~ プロローグ ~ |
●午前7時 浜辺 |
~ 解説 ~ |
■目的 |
~ ゲームマスターより ~ |
まいど、マミアナサトルでございます。 |
◇◆◇ アクションプラン ◇◆◇ |
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目的 夜会を無事に終えること 遺体を損壊した犯人を見つけること 行動 前日:館の外回りを調査。庭や塀、馬車の車庫、馬小屋等。 塀の位置と高さ、庭の様子を確認(引きずった跡等変わった点、警備する時に良さそうな場所)。 車庫、馬小屋で馬丁さんの私物や隠した物等ないか探索。馬の状態(ちゃんと世話されているか)を観察。 当日:夜会前に集合して情報交換。夜会中は庭で警備。 ジークリートは正面、フェリックスは裏側。 庭がよく見えて目立たない場所に隠れて見張り。 連絡はフェリックスは魔術通信。ジークリートは移動して知らせる。 ランタンは怪しい人物が現れたらつける。 戦闘するなら庭。犯人はなるべく捕縛。 |
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目的 夜会を無事終了させる 脅迫状の主の特定、捕縛 行動 ク:まずは男爵に挨拶に行こうか ア:そうですね…許可があれば皆さんもお話ししやすいでしょうし… 挨拶ついでに邸内の調査並びに使用人達への聞き取り調査の許可を取りに行く 不審な行動をしてる者がいないか、不審物が無いか調べる許可を頂きたい と、穏やかな笑顔でお願い(クリス会話術使用) 礼儀正しく、男爵のプライドを刺激しないよう気をつけて その後クリスは男性にアリシアは女性に聞き込みに ・馬丁はどんな人だったのか…性格年齢等 ・遺体が馬丁だと特定できたのは何故か ・亡くなる前におかしな所は無かったか ・誰かと会ってたりしなかったか を聞いて回る 夜会前に皆で集まって情報共有 |
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●目的 夜会の護衛、事件の究明 ●前日~ 男爵に「護衛対象とお会いしたい」と フィオレさん他皆さんと面会する許可を戴き シュリさんと聞き込み調査へ 護衛&彼女が落ち込んでいる理由を調べる 夜会前に皆と合流して情報交換 ●夜会中 フィオレさんの護衛役 僕は執事服(男装 彼女に危害がないよう、目配りしつつ傍にいます 怪しい人は心理学と偽装で見抜く パンプティさんは少し離れたところから周囲を警戒 パンプティは 室内で戦闘となった場合、被害を最小にする為に室外へ誘導などを助力 戦闘は寸劇とごまかし客を説得 楽団へ曲を合わせるよう頼む 僕は フィオレさんに怪我や混乱があればスキルで回復して言葉で落ち着くよう促します 必要なら安全な場所へと誘導 |
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お屋敷の人がこれ以上怖い目に合いませんよう 事前 男爵様のところへご挨拶 この度はたいへんなことに ここでお仕事をされていた方が亡くなられたとか、お悔み申し上げます これ以上事件が起きないために お屋敷内の調査や聞き取りのお願い 許可が出ればまず奥様に 2週間前の事件のことを詳しく 他に怪しいことはなかったか お嬢様は何時頃からふさぎ込むように 真摯に相槌を打ち 些細な愚痴や不安も聞き取る 時間があれば夜会準備のお手伝い 使用人の皆さんとも話を 分かったことは仲間と情報共有 夜会では 出席者のフリをして男爵夫妻の護衛 何かあれば庇いに入れる位置 不審な動きをする人には注意 戦闘行為が起きたら周りの人の安全確保 いざという時には盾に |
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目的 夜会の警護、襲撃者の排除 夜会準備の手伝いを申し出 夜会前に一旦集まり得た情報の共有 ヨナは雑務 使用人達の不安や噂話に耳を傾けつつ質問も 男爵家族の評判や殺人事件後様子のおかしい人間が周りにいるか 怪しい人物がいればマーク 夜会は給仕として。主に夜会参加者と使用人達に注視 怪しい人物を外へ誘い他の賓客らと分断を図る わざと隙を見せて害意を試す ベルトルドは力仕事 内外限らず。歩き回って館の構造を把握。番兵と打ち解けておく 正門で持物検査。客の顔を把握 客に見慣れない顏がいるか番兵から聞く 夜会中は会場内の目立たない場所で襲撃に備え待機 対サクリファイス 生きることが罪なら入信した瞬間自害して教えを全うして欲しいものです |
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前日の行動 ショーンは自警団に話を聞く 死体が握っていた紙は本当に脅迫状だったか なぜ脅迫状なら教団に通報しなかったのか の2点 あとは自警団の愚痴を聞きつつ死体の調査 レオノルは男爵に交渉 「書斎の蔵書を是非拝見したいです!」と目をキラキラさせて言う 書斎が荒らされた件については夫人に聞く いつ荒らされたのか、被害はどれぐらいだったのか 書斎に自由に出入りできる人は誰かを聞く 書斎が荒らされた件があまり収穫がないならその質問を執事にも 今回の夜会参加者のリストアップも頼む 当日 受付でリストと夜会参加者の名前の照合 リストにいない人間が来たらショーンに対応させて、その間レオノルが屋敷内の仲間に連絡 |
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◆作戦 夜会前日は調査 当日は護衛中心 夜会前に集合し情報共有 襲撃者との戦闘時は裏庭に追い立て捕縛 ◆前日 シュリはフィオレに聞きこみ 今回の事件での彼女から見た見解を聞きたい 怯えさせないよう留意 ロウハは会場の設営を手伝いながら使用人に聞き込み 脅迫状の送り主や屋敷内の不審者に心当たりがないか探る なるべく個別に聞き矛盾点を精査 ◆当日 シュリは招待客に扮する フィオレの友人という立場で、邪魔にならない程度に彼女の近くで護衛 襲撃者を察知したら魔術通信で仲間に周知 戦闘中は会場内に残って客への対応 ロウハは執事に扮する 仕事をしながらなるべく会場全体を見渡せる状態を保つ 襲撃者を察知したらシュリに知らせる 戦闘時は戦列に加わる |
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・ディルク 到着次第、挨拶もそこそこに館の裏手にある海に面した崖を見に行く。 崖伝いに移動は可能そうか。また、それを行った形跡はあるか。 次に庭の芝生の中に敷地外へ繋がっていそうな何かが隠れてないかを捜す。 夜は街の酒場で聞き込み。あの館が建った経緯を知っている人間がいないか探す。 俺の読みでは、館を建てたのがサクリファイスの関係者の可能性がある。 そこを疑い、奴らだけが知っている出入り口が無いか探っているわけだ。 得た情報は夜会開始前に他の連中と共有する。 ・シエラ ディルクさんが外を捜すようなので、私は館の中でメイドさんたちに聞き込みをしてみます。 鍵が無く入れない部屋とか開かない扉とかがあれば怪しいですね。 |
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~ リザルトノベル ~ |
「ようこそいらっしゃいました」
浄化師たちを執事が出迎えた。 「夜会は明日の晩でございます。お部屋を用意してございますから今日はゆっくりお過ごしください。 警備に必要なものがあれば、可能な限り揃えますので」 「……あの」 声を挙げたのは華奢な半竜の少女、ジークリート・ノーリッシュ。 「使用人の方が亡くなった事件の犯人は、わかったのですか……?」 「――いいえ。それはお願いした警備には影響が」 「守るためにも、情報は大事です……少し調べさせてもらえたら、と……」 執事は渋い顔をした。依頼以上のことをされるとアスコリ男爵の気分を損ねる。 (上の者の危機意識が低いと、仕える人々は苦労しますね) 黙り込んでいるのはヨナ・ミューエ。少女のように見えるが、これでも成人だ。 印象を悪くしないよう気をつけているものの、整った顔には軽蔑の色が滲んでいる。 (やれやれ、真面目なのは結構だがなあ) ヨナのパートナーで黒豹の獣人ベルトルド・レーヴェは、相方の様子にそっとため息をつく。 教皇国家アークソサエティは階級社会だ。貴族の横暴に悩まされるなど日常茶飯事である。 階級から比較的自由な浄化師のほうが特別なのだ。 眼鏡をかけた青年がすっと立ち上がった。クリストフ・フォンシラーだ。 「わかりました、ご無理を言ってすみません。ところで、男爵閣下にご挨拶をしたいのですが?」 依頼主の男爵は浄化師たちの前に姿を見せていない。 クリストフは――パートナーのアリシア・ムーンライトが呆れるほど――にこやかに続ける。 「指令とはいえ素敵な館に滞在させていただくのですし、一言お礼を申し上げたいのです」 執事は浄化師たちを見渡すと、表情を変えずに深々と頭を下げた。 「……かしこまりました。それでは、こちらへどうぞ」 ● 男爵は書斎にいた。執事が浄化師たちを連れて入ってくると、不機嫌そうに一瞥をくれる。 「薔薇十字教団の連中か」 「はい、このたびは働いていた方が大変なことに……」 リチェルカーレ・リモージュが口にしようとした悔みの挨拶は、しかし男爵に遮られた。 「諸君の対応は執事に任せている。気にせず励みたまえ」 男爵は牽制するように落ち窪んだ目で一同を見渡す。そこで――。 「素晴らしい蔵書の数々! さすが男爵閣下、知識の価値をわかっていらっしゃる!」 頓狂な声を上げたのは、子供のように目を輝かせた中性的な容貌の女性だ。 「あ、申し遅れました。物理学者のレオノル・ペリエと申します。赴いた先でこんな豊かな蔵書に出会えるとは!」 「き、貴族として知識の庇護に努めるのは当然であろう」 レオノルは身を乗り出す。隣で彼女のパートナー、ショーン・ハイドが額を押さえた。 「ややっ、あちらに蔵められているのはキメラの画期的研究! その隣はブリテンの抒情詩集、こちらも名著ではないですか。男爵閣下の懐の広さが感じられます!」 レオノルはやけに真新しい背表紙を読み上げていく。 「た、大したことはない。それより私は手が離せなくてね……」 「これは失礼を。ぜひ男爵閣下の学術への取り組みについて伺いたかったのですが」 「そ、それはまた今度」 男爵は今にも逃げ出したそうである。 「男爵閣下はお忙しいのですから」 執事に書斎から追い出される直前、レオノルは肩越しに言った。 「せっかくなので素晴らしい館を見学させていただいても? 皆様にお話も伺いたいですね!」 「ええい、好きにしたまえ……!」 こうして、うやむやに調査許可が下りた。 ● 芝生の庭の端まで歩く。生垣はあるが崖の縁へ辿り着くのは容易だった。 (不用心な) 苛立った気分を抑え、ディルク・ベヘタシオンは芝生に腹ばいになる。断崖から頭だけを出して下を覗き込んだ。 (崖伝いの移動は難しいか) 館の建つ崖はほとんど垂直に眼下の海へ落ち込んでいる。舟などで崖下に乗りつけても、登り切るのは難しいだろう。 飛行能力を持つ種族、または独自の飛行魔術を習得した者ならば可能かもしれない。 しかしそれでは可能性は無限に近くなってしまう。 ため息をついて立ち上がったディルクの目に、銀波館の瀟洒な姿が映る。 (ろくに防備を考えていない建物だ。地位と金に慢心する連中め) 舌打ちをして館を通り過ぎる。 そこでふと、パートナーのシエラ・エステスのことを思い出す。シエラは使用人に聞き込みをしているはずだが。 (俺の足を引っ張らないなら、好きにすればいい) ディルクは門をくぐり、街へと向かった。 ジークリートと彼女のパートナーのフェリックス・ロウも門の外にいた。 「本当に、サクリファイスがいるのかな……フェリックスは、どう思う?」 「……わかりません」 フェリックスは淡々と答える。 彼はマドールチェの中でも表情が乏しく、およそ意思らしいものは感じられなかった。 「そうよね……私も、わからない……」 潮風に銀髪を遊ばせながら、ジークリートは考える。 先程調べた馬や馬小屋に、変わった点は見つけられなかった。 馬車置き場は一部立入禁止になっていた。死体発見後に大量の血痕が見つかったのだという。 (馬車置き場が……殺害現場?) ならば犯人はどこから入ってきたのだろう。 わからないことばかりだ。脅迫状を書いたのは誰か。馬丁の首を落としたのは何故か。 (馬丁さんなら、館の外に出る機会は多いのかも……) ジークリートは館を囲む塀を見上げる。 「この塀を、登るのは……難しいかな……」 「僕には、難しいように思えます」 塀は高く、上部には槍型の返しがついている。 (飛び越えられる人……、……誰かが、中から門を、開けた?) 「今回の件、まずは内通者の有無を探るべきだと思うんだ」 レオノルはジークリートと同様の考えを直截な言い回しで口にした。 ショーンは一瞬だけ左右を見渡し、聞く者がいないことを確認して答える。 「――理由は脅迫状ですか」 「それと、書斎が荒らされた件も。うん、あの人もなかなか怪しいよ」 学者が指差すのは玄関ホールに陣取って使用人たちに指示を出している執事だ。 「脅迫状が発見された経緯が知りたい。頼めるね?」 「了解しました、ドクター。しかしこの陽気で5日経っているとなると、死体のほうは」 「できる範囲でいい」 ショーンは隙のない所作で一礼し、パートナーの傍を離れた。 (さて……) 思案するレオノルは、メイドに案内されるリチェルカーレを目に留めた。 (よし、便乗しよう) リチェルカーレの訪問先は男爵夫妻の部屋。 出迎えた男爵夫人は、ついてきたレオノルの分までお茶を出してくれた。 「ありがとうございます。あの、お忙しいときにすみません」 リチェルカーレは頭を下げた。 「夜会はちゃんとお守りしますから。これ以上の事件は、起こさせません」 「頼もしいお言葉ですわね。やっぱり浄化師さんに来てもらってよかったですわ」 男爵夫人はふくよかな頬に手を当てる。 「近頃おかしなことが多くて。主人はあの調子で、わたくしの心配をまともに聞いてくれませんし」 「……あの。男爵様の書斎が荒らされていたとか」 「そうなんですのよ! 使用人の何人か休みで、人が少なかったんですの。 気づいたら夜会の招待状が何通かなくなっていたんですのよ」 「書斎に鍵はかかっていたんですか?」 「ええ、もちろんですわ」 「その日、館にはどなたがいらっしゃったんです?」 レオノルが質問を挟んだ。 「ええと……」 男爵夫人の回答に、リチェルカーレとレオノルはそっと視線を交わした。 リトル・フェイカーとシュリ・スチュアートは、男爵令嬢フィオレの部屋の前にいた。 ノックに反応はない。 「いないのかしら」 「気配はしてるぜ? 居留守じゃねーの」 物憂げにつぶやくシュリに答えたのは、フェイカーのパートナーのパンプティ・ブラッディだ。 パンプティは頭の後ろで手を組んで言った。 「お嬢様ねえ……事件に関係あんのか?」 「さあ。――フィオレさん、僕たちはあなたを護衛する浄化師です。挨拶させてくれませんか」 やがて部屋の中で、何かが動く音がした。 そしてしばしの沈黙。 「わ、わたしは浄化師なんかに用はないわ。体調が悪いの、出直してらして」 あどけなさの残る声だ。3人は顔を見合わせる。 「どうするよ」 「ドアを破るわけにもいきませんよね……」 「仕方ないわ。後にしましょう」 「フィオレさんが心配だわ。危険が迫っているかもしれないのに、望まない結婚相手を探させられるなんて」 シュリが言う。 「もう15歳でしょう。恋だってしたいわよね……」 瞳を伏せるシュリ。フェイカーは何度か瞬きしてから、にこりと笑った。 「シュリさんは優しい人ですね」 「そうかしら? あなたもフィオレさんが気になって、護衛を買って出たのでしょう?」 「――はい。でも、だからこそ、僕は……」 その先は言葉にならない。シュリも敢えて問おうとはしなかった。パンプティが唇を尖らせる。 「ンだよ、2人して奥歯に物が挟まったみてえな言い方してさ。 夜会を張って、襲って来た奴ブッ倒して吐かせりゃ事情なんか全部わかんだろ?」 「……僕、パンプティさんが羨ましくなるときがあります」 フェイカーが苦笑し、シュリも頬にかすかな笑みを浮かべた。 リチェルカーレのパートナー、シリウス・セイアッドは館の見取り図を作っていた。 部屋をひとつずつ覗いては、大まかな広さと用途をメモ帳に書き込んでいく。 (リチェは大丈夫だろうか) 殺人事件と聞いて青くなっていたリチェルカーレのことが頭をよぎり、つとめて目の前の作業に集中し直す。 (守るには向かない建物だな) 銀波館の窓はどれも大きく、庭へ侵入できれば簡単に破れてしまう。廊下も広く奥へ到達するのも難しくない。 夜会の行われる大広間は1階の玄関ホールから左手、廊下の突き当りにある。 広間へシリウスが入っていくと、使用人たちの合間にアリシアとシエラの姿があった。 「わー、可愛い!」 回転すればボリュームたっぷりのスカートが広がる。 ロングドレスの制服にエプロン、レースのカチューシャまで借りて、シエラはメイドになりきっていた。 「えへへ、実はずっとやってみたかったんですよねぇ~」 ディルクがいないため気が抜けているのだろう、スカートをつまみあげてシエラは嬉しそうに笑う。 「浄化師さんってもっとお硬いと思ってたから、なんだか意外」 銀波館のメイドたちからも笑みがこぼれた。 そこでアリシアは、空気が軟化した頃合いを見計らって尋ねる。 「皆さんに、少しお聞きしたいのですけれど……」 アリシアが尋ねたのは、死んだ馬丁についてだった。 メイドたちの話では馬丁は中年の男で、この街の出身、勤務態度は真面目。 死亡直前も、変わった行動などはなかったという。 目立った話といえば――、 「フィオレお嬢様がなついていたんですよね。ときどき、特別なお使いを頼んだりして」 「特別なお使い……ですか……?」 「お前たち、無駄口叩いてるんじゃない」 年かさの下男が言い、メイドたちが口を閉ざす。 不機嫌に窓を拭く下男に声を掛けたのはクリストフだ。 「夜会の準備も大変ですね」 「そう思うなら邪魔しないでくれ」 こちらを向こうとすらしない。取り繕っても意味のなさそうな相手だ。 単刀直入に訊くことにする。 「亡くなった馬丁さんは、こちらに長かったんですか?」 「……10年ほどにもなるか。男爵様がここに住み始めて以来だ。俺とも、長い付き合いだった」 「そうですか……ところで、どうしてご本人だとわかったんです?」 下男はようやくクリストフに目を向けた。何を馬鹿なことを、とでも言いたげである。 「あいつは二の腕に、小さい頃やった火傷の痕があった。見間違いようがねえよ」 「なかなか力があるじゃないか。次はこの大テーブルを運んでくれ」 「任せろ!」 シュリのパートナー、ロウハ・カデッサは、夜会の準備を手伝っていた。 貴族の夜会ともなれば人手はいくらあっても足りない。気さくなロウハは使用人たちにすぐ馴染んだ。 しかし彼にも思惑がある。ロウハは時折、鋭い視線を使用人たちへ投げかけていた。 (犯人か、回し者か。わからねえけど、きっといるはずだ) ロウハもまた、内通者の存在を疑っていたのだった。 一方ヨナは銀食器を磨きながら、メイドたちの会話に耳を傾けていた。 「こんなことになって、お嬢様も怖がってらっしゃるわよね。夜会どころじゃないでしょ」 「そうね。お気に入りの使用人は次々いなくなるし……」 ひとりは馬丁のことだろう。 (次々と、とはどういうことでしょう?) メイドたちは声をひそめる。 「それに、あれでしょ。港の男の子が……」 「シッ! だめよ、それを聞かれたら旦那様に殺されちゃうわ」 (港……?) ヨナはメイドたちの話をもっとよく聞くため、さり気なくにじりよった。 銀波館の番兵は、普段門の脇の番兵小屋に詰めている。 その番兵小屋の窓から、黒豹が――いや黒豹の頭をした獣人が覗き込んだ。ベルトルドである。 「ご苦労様。少し休憩でもしないか?」 ベルトルドが館から運んできたのは水筒と茶菓子。 番兵たちもベルトルドが素性を明かすと安心したようで、質問にも素直に答えてくれた。 「2人一組で朝と晩の交代制だ。夜は2時間に一度、敷地内を見回りしてる」 「事件のあった日は?」 「いつも通りだよ。最後の見回りのときには、死体はなかったんだがな……」 朝の交代直後に館の方で騒ぎが起き、死体発見に至ったそうだ。 「こんな事件がなきゃ、待遇の良さそうな職場だな」 ベルトルドがそう振ると、番兵たちは顔を見合わせた。 「……まあな。男爵様は気難しいが、気前は悪くない」 「なるほど」 しばらく世間話をして、ベルトルドは番兵小屋を辞した。 ショーンは街の自警団詰所を訪れていた。 「死体はもうありませんよ、この気温なんでねぇ。記録を見ますか?」 記録といっても厳密ではない。それでも死体発見時の様子は一応わかった。 ショーンは紙束をめくる。 (体つきと腕の火傷か。本人の可能性は低くはない) 本当に死体は銀波館の馬丁だったのか、それを疑った浄化師は多かった。しかし死体が別人という証拠は出てこない。 (首を落とすのは大ごとだ。サクリファイスだとすれば手練の魔術師がいる……?) ショーンは案内してくれた自警団員に尋ねる。 「脅迫状らしきものは、ずっと死体の手にあったのか?」 「そうだと思いますがね」 青い右目をわずかにすがめて。 「サクリファイスと思われる脅迫状が出てきたのに、薔薇十字教団に即座に通報しなかったのはなぜだ?」 「そりゃ、男爵様にこれ以上騒ぐなと言われたからですよ。 ……勘弁してくださいよ、我々はただの街の有志です。貴族に逆らえるもんですか」 もっともな主張だった。 「わかった、失礼なことを言ってすまなかった。男爵閣下はいつもそんな調子なのか?」 「街の人間に手出ししないだけいい貴族様ですが、住む世界が違いますからね。この間も……」 ショーンはひとしきり自警団の愚痴を聞く羽目になった。情報料と思えば安いものだろう。 レオノルへどう報告するか考えながら詰所を後にする。 (男爵は事件をもみ消したかったのか……?) 道すがらに見上げると、海に沈む夕日が銀波館の優雅な姿を照らしていた。 ディルクは街の酒場にいた。 日が暮れると、店内に賑わいが満ち始める。ディルクは酒場の主人と話し込んでいる集団に声をかけた。 「――銀波館の前の持ち主?」 「ああ。誰か知らないか?」 ディルクの質問に男たちは首を傾げた。答えたのは主人である。 「別の貴族様だよ。長く使っていなかったのをアスコリ男爵様が譲り受けたんだ」 「そうか」 (外れか?) 館の過去の持ち主にサクリファイスの関係者がいたのではとディルクは踏んでいたが、どうも違いそうである。 「あんた、銀波館に興味があるのか?」 「興味……まあ、そうだな」 すると住民たちは意味ありげな笑みを浮かべた。 「男爵様にも悩みが絶えないようだしな」 「明日は例の夜会だろう? お嬢様の婿探しをするとかなんとか」 「フィオレお嬢様か。知らないのは両親ばかりだな」 よそ者を揶揄するように客たちは笑う。 次の瞬間、その一人の手首が勢いよくテーブルに押し付けられた。 「――何を知っている?」 ディルクは相手を隈の浮いた目で睨む。 「なっ、何なんだあんた」 「隠す気ならやめておけ。俺は、どんな手を使っても聞き出すぞ」 ● 銀波館が闇に沈む。浄化師たちも館の豪勢な食事を供され、客間で眠っていた。 2階、廊下。ドアがそっと開き、小柄な影が足音をひそめて駆ける。 影は階段を降り玄関ホールを抜けて、館の外へ出た。前庭を横切り、灯りの漏れる番兵小屋へと――。 「ようお嬢さん。こんな時間にどこへ行くんだい?」 「!」 光の中に寝間着姿の少女が立ちすくむ。 「そんなにビビんなよ。正義の味方、浄化師様だぜ?」 額に角のある長身の女性――パンプティが、覆いを外したランタンを掲げてきししと笑う。 「フィオレさんですね?」 フェイカーが一歩進み出た。 気圧されるように少女が後ずさる。 15歳という年齢よりは少し幼く見える。ブロンドの可愛らしい少女だ。 男爵の娘フィオレ。昼間は姿を見せなかった彼女が夜中に何をしているのか。 フィオレはつんと顎を上げて言った。 「何か御用かしら? わたしは夜風に当たりに出ただけよ。放って置いてくださらない?」 「そうはいきません。僕たちは護衛ですから」 「守ってくれって言われてんのに、勝手にフラフラされると困んだよ」 パンプティは素人目にもわかる気迫を全身から放っている。少女は身震いした。 「わ、わかったわよ。部屋に戻ればいいんでしょう」 「わかってもらえて嬉しいです。それと、手に持ったものを見せてください」 「……!」 フィオレは唐突に背を向けると、ぱっと駆け出した。 「やめて、放して!」 細い手首をパンプティが掴んでいる。もみ合ううちに小さな瓶がこぼれ落ち、芝生の上を転がった。 「……フィオレさん。僕たちはあなたを助けたいんです」 フェイカーが小瓶を拾い上げ、目の高さに掲げる。 液体を満たした瓶が、ランタンの灯りを映してゆらめく。 「教えてくれますね? あなたがしたこと、しようとしていたことを」 ● シャンデリアの下で賓客たちが笑いさざめく。 銀波館恒例の夜会。しかしアスコリ男爵夫妻の隣に、一人娘フィオレの姿はない。 薔薇色のドレスをまとったシュリは、賓客たちを壁際から見つめていた。 銀波館の使用人たちと揃いの燕尾服を着たロウハが、盆を片手にシュリに近づく。 「結構似合うな。さすがお嬢、サマになってるじゃねーか」 しかしシュリの顔は晴れない。 「フィオレさん、これからどうなるのかしら」 「……さあな」 「わたし、フィオレさんに同情していたわ」 「……そうか」 向けるべき言葉が見つからず、ロウハはシュリの腕にそっと触れた。 少し前。 盗んだ招待状で侵入を試みたサクリファイスの馬車は、浄化師たちによって捕縛された。 最初に気づいたのは、門の前で番兵と共に客をチェックしていたベルトルド。 「失礼、馬車の紋章をよく見せてもらえませんかね?」 逃げようとした馬車の車輪をディルクの銃が砕き、ジークリートとフェリックスが追いついて踏み込む。 「話が違う! どうして番兵がいるんだ!」 「それは……番兵さんたちが、薬を盛られずにすんだからです……」 信者にボウガンを突きつけながら、ジークリートが言った。 大広間では今日のために呼ばれた楽団が演奏の準備をしていた。 「楽団の皆さん、差し入れです」 ヨナがお茶を配り楽団員の中を巡る。メイドの身のこなしが板についてきたようだ。 そのヨナの青い瞳が、きらりと光った。 「そちらの方、楽器ケースの中を見せていただいてもいいですか」 「っ、触らないでくれ!」 ヨナを振り払った楽団員の手元から光が漏れる。 しかし魔術が成立する前にアリシアとクリストフが楽団員を取り押さえた。 「確かに楽団員なら、魔術道具を隠せる荷物も怪しまれないよね」 「先にフィオレさんから話を聞いておいて……良かったですね……」 早めに来た賓客の何人かがこちらを怪訝そうに見たが、パンプティが「すみません、演出の練習なんです」と笑顔を向ける。 「……シリウス。いつまでこうしてるの?」 信者が連れて行かれるまでの間、シリウスはリチェルカーレを背に庇い神経を逆立てていた。 「大丈夫よ、私だって自分の身くらい守れる。ねえ、私たち、警備のために来たのよ?」 「……わかってる」 リチェルカーレが困った声で言い、シリウスはようやく力を抜いた。 ● 深夜。 人目を避けるようにして一台の馬車が銀波館を離れた。 男爵令嬢フィオレ・アスコリを、薔薇十字教団本部へ連行する馬車だ。 フィオレが語ったところによると、事の起こりは2ヶ月ほど前のこと。 彼女が港で働く青年と親しくなろうとして袖にされたことを街の住人は知っていた。ディルクが酒場で訊いた話である。 傷心のフィオレを慰めたのは同い年のメイド。その勧めでサクリファイスに接触したという。 件のメイドは3日前に銀波館から姿を消した。 『では、馬丁さんが……殺されたのは……?』 ジークリートが尋ねるとフィオレは大声で泣き出した。彼女は門を開けただけだったそうだ。 「誰でもよかったのでしょうか」 「たぶんね。だけど、それがお嬢様をサクリファイスの会合に送っていった馬丁というのは作為を感じなくもない」 ショーンに答えてレオノルは自分の顎を撫でた。 「すると、首の行方は」 「海かな。力を誇示する以上の意味はなかったんだと思う」 ふむ、とレオノルは首をひねる。 「お嬢様の言っていた、信者のリーダー。結局、姿を見せなかったねえ」 浄化師たちの調査と警備を警戒したのだろうが、気がかりは残る。 フィオレを乗せた馬車が角を曲がり、視界から消える。 「サクリファイス……生きることが罪なら、入信した瞬間に自害して教えを全うして欲しいものです」 ヨナが不愉快そうな態度で言った。 短い夏の夜はもう明けようとしていた。 潮騒が聞こえる。 白み始めた空を背にした銀波館は優美で、憂いなど知らぬげであった。
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*** 活躍者 *** |
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[32] シュリ・スチュアート 2018/06/08-00:07
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[31] ヨナ・ミューエ 2018/06/07-23:52
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[30] リトル・フェイカー 2018/06/07-22:58 | ||
[29] ヨナ・ミューエ 2018/06/07-22:20 | ||
[28] リチェルカーレ・リモージュ 2018/06/07-21:20 | ||
[27] クリストフ・フォンシラー 2018/06/07-21:19 | ||
[26] レオノル・ペリエ 2018/06/07-20:20
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[25] シュリ・スチュアート 2018/06/07-15:59 | ||
[24] リトル・フェイカー 2018/06/07-09:25 | ||
[23] ベルトルド・レーヴェ 2018/06/07-04:08
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[22] リチェルカーレ・リモージュ 2018/06/06-22:54 | ||
[21] リチェルカーレ・リモージュ 2018/06/06-22:49
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[20] ヨナ・ミューエ 2018/06/06-03:21 | ||
[19] クリストフ・フォンシラー 2018/06/05-22:38 | ||
[18] ジークリート・ノーリッシュ 2018/06/05-18:42
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[17] リトル・フェイカー 2018/06/05-07:38 | ||
[16] レオノル・ペリエ 2018/06/04-22:46 | ||
[15] リチェルカーレ・リモージュ 2018/06/04-22:34
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[14] リチェルカーレ・リモージュ 2018/06/04-22:09 | ||
[13] クリストフ・フォンシラー 2018/06/04-21:58 | ||
[12] シエラ・エステス 2018/06/04-20:22
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[11] ヨナ・ミューエ 2018/06/04-19:41 | ||
[10] シエラ・エステス 2018/06/04-19:26
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[9] リトル・フェイカー 2018/06/03-22:04 | ||
[8] レオノル・ペリエ 2018/06/03-20:07 | ||
[7] シュリ・スチュアート 2018/06/03-19:58 | ||
[6] ヨナ・ミューエ 2018/06/03-18:34 | ||
[5] リチェルカーレ・リモージュ 2018/06/03-17:48
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[4] ジークリート・ノーリッシュ 2018/06/03-13:10
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[3] リトル・フェイカー 2018/06/03-12:56
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[2] クリストフ・フォンシラー 2018/06/03-12:07 |