~ プロローグ ~ |
夏。 |
~ 解説 ~ |
『ベレニーチェ海岸に人を集める為に、ヒーローショーに出演して盛り上げて下さい!』 |
~ ゲームマスターより ~ |
こんにちは。今回は客寄せのヒーローショーを成功させるミッションです。 |
◇◆◇ アクションプラン ◇◆◇ |
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これが本当に海の平和を守ることに繋がるのか…? まあいい、指令を受けた以上はやるしかない エクソシスト役 水着はスポーツタイプ 芝居なんてしたことないけど恥ずかしがらずに堂々と演じる 一般市民役が助けを呼んだところで登場 「待てっ!」と声をかけてからリント…貴公子に飛び蹴りのアクション うまく避けろ その後名乗り&カッコいい決めポーズ 「浄化の使者、エクソスレッド!」 二人はエクソシスト! お前達の主張には、一部、ほんの一部!共感するところもあるが 海の平和を乱す者は許さん! 行くぞ!浄化パンチ!浄化キック! 適当なところでブルーの動きに合わせて必殺技 技名は…あーもう適当で! まあ、やってみると意外と楽しかったな |
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目的 みんなと楽しくショーを成功させる パンドラ・ゲリアルクイーン ワンピース水着 霧崎・ヒーローの青 サーフ型 パーカー青 準備 海岸にある花など摘んで舞台を飾る ハイビスカス 水着姿で宣伝 ショー パンドラは飛んで空中から水鉄砲で恋人たちや絡みやすい子供を襲う リントヴルムさんとがっつり動く トウマルさんをお姫様抱っこで攫う 悪党らしく振る舞う 「ふ、ふははははは!愚か人間どもが!イチャイチャするならひれ伏しなさい!」 浄化の使者、エクソスレッド!ちゃちゃちゃー(なんかかっこいい音楽) かっこいい決めポーズ 霧崎 笑顔で威圧 「…やりすぎですよ」 ガトリングスタイル水鉄砲による猛攻撃 氷をいれて水切れ対策済による容赦のない正義ヒーロー |
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◆トウマル 一般市民役 楽しんで貰えるよう全力で演じる 出演中はネイビーのサーフ型水着だが 設営や片付けはTシャツジーパン姿で役柄悟らせない ショー開始時はかき氷+α手に観客最前列で待機 司会のお姉……見覚えありすぎるお兄さんにならい 大声で\エクソシスト/ 捕獲される俺 かき氷こぼさねぇよう逃げなかっただけで リア充じゃねぇよ善良なお独り様だよ早く助けてエクソシスト 具体的にはかき氷融ける前にカレー冷める前に! 演技力は海の家メニューへの情熱でカバー \エクソシスト/カモン ラーメンはまだ伸びてないぜ 戦闘中は回避し焼きそば死守し盾にされ 最後は笑顔で感謝とこれからも頼むぜコメント ※各メニューはトウマルが美味しく頂きました |
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~ リザルトノベル ~ |
●寄ってらっしゃい見てらっしゃい 「なに? 余興?」 「なんだろうねー、なんかステージがある」 「ヒーローショー? をやるんだってー」 例年と比べ、やや活気に欠ける海岸沿い。 その一画に突如出現したのは、至って平凡な特設ステージである。 しかし、この浜辺を愛する者からすれば見慣れたステージを設営しているのは、どうも見慣れぬ面々だった。 「海の家のオーナーさんの知り合いが花屋を経営してくれていて助かりましたね」 花屋から届けられたばかりの瑞々しい植物を抱え、雄逸・霧崎はいくらか安堵したように言った。 海岸を彩る花でステージを出来るだけ華やかにしたいと申し出たのは雄逸で、あまり摘み過ぎてはそれはそれで砂浜の景観自体も損ねてしまうと懸念していたのも雄逸だ。 「頼んでみるもんだな。こっちのでっかい観葉植物はどこに置く?」 積極的に作業を手伝うトウマル・ウツギも雄逸も、オーナーから支給された水着は敢えてまだ着用せずにいた。 ショーが始まるまでは配役などがわからないほうがいい、というトウマルの助言に従い、向こうで客引きのようなことを請け負っている面子も水着姿ではない。 そしてもちろん、 「木の役でよいのですが」 「砂浜だぞ」 「ヤシの木とか」 「諦めろ」 雄逸が飾り付けた花を指先で弄り、角度を整えているのか邪魔しているのか微妙な手遊びばかりしている半竜――グラナーダ・リラも。 怠惰が服を着ているかの如き性質のグラナーダは、水着に着替えるどころか先程からこうして出来る限り楽そうな役を希望しては、その都度トウマルにすげなく却下されている。 「……司会を務めます」 「それはいい。進行役がいたほうが格段に盛り上がりますよ」 「そうしろ」 漸くオーケーをいただき、既に疲労の色が見えるグラナーダが髪を掻き上げてやれやれと言わんばかりに嘆息すれば、ふとどこからか黄色い声援があがる。 遠巻きにステージを眺めていた若い女性グループだ。 グラナーダが雄逸へと振り向く。 お願いします、と頷かれる。 グラナーダはトウマルを見遣る。 さっさとやれ、と顎をしゃくって急かされる。 への字に曲がりそうな唇に微笑を湛え、グラナーダは女性たちへと片目を瞑ってみせた。 再びあがる声援。 彼女たちの体温も上がったことだろう。 俄然ヒーローショーへの興味も深まり、そしてそれらと引き換えに、グラナーダの「今すぐ自室に帰りたいメーター」はマックス値を振り切る。 「グラナーダさんは本当に人気ですね。司会ははまり役かもしれませんよ」 「外面だけはいいんだよ、外面だけは」 実のところ、グラナーダによるこのファンサービスは、この一時間で既に三回目なのである。 今し方並べ終わった鉢植えの花びらの色が、雄逸の目には眩しい。 それは客引きをしているエルピス・パンドラの右目を想わせるような色だった。 「どう? シックザールサマ。たくさんお客サマは釣れたかしら?」 「あ?」 「ワタクシサマは大量ゲットでーす! 応援しに来てくれるって約束までしてもらいましたよ」 「応援っつったって、アンタ敵役だろうが」 「?」 敵役の応援の何が駄目なんだろう、ときょとんと目を瞠るエルピスの様子に、ベルロック・シックザールはこめかみを軽く押さえた。 「……ワタクシサマ、何か間違えちゃった……?」 エルピスの翼が見る見るうちに萎れていくのに気付き、動揺のあまりベルロックの耳が盛んに動く。 「ああいや、そうだな。そうだ。敵役の応援があればその分アンタも張り切れるだろうし、そうすればおのずとショーも盛り上がって大成功に終わるに決まってる。間違いなくアンタはいいことをした」 やや早口で紡がれたその言葉に、ぱあ、とエルピスの表情が明るいものへと戻っていき、ベルロックは胸を撫で下ろした。 必要以上に慣れ合うつもりもないが、必要以上に誰かと敵対するつもりも傷つけるつもりもない。 そもそもベルロックは未だにこの任務に対しての在り方を模索しているのだ。 指令を受けた以上は全力でショーに臨むが、果たしてこんなことで何かが変わるのだろうか、と。 「アンタは、どういう気持ちでこのあとステージに立つんだ?」 「もちろん、みんなと楽しく盛り上げるぞ、という気持ちで、です。ワタクシサマたちが楽しめばお客サマも楽しめてショーは成功! 楽しい思い出が出来た海にまた行きたくなる人も急増!」 「うんうん。パンドラさん、その意気や良しってやつだね。ベル君はまだ余計なことを考えてるからお客さんをひとりも集められてないのかな」 「よ、余計なお世話だ!」 するりと会話に合流し、尻尾を膨らませて怒鳴るベルロックの反応を見て、リントヴルム・ガラクシアは満足げに笑った。 「あら、まだひとりも……それは可哀想ですねー」 「可哀想だよねー。ベル君、こういうのは楽しんだモノ勝ちだよ」 「おいなんで俺を憐れむ空気になってんだよやめろ」 「ワタクシサマたちも協力しますよ、一緒に頑張りましょう」 「おい聞いてんのか」 「パンドラさんはヒーローショーやりまーすって宣伝してたんだよね。悪いんだけど今度はベル君と一緒に宣伝してくれないかな」 「悪いんだけどってなんだよ」 「で、タイミングを見て海水浴客を装った僕が、すごーい面白そう、って合流するから。さっきもそうやってサクラしてたから任せて」 「了解ですわよ。それじゃあ頑張ってシックザールサマにたっくさんお客サマをつけてあげましょうね」 「ちょっと誤解を招く言い方だね、それは」 張り切ったエルピスに腕を掴まれて連行される途中、ベルロックは気付いた。 気付いてしまった。 こちらを見送るリントヴルムの瞳が、悪戯っぽく光っていることに。 (全部あいつの計算か! 根っからの敵役め!) 「あとで絶対に正義の鉄槌を下してやるからな……!」 そう呟くベルロックの顔は、ヒーロー役とは思えぬ代物だった、かもしれない。 ●本番三分前 出演者唯一の女性であるエルピスは、宛がわれた別室にて着替えを済ませると、男性陣の声に導かれて仲間たちと合流した。 目隠しに布が引かれたステージの裏手は、屋根も何もないので日差しがそのまま入ってくる。 いっそ情熱的ともいえるような奇妙な熱気が、そこには在った。 「こちらは、エクソシスト役のシックザールさん。芝居経験のほうは?」 「ない。ないが、恥ずかしがらずに堂々と演じるつもりだ」 「一方、普段はシックザールさんと共に悪を倒しているガラクシアさんは、今日は敵役ということですが」 「うん。でもそれはそれ、だから。一応役の設定も考えてきてるんだ」 「それはどういう」 「演技で表現できればいいなと思ってるから、秘密にさせて」 「さて、お次は何やら物騒な武器をつくっている霧崎さんです」 「物騒ですか? 参ったな……パンドラさんの本気の戦闘を考えてこれを用意してるだけなんですが」 「ところで、パーカーを着たままで暑くないんですか?」 「……」 「大陸から情熱が消え氷河期に突入しそうな笑顔をいただいたので、噂のパンドラさんにお話を伺いましょう」 「ワタクシサマ、ちゃんとお仕事出来ました、って胸を張って旦那サマに報告出来るよう頑張ります」 「うーん、なんとも素敵な夫婦愛。おや? あそこで当店自慢のフランクフルトを食べているのはウツギさんですね」 「焼き加減も長さも太さもベスト且つこのケチャップがまた……」 「ありがとうございます。ホットドッグも人気です。最後はこちらのイケメンさんです。リラさん、リラさんのファンクラブが出来そうですよ」 「そうですか」 「興味ないですか」 「ええ、特には。ところでオーナーさんは先程から何をしているんで?」 「いやー、みんなプロの顔してたから、つい遊んじゃった」 なんでだよ、と出演者の心が本番を控えて綺麗にひとつになったそのとき、布を捲って従業員が顔を覗かせた。 「失礼します。そろそろ時間ですのでスタンバイを……って、オーナーはこんなとこで何してるんですか?!」 インタビューごっこは、これにて終了。 本気のヒーローショーが幕を開ける。 ●さあさあ、お立ち会い 「みなさん、こんにちはー。今日は暑い中お集りいただきありがとうございまーす」 こんにちはあ、という間延びした幼い声が、ステージに立つグラナーダの元へとちらほら返ってくる。 が、それらを掻き消すほどに、きゃー! というハートマークつきの声が目立った。 (客入りはまあまあ、ですかね。こちらに興味がなさそうに泳ぎを続けている数と、ステージに集まった数はほぼ同等) マイクもない環境故に、普段のやる気のない言動からは考えられぬ声量でグラナーダは続ける。 「最近は海上に出現するベリアルのせいで、海で遊んでくれる方が少なくなったようで……ですがここにはこんなにも海を愛する方々がいて、私はとーっても嬉しいです」 どうもありがとうございます、とにっこりと微笑むこの半竜の平素の怠惰さを、観客は誰も知らない。 客層に女性が多いことを確認するやいなや、グラナーダはぶっつけ本番とは思えぬ手腕で華麗に話の展開を変えた。 ネイビーのサーフ型水着に着替え、これからの演出の為に最前列に陣取っていたトウマルが、うげえ、と呻くほどに完璧な擬態である。 「乙女にとって日焼けは天敵、そして我々にとってベリアルも天敵。ですがご安心を。市民の安全を守る為に、頼れるエクソシストはいつでも私たちを見守ってくれています。今日も海岸警備中のエクソシストさんをステージにお招きしています。皆で呼んでみましょう。せーの、」 エクソシストー! と、ぱらぱらと幼子の声があがる。 さすがに女性陣は恥ずかしいのかその声は控えめなものだったが、それを補うようにトウマルが声を張り上げた。 シロップをたっぷりとかけたかき氷を頬張るトウマルが。 かき氷だけでなく、他にもさまざまな海の家のメニューを買い込み、近くに座る男の子にこれおいしいぞおすすめ、と勧めたりしていたトウマルが。 ヒーローショーに熱を上げるにはやや年嵩にも思えるトウマルのその声に、ひくりとグラナーダの頬が揺れた。 スマートに笑いを堪え、グラナーダは整った指先で後ろ手に合図を送る。 数秒後、従業員たちが後ろから煙を団扇で流し込んできた。 釣れたての魚を七輪で焼く、ある種芳しい煙を。 「おや……? これはいったいなんでしょう?」 戸惑いと憂いをたっぷり乗せて、グラナーダは不穏な雰囲気を演出する。 (こいつ演技うめーな……このかき氷もうめーけど) くすくす笑う女性客。 不安げにする子どもたち。 冷たい甘味を堪能するトウマル。 そして、 「うふふ。ふははははは! 恐れおののきなさい、愚かな人類たち!」 「さあ、ゲリアルクイーン。本日も美しく残酷に暴れましょう」 「そうね! ……ええと、あなたの名前はなんだったかしら?」 「ゲリアルの貴公子、ブラックドラゴンです。長いので貴公子、とだけ覚えてもらえれば」 焼き魚の煙が消える頃合いを見計らい、鮮やかに赤い水着を纏ったエルピスとリントヴルムが威圧感たっぷりに、そして僅かな愛嬌と共に登場した。 「そんな……まさか、ゲリアルが出てくるなんて……」 絶望感を醸し出して、儚げにグラナーダはよろめく。 きゃー! 素敵! 支えたい! えっ、でもあの敵の男の人もかっこよくない? グラナーダ様ー! クイーンの迫力すっごいな。 客席にいるトウマルの耳には、ダイレクトに観客の感想が聞こえてくる。 ヒーローショーというよりはアイドルのミュージカルじみている気がしなくもないが、兎に角ここからが本番である。 「この暑い中飽きもせずにイチャイチャイチャイチャと! ワタクシサマ直々に間引いてやるわ! ついでに冷やしてやるわ!」 悪意を込めて吐き捨てたエルピスが翼を翻して空中へと飛ぶと、おお! と歓声があがる。 しかしその歓声も、エルピスが空から水鉄砲を乱射した途端に悲鳴へと変わってしまった。 無論それは、愉快そうな悲鳴ではあるのだが。 「水かけられて喜んでんじゃないわよ! このマゾ共!」 空中アクロバットを繰り広げながら正確無比にカップルや子どもたちを狙って水を放出するエルピスの台詞に、ステージ上から同じく水鉄砲で攻撃していたリントヴルムが思わず苦笑する。 「クイーン、それじゃあ違うオシゴトの女王様みたいですよー」 「なあに? 聞こえませーん! あ、そろそろ人質の時間ね。よーく聞きなさい、人間ども! いつでもどこでもイチャつくあなたたちのことをリア充と呼ぶらしいじゃない。ワタクシサマがそんなあなたのリアルを今日でさくっと終わらせてやるわよ」 完全に悪人役になりきっているエルピスの空中戦が、ステージ前に集まらずにいた人々の視線までもを根こそぎ奪った。 空になった水鉄砲を誰もいない地上へ落とし、そして彼女は急降下を開始した。 一直線に。 愚かな一般市民をさらう為に。 所謂“お姫様抱っこ”でさらわれたのは、恙なくかき氷を食べ終えカレーライスに手を出そうとしていたトウマルだ。 「ああ、よりにもよって人質を取るなんて……しかも羨む要素皆無な独身男性です。そういう顔をしています。何と不運な方でしょう」 ステージの隅に移動し、観戦者モードに移行したグラナーダによる無慈悲な実況。 リントヴルムの隣に1ミリの狂いもなく着地したエルピスの腕の中で、買い込んだ食料を大事そうに抱えて死守しているトウマルの額に青筋が浮かぶ。 思わず素になって言い返しそうになったトウマルに、リントヴルムがゆるりと小さく首を横に振った。 そのまま視線だけを動かして語り掛ける。 うまく演技しないと、お気に召したその海の家が潰れちゃうかもしれないぞ、と。 具だくさんのカレーを一瞥し、トウマルは叫んだ。 「俺は善良なお独り様だっ、早く助けてくれエクソシスト。具体的にはカレーが冷める前に!」 それは、観客がはっと引き込まれるような演技だった。 実際には食事への期待やら食欲やら、グラナーダに対する恨みやら、女性であるエルピスに抱えられている羞恥心やら、あらゆる感情が闇鍋状態になったが故の混乱を来しているだけなのだが、その台詞には痛いほどに感情がこもっていた。 すすす、とグラナーダが抜かりなくステージの中央寄りへ動く。 「可哀想な独身男性の言う通り。きっとエクソシストが来てくれるはずです。さあ、皆でエクソシストを呼びましょう」 「え、エクソシストー……」 「まだまだ。もっと大きな声でもっと呼ぶのです」 「エクソシストー!」 「もっともっと」 「エクソシストーーー!!!」 エルピスに濡らされた子どもたちも、その保護者も、思い出作りとして何かに映える素材を探してショーを観ていただけのカップルも、グラナーダの美貌目当てだった女性たちも、全員が腹の底からエクソシストを呼んだ。 再びグラナーダが密かに後方へ指示を飛ばすと、七輪を片付けた従業員たちが、今度は手に持った楽器を一斉に奏で出す。 縦笛、マラカス、タンバリン。 ヒーローの登場シーンにはうってつけのド派手な音に紛れて、抱えられたままだったトウマルが蚊の鳴くような声で懇願する。 「お、降ろしてくれ……」 「はい、どーぞ」 哀れな人質がこそこそと隅へ捌けたタイミングで、 「浄化の使者、エクソスブルー! 見参!」 舞台袖から躍り出た雄逸が、短い打ち合わせ時間で何度も試行錯誤した決めポーズをびしっとキメる。 「悪は見過ごせません。それにその所業……やりすぎ、ですよ」 口元だけで微笑みながら、雄逸はゲリアルふたり組に向けて水鉄砲を構えた。 絶対零度の雄逸の笑みが、最前列に座っていた少年の今宵の夢に出たのは致し方ない話である。 それほどまでに威力があった。 「まずいわっ。ゆーい……、ブルーのあの笑みはまずいわ!」 「落ち着いて下さい、クイーン。悪の貴公子である僕にかかればあんな奴、」 「待てっ!」 リントヴルムが雄逸へ先制攻撃を仕掛けようとした刹那、反対側の舞台袖から、ベルロックが勢い良く飛び出してきた。 そのまま、リントヴルム目掛けて見事な飛び蹴りをかます。 アドリブな上にやや本気でもあったベルロックの蹴りをなんとか避けた貴公子は、片膝をつきながらも不敵な笑みを浮かべる。 「いい蹴りだ。キミが噂の……」 「そうだ! 浄化の使者、エクソスレッド!」 「「ふたりはエクソシスト!」」 即興楽団の音に合わせて、今度はふたり揃ってポーズをとる。 観客のボルテージも、真打登場によりマックスだ。 「いくぞ、ブルー!」 「了解です、レッド」 戦力を分断するのが作戦なのか、ベルロックはリントヴルムと。 そして雄逸はエルピスと向かい合う。 浄化パンチ! と怒鳴りながら右ストレートを繰り出すベルロックの腕に手を当て、必要最低限の力でリントヴルムは払い除ける。 背後に回り込み、水を使い切ってただの飾りと化した水鉄砲の銃口でベルロックの後頭部に殴りかかるが、浄化キック! と怒鳴ったベルロックの右足が水鉄砲を弾き飛ばした。 「くくく……律儀に技を叫ばなくちゃいけないから、ヒーローは大変だね。他には何があるの? 浄化ヘッドロックとか?」 「うるせー! お望みならヘッドロックでもアイアンクロウでもなんでもくれてやる、よ!」 首筋に手刀を振り下ろしながら、素なのか演技なのか判断のつかぬ態度でベルロックは言った。 遊ばれた復讐を成し遂げたいベルロックと、そんな相方からの攻撃を無駄な動きや力を省いた動作でいなし、抜かりなく反撃にも出るリントヴルム。 もちろんそれらは全て寸止めか、或いは所謂峰打ちなのだが、そんなことは微塵も悟らせない戦闘だった。 「僕はこの世のあらゆる充実したリアルを憎む! くらえ!リア充爆発拳!」 カマキリのような摩訶不思議な構えをとり、声高にプロパガンダを叫んだリントヴルムは、上げた腕、ではなく、回し蹴りをベルロックの腹に叩き込む。 「クイーンの我儘のせいで胃腸を壊した僕の痛みを知れ!」 「あっぶねぇ……お前たちの主張には、一部、ほんの一部! 共感するところもあるが、海の平和を乱す者は許さん!」 一歩下がるのではなく咄嗟に前に出てがっちりとリントヴルムの太腿を掴んで蹴りの威力を殺したベルロックも、負けじと叫び返した。 ふたりの間には、大した打ち合わせもなく、合図もない。 白熱した展開を息の合った動きで披露するふたりを見て、少しずつだが確実に、それまでは波と遊んでいた男性客もステージのほうへ吸い寄せられていく。 「おーっと、貴公子、クイーンのせいで溜まりに溜まっていたストレスを発散するかの如き素早い連続パンチです。レッドもこの猛攻にはたじたじだー。しかしここでレッド、怯むことなく胃腸が弱いと豪語する貴公子のボディに膝蹴りをかまします」 途中からうまく状況を実況していたグラナーダが、ふと、何かの気配を察知する。 ステージ上を縦横無尽に使って戦う四人の間を潜り抜け、まさかのカレー完食を果たしただけでなくラーメンがまだ伸びていないことに感謝して麺をすすろうとしていたトウマルの剥き出しの首根っこを、グラナーダはむんずと掴んだ。 「は?! 何す、ぶばべべば!」 嫌な予感がしたほうへとトウマルの身体を躊躇なく押し出し、身長差もなんのその、自分はその陰に隠れるように身を縮こませた。 間一髪。 流れ弾が、無慈悲にトウマルの顔面にヒットした。 何発も何発も。 文字通り、飛んだり跳ねたり華やかに逃げ惑うエルピスへと猛攻撃していた雄逸の水鉄砲から放たれた水の弾丸が。 ラーメンと、まだ手をつけていない焼きそばの入ったパックをしっかりと腕で防御している為、トウマルの顔はずぶ濡れになってしまったが、その甲斐あって食料は無事なので本人としては本望であろう。 「おーっと、しがない独身男性が自ら、喜んで、嬉々として盾となり私を守ってくれました。みなさん、彼の勇気ある行動に拍手を。私よりも30センチも小柄な素晴らしい男性に拍手をお願いします」 よくやった、と労いの拍手が沸き起こる。 「25センチ差だ! 撤回しろ訂正しろ実況役!」 「今し方我々を襲った水鉄砲、なんとブルーの改良によりガトリング式となっております。その威力と持久力は既にみなさん理解していますね?」 「聞けよ!」 「いいんですか? ラーメンが冷めてしまいますよ」 たった一言でトウマルを黙らせたグラナーダの説明通り、雄逸が掲げる水鉄砲はやたらと銃身が長い。 銃口も複数あるので、そこから飛び出す水の破壊力は普通の水鉄砲とは比べ物にならない。 当たれば、の話だが。 翼ある蛇を自称するエルピスの動きは、まさにしなやかな野生動物のようだった。 「ワタクシサマは旦那サマとイチャイチャ出来ないのに、リア充の人たちばっかりずるーい! もうぜーんぶ破壊しちゃいまーす!」 本心なのか、役に没頭し過ぎているのか。 真っすぐにブルーの元へと滑空するクイーンの暴走を止めようと、部下である貴公子のみならずレッドもそちらへ身体を向けかける。 子どもが目を覆う。 正義が負けてしまう、と慄きながらも動けない観客たちの目に、鮮やかな色の花びらがとまる。 ステージを彩る花ではなく、今この瞬間に雄逸がエルピスへ差し出した一輪の花だった。 「ねぇゲリアルクイーン、私……俺はあなたが好きなんですよ。他を妬むのではなく、自分に向けられる愛に気が付いてください」 静まり返った会場に、雄逸の静かな声が浸透する。 宙に浮いたまま、エルピスは突然の演出に驚き、首まで真っ赤に染め上げた。 ステージ上の仲間たちに視線だけで助けを求めるが、皆、浅く頷くだけで割って入るつもりはないらしい。 「……お、お友達からっ!」 花を受け取りながらの可愛らしい返事に、会場がおお、と感動に沸く。 ふ、と雄逸の目元が綻ぶ。 ベルロックとリントヴルムが、今日初めてのアイコンタクトを交わした。 「クイーンの刃はブルーが折ったぞ! 貴様もここで終わりだ! ええと……必殺……必殺! レッドサンシャイン!」 適当に技名を叫び、ベルロックはリントヴルムの腹に拳をめり込ませる、振りをした。 リントヴルムは大袈裟に呻く。 「覚えておけ。例え僕がやられても、第二第三のゲリアルが現れるであろう!」 悪は退却した。 一拍、のち、大歓声。 多くの市民がステージの前で笑顔で拍手をしているこの光景を、オーナーに呼ばれて改めて登場した本物のエクソシストたちは忘れないだろう。 海水浴客の数が戻ったのは言うまでもない。 ただし、訪れるカップルの数は減った、かもしれない。
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*** 活躍者 *** |
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該当者なし |
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[21] トウマル・ウツギ 2018/07/21-23:29
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[20] エルピス・パンドラ 2018/07/21-07:44
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[19] エルピス・パンドラ 2018/07/20-22:56
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[18] リントヴルム・ガラクシア 2018/07/20-21:02
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[17] 雄逸・霧崎 2018/07/20-08:12 | ||
[16] トウマル・ウツギ 2018/07/20-01:51 | ||
[15] ベルロック・シックザール 2018/07/20-00:08 | ||
[14] エルピス・パンドラ 2018/07/19-23:05 | ||
[13] 雄逸・霧崎 2018/07/19-22:57
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[12] トウマル・ウツギ 2018/07/19-21:55 | ||
[11] エルピス・パンドラ 2018/07/19-20:00 | ||
[10] リントヴルム・ガラクシア 2018/07/18-22:30
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[9] エルピス・パンドラ 2018/07/18-20:13
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[8] エルピス・パンドラ 2018/07/17-22:31
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[7] 雄逸・霧崎 2018/07/17-22:31
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[6] ベルロック・シックザール 2018/07/17-22:09 | ||
[5] エルピス・パンドラ 2018/07/17-21:09 | ||
[4] 雄逸・霧崎 2018/07/17-21:02 | ||
[3] リントヴルム・ガラクシア 2018/07/17-20:54
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[2] エルピス・パンドラ 2018/07/17-10:11
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