~ プロローグ ~ |
俗に、そのことに触れると人を怒らせる話題のことを「地雷」と言う。 |
~ 解説 ~ |
今回のエピソードはプロローグ同様、巡回の指令後喫茶店でひと休みをしている場面から始まります。 |

~ ゲームマスターより ~ |
最近寒いですよね~。初雪もそろそろでしょうか。 |

◇◆◇ アクションプラン ◇◆◇ |
|
||||||||
![]() |
◆飛び出したのは唯月 地雷:瞬が自分の命を顧みない発言 ・これまで唯月は事を大きくしたくないとすぐ許していた ・しかし今回でプッツン切れて飛び出してしまう 唯「わ、わたしがどれだけ心配しても…考えても… 瞬さんには…全く…届いてないんですね!!」 瞬「え?」 唯「瞬さんなんて…もう知りません!!」 瞬「あ、いづ!待って!」 ◆追いついて ・同じような事を言う瞬に唯月は平手打ち 瞬「待って!いづ! 俺はやっぱりいづを傷つけてるの?苦しめてる?」 唯「っ!瞬さんの馬鹿!!」 瞬「!」 唯「どうしてそんな事、簡単に言うんです? あの時一緒に決めたじゃないですか! それに瞬さんの為ならわたしだって傷つくのも苦しむのも耐えられるのに!」 |
|||||||
|
||||||||
![]() |
※アドリブ歓迎します (紅茶を飲みながら) 今回の巡回も無事に終わって良かったね。 特にあの溝は、まだ子供のララの身長じゃないと 入れなかったかな。 …ララ? …(はっとする)ごめん、今のは取り消す! ララ、どこへ行くんだ、ララエル!! (僕は馬鹿だった…ララがまだ幼い事を気にしているのは 知っていた筈なのに) …マスター、傘を一本貸して頂けますか。 (ララエルに追い付き、肩を引き、ララエルにだけ傘を差す) …ララ、ごめん。無神経だったよ。許して欲しい。 ああわからないさ! だから何でも話して わかりあいたいんだ、君と! (ララエルを抱き締めキスをする) |
|||||||
|
||||||||
![]() |
調子のよくなさそうなシリウスを気にしながら わかっていたけれど 浄化師のお仕事もたいへんね 今日みたいな巡回から魔物の討伐まで… ぽつり 返ってきたシリウスの言葉が胸に刺さる …わたしでは役に立たない…? 少し驚いたようなシリウスの顔 ごめんなさい 先に帰るね 情けなさに涙をにじませ 店を飛び出す 自分を呼ぶ彼の声が聞こえる 少しの意地と恥ずかしさから 聞こえないフリ 離して…っ 捕まれた腕を振り払おうとするが 彼の顔の青さに絶句 …シリウス? 抱き締められて顔を赤く ぽつぽつと語られる言葉に 不器用な彼の精一杯が聞こえた気がして ー心配、してくれたの? 冷たくなった頬に触れ 翡翠の目に笑いかける ううん わたしがちゃんと聞けばよかった |
|||||||
|
||||||||
![]() |
服装は黒の戦闘服(神父服風 ・巡回時 結果論だがサーシャの判断で動いた行為は功を奏し早期決着となる 先程の事に不満げ 不機嫌な表情で喫茶店で珈琲を一気に飲む 不穏な空気に テーブルをバンと叩き立ち上がり外へ駆け出す 振り返り差し出された傘を払う ・台詞 何故俺の言う事を聞かなかった? …常々思うんだが、お前は俺に伝えるべき言葉が圧倒的に足りないように思える わざと言ってない事があるだろう そういう態度がッ…!もういい(舌打ち 俺の事をまだ子供だと思っているのか? 内心見下しているのが透けて見える お前のそういう所が嫌いだ(対等でいたい …サーシャ、俺はもう昔とは違う 何が必要か、その選別は俺が決める(サーシャの十字架掴んで離す |
|||||||
~ リザルトノベル ~ |
木造の扉を開けると上部に設置されたベルがカラン、といい音を立て、店内の暖かい空気が『杜郷・唯月』と『泉世・瞬』の頰を撫でる。 「うわぁ~、暖炉だ」 店の奥に赤々と火が燃える暖炉を見つけ、瞬が喜びの声をあげる。 初老に差し掛かった店のマスターが人の良さそうな笑顔で唯月と瞬を迎えてくれた。 「どうぞ、お好きな席へ」 「どこに座ろうか」 玄関脇の傘立てに和傘を立てて、瞬は唯月に微笑む。 「窓際は眺めはいいけど、今日みたいな日は寒そうだし~、そうだ!せっかくだから暖炉の側がいいね〜。あ、でも近すぎると熱いから少し離れた席で~」 と、瞬は良い席を探して歩く。 「いづ、ここ適温! いづはこっちの暖炉の近い方で、ちゃんと体を温めてね~」 瞬は1番良さそうな席を見つけると、唯月のために椅子を引いてくれる。 瞬が持ってきていた和傘のおかげで雨に濡れた部分は少なかったが、それでも彼の気遣いが嬉しい。 「はぁ~、あったかいとほっとするよねぇ~」 席についた瞬は幸せそうに息をつく。 「街の中も平和で……安心しました」 と、今日の巡回を思い返して唯月も微笑む。 「そうだねぇ~、魔女絡みの事件も一段落したしね」 2人の安堵を代弁するかのように、店内にコーヒーの心安らぐ香りが満ちていく。 少し前まで、アークソサエティは魔女によるテロの脅威にさらされていた。 しかし、怨讐派の魔女たちとは戦いを経て和解し今の平和が訪れた。唯月と瞬もその戦いに参加し、平和を守った立役者の1人である。 「あの戦い……勝利できて、本当に良かったです」 「ハラハラすることも多かったけどね~。いづが魔女庇ってばかりだったから」 瞬は呑気に苦笑する。 「そ……そうですか?」 「いづがそんな戦い方をするくらいなら、俺がずっとそばにいるよ。いづの盾になるからね」 瞬はいつもの笑顔で言い放つ。だが、唯月の顔は強張った。 そんな戦い方をしたら、自分がどうなるか瞬だって知っているはずなのに。 「俺ならほら、怪我とかどうってことないし。なんたってアンデッドだからね。例え暴走状態になったとしてもなんとかなるよ~」 唯月の表情の変化に気付かなかったのか、それとも気付いた上で場を和ませようとしたのかはわからない。瞬としては、ちょっとした冗談のつもりだったのだろう。 だが、唯月には耐えられなかった。 これまでも、何度か瞬が自分の命を顧みない言動は度々あった。それらは唯月の心をちくちく刺してはいたけれど、事を大きくしたくないと看過していた。 けれど、水を溜め続けた瓶はいつか溢れる。 「わ、わたしがどれだけ心配しても……考えても……瞬さんには……全く……届いてないんですね!!」 テーブルの上でぎゅっと握った拳が小刻みに震える。 「え?」 滅多にない唯月の大声に瞬は困惑した顔を見せる。 彼は唯月がどんな思いでいるか知りもしないから、そんな表情になるのだ。そう思うと尚更唯月の頭に血がのぼる。 「瞬さんなんて……もう知りません!!」 椅子が音を立てるのも構わず立ち上がり、唯月は店の外に飛び出した。 「あ、いづ! 待って!」 瞬も慌てて立ち上がり、ほぼ本能的に唯月を追いかける。 「待って! いづ!」 瞬は唯月の肩に手をかける。振り向いた唯月の、キッと瞬を睨みつける瞳に涙が溜まっていた。 「俺は本気で、いづのためならどうなっても構わないんだよ……それはだめなの?」 (また、そういうことを……) 「瞬さんは……わかってない……っ」 喉から絞り出すような声と共に、唯月の平手が瞬の頰に飛んだ。 瞬は眉尻を下げると捨てられた子犬のような目で唯月を見つめる。 「俺はやっぱりいづを傷つけてるの? 苦しめてる?」 唯月の胸もぎゅうと締め付けられる。 「っ! 瞬さんの馬鹿!!」 怒鳴られて、瞬は目が覚めたような顔で唯月を見つめ返す。 「どうしてそんな事、簡単に言うんです? あの時一緒に決めたじゃないですか! それに瞬さんの為ならわたしだって傷つくのも苦しむのも耐えられるのに!」 一気に叫んで、唯月は、はぁはぁと肩で息をする。ぽろぽろと、涙が頰を伝う。 そんな唯月の背中に、瞬の長い腕が回され引き寄せられる。 「っ……」 頰に当たった瞬の胸は、雨で濡れていたけれど暖かかった。 「ごめん……ごめん……」 と、瞬は唯月の耳元で繰り返す。 大切な人が苦しむのを見るくらいなら、自分が苦しんだ方がいい。 瞬も唯月も同じ気持ちだということを、瞬は知った。 だが、同じ気持ちでいるからこそ相反する。 唯月が戦いで傷つくくらいなら、自分の心がどうなろうと、身を呈して守りたい瞬と。 瞬の心を犠牲にするくらいなら、どんなに身体が傷つこうが彼に頼らず戦おうと決めた唯月。 「うう……」 唯月は瞬の胸に額を付け、下を向く。涙が落ちて、地面の水溜りと同化する。 「どんなに心が壊れようとも……俺の心はいづの事が……唯月の事が大切で仕方ないんだよ!」 「!」 瞬は唯月を抱き締める腕に一層力を込めた。 瞬が唯月を守れば守るほど瞬の心は蝕まれ、それが唯月を苦しめる。 だから唯月は1人で戦う。けど、その姿は瞬の胸を締め付ける。 お互いが、相手を守りたいのに、守りたいがために、苦しめる。 浄化師である限りこのジレンマを抱えていかなければならないのだろうか。 雨は2人を濡らし続ける。街並みの風景が雨で燻る。まるでよく見えぬ2人の未来を表しているかのように。 路傍に掘られた排水用の細い溝。 そこに、『ララエル・エリーゼ』は自身が汚れるのも厭わずに降り立った。 溝は転落防止のために要所要所に煉瓦製の蓋がかけられている。 ララエルは腰を屈めて薄暗い蓋の下に手を伸ばす。指先が、しっとり濡れた柔らかな毛に触れる。 「いましたよ!」 弾んだ声で告げると、ララエルはさらに手を伸ばし、蓋の下から震える子犬をそっと引き寄せた。 ララエルは側溝の脇で待つ『ラウル・イースト』に子犬を渡す。ラウルはその子犬を、そばでおろおろして待っていた女性に手渡すと、今度はララエルの手を引き側溝を登るのを手伝ってあげた。 「ありがとうございます! これで、旦那様に叱られずに済みます!」 どこかの貴族宅の使用人らしき女性が、子犬を大事そうに抱いて頭を下げた。 主人の飼い犬の散歩中、ふとした不注意から子犬が側溝に落ち、パニックに陥った子犬が蓋の下に逃げ込んでしまい途方に暮れていたところ、巡回中のラウルとララエルが通りかかった、というわけだ。 彼女を見送ったのち、ラウルはララエルに向き直る。 「お手柄だったね、ララ」 と、ララエルの鼻の頭についた泥汚れを親指の腹でそっと拭い取る。 「はい、良いことができました!」 照れたような笑顔のララエルに、ラウルも頰を緩める。 「いやあ、本当にね」 側溝の向かいの喫茶店の扉が開き、中から店のマスターが顔を出す。 「あそこのご主人は使用人に対する当たりがキツイので有名でね。彼女も命拾いしたよ」 「……そうなんですか」 人を人とも思わぬ貴族の存在は珍しくもないが、それでも、ラウルの表情は曇る。だが、そんな貴族から僅かばかりでも人を救えたのなら、喜ばしいことだ。 「私からもお礼を言うよ。どうだい、お礼がわりにうちで一休みしていかないかい。雨も降ってきたことだし」 ラウルとララエルは顔を見合わせた。 「そうだね、少し温まってから帰ろうか」 「はい!」 両手でカップを包み込むように持ち、ミルクティーを一口飲むとララエルは、ほうっと息をついた。 「あったまりますねぇ、ラウル」 幸せそうな笑顔のララエルにラウルも紅茶を楽しみながら頷く。 「今回の巡回も無事に終わって良かったね」 「そうですね、今回も何事もなくて良かったです!」 「特にあの溝は、まだ子供のララの身長じゃないと入れなかったかな」 ラウルは先ほどの場面を思い返し、言った。自分の身体特徴を活かして活躍したララエルを褒めているつもりだった。だが。 「子供……」 ララエルの顔からゆっくりと笑みが消えていった。 「……ララ?」 ララエルの瞳が悲しげに潤み始め、ラウルは、はっと気づく。 「ごめん、今のは取り消す!」 しかし、もう遅かった。 「やっぱりラウルは、私を子供と思ってるんですか……?」 ぱちりとまばたきと同時にララエルの両眼から丸い雫がぽろぽろと落ちる。 ララエルは涙を隠すようにラウルから顔を背けると、椅子を降りて出入り口に向かって走り出す。 「ララ、どこへ行くんだ、ララエル!!」 扉に取り付けられたベルがけたたましく鳴り響く。雨の中に飛び出していったララエルの背中が遠くなる。 「ララエル……」 ラウルは自分の不用意な言葉がララエルを深く傷つけてしまったことを悟り、ぐっと唇を噛んだ。 (僕は馬鹿だった…ララがまだ幼い事を気にしているのは知っていた筈なのに) 今すぐに大声で自分を罵りたい気分であったが、そんなことをしている場合ではない。冷静さを取り戻すため、ふるりとひとつ、頭を振る。 「……マスター、傘を一本貸して頂けますか」 店のマスターは快く傘を貸してくれた。 ラウルはそれを掴むと、ララエルを追って外に出た。 (誰に言われてもいい、ラウルに子供だって思われるのが嫌なのに……! 好きだから……ラウルが好きだから……!) 足がもつれてその場に膝をつく。ララエルは大きくしゃくりあげながら、よろよろと立ち上がる。 後方から、水に濡れた路を走る足音が聞こえ、ララエルは足を早める。が、すぐに追いつかれてしまった。 ぐっと肩を引かれたと思うと、頭上に傘を差される。 真剣な眼差しでこちらを見つめるラウルがいた。彼の差し出す傘がララエルを雨から守ってくれると同時に、雨粒は容赦なくラウルの端正な顔を濡らしていった。 「……ララ、ごめん。無神経だったよ。許して欲しい」 「……っ、離してくださいっ!」 ララエルは身を揺らしてラウルの手を払う。 「ラウルには私の気持ちなんてわからないくせに!」 ララエルが大声を上げるとラウルも負けじと言い返す。 「ああわからないさ! だから何でも話してわかりあいたいんだ、君と!」 ラウルはしっかりと、ララエルの手首を握った。 「……! ラウル……」 また新たな涙が溢れ出て、ララエルはラウルの強い眼差しから逃げるように顔を背けた。 涙でくしゃくしゃな顔なんて、本当に子供みたいだから見られたくなかった。 「わだぢだって……わがりあいたいですよお……っ」 ぐすぐすと鼻を鳴らしながら懸命に訴える。 「ララ……」 ラウルはララエルの手首を掴んでいた手を離すと、そっと彼女の頰に触れ、優しくこちらを向かせる。 「ラウ……」 ララエルがラウルの名を呼び終わる前に、ラウルの唇がララエルの言葉を奪う。 外気で冷たくなったララエルの柔らかい唇は、涙の味がした。 ラウルはララエルの頰に当てていた手を滑らせるように背中に回すとぐっと抱きしめる。 2人はしばし、そのままでいた。ララエルの唇が、ラウルの唇と同じ温かさになるまで。 街に時を告げる鐘が響いた。 「依頼にあった巡回の時間も、もう終わりね」 『リチェルカーレ・リモージュ』は、巡回を問題なく終えたことにほっと安堵の顔を見せる。 「そうだな」 短く答えた『シリウス・セイアッド』は、表情を崩さずに息だけをつく。 シリウスは元々表情が豊かな方ではないが、ここのところ何というか……眼の輝きがないようにリチェルカーレは感じていた。 疲れているのかもしれない。 なにしろ、ついこの間まで怨讐派の魔女があちこちで事件を起こし、その対応に追われていたのだから。 リチェルカーレはシリウスの顔を見上げ、提案する。 「雨も降ってきたことだし、少し休んでいきましょう?」 リチェルカーレは、少しでもシリウスが安らげる時間を作ってあげたかったのだ。 喫茶店の中は良い香りが漂い、テーブルの一つ一つに飾られた花が、リチェルカーレの心を和ませた。幼い頃から花に慣れ親しんだ彼女にとって、それは安らぐと同時にほんの少し、実家を思い出し寂しくもさせた。たまに実家に顔を出してはいるのだが。 実家から教団へ戻る際に「浄化師のお仕事頑張ってね」とリチェルカーレを送り出す弟妹の顔を思い出す。 「わかっていたけれど、浄化師のお仕事もたいへんね。今日みたいな巡回から魔物の討伐まで……」 苦笑するリチェルカーレの瞳を見て、シリウスも僅かながら目元を細める。 共に苦笑しているのだと、思った。そうだな、大変だなと共感の言葉をかけられるものだとばかり。 だが、ぽつりと返ってきた言葉に、リチェルカーレは絶句する。 「浄化師になんてならなければ良かったのに」 「………え」 リチェルカーレの口元からみるみるうちに笑みが消えた。 店内の暖かい空気もコーヒーの良い香りも美しい花も、シリウスの心を癒すことはなかった。 魔女との戦い、そしてその後の悪夢。立て続けに心を抉られるような出来事が起こり、今のシリウスは心の余裕を失っていた。 だから、自分の言葉が相手にどう受け取られるか、そこまで考えることは出来なかった。 「……わたしでは役に立たない……?」 いつも小鳥の唄のように軽やかなリチェルカーレの声が、静かな悲しみを湛えた沈んだものになり、シリウスははっと目を見開いた。 緑と青の、リチェルカーレの大きな瞳に涙が盛り上がる。 シリウスが、自分の言葉が彼女を傷つけたのだと理解した時にはもう、リチェルカーレは席を立ち上がっていた。 「ごめんなさい 先に帰るね」 懸命に感情を抑え、リチェルカーレはそれだけを告げシリウスに背を向け、出入口へと歩き出す。 悲しみよりも、情けなさが上回っていた。 力不足はわかっていた。 それでも皆の役に立ちたくて、シリウスの力になりたくて頑張ってきたけれど。頑張っても届かない、と突きつけられた。 そう思えばまたさらに涙がにじむ。 この場で泣き出しそうになり、リチェルカーレは走り出した。 冷たい雨が降りしきるのも構わず外に出る。 「リチェ、待て……っ」 離れていく彼女の後ろ姿。このまま居なくなってしまうのでは、という思いがシリウスの胸を過ぎる。途端、彼は平静を保てなくなる。 いなくなる。いなくなる……? リチェルカーレの後ろ姿と、幼い頃の記憶が重なる。 大切なものが、なにもかも。自分の目の前から、いなくなる………? 目の奥がぐらりと揺れて呼吸が詰まる。 乱れる息をなんとか整えながら、シリウスはリチェルカーレを追って外に出た。 「リチェ……っ!」 雨の冷たさは、少しずつリチェルカーレの頭を冷やしていった。 自分が否定されたように思い飛び出してしまったけれど、もっと話し合う余地はあったのではないか。 だけど、その場にいられなかったほど悲しかったのも事実で。 「リチェ! 待ってくれ!」 シリウスが自分を呼ぶ声が聞こえる。 雨の中人目もはばからず追いかけてくれている。 それに応えるべきか。でも。 リチェルカーレの足は速度を失うが、少しの意地と恥ずかしさから、シリウスの呼び声には聞こえないふりで、振り返らない。 「リチェ、話、を……」 「離して……っ」 掴まれた腕を振り払いざまに、シリウスの顔が眼に映り、リチェルカーレの腕から力が抜け落ちた。 雨で冷えた、それだけではあり得ないほど、彼の顔は青褪めていたから。 その瞬間、リチェルカーレから意地も恥も消え失せた。 「……シリウス?」 そっと彼に手を伸ばすと、シリウスはそれを無視して彼女の細い背中を抱き締める。 「……っ」 突然の抱擁になすすべも無くリチェルカーレは顔を赤らめる。 「――っ、役、に 立たないなんて 言ってな……」 シリウスは乱れる呼吸で懸命に告げる。 「お前、は 何も 悪くない」 リチェルカーレも、シリウスの言葉に真摯に耳を傾けた。ぽつぽつと語られる言葉に、不器用な彼の精一杯が聞こえた気がして。 「ただ こんな危険なことしなくても って……そう 思……」 「――心配、してくれたの?」 シリウスの冷たくなった頬にリチェルカーレの柔らかい指先が触れる。 驚いたように自分を見る翡翠の瞳に、リチェルカーレは暖かな眼差しで微笑んだ。 「――ごめん 傷つけた」 「ううん わたしがちゃんと聞けばよかった」 穏やかに言うリチェルカーレを、シリウスはもう一度そっと抱きしめた。 リチェルカーレから向けられ暖かな眼差し。無くしたくないと、シリウスははっきりと自覚した。同時に、そんな願いを持ってはいけないのだとも思い、胸に痛みが宿る。 それでも今は、もう少しだけ……抱きしめていたい。 遠くからの悲鳴を耳に捉え、『アレクサンドル・スミルノフ』はぴくりと顔を上げる。 「何かあったのか」 アレクサンドルが辺りを窺うのを見て、『ヴァレリアーノ・アレンスキー』が訊く。 「どうやら、向こうで何か騒ぎがあるようなのだよ」 アレクサンドルが住宅地のはずれを指差して言う。 「様子を見る必要があるな」 ヴァレリアーノの言葉にアレクサンドルも頷き、2人は駆け出した。 騒ぎの中心地が近づくにつれ、大勢の悲鳴が聞こえ、逃げてくる人々とすれ違う。 「た……助けてくれ、盗賊だ。馬車が襲われていて……っ」 「大丈夫か。盗賊と言ったな? 一体どんな……」 ヴァレリアーノが詳細を聞こうにも、人々は逃げるのに夢中でろくな答えは返って来ない。 「サーシャ、本部に連絡を……って!」 アレクサンドルは構わずに現場へ直進する。 「待て、もし2人で手に負えない人数ならどうする気だ?」 止まる気配のないアレクサンドルの背を苛立たしげに睨みつけ、ヴァレリアーノはその後を追う。 「正面から行く気か?」 まずは相手の視野に入らぬ位置から偵察し戦略を立てるのが安全だ。 だが、それでもアレクサンドルは足を止めない。 現場に到着すると、人が逃げ出した馬車の中で金品を物色している盗人が1人。 「……な……!」 まさか、たった1人か? 皆あれほど大騒ぎしていたというのに。 ヴァレリアーノは周囲に視線を巡らす。他に盗賊の仲間の気配はなさそうだが。 そう思っているうちに、アレクサンドルはすでに矢をつがえている。 盗人がこちらに気付いて顔色を変えるが、放たれた矢がその肩口に刺さり、為すすべもなく倒れた。 店内に流れる穏やかな音楽とは裏腹に、ヴァレリアーノは不機嫌を隠しもしない表情でコーヒーを一気に飲み干した。 「こういうものはもう少しゆっくり楽しむものなのだよ」 不機嫌の元であるアレクサンドルはヴァレリアーノとは対照的に涼しい顔でコーヒーを啜っている。 「そんな気分じゃない」 ヴァレリアーノは頬杖をつきぷいと窓の外に顔を向ける。雨に煙る街並みが見えた。 「先程のことが、まだ不満なのかね」 アレクサンドルはため息をつく。 巡回中偶然遭遇した盗賊。 本部に連絡が必要だろうし、少なくとも、もっとよく状況を見てから動くべきだと言うヴァレリアーノは考えていた。もし仲間のいる窃盗団だったら揃って殉職の憂き目に遭うからだ。 しかし盗賊は単独犯で、アレクサンドルの独断専行の結果、事件は早期解決と相成ったのだが。 「何故俺の言う事を聞かなかった?」 ヴァレリアーノはじろりとアレクサンドルを睨め付ける。 「今回は我の判断が正しいと思った故。現にご覧の通りであろう」 「………」 「アーノの考えも一理あったが、あの場の最善とは思えなかった。それだけだ」 なるほど、アレクサンドルには彼なりの考えがあっての行動だったというわけだ。 しかしそれならそれで、きちんとアレクサンドルの意見を述べてから行動してくれれば、こんなに腹立たしく思うこともなかった。 「……常々思うんだが、お前は俺に伝えるべき言葉が圧倒的に足りないように思える」 「汝に告げるべき事は告げている」 とは言うものの、アレクサンドルは回りくどい言い回しで本旨を暈してみたりと、ヴァレリアーノが知りたい事をはぐらかす事が多いことに、ヴァレリアーノもいい加減気付いていた。 それは、今回のように、任務に絡むことだけではない。 「わざと言ってない事があるだろう」 「はて、何の事やら」 アレクサンドルは金色の髪を揺らして軽く頭を振ってみせる。 「そういう態度がッ……!」 ヴァレリアーノが睨みつけてもアレクサンドルは相変わらず涼しい顔をしていて、それがヴァレリアーノの神経を逆なでした。 「もういい」 舌打ちと共に、バン、とテーブルを叩いてヴァレリアーノは立ち上がると、苛立ちに突き動かされるままに外へ駆け出した。 アレクサンドルは僅かに肩を竦めると、コーヒーカップを口に運び最後の一口を流し込んだ。 それからおもむろに立ち上がり、店のマスターに柔和な笑顔で語りかける。 「すまぬ、傘を少々拝借するのだよ」 傘を手に、アレクサンドルは外へ出ると竜の翼を羽ばたかせ宙に舞う。 ヴァレリアーノが何処に行こうと見つけ出せる。 空から街を見下ろすと、見慣れた銀髪はすぐに見つかった。 アレクサンドルは滑るようにヴァレリアーノの背後に降り立つと、傘を広げて彼の頭上に差し出した。 「……風邪をひいては今後に差し支えるだろう」 アレクサンドルの声に足を止めたヴァレリアーノは、振り向きざまに差し出された傘を手の甲で乱暴に振り払った。 「俺の事をまだ子供だと思っているのか?」 ヴァレリアーノの怒気を孕んだ声をアレクサンドルはただ黙って受け止めた。 「内心見下しているのが透けて見える」 こちらの苛立ちも怒りも理解したような顔の、その態度が。まるで手中の小鳥のような扱いが。 「お前のそういう所が嫌いだ」 いつまでそのような扱いを受けていなければならないのだ。いつになれば、どうすれば、対等であると認識するのだろうか。 しかしアレクサンドルはヴァレリアーノのそうした想いを受け流すように、ゆるりと頭を振った。 「我は汝に前だけを向いて欲しいのだよ。余計な事は考えなくていい」 余計な事。それは一体、誰にとっての余計な事なのか。なにが余計でなにがそうではないのか、それすらも考えるなと言うのか。 「……サーシャ、俺はもう昔とは違う」 いつまでも、疑うことを知らない純真な子供ではない。 「何が必要か、その選別は俺が決める」 ヴァレリアーノは素早く手を伸ばし、アレクサンドルの胸元を掴んだ。 手の中に硬い感触があった。今は衣服に隠れているが、ヴァレリアーノと揃いの十字架がこの下にある。 この十字架が意味するところはなんなのか……いつかきっと聞き出してやる。 アレクサンドルは何も言わない。今はそれでもいい。 けれど、いつか……。 ヴァレリアーノは決意と共に、アレクサンドルから手を離した。
|
||||||||
![]() |
![]() |
![]() |
*** 活躍者 *** |
|
![]() |
|||
該当者なし |
| ||
[5] ラウル・イースト 2018/11/25-21:47
| ||
[4] リチェルカーレ・リモージュ 2018/11/25-21:39
| ||
[3] 泉世・瞬 2018/11/25-20:36
| ||
[2] ラウル・イースト 2018/11/24-14:22
|