~ プロローグ ~ |
――これは、世界のはじまりの物語。 |
~ 解説 ~ |
こちらは、PCである喰人と祓魔人が契約を行うエピソードとなります。 |
~ ゲームマスターより ~ |
PLの皆さま、PCの皆さま、初めまして。 |
◇◆◇ アクションプラン ◇◆◇ |
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・教団に声をかけられた時 自分にとってこれ(契約)は逃げ道のような気がしていた ・少し後悔を抱きながらも決断したのは自分だから 音楽は…歌は大好きなはずなのに 両親からのプレッシャーで嫌いになりそうで…怖かった。 そんな時でした、声をかけられたのは。 …まぁなると決めたからには 私もあーだこーだ思うのはやめましょう。 どんな方がパートナーであっても仕事です。 ・そう割り切ろうとしたらうっかり一目惚れ は、初めまして…エファ・シュナイダーです。 えっとじゃあ、契約…ですよね。 (男の人の手に口づけるなんて…き、緊張が…) ふぅ、なかなか面倒です…これで終わり、ですね。 ま、これからよろしくお願いします。 (わあぁ悪癖が…!) |
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挨拶だけを交わし適合診断を受けた後 契約に臨む ◆ローザ 診断中に挨拶以外何も口を開かなかった彼の唐突な問に面を食らいつつ答える 「戦う理由…そうすべき義務が私にあるからだ」 きっと男の目を睨みつける 「ここに立っている事は、私の…私だけの覚悟だ」 彼の言葉には目を合わせ頷き 跪き彼の手を取り魔術真名を唱える 「其方こそ、おっさん」 ◆ジャック 契約前に問掛ける 「お前の戦う理由はなんだ」 「其処にお前は無い。俺は、お前の覚悟を聞いている」 「…多少の覚悟はある様だな」 右手の甲を切りつけ差し出す 「契約する以上、俺はお前を己の為に使う お前も俺を己の為に使え」 「これで契約成立だ。せいぜい足を引っ張るなよ、ひょろモヤシのガキ」 |
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【行動】 教団に入り浄化師となる事に付き合わせてしまったと謝罪。 表情は穏やかな笑顔のままで、殆ど変える事が出来ない。 契約完了後、傷口を包み込む様にクラルの手を握り顔を埋める。 【魔術真名】 死はまだ遠くに 【会話】 「……ごめんね、クラル。僕は…」 「良いの。…あなたは、そういう人だもの。その思いこそが、私の愛するあなただもの」 「…私の方こそ、ごめんなさい。あなたを苦しませてしまって。…私と他の皆と…どちらも、あなたにとって天秤に掛けられるものでは無いのに」 |
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【目的】 戦う力を得るため契約する 適合するなら誰でも構わない 【行動】 最初くらいは愛想良くと思ったが、トールの爽やか王子様っぷりと暑苦しさに素に戻り塩対応 「そういうのいいから、早くしましょう」 (名前を聞かれ)「…リコリスよ。皆そう呼んでる」 両手を差し出し躊躇なくテスト 適当に終わらせようとしたところ、吸い付くように合わさる手のひらに一瞬、我を忘れる 照れ隠しにつっけんどんな態度で契約を急かす やはり躊躇なくトールの手の甲に口付けて魔術真名を唱え 「勘違いしないでよね、私は戦う力が欲しかっただけだから!」 顔赤くしてそのまま帰ろうとする お茶の誘いには答えず先に部屋を出つつ 「お茶よりハンバーガーがいいわ」 |
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平凡で平坦な人生 きっとこれからもそうなのだろうと思っていた …それがどうしてこんな事に… ある日突然教団から声が掛かった 私が祓魔人であると気付いた人からの情報だそうだ 何かの間違いかと思ったが、本当の話だった 平凡な自分がまさか祓魔人だとは思いもよらなかった 適性診断 引き合わされた人は凄く綺麗で近寄り難い雰囲気の男の人 明らかに初対面な筈なのに、何処かで会った事のあるような感覚に疑問符 よろしくお願いします(お辞儀 教団の人から手順を聞き、両手を前に出す 魔術真名 盲亀の浮木、優曇華の花 自然と零れた言葉に自分でも驚く …この出会いは多分…奇跡、だと思うんです 契約 躊躇いなく切られた手を見息をのむ 意を決し契約の口付けを |
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祓魔人の自覚を持ったのはつい最近 家族や友達と離れるのは寂しいけれど、巻き込むよりはずっとマシだ むしろ皆の日常を僕の手で守る事が出来るんだ そう思うと不安なんてどこかへ吹き飛んで、笑顔で一歩を踏み出す 初めて出会った喰人は魔術人形の小さな男の子 弟と同い年くらいの子も居るんだと少し驚く 適合テストで手が触れた瞬間 陰っていた瞳が光を取り込んでキラキラ反射するのに、つい見惚れた これは始まり。楽しい事も苦しい事もあるんだろう でも、君となら上手くやっていけるんじゃないかって 根拠は無いけどそう思うんだ 傅いて見上げた姿はどこまでも真っ直ぐで、綺麗で 堂々とした小さな王子様 僕も君を守るよ。これからどうぞ宜しくね |
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適合診断は滞りなく。 これで家無しから寮生活 晴れて生活拠点ゲット で、契約の日。 喰人の切られた左手甲(右利きか)を見 片膝ついてその手へ口付ける 非難の色を滲ませた上目で窺いつつ 滿たせ 満たすべきものは知らねぇ。 短くて忘れはしないな 喰人:「ご不満なのは分かりますがそうあからさまな顔をされても 祓魔人:アンタの潔さに呆れただけだ。勢いよく切りすぎ。傷が深い 「後程自分で処置します。それと名前 リラだっけ 「グラナーダが名です グラ? 「長い名ではないのですが……いいでしょう 「よろしくお願いします、トーマ アンタだって変に短縮しやがって 「発音が面ど――いいえ難しいのです この先何度呼ぶかは分からねぇけど 短くて忘れはしないな |
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「お嬢、怖いのか?」 わたしの不安を見透かすようにロウハが言う からかうような笑顔になんだか悔しくなって 「怖くなんかないわ。これから浄化師として戦っていくんだもの、これくらい…」 「パートナーの前でくらいは、無理すんなよ」 予想外に優しい言葉をかけられてドキリとしてしまう 固まっているとポンと頭に手を置かれた 「どんな時も、あんたはあんたらしくいればいい。それがユベール様の願いでもあるんだからな。そのために俺がいるんだ」 その言葉と手の温かさに、安心感がこみ上げてきて 「ありがと、ロウハ」 微笑み、そっと彼の手を取った 傷だらけのロウハの肌に、新しい傷をつけてしまう でもそれは、二人で進むための大事な傷 …そうよね? |
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~ リザルトノベル ~ |
1718年4月、薔薇十字教団本部。 この日、浄化師候補は一組ずつエントランスホールに集められた。彼らは教団員の後についてホール中央の『転移箱舟』に乗り、本部内のどこかへと飛ばされる。厳粛な空気で満たされたその部屋こそがこれから行う診断の、そして『契約』の舞台となる場所だった。 あなたたちの物語は、これから幕を開ける。 ●『Eva・Schneid(エファ・シュナイダー)』『クルハ・リヴァルツェ』 案内役兼受付として待機していた教団員が、クリップボードに挟まれた用紙に印をつけていく。印が増えていくたび、エファの後ろめたい思いは増していった。 幼い頃から歌手となるべくして育てられ、両親の期待にも必死に応え続けてきたエファは、最近ではその期待を重荷と感じるようになっていた。音楽を愛する純粋な思いすらも忘れてしまうのではとの恐怖に、彼女は怯えていた。浄化師にならないかと声をかけられたのは、そんな時だった。 浄化師になることで、自分は音楽から逃げたのかもしれない。しかしなると決めた以上、あれこれ考えるのはやめよう。誰が来たとしても、その人こそがパートナーで、これが自分の仕事。そう考え始めた時、背後から声がした。 「お待たせしました、私はクルハ・リヴァルツェです。エファ・シュナイダーさん、ですね?」 驚いて振り向くと、そこには長身のヴァンピール男性が立っていた。瞬間、彼女の思考を満たしていた悩みが消えた。一目惚れだった。銀色の髪の向こうで、クルハの青い瞳が静かに輝いていた。 適合診断は何事もなく進んだ。磁石のように吸い付いて決して跳ね返されない掌は、二人が契約可能であることを示していた。 「じゃあ、契約……ですよね」 エファの言葉にクルハは頷くと、儀式用のナイフで己の手の甲を小さく傷つける。男性の、それも一目見て好きになってしまった相手の手に口づけするという初めての事態に、エファは緊張で身をこわばらせる。それをクルハは「渋々」と取ったのか、興味深そうに彼女を眺めていた。 「ふぅ、なかなか面倒でしたね。ま、これからよろしくお願いします」 好意を抱いた相手に素直になれない「悪癖」。エファがそれを口にした後で後悔していることは、クルハには既に見透かされていた。 金も、女性も、将来さえも、何一つ不自由ない生活。そんな平穏でつまらない人生に振りかける、ほんのひとさじのスパイス。それが彼にとっての教団だった。そして彼女は、最高のスパイスになるかもしれない。料理人としての勘が、彼にそう告げていた。久々に覚えた楽しさの予感。それを味わいながら、クルハは挨拶を返した。 「こちらこそよろしくお願いします、エファさん」 浄化師が絶対の信念を込める魔術真名。彼女たちの場合は「月降る夜明曲(ムーンライトオーバード)」。この契約は二人が紡ぐ最初の曲の、初めの一音。エファは世界の救済のために、クルハは世界の平和のために。二人の音楽は、まだ始まったばかりだ。 ●『ローザ・スターリナ』『ジャック・ヘイリー』 物心つく前から、母と二人きりだった。だからローザは、不在の父に代わる男手として母を支えようとして男装を始めた。ヴァンピールへの迫害から逃れた末に辿り着いた、雪に包まれた小村でのあたたかな日々は、どんな吹雪にも消されない心の灯火だった。 彼女がエントランスの隅で指令書を眺めていると、男が一人、係員に案内されてきた。無精ひげの生えた痩せこけた頬に、鈍く光る赤い瞳、額に一対の角が生えた半鬼の生成。いつまでも頭に残り続け、心をざらつかせる風貌だった。 「……喰人、ジャック・ヘイリー。ガキの子守をする心算はねえ、覚えとけ」 「祓魔人、ローザ・スターリナだ。そちらこそ覚えておけ、チビのおっさん」 普段は物語の中の王子のように振る舞うローザが、冷静さを欠いていた。契約の相手など誰でもよかったはずなのに。自らの心のざわつきを、彼女は確かに感じ取っていた。 「ローザとか言ったな。お前の戦う理由はなんだ?」 適合診断前、それまで黙っていた男が話しかけてきた。沈んだ瞳に、心の奥底までも覗かれるようだった。 そうすべき義務があるからだとローザが答えると、男はつまらなそうに目を背ける。 「その中にお前はいない。俺はお前の覚悟を聞いている。戦う理由を、他人に求めるな」 彼女の心のざわつきは、いつしか嵐に変わっていた。 試算で相性良好とされた二人の同調率は、思うように上がらない。掌が弾かれ合い、担当者や立会人は何事か話し合う。ローザはそれを他人事のように眺めていた。 「覚悟のない奴がここに立つからだ」 吐き捨てるように言うジャックに、ローザは言葉を叩きつける。 「私が立っているのは、私の……私だけの覚悟があるからだ!」 男の目つきが変わったような気がした。再び両手を突き出すジャックに呼応して思い切り両手を突き出すと、ぴたりと手が合わさる。 「多少の覚悟はあるようだな。契約する以上、俺はお前を己の為に使う。お前もせいぜい、俺を己の為に使え」 彼女は目を合わせて頷くと、跪いて男の手の甲に口付けを落とす。 「己の為に利用せよ!」 同時に魔術真名が発される。難航していた契約は一瞬のうちに完了した。ジャックが何か口にしたような気がしたが、それはローザには聞こえなかった。 ――戦える祓魔人なら、誰であろうと構わなかった。 御大層に戦う理由など聞いてみたが、自分の理由には辿り着く場所などない。故郷を滅ぼした使徒に、そしてベリアルに「正義」を執行するだけが存在理由の喰人。そんな自分と適合してしまった祓魔人が、哀れだった。 「俺と契約するなんて、可哀想にな」 呟いた言葉は、誰にも聞かれぬまま虚空へ消えた。 ●『クラウス・クラーク』『クラル・クラーク』 僕はクラウス。マドールチェにしては大型の個体。祓魔人として目覚めた僕は、世界のどこかで傷つく人を助けるため、妻を説得して二人で教団へ出向いた。彼女が少しでも長く生きるため、僕は契約をする。 僕の死はまだ遠くに。君の死も、まだ遠くに。 クラーク夫妻は、適性診断を受けるために教団本部へ来ていた。とはいえ結果は既に出ているようなもので、今日の適性診断もおそらくは最終確認、儀式的な行為に近いのだろうとクラウスは考えていた。隣にいる妻を見遣ると、彼女はいつもの俯きがちな姿勢で、不安そうな表情をして佇んでいる。彼女は視線に気付くと穏やかに微笑みかけた。不安は、何一つなかった。 「ごめんね、クラル。僕は……」 僕は君を付き合わせて、こんなところまで連れてきてしまった。診断を難なく終えたクラウスはそう言うつもりだったが、途中で遮られる。 「いいの。……あなたは、そういう人だもの。その思いこそがクラウス、あなたなのだから」 彼女はそう言って手の甲を切る。クラウスは跪いて彼女の手に口づけた。 死はまだ遠くに。それが二人の魔術真名だった。 「……私のほうこそ、ごめんなさい。私はあなたを苦しめてしまった。私と他の皆、どちらもあなたにとっては、天秤にかけられるものではないのに」 傷を包み込むように妻の手を握っていると、クラルが申し訳なさそうに言った。彼女は当初教団入りに反対だったが、夫の理想に寄り添い、夫を守り抜く決意をしてここに来た。 二度とあなたを死なせはしない。あなたの死は、まだ遠くに。彼女の強い意志が肌を通じて伝わってくる。自分を誰よりも理解してくれる妻に深い感謝を寄せながら、彼もまた誓う。君を悲しませはしない。僕の死は、まだ遠くに。 クラウス・クラーク。「本物」を模して造られたマドールチェ。 オリジナルのクラウスは4年前にクラルを庇ってこの世を去り、正気を失った彼女は魔術研究の同志と1体のマドールチェを作る。それが現在のクラウス。顔の微笑はオリジナルに似せて造られた形、温和で優しい性格はオリジナルの思考回路を植え付けて生み出されたもの。 種の存続も世界の平和も、妻のクラルにとっては些細なこと。全ては夫を守るため。今のクラウスには亡夫の魂が宿っていると彼女は信じて疑わない。そしてクラウスもまた、彼女の夫として生きている。代替品ではなく、クラウス・クラークとして、懸命に、誠実に。 ――僕はクラウス。君が幸せであるのなら、僕はただそれだけでいい。 二度と君を置いて行きはしない。ふたりの死は、まだ遠くに。 ●『リコリス・ラディアータ』『トール・フォルクス』 祓魔人リコリスは、スラムで暮らしていたところを教団に保護された。教団が衣食住を約束する代わりに、彼女は浄化師として働く。それは彼女のような者にとって、十分すぎるほどの条件だった。 リコリスは寡黙で感情の起伏も少なく、保護時は名前すら名乗ろうとしなかった。当時の調査員は彼女が持っていた彼岸花の髪飾りにちなんで、彼女にリコリスという名前をつけた。 浄化師になるのは生きていくためで、契約相手などは同調率さえ高ければどうでもいい。 彼女は少なくとも、そのはずだった。 「はじめまして、俺はトール・フォルクス。君が俺のお姫様だね」 「……そういうのいいから、早くしましょう」 最初くらいは愛想良く。そのつもりだったが駄目だった。現れた喰人はいかにも爽やかそうな熱血好青年。鮮やかな朱の髪と太陽のような金色の瞳もなんとなく暑苦しい。 「別にそれでもいいけど、名前くらい名乗ったらどうだい?」 こうした見られ方には、覚えがあった。彼の言葉は、相手を保護対象として見ている時のもの。それでも戦える相手ならと名乗ると、彼は彼女を「リコ」と呼んだ。嫌な顔をしてみたが、愛称を変える気はないようだった。 戦える相手なら誰でもよかったし、適性診断も適当に終わらせるつもりだった。 しかし躊躇なく差し出したリコリスの手は、トールの両手に吸い付くように合わさる。 「……リコ。もしかして、見とれてた?」 「契約はできるんでしょう? ならさっさと終わらせたいんだけど!」 照れ隠しのつっけんどんな態度で、彼女は立会人を急かす。慌てる教団員からひったくるようにナイフを奪ってトールの前に突き出すと、彼はそれを受け取って手の甲に傷をつけて彼女に差し出す。 「勘違いしないでよね。私は戦う力が欲しいだけなの!」 申し訳程度の憎まれ口のあと、迷わず彼の手に口付けて、二人で唱える。 歌は嫌い。王子様なんていない。この世界に救いはない。けれど彼女が戦うとき、その唇からは歌が零れる。 「闇の森に歌よ響け――」 リコリスの頭に浮かんだ魔術真名。それが何を意味するのかは、彼女にもまだ分からない。 「これからお茶でも行かない?」 契約が終わった途端に話しかけるトールを無視し、リコリスは歩き出す。心の奥底では憧れを抱いていても、まだ素直にはなれない。だから。 「――お茶より、ハンバーガーがいいわ」 「了解、お姫様」 初対面の「お姫様」はトールなりの紳士的な態度の表れ。そして今度は、少しからかうように彼女に答える。 ――今度こそ、パートナーを死なせはしない。 苦い記憶と強い決意を胸に、トールは彼女の後を追いかけていった。 ●『アラノア・コット』『ガルヴァン・ヴァレンベイル』 平凡で平坦な人生。これまでも、そしてこれからも。幼い頃からそう思っていた。 それがどうして、こんなことに。 アラノアはある日突然、祓魔人として教団に見出された。いつ覚醒したのかは不明だが、周囲の者が誰一人として想像していなかったほど彼女は平凡だった。そして今、教団の制服に身を包んではいるが、喰人候補はなかなか現れない。これはやはり夢なのではと彼女は考え始めていた頃、候補者が現れた。 ガルヴァン・ヴァレンベイル。半竜の特徴である角や翼、尻尾はどれも大きい。息を呑むほど美しく、どこか近寄りがたい人物だった。間違いなく初対面だが、どこかで会ったような気がしてならない。そして相手もまた、彼女を見て驚いているようだった。 挨拶を済ませたアラノアはぺこりとお辞儀をする。少し撥ねた髪がぴょこんと動いた。ガルヴァンも表情を変えずに軽く会釈する。 彼は寿命が延びるならと教団に来たが、適合者は今に至るまで一人も見つかっていない。数字の上では相性が良くても、同調率が上がらないことばかり。そんな選り好みの激しい性質に半ば諦めながら、教団寮の自室で原石を磨き、趣味のアクセサリー作りをするだけの日々だった。 今日もどうせ不適合。そう思って来るだけは来てみたが、彼は候補を見るなり不思議な感覚に襲われた。その相手は診断が初めてのようで、教団員に手順を聞いてから両手を前に突き出した。 (この相手と適合しないのは、嫌かもしれない) 初めて覚えた感情に気付く暇もないまま、診断が始まった。 掌は合わさって深く沈み込み、指が絡む。同調率は最高に近い数値だった。 「盲亀の浮木、優曇華の花、我らの縁よ永久に」 診断を終えたアラノアの唇から自然と言葉が零れ、ガルヴァンは首を傾げて彼女に問う。 「どんな意味かは知らないが、それが俺たちの魔術真名か?」 自分が何を言ったのかも分からない彼女は驚いて聞き返し、そして答える。 「この出会いは多分、奇跡……だと思うんです」 ガルヴァンはそれを聞くと、手の甲を傷つけて彼女に差し出す。躊躇いなく切られた傷にアラノアは息を呑むが、意を決して跪くと契約の口付けを交わした。 「これからよろしく頼む、アラノア」 「はい、ガルヴァンさん」 ――奇跡の出会いも、悪くはない。 ガルヴァンの尻尾が、ほんの少しだけ楽しそうに揺れた。 ●『綴木・十彩(つづるき・といろ)』『シャルヴェ・アデュラリア』 ヒューマンの十彩が祓魔人として自覚を持ったのはつい最近のこと。家族や友達と離れるのは寂しいけれど、愛する皆を戦いに巻き込むよりはずっとまし。皆の日常を自分の手で守れるのなら。そして十彩は笑顔で故郷を後にした。 彼女は今でこそ寮で一人暮らしだが、これまでは兄弟姉妹の多い賑やかな家庭で過ごしていた。寂しくないと言えば嘘になるが、後悔はしていなかった。 「お前がツヅルキか?」 集合場所で、十彩は細い体躯の少年に話しかけられた。怜悧な印象の色白の美少年。おそらく彼がパートナー候補だが、どうも十彩には「弟」のように見えた。 「それじゃ君が、シャルヴェ・アデュラリアだね。これから一緒に頑張ろう、僕も君を守るから!」 口調や態度が自然と「姉」になる。シャルヴェはそれに戸惑い、そして年下扱いされたことを不満に思っていた。 ――適合診断。 事前の判定では相性良好のはずだったが、儀式は思うように進んでいなかった。 「小娘、なぜそこまでして契約しようとする」 投げやりに手を差し出すシャルヴェと、笑顔を絶やさずに何度も何度も試し続ける十彩。 シャルヴェは浄化師として造られたが、幾度となく適合診断に失敗するうちに存在意義は揺らぎ、製作者にも見放された。厳しい鍛錬で自らの意味を辛うじて保つ日々のなか、「もしも」を信じて診断を受け続けていた。 「言ったでしょ、僕が君を守るって」 十彩が大きく息を吸い込んで跪く。ダークブラウンの長い髪が、ふわりと浮かんで落ちた。 一瞬だった。掌がぴったり合ったかと思うと、そのまま指が絡まる。二人にとって初めての、そして最高の適合者。絶望に翳っていたシャレイブルーの瞳がきらきらと輝く。十彩はその硝子のような光に見惚れ、シャルヴェは無意識のうちに彼女の手を強く握った。 契約は始まりに過ぎない。それでも彼となら上手くやっていけると十彩は感じていた。シャルヴェが手の甲を小さく傷付けて彼女に差し出す。跪いた姿勢から見上げる彼の姿は、どこまでも真っすぐで綺麗だった。 「堂々とした、小さな王子様。これからどうぞよろしくね」 手を取り、そっと唇を落とす。触れた手と唇、そして言葉の優しさに、シャルヴェはむず痒さを覚える。 「お前の安全は必ず保障してやる。だが俺は王子様じゃない。子供扱いするな」 十彩には運命のようなものも感じているが、それは口が裂けても言えない。だからこそ彼は、強い言葉で対応するのだった。 「……まあ、よろしくしてやらんこともないぞ、綴木」 契約終了後、シャルヴェは十彩の手を取り、口付けを返して小さく笑う。魔術真名は“La valse de fleur”。折しも花の咲き誇る季節に、シャルヴェと十彩が出会ったお互いの運命。二人はこの舞曲のために、今まさに手を取り合ったばかりだった。 ●『トウマル・ウツギ』『グラナーダ・リラ』 祓魔人として認められたことで、トウマルは家無しから寮暮らしになった。衣食住の保証された清潔な空間が生活拠点となるのは、奴隷として生きてきた彼にとっては生まれて初めてのこと。これまで正式な指令を受けられず、情報収集や雑用ばかりしていたが、今日の契約でようやく「落ち着く」ことができそうだった。 候補の喰人はグラナーダ・リラ、背の高い生成の男。色白の肌に金のしなやかな髪、青い瞳も鮮やかな麗しい半竜。顔にはいつも微笑を浮かべ、診断中であっても表情を崩さない。それが却って奇妙に思えたが、トウマルはパートナーに深入りするつもりはなかった。契約は寿命を延ばすための手段でしかない。教団に言われたことをやれば生きていけるのだから。 滞りなく診断は進み、100%に近い同調率と判定された彼らは契約に移る。 この際手の甲に付ける傷はごく浅いもので構わないのだが、リラは自らの左手甲をざくりと深く切った。その手を眼前に差し出されたトウマルは驚いて彼を見る。生成の男は相変わらずの微笑のまま、そこに立っていた。 片膝をついてリラの手へ口付けるトウマルが、非難の色を滲ませた上目遣いでパートナーの様子を窺っていると、リラの唇が小さく動く。事前に申し合わせていた魔術真名をトウマルも続けて発した。「滿たせ」と。 「ご不満なのは分かりますが、そうあからさまな顔をされましても」 「アンタの潔さに呆れただけだ。勢いよく切りすぎ。それに傷も深い」 契約が終わると、リラは遠回しな非難をトウマルに向ける。彼が受け流すでもなく素直に答えると、リラは「傷は自分で処置します」と付け加えた。 「……アンタ、名前はリラだっけ」 「いえ、グラナーダが名前です」 「グラか、分かった」 名を尋ねて略すトウマルに、リラは「長い名でもないのですが」と皮肉を込めたが、最終的にはその呼び方を認めた。 「よろしくお願いします、トーマ」 非難しておきながら名前を略したリラに、トウマルはむっとして反論する。リラは「発音が難しいから」と言葉を濁すだけだった。 グラナーダ・リラは、適合者が一生現れなければいいと願っていた。しかし相手は、よりにもよって「彼」だった。 リラは運命という言葉を心の底から嫌っている。だが、これは。 「彼」の性格がリラにとって意外にも好ましいのが、せめてもの救いだろう。そして「彼」はきっと程よく放っておいてくれる。何かを隠そうとする自分について、何も詮索することなく。 短いスペル、短い呼び名。「満たす」ものが何か、トウマルには分からない。 二人がこの先、それらを何度口にするかは分からないが、きっと忘れはしないだろう。そう、何があっても、きっと。 ●『シュリ・スチュアート』『ロウハ・カデッサ』 「お嬢、怖いのか?」 適合診断を通過したシュリの不安を見透かすようにロウハが言う。ロウハはサンディスタム出身の孤児で、シュリのパートナーを探していた彼女の父に捕まるまでは、スラム街で盗賊まがいのことをして生き延びてきた。だから荒事には慣れていたし、死と隣り合わせの浄化師になることへのプレッシャーも、あまり感じていなかった。 「怖くなんかないわ。これから浄化師として戦っていくんだもの、これくらい……」 からかうような笑顔に悔しさを覚え、シュリは強がりを言う。箱入り娘だった彼女は、魔術師として人々を助け続けた父の「人々を守れ」という最期の願いに従って教団の門をくぐった。しかし、親を亡くしたばかりの世間知らずな少女の心は、新しい世界へ踏み出すことへの不安で一杯だった。 この日最後の候補は、マドールチェのシュリと生成のロウハ。 事前調査でも相性良好とされた二人は、そのまま診断を受けることになった。候補たちの適合者探しには相応の時間がかかるため、訪れたペアが相性良好と判断された場合、教団では正式な診断や契約をその日のうちに行うこともあった。 「パートナーの前でくらいは、無理すんなよ」 ロウハがシュリの心情を察して優しい言葉をかける。シュリがドキリとして固まっていると、彼が頭の上に優しく手を置いた。 「どんな時でも、あんたはあんたらしくあればいい。それがユベール様の願いでもあるんだからな。そのために、俺がいるんだ」 ロウハは恩人である彼女の父に心から仕えた。今際の際には娘を託され、彼女を絶対に守ると自らに誓いを立てた。 彼の言葉と手の温かさに安心した彼女は、微笑んで優しく手を取る。 数多の修羅場を潜り抜けて傷だらけになったロウハに、新しい傷をつけるのは心苦しかった。しかしこれは二人で進むための大事な傷。そう彼女は心を奮い立たせる。 「ありがと、ロウハ」 それを合図に、ロウハはシュリの握る自らの手の甲を切る。彼女は手を取ったまま跪いて、彼の新しい傷に口付けした。 魔術真名は、「紅き星に誓う」。行く先を照らす星に、彼らは何を誓うのだろうか。 「お嬢。終わったら、屋上にある時計塔に行かないか?」 契約を終えた二人は、手続きのためエントランスで待っていた。高いところから景色を眺めるのは共通の趣味。そこからならアークソサエティの街並みが一望できるだろう。 「そうね。あなたとなら、どんな景色もきっと綺麗に見えるわ」 シュリは嬉しそうにパートナーの提案に乗った。芽生え始めたロウハへの恋心には、まだ気づかないでいた。 ● この日、新たに8組の浄化師が救済のための戦列に加わった。白き使徒に命を刈り取られ、黒き怪物に魂を奪われる人間に残された希望は、怪物どもを滅ぼすことのできる浄化師たちに託されている。 救済を放棄した挙句、滅びのみを与え給うだけの忌まわしい存在に成り下がった神など、もう必要ない。唯々諾々と神に従うだけの日々は終わったのだ。 必要であれば、神をも殺せ。われら人間が、生き残るために。 ――さあ、神への叛逆を始めよう.
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*** 活躍者 *** |
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該当者なし |
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[9] シュリ・スチュアート 2018/03/25-17:36
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[8] クラウス・クラーク 2018/03/25-14:48
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[7] 綴木・十彩 2018/03/25-00:58
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[6] トウマル・ウツギ 2018/03/23-22:41
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[5] アラノア・コット 2018/03/23-20:34
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[4] リコリス・ラディアータ 2018/03/23-14:43
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[3] ローザ・スターリナ 2018/03/23-00:16
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[2] Eva・Schneid 2018/03/23-00:05
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