~ プロローグ ~ |
1718年12月――教皇国家アークソサエティは、「クリスマス(ユール)」ムードに包まれています。 |
~ 解説 ~ |
現代社会とは、起源などが異なっていますが、基本的なイメージは同様のイベント内容になっています。 |
~ ゲームマスターより ~ |
※イベントシチュエーションノベル『聖なる夜に祝福を!』の対象エピソードです。 |
◇◆◇ アクションプラン ◇◆◇ |
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※特にすることもないので寮内の飾り付け等雑用中
髪もおろして、おとなしめの服装 クリスマスカードですか?はい、私で良ければ 制服姿でしか普段会わないから、私服のイザークさんと歩くのは初めてかも きっと高級なんだろうな…でも似合ってる 化粧なんてしてないです、唇が荒れたから少しクリームは付けてますが 確かに男の人ってつけてるイメージないですよね …そうだ! 雑貨のお店でリップ購入 良かったらこれを。男性向けだから大丈夫です 私のはいいんです 今年は色々とお世話になりましたし クリスマスプレゼントと思って下さい 私にもですか…? そう言われては受け取るしかない ありがとうございます ※イザークと分かれた後 本当はお化粧はしないのではなく、大嫌い 着飾る事が怖い ほとんどのアクセサリーや服は昔捨ててしまった …だけど、今日のこれだけは。 怖いことは何もなくてただ優しさだけを感じる 今は難しいけれど、いつかつける事ができますように |
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~ リザルトノベル ~ |
教皇国家アークソサエティ――薔薇十字教団本部のあるこの都市は、教団設立者であるアレイスター・エリファス生誕祭の、いわば発祥地でもある。つまり、クリスマスともなれば街中が祝祭ムードに浮き立っており――中枢地区のエトワールでは、クリスマス・マルシェと呼ばれる盛大な市が開かれ、大勢の人々が買い物を楽しむのだ。 (……と言っても私は、特にすることもないんですけど) のんびりと教団寮で過ごす鈴理・あおいは、寮内の飾り付けを行うなど雑用をこなし、普段と変わらない休日をおくるつもりだった――のだが。 「あおい? もし良ければ、俺の買い物に付き合って欲しいのだが」 私服姿で颯爽と現れた、喰人のパートナー――イザーク・デューラーからクリスマス市への誘いを受け、そのまま祝祭で賑わう街へと繰り出すことになったのだった。 「……えっと、クリスマスカードを買うんでしたっけ」 「ああ、家族へ贈るカードが欲しいのだが、俺一人だと色々目移りして、選ぶどころではなさそうなんでな。あおいに選ぶのを手伝って貰いたいのだ」 「はい、私で良ければお手伝いしますよ」 ――ふたり並んでリュミエールストリートを歩きながら、今日の予定を確認しつつ。あおいに向かって、いたずらっぽく微笑むイザークは、上品な私服姿も相まって普段とはまた違った印象だ。そう言えば、普段は教団の制服姿でしか会っていなかったから、私服で一緒に歩くのは初めてかも――一度そう意識してしまえば、あおいは妙にくすぐったい気持ちになる。 (きっと、高級な服なんだろうな……でも、似合ってる) そろそろと上目遣いでイザークの姿を窺えば、どこかの王族だとか自称しているのも、あながち嘘では無いのかもしれないと思ったりもして。 (私は……どうなのかな……) ――同時に質素倹約を旨とし、着飾ることを嫌う自分が隣に居るのでは、釣り合いが取れていないんじゃないかとも思ってしまう。結局寮で過ごしていた時の、おとなしめの服装のまま来てしまったけれど、一緒に居て浮いてしまっていないかな、と今更ながら感じたりもして――。 「……三人で一枚でも良いんだが、色々なデザインがあった方が、義母も喜ぶと思うから――あおい、どうした?」 「あ、何でもないです。そうですね……」 と、物思いに耽っていたところをイザークの声に呼び戻されたあおいは、彼の家族それぞれに合ったクリスマスカードを、一枚ずつ一緒に選んでいった。 先ず義父へは渋めの、ニホン風の模様があしらわれたものを。そして義母へは、雪の結晶が煌めく綺麗なカードを――最後に、弟へのものはクールでシンプルな、銀と藍の二色でデザインされたカードに決める。 「ふう……結構時間が経ってしまいましたね」 ――そうして手伝ってくれたお礼に、イザークからマルシェで軽食を奢ってもらっていると、あおいは彼の唇が薄らと赤くなっていることに気が付いた。 「あれ、イザークさん。その口元……」 「……む、乾燥して唇が切れてしまったか」 微かに唇へ滲んだ血を、無造作に拭おうとするイザークに待ったをかけて、直ぐにあおいは近くの雑貨店でリップクリームを買ってくる。 「はい、男性向けのものなので、良かったらこれを。今年は色々とお世話になりましたし、クリスマスプレゼントだと思って下さい」 「済まない、有難く使わせて貰うとしよう。……あおいは良く気がつくな」 さらりと述べられた感謝の言葉に、虚を突かれたような顔をするあおいだったが――己を律する気持ちは忘れず、何でもない風を装って背筋を正して。その普段と変わらぬ雰囲気に、イザークはつい苦笑してしまったものの、見れば私服姿の彼女はちょっぴり印象が違うような気がした。 (いつもは髪をきゅっと結んでいるが、今は髪をおろしているようだし……穏やかな表情をした、普通の少女に見えるな) 彼女が教団所属のエクソシストであると、此処に居るひとびとがどれだけ知っているのだろう。そんなことを考えると、何だか誇らしげな気持ちにもなるイザークであったが――。 「……もしかして、化粧もしてる?」 「!? 化粧なんてしてないですよ。……唇が荒れたから、少しクリームは付けてますが」 仄かに艶めく、あおいの唇を見たイザークが真面目な顔をして問うが、彼女は慌てた様子で早口で否定をする。ならばお揃いだな――と納得したイザークは、其処で何かを思いついたらしく、あおいに少し待つように告げるとマーケットの中へ飛び込んでいった。 「イザークさん……?」 ――そうして、彼を待つこと暫し。買い物を終え戻ってきたイザークは、その手に持っていた綺麗な包みを、あおいへと手渡す。クリスマス風のラッピングをされたそれを、そっと開いてみれば――其処から顔を覗かせたのは、可愛らしい色をしたリップだった。 「話を聞いたら、女性向けのクリスマス限定品があると言うから、それを……な」 「え、私にもですか……?」 恐る恐るリップを取り出しているあおいに頷き、居住まいを正したイザークは、普段の強気な態度とはまた違う――ひどく優しい声で、彼女に感謝を告げる。 「……今年は色々お世話になりましたし、これをクリスマスプレゼントだと思って下さい」 ああ、そう言われると受け取るしかない――腹を括ることにしたあおいは「ありがとうございます」とイザークに礼をしたが、その手と手が触れ合った瞬間、何故だか泣き笑いのような表情を浮かべたように見えた。 (いや……今はあえて聞くまい) ――本当にこのパートナーは、いつも肩に力を入れたまま歩んでいて、此方にも中々心を開いてくれないのだが。その手強さも、最近では好ましく思うようになってきているのだ。 (常にあおいは、己の力で道を切り拓こうとしているが、叶うのであれば――) 共に在りたいものだ、とイザークは思う。イーザ・イーザ・イーザ――苦難を、安らぎを、運命を共に――魔術真名の文言、そのままに。 そうして買い物を終えてイザークと別れた後、ひとり広場中央のベンチで休憩をしていたあおいは、先程のやり取りを思い返して溜息を零していた。 (本当は、お化粧はしないようにしているんじゃない……大嫌い) 白い吐息がふわりと舞う中で、微かに震えている指先は、ただ寒いからだけじゃない――着飾ることが怖かった。教団に入る際に、今まで持っていた殆どのアクセサリーや服は処分してしまったし、自分を装う為にお金を掛けること自体、あおいは嫌なのだ。 (だって、私は自分の力で生きて行かなきゃいけないから。誰にも頼らず、同情されないよう、背筋を伸ばしていかないと――) それでも――あおいの手の中にある、イザークから贈られたリップだけは。今日のこれだけは、怖いことは何も無くて、ただ優しさだけを感じることが出来るのだ。 (……まだ、今は難しいけれど) ――ふと顔を上げれば、噴水近くに設営されたクリスマスタワーが、あおいの視界に入ってきた。 今日はクリスマス――恋人や家族と団欒を楽しむ祝日として、すっかりアークソサエティでは馴染み深いものになったけれど。事情があったとは言え自分は、家族の繋がりを断ってしまった身ではあるが、家族のような親しい存在と今日一日を過ごすことが出来た、と思う。 (いつか、これをつける事が出来ますように) 可愛らしい色のリップを空に翳して、あおいはかけがえのない贈り物をくれた相棒へ、そっと心の中で感謝した。 ――イザークさん。あなたがパートナーで、本当に良かった。
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*** 活躍者 *** |
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