~ プロローグ ~ |
1718年12月――教皇国家アークソサエティは、「クリスマス(ユール)」ムードに包まれています。
|
~ 解説 ~ |
現代社会とは、起源などが異なっていますが、基本的なイメージは同様のイベント内容になっています。
|
~ ゲームマスターより ~ |
※イベントシチュエーションノベル『聖なる夜に祝福を!』の対象エピソードです。 |
◇◆◇ アクションプラン ◇◆◇ |
|
||||||||
スポット3
ほらほら早く! 相変わらず隈はあれど、いつもより元気に振る舞いながら ラスの腕を引っ張り時計台の上へ 服装はパーカーの上に厚手のコートとマフラーを着用 前来た時(第7話参照)は殆ど何も見えなかったし イルミネーションがよく見えるって話よ! 時計台の上で景色を一瞥し、目を輝かせ うわぁ!綺麗! ほら見てよラス!凄くない!? 写真撮らなきゃ! 買ってきたカメラで写真を撮り ラス、こっち向いて 景色と一緒にラスの写真も撮り うっわイケメン、腹立つ あんたそういや黙ってればイケメンよね そうよあたしは美少女よ、もっと称えなさい それにしても寒いわね 暖かい飲み物もってきたわよ 水筒に入れたスパイスの入ったブドウジュース…と見せかけたホットワインを渡し 酔ってるラスを見て笑いながら写真を撮り あーおもしろ!はいはい寒いわね …分かってる、わかってるわよ (それは、あたしの台詞だ) |
||||||||
~ リザルトノベル ~ |
「ほらほら早く!」 「分かった、分かったからから走るな!」 『ラニ・シェルロワ』に腕を引っ張られながら『ラス・シェルレイ』は落ち着けと言いながらも階段を駆け上がる。 二人は子供のように騒ぎながら最上階にある時計台へと向かって走る。 笑顔を浮かべているラニの目元には青白く、深い隈があった。寝不足や疲れなど様々な要因によって消え去らないままだが、明るくはしゃぐ姿にラスは内心安堵していた。 最近見せる空元気ではないラニらしいころころと変わる表情に気持ちが緩む。 それが顔に出たように苦笑の入り混じった笑顔がラスの口元に浮かんでいた。 「前来た時! ほら夜警で来た時よ! あの時は殆ど何も見えなかったけど、今夜はイルミネーションがよく見えるって話よ!」 「あぁそうか、クリスマスだからイルミネーション……ったく、そういうことなら最初から言えっての!」 時計台の上に到着すると同時にラニの目に夜の町並みが飛び込んできた。 ラニは目を輝かせ、もう一度ラスの腕を引っ張ってパッと笑顔を浮かべはしゃぎ始める。 「うわぁ! 綺麗! ほら見てよラス! 凄くない!?」 「うわ……すげぇ……」 ラスは暫し言葉を失うと感嘆の声を上げた。ラスもまた星々のように煌めく夜景が目に映りこんでいるかのように目を輝かせていた。 目をくるめくイルミネーションの光はもちろん家々から漏れ出す灯りは人目を引くようバランスよく飾られたイルミネーションとは反対に無秩序だった。 吹き抜けになっている時計台は寒いけれどアークソサエティを一望できる。ここを二人で独り占めしているようで贅沢な気分になる。 見晴らしのいいここはちょっとした秘密基地のようだった。 ラニの首もとに巻いたマフラーは口元まで覆い、夜気に白い吐息が溶ける。白いパーカーの上に厚手のコートを着ているのに冬の冷気が通り抜け寒さが身に沁みる。 急に連れてこられたラスもラフな格好で厚手のコートとマフラーを巻いている二人は幼なじみだからなのかどこか似通った格好をしていた。 「あれ、灯台の明かりじゃない? 前も灯台は、はっきりと見えたわよね!」 「ああ、ここからでも目立つな」 ラニが地中海にある灯台の方を指さす。 はるか向こうに見える灯台の光が点滅している。 灯台の周囲は暗く何も見えず、夜の海は夜陰に隠れてどこまでも闇が続いているように見えた。 秋の夜風に吹かれながら夜警でここに来た時は、夜の底に首都が沈んでしまっていて残念に思ったこと思い出す。 記憶とは不思議なもので一つ思い出すと連鎖的に紐を解いていく。 あの日は月が綺麗だったこと。 自分達は剣と鞘ではなく、剣と斧に喩えたこと。 あの時のラニの声が蘇る。 (俺はずっと何か見逃してしまっているんじゃないか……?) 欠けた記憶がそう思わせるのか。ラニが頑なに抱え込んでいる嘘が何なのか知りたいが為なのか、自分でも分からなかった。 例え、自分達が剣と斧のように戦場を駆け抜けた末に壊れたとしても、果てる時は一緒だ。今もそう信じている。だが、ラニは―― 「ラス! ラスってば何ボーっとしてんの? 眉間に皺寄ってたわよ、あんた」 「あー悪い。今夜が終わったら明日からは指令尽くしの毎日だよな」 「そうね、浄化師って出張も多いし、のんびりしてる暇ってあんまないわよねー」 ラニの心配そうな顔にラスは現実に引き戻される。 だが、ラニはそれ以上追及してこなかった。妙なところで空気を読んでくる幼馴染に複雑な心境でいると、ラニは不意に思い立ったように鞄の中から何か探し始めた。 「写真撮らなきゃ!」 「そうだな、撮っとけ。はしゃぎすぎて、うっかり落ちるなよー」 ワクワクしながらカメラを取り出すラニを見守りながらもう一度ラスは目の前の夜景をじっくりと見下ろす。 「よし、撮るわよ!」 ラニはカメラを弄りながら夜景を熱心に撮りはじめる。 夜にあわせて時計台内を照らすように置かれたクリスマスキャンドルは赤い蜜蝋に金の装飾が施されていた。キャンドルの炎が幻想の如く揺れるのを見てラスは口を開いた。 「なあ、ラニ知ってるか? クリスマスキャンドルに火を灯すと来年の健康と幸運と家族の幸せが約束されるんだって」 「あれって単なるクリスマスの飾りだと思ってたわ」 「お前ならそういうと思ってた。話の続きだけど、燃え残ったキャンドルは翌年のクリスマスまでお守りになるって他の奴らが話してたっけ」 「そういうあんたもまた聞きじゃない。でも、なんだかお守りみたいでいいわね。記念に一つもらえないかしら?」 「教団の備品の一つだしな。司令部の人に聞いてみたらいいんじゃないか」 ラニがカメラに夢中になっている間も二人のお喋りは止まらない。 ラスが暗闇の中でも揺らめく炎越しに夜景をじっと眺めいていると、 「ラス、こっち向いて」 「ん、どうした?」 不意打ちでシャッター音が聞こえる。 ラニは得意げな表情でカメラを構えていた。この美しい光景と一緒にラスが撮れたことに満足そうな笑みを浮かべる。 レンズ越しに見えたラスの精悍な表情は我ながらベストショットだったと思うが、 「うっわイケメン、腹立つ……あんたそういや黙ってればイケメンよね」 「何だか理不尽なことを言われた気がするぞ……」 憎たらしいほど整った顔は呆れ顔だ。腕を組んだまま柱に寄りかかったラスの姿は様になっている。 さらに何言ってんだ、こいつとラスに呆れた目で見られるとなんだか無性に腹立つ。八つ当たりの気配を察知したのか、 「お前だって黙ってりゃ顔は整ってるんだから」 「そうよ。あたしは美少女よ、もっと称えなさい」 「はいはい美少女美少女」 「あんたはいつも余計な一言多過ぎよ」 お互いに軽口を叩き合うのはいつもの事だ。 一際強い夜風が時計台に吹き込む。 「それにしても寒いわね……」 「まあ、冬だから仕方ないだろ」 耳まで赤く染まり、ラニは手袋を忘れたのか真っ赤に手を染めながら、寒さから逃げるように身を縮こめる。 「こんなときこそ、あれよ、あれ!」 ラニはそう言うと再びカバンの中身をがさがさと探し始めた。 「ふふん、こんなこともあろうかと、温かい飲み物もってきたわよ!」 「ホットドリンク? お前にしちゃ気が利くな……」 「ふーん、ラスはいらないのね。あーほんと残念! 夜空を眺めながら飲むホットドリンクは最高よね!」 「いらないなんて言ってないだろ! オレも貰うからな」 互いに軽口を叩きながら、ラスは水筒のコップを渡される。 鞄から水筒に入ったホットドリンクをコップにそそぎ込むと、白い湯気と一緒にぎゅっと濃縮された葡萄の香りにオレンジなどの柑橘系の爽やかな香りが鼻孔をくすぐる。 「おい、これホットワインじゃないよな?」 コップに注ぎ込まれたルビー色の液体を見て、訝しげな表情を浮かべる。 「何言ってんのよ。ワインの代わりに葡萄ジュースを使ってんの。食堂の料理人さん達が時計台に行くって言ったら、体を温めてくれる香辛料が入っているからって渡してくれたのよ。あたしと料理人に感謝して有り難く受け取りなさい」 「感謝するなら、お前じゃなくて料理人さん達にだな」 ラスの勘は合っており、実は葡萄ジュースに見せかけたホットワインだ。 疑い深そうな目で見られたものの、最終的にラスは寒さと美味しそうな匂いに負けたようで一口飲むと、 「確かに葡萄ジュースだな……」 「あたしの言っていたこと信じてなかったわけ?」 「お前ならやりかねないだろ……」 (まあ、その通りなんだけどね……料理人さん達には感謝しなくっちゃ) ラスのジト目をやりすごしながら、内心ラニは舌を出す。 ジュースのように甘くて赤ワイン特有の酸味も渋みが苦手な者でも大丈夫だと料理人におすすめされた一品だ。 スパイスはシナモンやクローブに、少し辛みのあるブラックペッパーがこの赤ワインに合うそうだ。 葡萄ジュースに見せかけて作ったホットワインはジュースのように飲みやすいように蜂蜜たっぷりに、スパイシーな香辛料で赤ワインの独特の渋みを和らげている。 ラニは未成年なので味見していないが、ホットワイン風の葡萄ジュースのようにして欲しいとリクエストしたが、ばっちりだったようだ。 「はあーっ、温まるな……思ったよりスパイスの味もしないし」 ラスは葡萄ジュースだと信じ飲みだすのを見て、内心ラニはガッツポーズを決めるが、それを顔に出すことなかった。 ラスは一杯飲み終わった頃には完全に出来上がっていた。 「らにぃ、らにぃ、聞いてるのかあ?」 ラニはこの時を待っていた。 最終的にラスを介抱しなければならないと理由もあるが、自分まで酔っぱらってしまったら、ラスのこんな姿を写真に残すことができないではないか。 ラニは泣く泣くホットワインを飲むのを諦め、ラスの酔っぱらった姿を撮る機会を虎視眈々と狙っていた。 「ふふ~、甘くておいしいなー、ぽかぽかするし、なんだかふわふわしていい気分だ」 ラスはくすぐったいような無邪気な笑いをこぼすと、段々と舌足らずな口調で喋り出す。 幸せそうにふにゃぁと笑うと、普段は物静かにクールぶってるのが台無しだ。 酔いが醒めたらこの時の様子を写真で突き付けてからかいたくなる衝動をぐっと抑える。 ラニは笑いながらラスがふにゃふにゃになっている様子を写真でここぞとばかりに撮りまくる。 ラスはホットワインがないと悲しそうにコップを覗き込んだり、踊るようにくるくると何故か回ったりしている。 「ラス、にゃーって言って」 「……にゃあ?」 ラスは首を傾げて猫の手をしながら耳まで真っ赤に染まった顔でこちらを見る。ラニは笑いに震える手でシャッターを切る。 これは確実に黒歴史だなと思いながらもシャッターを切る手を止めない。 お酒によって眠たげな足取りでラスは近づいてくる。 「ラニ、さむい……」 「あーおもしろ! はいはい寒いわね」 ラスは構えと言わんばかりにラニに大きな犬がじゃれかかるように抱きついてくる。今度は湯たんぽ扱いでもするようにぎゅっと腕の中に閉じこめた。 「ちょっとラスあんた重たいんだけど、体重掛けてない!?」 「そうかあ?」 徐々に体重をかけて伸し掛かってくるラスに文句を言うが、酔っぱらいには話が通じない。 諦めたラニはラスの行動に適当に流していたのも束の間だった。 「……お前がげんきになってよかった。なぁラニ、どこにもいくなよ……おいていかないでくれ」 (全てを思い出したら、きっと、……お前の憎悪にも寄り添える。そうしたらお前は置いていかないだろう) 酒によって本音を剥き出しにしたラスの言葉にラニは息が止まるような思いを味わう。 「……分かってる、わかってるわよ」 (それは、あたしの台詞だ) ラニは祈るように目を閉じ、そっとラスを抱きしめた。 互いに肉親以上の絆があるのに、踏み込めない場所がある。ラニが抱えている憎悪や嘘もその一つだ。でも、そんなの当り前だ。どんなに絆が深かろうと自分達は他人なのだ。全て分かりあえるなんて幻想だ。 強くなりたいと足掻いて、もがいて、溺れている間にラスにどんどん引き離されていく焦りはラニにもある。 置いて行かれないか不安なのはお互い様だ。 だから、二人でいるのにこんなに寒いのはきっと冬のせいだ。
|
||||||||
*** 活躍者 *** |