~ プロローグ ~ |
1718年12月――教皇国家アークソサエティは、「クリスマス(ユール)」ムードに包まれています。 |
~ 解説 ~ |
現代社会とは、起源などが異なっていますが、基本的なイメージは同様のイベント内容になっています。 |
~ ゲームマスターより ~ |
※イベントシチュエーションノベル『聖なる夜に祝福を!』の対象エピソードです。 |
◇◆◇ アクションプラン ◇◆◇ |
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2 リントに部屋に呼び出されて行ってみた すごく深刻な顔してたから何の話かと思ったら…そんなこったろうと思ったよ はぁ…帰る おい、なんで内側から鍵開けられないんだよこの部屋!?(ガチャガチャ まあいい、こっちも話したいことがあるし 両手にジュースと食べ物持って奴のベッドに陣取る 前に言われたことを考えていた 「マリーに会ってどうするつもりなのか」って まあ終焉の夜明け団である以上は、捕まえて本部に引き渡すのが筋だろうけど …本当にそれだけでいいんだろうか リントの言葉にぎょっとする 本気で言ってるのか、それ アンタまで捕まえなきゃいけなくなるのはごめんだぞ ヤバい奴がパートナーだった… とにかくあの女から意識を別に向けないとダメだ でも他のものと言っても、俺にはこれしか思い浮かばない リントの胸倉を掴み噛みつくようにキス …うるさい 今決めた、あの女とは俺が決着をつける、教団なんか関係ない アンタは俺の横でそれを見ていろ |
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~ リザルトノベル ~ |
●聖誕祭に告げる宣戦布告 幸いにも年に一度の祭日を指令に費やすということもなく――緊急の招集でもあれば話は別だが――、穏やかな非番の一日を過ごしていた『ベルロック・シックザール』は、西日の差しこむ窓を一瞥し、寮の自室を後にした。昼間、食堂でパートナーの『リントヴルム・ガラクシア』と顔を合わせた際、夕食前に部屋まで来てほしいと呼び出しを受けたのだ。 (やけに深刻な顔をしてたな……) ベルロックが知るリントヴルムの顔というのは、人当たりの良い笑顔であるとか、悪巧みにほくそ笑んでいる顔であって、伏し目がちに視線も合わせず暗い声を出す姿は随分と珍しかった。一体、何の話だろうか。ここ最近の指令で後を引くようなトラブルに覚えはない。プライベートでも心当たりは無かった――否、可能性だけを言うならば、あるにはあるのだが。 二人がそれぞれ異なる理由で探し求める女、マリー。 かつて幼いベルロックを攫い生涯の悔恨を抱える元凶となったその女を、あろうことかリントヴルムは『初恋の君』として追い求めているのだった。マリーは終焉の夜明け団の一員――死者の蘇生を目指し、禁忌に手を染める犯罪者集団の一人だ。ベルロックが攫われたのも、実験体とするためだった。しかし、リントヴルムはそれを承知の上でなお恋を語る。契約を結んだパートナーが過去に酷い仕打ちを受けていようが、一向にお構いなしだ。 ベルロックは、かの女への思慕をことあるごとに聞かされてきた。 リントヴルムに『重大な話』があるとすれば、心当たりはマリーのことしかない。まさか、足取りがつかめたのだろうか? 暗い顔をしていたということは、どこかで死体でも見つかったか。 ベルロックは元私立探偵であり、浄化師の仕事も探偵のそれとそう変わりはないと考えている。情報において後れを取るつもりはないが、他に有力な可能性が思い浮かばないせいで埒の明かない想像がぐるぐると脳裏を巡った。 同じ棟内にあるリントヴルムの部屋まではすぐだ。心構えのひとつも出来ないまま目的地についてしまい、ベルロックは落ち着かぬ気分でドアをノックした。 間もなく、扉が開き―― 「クリスマスだと思った? 残念、僕でしたー!」 ベルロックはキレの良い回れ右を披露した。 「はぁ……、そんなこったろうと思ったよ」 深々と嘆息し、うっかり大真面目に考えてしまった一瞬前の思考をきれいさっぱり吹き飛ばす。 「帰る」 「ふふふ、逃がさないよ……」 リントヴルムは戦闘でもそうそう発揮しないような俊敏さで回り込むと、後ろ手に鍵を閉めた。その体を押しのけたベルロックは、解錠しようとして目を瞠る。 「おい! なんで内側から鍵開けられないんだよ、この部屋!?」 一体なにをどう細工したというのか、鍵のつまみをひねってもドアノブはがちゃがちゃと音を立てるばかりで、扉が開く様子はない。ライカンスロープである相棒の尾っぽがバシバシと壁を叩くのを見ながら、リントヴルムは作戦成功とばかりに笑い声を響かせた。 「今日は野郎二人のシングルヘル……ベリークルシミマス! だからね!」 呆れたことに、室内はわざわざ飾り付けがされている。クリスマスの、ではない。窓にはシングルヘルの邪悪な響きを体現するかのごとく分厚い漆黒のカーテンが掛けられ、同じく黒一色のクロスが家具を覆う。おまけに骸骨の意匠がほどこされた燭台まで置かれていた。 「独り身同士、寂しくやけ酒飲もうじゃないか」 脱出を試み続けるより、諦めて付き合った方が無難そうだ。ドアを壊しでもしたら、待っているのは寮母ロードピース・シンデレラによる鉄拳制裁である。 はぁ、ともう一度溜息を零し、ベルロックは開かずの扉から離れた。 「まあいい、こっちも話したいことがあるし」 「あ、ベル君、お酒弱いっけ。ジュースもあるよ」 まともな招待は出来なくとも、そのあたりの配慮は出来るらしい。なんとなく釈然としないものを感じながらも、ベルロックはジュースの瓶とつまみの皿を受け取った。黒いカバーの掛けられたベッドをソファ代わりにして、横並びに腰を下ろす。ひとつあるきりの椅子を引き寄せてサイドテーブル代わりにし、皿やボトルを置いた。それぞれグラスを満たしたところで、小さく乾杯する。 「ベリークルシミマス!」 リントヴルムが音頭をとったが、ベルロックは唱和せずに無視してグラスに口をつけた。旬の林檎を絞ったジュースは蜂蜜入りで、甘党のベルロックの舌に合う甘さだ。 「つれないなぁ」 ちぇ、と口をとがらせた後、リントヴルムは自分も葡萄酒を味わいながら、隣を伺った。未だ表情に不機嫌さを残してはいたが、尻尾の様子を見ればもうそれほど怒っていないのがわかる。デモンであるリントヴルムも竜の尾を持っているが、彼のそれほどには感情豊かではなかった。 「それで、話したいことって?」 「……前に言われたことを考えていた。『マリーに会ってどうするつもりなのか』って」 あー、とリントヴルムは気の抜けた声を出しながら頷く。 「書類運びのお手伝いした時のだね」 手伝いの労いに茶を振舞われた席で、二人の話を聞いた職員が先述の問いを投げかけたのだった。 順当に考えれば、とベルロックは考える。マリーが終焉の夜明け団である以上、捕縛して薔薇十字教団に身柄を引き渡すのが筋だ。女は教団によって裁かれ、なにがしかの報いを受けるだろう。 わかってはいるのだが、ベルロックは思い切れずにいた。 (……本当に、それだけでいいんだろうか) マリーを捕まえること、それがベルロックの積年の望みである。迷いが生じたのは、それまで『見つけること』ばかりに気を取られていて、『見つけた後』のビジョンが漠然としていることに気が付いたからだ。マリーを見つけて、捕まえて、教団に引き渡して――それで、果たして本当に自分の気は晴れるのだろうか。 「んー……」 リントヴルムとしては、もう一つの問いの方が記憶に残っている。 『マリーっていうのは本当に存在するのか』 恋焦がれて追いかけている身としては、思いもよらない質問だった。 「マリーいるもん! 僕見たもん! とは思ったけど。会ってどうするのかは、ちゃんと決めてるよ」 戸惑うベルロックとは対照的に、きっぱりと言い放つ。 「もちろん恋人になって、一緒に暮らすのさ」 漆黒の瞳をうっとりと細め、ワインに濡れた唇に恍惚の笑みを浮かべる。ぎょっとするベルロックをよそに、リントヴルムは歌でも口ずさむような軽やかさで言葉を続けた。 「もう悪いことができないように閉じ込めて、僕だけを見てもらうんだ。魔力パンクで死ぬのは嫌だから、ベル君にもついてきてもらうよ」 「本気で言ってるのか、それ。アンタまで捕まえなきゃいけなくなるのはごめんだぞ」 赤い双眸を険しく顰め、ベルロックはパートナーの本意を探ろうと見つめる。いつものように悪戯めいた顔で、冗談だよ、と返してくれれば良かった。だが、リントヴルムは前言を撤回することなく、にんまりと笑みを深くした。 「……それなら、ベル君も閉じ込めなきゃね?」 軽い声音を装ってはいるが、目には本気の色を宿している。グラスの中身はまだ半分程度しか減っておらず、ほとんど酔ってもいないはずだった。咄嗟にベルロックは顔を背け、ジュースのグラスを握る手に力を込めた。 (ヤバい奴がパートナーだった……) じわりと背に嫌な汗をかいている。 今はまだ初恋にのめりこみすぎているだけの男で済むが、万が一にもマリーに手が届いた場合、リントヴルムは犯罪街道まっしぐらだ。それも、パートナーのベルロックを巻き込んで。本人以外の誰かがマリーを捕えでもした日には、真っ先に奪いに行きかねない。仮に彼の言う『恋人になって、一緒に暮らす』計画が失敗したとしても、試みた時点で大問題だ。教団に籍を置く浄化師でありながら犯罪者に対して然るべき処置を怠ったとして、懲戒の対象となるだろう。 そんな未来は、真っ平御免である。 だからと言って、マリーが見つからないようにと、祈ることも出来なかった。迷いはあれど、ベルロックとてマリーを追及する思いはそう簡単に切り捨てられるものではないのだ。 (とにかく、あの女から意識を別に向けないとダメだ。でも他のものと言っても……) 代わりに差し出せるものなど、一つしか思いつかなかった。 ベルロックは自身を鼓舞するように一息にジュースを飲み干し、グラスを置く。そうして呑気にワインを味わっているリントヴルムの胸倉を、思い切り掴んで引き寄せた。 「おっ、と……」 大きく揺れたグラスを気にする漆黒の眼が気にくわない。俄かに湧いた苛立ちのまま、ベルロックはその唇へ噛みつくようにキスをした。酒精の苦みが舌を刺す。当然、リントヴルムはキスに応えない。眉を顰めながら唇の合わせ目を一舐めして、身体を離した。 ぽた、とリントヴルムの指先からワインが垂れて床にシミを作る。それを慌てて拭くでもなく、二人は束の間睨みあった。 「どういうつもりかな?」 「……うるさい」 リントヴルムの、怒るでも、嘆くでもない態度が腹立たしい。まるで、マリーのこと以外はどうでもよくて、キス程度に動揺などしませんと言わんばかりだ。今に見ていろ、とベルロックは胸中で呟いた。 「今決めた、あの女とは俺が決着をつける、教団なんか関係ない。アンタは俺の横でそれを見ていろ」 単に教団に託して終わりなどにはしない。リントヴルムの好きにさせて破滅する気もない。ベルロックが決めたのはそういうことだ。 突然の宣言に、リントヴルムは愉快げに笑った。 「僕を夢中にさせて、マリーを忘れさせる作戦?」 まさか。リントヴルムがマリーを忘れるなんてことは、絶対に有り得ない。だが、ベルロックは真剣な顔をして、本気も本気、大真面目に言っているらしい。 リントヴルムは、マリーを追う道中で初めて彼と出会った時のことを思い出した。石壁に挟まれた狭い路地。山のように積まれた果物。それを引っ掻こうとした猫と、猫のやんちゃを窘める忘れがたき女の声。やっと会えた、と言い終えることすら出来なかったのは、同じくマリーを追って横から飛び出してきたベルロックとぶつかったからだった。その一瞬の内にマリーは姿を晦ましてしまったけれど、それを嘆くよりも先にリントヴルムはベルロックに興味を持った。生来の過剰な魔力生成能力に蝕まれて弱った姿と、時間が無いことを嘆く荒んだ声音。未契約の祓魔人だとすぐに勘付いた。契約を交わしたのは、リントヴルムもまたパートナーのいない喰人だったという事情もあるが、一番の理由は『面白そう』だったからだ。 その予感は間違っていなかった。 愉快ではあるが、滑稽とは思わない。 「男だから……っていうのは不利にはならないけど」 きっと、マリーが男でもリントヴルムは恋に落ちた。ベルロックが男だから駄目なのではない。彼がマリーではないから、駄目なのだ。重要なのはその一点だ。 「でも、恋する男を振り向かせるのは難しいよ?」 諦めた方が良いと思うけど、と口には出さずに思いながら、にっこりと笑みを向ける。 ベルロックはその黒い尾で強かにベッドカバーを叩いただけで、返事をしなかった。
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*** 活躍者 *** |
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