~ プロローグ ~ |
「ぶえっくしょい!」 |
~ 解説 ~ |
●目的 |
~ ゲームマスターより ~ |
初めまして! 阿部ひづめと申します。 |
◇◆◇ アクションプラン ◇◆◇ |
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ぐ…苦しい… …!?どく、たー?…ゲホゲホッ…すみま…せ… 咳が、酷く… 来て頂いて申し訳ないんですが…うつすと悪いので、帰って頂ければ… 私は大丈夫です!多分!倒れてますがげほがほごほ!! うぐ…ぐうの音も出ない… すいません…何か色々させてしまって だるいのは確かですが、まあ食事ぐらいならとれます… 大丈夫ですか?ドクター?お茶まで淹れて、危険じゃ… う。私の方が危ないか… 甘えるのが、下手… …家族。そんなものは忘れました(すごく不機嫌そう) いえ。私が露骨に反応…ゲホゲホッ…す、すみません…! …ドクター、まるで母親みたいだな… 温かい…おやすみな…さ… 家族…とか、頼りになる身内とか…か… 俺にそんな、こと…が… |
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※喰人が風邪を引く方 ※黒憑が東の部屋に入るのはこれが初めて ■祓魔人行動 喰人をベッドに寝かせてから、額に冷水に浸したタオルをのせる等 一通りの世話を焼いてやる。 暇なので寝顔をスケッチでもしようかと画材を取り出す。 東の呼びかけに応えるように左手を握ってやる。 腹が立ったので嫌がらせ、結婚指輪を付けている薬指に甘噛み。 ■喰人行動 フラフラで喋る事も難しい状態。 黒憑なんて絶対部屋に入れたくなかったけど仕方ない。 昔から体調を崩しやすかったが、そういう時は大抵、妻の 紗愛(スズメ)が側に居た。 夢の中、自分の手を取って微笑む彼女の幻覚を見る。 呼び声は寝言となって黒憑の耳にも届くだろう。 |
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風邪を引いた方 アドリブ◎ 「…ごべんなざい(すごい鼻声 アンデッドだから風邪とか引かないと思ってた…」 アンデッドは風邪とか引かないはず 体がだるいのは気のせい …と思っているうちに重症化 鼻は詰まるわ熱は出るわでてんやわんや パートナーに説教されてしまいしょんぼり だ、だって風邪ひかないって思ってたし ちょっとしんどいくらいで休むの、迷惑かなって… 部屋は物が少ないシンプル …と思いきや隅っこの方にぬいぐるみが沢山 現在は強制的に寝かされている ごめんなさい、看病までしてもらって ご飯ありがとう、美味しい …気のせいじゃなければ手慣れてる? 不謹慎だけど嬉しい …覚えてないけど こんな風につきっきりで看病なんて メルが初めて |
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◆楓 部屋の扉を叩くと、弱々しい声が返ってくる そういえば、彼女の部屋に入るのは初めてだ 扉を開けるとふわりと漂う甘い香り そしてそれ以上に目を引くのが、部屋の至る所に乱雑に散らばった衣服や本 …と、ベッドに上半身を預けて突っ伏している彼女の姿 アユカさん、大丈夫ですか!? 慌てて彼女を抱き上げてベッドに入れる あまり無事ではないようですね 無理せず大人しくしていてください 果物なら食べやすいでしょう、林檎を持ってきたので切ってきます 台所に行くとそこも酷い有様だった …彼女が寝たら片付けよう 林檎を食べたら寝てくださいね 心配しなくとも、私はここにいます 精神的にも参っているのだろうか 今日の彼女はやけに素直で…調子が狂う |
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◆患者:瞬 病状:主に高熱、冷え ・瞬の部屋に出向くのは初めてだが 『彼が倒れた』と言う事だけで頭がいっぱいになっている 唯(あの瞬さんが倒れたって…だ、大丈夫でしょうか…) ・瞬はうなされながら眠っている ・看病もしつつ少しでも安らぐ夢をと唯月は彼の手を握る 唯(…凄く…苦しそう… 何か夢を見ていたりするんでしょうか… だとしたら…少しでも安らぐ夢に変わって欲しい…) 唯「…夢でまで…苦しまないで…」 ・唯月はこまめに熱を測り、一生懸命瞬の汗を吹く 唯(恥ずかしいとか…今は瞬さんが大変な時…! 寝ているうちに済ませちゃいましょう…っ!) 唯(長時間眠ってお腹空いてるでしょうから 何か軽い…簡単なものを作っておきましょう) |
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~ リザルトノベル ~ |
●甘えてほしくて 「ぐ……苦しい」 『ショーン・ハイド』は寮室の床に転がった状態でうめき声をあげた。秋風邪というものをすっかり舐めてかかっていた。後悔しても、時すでに遅しだ。身体が思うように動かないもどかしさに、熱っぽい手を額に当てる。 そんな彼の目の前で、扉がひらいた。 「ショーン? 大丈夫?」 『レオノル・ペリエ』は倒れこんだ彼を見るなり、目を丸くして、食事をのせたお盆を机のうえに置いた。 「……って大丈夫じゃないね。辛そうだ」 「ど、ドクター!?」 彼は驚いて叫び、あわてて上体をあげようとしたが、すかさず咳こんでしまった。 「す、すみま……せ、咳が酷く……来て頂いて申し訳ないんですが……うつすと悪いので、帰っていただければ……」 激しくせきこむ彼の背中をなでながら、レオノルは眉をひそめる。 「帰ってって簡単に言うけど、床に倒れたままで言っても全然説得力ないよ?」 「私は大丈夫です!多分!倒れてますが」 言葉をつづけようとしたショーンだったが、咳が止まらず、手で口元を抑えながら涙目になる。そんな彼をみたレオノルは、苦笑しながら彼のわきを支えて立ち上がらせると、ベッドに横たわらせた。 そして小さなキッチンでやかんに火をかけたり、コップの準備をはじめる。 ショーンは重い体を持ち上げて「すいません……なにか色々させてしまって」と彼女に謝った。情けないすがたを見られて恥ずかしかったが、それよりもこうやって彼女が自分のために動いてくれていることが落ち着かなかった。。 「あの、ドクター、大丈夫ですか? お茶まで淹れて……危険じゃ」 気づかわし気なショーンだったが、レオノルは振り返りもせず「大丈夫だって。ご飯は食堂から持ってきたし、お茶なら前にここで淹れたじゃん」と軽く返すのみだ。 「それよりおとなしく寝ていなよ。私より、ショーンのほうが危険だよ」 ぐうの音もでない正論である。ショーンは気まずくてしかたがなかったが、大人しく彼女の動向を見守るしかなかった。 レオノルは椅子をベッドの近くまで寄せて、ショーンの上体を支えて食事をわたした。 「どう、食べられそう?」とたずねる彼女に、 「だるいのは確かですが、まあ、食事くらいならとれます……」とスプーンを手に取る。気を遣ってくれたのか、温かく煮こまれたポトフだった。ショーンにはその甘さが彼女の優しさに感じられて、なんともいえない気持ちになった。 料理もお茶もおいしかった。 「ショーンは甘えるのが下手だよね」 ふと、レオノルが口をひらいた。 「甘えるのが、下手……」 「辛くて動けないなら助けを求めていんだよ。家族とか仲間とか、その為にいるんじゃない?」 ショーンの手が止まった。不機嫌そうに皿のなかに視線をおとし「家族、そんなものは忘れました」と言う。家族や頼りになる身内、そんなものが自分にあるとは思えなかった。 「……言っちゃいけない話題だったかな?」 「いえ。私が露骨に反応……げほげほっ……す、すみません……!」 辛そうにしている彼から、そっと皿をとりあげて「身体が温かくなったら寝るといい」と彼の額から前髪をよけた。 その仕草に、ショーンは彼女に母親の幻影をみた。彼女の触れた先から、少しずつぬくもりが宿っていく。 心のなかでおやすみなさい、と子供のときのように告げ、彼は意識を手放した。 「寝ちゃったか。優しい顔、してる」 眠りについた彼の頭をなでながら、レオノルは独り言ちた。 「……頼れって言うわりに、頼れない、か。ショーンのご家族は一体何をしていたんだろうね」 こんなに賢くて優しい青年を、どれだけまわりの大人は搾取していたことか。やりきれない怒りをおぼえながらも、レオノルは今はただ、彼が良い夢を見ていることだけを祈った。 ●今はまだ 「あ~殺風景な部屋だ」 『黒憑・燃(クロツキ・ゼン)』が部屋をのぞいて、第一声がこれだった。見事に整理整頓された部屋に、黒髪の男が倒れている。 「あ、アンタ……なにしに、来やがった」 『清十寺・東(セイジュウジ・アズマ)』はぐぐぐ、と体を持ち上げようとして、また床に倒れこんだ。彼は後悔していた。 秋風邪が流行っていると聞いて対策はしていたのだ。原因があるとすれば、目の前で自分をみおろしている黒憑に違いない。東は熱にうかされた思考のなかでも怒りを忘れなかった。 「なにしにって、カンビョウに決まってんだろ? おいしょっと」 「や、やめろ」 東の怒りもつゆ知らず、黒憑はよいしょと彼を抱え上げると、ベッドの上におろした。東が自分のことを警戒した目つきで見ていると気づき、肩をすくめる。 俺は自他ともに認める紳士的な男だぜ? 病人に手を出すほど腐っちゃいねぇよ。そんなふうに思いながらも、いたずら心がわきあがってくる。ただ東が警戒心をあらわにしていた瞳を閉じて、苦しそうに息をしはじめたのを見て、やましい気持ちがしぼんでいってしまった。「お~い」と呼びかけても返事がない。どうやら声を出すのも苦しいようだ。黒憑は鼻をならすと、きょろきょろと周囲を見渡した。ちょうどよく物干しざおにタオルが載せてあったので、水で濡らし、東の額のうえに置いてみた。 湯気が出そうなくらいだな、と思いつつ、しばらくは東の様子をながめる。 「……ひまだな」 思えば東といるときは丁々発止の応酬ばかりで、こうやって彼が黙っている場面というのは珍しかった。 やはり調子が狂う、と思いつつ、黒憑は鞄から画材をとりだした。苦しんでいる美しい男の絵なんて、さまになりそうなものだ。どうせ暇なことだし描いてやろうじゃねえか。 絵に集中しだした黒憑だったが、ときおり思い出したように立ちあがると、東の額の上のタオルを変えたり、汗をふいたりした。 東の夢のなかに、ぼんやりとした輪郭がうかんだ。いとおしい人。いつも自分が倒れたときに、彼女は手を握ってくれていた。 「……すずめ」 小さな声が聞こえて、スケッチブックから顔をあげた。東はなにかを求めるように、その左手を布団から出している。 「あ、なんだ?」 「す、ずめ……手を」 どうやら手を握ってほしいようだ。なんだカワイイところあるじゃねえか、と思いつつ、東の手を握った。すると彼は安心したように息をつき、手を握り返す。 東の手のひらは熱く、燃えるようだった。黒憑はしばらくそうしていたが、ふっと「すずめ」の言葉の真意にたどりついて、手を振りほどきたくなった。 すずめ、雀、紗愛って、コイツの女房の名前じゃねえか! 「ハ~~っ、ありえねぇ!」 黒憑は片手で額をおさえて、深いためいきをついた。最悪だ。目の前に俺という運命の人がいるにも関わらず、女房の名前を呼ぶだなんて! よっぽど手を離してやろうかと思ったが、すがってくるように東の手には力がこめられている。そんなに前の女房が恋しいか、と黒憑は眉をひそめた。 腹が立ったので、画材道具から筆をとりだし、こちょこちょと東の鼻先に突き出してみた。彼は嫌がってうなり、顔をそむけた。そんな仕草までも、自分を拒否しているように思える。 「あ~、くそっ」 握られたままの手を持ちあげ、口元にかかげる。白魚のように美しい彼の左手は、なんの飾りもついていないはずなのに、なぜか薬指にわっかがはまっているように見えてしかたがなかった。 黒憑は苛立ちのまま、薬指に噛みついた。歯でこの見えない指輪をかみちぎってやれたなら、どんなに良いことか。 口をはなすと、東の指にはうっすらと赤い歯形がついていた。それに満足した黒憑は、再び東の手をにぎった。今はこれで構わないのだ。今は、だが。 「さっさと治せ、バーカ」 ●優しい味 『相楽・冬子(さがら・とうこ)』の部屋をおとずれた『メルツェル・アイン』は、彼女のすがたを見るや否や「どうしてこんなになるまでほっといたのですか!?」と怒った。 「……ごべんなざい」 冬子は布団のすそを鼻まで持ちあげて、しょんぼりとした。鼻づまりがひどく、ぐずぐずの声である。 「アンデッドだから風邪とかひかないと思ってた……」 「アンデッドは風邪ひかない? そんな訳がないでしょう、このお馬鹿さん!!」 「だ、だって、ちょっとしんどいくらいで休むの、迷惑かなって……」 「もうっ、ワタクシが迷惑だなんて思うはずないでしょう? 風邪は引きはじめの治療が肝心なのですよ!」 メルはほおを膨らませた。 「トーコはこれだから放っておけないのです!」 腕まくりをすると、手洗いうがいをすませて「熱は測りましたか? 薬はどこですの?」と部屋をかけまわる。 部屋のなかは一見すると最低限のものしかないように思えたが、隅のほうにぬいぐるみが山積みになっている メルはその中から2、3個見繕うと、ベッドの横に置いた。 「トーコ、食欲はありますか?」 「え、うん……」 おとなしくうなずく彼女に、メルは「よかったです」と顔を明るくすると、さっそくキッチンに立った。冷蔵庫をのぞいて、てきぱきと料理をはじめる。 その様子をベッドから見守っていた冬子は「ごめんなさい、看病までしてもらって……」と肩をすぼめた。 メルはネギを切りながら「謝るならしっかりと治すことです」と笑った。 10分もたたないうちに、卵雑炊ができあがった。メルは器にもりつけたそれを片手にベッドの脇にすわると、スプーンに盛った一口分をフーフーと冷ましてから「どうぞ」と冬子に差し出した。 「え、えっと、ありがとう……」 照れながらも、突き出されたスプーンをくわえる。卵の優しい味が寒気のする体をほぐしていくようだった。 自然と「おいしい」という言葉がもれて、メルは「そうでしょう、そうでしょう」とほほえんだ。 「……気のせいじゃなければ手慣れている?」 冬子は首をかしげた。 「手慣れている?」 「うん……これも、すごくおいしいし」 雑炊を指さすと、メルは「そうですわね」となつかしそうな顔をした。 「ワタクシを造った魔術師の……お父様は体が弱かったので。よく看病していましたから」 「そうなんだ」 雑炊を食べ終わると、冬子は横にさせられ「しっかり眠るのです」と言われた。 「うん……ありがとう」 「大丈夫ですわトーコ、ワタクシがちゃんと治るまで面倒を見ますから」 布団をかけなおしながら、メルは胸を張った。 冬子は自信満々な彼女にくすりと笑った。こんなときでも、メルがいてくれると頼もしい。 「不謹慎だけどうれしい……」 つぶやいた冬子に、メルは「なにがですか?」と首をかしげた。 「覚えてないけど、こんな風につきっきりで看病なんてメルが初めて、だから……」 だれかに優しくしてもらうことが、こんなにうれしいことだなんて。冬子は感謝の気持ちをこめて「ありがとう」と言った。 メルはきょとんとしたが、すぐに「よろこんでくれたなら、ワタクシもうれしいです」とほほえんだ。 「眠るのです、トーコ。そばにいますから」 冬子は目をつむった。すぐそばにメルの気配がするのが、たまらなく安心した。 眠りに落ちていくあいだにも、彼女から食べさせてもらった優しい卵の味が体を温めている。 つぎに起きたときは、ちゃんとメルに優しさのお返しをしてあげられますように。そんな風に思いながら彼女は眠りについた。 ●今日だけは素直に 部屋のまえで『花咲・楓(はなさき・かえで)』は咳払いをした。彼女が体調をくずしたと聞いて見舞いにやってきたはいいものを、緊張がとれない。 よし、と意気込み扉をたたく。 「アユカさん? 花咲ですが」 返事がない。心配になってもう一度、扉をたたく。すると「開いてるから入って~……」と弱々しい声が返ってきた。 想像以上に体調がよくないのだろうか。楓は不安に思いながらも、扉をひらいた。ふわりと甘い香りがただよい、どきりとする。 そういえば彼女の部屋に入るのは初めてだったな。部屋のなかを見渡すと、アンティーク調の家具でそろえられた部屋は女性らしかったが、あちこちに衣服や本が散らばっており綺麗だとはいいがたかった。『アユカ・セイロウ』らしくないな、と考えながらベッドに視線をうつし、仰天する。アユカがベッドに上半身を預けてつっぷしている。 「アユカさん、大丈夫ですか!?」 「……かーくん」 慌てて彼女を抱きあげると、服ごしでも伝わってくるほど体が熱い。 「どうしてこんなことに」と戸惑っていると、アユカはうつろな瞳で「しばらくなにも食べてなかったから、なにか作ろうと思ってキッチン行ったんだけど……結局ダメだった」と言った。 ベッドに彼女を横たわらせ、布団をかぶせる。これほど体調が悪いとは思っていなかった、と心配な気持ちが増していく。 額に手をのせてみると、かなり熱かった。楓は顔をしかめ、 「あまり無事ではないようですね……無理せず大人しくしていてください」 カバンの中をあさり、林檎をとりだす。 「果物なら食べやすいでしょう、林檎を持ってきたので切ってきます」 「ありがとう……」 アユカは恥ずかしそうにうつむいた。部屋のなかがめちゃくちゃなことに、今更気づいたのだ。楓にはもっとちゃんとした状態で見せたかった……と思えども、彼が気にした様子はない。 楓が台所に立つと、そこも酷い有様だった。彼女の性格を考えると、普段からこんな様子ではないのだろう。 彼女が寝たら片付けよう、と考えながらリンゴを食べやすい大きさに切る。 アユカのところへ持っていくと、彼女はゆっくりと上体を起こして「林檎……食べさせて」と楓の服のそでを掴んだ。彼の心臓が宙がえりをする。普段アユカがこんなふうに甘えてくることなど、滅多にない。 「かまいませんよ」と平常心をよそおいながら、林檎にフォークをさす。彼女の口元へ持っていくと、小動物のような可愛らしい一口に、フォークを持つ手が震えそうになった。 「えへへ……おいしい」 ふわりとアユカがほほえむ。熱っぽい彼女のほおは赤らんでおり、瞳もうるんでいる。 ああ、なんて可愛いんだろう。楓は照れていることに勘づかれないように視線をそらすと、 「林檎を食べたら寝てくださいね」とそっけなく言った。 「うん……」 アユカは子供のようにこくりとして、林檎を食べおえると、ベッドにごそごそともぐりこんで、楓を見あげた。 「かーくん……」 アユカは小さな声でつぶやいた。 「……わたしが眠るまででいいから、ここにいて」 布団を鼻のうえまで引き上げて、不安げに楓を見つめる。 「ひとりだと……寂しいから」 アユカの言葉に、楓は挙動不審になりそうだった。精神的にも参っているのか、今日の彼女はやけに素直で、とても可愛らしい。 「心配しなくとも、私はここにいます」 手をさまよわせた後、楓は意を決して手のひらを布団のうえに置いた。体温が彼女の不安を溶かしてくれれば、と思ったのだ。 アユカはほほえみ「かーくん、ありがとう」と言い、目をとじた。 「とても……あったかいよ」 ●あなたに夢を 「ま、瞬さんがたおれた……?」 『杜郷・唯月(もりさと・いづき)』は顔を真っ青にした。風邪が流行っているとは聞いていたが、まさか彼まで毒牙にかかるとは考えていなかったのだ。 一も二もなく寮母に許可をとり、彼の部屋におもむく。 (あの瞬さんが倒れたって……だ、大丈夫でしょうか……) 廊下を早足でわたり、彼の部屋のまえにたどりつく。深呼吸をして、そっとノックをするが声はかえってこない。 「瞬さん……?」 もしかして眠っているのではないだろうかと思い、唯月は引き返すか迷った。しかしどうしても彼の顔だけは見たいと思い、そっとノブをひねる。 扉は抵抗なく開き、彼女はそっと顔をのぞかせた。彼の部屋は初めて見るが、シンプルで男らしい部屋だった。音をたてないように中に入り、ベッドに近づく。 そっと布団をのぞきこむと、『泉世・瞬(みなせ・まどか)』は眉をよせて眠っていた。熱が高いのか、荒い息をはいている。 (……凄く苦しそう) ベッドの横にひざをつき、こめかみを伝っていく汗をぬぐう。 (何か夢を見ていたりするんでしょうか……) それにしても良い夢ではなさそうだった、瞬が小さくうめく。辛そうな様子に耐えかねて、唯月は手をのばした。 (……少しでも安らぐ夢に変わって欲しい……) 布団から出ていた彼の手を包みこむ。汗ばんだ体温は苦しさの象徴のようでもあったが、同時に瞬がそれでも戦っていることの印のようにも思えた。 「夢でまで……苦しまないで……」 唯月は合わさった手の平に、額をつけた。それしかできない自分がもどかしかったが、瞬の手に力がこめられたのを感じて顔をあげる。 瞬は目を覚まさないが、自分がここにいると伝わっているような気がした。 (勝手に入って申し訳ない気もしますが……でも……) 唯月は手をそっと離すと、彼の看病を始めた。 体温計を常備しているだろうか、と机に近づく。台本や文房具が散らばっているなかに、見覚えのあるタイトルを発見して、思わず手にとった。 「これ……『ロメオとギュレッタ』……」 ぱらぱらとめくると、台詞やト書きのあちこちに印や書きこみがある。唯月はそれをぎゅっと胸にかかえた。 きっと熱を出しながらも、台本に夢中になって向かっていたのだろう。そのすがたが目に浮かぶようで、胸がしめつけられる。 (早く元気になってほしい……) 体温計は棚のなかに収まっていた。ついで濡れタオルを用意し、眠ったままの瞬に向き合う。 布団をめくり、彼の首元に手をのばした。喉がごくりと動き、唯月の手がびくりと止まった。瞬が目を覚ます様子がないのは構わないのだが、無防備な状態の彼に触れることにためらいを覚える。 唯月はタオルをぎゅっと握りしめ、首をぶんぶんと振った。 (恥ずかしいとか……今は瞬さんが大変な時……! 寝ているうちに済ませちゃいましょう……っ!) 彼を起こさないように、そっと汗をふきとっていく。熱は高いようだったが、汗をぬぐったことで気持ち悪さがなくなったのか、瞬の呼吸も先ほどより落ち着いて聞こえた。 (長時間眠ってお腹空いてるでしょうから、何か軽い……簡単なものを作っておきましょう) 唯月は台所へ向かって、冷蔵庫をのぞいた。一通りのものがそろっている。 ふ、とベッドの方をふりかえる。こんな状況で考えることではないかもしれないが……。 (なんだか……わたし、奥さんみたい……) ぼんっと彼女の顔が赤らんだ。首をぶんぶんと振って、台所に両手をつく。 10分後、起床した瞬が真っ赤な顔をした唯月をみて、風邪をうつしたのではないかと心配するのは、別のお話。
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*** 活躍者 *** |
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該当者なし |
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