙齢? 私元々大人なんだけどなぁ……」
 首を傾げるレオノルとは反対に動揺が入り交じったショーンの顔はほんの少し紅く見えた。
 レオノルはにやりと口の端をあげ、
「ふふーん。ショーン、こういう女性が好みなんだ?」
 ただ面白そうだと思ってからかうつもりだけだったのに、ショーンは深い溜息を吐いた。
「そりゃ好きか嫌いかで言えば好きですが、ドクターはドクターでしょう」
 何を当たり前のことを言わんばかりに話し始めた。
「いつもの姿でも成人なさっているのは存じ上げていますし、いずれにせよお慕い申し上げてますよ」
 ショーンはそう言い切ると穏やかな微笑みを浮かべる。
「ショーンってタラシだよね」
 レオノルは感動的な雰囲気をぶったぎるように言い放った。
「……何で白けてるんですか? はい? タラシ」
「うん。好いてくれてるのも慕ってくれてるのも知ってるし、嘘じゃないと思うけどなんか違うんだよね」
 面を食らったショーンを放置してレオノルは顎に手を当てて考え込んでいる。
「何が違うかは言い表せないけど……悔しいな」
 なんだか心臓をきゅっと掴まれたような苦々しさを振り払うようにレオノルはショーンに向かって飛びついた。
「何でベアハッグするんですか!?」
 レオノルとしてはぎゅーと抱きしめているつもりだった。ショーンにとっては違った。背骨や肋骨がミシミシと音を立てている。
「いつもより痛い!!」
 ちなみにベアハッグは別名「熊式鯖折り」あるいは「熊の抱擁」とも呼ばれている。
「このまま抱きしめられて苦しい思いをするか、そこのクッキーを食べて向こう三日語尾が『にゃ』になるか選べー!」
「さっきから八つ当たりされてる気がするんですが! というかどっちの選択肢も救いがないじゃないですかー!!」
 ショーンが嘆くように叫ぶ。
 黒猫のクッキーを食べれば語尾が『にゃ』になることは実証済みだった――つまり既に犠牲者が出ているということだ。
 レオノルはショーンを抱きしめる力を緩めないまま、顔を隠すように苦く笑った。
(うん。好きで側にいてくれるのは、幸せなんだけど、ね……せめて大人の姿が大好きですよって言ってくれればな……)
 そんな思いを隠して顔を上げると、レオノルは悪戯っこのように笑い、二人は暫くはしゃぎあうのだった。



「ス、ステラ!? 話を聞く前から食べ始めないで下さい!」
 今の今までドアが開かないか奮闘していたタオは額に汗ばんでいた。ドアや窓を魔喰器で息切れするまで攻撃したがびくともせず、根負けしたタオはステラの元へ戻ってきて泡を食った。
「どんな方が作ったかも分からないのに食べるなど……」
「おいしいものをくれる奴にわるい奴なんていないぞ!」
 ステラは完全に餌付け済みだった。タオの苦言も美味しいものの前には無力だ。
 警戒心の強いタオは暫く遠巻きに様子見していたが、周囲は次々とお菓子を食べている。
(あ……た、楽しそう……)
 美味しそうに食べるステラと仲間たちに心が揺らぐ。さらに食欲を煽るように焼きたてのいい匂いが漂う。
「……! 待って下さい、これは……」
 ほっかほっかの中華まんが蒸籠に入っているのが目に入った。
「ちゅ、中華まんです! まさかこんなものまであるとは……うぅ……ですが……」
 どうぞ食べて下さいと言わんばかりの作りたて! ぶわりと中華まんの深奥部からもれてくる湿って熱い湯気がいかにも美味しそうだ。さらに極上の生地はふかふかでふわふわだ。
「し、仕方ないですね……どうせ食べなければ出られないのですから、いただきましょう」
 蒸籠の方をちらちらと見ながら、自分に言い聞かせるように中華まんに手を伸ばした。
「む、中身はあんまんですか……っ!」
 真ん中を割れば湯気と共に出てくるぎゅっと詰まった甘い餡。
 中華まんは生地が美味しいと言われるくらい生地に重点を置く。ならば、それに見合う具材でなければならない!
 はたして餡はどうなのか。期待と不安の間で揺れ惑いながら一口食べる。
(な、中々やりますね……さすが魔女と言ったところですか)
 どこから食べても粒餡がぎっしり! 黒糖とゴマの風味が効いた粒餡の歯応えのある触感。この生地に包まれているからこその美味しさだ。
 タオは根っからの中華まん好き。たまらずかぶりついた! 思わずアツツとなるのも乙ではないか。これぞ中華まんの醍醐味!
(思えば故郷を離れてから久しいですね。やっぱり……美味しいです)
 どこか懐かしい味はタオに幸せな満足感をもたらしていた。



「お、ルーノこれ見ろよ! すげーカラフルなチーズケーキあるぜ、それにお月様もある!」
 ナツキが大はしゃぎでルーノを呼ぶ。
 レインボーだったりマーブル模様だったりして目が痛いほどカラフルなチーズケーキ。
 その中でもナツキが特にお気に召したのが、小さな満月のチーズケーキだった。
 黒い夜空の皿の上にぽつんと金貨のような満月が浮かんでいる。月面まで再現されていて本物の月のように淡く照り返す。
「これは美しいな……食べるのがもったいないぐらいだ」
「だろー、レインボーも捨てがたいけどルーノと一緒に食べるなら、これがいいって思ったんだ」
 ナツキが満月を真っ二つにするように真ん中にナイフを入れると、
「おー中もすごいぜ! なんかきらきらしてる」
 月光をたっぷりしみこんだ生地が食べられるのを待っているように光をこぼす。
 見た目のインパクトは裏腹に控えめな甘さとレモンの香気が鼻孔をくすぐる。二人とも一口一口味わうように食べる。
 とろけるようなクリームチーズの舌触り。ほろ苦い果肉の渋みと酸味がさわやかな味わいをもたらす。さっぱりしていて、いくらでも食べられそうだ。
「確かに味は美味しい。これはどんな効果があるんだい?」
「それがなんにも書いてなかったんだよなー」
「!?」
 ナツキが食べ続ける横でルーノは一瞬動きを止めた。すぐにもう食べてしまったものは仕方ないと諦めた表情で食べ始める。
 多少の効果があっても仕方ないと諦めるくらいには、美味しかったのだ。
 その効果はさほど時間を要する間もなく現れた。

「ん? ルーノの爪が夜っぽくなってるぜ」
「君こそネイルを塗ったみたいになってるじゃないか」
 互いに自分の手を確かめると、ナツキはマスタード色にべっこう飴、レモン色へと爪先が変わっていた。ルーノは神秘的な夜空を爪先に閉じこめた小さなプラネタリウムのように星が輝いている。
「他にどんな効果があるのか楽しみだな! これ俺らよりも女子向けな効果だし」
 ルーノは曖昧に頷きつつも、内心安堵の溜息をつく。
(これぐらいの変化で良かった……心配しすぎだったかな?)
「それにしてもパーティを開いたのがどんな魔女なのか気になるよなぁ」
「そうだな、隠遁派の魔女は良くも悪くも世間に対して興味を持たないと聞く。多少ズレていてもおかしくないだろうな」
 ルーノは食べる手を止め、何やら考え込み始めた。チーズケーキを味わいながらナツキは思いついたことを話していく。
「んー、でも何で俺らを招待したんだろうな。招待状出したって事は、浄化師の事をよく知ってたりすんのか?」
「ナツキにしては鋭いじゃないか。確かに教団内部か教団の協力者、あるいはこれまで関わった魔女と関係ある人物の可能性が高いな」
「カードで直接聞いてみたらいいだろ。それに美味しいものをご馳走してくれる奴なんだから大丈夫だろ!」
「……その理屈はともかく。手っ取り早くカードに尋ねてみるのはいい案だな」
 カードを手に取りルーノが改まって礼を言うと、
「本日はお招き頂きありがとうございます、不思議の魔女」
「我が君を助けて下さる浄化師の皆様をもてなすのは当然のことです!」
 近くで食べていたヨナとベルトルドがピタリと動きを止めた。
 この時になって二人は魔女の存在を思い出し、慌てて自分達のカードを確認する。
 弾むような筆跡で書かれていて二人は魔女の存在自体を忘れていたとは言えず気まずい空気が漂う。
「あのお名前をお伺いしてもよろしいですか?」
 ヨナは当初の目的を思い出し、口早にカードに問いかける。
「我が君には『不思議ちゃん』と呼ばれています。なので、不思議ちゃんと呼んで下さっていいんですよ?」
「不思議ちゃん……さん……」
 魔女本人がそう望んでいるならば、でも……、という気持ちを抱えながらとヨナは躊躇いがちに呼ぶ。
「あだ名で呼ぶのはともかく、本当の名前を教えてもらえないだろうか? もちろん嫌なら断ってくれても構わない」
 苦渋の決断でベアハッグの刑を選んだショーンは疲れた顔で尋ねる。
「名前は『不思議ちゃん』です。我が君から名を賜る前は薬草のとか霊薬のとか呼ばれてました」
 なんとも返答に困る回答が返ってきた。もしかしたらこの魔女に名前はないのかもしれない(本人は不思議ちゃんで納得しているどころか喜んでいるようだが)。我が君という奴ももう少しまともな名前を与えなかったのかと、ショーンは思わず唸った。

「失礼だが、君の言う『我が君』とは私達が知っている者だろうか?」
「私など矮小な存在に恐れ多くも偉大な方の名前を口にできません! 彼の方は始まりの魔女、いえ今は道化の魔女と呼ばれる方としか……」
 ルーノの質問にカードがぶるぶる震えたかと思うと、筆跡も魔女の心境を表すかの如く乱れている。
 ルーノの横からカードをのぞき込んでいたナツキが叫んだ。
「道化の魔女って、メフィストじゃねえか!?」
 メフィストと面識のある浄化師からは、メフィストの知り合いの魔女だったのかと声が上がる。
 カードを通しての短い交流でもこの魔女は些か卑屈だが、真面目な性質だと分かる。この愉快なパーティになったのもメフィストの入れ知恵だと言われても納得する者も多いだろう。
「メフィストの仲間なんだな!」
 ナツキが無邪気にそう言った瞬間、カードから瞬息でメッセージが届いた。
「我が君の仲間だなんてミジンコ以下の私が烏滸がましい……いうなれば、私は信者です。我が君を崇め奉仕するのは僕として当然のこと。我が君の偉業をしかと目に焼き付け後世に残す為、使い魔を通してずっと見つめていました。そして貴方方のことを知ったのです!」
 とんでもない暴露がカードに書き込まれた。
 それってストーカーじゃない? と皆が思っていたことを口走ろうとしたレオノルの口をショーンが慌てて塞ぐ。
「我が君の偉大なる行いをずっとずっと見てきました……この前などヨハネの使徒から救い出して下さり、それ以前からも手助けして下さる皆様に心ばかりのお礼をと思ってパーティを開いたんです」
「なら、ここに来て一緒にパーティをしようぜ!」
「ぴえっ!」
 ナツキの誘いにカードが驚いたように跳ねた。
「おーい、まじょはたべないのかー?」
 カード目掛けてステラは呼びかける。
「知ってるかー? みんなでたべるとおいしいらしいぞー!」
「わ、私、ここに引きこもって二十年。元々の人見知りが悪化してしまって人前に出ると頭が真っ白になって全く喋れなくなるんですよぉ……こうしてカード越しなら普通に喋れるんですけど……お外こわい……」
 思っていた以上に極度の人見知りというか年季の入った引きこもりだった。メフィストとは別の意味で残念臭がする魔女だ。
「引きこもりなんてタイヘンだな! 早く治るといいな!」
 ステラは病気か何かで出てこられないと思ったらしい。今ステラの保護者はこの魔女と同様にテーブルの下に潜り込んで出てこられないからだ。
 ステラの無邪気な言葉が魔女の心にぐさりと刺さったのか、カードは紙屑のように丸まってしまった。
「無理に引き出すのも酷だろう……カード越しでも交流できればいいんじゃないか?」
 ショーンは呆れ果てていたが、これ以上の追い打ちをかける気にもなれず言葉を濁す。
「もし人の国に興味があって出てくる気分になったときは案内します」
 ヨナがフォローするようにカードにそう告げると、カードがぶるぶると震え、
「ありがとうございます! 引きこもりですけど使い魔を通してアークソサエティはもちろん色んな国を見て回ってるんですよ!」
 なぜか顔も知らぬ魔女のドヤ顔が思い浮かぶ筆跡でそう書かれていた。
「生身でお外に出られないですけど、使い魔を通して案内してくれたら嬉しいです」
 引きこもりを極めた魔女とカードを通して話していると、突然ベルトルドの体が変調を起こした。
「なっ……!?」
 みるみる黒豹が縮んでいき、そのまま小さな黒猫になってしまった。黒猫になったベルトルドは椅子の上で尻尾をぴんと伸ばし、毛を逆立てている。
 どう見ても愛らしい。タヌキのように膨らんだ尻尾も柔らかそう艶々の黒い毛並みも堪らなく可愛らしい。
 思わずもふもふしたいという誘惑に負けてふらふらとヨナが手を伸ばすと、黒猫は後退りするように逃げる。
「ちょっと抱っこしてみても? って……あれ……?」
 ぼふん!
 ヨナを包み込むように煙が立ち込める。暫くして煙が晴れると、ヨナの髪色と同じ毛をしたアフガンハウンドがいた。
 アフガンハウンドとは、大型犬としては珍しい引きずるような長毛が特徴の高貴なお犬様だ。
 だが、その気品ある姿はなく、呆然と座り込んでいる。
 撫でくりまわそうとする魔の手から脱した黒猫ベルトルドはテーブルの上に避難すると、オロオロとする犬をテーブルの上から一瞥していた。
「俺はそれほど困らないが……ん、喋れるな? にしても、ヨナの方が大きいのが納得いかん」
 黒猫は目を細めて尻尾をテーブルにべしべしと叩きつける。
「……おい、その体で俺に泣きつくな」
「くぅーん……」
「まさか喋れないのか……?」
 黒猫にとっては巨体をすり寄せてくるヨナをなんとか宥めながら、この後3日もその姿から戻れないことを知る由もなかった。



 少し時間を遡るが、魔女との交流の前に同じく猫化した者がいた。
「食べてしまいましたが、特に変化は……ど、どうしたんですか?」
「マー、猫になってるぞ!」
 ステラが目をきらきらと輝かせてタオの頭を指さす。タオは慌てて頭上を触れると、そこにはなんだか柔らかい三角の何かが生えている。
「って、何ですかこれ!? まさか猫耳では……っ!」
 他にも変化がないか自身の体を確認しようとするタオだったが、
「ん? マーどうしたんだ? どこか痛いのか?」
「い、いえ、おし……その……臀部がむずがゆくて……まさか……」
 おそるおそる体をよじって見ると、黒い艶やかな尻尾がぴんと生えていた。
「ど、どうして食べたんでしょう……あの時誘惑に屈してしまわなければ……」
 猫耳と尻尾が生えた現状を受け止めきれないタオが崩れ落ちる。
「だいじょーぶだ!」
 ステラが自信満々に落ち込むタオに話しかけた。
「ここにはいろんなおかしがあるだろ? なら治すおかしを食べればいいんだ!」
「なるほど、確かに……って待って下さい! 一瞬納得しかけましたが、それはつまり」
 タオが冷静さを取り戻す前に、ステラが善意から黒猫のクッキーを突っ込んだ。
「むぐっ……」
 タオは思わずごくんと飲み込んでしまった。
「あ……食べちゃった。逆に悪化するかもしれニャいというこ、と……? に゛ゃ゛~~~!!?」
 タオは思わず悲鳴を上げた。だが、それは猫の鳴き声にしか聞こえなかった。
「んー、しっぱいだな。他のおかしをためしてみるぞ」
 ステラがそう言って走り出したのを混乱しているタオは気づいていなかった。
 後日、効果が抜けるまで3日かかり、タオはその間自室に引きこもった。
「マー? どうしたんだー? おなかいたいのかー?」
「違います……ほっといてくださいニャ……」
 ドア越しにこんなやりとりがあったとかなかったとか。



「魔女さん、美味しいものをありがとうございます」
「美味しいですか!? 本当ですか! 我が君よ、我が信仰を捧げます!」
 アリシアの言葉にカードがわななく。なぜだか、魔女が祈りを捧げている姿が浮かぶ。
「別のも頂きますね。どれがお勧めですか?」
「はっ!? あまりのことに感動して、つい日課のお祈りをしていました。おすすめはですね~、雲のムースなんてどうでしょう!? 味も効果もこだわりの一品ですよ!」
 まるで今にも踊り出しそうな上機嫌なのが丸わかりな筆跡にアリシアが小さく微笑む。
「それでは、お勧めの雲のムースを頂きますね」
 そう言うとアリシアの前に雲のムースが何もないところから突然現れた。
 アリシアは驚いたものの、もう一度カードに「ありがとうございます」と頭を下げる。
「……可愛らしい、ですね」
 アリシアは思わずうっとりと呟いた。
 おそるおそる外側をナイフでつついてみると卵の殻が割れるようにぱりっと音を立てる。
 すると雲の中からお日様が顔を覗かせる。お日様のムースはマンゴーの果肉たっぷり。外側はパリパリのホワイトチョコに、その内側は爽やかなヨーグルトのクレームだ。
 アリシアはどんな味がするのかと密かに胸をワクワクさせる。
 まずは一口。空に浮かぶ雲を想像させるふわっとした優しい触感。カリッとしたチョコとマンゴーの甘みにヨーグルトの酸味が複雑に絡み合って一つの品として口の中で完成していく。
 美味しそうにちびちびと食べ始めるアリシアにクリストフは表情を緩める。
「危険はないのかな? ならいいんだけど……」
 内心の安堵を隠すようにいつもと変わらぬ人好きのする笑みを浮かべる。
 クリストフは遅れて近くにあったサンドイッチを適当に摘まみ始める。
「ああ、ほんとだ美味しい」
 ぶ厚めの食パンはきめが細かくて柔らかく、ふんわりエッグサラダを挟んだ王道のたまごサンドイッチ。
 滑らかな黄身と大きめにカットされた白身のプリプリ感。隠し味のからしバター風味が食欲を誘う。
「ク、クリス……髪、が……」
「ん? なに? どうしたの? 髪?」
 どうしてアリシアがそんなに驚いた表情をしているのか分からず、剣の刀身に自身の姿を映してみてぎょっとする。
「……金髪?」
(ああ、だからアリシアが驚いてたのか……まあ、これぐらいならどうってことはないんだけど)
 似合うかな? と振り返り、今度はクリストフが彼女の姿を見て固まった。アリシアは急に硬直した彼にゆっくり小首を傾げた。
「え、私の背中? そう言えば重い、ような……」
 アリシアはようやく自身の背中から生えているものに気づき、あたふたと声を上げる。
「天使……いや、女神かな」
「女神なんて、そんな、誉めすぎ、です」
 アリシアは耳まで紅く染めると俯いてしまった。そんな彼女も可愛らしくてクリストフは思わず魔女に「ありがとう」と内心での思いがつい言葉になって出てしまうのだった。
 純白の美しい翼の生えた彼女は神々しくも気高くもあり、その清らかな姿は周囲から隔絶されているようだった。
 じっと視線が注がれることに耐えられなくなったアリシアは、
「……クリス、さっき魔女さんから、他にもお勧めされたお菓子があるんです……一緒に、食べましょう」
「そうだね、一緒に食べようか」
 そんな彼女にクリストフは笑いをかみ殺しながら頷く。二人は宝石のようにベリーがきらめくタルトを一緒に取りに行く。
 彼女の翼からひらりと落ちた白い羽根を拾いながら、彼は思う。
 次に魔法がかかるときは二人でお揃いになるだろう。その瞬間を心待ちにするのだった。



 モンスターの見た目をしたお菓子が「みょみょーん!」と鳴きながら、ステラに美味しく頂かれた。
 少し不気味だけどロリポップ風の脳ミソのグミは食べ応えがあって、蜘蛛の巣のカップケーキはスパイスがぴりりっと効いていた。食べた後、雨のように蜘蛛の玩具が降ってきてびっくりした。
 パープルムースの上に飾られた可愛らしいお化けがステラに手を振っていたので振り返した後、パックリと食べてしまったが、これも美味だった。
 魔法の効果が何かを確かめる間もなく次々と食べていったものだから、ステラが歩く度にピコピコ音が鳴るし、触れられない布を被ったお化けに纏わりつかれていた。ステラは気にすることなく鼻歌混じりに歩く。
 ステラはタオを治すお菓子を求めて歩いて回る。次に目を付けたのが、
「おー、キラキラでくだものいっぱいだな!」
 宝石のように輝くフルーツがふんだんにのったジュエリータルトを見た瞬間、ステラは釘付けだった。
「あなたが、まじょなの?」
「違うぞ、マーを治すお菓子を探してるんだ!」
 お化けを引き連れたステラを魔女だと思ったリチェルカーレがシリウスと共に駆け寄ってくる。
「マー? もしかしてママ?」
「マーはマーだ……ん? オマエラお腹すいてるのか?」
 くーとお腹が鳴ったリチェルカーレは恥ずかしそうに俯く。
 ステラは自分よりも年下のリチェルカーレにお姉さんぶりたいのか、先程取った一切れのタルトを皿ごと渡す。
「お腹がいっぱいになればげんきになるぞ!」
「ありがとう」
 タルトを分けてくれたステラにリチェルカーレは嬉しそうに笑う。無邪気に笑いあう女の子の間に入りづらいシリウスが躊躇っている内に、二人は食べ始めてしまう。
「おいしい!」
「とうぜんだ! オレが目をつけた菓子だからな」
 大粒いちごにさくらんぼ、キウイ、バナナ、オレンジとフルーツ盛りだくさんなタルト。
 どのタルトも美味しそうでステラは悩んだ。
 どのフルーツも自分が主役なのだとばかりに艶めき、一番美味しく見える角度で飾られていた。
 山盛りのフルーツの酸味がじゅわりと広がり、やわらかなカスタードクリームの甘さに優しく包まれる。サクサクと香ばしくローストしたアーモンド生地の触感がアクセントになる。
 食べ終わるのを待つことなく、白い花を咲かすシロツメクサが二人の頭を一周するように伸びる。ひとりでにあっという間に編み込んでいき、花冠を咲かせる。
「アタマに花が咲いたなー」
 ステラがそう言うとリチェルカーレがおそるおそる花冠に触れる。
「すごいわ、まじょさんの、まほう?」
「本当に大丈夫なのか? 他に異常は?」
「ここの、まじょさんは、すてきね」
 心配そうに尋ねるシリウスにリチェルカーレが花冠を見せる。
「だから、だいじょうぶ。シリウス」
 リチェルカーレは安心させるようにもう一度手を繋いだ。



 気になっていた魔女のことも分かり、ナツキ達は食事を再開した。ナツキは果物たっぷりの華やかで贅沢なプリンアラモードを、ルーノは焼きたてのサーモンポテトパイを食べていた。
 もうナツキの方は魔法効果が出ているようで、咀嚼音が「ガッ! ガキーンッ!」とプリンにあるまじき金属音が聞こえる。ナツキは平然と食べているし、見たところ咀嚼音が変わる効果しかないようだ。
 そんなことを考えられているのも束の間だった。
「ごほっ……っ!?」
「大丈夫か、ルーノ!? 喉に詰まったのか!」
 ルーノは返事を返すことができなかった。思わぬ出来事に直面し彼にしては珍しく大いに動揺した。
 ナツキの首から上が鮭になっていた。正確には顔の部分が正面を向いた魚顔のマスクを被っているように見えるのだ。
 それはナツキだけでなく、全ての人間が魚顔に見える。それも本物の魚のようにリアルだった。
 周囲が変化したのではなく、自分の認識だけがおかしくなっているようだ。
 おそらく幻覚のたぐいなのだろう。
 ナツキらしき鮭男が心配そうに話しかけているのも、今のルーノには陸に打ち上げられた鮭が喋っているようにしか見えない。
 文字通り死んだ魚の目に耐えられなくなったルーノが「だ、大丈夫だ……」と答え、ナツキから顔を背けたのは仕方ないことだった。
 相棒だからこそ鮭顔にしか見えない現実が受け入れがたかったのだ。
 だが、視線を外してもリアル鮭顔となった仲間の姿が見えてルーノは途方に暮れた。
 ルーノは目頭を押さえながら、早く効果が切れることを祈るしかなかった。



「中々の惨状というか愉快な光景が広がっているねぇ」
「完全に他人事ですね、ドクター……」
 眼精疲労に効くお菓子を引き当てた二人は一部パニックに陥っている仲間達を眺めていた。
「効果がいつまで続くのか分からないからね、場の収拾は私達の仕事だろうね」
「ですよね、……そうなりますよね」
「その前に、疲労回復のゼリーでも食べていくかい?」
 肩をすくめたレオノルにショーンは苦笑交じりに頷いた。




【森国】不思議の魔女のおかしなパーティ
(執筆:oz GM)



*** 活躍者 ***

  • ヨナ・ミューエ
    私は私の信じる道を
  • ベルトルド・レーヴェ
    行くか
  • アリシア・ムーンライト
    私に何ができるのでしょうか
  • クリストフ・フォンシラー
    せっかく蘇ったんだしな

ヨナ・ミューエ
女性 / エレメンツ / 狂信者
ベルトルド・レーヴェ
男性 / ライカンスロープ / 断罪者

アリシア・ムーンライト
女性 / 人間 / 陰陽師
クリストフ・フォンシラー
男性 / アンデッド / 断罪者




作戦掲示板

[1] エノク・アゼル 2020/02/09-00:00

ここは、本指令の作戦会議などを行う場だ。
まずは、参加する仲間へ挨拶し、コミュニケーションを取るのが良いだろう。  
 

[4] リチェルカーレ・リモージュ 2020/02/17-22:59

 
 

[3] レオノル・ペリエ 2020/02/16-09:34

 
 

[2] アリシア・ムーンライト 2020/02/16-09:26