~ プロローグ ~ |
台車にカボチャプリンをつめた小瓶を並べ、調理室から搬出しようとしていた教団寮食堂の料理人見習いは、後ろから声をかけられて振り返った。 |
~ 解説 ~ |
魔女がカボチャプリンに魔法をかけてしまいました。 |

~ ゲームマスターより ~ |
お久しぶりです、あるいは初めまして。あいきとうかと申します。 |

◇◆◇ アクションプラン ◇◆◇ |
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…んー?(プリンもぐもぐ プリンってもっと甘いものって聞いたけど… あれー?(その辺の人達を見ながら食べてる ニオくん、プリンって甘いお菓子なんだよね? 味しないんだけど えー?(ニオの様子を見ながら …あまーい!優しい味がするー! 甘すぎず薄すぎずの丁度いい甘さ ぱあっと表情が明るくなり (たまたま近くにいた人からプリンのことを聞き へえ、そうなんだー ってことは、おれはニオくんのことが好きで ニオくんもおれのことが好きと えへへ、両想いだー(にへら 相変わらずの彼女ににへら笑いから苦笑いへ ニオくん、もうちょっと照れるとかないの? …え、えぇー……?(発言を聞いて顔真っ赤 ニオくんてばほんと…ほんとそういうとこだよ… |
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食堂でプリンもらえるみたいだから、行ってみない? とロウハを誘って食堂へ そのプリンには魔法がかかってるって噂を聞いたから 相手の好意を知ることができる魔法の ロウハはいつもわたしを守ると言ってくれるし、実際にそうしてくれてる …けど、彼自身の思いを話してくれることは少ない これ以上を望むのは贅沢かもしれないけど…やっぱり、気になる ロウハがわたしに…どんな形でもいい、少しでも好きな気持ちを持ってくれてるのか 食堂の座席につくと、ロウハの顔をじーっと見つめる え?えと、その、プリンどんな味するかなって… そうね、わたしも食べるわ …本当?本当に甘い? そう…よかった 安心して胸がいっぱいになる …そうよ、泣くほど甘いわ |
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待ち合わせ場所に向かう途中 エントランスでプリンを差し出された 甘い物には然程興味は無いが、ヴィオラにやればいいか 甘味を食べる時の彼女の顔を思い出し一つ受け取る 待ち合わせ場所では同じプリンが彼女の手にも なんだヴィオラも貰っていたのか 何なら二つ食べるか? まあ、そんなに甘くないなら食べてもいいが ヴィオラの笑い方が気になるな お互いの顔を見て食べる?何故そんな事を…… 苦笑しつつ何故かこちらを見つめるヴィオラを見ながらプリンを口に運ぶ 甘い、な、かなり だが美味い っと、なんだ?どうした? ヴィオラがとても嬉しそうに微笑んだので思わず尋ねる そう言う事か 私がお前を嫌ってる訳はないだろう 妹みたいに……ああ分かった姉だな |
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◆食べるのは巡り巡って瞬 ・唯月はプリン事情を聞き瞬に食べて欲しいと思う ・が、瞬は唯月の甘いもの好きを知ってるので唯月へ 唯(自分の好きな気持ちがわかるカボチャプリン… なんだか疑わしいプリンですが…それが本当なら… 瞬さんに食べてみて欲しい…) 唯「瞬さ…」 瞬「あ、カボチャプリン!いづはやっぱり甘いものに目がないね~」 唯「えっとこれは…」 瞬「大丈夫大丈夫~いづがぜーんぶ食べちゃっていーよ~」 唯「ぇ…あの…」 ・プリンの味は感動するくらい甘かった 唯(瞬さんの顔を見ながらなんて…うぅ… …このくらい見れば…ええいっ)パクッ 瞬「どーぉ?」 唯「…凄く、甘い」 唯(凄く…甘い…わたしはやっぱり彼が大好きなんですね…) |
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~ リザルトノベル ~ |
● 無料配布されていたカボチャプリンを片手に、『カリア・クラルテ』は意気揚々と席に座る。 「んー、おいしそう」 食堂は同じようにカボチャプリンを食べている人々や、遅い昼食をとる職員たち、休憩にきている浄化師たちなどでそれなりに賑わっていた。 瓶につめられた柔らかな色あいの菓子を、頬を緩めて眺め、カリアは蓋を開ける。ふわりとカボチャの香りが鼻先をくすぐった。 「いただきまーす」 カボチャプリンと一緒に渡された、デザート用の木匙ですくう。ちょうどいい硬さに、ますます期待が高まった。 「ん……。んー?」 気のせいかな、と思いもうひと口。 気のせいじゃない、と認識して、困った顔で見た目はおいしそうな菓子を見下ろす。 「プリンってもっと甘いものって聞いたけど……。あれー?」 どういうわけか、味がしなかった。 無味のカボチャプリンはとろりとした食感だけは明確で、口の中が絶妙に気持ち悪い。 「おかしいなぁ」 ちょうど近くの席で、友人らしき人物と談笑しながらカボチャプリンを食べている浄化師たちを見ながら、さらに食べてみる。 結果は変わらなかった。 「カリア」 「あ、ニオくん」 ひらひらとカリアが手を振ると、手ごろな空席を探していたらしい『ニオ・ハスター』が浅く頷き、堂々とした足どりで近づいてきた。 「ニオくん、プリンって甘いお菓子なんだよね?」 「そうだな」 肯定しつつカリアの向かいに腰を下ろしたニオは、テーブルに置かれた小瓶を目にとめる。 「カボチャのプリンか。そういえば配っていたな」 「そう。貰っちゃった」 「美味しそうじゃないか」 「だよね? でも、味がしないんだよ」 普段の笑みの中に困惑を混じらせるカリアと、三口分減ったカボチャプリンを見比べ、ニオは首をわずかに傾けた。 「ん? 味がしない? 少し貰うぞ」 「うん。食べてみて」 カリアから木匙とカボチャプリンを受けとり、ニオはそっとすくいとる。色とにおいを確認し、見守るカリアの顔を視界に収めつつ、口に運んだ。 柔らかでありながら、はっきりとしたカボチャの味と、優しい甘さがニオの口いっぱいに広がる。よほど丁寧に作られたのだろう、舌触りは絹のように滑らかだった。 「美味しいよ。カボチャの味は薄すぎないし、甘さもしつこくなくて、ちょうどいい」 「えー?」 おかしいなぁ、と不思議がるカリアに、ニオは木匙と小瓶を返す。 「もう一度、食べてみたらいいじゃないか」 「うーん」 気乗りしなかったがニオが芝居を打ったとは思えず、カリアは少しだけカボチャプリンを木匙にのせる。ちらりとニオの顔をうかがうと、視線で促された。 彼女を見つつ、意を決して、ぱくりと食べる。 直後、ぱぁっとカリアの表情が輝いた。 「あまーい! 優しい味がするー!」 ふわっと広がるカボチャの香りと優しい甘さ。しつこくなく、薄すぎず、体の奥にたまった疲れをそっと拭いとってくれるような、慈愛の味がした。 「だろう?」 かすかに笑んだニオに大きく首を縦に振り、でも、とカリアは瞬く。 「さっきと全然違う味なんだよね」 「そのプリンにはね、魔法がかかっているのよ」 「魔法?」 通りすぎようとして、二人の会話を聞いて一歩戻ってきたらしい女性は、顎を引いて肯定してから、悪戯っぽく片目をつむった。 「好きな人のことを見ながら食べると、美味しく感じるの。相手のことを好きであればあるほど、甘ぁくなるのよ」 世俗派の魔女の格好をした女性はそう言うと、軽やかな足どりで二人の席から離れていく。カリアは残り半分ほどになったカボチャプリンに視線を向けた。 「へぇ、そうなんだー」 「なるほど、魔女殿の魔法だったか」 試しに、ニオは再びカリアから木匙と菓子を貰い、天井を見ながら食べてみる。 すぐになんとも言えない表情になった。 「うん、なるほど。味がしない」 「だよね」 先ほどそのまずさを味わったカリアはほのかに笑って同意し、大切なことに気づいて目蓋を素早く上下させた。 「ってことは、おれはニオくんのことが好きで、ニオくんもおれのことが好きと」 「そうか。好意が甘さになるなら、そうなるな」 カボチャプリンと木匙をカリアに渡しつつ、ニオは同意する。カリアの笑顔が、へらりとしたものに変わった。 「えへへ、両想いだー」 「確かに、両想いだな」 真顔で肯定したニオに、カリアは苦笑する。 「ニオくん、もうちょっと照れるとかないの?」 「照れるもなにも、事実だろう。カリアといるのは居心地がいいし」 うむ、とニオは真剣な表情のまま、ひとつ頷いた。 「好きだぞ」 「……え、えぇー……?」 一直線に投げられた言葉は、揶揄も羞恥も含まれていないからこそ本心だと分かってしまう。 真っ赤になった顔を両手で覆ったカリアは、絞り出すような声を放った。 「ニオくんてば……、ほんと……、そういうとこだよ……」 「ふむ」 耳まで朱色に染め上げているカリアに、ニオは疑問が見え隠れする顔になる。大きく息をついて心臓をなだめたカリアは、思い切るようにカボチャプリンを食べた。 凛と背筋を正して向かいに座るニオを見ながら。 「甘くて美味しいよ」 「うむ。秋らしくていいな」 「そうだね」 視線を窓の外に向けると、ちょうど黄色く色づいた葉が風にのってひらりと舞うのが見えた。 「ハロウィンも終わっちゃうね」 「任務漬けだったな」 「来年は楽しみたいよね」 「そうだな」 そのとき魔法にかかったカボチャプリンを食べたら、今よりもっと甘くなっているのだろうか。 ちらりとニオを見て、カリアは考える。 「ん?」 「なんでもないよ」 視線が交わって、カリアはまだ赤さの残る顔を笑みで満たした。 ● 午前の内に簡単な指令をひとつこなし、完了報告を終え、司令部の建物から出たところで、『シュリ・スチュアート』は『ロウハ・カデッサ』に声をかけた。 「そういえば食堂でプリンが貰えるみたいだから、行ってみない?」 できるだけ自然に誘ったが、不審に思われていないだろうか。シュリは上目でロウハをうかがう。 一拍おいてから、ロウハは頷いた。 「いいぜ。小腹もすいたしな」 「行きましょう」 ひそかに胸を撫でおろし、シュリは先立って歩き出す。 (魔法がかかった、カボチャプリン) 教団に戻り、報告に向かう前に二人は一時的に別行動をとっていた。その際、耳にしたのだ。 曰く。 食堂で配っている瓶づめのカボチャプリンには、世俗派の魔女の魔法がかけられている。 誰かの顔を見てカボチャプリンを食べたとき、甘いと感じれば自分は相手に好意を持っている。好きであれば好きであるほど、カボチャプリンは甘くなる。 (ロウハはいつもわたしを守ると言ってくれるし、実際にそうしてくれてる) 大切にされているということは、しっかり理解している。 (けど、彼自身の思いを話してくれることは、少ない) 特に弱い部分を見せてくれることは全くと言っていいほどない。長くともにいるはずなのに、シュリはロウハについて知らないことがまだたくさんあった。 (これ以上、望むのは贅沢かもしれないけど……) このまままでいいと、胸のどこかが主張している。 自らの意思で教団の門を叩いたシュリに、ついてきてくれた。ずっと側にいてくれた。 それで十分じゃないのかと。 (でも、やっぱり、気になる) 側にいてくれるのは、大切にしてくれるのは。 あの人に託されたからではないかと、どうしても思ってしまうことがある。ロウハの意思ではなく、あの人の遺志ではないかと。 (ロウハがわたしに……、どんな形でもいい、少しでも好きな気持ちを、持ってくれてるのか) 知りたい。 少し怖くて、誘うときは声が震えてしまいそうだったが、それでも。 恐怖を上回るほどに、シュリの心は答えを求めている。 (どうか) 願いの続きを、言葉にできない。先になにが続くのか分からないまま、シュリは祈る。 そうしているうちに、食堂が見えてきた。短い列の先で世俗派の魔女のひとりと、料理人らしい格好の青年がカボチャプリンを配っている。 胸を落ち着かせ、シュリは真っ直ぐ前を向いた。 食堂の利用者はまばらで、ちょうど窓際の二人用の席もあいていた。 向かいあう形で腰を下ろし、ロウハは手元のカボチャプリンをじっと見る。 (これ、魔法がかかってるって言われてるやつだよな?) シュリと別行動をとった際、ロウハも噂を耳にしていた。 (なんだったか……) 聞き流したので、詳細に思い出すことはできない。しばらく考えたロウハは、まぁいいかと思考を中断した。 先ほど、シュリに誘われたときにも記憶を探ってみたが、やはりうまくたどれなかったのだ。 (どんな魔法か知らねーけど、まあ危険がないならいいか) 取り締まられていないということは、そういうことだろう。それよりも問題なのは。 「……どうした、お嬢。プリン食わねーのか?」 先ほどから痛いほど突き刺さっている視線に、ロウハはようやく反応した。 じっと彼のことを見つめていたシュリは、はっとしたように肩を揺らし、視線をさまよわせる。 「え? えと、その」 「ていうか……、俺の顔に、なんかついてるか?」 「違うわ。あの、プリン、どんな味するかなって」 「……食べてみればいいんじゃねーか?」 言いながら、ロウハはカボチャプリンの蓋を外す。ふわりとカボチャの香りが鼻先をくすぐった。 「そうね、わたしも食べるわ」 ぎこちなく頷いたシュリも、小瓶を開く。 (あー、こりゃあ) 木匙を動かさないまま、ちらちらとロウハを気にするシュリを見れば、分かってしまう。 (お嬢も魔法のこと、知ってるな。ていうかお嬢、隠しごと下手だな) それも、恐らく彼女は噂になっている魔法について、詳しく知っている。 (やけに緊張してると思ったら) 効果について問うことはためらわれ、ロウハはシュリに注意を払いつつ、柔らかな色あいのカボチャプリンを口に入れた。 とろりとした舌触り。口いっぱいに広がるカボチャの香りと、頬がとろけそうな甘さ。 しつこくはないが、思った以上に甘かったカボチャプリンに、ロウハの眉が一瞬だけ寄る。 「けっこう甘いな、このプリン。でも美味いぜ……、お嬢?」 めったに表情を動かさないシュリが、驚いたように目を見開き、唇を震わせていた。 何事かとロウハは腰を浮かせる。 「……本当? 本当に、甘い?」 「ああ。お嬢、なんでそんな顔してるんだ」 指先が白くなるほど強く木匙を握ったシュリは、弱々しく首を左右に振った。緑の双眸には涙がにじんでいる。ロウハはますます焦った。 「なんでもないの。……そう、よかった」 口許に淡い笑みを浮かべたシュリは、はらはらと涙を流しながら、カボチャプリンを食べる。 安心して、胸がいっぱいで、味なんて分からないかもしれないと思ったが、そんなことはなかった。 「甘くて美味しいわね」 「……泣くほど甘いのか?」 「そうよ。泣くほど甘いわ」 「……あのな、お嬢」 脱力するように椅子に座りなおし、ロウハは口を開く。 「心配しなくても、大丈夫だから」 なにが大丈夫なのか、真剣な思いで告げたロウハにも分からない。 シュリは小さく息をのんでから、かすかに頷いた。瞬きをした拍子に、長い睫毛がもうとまっている涙の残滓を払う。 「……美味しいな」 二口目のカボチャプリンは、ひと口目よりも少し甘かった。 ● 待ち合わせの場所に向かおうとした『ニコラ・トロワ』の袖が、つんと引かれる。 視線を下げると、魔女らしい格好をした子どもがいた。片手には小瓶と木匙を持っている。 「こんにちは、おつかれさまです。カボチャプリンはいかがですか?」 にこりと笑う少年の背後を見て見ると、台車に箱がつまれていた。ちょうどやってきた魔女が、空箱を回収していく。 「ハロウィンなんで、くばってるんです」 「……そうか。ひとついただこう」 「ありがとうございます。おしごと、がんばってくださいね」 少年はニコラにカボチャプリンがつめられた小瓶と木匙を渡すと、別の浄化師たちを呼びとめ始めた。 周囲を見回すと、エントランスの壁に背を預け、菓子を食べている教団員たちの姿が目に入る。 甘いものにそれほど興味がないニコラは、手の中のカボチャプリンを一瞥し、歩き始めた。 「ヴィオラにやればいいか」 以前、甘味を食べた彼女が幸せそうに頬を緩めていたのを思い出す。カボチャプリンも嫌いではないだろう。 晴れ渡る秋空の下を、ニコラは足早に進む。先に待ちあわせ場所にきていた『ヴィオラ・ペール』を見つけ、呼ぼうとして、彼女が両手で包むように持っているものに気づいた。 声をかけ損ねていると、ヴィオラの方がニコラに気づいて穏やかに微笑む。 「ニコラさん」 「待たせたな」 「いえ、今きたところです。ところで、それは」 「エントランスで配っていたのだが……。なんだ、ヴィオラも貰っていたのか」 「ええ、私は食堂の近くを通った際にいただきました。二か所で配っていたんですね」 混雑を避けるためか、より多く配りたかったのか。 前者であるとすれば相当、味に自信があるのだろう。逡巡したニコラは、カボチャプリンを木匙ごとヴィオラに差し出した。 「なんなら二つ食べるか?」 素早く瞬いたヴィオラは、菫色の双眸に思案の色をのせる。そして、ゆっくりと口許に優しい笑みを刻んだ。 「二つも食べたら太っちゃいます。一緒にそこのベンチで食べてから出かけましょう? お時間、まだ大丈夫ですよね?」 近くに隠れるように建っていたガゼボを視線で示すヴィオラに、ニコラはわずかに眉をひそめる。 「時間はあるが、私は甘いものを好かない」 「そんなに甘くないそうですよ」 「……そうか。まあ、そんなに甘くないなら、食べてもいいか」 彼女に二つ食べるつもりはなく、処分するのは忍びない。 砂糖よりもカボチャの味が勝るならいいかと、ニコラはガゼボに向かった。 「ふふっ」 意味ありげに笑ってついてくるヴィオラのことが気になるが、肩越しに彼女を見てもにこにこされるだけで言葉はない。 内心で首を傾けながら、ニコラは長椅子に腰を下ろした。 どうやら彼は、カボチャプリンの噂について知らないらしい。 (なら、試してみましょう) ほんの悪戯心だ。 「待ってください、ニコラさん。このプリンは相手の顔を見ながら食べるものなんですって」 ためらいなく蓋を開け、魔法がかかったカボチャプリンを食べようとしたニコラをとめる。凛とした彼の顔に、不審の色が波紋のように広がった。 「相手の顔を……? なぜそんなことを」 「私にもよく分かりませんが、そういうものらしいですよ」 (ごめんなさい、嘘です) 本当は、そうしないと魔法の効果が出ないことを知っている。 手本を見せるように、ヴィオラはカボチャプリンの蓋をとり、ニコラの顔を見ながら一口食べた。 「美味しいです」 ふわりと広がるカボチャの味。柔らかな甘さは口どけ滑らかなカボチャプリンを飲みこむと同時に、はかなく消えてしまう。 (この結果は、分かっていましたが) 問題はニコラだ。 このカボチャプリンは、相手の顔を見ながら食べると、自分がどれほど相手に好意を抱いているか分かるようになっている。好きであればあるほど、カボチャプリンは甘くなるのだ。 「そうか」 苦笑しながらも、ニコラは正面に座るヴィオラの顔を見ながら、菓子をすくった木匙を口に運んだ。 途端に、ニコラの顔がしかめられる。 「どうですか?」 「……甘い、な。かなり。だがうまい」 「甘かった? よかった……」 「なんだ? どうした?」 嬉しそうに破顔したヴィオラにニコラは驚く。ヴィオラは、ふふっ、と笑った。 「実はこのカボチャプリン、魔法がかかっているんです」 「魔法?」 「相手の顔を見て食べると、自分がどれだけ相手に好意を持っているか、分かるんですよ。好きであればあるほど、甘いんですって」 「そういうことか」 「はい。ニコラさんに嫌われてなくて、よかったなって」 安堵した様子のヴィオラに、ニコラは小さく息をつく。 「私がお前を嫌っているわけはないだろう。妹のような存在なのだから」 聞き捨てならない単語を聞いてしまい、ヴィオラは唇を尖らせる。 「妹……? 私の方がお姉ちゃんですよ」 「ああ分かった。姉だな」 半ば投げやりに肯定し、ニコラはふふっと笑うヴィオラを見ながら二口目を食べた。やはり甘いが、後を引くものではなく、カボチャの風味もしっかりしていておいしい。 これならどうにか、ひとつくらいは食べられそうだ。 「一応、聞いておくが、甘かったか?」 「もちろん。甘くておいしいプリンですよ」 「そうか。……なるほど、確かに味がしないな」 素っ気なく応じたニコラは、天井を向いてひと口食べる。微妙な顔になって感想を呟き、以後はヴィオラを見つつカボチャプリンを平らげていった。 (弟……) ふと、ヴィオラは胸に引っかかりを覚える。 (本当に?) 心のどこかが問いかけた。本当に、それだけの存在なのかと。 答えを出せないまま、彼女も菓子を食べ終えた。 ● 人もまばらな食堂の一角。 眼前に置いたカボチャプリンを、『杜郷・唯月(もりさと・いづき)』は神妙な面持ちで見つめる。 (自分の好きな気持ちが分かる、カボチャプリン……) なんでも、世俗派の魔女が魔法をかけたらしい。 相手の顔を見ながら食べることで、自分がどれほど相手を好いているか分かるそうだ。好きであればあるほど、カボチャプリンは甘く感じるらしい。 (なんだか疑わしいプリンですが……、それが本当なら……) 自分で食べたくて貰ったわけではなかった。 (瞬さんに、食べてみてほしい……) パートナーであり、恋人である『泉世・瞬(みなせ・まどか)』。彼が向けてくれる愛情を疑っているわけではないが、確かめてみたくはある。 しかし、なんと言って渡せばいいのか。 効果を知っているだけに、気軽に渡して食べてもらえる気がしない。妙に緊張していることをさとられ、心配される未来が見える。 (自然に……できるだけ自然に……) どうか、瞬さんが噂について知っていませんように。 「いづ~!」 「はいっ」 心が決まったら瞬を探しに行こう、と両手を握り締めていた唯月は、後ろから声をかけられて座った姿勢のまま跳ね上がりかけた。 「ま、瞬さん……」 「ごめんね、びっくりさせちゃったね~」 「あ、いえ、こんにちは……」 「こんにちは~!」 三十分くらい前まで一緒にいておきながら、この挨拶もないだろうと唯月は落ちこむ。瞬はまったく気にした様子もなく、自然な動作で唯月の正面の席に座った。 「あ、カボチャプリン! 向こうで配ってたやつだよね~?」 「はい、あの……」 「いづはやっぱり、甘いものに目がないね~」 「えっと、これは……」 「大丈夫大丈夫~、いづがぜーんぶ、食べちゃっていーよ~!」 「……え、あの……」 そうじゃないんです、瞬さんに食べてほしくて、今ちょうど持って行こうとしていたところで。 言葉は喉の奥で絡まり、声はうまく働いてくれない。もどかしく思いながらも、唯月は瞬の視線に促されるように、小瓶の蓋を開いた。 カボチャの香りがふわりと広がる。 (おいしそう、ですけど……!) ちらりと瞬を見ると、彼はにこにこと唯月を見ていた。 実を言えば、瞬が食堂の目立たない席に座る唯月を見つけて声をかけるまで、一分近い空白があった。 真剣さと緊張が入り混じった空気を発しているため、呼んでいいものか少し悩んだのだ。結局、唯月と話したいという願いが勝り、彼女の名前を口にした。 驚かせてしまったのは本当に申しわけないが、瞬の興味はすぐに机上の菓子に移った。 (あ、あのカボチャプリン! いづは知ってて選んだのかな?) 三十分前、魔術鍛冶屋に定期検査を頼んでおいた武器をとりに行った際、瞬はカボチャプリンと魔女の悪戯についての噂を耳にしていた。 (でもいづ、甘いものは単純に大好きだし、知らないで選んだ可能性も……) 彼女の正面に座り、未開封のカボチャプリンの小瓶を見ながら、瞬は表情に出さず考える。 (どっちにしても、いづの今の気持ち、ちょっと知りたい……かも?) 決して唯月の愛情を疑っているわけではない。彼女がぎこちないながらも恋心を向けてくれていることは、よく分かっている。 それでも、好奇心が芽生えてしまった。 (ちょっと強引な言葉運びだったかなぁ?) なにか言いたそうだった唯月は、勢いに押されるように今、カボチャプリンの蓋を外した。おいしそうなにおいは、瞬の鼻先もくすぐる。 (でも、どんな味だろー?) ほんの少し緊張しながら、瞬は唯月が食べるのを待った。 (瞬さんの顔を見ながらなんて……、うぅ……) 気恥ずかしい。 正面から彼を見据えるなんてとてもできず、唯月はちらちらと瞬の顔を見た。 相手の顔を見ないと魔法は効果を発揮しない、なんて厄介な条件をつけてくれたものだ。 (……このくらい見れば……、ええいっ) 腹をくくるというよりも、半ば投げやりな気持ちで唯月は瞬の笑顔を視界に捉えつつ、カボチャプリンを口に入れる。 一言で言えば、感動だった。 とろりとした舌触りに、口に広がるカボチャの香り。甘さは全身の力を溶かしてしまいそうなほど強いのに、くどくない。 「どーぉ?」 「……すごく……」 呆然としたまま唯月は応じる。 (すごく、甘い……。わたしはやっぱり、瞬さんが大好きなんですね……) 染み入るように深く思うと、頬に熱い水が流れるのを感じた。 「い、いづ!? どうしたの!?」 (あ、甘くなかったのかな!?) 焦った瞬が立ち上がり、うろたえる。唯月は指先で涙をぬぐい、首を左右に振った。 「ご、ごめんなさい……! すごく……、感動するくらい、すごく甘くて、びっくりして……、安心、して……」 「そ、そうなんだね……!」 その意味を理解した瞬の胸が、きゅっと甘く締めつけられる。 (いづってば、そんな……、抱き締めたくなっちゃうよ~!) しかしここは食堂で、抱き締めればきっと唯月は顔を真っ赤にして困惑するだろう。 「いづ、ちょっと待ってて!」 「え? はい……」 きょとんとする唯月を残し、瞬は食堂の近くの、カボチャプリンの配布所に向かった。 一秒も惜しい気持ちで入手して、足早に唯月の元に戻る。 「俺も食べる~!」 「は、はい……!」 緊張を満面にみなぎらせながら、唯月が頷いた。 一口食べて、瞬は瞠目する。 「すごく甘くて、おいしいよ~!」 「あ……」 かぁっと唯月の顔と耳が赤くなった。うつむいた唯月は、かすかな声を絞り出す。 「おいしい、ですね……」 「うん~!」 幸せそうな返答に、まだ熱が引かない顔に左手の甲をあてながら、唯月も胸を幸福で満たした。
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*** 活躍者 *** |
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[2] ヴィオラ・ペール 2018/11/05-22:00
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