~ プロローグ ~ |
1718年12月――教皇国家アークソサエティは、「クリスマス(ユール)」ムードに包まれています。
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~ 解説 ~ |
現代社会とは、起源などが異なっていますが、基本的なイメージは同様のイベント内容になっています。
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~ ゲームマスターより ~ |
※イベントシチュエーションノベル『聖なる夜に祝福を!』の対象エピソードです。 |
◇◆◇ アクションプラン ◇◆◇ |
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13
ヨナ 二人で相談し 白銀の雪のような竜に乗せて貰い空へ 寒いので暖かい恰好で 空から眺めも素晴らしいですが 竜という生き物に惹かれます 何故でしょうか… 竜に挨拶し名乗ってから乗る 眼下の街が星屑のように輝く景色に寒さも忘れ身を乗り出し うっかり体をよろめかせると 後ろから腰に手を回され抱き止められる …すみません そのままの体勢で大人しく眺めながら想う ベルトルドさんは 私が初めて契約した人 最初は浄化師として活動出来る事ばかりが頭の中にあり どんな人柄なのかも興味が無い上 距離さえとっていたのに 何故こうして一緒にいてくれるのか… 彼が倒れる(#54)までそんな疑問すら浮かなばなかった自分が情けない いっそ今 聞いてしまおうかと 逡巡 無理 ちらりと彼の顔を伺い 口から出るのは別の言葉 あ あの 今日は有難う御座います 今日はというか今までも…色々とその 契約した日から 考えてみれば私 ベルトルドさんに対して感謝が薄かったなと… だから 改めて |
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~ リザルトノベル ~ |
月があきらかな夜、花びらのような優しい雪降る中、その竜と出会った。 美しい叡智の獣――白雪のドラゴンは銀世界の中に仲間から離れて空を見上げていた。 その竜が雪の中に静かに佇む姿は神聖な光景にさえ見えた。 『ヨナ・ミューエ』はその絵画のような光景に目を奪われる。 体を覆う鱗だけでなく鋭利な爪や角までさえ、透き通りそうなまでの純白さ。 結晶のような角は頭の近くで螺旋を描いており、先端に向かって真っ直ぐ伸びている。先に行くほど絶妙に桜帯びるように光る。 美しい雪の宝石が竜の形を取ったかのようだ。 (何故こんなにも竜という生き物に惹かれるのでしょうか……あの竜が妙に気になる) 他にも勇猛で美しい竜はたくさんいたが、真っ先にヨナが目を奪われたあの竜だけだった。 存在そのものが神秘的である白雪の竜が雪原の中にいると強靱に見えるのに儚げで、穏やかなのに孤独にも見えた。 二人で相談して決めたのだが、実質のところヨナの気持ちを見透かした『ベルトルド・レーヴェ』が汲んでくれたのだ。 こういう時のベルトルドは恨めしくなるぐらい人の感情に聡い。 ベルトルドは落ち着いた思慮深そうな竜だしな、と言ってくれたが、ヨナの目が釘付けになったことに気づいていたのだろう。 竜は人の気配に気づいたのか、伏せられた瞼がゆっくりと開く。桜の花びらのような美しい生きた宝石。 唯一色味帯びた桜色の双眸は慈愛に満ち、深い叡智を宿している。 (意外とつぶらな目をしていますね……) 冬の夜気が迫るように肌を刺し、外套を纏っているのに冷気は通り抜けてくる。 ヨナの元々白い肌は血の気を失っているように青白かった。 「おや、人の子ですか? ……いつの間にか夜になっていたのですね」 女性的な物静かな姿とは反する低めの男性の声が響く――それは白雪の竜から発せられた。 竜はヨナ達と目線を合わせるように体を伏せる。 ヨナは張りつめた息をそっと吐き出すと、雪のような白さだった。 「あの、こんばんは、私はヨナ・ミューエです。貴方の名前を教えて頂けませんか?」 「はい、名というものはありませんが、貴方方には呼び名がないと不便でしょう。ですから、通り名であるネージュと呼んでください」 まるで幼子を見るような眼差し。ヨナも長命な竜相手ではそんな風に見られても腹は立たなかった。彼の竜が生きた年月を考えてみれば人などみな子供のようなものなのだろう。 「分かりました、ネージュさん。今夜はよろしくお願いします」 「俺はベルトルド・レーヴェだ。ネージュと呼ばせてもらおう。今夜はよろしく頼む」 「いえ、こちらこそ私を特別な夜に誘って頂きありがとうございます。今夜は人にとって大切な日なのでしょう?」 どこか浮世離れした竜らしく人の行事をさほど詳しく知らないようだ。 「それは人によるな」 「季節の行事ですからね」 ヨナは分かりやすく伝えようと率直な意見を述べた。 「教団の創始者であるアレイスター・エリファスの生誕を祝うものが年月が経つ内に形を変えて商業的なイベントになりました。今日は人が食べて飲んだりして騒ぐ日です」 「……ヨナ、その身も蓋もない説明はどうなんだ……」 ベルトルドが呆れた眼差しを向け、改めてクリスマスについて説明し直す。 「クリスマスは家族や親しいものと食事を楽しんだりする日だ」 そうなのですね、とネージュは鷹揚に微笑んだ。 「……私の説明でも間違ってないじゃないですか」 「お前の説明は直球すぎて俺が聞いていてもどうかと思う説明だったぞ」 ヨナが不満げな表情を見せると、 「なるほど、人は面白いものですね。季節は人と同じく移ろいゆくもの。長く生きる我々にとってそういった人の風習は我ら竜にない考えで興味深い……それに久しぶりに遠方まで飛びますから、同胞達に恨まれてしまいそうです」 (ああ、そうか……彼らは竜の渓谷から出ることができないのだ。それは竜を守る為であるけれど、彼らから自由を奪い取ってしまったのでないのか) ヨナは心のどこかが痛むのを感じ、目を伏せた。 「悪くないものですよ、今の穏やかな生活も。全ては我々が選び取った道ですから」 竜はそんなヨナの心情を読んだように柔らかな声が響く。 体を伏せているとはいえ竜は見上げるような巨体だ。 背に乗るには身軽な自分はともかく、ヨナは少し難儀しそうだとベルトルドが思ったところ、 「ほお……」 ベルトルドが感嘆の声を静かに漏らした。 オーロラが階段となって現れる。一段上がる度にオーロラのカーテンが揺れるように色合いを変化させる。 背に乗ると純白と思われた鱗は雪のような冷たさではなく温かみ帯びた乳白色をしており、目を凝らせば凝らす程、鱗は光加減によっては虹のように斑に煌めいている。 鱗一つでも大きさも少しずつ違えば色味も先の方へいくほど螺鈿のように複雑な華やかさになる。 月長石、玉屑、真珠――その乳白色のとろりとした鱗は火結晶のように熱を持ち、この美しい生き物が生きている証にヨナは感動ともつかない感情が沸き上がってくる。 不意に竜の鳴き声が聞こえて周囲を見ると、他の竜が寂しそうだったり、残念そうに見守っている。それをデモン達が宥めているのを見ると、ヨナはなんだか申し訳なくなった。 「飛び上がるみたいだぞ。ヨナしっかり掴まれ」 周囲に気を取られていたヨナはベルトルドの声に慌てて手綱を握りしめる。 優美な白き翼を羽ばたかせ、上空へと一気に舞い上がる。 竜が風除けの魔法をかけているのが、魔力が雪花の形を取って舞い踊るのがヨナの目に見えた。 雪のせいか、町はいつもと違って見えた。 竜に乗り空を飛んでいる興奮がそう感じさせるのかもしれない。 暗闇に沈むのを拒むかのように町は生き生きと輝いている。その無数の光の分だけ人の営みを感じさせた。 「……これがあなた達、竜が見ている光景なんですね」 「俺も竜に乗る経験をするとは思わなかったな」 ヨナが空からの光景に感嘆の声を上げると、ベルトルドもしみじみと頷いた。 「そうでしょう。これは空を飛ぶものの特権ですね。空は広い。空を飛ぶことが嫌いな竜は私が知る限りいません」 「……ありがとうございます。こんな素晴らしい光景が見れるだなんて」 言葉にならない感動を伝える術をもたないヨナはお礼を言う事しかできなかった。 「いえ、これは我らからのささやかな、人間でいうところのプレゼント。私もアークソサエティを自由に飛べて嬉しいですから」 「感謝する。これからも竜との友誼が続くよう俺達も尽力しよう」 ヨナは眼下の街が星屑のように輝く景色に身に沁みるような寒さも忘れ身を乗り出して夢中で眺める。 あまりに夢中で見ていたせいかバランスを崩し、体をよろめかせる。 落ちる。思わず目を閉じるが、誰かがヨナの後ろから抱き留めた。腰には漆黒の毛色が覗く鍛えられた腕が回されていた。 「はしゃぎ過ぎだ……落ちたらどうする」 「……すみません」 ベルトルドは内心ひやりとしていた。 目を輝かせるヨナをベルトルドは顔には出さなかったが微笑ましく見守っていた。だが、突然ヨナの体が傾き心臓が跳ね上がった。何か考える前に体が動いていた。 (間に合ったからいいものを……) 腕の中にある存在にベルトルドは安堵の溜息を吐き出した。 ヨナも反省しているのか大人しくベルトルドの腕に抱えられたまま眼下の光景を眺めはじめる。その心はどこか別の場所を見ていた。 (ベルトルドさんは、私が初めて契約した人。最初は浄化師として活動出来る事ばかりが頭の中にありどんな人柄なのかも興味が無い上、距離さえとっていたのに、何故こうして一緒にいてくれるのか……) 彼が過労で倒れるまでそんな疑問すら浮かばなかった自分が情けない。 最初は自分の足を引っ張らない相手なら誰でもよかった。でも、今は違う。 降り積もる雪のように、ベルトルドと過ごした時間は短くともヨナの胸の内に積み重なっていた。 いっそのこと今聞いてしまおうかと思ったが、長い逡巡の末に気恥ずかしさもあって無理だという結論が出た。 ちらり彼の顔を窺うと、視線に気づいたベルトルドの方が先に口を開いた。 「ヨナ、どうかしたのか?」 ヨナのじっとこちらを伺うような気配に、そちらに顔を向けてみれば思いの外近い。 だが、ヨナは互いの顔が近いことに頓着した様子もなく、何か他のことに意識が向いているようだった。 「あ、あの、今日は有難う御座います」 ようやく口にした言葉はヨナが頭の中で考えていたものとは全く別のものだった。 ベルトルドは一瞬目を丸くし、口角に微笑が浮かぶ。 「今日はというか今までも……色々とその、契約した日から、考えてみれば私、ベルトルドさんに対して感謝が薄かったなと……だから改めて――」 ヨナが殊勝な態度で、精一杯自分の気持ちを伝えようとする。 ベルトルドはその不器用ながらも素直な言葉にヨナの小さな身体を引き寄せ、まるで子供を褒めるように頭にぽんと肉球を乗せた。 「ちょっと、何です?」 「何か不安にでもなったか?」 ヨナはむっとした表情を浮かべていたがベルトルドは構わず、頭を優しく撫で続けた。 「……私が謝辞を述べるのがそんなにおかしいですか」 「大丈夫、やり方はどうあれ俺達は出来る事はやってきただろう。これからも何とか進んでいけるさ、心配することはない」 自身の心を見透かされた様な答えに二の句も継げずヨナは黙り込んだ。 (ベルトルドさんのこういう所……本当にいや) ベルトルドは腹立たしい程優しくて、考える事をやめたくなる。不意にこうやって甘やかすのは本当に止めて欲しい。 ヨナが足を止めることがない事も悩み続けると決めた事を分かっていて、世話を焼いてくるのだから性質が悪い。 ヨナは不意にベルトルドの顔が目と鼻の先にあることに気づく。それは苦し紛れだったのかもしれないし、衝動的な思いつきだったのかもしれない。 ベルトルドに意趣返しするつもりで、ヨナは唐突に行動を起こした。 少し首を伸ばせば、油断していたベルトルドのその頬に唇を当てるなど簡単だった。 ベルトルドはぎょっと目を見開き、絶句したまま固まっていた。 今度こそ驚くベルトルドを小気味よく思っている自分がいる。 開き直ったヨナは冷たい空気の筈なのに顔が上気するのは無視して、 「パートナーでいてくれて有難うございます」 「……こちらこそ」 したり顔でお礼を言う。ベルトルドは目元覆い、憮然としているような頭が痛いとも言えるような表情を浮かべていた。 「時々、後先を考えない行動するが……ヨナ、そんな顔するなら――」 「ベルトルドさんこそ何を言っているのですか。あれは挨拶みたいなものです、それ以外に意味などありません」 「……そうか」 ヨナはベルトルドの何か言いたげな言葉を遮るように早口で捲し立てる。ベルトルドは諦めたように項垂れ、ようやく一言だけ口にした。 竜は二人が喋っている間、微笑ましく見守りながら空気を読んだように無言に徹していた。 後日、冷静になると恥ずかしくなりヨナは何故自分があんな行動をとったのか、頭を抱えることになる。ベルトルドと会うと挙動不審になり、暫くの間ヨナが一方的にぎくしゃくすることになるのをまだ知らなかった。
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*** 活躍者 *** |
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