~ プロローグ ~ |
「ああ、やっと見つけた。やぁアリバ。元気かい?」 |
~ 解説 ~ |
いつものようにお部屋で目を覚ますと、枕元に招待状が置かれていました。 |

~ ゲームマスターより ~ |
はじめまして、あるいはお久しぶりです。あいきとうかと申します。 |

◇◆◇ アクションプラン ◇◆◇ |
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蒸気機関車、ですか? クリスと二人で……乗ってみたい、です 話を聞いて頷く 二人で出かけるのは純粋に楽しみで 他に聞きたい事もあり チョコレート…せっかくなので手作りします 乗車券の形を象ったチョコを二枚用意 片方をクリスに こう言うの初めてで…いつ渡したらいいのか迷っていたら クリスからチョコクッキー…先を越されてしまいました… これは、私から……ダリアを象ったチョコを渡して ダリアの花言葉は、感謝、なんです それで、私、クリスに聞きたい事が どう言ったらいいのか迷っていたらヘスティアの火の時に見えた顔が窓に映って これ、は…私の心が映って…? え、親父って…クリスのお父様…? 私…クリスのお父様とどこかで会ってる、の…? |
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車掌さんにぺこりと頭をさげて お招きありがとうございます 今日はよろしくお願いします 苺の花型のチョコレートを渡す 春の花を渡したくてと微笑み 窓から星や月を眺める 流星群が見えたら歓声 昼の陽射しは暖かくなってきたけれど 夜はまだ冬の名残があるわね 「シリウス」を見つけ にこにこ あの、あのね これシリウスに 大人びたラッピングの箱に マーガレット型のチョコ 甘いの苦手でしょう?ビターチョコにしたんだけど… 彼の呟きに首をふるふる あなたに シリウスには特別の物を渡したかったの 迷惑じゃなかったら…なんだけど おずおずと見上げる 呆然としたようなシリウスの顔が 僅かに赤くなるのに自分も赤く 小さなお礼と受け取ってもらえた事にぱっと笑顔 |
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【目的】 ファラステロに乗車。成にチョコを渡す。 【チョコ】 没収) 成に渡すチョコを作る時一緒に作ったドライフルーツ入りのブラウニー。 成) 青い箱に銀色のリボン。リボンには黒地で星形のカードを挟んでいる。 箱の中には手作りの生チョコ。 メッセージカードには銀の字で『言えなくて、ごめんなさい。』 これが今…私が伝えられる精一杯。 【行動】 傷心を抱えている者の前に現れる。成には今の私も傷心を抱えているように見えるのでしょうか。(7話) 「今日はバレンタインですし…成にチョコを渡そうと思って持ってきました。」 成を不安にさせるつもりはなかった… だから…せめて言えない気持ちをチョコに託してきた。今は…これで許して欲しい。 |
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すごいすごい!こんなの初めてなんだけど! 招待状分のチョコを用意、なお市販で買ったもの …後ラスに渡す用のをこっそり ちゃんと用意してるってば あんたはあたしの兄貴か! 初めての蒸気機関車に思わず大はしゃぎ ふわぁ…すごい!見て!お菓子が飛んでくる! 景色もきれい!ほら見てラス、星がいっぱい! …あ、あのさ、ラス チョコ、余ってるんだけど… …嘘、作りました 可愛くないけど、手作りです だから!作ったの!ほら感謝して食べなさい、味わいなさい! どうよ味は…そ、そう よかったぁ……(小声で呟き) な、なにも言ってない!言ってないったら! あぁもう!あたしじゃなくて景色を見なさい! やーだー!見ないでー!今ブスだから見ないでー! |
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ファラステロ…? 聞いたことないけど、せっかくの招待だし行ってみようかしら 招待状とチョコレートを用意し乗り込む ろまんちっ…!? べ、別にそういうつもりじゃ…!(トール用に持って来たチョコを後ろに隠し あ…その、ほ、星…きれいね… 駄目だわ…恥ずかしくて、どうしても素直になれない 今日は、いつもの感謝の気持ちを込めてチョコを渡そうって決めてたのに さっきの誤魔化し方も不自然だったし、トールに怪しまれたかしら 深呼吸して、気持ちを落ち着かせて… と、トール!これっ!(チョコを押し付け 別に大した意味はないんだからね、いつもお世話になってるお礼というか… どうしてこんなに照れてるの、これじゃまるで私がトールのことを… |
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招待状 読みました? 不思議な蒸気機関車もあるんですね ベルトルドが車掌に渡していたのと同じ 一粒一粒形の違う一口サイズのチョコを袋に詰めたものをヨナも渡され驚く これ手作りなんですか?こんなに可愛いリボンまで… 料理は一通りこなせるのは知っていたけれど。 身勝手な敗北感を口にも出せず むむむ と唇を噛む 最近何かとバレンタインの宣伝を見かけ、そのことを全く考えていなかったと言えば嘘になる 恋人や告白の手段として渡す話もよく聞くので なんとなく気恥ずかしさの方があり及び腰だった そんな事は全く考えて無さそうな喰人を前に 気にする方が何だか意識してるようで。 チョコを頬張り 感想を促す顔を前にして 上目遣いで一言 …おいしい |
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~ リザルトノベル ~ |
● 招待状を見たとき、『クリストフ・フォンシラー』が考えたのは「気晴らしになるかもしれない」ということだった。 先日つらい思いをさせてしまった『アリシア・ムーンライト』の、気晴らしに。 「……手作りしました」 アリシアが用意してくれるというので任せておいたチョコレートを、クリストフはファラステロの座席で見る。 思わず笑ってしまった。 「乗車券の形か。凝ってるね」 「チョコレートは乗車券の代わりだと……、聞いたので……」 招待状と乗車券の回収のため、コンコンと扉を叩いて姿を見せた車掌も、驚いた顔をした後で、やはり頬を緩める。 「素敵ですね。食べるのがもったいなくなってしまいます」 いろいろな方向から乗車券型のチョコレートを眺め、車掌は我に返ったように頭を下げた。 「確かに頂戴しました。おいしそうなチョコレートをありがとうございます。それでは今しばらく、夜空の旅をお楽しみください」 「……ありがとう、ございます……」 「ありがとうございます」 少し照れた様子のアリシアと、心なしか得意げなクリストフに見送られ、車掌は扉を閉める。 ほっとしたアリシアは、窓の外に目を向けた。 車掌には無事に喜んでもらえたが、本番はここからだ。クリストフに作ったチョコレートをいつ渡すか。 こういったことは初めてのアリシアは、落ち着きなく機会を探る。 「星が綺麗だね」 「はい……。月も、地上で見るより、大きくて……」 「明るいね」 月光が室内を白く照らす。 アリシアがそわそわしていることに気づいていたクリストフは、先に行動してみることにした。 「そうだ、チョコクッキー食べる? このお店の、美味しいんだって」 「……あ……」 先を越されたアリシアは固まってから、観念したように頷く。チョコクッキーを受けとり、代わりに隠し持っていた小箱を渡した。 「これは、私から……」 「これは、ダリア?」 小箱の中には、チョコレートで作られた美しいダリアが収められている。アリシアは頷き、ゆっくりと思いを伝えた。 「ダリアの花言葉は、感謝、なんです」 「感謝って……。俺の方こそ」 いつもアリシアを無理させている気がするのに。クリストフは続けかけた言葉を喉の奥で消す。 伝えるのは、素直な感謝だけにした。 「ありがとう」 「私の方こそ……、ありがとう……」 うつむいたアリシアは、チョコクッキーがつめられた袋をそっと撫でる。きちんと渡せたという安心と、これをもらえたという喜びが、じわりと胸の底を温めた。 細く息を吸い、吐き出して、顔を上げる。なにか言いたげな彼女に、クリストフは小さく首を傾けた。 「それで、私、クリスに聞きたいことが」 「うん」 ファラステロに乗車したのは、クリストフと二人で出かけるということを楽しみにしたからであり、同じくらい彼に尋ねたいことがあったからでもある。 ただ、どう切り出せばいいのか、アリシアは悩んだ。 不意に月光が途切れる。月の前を通過したのかと、なんとなしに窓に目を向けたアリシアが息をのんだ。クリストフも瞠目する。 「この方は……!」 「え、親父!?」 窓に一瞬だけ映ったのは、ひとりの男性だった。 アリシアがヘスティアの火の折に見た顔だ。ファラステロの特性上、心に思い浮かべた人物が映ったようだが、それよりも。 「親父って……、クリスのお父様……?」 「そうだよ、でもどうして」 「私……、クリスのお父様と、どこかで会ってる、の……?」 呆然とした彼女の声に、クリストフはこぶしを握った。 失われたアリシアの記憶。その鍵となる人物が、見つかったのだ。 「アリシア……、今度、俺の故郷に一緒に行こう」 原則として教団で非推奨とされていること。だが、方法は必ずある。 「親父に話を聞きに」 ● 他の浄化師たちと蒸気機関車を待つ中、何度か『シリウス・セイアッド』は『リチェルカーレ・リモージュ』の腕を引いた。 興奮しているのか、頬を紅潮させて目を輝かせ、身を乗り出す彼女が、いつか線路に落ちてしまわないか心配だったのだ。 乗車してからもリチェルカーレは興味深そうに個室になっている座席を見回したり、窓の外に広がる夜空に歓声を上げたりしていた。 「はい」 それを眩い思いで見ていたシリウスは、扉を叩く音に反応する。リチェルカーレも視線をそちらに向けた。 「ご乗車ありがとうございます。招待状と乗車券をいただきに参りました」 「お招きありがとうございます。今日はよろしくお願いします」 招待状と用意していた二人分のチョコレートを、一礼したリチェルカーレが車掌に渡す。中を確認した彼は驚いた。 「これは……」 「春の花を渡したくて」 苺の花をかたどったチョコレートと微笑む少女を交互に見つめ、車掌は降参するように笑った。 「確かに頂戴しました。それでは今しばらく、夜空の旅をお楽しみください」 二人に見送られ、車掌は扉を閉める。「春だねぇ」と呟く声が微かに聞こえた。 「よかった、喜んでもらえたのね」 「ああ」 嬉しそうに目を細くするリチェルカーレに、シリウスは浅く頷く。 少女が再び外を見ると同時に幾筋も星が流れた。 「すごいわ、こんなに近くで!」 蒸気機関車は流星群のすぐ側を、ゆったりと走る。星々を見つめるリチェルカーレは指先で、粒のような光たちをそっと結んだ。 不意にリチェルカーレがひときわ嬉しそうな声を上げる。 「シリウス」 「どうした?」 「シリウスを見つけたの。ほら」 少女が指さす先には、強く光る星があった。 冬の大三角形、その一角をなす星、シリウス。 「昼の日差しは暖かくなってきたけれど、夜はまだ冬の名残があるわね」 「……今の時期は、明るい星が多いからな」 瞬いたシリウスはかろうじてそう応え、目をそらした。 この名を呼んで、リチェルカーレは花のように笑う。それだけのことを嬉しく思う自分は単純で。 馬鹿みたいだと、シリウスは胸の内で呟いた。 「あの、あのね」 緊張を含んだ声を聞き、シリウスはリチェルカーレを見る。少女は両手で、大人びた包装が施された小箱を持っていた。 「これ、シリウスに……」 目を見開きながら、ほとんど反射的に受けとった小箱をシリウスは開く。マーガレットの形をしたチョコレートが、誇らしげに咲いていた。 「甘いの苦手でしょう? ビターチョコにしたんだけど……」 「……俺は、もう……」 先日、仲間と一緒にいるときに、と言いかけて、じっと見つめてくる青と碧の双眸に気づき、シリウスは言葉をのんだ。 少女は緩やかに、首を左右に振る。 「あなたには、シリウスには、特別なものを渡したかったの」 おずおずと、しかし決して視線を外すことなく、リチェルカーレは呆然としているシリウスを見つめた。 (誰も好きにならない、好きになってはいけない) そう、思うのに。 向けられる温かな好意に手を伸ばす自分を、シリウスはとめられない。小箱を支える指先に、わずかに力が入った。 「えっと、迷惑じゃなかったら……なんだけど」 沈黙にいたたまれなくなったリチェルカーレは、表情の変化に乏しいシリウスの顔がわずかに赤くなっていることに気づき、つられるように赤面する。 「……ありがとう」 囁くような感謝の言葉に、リチェルカーレはぱっと笑顔になる。チョコレートを受けとってもらえたこと、喜んでもらえたこと。少女はそのすべてを、素直に喜んだ。 陽だまりに咲く花のような笑顔に、シリウスは熱くなった顔を隠すように下を向く。マーガレットのチョコレートが、春の訪れを告げているようだった。 ● 「見て、にの。本当に飛んでるよ」 車窓から外を眺めた『大宮・成』のはしゃいだ声に、『神楽坂・仁乃』も視線をそちらに向けた。 浄化師たちを乗せて駅舎を出た蒸気機関車は現在、エルドラドの街並みを遥か眼下に、夜空をゆったりと走っている。 「幻想的な光景ですね」 「ねー!」 窓枠に手を添えて無邪気に応じながら、成は胸の内でうなった。 先日、成が孤児院跡であのことを告白し、仁乃を困らせて以来、二人の間に流れる空気がぎこちない。 あれから仁乃は考えこむことが多くなった。ファラステロに乗車したのは、彼女を元気づけたかったからだ。 「食べたいものはお願いしたら出てくるんだっけ?」 「はい」 物思いに耽っていた仁乃は我に返り、浅く頷く。成は笑顔を崩さず、足を軽く前後に振りながら食べたいものを考え始めた。 その姿を見ながら、仁乃は背と背もたれの間でこぶしを握る。 ファラステロは本来、バレンタインデーの夜に傷心を抱えた者を癒すために走る蒸気機関車らしい。 浄化師たちは特別な招待状を受けとって乗車しているが、成の目は仁乃の心の傷を見抜いているかもしれない。ファラステロの車掌がそうするように。 「……よし。チョコケーキが食べたい。ホットココアも飲みたい」 期待をこめた表情で成が言うと、個室のどこからかふよふよとチョコケーキが載った皿と、ホットココアが飛んできた。 「おおー。でもなんか……、あ、マシュマロも食べたい!」 同じく手元にきたマシュマロを、成はホットココアに浮かべる。満足そうな彼に、仁乃も頬を緩めた。 「にのも」 コンコン、と扉が叩かれ、成は放ちかけた誘いを切る。 「はい」 「今宵はご乗車ありがとうございます。乗車券と招待状をいただきに参りました」 仁乃の返事で扉が開き、背の高い車掌姿の青年が気弱に笑んだ。 「お招きありがとうございます」 「ありがとうございます」 会釈をしつつ、仁乃は招待状とドライフルーツ入りのチョコレートブラウニーを、成は購入したチョコレートを車掌に渡す。 「ありがとうございます。……おいしそうですね」 受けとったものを確認し、車掌は相好を崩して一礼した。 「それでは今しばらく、夜空の旅をお楽しみください」 扉が閉められ、室内に短い沈黙が下りる。 「……成、これを」 銀色のリボンが懸けられた青い箱を、仁乃は成に差し出した。リボンには黒い星型のカードが挟んである。 「今日はバレンタインですし……。成にチョコを渡そうと思って、持ってきました」 「チョコ? ありがとう」 「生チョコです。手作りですよ」 「やったー。楽しみだ、ね」 喜びを満面で表現していた成の顔が、カードに書かれたメッセージを読んだ途端に固まった。 ――言えなくて、ごめんなさい。 銀色の字で記された言葉は、仁乃が今、伝えられる精一杯だった。 「にの……」 星明かりのような双眸を見開く成に、仁乃は目蓋を半分伏せる。 「今はこれで、どうか」 言えない気持ちを託したチョコレートとカードで、許してほしい。成を不安にさせるつもりはなかったのだと、知ってほしい。 祈るように呟く彼女に、成は首を緩く左右に振る。 「謝らないといけないのは、僕の方で」 言ってから、違うと気づいた。 二人に必要なのは、そんな言葉じゃなくて。 「……さっぱりしたものが食べたい」 飛んできたチーズケーキに、そうじゃないと成は顔を曇らせる。 目を閉じ、生前に見た流星群を思い浮かべた。そっと成は目を開き、窓を見る。 「にの、流星群だよ」 「きれいですね」 「うん」 窓の外を星が流れる。仁乃がわずかに目元を和めた。 (僕はただ、にのに、このころのように笑っていてほしいだけ) 仁乃の悲しい顔は見たくない。成は絶えずこぼれる星々に、そう願った。 ● 「すごいすごい! こんなの初めてなんだけど!」 「分かったから必要以上にはしゃぐな」 乗車前から高揚していた『ラニ・シェルロワ』を、呆れた声で『ラス・シェルレイ』がなだめる。 「招待状は? チョコは? ちゃんと持ったな?」 「ちゃんと用意してるってば。あんたはあたしの兄貴か!」 「あー手のかかる妹は大変だー」 棒読みの口調で返しながらラスがやってきた蒸気機関車に乗りこむ。他の浄化師たちと彼の背を、ラニは唇を尖らせながら追った。 しかしその不機嫌も長くは続かない。 「ふわぁ……! すごい見て! お菓子が飛んでくる!」 個室の席のひとつに座り、ラニはふよふよと飛んできたクッキーに手を伸ばす。甘くて香ばしい匂いがする焼き菓子は、当然のように少女の指先につままれた。 「おいしい! ラスも食べたら?」 「あとでな」 初めて乗る蒸気機関車に年相応にはしゃぎ、頬を緩めるラニにラスは苦笑する。 やや元気がないときもあったラニが明るい顔をしているなら、この騒がしさもまぁいいかという心境だった。今夜はたくさん楽しんで、明日は目の下の隈が少しでも薄まっていればいい。 「景色もきれい! ほら見てラス、星がいっぱい!」 夜空を走り始めた蒸気機関車は、地上の灯りよりも星や月の光の近くをゆっくりと走っている。 彼女の声に釣られて窓の外に目をやったラスは、その圧倒的な美しさに息をのんだ。 「すげー……」 景色に見惚れていると、コンコンと扉が叩かれる。先に反応したのはラスだった。 「はい」 「招待状と乗車券をいただきに参りました」 「ああ。ラニ」 「はいはい」 現れたひょろりと背の高い車掌に、ラニが招待状と既製品のチョコレートを渡す。二人分しっかりと確認して、車掌はふにゃりと笑った。 「確かに。おいしそうなチョコレートをありがとうございます。それでは引き続きお楽しみください」 「はーい! こちらこそありがとうございます」 「ありがとうございます」 車掌を見送ったラニが席に座りなおす。ラスは窓の外に目を向けた。 蒸気機関車は丸い月を横切るように走っている。眩しいほど白い光が車内を染めた。 「……あ、あのさ、ラス」 「なんだ?」 様子がおかしいラニにラスは首を傾ける。ラニは視線を泳がせていた。 「チョコ、余ってるんだけど……」 「余ってる? え、お前、余分に持ってきたのか?」 瞬くラスに、ラニは意を決したように一度、奥歯に力を入れる。 「……嘘、作りました。可愛くないけど、手作りです」 ラニが両手で持つ小箱と、少女の顔をラスは見比べた。 「……え、まじ?」 「だから! 作ったの! ほら感謝して食べなさい、味わいなさい!」 「分かったから押しつけるな、食べるから!」 緊張と恥ずかしさが頂点に達したラニが、叫びながらラスに小箱を押しつける。 小箱を開くとふわりと甘い香りが広がり、少し不格好に成形されたチョコレートが姿を見せた。 なにかを堪えるような顔をしているラニを横目に、ラスは贈り物をつまんで口に入れる。ラニが頑張って作ってくれたことがしっかりと伝わってきて、嬉しかった。 「どうよ、味は」 「うまい。お前、いつの間にこんなの?」 「そ、そう」 よかったぁ、と小さな声で呟いたラニは、脱力するほど安心して顔を両手で覆い、うつむく。 「……ほう?」 にやりとラスは口の端を上げた。 「そう、のあと、なんだって?」 「な、なにも言ってない!」 「言ったよな?」 「言ってないったら! あぁもう! あたしじゃなくて景色を見なさい!」 「美人見なきゃ勿体ないだろ。ほら顔見せろ、美少女なんだろ?」 「やーだー! 見ないでー! 今ブスだから見ないでー!」 抵抗するラニの顔を、ラスが覗きこもうとする。楽しげな声を伴う攻防戦は、しばらく続いた。 ● 「夜空を走る蒸気機関車なんて、ロマンがあっていいな」 「そうね。聞いたことない名前だけど」 座席に腰を下ろした『リコリス・ラディアータ』はざっと個室内を見回す。特に変わったところは見受けられなかった。 同じく座った『トール・フォルクス』は、少し考えてから前言をやや訂正する。 「いや……、どっちかっていうと、ロマンチックかな? いい雰囲気というか……」 「ろまんちっ……!?」 忘れ物の有無を確認していたリコリスが、中に入れていたものをひとつ、慌てて後ろ手に隠す。 「べ、別にそういうつもりじゃ……!」 「えっ? そういうつもりって……?」 駅舎を出て空を走り始めたファラステロの個室に、緊張感を伴った沈黙が落ちる。 軋むような動きでリコリスは窓の外に目をやった。 「あ……、その、ほ、星……、綺麗ね……」 「あ、ああ……、綺麗だよな」 隠しきれない動揺が、リコリスの声ににじむ。トールは同意しつつ、髪に隠れた少女の横顔を盗み見た。 バレンタインデーの夜。なにかを隠した手。 期待したいのだが、変につつけば悪い方に転がるかもしれない。 (ここはリコから言い出すのを待とう) はやる心をなだめすかして、トールは待機を選んだ。 一方でリコリスは奥歯を噛み締める。 (駄目だわ……) 今日はいつもの感謝の気持ちをこめてトールにチョコレートを渡すと決めていたのだが、恥ずかしさが勝ってどうしても素直になれなかった。 先ほどの誤魔化し方が不自然だったことは自覚している。怪しまれただろうか、とそっと彼の顔色を確かめた。 落ち着きがないように見えるのは、星のすぐ近くを走る蒸気機関車に興奮しているためか。それとも。 会話の糸口を掴めないでいた二人の耳に、扉を叩く音が滑りこんできた。ほとんど同時に振り返り、異口同音に返答する。 「はいっ」 「失礼します。招待状と乗車券をいただきに参りました」 扉を開いた背の高い車掌が穏やかに微笑む。 肩の力を抜いたリコリスとトールは、名前が刻まれた招待状と用意しておいたチョコレートを車掌に渡した。 「確かに頂戴しました。おいしそうなチョコレートですね、ありがとうございます」 「こちらこそ、お招きありがとう」 「引き続き、夜空の旅をお楽しみください」 「ああ」 一礼して車掌が去っていく。 今だ、とリコリスは直感した。 深呼吸をして早鐘を打つ心臓をできるだけ沈静化して、背と背もたれの間に隠した小箱を掴む。 「と、トール!」 「おう!?」 「これっ!」 押しつけられた小箱を受けとり、トールは目を見開いた。 「……チョコレート……、俺に?」 リコリスは重々しく頷く。 「別に大した意味はないんだからね、いつもお世話になっているお礼というか……」 (どうしてこんなに照れてるの、これじゃまるで私がトールのことを……) 口早に言うリコリスに、トールはとろけるように表情を緩ませた。 「ありがとう、リコ。すごく嬉しいよ」 「……そう」 「分かっててもやっぱり嬉しいもんだな」 「え? なに?」 「いや、なんでもない、こっちの話」 瞬いたリコリスにトールは笑みを向ける。リコリスは明後日の方を向いた。 もしかして、と思っていたとはいえ、本当にもらえたことで、トールの喜びは最高潮だった。小箱を開き、並んだチョコレートに目を細める。 「よかったら一緒に食べないか?」 「そうね、いただくわ」 一粒口に入れると、甘くておいしかった。リコリスの口にもあったようで、少女はわずかに口許をほころばせている。 「なあ、リコ」 「なに?」 「……いや」 (お礼って言ってたけど、本当にそれだけ?) 投げたかった問いを、トールはのみこむ。 (それとも……、期待してもいいのかな……?) 口の中でチョコレートが溶けていく。 ● 招待状とチョコレートを受けとった車掌が、小さく歓声を上げた。 「これは……、ありがとうございます。おいしそうですね」 得意げな顔をしている『ベルトルド・レーヴェ』を、『ヨナ・ミューエ』はちらりと見る。 「確かに頂戴しました。それでは今しばらく、夜空の旅をお楽しみください」 「ああ」 「ありがとうございます」 一礼してひょろりと背の高い車掌が扉を閉めた。 「ヨナの分もあるぞ」 「……え」 ベルトルドが手にしているのは、先ほど車掌に渡したのと同じ、一粒ずつ形が違うひと口サイズのチョコレートを袋につめたものだった。 ヨナは呆然と受けとる。 「チョコ作りもそうだが、包装や飾りつけが楽しいんだ」 「これ、手作りなんですか? こんなに可愛いリボンまで……」 「どうだ、可愛いだろう」 ころころとしたチョコレートに、先がくるんと巻かれたリボン。中も外も完璧な形を保つそれは、菓子店に売り出されていてもおかしくない出来だった。 「……可愛い、ですね」 絞り出すような声で褒めたヨナは、むむむ、と唇を噛む。 彼が一通り料理をこなせることは知っていた。器用であることは、このチョコレートを見れば認めざるを得ない。 しかし、ヨナが身勝手にも敗北感を覚えているのは、それらが原因ではなかった。 バレンタインデー。 最近なにかと宣伝を目にしていたのだ。全くそのことを考えていなかったといえば、さすがに嘘になる。 ただ、恋人同士で楽しむような甘ったるい空気を感じたり、告白の手段としてチョコレートを渡すという話をよく聞いたりしていたため、なんとなく気恥ずかしくて及び腰になっていた。 乗車の際にチョコレートが必要だからと、一応ひとつ購入して先ほど車掌に渡したが、一方でベルトルドは。 「……いえ、そうですね」 「なんだ」 「こちらの話です」 力作を自慢するように胸を張っている姿を見れば、巷で噂の甘い日のことなど、まるで考えていないことが分かる。 気にする方が意識しているのでは、と思えてきて、ヨナは深く息を吐き出した。 「魔法の力っていうのは、なんでもありなのだろうか」 「どうでしょうね」 複雑な顔をするヨナはわりと見慣れているので、ベルトルドは見て見ぬふりをして、ふよふよと飛んできた紅茶入りのカップを捕らえる。 「ほら」 「ありがとうございます。……いただきます」 リボンを慎重に解き、ヨナはチョコレートをひとつ口に入れた。程よく甘くて、ベリーのような酸味がある。紅茶によくあう味だった。 感想を促す視線に気づき、そろりと顔を上げる。 「……おいしい」 「そうか」 上目づかいで放たれた言葉は、表情と噛みあっていなかった。 笑いを堪えて、ベルトルドは窓の外に目を向ける。星の瞬き、地上にいるより明るく大きく見える月。ずっと下の方の街灯り。 「ヨナ、鳥がいるぞ」 「驚いているでしょうね」 夜行性の鳥が蒸気機関車と並んで飛び、しばらくして見えなくなった。 会話の合間に下りる沈黙は、決して悪いものではない。 「これは」 袋の中に折りたたまれた手紙が入っていることに気づき、ヨナは一瞬だけためらってから開く。ベルトルドは澄ました顔で紅茶をひと口、飲んだ。 は、とヨナの口から息が漏れる。 「なんですか、これ」 記されていたのは言葉ではなく、大きな肉球の印だった。 問う合間にもヨナの口許は緩んでいき、瞳からも険しさが抜ける。 「いいだろう」 ヨナの反応に、ベルトルドは満足そうに腕を組んだ。 目を細めて紙面を眺めていたヨナは、天井を仰ぎ見て小さく息をつく。箱のような個室の空気は、すっかり穏やかなものに変わっていた。 「私も作ればよかった」 夜空を眺めるベルトルドに聞こえないよう、小さな声で呟く。 来年のこの日は、きっと。
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*** 活躍者 *** |
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[2] リチェルカーレ・リモージュ 2019/02/23-22:26
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