もしも、君じゃなかったら
とても簡単 | すべて
8/8名
もしも、君じゃなかったら 情報
担当 shui GM
タイプ ショート
ジャンル 日常
条件 すべて
難易度 とても簡単
報酬 なし
相談期間 4 日
公開日 2018-07-05 00:00:00
出発日 2018-07-12 00:00:00
帰還日 2018-07-23



~ プロローグ ~

 可憐な星々が、夜空に踊る。
 街は七夕で賑わっていた。
 出歩けば家族からカップル、あるいはそんな仲を羨む人まで。様々な人がこのイベントを楽しんでいる。

 七夕。ズラミスとサラミという仲睦まじい夫婦が亡くなって尚巡り合う為に、星屑を集めた物語。星で出来た橋によって、2人は再び出会い、結ばれるのだ。
 その文化に、ニホンから笹と竹に短冊を飾る催しが入ってきたことにより、現在のスタイルが確立したといわれている。

 ある公園では、七夕に合わせて願い事を書いた短冊を笹に飾る催しが行われていた。
 参加はもちろん無料で、後日、笹を飾りごと川へ流すのだと言う。
 屋台なども出ており、星にちなんだお菓子や料理が振舞われていた。
 楽しい時間に、大勢の人の顔がほころぶ。
 しかし、雑多な人並みの中に、浮かない顔をした少女の姿がまぎれていた。
「一緒に七夕のお祭り来ようって言うたやん……」
 涼しい夜風に、彼女の髪がなびく。寂しげに呟く少女は、どうも彼氏に約束をすっぽかされたらしい。
 折角お洒落してきた洋服も、頑張って結った髪も、彼がいないとなれば台無しに思えた。
 いや、もしかしたら、約束を守らなかったのは今回だけではないのかもしれない。
 悔しくて、寂しい。彼女の表情によく現われていた。

 これなら友人と出かければよかったか。
 いや、それともまた別の人と……?

 じゅわり、と浮かぶ涙を拭うと、七夕用の短冊を配る列に加わる。
 短冊を貰うと。彼女はとても悔しそうに、そして自棄を起したように短冊へ文字を書きなぐった。

『今のパートナーと違う人と結ばれたら、どうなるか知りたい』

 名前を書き忘れた短冊を、彼女は笹の最上部近くへと何とか結びつける。
 そして念押しするように両手を合わせお願いすると、少女は屋台の方へと消えていった。
 その夜、彼女は違う恋人とデートする夢を見るのだが――――。

 残念な事に。
 その願い事に巻き込まれた人たちがいた。
 君達、浄化師だ。
 七夕の笹が飾られた公園を訪れたのが切欠で、何の因果か、あるいは偶然か、その夜に奇妙な夢を見てしまう。
「申し訳ありませんが、貴方より適性のあるパートナーが見つかりました」
 と、唐突に告げられるパートナーの交代。それも強制的に。
 其れは勿論、実際にはありえない話だ。
 けれどもこれは夢。
 君はパートナーと引き離されてしまう夢を見るわけだが……。

 普段と違う人の隣を歩いて、何を思うだろう。
 そして本来のパートナーは、それを見て何を思うのだろう。
 一体、2人はどうなってしまうのだろうか。
 全ては星のみぞ知る。


~ 解説 ~

 ソレイユ地区のある公園を訪れた事を切欠に、奇妙な夢を見ます。
 公園を訪れた理由は、帰り道でも、個人的にお祭りを楽しみにでもご自由に。
 公園に来た理由が特になくとも構いません。

●夢について
 夜に夢を見ます。
 夢の内容は「もし、別のパートナーと組む事になったら?」というもの。
 現在のパートナーと違う人と組む事になったら……果たして嬉しいですか?それとも寂しい?
 本来は契約上、(特殊な事情を除いて)現在のパートナー以外と契約を結ぶ・パートナーと契約を破棄するというのは出来ないことです。
 あくまで『もしもの物語』としてお考えください。

 夢を見るのは祓魔人でも、喰人でも。又は両方でも大丈夫です。
 両方の場合は、二人で同じ夢をみた事になります。

 内容に指定がなければ、夢の中で七夕デートとして公園を訪れるような内容となります。
 新しいパートナーと一緒に戦いへ、など書いてほしい物があればプランへお書き添えください。

 夢から醒めた後、パートナーと会う、夢について話すなども可能です。


●公園の七夕行事
 公園では翌日も七夕イベントを行っております。

 公園の中央には噴水とベンチがあり、その傍には短冊を飾れる大きな笹が用意されています。
 短冊は願い事を書いて飾ることができます。願い事と共に名前も書くのがこの公園では普通のようです。
 公園の周囲を取囲むように、屋台など飲食店が並んでいます。


●その他
 個別描写です。浄化師ごとに書かせていただきます。
 イメージとしては、自分のパートナーと離れたことにより、良い所などを再発見するきっかけになればいいな、といった感じです。

 なお、プロローグの少女は、夢を見た後で彼と仲直りすることとなりました。(リザルトには出てきません)


~ ゲームマスターより ~

 はじめまして。このたびお世話となります、shui(スィ)と申します。
 折角ですから季節の行事に、と。風変わりなシナリオを出させていただきました。ちょっと遅かったですが……!
 まだ右も左もわかりませんが、少しでも皆さんが仲良くなるきっかけを作れたらよいなと思います。

 もしやって欲しいこと、欲しくないこと、心情(キャラクターの本音)などございましたら是非プランにお書きください。
 これからよろしくお願いいたします。





◇◆◇ アクションプラン ◇◆◇

杜郷・唯月 泉世・瞬
女性 / 人間 / 占星術師 男性 / アンデッド / 狂信者
◆二人で夢を見る

◆唯月の場合
・パートナー変更に驚きつつも心当たりはあった
唯「え?パートナー…へん…こう?」
(…パートナー変更はあり得ない話だと
契約をした時に聞いていたような気がするけど
…でも何となく心当たりはあった

瞬さんの様子が…
わたしと過ごすうちに段々変わっているから…
やはり…わたしのせい、だったと言う事…です、よね…)

◆無理やり納得して新しいパートナーに会う
・相手はライカンスロープの男性
・性格は瞬とは正反対の俺様でツン
・唯月はそのパートナーを恐れ、瞬を思う
唯「あ、あの…杜郷・唯月…です…」
「ひっ…は、はい…ごめんなさい…っ!」
(…瞬さん…瞬さん…あなたは今どんな方と一緒に…居ます、か…?)
ユン・グラニト フィノ・ドンゾイロ
女性 / エレメンツ / 陰陽師 男性 / 人間 / 断罪者
●夢の中
・視点
フィノ

・新しい祓魔人と会話
そんなに寂しそうに見えますか
ユンについて?いいですよ

…笑顔が下手で人付き合いが苦手で臆病で
それでも頑張って前向いて
時には誰かの為に無茶するから
目が離せない子です

ですね
ずっと一緒でしたから
俺こそ、ユンと一緒でなきゃ駄目なのかも

(二人で再契約を要請しに行く
フィノはプライドを捨て懇願
でも駄目で
帰りに同じ目的のユンらとすれ違うも気付かず)

(その後ユンと教団を抜ける決意
追われる身になる事を考え自分が全ての責任を負う覚悟で)

行かせて貰えますか
(背中押され)
有難う、有難う…

・ユンの元へ
ユン、俺と一緒に来て
教団を抜けよう
キミがよければ…俺の手を

●フィノの口調
本プラン参照
テオドア・バークリー ハルト・ワーグナー
男性 / 人間 / 断罪者 男性 / 人間 / 悪魔祓い
夜中、ハルの部屋から凄い音がしたから心配になって様子を見に行こうとした。
…まさか向こうから来るとは。
しかも空けた途端抱きつかれて転倒するなんて完全に予想外だ。
頭は打たなかったけど、流石に背中が痛い。
所謂押し倒されてる状態ってやつだ。
倒れた時に一瞬意識飛んだぞ…

このままじゃ起きられない…ハル、ちょっとどいてくれ。
…微動だにしない、余程のことでもあったんだろうか。
背中が痛いこと以外に支障はないし、暫くはこのままでもいいか。

で、どうしたんだハル。
夢?
どんな…いや、やめておこう。

大丈夫だ。
ハルが一体何を怖がっているのか俺には分からない。
けれど落ち着くまで一緒にいてやることなら出来る。
だから心配するな。
エフド・ジャーファル ラファエラ・デル・セニオ
男性 / 人間 / 墓守 女性 / ヴァンピール / 悪魔祓い
・夢を見るのは喰人

何年振りかに一人で祭りに来てみたけど、目を引かれるようなことが何もないわ。
一人だから?疲れてる?それとも、こういうのを本気で楽しんでた事なんて一度もなかった?

そういう徒労感だか喪失感であんな夢を見たのかしら。
フレンドリーで年の近い好青年と祭りに来てるの。私を楽しませようとあれこれしてくれる。私は気が利かなくて淡白なおじさんと違うパートナーが欲しいの?

でも正直、彼のアクションについていけないわ。結局私、他人に何かしてほしいわけじゃないのかしら。何かだんだん、下心があるんじゃないかって気がしてきたし。
だから一人で帰ったの。

今は仕事だけで手一杯よ。人間関係は淡白なぐらいでいいわ。
藤森・卓也 アースィム・マウドゥード
男性 / ライカンスロープ / 墓守 男性 / アンデッド / 人形遣い
夢を見るのは喰人。内容はウィッシュプランの通り。
夢を見る前、公園には任務からの帰り道で通りかかった。

目が覚めたら安心して溜息を零すが喰人はそれを安堵と認めず、
吞気に鼻歌歌いながら朝食を作っている祓魔人に対する苛立ちだと己を誤魔化す。
取りあえず無防備な背中を一発ひっぱたきに行く為に、ベッドから起き上がる。
黒憑・燃 清十寺・東
男性 / ヴァンピール / 狂信者 男性 / 人間 / 墓守
■夢

黒憑だけが見る

■内容

自分のパートナーが変更になる(新しいパートナー:女性)

■状況

無理矢理契約、命令で戦場へ向かうことに。

■行動

連携など取れるはずもなく、一気に劣勢になってしまう
パートナーの護られる前提の行動にイライラ、東ならこんな時どうするか妄想。
何もかもが心底どうでも良くなって「助けて」と訴えるパートナーを
無視し、最期まで妄想の世界に浸りながら敵に倒される

こんな時、先生なら俺のために血を流して戦ってくれた!
俺を守り、「死ぬな」と励ましてくれただろう。

■行動2

夜のうちにこっそり寮内の東の部屋を訪れ、夢のことを話す。
アズマならあの状況でどのような行動を取ってたのか、気になって
聞いてしまう。
ナハト・フリューリング ギー・ヒンメル
男性 / 人間 / 断罪者 男性 / 人間 / 拷問官
2人で夢をみる
パートナーを交代するのは、ギー

ギー君にもっと適性のあるパートナーが現れた
僕以上に彼に相応しい相手はいないはずなのに
僕はパートナーはいないらしい。廃業、かな…

祭りがあるというので、ギー君を誘ったらきてくれたかなと一人で行く
(ガゼポ。そういえばギー君が好きだって言ってたな)

一人で遠くから聞こえる声に耳を澄ましていると
ギー君が立っていた
(ああ、相変わらず)
嬉しい
誰と来てるか問われたので、嘘をつく
見栄をはった

先に立ち去るギー君が殴りかかってきた
受け止めると、じっと見つめられた

夢から覚める
おはようの前にギー君に殴りかかられた
「まるで夢をみているようだ」
にやりと笑うギー君に目を惹かれる
アルフレート・バーンスタイン ルピア・フェルニオン
男性 / ヴァンピール / 断罪者 女性 / エレメンツ / 占星術師
*夢から覚めたあと

…どうにも夢見が悪い。
不快感の原因を突き止めるために思ったことを書き出そうとするが上手くいかない。

思い出すのは夢で見たルピアの笑顔。
新しく決められたパートナー、とやらに向けられた。

望まぬ戦いに巻き込んでしまった以上、幸せを手にしてほしいと、笑ってくれればそれでいいと、思っていたはずなのに。


…ルピア? 
手に持っているそれは…そうか、メモが風で飛んでしまっていたのか。
私の不注意だ、すまない。

メモの内容が気になる?
あぁ、よく見れば単語の羅列ばかりだ。
らしくない、か。

それなら、らしくないついでに少し話をしようか。
長くなるかもしれないから、茶も用意しよう。

…私達の、関係について。


~ リザルトノベル ~

●気づく想い
 それは夢の中での出来事。
「より適正のあるパートナーが見つかりました」
 と、唐突に告げられた、杜郷・唯月(もりさと・いづき)と泉世・瞬(みなせ・まどか)は驚きを隠せずにいた。
「え? パートナーの……へん……こう?」
 唯月の瞳が揺れる。隣で瞬は慌てて口を開いた。
「そんな、おかしいよ」
 パートナーの交代はありえないと契約時に説明を受けていたからだ。
 最初の説明と違う……何か制度が変わった? と、瞬に疑問が駆け巡る。
 しかし目の前にいる教団員は、当たり前のように二人に告げたのだ。
「今のパートナーよりも、より適性のある人と組んで頂いた方が教団としても効率がよいのです。お解りいただけますね」
 既に各自の新しいパートナーが控えておりますので、と教団員が唯月を連れて行こうとする。
 すぐさま間に入る瞬。
「俺は納得できないよ。いづは俺が守るから、それでいいでしょ? いづは俺が守ってあげなきゃ」
 普段の余裕は消え、早口で説得をしだす。瞬が唯月を振り返れば、彼女は一歩後ずさった。
「いづだって、そう思うよね?」
「……」
「いづ?」
 唯月は答えない。変更には心当たりがあったから。
 戦いの中で、次第に瞬の様子が変化している事に気づいていたのだ。
(やはり……わたしのせい、だったと言う事……です、よね)
 自分が頼りないが故に、瞬が狂気に染まっていく。そう感じていた唯月にとって、傍に居たいと言い出すことが出来ない。
 教団員に同意を聞かれ、震えた声で「わかりました」と呟いた唯月が、別室へ引き連れられて行く。
「え、どうして……?」
 何故いづは受け入れてるの? と、問いたい背中が、遠のいていく姿に唖然とした。
 別の教団員に手を引かれ、無理やり引っ張られていく瞬。
(もしかして、俺と組むの……そんなに嫌だった? ……もし、そうだったなら)
 どれだけ悲しい事だろう。親しくなれたと思っていたのに。
 互いに寂しさを抱えながらも、瞬だけが、何度も唯月を振り返った。

 新しいパートナーと唯月は公園を訪れる。
 瞬とは違う、ライカンスロープの強気な男性に、唯月は戸惑っていた。
「あ、あの……杜郷唯月……です……」
 勇気を出した自己紹介も、声が小さいと怒鳴りがちに言われて。
「ひっ……は、はい……ごめんなさい……っ!」
 恐縮してしまう。瞬と一緒だった頃は、こんな事はなかったのに。
 怖い背中を見つめながら、唯月は懐かしい人の名前を心の中で何度も呼んだ。
(瞬さん……あなたは今どんな方と一緒に……居ます、か?)

 瞬も同じくして公園を訪れていたが、その表情は冴えなかった。
 隣でパートナーとなったエレメンツの女性が、瞬に話しかける。
 上品で明るく、唯月とは正反対の彼女。瞬を思っての気遣いなのだろうが、今はそれが居心地悪く感じた。
 唯月の寂しげな顔が頭から離れない。
「やっぱり……もう一度話がしたい」
 このままでは、いけないんだ。
 そう強く自覚した瞬間――瞬は夢から醒めていた。
 深呼吸して、拳を強く握り締める。
 ……いづ、俺は如何したら傍に居れる?


●丁度良い距離
 ラファエラ・デル・セニオは、エフド・ジャーファルと分かれて、七夕で賑わう公園を訪れていた。
 石畳の上を子供たちがはしゃぎ回り、お店からは明るい声が聞こえてくる。揺れる短冊に、笑う人々。夕焼けの中、周囲は賑わいを見せていた。
 しかし、彼女の心にその光景は響かなかった。一人吐き出したのは、憂鬱なため息。
(何年振りかに一人で祭りに来てみたけど、目を引かれるようなことが何もないわ)
 一人で来たせいか?
 いや、それとも。
(こういうのを本気で楽しんでた事なんて、一度もなかった?)
 思い起こそうとしてみるものの、心当たりがない。
 だめだ、疲れているわ。そう結論付けたラファエラが公園を後にする。
 風変わりな夢を見たのは、その夜のことだった。

 夕方に来た公園を、なぜか見知らぬ青年と2人で歩いてる。
 話を聞けば。
「貴方の新しいパートナーになりました」
 と、青年は笑って見せた。
「おじさんの代わり?」
「ええ。僕のほうが適正が高くて」
「ふぅん」
 そっけないラファエラの返事にも、青年は表情を崩さない。
「ラファエラさんはお祭りは初めてですか?」
 エスコートいたします、と語る青年に流されるがまま、歩き出すラファエラ。
 ふっと頭の片隅で考える。
(これ、多分夢よね? ……私は気が利かなくて淡白なおじさんと違うパートナーが欲しいの?)
 エルドの顔を思い出す。
 もし彼なら、こんな展開にはならなかったかもしれない。
 少しは楽しめるだろうか?

 けれど、結論は違った。
 青年は彼女を喜ばせようと様々なことを語ってくれた。
 しかし。君はどう? と何度も言葉を求めてくる。語ることのないラファエラにとっては憂鬱な言葉だ。
 返事をする代わりに、スリが居ないか周囲を見渡しだすラファエラ。
 男が食事を奢ると言い出したときも、店員がお釣りをごまかすのを見つけてしまう。ろくに御礼もせぬまま店員を捕まえ……そうこうしているうちに、彼女は自分の疑問に気づいていく。
(私が求めているのは、違う気がする)
 素敵な笑顔も、優しい言葉も、自分が欲しいものではない。
(結局私、他人に何かしてほしいわけじゃないのかしら?)
 それでも次は短冊を書こうと誘う青年に、彼女は見切りをつけていた。
 求めてるものは、これじゃない。
「あんた喋りすぎ」
 渡された短冊を、下心の見え隠れする彼に押し付ける。
 仲良くなろうと縋る男に背を向けて、ラファエラは歩き出した。
「今欲しいのは金と実績と、悪党の吠え面よ。つながりじゃないの」

 翌日。教団のカフェを訪れると、エフドがコーヒーを飲んでいた。
 何気なく見ていれば、目線が合う。
「なんだ?」
「別に」
「そうか。……新しい依頼だ。読むか?」」
 会話はそれだけ。互いに踏み込み過ぎない関係に、ラファエラは少し安堵する。
 口を開けば仕事話だが、淡白なくらいで丁度良いのだ。
 改めて思いながら、ラファエラはエルドの隣の席へ落ち着く。欲しかった距離感が、ここにはある。


●君の声をまた
 藤森・卓也とアースィム・マウドゥードにパートナーの交代が告げられたのは突然の事だった。
「え? マジで?」
 困惑する卓也とは違い、アースィムは素直に交代を受け入れた。
 卓也が心配をすれば、煩いとばかりに目を逸らす。
 そもそも、アースィムはパートナーへに拘りを持っていなかった。周囲を見返すだけの戦いが出来ればよいのだ。今よりも良い戦いが出来るとあらば、文句はない。
 それに。
「ほんとにうるさい。ほっとけよっ」
 卓也のお節介から開放される。と、思えば気分は清々しいほどだった。

 新しいパートナーと契約し、順調に時間は過ぎた。
 アースィムの日々は変わらない。強いて言うなら、周囲は静かになっていた。
 今のパートナーは干渉してくる人ではない。
 誰からも口を出される事のない、自由な時間が続く。それは幸せである、はずだった。

 何時からだろうか。
 何かが物足りなく感じるようになったのは。
 人形の手入れをする手が、度々止まる。窓の外からは、祭りの音が聞こえてきていた。
『アースィム、イベントだってよ!』
『知ってるよ。おれは行かない……って何するんだ!』
『連行するに決まってるだろ! アースィムはすぐ逃げようとするからな』
『かつぐな! おろせって!』
『暴れるなっ――って、いてて!』
 嵐のようにやってくる男が、今日に限ってやってこない。
 いや、昨日も、そしてこれからも。
(あいつがいた時は、あんなにうるさかったのに)
 アースィムが遠く空を眺めた。

「何だか、飽きてきちゃったな……」
 何日も続いた冷たい食事。出来合いのスープやパンも、喉を通らなくなっていた。
『一緒に飯食うだろ? 今日は自信作でさ』
『また持ってきたのかよ』
『勿論。残さず食ってもらうからな? ほら口あけろ』
『やめ――むぐぅ?!』
(あいつの手料理は、もっとあったかかった)
 頼んでいないのに、用意されていた暖かい食事は、もう目の前にない。

 戦いにおいてもだ。
 パートナーとの戦いに、大きな支障はない。
 けれど。
『下がれアースィム! 俺が前に出る!』
 あの煩かった声も。
『やったな、俺達の勝ちだぜ』
 あの笑う笑顔も、何処にもなくて。
(あいつが居た時より、怪我が増えた……)
 血のついた制服のまま、拳を握った。
 もう、気のせいだとは思わない。もう一度声を聞きたかった。
「ああ、そうだ。認めよう。おれたはしかに――」
 言葉と共に、夢から、醒める。

 いつもの朝に、アースィムは安堵した。
 同時に安心した自分に気づいて、慌てて赤い顔を振る。
(おれは、別に、あいつなんか)
 きっと今頃、卓也は朝食を作っている事だろう。暢気な姿を想像したら、なんとなく引っ叩きたくなってきた。
 よし、そうしよう。
 八つ当たりを理由に、アースィムはベットを後にする。あの、お節介な相棒に会う為に。


●見つめなおす優しさ
 アルフレート・バーンスタインは教団のカフェで頭を抱えていた。
「……どうにも夢見が悪い」
 原因は昨夜の夢。パートナーであり元婚約者の、ルピア・フェルニオンが別の人と契約するというものだ。
(いや、パートナーが自分ではないことが悪いのではない。そうではなくて)
 いつもの様に頭の中を整理しようと、ペンを走らせる。
 しかし上手くいかず、ペンはメモの上を転がっていった。

 昨夜見た夢の中で、アルフレートは公園を訪れていた。
 急に決まったパートナーの交代。今頃ルピアは何をしているのだろう。
 ひとり考えながら訪れた七夕は、人で賑わっていて。行きかう雑踏の中で遠くルピアの姿を見つけたのは、偶然だった。
 ルピアの隣に立つ、見知らぬ男性。きっと、新しい彼女のパートナー。
 そのパートナーに向けられたルピアの笑顔は、とても幸せそうで。
 見つけた瞬間、アルフレートの、息が止まった。

 その後、夢の中で自分が何をしたかなど、もう覚えていない。
 彼女の笑顔だけが、アルフレートの記憶から焼きついて離れないのだ。
(良かったじゃないか、ルピアが幸せそうで)
 自分に言い聞かせる。
 本当はルピアが、戦いが嫌いなことを、アルフレートは良く知っていた。だが浄化師になった以上、戦いは避けられない。
 ならばせめて、彼女には幸せを手にして欲しいと日ごろから望んでいたのに。
 言いようのない感情が、アルフレートの中で渦巻いていた。
 本当に、あんな幸せでよいのだろうか……。
「アルフ、大丈夫ですか?」
 声に気づいて顔を上げると、心配そうな面持ちのルピアが立っていた。
 よく見れば、彼女の手には先ほどのメモが収まっている。
「ルピア? ……そうか、メモが風で飛んでしまっていたのか。私の不注意だ、すまない」
「いいえ、私が気になって拾ったのです。アレフの文字にしては、らしくないような気がしまして」
 メモに視線を向けると、其処には意味を成さない単語の文字。
 思わずアルフレートも苦笑する。
「らしくない、か。確かに。……ルピア、らしくないついでに、少し話でもしないか?」
「お話ですか?」
 長くなるかもしれないからお茶も用意しよう、という優しい彼にルピアがほんのりと頬を赤くする。
 もしかしたら2人には、言葉が足りないのかもしれない。ルピアがアルフレートの傍に居ることを、どれだけ大切に思っているかをまだ知らないのだから。
 向かい合って座ると、ゆっくり話し出す。2人の時間を大切にするように。
 今までの関係についてと、これからの、関係についてを。


●求めていた強さ
 夢の中で、ナハト・フリューリングは1人、公園で空を仰いだ。
 パートナーであったギー・ヒンメルに、新しく別の相棒が出来たと連絡を受けたのは先ほどの事。
「僕以上に彼に相応しい相手はいないはずなのになぁ……」
 残されたナハトに、パートナーは居ない。浄化師ですらなくなった彼は2重の意味で孤独だった。
 気を紛らわすように訪れた七夕祭り。ギーを誘ったら来てくれただろうか……と考えてはへこんでしまう。
 人の波に流されながら、偶然ガゼボを見つけると、ナハトは自然と足を向けた。

 ガゼボは屋根のついた休憩所だ。洋風の吹き抜けの建物の中に長イスがある。
 祭りの中心である公園から離れていることもあり、他に人は居なかった。
(ギー君が好きだって言ってたな)
 彼を思い出すほどに、疲れてしまう。イスに腰掛けて帽子を被りなおすと、暫く休もうと目を伏せた。
 どれだけ行きかう人の声を聞いていただろうか。
 人の気配に目を開けると、隣にギーが座っていた。
「久しぶりだね」
 と声をかける。不器用な返事が返ってきて笑ってしまった。
(ああ、相変わらず)
 いつもと同じ、君がいる。それだけで少し満たされる。けど。
「ギー君も来ていたんだね。驚いたよ」
「誘われたからな。新しい相手に」
 チクリ。ギーの言葉が胸に刺さる。
 お邪魔したみたいだね、と苦笑するナハト。ギーが近いのに、遠い。

 対するギーは、ナハトを見つけてホッとしていた。
 顔にも声にも出さなかったが、実は新しいパートナーを祭りに置き去りにしてきたのだ。
 適正者の話を聞いた時は、あいつより強い奴がいるのだと期待もあった。が、すぐに落胆へ変わる。
 小さくて、華奢な女性が新しい相棒と紹介されたのだ。
(強くない)
 直感でわかる。戦いを求めるギーにとって、嬉しくない相手だと。
 彼女に誘われるまま来たものの、自分ばかり楽しむ彼女に付き合い切れず分かれたのだ。
(あいつは俺も楽しませてくれた)
 ナハトを思いだせば、丁度彼の姿が見えて。ガゼボに立ち寄ったのだった。

「誰と来てるんだ?」
 ギーが尋ねる。ナハトは顔を背けて嘘をついた。
「新しいパートナーとだよ」
 小さな強がりだ。横目にギーを見れば、眉間に皺がよっている。
 急に居た堪れなくなって、席を立とうとすると呼び止められた。
 振り向きざまに飛んできた、ギーの拳を受け止めるナハト。
 ジッと見つめてくるギーに、暫くの間、目を奪われていた。

 翌朝。デジャブにあっていた。
 2人の出会い頭、挨拶より早く拳が飛んできたのだ。再び難なく受け止めると、目の前にいつものギーが居る。
「まるで夢をみているようだ」
 呟けば、察したように笑うギー。
「やっぱりパートナーは、お前がいい」
 彼の言葉に驚くと、夢の最後を思い出し、ナハトは表情をなごませた。


●届かない銃弾
「は……はは、お前ら冗談も程ほどにしとけよ」
 ハルト・ワーグナーがパートナー解消を言い渡されたのは、戦いから戻ってすぐの事だった。
 テオドア・バークリーの相棒は俺だ。俺だけのはずなんだ。
 訴えるが、教団員も引かない。連行されるテオドアの背を見ながら、ハルトが武器を握り締める。
 小さい時から一緒だった。ずっと一緒のはずだった。
 それが、誰かに、奪われるなんて。
 憎悪にも似た執着が、ハルトへ音もなく忍び寄る。
(なら、新しいパートナーとやらを消せば全てが元通りだな)
 彼の心は、ゆっくりと陰に覆われていく。

 テオドアは新しく組む女性と、祭り会場を訪れていた。
 聞けば彼女も似たような身の上で、打ち解けるのは早かった。
 遠くからハルトは2人を眺める。
「成程、あいつか……」
 2人の笑顔を見るたびに、胸がじりじりと焼きついた。
 ハルトには既に周囲の雑踏も、笑顔も、話し声も聞こえてはいない。
 あの女を仕留めよう。今なら武器もある。
 チャンスはやってきた。テオドアが女性から離れた瞬間だ。
(安心しろ、一瞬だ)
 銃の引き金を引けば終わる。はずが。
「――え? テオ君?」
「何してるんだ? ハル」
 目の前に居たのは、テオドアだった。何故俺が居るとわかったんだ?
「テオ君危ないよ、其処どいて?」
 引きつる笑顔に、震えた声。背中を走る悪寒。今撃てば彼にも当たる。
「ハル、まさかお前」
 こんな時に限って、君が気づくから。知られて欲しくないのに。
「テオ君は騙されてるんだよ」
 俺が守るからこっちおいで? と差し伸べた手は空を切る。
 彼女の元へと駆け出すテオドアに、ハルトが苦痛の声を上げた。
「嫌だ!行かないで!」
 どうして俺をそんな目で見るんだ、どうして他の奴の心配なんて!
 一緒に居たいだけなのに、叫んでも彼の声が聞こえない。
 悪夢の中、深い闇へと堕ちていく。

 深夜、テオドアは物騒な物音で叩き起こされた。ハルトの部屋で家具でも倒したような音がしたからだ。
 慌てて様子を見に行こうと扉を開ければ、血相を変えたハルトに抱きつかれて押し倒されてしまった。
「いってぇ!」
 予想外の展開に、背中を強打するテオドア。何とか上半身を起したが、それ以上はハルトが許してくれない。
「ハル、ちょっとどいて……」
 言いかけて、止める。ハルトの不安げな表情が月明かりに照らし出された。
「どうしたんだ?」
 優しく問いかければ、夢を見た、とハルト。脅えた声に察したように、テオドアはそれ以上は尋ねなかった。
「大丈夫だ。心配するなよ」
 何に脅えているのか、テオドアは知らない。でも落ち着くまで一緒に居ようと思う。
 彼の思いに気づいてか、ハルトはテオドアの胸に深く顔を埋めてみせた。


●すれ違う者
 真夜中の教団寮。清十寺・東の元を訪れた黒憑・燃は、普段と様子が違っていた。
「おう、テメェか。夜這いしに来るたぁ良い度胸だな」
 日ごろの行いからか、燃を警戒する東が扉を開ける。
「先生。先生だったら俺が死に掛けてる時、一体どうする」
 神妙な面持ちで問いかける燃に驚き、東は思わず構えていた大鎌を下ろした。
「なんだい、いきなり来ておかしな奴だね」
(いつもの不気味さは何処に行ったんだ)
 流石に罰が悪そうに、東は燃を部屋へと通す。
 話くらいは聞いてやると言う東に、燃は夢のことを語り始めた。

 夢の中では、燃は女性と浄化師を組んでいた。
 新しいパートナーである彼女は、到底受け入れられる性格ではない。
 断る間も無く無理矢理契約をさせられ、戦場への指令を言い渡された時はウンザリした。
 狼型ベリアルの討伐。東が相手ならすぐに片付いただろう。

「なのにあの女、ふざけたもんだよ。墓守なのにお前が私を守るべきだと言うんだからなぁ」
「それでアンタが前衛かい? 大した女性だね」
 思い出すだけでイライラとし始めた燃を、東が鼻で笑う。
 東を見た燃だったが、言葉を飲み込むと続きを話し始めた。

 燃は決して体力があるほうではない。
 敵を前にあっという間に劣勢となり、血塗れとなった。
 ただでさえ芸術対象でもない相手と居るのに、この様だ。面白いわけがない。
(此処に先生が居たら……)
 戦いは心底どうでも良くなって、燃は戦いを放棄する。
 勝利も、正義も、助けなさいよと泣き叫ぶ女も、俺には関係ないと。
 代わりに脳を駆け巡るのは、ここに東がいたらという妄想。
(こんな時、先生なら俺のために血を流して戦ってくれた)
 地を蹴るベリアル。牙が眼前に迫る。
(俺を守り、死ぬなと励ましてくれただろう――)
 燃は避けない。その体力もない。一人空想に溺れながら夢の中で死んだのだ。

「で、先生ならあの時どうする?」
 答えあわせを強請る様に燃は問う。
「守るに決まってるだろ? アタシは元々そういう役割なんだから」
 当然のように言う東に、燃は満足げな笑みを浮かべる。
 その言葉が欲しかったのだから。だが。
「しかし、面白い夢だね。正夢になってくれると嬉しいんだけど」
 からかう様に言う東に対して、すぐ別の感情が込み上げた。
 泥のようにねっとりとした、黒い感情が。
(相変わらず俺のことは眼中にないらしい)
 相手の女はどうなったのかを尋ねる東に、燃は心を濁らせていく。
 この男をどう振り向かせようか。
 東が淹れてくれたお茶を手に、燃は口端を歪ませて見せた。


●そして、また
 七夕の笹が揺れるのを眺めながら、フィノ・ドンゾイロは公園を訪れていた。
 先日ユン・グラニトと遊びにきた場所だ。だが、彼女の姿は此処にはない。
 変わりにいるのは新しい祓魔人の女性。彼女と契約しなおすよう、言い渡されたからだ。
「寂しげな顔してるわね」
 飲み物をフィノに渡すと彼女は隣に座る。
 公園のベンチには、大勢の人がくつろいでいた。
「そんな風に見えますか」
「ええ。ずっとね」
 言われてフィノは苦笑する。
 前の祓魔人についてを聞かれると、フィノはゆっくりと話し出した。
「ユンは……笑顔が下手で、人付き合いが苦手で臆病で。それでも頑張って前を向く。そんな子です」
 時には誰かの為に無茶をするから、いつもフィノは目が離せなかった。
「妹みたいな感じ?」
「ですね。ずっと一緒でしたから。今も大丈夫かなって」
 言いかければ、女性に『彼女の事を話す時は、笑顔が素敵ね』と笑われる。
 話しているうちに優しい気持ちになっていたことに気づいて、フィノは飲み物に目を向けた。
(俺こそ、ユンと一緒じゃなきゃ駄目なのかも)
 彼の心に、いつもと違う思いが募る。

 公園のあと、1人訪れた薔薇十字教団。
 フィノはユンとの再契約を悲願しに来たのだ。
 勿論、教団が許すわけがない。それでもフィノは、深く深く頭を下げた。
「お願いです。もう一度、ユンと一緒に浄化師をやらせてください」
 それでも駄目なら。彼にはもう1つの考えが浮かんでいた。
 帰り道に、同じ覚悟を決めたユンとすれ違った事に気づかぬまま、決意を固めてゆく。

 夕方。フィノはユンの元を訪れた。
「フィノくん、どうしたの」
 何か準備をしていたらしいユン。フィノは優しく声をかける。
「ユン、俺と一緒に来て。教団を抜けないか?」
「え!? あの、お姉さんは?」
「うん。新しいパートナーは……説得してきた」
 やっぱりユンと一緒が良い。教団を敵に回しても。誠実に告げる彼の目は、不安を秘めながら真直ぐ彼女を見た。
 君さえよければ、手をとって。そう差し出したフィノに、ユンは静かに自らの手を重ねた。 
 涙をいっぱいに溜めた彼女が、私もね、と思いを打ち明ける。
 無償の清掃活動によりボロボロになった互いの手。ユンはフィノの手を大事そうに包む。
 その夜。人知れず2人は教団を抜け出した。
 大切な、君の傍に居る為に。

 夢から醒めると、ユンはプレゼントを手にフィノへ会いに行く。
「ごめんね、いつも、お掃除、手伝わせ、ちゃって」
 差し出したのはハンドクリーム。
 するとフィノも。
「同じものを用意していたんだ」
 とプレゼントを差し出すのを見て、思わず二人が笑いあった。
 昨夜、夢でみたお互いの手を覚えていたのだ。

 2人が手を取り合えたのは、夢の中だったからなのかもしれない。
 もし本物の困難があった時にどうなるかなんて、誰にもわからないからだ。
 それでも、また一緒にいられるのかは――これからの、2人にかかっている。



もしも、君じゃなかったら
(執筆:shui GM)



*** 活躍者 ***

  • ユン・グラニト
    あたしお掃除しか、出来ないよ?
  • フィノ・ドンゾイロ
    ユンのお掃除は、魔法みたいだね。

ユン・グラニト
女性 / エレメンツ / 陰陽師
フィノ・ドンゾイロ
男性 / 人間 / 断罪者




作戦掲示板

[1] エノク・アゼル 2018/07/05-00:00

ここは、本指令の作戦会議などを行う場だ。
まずは、参加する仲間へ挨拶し、コミュニケーションを取るのが良いだろう。