~ プロローグ ~ |
「そうか、もう七夕か」 |
~ 解説 ~ |
●大切なパートナーとの何気ない日常を彩る、ちょっとしたイベント――普段と同じような会話や行動から、少しばかり何かが進展するようなイベントです。 |
~ ゲームマスターより ~ |
初作品といたしまして、時期が時期なので——という理由から、このような内容での提出といたします……(笑) |
◇◆◇ アクションプラン ◇◆◇ |
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先日の戦闘での傷がなかなか癒えず静養中 図書室の窓の外から聞こえる賑やかな音 普段なら行く気もなかったであろう祭りに足を運ぶ 見よう見まねで短冊を飾りつけようとするも 手がもたつき上手くいかない 溜息 ヨナ。何してるんだ 知った声。買い物帰りか紙袋を抱えて通りかかったベルトルドの姿 様子を見て理解したのか短冊を代わりに飾り付ける 何も書いていないことに気が付いた様子だが何も言わない まだ本調子ではなさそうだな はい。…あの、この間の事は その話は今はいい。今日は折角の祭りだろう そうですね… 教団寮に帰る為、自然と同じ帰路を辿る。会話は弾まない 喧噪から離れふと見上げると頭上に広がる星々の河床 それを見てまた溜息 |
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※アドリブ歓迎します 今すぐにでも叶いそうな願い事か…難しいね。 取り敢えず…『甘いものが食べたい』 食堂に行くのが手っ取り早いけどね。 ララ? 鼻緒が…大丈夫? ケガしてない? 血が滲んでるな… (ララエルをお姫様抱っこする) よし、このまま医務室に行って治療してもらって その後食堂で甘いものでも食べよう。 重い? 全然、むしろ軽いくらいだよ。 小さいしね(くすくす笑って) よし、そうと決まったら行こう。 |
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そういえば今年は七夕のお祝い事を済ませてなかったね 二ホンに居た頃は、毎年欠かさずお祝いしていたのに こうやって気付けたのも何かのご縁だし、私達も参加しよっか 短冊へのお願い事…手習いについて、かな 『回復魔術が上達します様に』 真昼くんは何にしたのかな? むむ、今年はケチだね…! さて、短冊を飾らないといけないけれど …真昼くんは背が高いから短冊も一等高くに飾れていいねぇ 私のも飾ってもらっていいかな? …って、わわっ! 私ももう子供じゃないんだけどなぁ…ふふふ、でも一番高い所に飾れたよ ありがとう真昼くん この高さからだと…お祭りに参加してる皆の楽しそうな顔がはっきり見えるや お願いが叶う様に、頑張らないといけないね |
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~ リザルトノベル ~ |
●夏の夜に溶ける ~ヨナ&ベルトルド~ いつもの図書室の外から、賑やかな音が聞こえる。 ヨナ・ミューエ——先日の戦闘後、療養中の身である。 (賑やか……ベルトルドさんは外出中ですし) パートナーであるベルトルド・レーヴェは外出中。加えて、自分は暇を貰っている立場。 ふと、何を思ったのか。 戦闘のこともあって気落ちしていたヨナは、普段ならこの図書室に居たままであっただろうが、外から洩れ聞こえる喧噪に惹かれるように、ゆっくりと図書室を出ていた。 「今日は七夕のお祭りだったのですね」 誰に聞こえるでもなく消える独り言。 あるいは大切なパートナーと。あるいは身内と。あるいは仲の良い友人と。 周りの人々は、各々誰かと足を運んでいる。 そんな様子を見て独り思うのは、やはり先日のことだ。 (私の所為でお仕事には出られなくなって——それでお暇を頂いているのに、ベルトルドさんを置いて、お祭りに足を運んでいるだなんて……) 早く謝らないといけないのは分かっている。それを理解していないわけではない。 ただ、いつもの雰囲気やつまらない意地が邪魔をして、どうにも素直になれない。 楽しそうな音に囲まれていながら、ヨナは独り、眉根を下げていた。 とぼとぼと歩いている内、辿り着いたのはエトワール内にある大きな公園。 そこでは、通って来た道以上に多くの人が集まっている。 (自由に書いて飾り付けても良いのですか) ふと目に留まったのは、色とりどりのペンと細長い短冊が大量に置かれている作業場。 素直になれない気持ちからか、その焦りか。 ヨナの足は、自然とその作業場へと向かって行く。 (お願い事を書くんですよね……私のお願い事は——) しばらくして。 一つの短冊を手に、ヨナが眼前の木に向かい合う。 滅多に足を運ばないお祭りである為に、その勝手はいまいち分かっていない。だからと周囲の人々をちらと見やりながら、なるほどと所作を確認して頷き、見様見真似で飾り付けを始めた。 しかし、初めての空気と染み付いていない手癖とが相まって、やはり手はもたつき、上手く括りつけることが出来ない。 せっかく出て来たのにベルトルドのことを差し置いていて、それでもどうせだから飾り付けくらいはしていこうと思い立ったが、手は進まなくて。 自分の気持ち、そしてスムーズでない事の運びに、 「はぁ……」 ヨナは深い溜息を零した。 そんな折だった。 「ヨナ。何してるんだ?」 背後から、そんな言葉を掛けられた。 よくよく知った声。 この数日、頭からずっと離れない声。 そのことばかり考えていただけに、ヨナは少し遅れてから静かに、ゆっくりと振り返る。 「ベルトルドさん……」 手に抱えられているのは紙袋。 目的こそ違えども、ベルトルドも同じく外に出ていたのだ。 恐らく買い物帰りだろうと予想するヨナに対し、ベルトルドはヨナのその様子をはっきりと理解していた。 歩み寄りながらずっと見えていた後ろ姿は、少し自身の手元に集中すると頻りに周囲へと視線を配り、また自身の手元を——と、ベルトルドからすれば不慣れなこと丸わかりである。 「貸せ。俺が代わりにつける」 呆れか、些かの親切心か。 半ば奪い取るようにしてヨナの手からそれを渡して貰うと、代わりに飾り付け用の木へと向かい合った。 「え——あ、ありがとうございます……」 控えめに洩れた感謝には応えないままで、ベルトルドは作業を進める。 と、短冊に通された紐を器用に両手で扱って括りつけていたベルトルドは、あることに気が付いてしまった。 先に括りつけてあった人たちの、ひらひらと夏の夜風に揺れる飾りの数々は、個性の塊とも呼べる程に様々な願い事がしたためられている。 健康でいられますように。あの子と上手くいきますように。子どもたちが安心して生きられる未来が来ますように。美味しい食事をずっと。明日はこけないように——などと、心温まるものから、たまに笑ってしまうものまである。 そんな中で。 自身の手の内にある、唯一つの短冊だけは。 (文字がない) 言葉通り一文字も、その一切が綴られていない。 願い事自体はおろか、それを込めんとした人間であるヨナの、その名前すら何もない。 白紙だったのだ。 今のヨナの中にあるのは、ただ先日の出来事だけ。そのことばかり考えて、けれどそれを短冊に願うのは違う。 強いて言えばベルトルドに謝ることが願いとも言えようが、神頼みのようにして逃げたところで何か変わるとも思えない。 ぐるぐるぐるぐる、ぐるぐると考えに考えている内、結局、ヨナは何を書くにも至らなかったのだ。 しかし。 「……………………」 ベルトルドは無言で、それには一切触れないまま作業を進める。 何をも思わないわけでも無かったが、それもまた、敢えて口にするのは無粋というもの。 括り終えて手を離すも、ベルトルドの方も気の利いた言葉は浮かばなかった。 すぐ近くに居ながら、まるで見えない壁でもあるかのように、互いの息遣いすら聞こえない。 そこだけ世界が切り取られたかのように、ただ周囲の騒がしい音のみが、二人の耳に届く。 そんな中で。 「まだ、本調子ではなさそうだな」 幾ばくか沈黙が続いた後で、振り返らないまま、ふとベルトルドが尋ねた。 「はい。まだ、少し……」 そんな言葉が出てきてしまったものだから。 ここを逃せば、タイミングはまた掴みにくくなってしまう。 ヨナは意を決して、しかしやはり少し控えめに、口を開いた。 「あ、あの、この間は——」 「その話は今はいい」 言いかけたヨナを、僅かばかり食い気味にベルトルドが制した。 行き場の無くなった言葉は吐息となり、空気に溶けて流される。 不安そうな目でその背中を見つめるヨナに向き直ると、 「今日は、せっかくの祭りだろう?」 あるいは強く圧するように。 あるいは優しく諭すように。 せっかくの祭りだから、そんな話はしたくない——そういった意味合いで相違ないが、変化の分かりにくい表情からも、ヨナはどちらとも取れず、 「……そうですね」 今はただ、そう返すしかなかった。 寮へと帰る道すがら。 図らずも合流してしまった二人は、教団寮を目指し、同じ方向へと歩いていく。 「暑いな」 「……はい」 会話は弾まない。先に少しばかり交わされた言葉すらも忘れそうな程だ。 広場の楽し気な喧噪から少し離れると、もういよいよ足音しか聞こえない。 ただ、弾まないのは弾まないながらも、短く言葉をかけるのはベルトルドの方から。 それが、気を遣わせてしまっているのか、あるいはそうでないのか、はたまた全く別の意図があってのことなのか。 どちらとも分からないから、下手に言葉を重ねる訳にもいかず、ヨナも短く返すことしか出来ない。 街灯も少なくなってきて、ふと見上げた頭上には、大小さまざまな星々が紡ぐ河床が燦然と輝いていた。 それを見ていると、ヨナはどうにも言葉にし難い気持ちが溢れて来て、 「はぁ……」 また、溜息が零れた。 ●甘いもの ~ラウル&ララエル~ これというものは、いざとなると思いつかないものだな。 そう言って、ラウル・イーストは首を捻っていた。 自身の中にあるのは、パートナーのララエル・エリーゼの安全が大半だけれど、それは他の誰にも頼めないことである。 例え神や奇跡などというものが存在していようとも、自分が護ると決めたのだ。 そうやって難しく考えるラウルに、 「それなら、小さな願い事にしましょう!」 と、ララエルが優しく提案した。実に無邪気な声音である。 「小さな?」 「はい。今すぐにでも叶う、叶う見込みのある、“げんじつてき”で“けんせつてき”な」 「今すぐに、か」 「よくは分かりませんが、簡単なもので良いのではないでしょうか?」 そう促されたラウルは、しばし熟考。 ふと思いついたことがあれやこれやと多くて悩んでいるのではなく、本当にぱっと何も思い浮かぶことがなくて、更に首を捻っていたのだ。 ラウルがそうこうしている内、ララエルも自身の願い事を綴らんと短冊に向かい合う。 (うーん……そうは言っても、私も難しいと言えば難しいですね。今すぐにでも叶いそうな願い事―——) むむむ、と結局はラウルと同じように小さく首を捻る。 腕を組んで考えて、 (えーとえーと……あ、そうだ!) ようやく絞り出した願い事。 これぞ、叶いそうで叶わなそうな——けれども素直で本当な。 優しいラウルならば、と期待も込めた、少しだけ贅沢な願い事だ。 遅れて追い付いたラウルが書き終える頃、ララエルは既に飾り付けた後。 何を書いたのか気になって、ララエルはふと何ともなしに尋ねた。 「思いつきました?」 「一応、かな。これしか思いつかないよ」 困り顔で言うラウルに、ララエルは何かと問いかえる。 「食堂に行けばそれで済むんだけどね。取り敢えず『甘い物が食べたい』って書いておいたよ」 瞬間、沈黙。 そして一呼吸置いて、 「まぁ、ふふ。とってもラウルらしいですね」 堪えきれず、優しい笑いが溢れた。 王子様のような、騎士様のような、自身を世界に連れ出してくれた格好いいパートナーは、その実子どもっぽいところもあって。 予てより甘い物好きであることはよくよく知っていたが、まさか短冊に綴る願い事とあってもそれが浮かんでしまうとは。 本人が口にした通り、食堂に行けばそれだけで良い話だ。 ララエルの笑いも収まると、自然、今度はラウルがその旨を聞き出してくる。 「ララは何を書いたんだい?」 ふとかけられた言葉に、ララエルの表情は一変する。 思えば、好意こそ抱けども、それを表出したことは一度もない。 こんな願い事、本人に見せてしまえば——ともすれば良い機会とも相成りそうなものだが、 「な、内緒です……!」 恥ずかしさから少しばかり強く出ると、ラウルは初め、やや不満そうに「えー」と漏らしもしたが、それ以上追随してくることはなかった。 そしてすぐに柔らかな笑みを浮かべ、ララエルの目を真っ直ぐに見据えた。 「せっかくだから、少し歩こうか。屋台みたいなのも出ているし、思わぬ甘い物に出会えるかも分からない」 提案の中に見え隠れする、甘い物への期待感。 ふと思いついただけのいつも通りの願い事は、やはりと正直な気持ちらしい。 「ラウルの願い事は“叶いそうなもの”ではなく、“叶うもの”か“叶えるもの”ですね」 「人間、現実を見てなんぼだよ。両手で抱えきれないような過ぎたものは、取り零してから後悔するからね」 堂々と言い張るラウル。 ただ、ララエルにとってはたまに、それは難しい表現となって聞こえてしまう。 「うーん……そういうものなのですか?」 小首を傾げるララエル。 ラウルは頷き、 「そういうものだよ。対象は各々に委ねられるものだよ、そんなものは」 それもそうではあるのだけれど。 ララエルはまた少し分かりにくくて、それ以上踏み込んで聞くことも出来ない。 「それより、夜が深くなる前に歩こう。あまり遅くなると——」 言いかけ、足を進めようとした時だ。 「痛っ……!」 短い悲鳴。 振り返ったラウルの眼前で蹲るララエルは、足元を注視している。 「ララ——―っと、靴擦れか。いつの間に……大丈夫? 怪我は?」 「い、いえ、それは大丈夫なのですけれど……」 足元からは血が滲んでいる。 簡単な手当をしようとも、これでは流石に、今から更に長時間歩き続けるのは酷というものだ。 そうと見ると、ラウルはララエルの元へと歩み寄った。 そして。 「よっ、と」 軽い手つきと掛け声で以って、その小さな身体を抱き上げた。 担ぎ上げたのではない。 肩、膝裏にそれぞれ手を回して持ち上げて、 「わわっ! ら、ラウル……!?」 「暴れないで。ほら、僕の首に手を回すか、お腹の上で組んでおいてくれるかな?」 わなわなと落ち着かない両手は、しばらく迷った挙句、控えめにラウルの首に回された。 その図は、そのままの言葉を持ってくるならば、所謂“お姫様抱っこ”である。 何食わぬ顔でそのまま歩み出すものだから、ララエルはいい加減色々と我慢も限界になってしまって、少ししてから「やっぱり」と声を上げた。 「うぅ……あ、あの、ラウル……? ほら、私、重いですから……!」 「女の子が自分で言うのかい。全然、寧ろ軽いくらいだよ。それに、小さいし」 呆れ、くすりと笑いながらラウルが言う。 優しい言葉は、しかし最後の一言だけ余分だったようで。 「ち、小さくはないです……!」 ララエルは少しばかり憤慨した。 その様子にラウルはまた笑って、しかしララエルをその両手からは降ろさないままだ。 (も、もう……) 思わず溜め息こそ出てしまったけれど、表情が緩んでいるのは自分でも分かる。 それもそのはず。 (私の、願い事——―) ふと、ラウルに見られないようにと急いで飾り付けた、先の短冊が脳裏を過った。 「さて。このまま寮の医務室に行こうか」 「そ、それではラウルの提案が——―」 「出店を回ろうって? そんなのより、ララの方が大切に決まっているじゃないか」 「そんなのって……思わぬ甘いものと、めぐり合うのではなかったですか?」 「君に無理をさせてまで求めはしないかな。早いところ手当てしないと、酷くなってしまうからね」 ラウルはそこまであっけらかんと話していたのだが、「それに」と一変した口調で挟むと、 「ララにはなるべく、傷ついて欲しくない。僕も戦闘は不慣れだけど、本当なら、闘って欲しくもないんだよ」 「ラウル……」 優しく、慈しむように。 それでいて、ほんの少しばかりの憤りを含んだ声音でラウルが言う。 そも出会ったきっかけだって、ララエルの受けて来た仕打ちを目の当たりにしてしまったからである。 傷ついた果て、その命の終わりすら与えられてしまったララエルには、出来ることならば一切の危険も与えたくはない。 「せっかくのお祭りで、こんなに平和な日なんだ。医務室で手当てしてもらった後で、食堂にでも行こう。そうすれば、このままララの傷も悪化しないで、僕の願い事だって叶う。ほら、とっても良い提案だとは思わないかい? 君の言葉を借りるなら、現実的で建設的な、ね」 「そ、それは……」 その通りなのだけれど。 この場、ララエルに限っては、ただ恥ずかしいだけの話ではないのだ。 図らずも叶ってしまった、ララエルの願い事。 ひらりと夏の夜風に揺れる、一枚の短冊に記された——―。 『ラウルにお姫様抱っこされたいです』 ちょっぴり贅沢な、とびきり甘いもの。 ●朝と昼の温かな夜 ~朝日&真昼~ 何ともなしに公園を散歩していると、思いがけない出会いが待っていた。 どこからともなく聞こえて来た祭囃子。 「そう言えば、さっきから人が多いな」 籠崎・真昼が呟いた。 「言われてみれば。賑やかだしね」 相槌を打つのはパートナーの降矢・朝日だ。 それらに耳を傾けていると、どうやら今日はお祭りであるらしいことが窺えた。 見慣れた笹の木を見て二人、そう言えばと進路を変更する。 「七夕祭り、か」 「だね。そう言えば、今年は七夕のお祝い事を済ませてなかったね。二ホンに居た頃は、毎年欠かさずお祝いしていたのに」 「今年はバタバタしてたから。俺もすっかり忘れてたよ」 指先で頬を掻きながら、些か困り顔の真昼。 それを見て朝日が「ねぇ」とその肩を優しくつついた。 何か、と振り返る真昼に、朝日は柔らかな笑み。 「こうやって気付けたのも何かのご縁だし。せっかくだから私たちも、今からでも参加しよっか」 故郷ニホンでは欠かしたことのない祝いの行事だけに、真昼の答えは決まり切っていた。 力強く頷き応えると、短冊の飾りとペンが並ぶ作業場へ。 ただ。 思い出しと思い付きで足を運んだ今日、今までとは違って、夢に描くような願いは、なかなか思いつかない。 「うーん……そうだ。私は『回復魔術が上達しますように』かな」 しばし悩んだ末の朝日の答え。 またぞろ“美味しい物は世界を救う”といった持論の元、それに関する食の云々辺りが出て来ようと予想していた真昼は、思わず声を上げて短く笑う。 「ははは。なるほど、それも朝日ちゃんらしいな」 「あー、笑ったね? 真昼くん、どうせ食べ物のことを書くんだろうな、とか思ってたんでしょ?」 「正直言うとな。でも、朝日ちゃんらしいっていうのも本当だよ。朝日ちゃんはマイペースだけど、善悪ははっきりとしていて、それに対してはとても真面目だって知ってるから。叶いそうな願いだなって」 「むむむ、他人事だねぇ。真昼くんが傷付いても大丈夫なようにって気持ちも、ちゃんとあるのになぁ」 勿論、それは知っている。 とは言っても、逆もまた然りなわけで——―。 「それは有難いけど、くれぐれも無理は禁物だから」 真昼の言葉に、朝日はふわりと「大丈夫だよー」と言ってのける。 マイペース故に自分の限界手前で勝手に止まる者もいれば、マイペース故に後先考えない者もいて。 ニホンでも異国の地であっても変わらずマイペースな朝日に、真昼はたまに、本当に大丈夫なのだろうかと思ってしまう。 そんなことを思っていると。 「真昼くんは何て書いたの?」 ひょっこりと覗き込みながら、朝日が尋ねて来た。 「俺は——いや、今年のは朝日ちゃんには見せられないかな」 真昼は手に持った短冊を伏せて言った。 「どうして?」 「秘密。偶には良いだろう?」 「むむ、今年はケチだね……!」 朝日はそう言うが。 参拝などに於いては、他人にその旨を語るべきでないともされている。 胸の内にて秘めて温めておくべきものを曝け出してしまうと、その望みが薄くなってしまうと言われているのだ。 しかし、真昼のそれに限っては、そういった言い伝えがあるという点を抜いても、ただ羞恥から見せられたものではない。 『朝日ちゃんが健康無事でいられますように』 ——なんて、我ながら気恥ずかしいものがあって、口が裂けても言えない言わない。 朝日の追随が迫って来る前にさっさと飾ってしまおうと、真昼はその巨躯を活かして、笹の葉の高い所へと手を伸ばした。 慣れた手つきで細かな括り作業を終える。 「うーん……真昼くんは背が高いから、短冊も一等高くに飾れて良いねぇ」 「朝日ちゃんのそれも、高い所が良いの?」 「うん、せっかくだからね。悪いんだけど、私のも飾ってもらって——―」 良いかな、と言いかけた刹那。 ふわりと身体が宙に浮く感覚、伴って次第に高くなる目線。 真昼が朝日を抱え上げ、自身よりも高いところへとその身体を持って行ったのだ。 「わわっ……! ちょ、ビックリしたよ……!?」 「せっかくだからな。こうすれば、自分の手で飾れるだろう?」 「も、もう……」 少しばかり手足をばたつかせ、しかしひと度その優しさに触れると、朝日は真昼に身を委ねた。 手に持った短冊の飾りを笹へと近付ける。 「私ももう子どもじゃないんだけどなぁ……」 短く愚痴も零れたが、 「ふふふ。でも——おかげで、誰より一番高いところに飾れたよ。ありがとう、真昼くん」 言葉通り、一等明るい笑顔でそう言った。 抱え上げている分には見えないが、きっと優しい顔をしているんだろうな、と真昼は予想して、同じく笑みを浮かべていた。 飾り付けを終えると、朝日はふと周囲に目を配った。 自分たちと同じ教団員に仲の良さそうな家族、微笑ましい老夫婦と、とても多くの人々が足を運んでいた。 「この高さからだと、お祭りに参加してる皆の楽しそうな顔がはっきりと見えるや。みんな、とってもいい笑顔」 「朝日ちゃんも相当だと思うけど? 忙しくてさっきまで忘れてたとは言え、朝日ちゃんの方から誘ってくれたし」 言いながら、抱え上げていた朝日を降ろす。 「お祭りだからねぇ。今日のこの時間、お仕事が無かったことに感謝だね!」 着地と同時、ぐっと拳を固めて嬉し気な朝日である。 それに「そうだな」と真昼が短く答えると、朝日は幾つか真っ直ぐな表情へと変わった。 「お願い——―叶うように、頑張らないと」 ふと聞こえた、願いを強めるような、どこか覚悟を決めるような声音に、真昼は空いた手を腰に当てて、 「あぁ……頑張らないと、だな」 小さく、その身を正面に捉えて呟いた。 朝日の言葉への返答ではあったが、朝日に聞こえているかどうかは、別段どちらでも良かった。 その健康無事を祈ったのは、同時に自身でも朝日をしっかり護らんとする覚悟の表れだ。 昔から世話になっている人々の大事な娘、それも、自分に比べればまだ年端も行かぬ少女。 異国へ向かわんと決意した朝日から、自分が着いて来ていることに『申し訳ない』などと思われないよう、しかと護り抜かなければ。 朝日の親、そして朝日自身に顔向け出来るよう、一層覚悟を強める真昼。 ——―だったのだが。 「そうだ真昼くん。寮に戻ったら甘い物いる?」 気も引き締まりはしたが、平和な今この瞬間だけは、同じく平和な彼女に甘えるのも良いだろう。気負い過ぎるのも考えものだ。 そう思って、真昼は呆れながら小さく息を吐くと、 「いる」 素っ気なくも、断りはしなかった。 「うん!」 返された無邪気な笑み。 握った拳に力を込めて、真昼は覚悟を確かなものにした。 ●エピローグ 各々の思いや覚悟が夜風に流される。 自身の願いを綴った者。誰かの願いを綴った者。他人の願いに思いを馳せた者。 少し特別な夜は、ともすればその願いをその場で叶えもしたことだろう。 中には、その何をも浮かばなかった者も居よう。 ただそれは、今は“まだ”思いつかないだけ。 いずれ、互いを大切だと認め合えるようになった時に、また願いを探せば良い。 次の年、その次の年になろうとも、風習は褪せることなく世界を包み込む。 季節が移ろうように、人の心もまた、変わっていくものだ。 明日はまた休みかも知れない。小さな依頼かも知れない。はたまた、そのどちらでもなく、大きな戦闘があるかも知れない。 何が待つか分からない明日、誰の身にも不幸が起こらないことを。 そう願う者も、どこかにいるかも分からない。
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*** 活躍者 *** |
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[4] ヨナ・ミューエ 2018/07/23-21:42
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[3] 降矢・朝日 2018/07/23-21:11
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[2] ラウル・イースト 2018/07/23-10:07
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