~ プロローグ ~ |
ワタシがまた心から笑える日は来るのだろうか。 |
~ 解説 ~ |
ヤレリー型ベリアルがいる場所は依頼主である半ピクシー半ヤレリーのミレが案内してくれるため、事前調査は不要です。 |

~ ゲームマスターより ~ |
はじめまして。井口創丁と申します。 |

◇◆◇ アクションプラン ◇◆◇ |
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ミレちゃんは生きてくれるよう説得できたらいいなと…思います… その前にミレちゃんの仲間だった方を……倒さないと、ですけど…… なるべくなら、ミレちゃんには戦闘を見せたくはないです…… 隠れてて貰うわけにはいかないでしょうか…… 戦闘:魔術真名を唱えて戦闘開始 クリスは前衛にてスキルを使い二体以上の撃破を狙い行動 アリシアは後衛から、前衛が撃ち漏らした個体を狙い攻撃 どちらかが魅了に掛かってしまった場合 アリシア→クリスに駆け寄り平手打ち 「し、しっかりして下さい……!敵は、向こうです……!」 クリス→アリシアの頬に軽く口づけ 「ショック療法、は効かないかな?」 戦闘中、アリシアはずっと辛そうな顔で歯を食いしばっている |
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「ヤレリー?」 どんな存在か少し魔術学院で調べてみます。 アンシーリーコートのことかしら? なら十字架が効くかも……購買に売ってない…… と思ったら私たち薔薇十字教団、胸章が十字架ね。 戦闘では開けた場所なので、アリアは盾を構え、パーフェクトステップで回避を試みながら接近。 胸章の十字架を掲げ効果を確認。 怯むようならその後も十字架で行動を阻害しながら短剣で攻撃。 効果が無ければガッカリしつつも攻撃。 小さい相手なので、攻撃を回避されても焦らず手数で勝負。 ネヴィルはアリアに意識が向いているヤレリーを人形で攻撃。 ミレはベリアルではないので刃を向けることは出来ませんが、説得材料もないので、説得は仲間に任せます。 |
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<ディルク> ・行動 奴らは森を知り尽くし、自分たちが有利だとさぞ慢心していることだろう。 その慢心に死の制裁をくれてやる。 常に気を張って警戒し、草木の陰に物音や何かの影があれば躊躇わず撃ち殺す。 ・説得 死にたがりにくれてやる無駄弾は持ち合わせていない。 殺してほしければ、自分が生きていて当然だと言わんばかりの慢心した態度でも見せるんだな。 <シエラ> ・行動 奇襲を警戒しつつ、敵がこちらの視界に入れば攻撃します。 ・説得 ディルクさんの物言いを「ごめんなさい。恐いし危ない人だけど悪い人じゃないんです……多分」と謝罪しつつ、死ぬのが怖くないのか尋ねます。 私は怖いですし、だから死にたくなくて戦っていますからね。 |
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現場に着き次第魔術真名詠唱。 詠唱後すぐに戦闘開始。 魅了の術をつかれるのは厄介だからね。出来るだけ早くかたをつけよう。 一人一体を撃破目標とする。 私は同調を行ない中衛位置から攻撃。 戦闘に関してはこんなところかな。 私は悲劇は好きだけどそれはあくまで物語の中のものだ。 目の前にある現実では悲劇は避けたいと思う。 身勝手な話しだ。私の我儘だ。 けれど君には生きてほしい。 酷なことを言っているのは分かるけれど…せっかくの命だ失うのは悲しいじゃないか。 もし…君が真実ベリアルになったならば私達が…いや私が君の命を終わらせよう。 それを誓う。安らかではないだろうけれど終わり約束しよう。 今はまだ空に星が増える時ではない。 |
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◆目標 ベリアルを倒す 依頼主のミレを生かす ◆心情 ・ローザ 辛い、依頼だ 私はひとり残されたミレさんに、何を言えば良いのだろうか? ◆戦闘 ・ローザ 中衛 皆と被らない様に標的を絞り、距離を空け通常攻撃を行う 一体倒したらフォローに回る 敵が隠れた場合は、DE2のマーカー情報を皆に伝える また倒した数を記憶し、数が合わない場合は警告を行う 魅了に掛かった仲間が出た場合、その魅了の術者を優先的に狙う ・ジャック 前衛 草木の陰を注意深く警戒しつつ、距離を詰める 他前衛と標的が被らない様動く 初撃はTM2を使用。基本は通常攻撃を行う 残り2回のTM2は魅了に掛かった仲間が出た場合に使用 ◆戦闘後 ミレの事情を聴き、皆と共に説得を行う |
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~ リザルトノベル ~ |
静かな森に十の足音と一匹の羽音が響く。 出発から到着まで続いた沈黙は破られぬまま依頼主の進行が止まった。 「着きました」 彼らの先頭でふらふらと浮ぶミレが力なく呟く。 その瞳に生気はなく、既に心は死ぬ覚悟を決めているようだった。 辺りは開けていたが敵の姿は見えない。 おそらくは木の陰や茂みに隠れているのだろう。 ガサッ。 張り詰めた空気の中、不意に葉がかすれる音がした。 ディルク・ベヘタシオンはそれを見逃さない。 既に銃弾を込めていたブロンズライフルを音源に向かって発砲する。 火薬が弾ける轟音が周囲に轟く。 彼のパートナーであるシエラ・エステスは事前にそれを察知して耳を押さえていた。 「ディルクさん、撃つなら前もって言って欲しいです」 耳を押さえて尚、至近距離の爆発に耳鳴りを起こしたシエラが言う。 「ハッ! 敵が近くにいるってのに慢心してやがんのが悪いんだろ」 ディルクは謝るそぶりも見せずそう言うと再び、先程物音がした茂みに銃弾を打ち込んだ。 その銃声が合図となり浄化師たちを囲むようにベリアル化したヤレリーが一斉に飛び出す。 「やれば出来んじゃねぇか、化物どもめ!」 そう叫ぶディルクはもう既に自身の獲物に照準を合わせ終わっていた。 「ミレちゃん。ここに隠れててください」 銃声が響く戦闘地の中、優しくそう声をかけるのはアリシア・ムーンライトであった。 しかし、ミレにその言葉は届かない。 「ほら、こっちに来て」 そんなミレの小さな手を取ったのは彼女のパートナー、クリストフ・フォンシラーであった。 そのままクリスはミレをつれ少し離れた場所である、崖前の大木の根元付近に優しく座らせる。 「アリシア、これで安心だろう」 「はい。ありがとうクリス」 二人は視線を合わせて微笑みながらそう話す。 そして二人は既に背後から近づいてきていたベリアルに視線を移し、お互いの手を取り合った。 そのまま二人は声を重ねて唱える。 「月と太陽の合わさる時に」 直後、二人の魔力は爆発的に増大した。 魔術真名詠唱。 アリシアは背後に隠したミレのことを思うと辛くて堪らず無意識のうちに歯を最大限まで食いしばっていた。 クリスはそんな様子のアリシアを見て、握ったままの手のひらを少し強く握った。 「サヨナラだけを繰り返す」 本日二組目の魔術真名詠唱。 行ったのはアーカシャ・リリエンタールとヴァン・グリムの二人であった。 「ヴァン君、行くよ」 「言われなくても分かってる」 短い会話を済ませるとヴァンは勢い良く、目の前に飛び出てきた二匹のヤレリーへと駆け出した。 ヴァンの赤茶色をした髪と耳、そして尻尾が風に靡く。 ヴァンはそのまま止まることなくヤレリー型ベリアルにスチールアックスを叩き付ける。 その軌跡は二匹のヤレリーを同時に屠る事ができるものであった。 しかし、ヴァンの斧はヤレリーを引き裂く前に木に深くめり込んだ。 大木をほぼ両断する切り口からは攻撃の凄まじさが伝わってくる。 ヤレリーは攻撃を外したヴァンにむけて不快な笑い声を上げている。 ヴァンはその嘲りを気にすることなく冷静に話す。 「あいにく、その類の笑い声は聞きなれているんでね」 そう言ってヤレリーの背後を指差す。 そこにはカタカタと嗤う人形が宙に浮いていた。 「ヴァン君、良いおとりだ」 人形よりも更に奥に佇んだアーカシャがそう言ったのと同時にトリックドールは牙をむく。 それは比喩ではなく現実にヤレリーに大口を開けて飛び掛っていた。 予想外の攻撃にヤレリーは回避する事ができず、そのまま鋭い牙に体を貫かれる。 ヤレリーが苦痛に顔を歪めるがアーカシャは攻撃の手を緩めない。 手に握り締めた魔力糸を引き絞り人形の顎をきつく閉めさせる。 人形の牙にどす黒い血が滲むその光景はまるで血を吸っている様にも見えた。 ヤレリーは叫び声をあげる。 目の前で苦しむ仲間を見ていたもう一匹のヤレリーは、アーカシャに向かって魅了魔法を唱えようとしていた。 「オレを無視とか良い度胸してんじゃねえか」 ヴァンは木に深く突き刺さったままの斧に力を込める。 みりみりと斧は更に深く木にめり込んでいく。 ヤレリーはその様子を見てフッと鼻で笑った後、再び魔力を込め始める。 喜びからか元々歪んでいた顔を更に醜く変形させたヤレリー。 しかし、魔法が放たれる事は無かった。 何故ならもう既に息絶えていたから。 重力で地に落ちる頭部が最期に目にしたのは大木を切り裂いて尚、威力を殺さない斧の残像であった。 自身の魔力すら糧にした暴力の限りを尽くすその一撃は浄化師の間ではこう呼ばれている。 『暴撃』 その攻撃は魔法を編んでいたヤレリーのみでなく、人形に拘束されていた個体の首も同時に切り落としていた。 「いちいち喚かれても困るんでな」 そう言うヴァンの顔はヤレリーの叫びに感化されてかどこか寂しげであった。 「ヴァン君、お疲れ様」 そう言って鎖に繋がれた魂を二つともアーカシャは解放した。 アリア・セレスティは気を落としていた。 独自のルートで調べた十字架がヤレリーにあまり効果を示さなかったのだ。 少しうろたえた隙を見逃さない交戦中のヤレリー二体は茂みに潜り身を隠した。 アリアが索敵をしているとヤレリー二体は挟み撃ちの形で飛び出した。 一方を盾で守る事ができたとしても、もう一体の攻撃は受けることとなってしまうだろう。 ヤレリーもそれを分かってか双方、捨て身の覚悟で突撃していた。 そして、その攻撃は同士討ちと言う形で命中して地面に落ちる。 「ふぅ。やっぱり警戒は大切よね」 「ああ、そうだな」 「ネヴィルはまだ何もしていないでしょ」 少し後ろで立ったままのネヴィル・テイラーが睨まれるのと同時にヤレリーは再び動きだす。 攻撃の好機を逃した事にアリアは再び気を落としたが、ネヴィルはその様子を見て微笑んでいた。 アリアは盾で身を守りつつ、万全とは言えないヤレリーに向けて短剣を突き出す。 その攻撃を小柄なヤレリーは不規則に動き難なく躱す。 アリアはそれでも諦めることなく何度も何度も刺突を繰り返し続ける。 ヤレリーの身軽さは徐々に失われていく。 アリアの勢いは止まらない。むしろ加速しているのかと見間違えるほどに攻撃は正確に急所へと向かって伸びていく。 そんな中、ネヴィルは静かにもう一匹のヤレリーと交戦していた。 彼の得物はベーシックドール。ヤレリーと背丈が余り変わらないそれは、まるで意思があるかのように攻撃を繰り出している。 しかし、ネヴィルはその攻撃を見ずに感覚のみで操っていた。 彼が見ていたのはパートナーであるアリアが苦戦している様である。 その眼の奥にあるのはアリアへの加虐欲か独占欲か、答えはネヴィルにしか知りえない。 ネヴィルの粘着質の視線など気が付かないままアリアはヤレリーに短剣を突き刺した。 「んっ、あっ」 アリアの背後からネヴィルの声が聞こえた。 振り返るとそこには、魅了魔法を受けたネヴィルがいた。人形に倒されたヤレリーが、最期の意地で放った魅了魔法を受けてしまったのだ。 術者が死んでも魔法が継続する事は、基本的にない筈だが、今回はどうやら効果を発揮しているように見える。 正気を失った雰囲気のネヴィルはアリアに向かって走り出した。 アリアは短剣を投擲し宙に浮んだ鎖に突き立てて魂を解放する。 その光景を確認し、アリアは一息つく。 しかし、そのときには既にネヴィルはアリアの目の前にまで迫ってきていた。 森に悲鳴が響く。 「辛い、依頼だ」 ローザ・スターリナはブロンズボウを構えながらボソリと呟く。 牽制の意味も込めて、ローザは少し離れた距離からヤレリーに向かって引き金を引いた。 弧を描いていた弦が一気に縮こまり、矢が高速で宙を舞う。 しかし、ヤレリーはその矢をスレスレのところで回避した。 「やはりこの距離では見切られるか」 ローザを見て、パートナーであるジャック・ヘイリーは気を落とす。 いつもなら前衛で戦うジャックに喧嘩腰で突っかかってくるローザであったが今日は元気が無い。 理由は考えずとも分かる。 「ほんと、辛い依頼だな」 ジャックは呟く。 ジャックの気が抜けたその一瞬をヤレリーは見逃さなかった。 「おっさん! 後ろ!」 ローザが叫ぶ。 ジャックの首筋に鋭いヤレリーの爪が迫っていた。 ジャックはその怒声を聞いて、何故か少し力がこみ上げてきたような気がした。 「わかってる! ガキ!」 ジャックのその叫びからは何処か嬉しそうな音色が含まれていた。 ローザは正確無比な矢を放ち、ジャックはしゃがんだ状態から体をねじりながら背後にスチールアックスを振るう。 ローザの矢は二体のヤレリーを串刺しに出来る軌道と威力を持ち、ジャックの斧は二体のヤレリーを両断する事ができる暴撃であった。 しかし、ローザの矢に斧が接触し、軌道を変えると共にジャックの攻撃の軌道も変化してしまったのだ。 その結果、どちらの攻撃もヤレリーを掠める程度のものとなってしまった。 「何邪魔してくれてんだ、おっさん!」 「それはこっちのセリフじゃこのガキャァ!」 二人は再度怒鳴りあう。 言葉こそ強かったが言い合う二人は心に纏わり付いた黒い感情が少し薄れていくように思えた。 その隙に障害を抱えたヤレリーは茂みへと逃げ込む。 「「誰が逃がすか!」」 二人は言葉を重ねて叫ぶ。 それは過去には無かった感情。 怒っているのに安心する。そんな不思議な感情を抱きながら二人は敵を見る。 ヤレリーは既に一匹は茂みの中に隠れてしまっていたがもう一匹は未だフラフラと宙を舞ってる。 「オラァ!」 ジャックは視界に入ったヤレリーに斧を全力で振り下ろす。 ヤレリーは魂を繋ぎ止めた鎖ごと正中線で真っ二つに割られた。 真っ二つの肉体は砂に変化し地面に溶け込んでいく。 「しゃがめ、おっさん!」 ローザはそう言い、ジャックがしゃがむのを待たずに引き金を引いた。 矢はジャックの肉体を掠めながら茂みへと突き進む。 『リンクマーカー』。敵への命中度を向上させる魔術。 その効力が今、発揮されていた。 さらに今回は先程とは異なり、障害物にぶつかりる事まで思案した一発。 外れる要素などもう残っていなかった。 直後、茂みの中から断末魔のような叫び声が聞こえ砂が風に巻き上げられる。 それを確認した二人は微笑みながら顔をお互いの方へと向けた。 しかし、目が合いそうになると急に恥ずかしくなり普段どおりの鋭い視線を送りあった。 「さてそろそろお仕舞いにしようか」 クリスはスチールソードを振るいながら背後のアリシアに告げる。 「分かりました」 アリシアはそう言って手元にある呪符、急急如律令符を投げ捨てた。 浮遊する呪符はまるでそう決められていたかのようにヤレリーに近づく。 一見唯の紙の様に見える呪符に疑問を覚えたヤレリーが触れる。 直後、ヤレリーの肉体に爪で九字に切り裂かれるような衝撃が走った。 ヤレリーは困惑し周囲を見渡す。 呪符にかく乱されたのはヤレリー二体だけでは無かった。 そこにはスチールソードを構えたクリスがいた。 「安らかにお休み」 クリスは少し微笑んでそう言う。 彼の太刀筋は惚れ惚れするほど美しく、斬られたヤレリーでさえどこか満足気であった。 ヤレリーは断末魔をあげることなく砂へと変わっていく。 それを確認すると呪符は少しずつアリシアの手元へと帰っていった。 未だ歯を食いしばり辛そうな表情を浮かべるアリシアにクリスは優しく話しかける。 「君の優しさが魔喰器に溢れ出ていたよ、だから皆苦しまずに眠れたんだ。ありがとうアリシア」 「クリス……」 そう言ってアリシアはクリスに駆け寄る。 そのままアリシアは震える手でクリスの手を握る。 クリスは少しでも気が紛らわせようと手を少し強く握り返す。 二人は周囲の戦闘が終わるまで手を取り合い続けた。 「いっちょまえに避けやがんじゃねぇか」 ディルクのもつブロンズライフルは今回のヤレリーと相性が悪いらしく、素早く飛行する二匹のヤレリーにはまだ一発の弾丸も命中していなかった。 しかし、ディルクは抵抗する敵を褒め称えるような笑顔を浮かべている。 それとは対照的にシエラは優位に立ちつつも怯えた表情を浮かべていた。 スチールソードを刺突中心で使う戦法は小回りが利きちょこまかと飛び回るヤレリーにはとても効果的であった。 それでも感じる恐怖心は背後から不定期で飛んでくる弾丸の存在が大きい。 絶対に当たらないと分かっていても顔の横を通ったときなどは筋肉が硬直するのをまじまじと感じた。 普段どおりを心がけながらシエラはスチールソードをヤレリーに突き出す。 早くこの場から去りたい一心で行う攻撃は何処か決定打に欠けていた。 幾度も体を剣で薄く貫かれ、瀕死となった一匹のヤレリーはまるで何かに引き寄せられているかのように逃げ出した。 羽は一切傷ついていなかった為、その速さは中々のものである。 「私が追って倒してきます」 シエラはそう言って剣を担いでヤレリーを見つめる。 「逃すんじゃねぇぞ、シエラ」 彼女の背後から聞こえる厳しくも心強い声。 「了解です、ディルクさん」 そう答えるシエラは心の底から笑顔であった。 そのままシエラはそそくさとディルクの視界外に消えていく。 一人残されたディルクと一匹のヤレリーは数秒間見つめあい動かなかった。 そしてディルクは言う。 「おい、お前さん今自分と相性の良い相手が残ったって慢心しやがったよな」 ディルクは怒りの表情を浮かべて静かに言う。 「ならば、死ね」 そして放たれたライフルの銃弾はこれまでと変わらない威力と命中度であったがヤレリーは怯えて体を動かす事が出来ない。 そのままヤレリーの肉体は貫かれた。 その後、宙に浮いた魂を包む鎖を解放するディルクの顔に感情と言うものは無かった。 シエラは逃げ惑うヤレリーに小さな切り傷をいくつも与えながら走っていた。 そして、崖の手前に聳え立つ大木の前で立ち止まった。 「お母さん!?」 木の根元から声が聞こえたその声にシエラは聞き覚えがあった。 依頼人であるミレである。 シエラは一瞬うろたえたが息を呑み、怯えた表情を浮かべているミレに話しかける。 「ミレさん、これは私の一方的な勝手な主張かもしれない。言い訳に聞こえるかもしれない。それが生きる希望に繋がるか分からない。でも、それでも私は、あなたにお母さんの最期をちゃんと看取らせてあげたい。物心ついた時には一人だった私には無い、家族への想い……それを大切にしてあげたいです。だから、私はあなたの前でお母さんをベリアルから解放します」 そう言ってシエラは剣をミレの母親に向けて突き出した。 二つの叫び声が響き渡る。 一つはヤレリーの断末魔、もう一つはミレの慟哭。 「ミ……レ……」 砂に分解されながらヤレリーはそう呟いたように聞こえた。 「お母さん」 ミレは砂になった母親を手で掬い眺める。 「シエラ、こんなところまで来てたのか」 静寂を崩すがさがさと茂みを揺らす音を立ててディルクが現れた。 そして、悲しみにくれるミレを見て言う。 「死にたがりにくれてやる無駄弾は持ち合わせていない。殺してほしければ、自分が生きていて当然だと言わんばかりの慢心した態度でも見せるんだな」 その言葉を受けてミレは掬い上げていた砂を握り締めた。 「ごめんなさい。恐いし危ない人だけど悪い人じゃないんです……多分」 シエラが横から二人の間に入り謝罪する。 そして、未だうずくまったままのミレに問いかけた。 「死ぬの、怖くないんですか? 私は怖いですし、だから死にたくなくて戦っていますからね」 「ワタシは……」 ミレはそう口篭ると森の中へと入っていった。 追いかけようとしたシエラをディルクは肩を掴み制した。 「これ以上は野暮ってもんだ」 ミレはふらふらと不安定な飛行をしつつ一ペアの浄化師の下へと辿り着いた。 アーカシャとヴァンは目の前に現れた依頼人の願望を聞かずとも彼女の手から零れるベリアルの残滓から読み取った。 重苦しい空気の中アーカシャは口を開く。 「身勝手な話しだ。私の我儘だ。けれど君には生きてほしい。酷なことを言っているのは分かるけれど……せっかくの命だ失うのは悲しいじゃないか。もし……君が真実ベリアルになったならば私達が……いや私が君の命を終わらせよう。それを誓う。安らかではないだろうけれど終わり約束しよう。今はまだ空に星が増える時ではない」 そう言った後、アーカシャはヴァンを何かないのかといった意味を込めて肘で突いた。 ヴァンは不本意そうにしぶしぶ口を開く。 「俺は興味ない。……この任務を受けた時からこうなることは分かってただろう。死にたいやつに生きろなんて言うのは酷でしかだろ、俺は死にたくない一心で生きてきたからな……でも惨めな時もあった。生きてるならそんなもの何度でもある。底辺にいればいるほどな。ほかの種族を憎んでいて楽なら恨んで憎んですればいい。それが生きる糧でもいいんじゃないか? 否定はしないよ。わりとこれオススメだぞ」 ミレはそれを聞いて二人に背を向け何処かへと飛び立った。 「ワタシの生きる糧……」 ミレは小さく呟いた。 「おいおい、どうした」 ジャックはあえて軽い言葉を選んでミレに話しかける。 用件はとうに理解している。そして自分が何をするべきなのかも。 ベリアルは全てを不幸にする災厄だ。 例え元がどんなに良い奴でも、そいつが罪を犯す前に……誰かが、止めなきゃならねぇ。 それが俺達だ。 俯いたままのミレを覗き込みながらジャックは言う。 「残された者は、残していった奴らの分まで歯を食いしばって生きていかなきゃいけねぇんだ。同じ事を繰り返さない様あがく為にな」 ミレは迷っているような顔をして話す。 「ワタシはあがいて……良いの? だってワタシは家族を見殺しに……」 「ヤレリーになれ切れていないその姿こそ、ミレさんの中にある家族への愛の証だと……私は信じているよ」 ローザがジャックを押し飛ばしてミレの視界に入る。 そしてローザはミレを見つめながら想う。 私に父は居ないから……彼女の全てを慮る事は出来ない……でも、彼女には生きて欲しい。 「くっ……」 ミレはローザから視線を外し、何処かへ浮遊していった。 アリシアの頭にそっと手を乗せるクリス。 「依頼主に言いたい事があるんだろう? 言っておいで」 前方からゆっくり近づくミレを見たクリスがそう言ってアリシアの背中を押す。 よたよたとおぼつかない足取りでミレの前に立ったアリシアは所々で言葉を詰まらせながら話す。 「大切な人を助けてあげられなくてごめんなさい……。それと、私は、貴方を死なせたくない、です……。貴方が死んでしまったら、貴方の家族や仲間を覚えている人がいなくなってしまうと……思うんです……」 その言葉を聴いてミレは小さな体をぷるぷると振るわせ始める。 クリスに背中をさすられながらアリシアは再び話す。 「私は記憶が無くて……大切な人がいたのかいないのかも分かりませんでした。ずっと一人だと思ってて……でも、クリスと出会いました……。ミレちゃんにもきっと、そう言う相手がいるはずだって……。もし良かったら……私達……お友達になれませんか……?」 ミレは依然俯いたまま震えている。 その姿は怒っているようにも感動しているようにも見えた。 アリシアの背後からクリスが付け加えて言う。 「種族を越えた友情もいいのではと思えないかな?」 「……さいっ。……うるさい!」 俯いたままだったミレは突如顔を上げる。 その顔は涙で濡れていた。 「ワタシは家族を見捨てる事しか出来なかったヤレリーよりもたちの悪い物なのよ! それなのに……それなのに……なんであんた達はそんなにワタシに優しくするのよ! 死ぬのが怖くないのかとか、憎しみを生きる糧にしろとか、半分化物に墜ちた私の姿こそ家族への愛の証だとか、挙句の果てにワタシとお友達になりましょうなんて……そんなの、そんなの、死にたくなくなってしまうに決まってるじゃないの!」 言葉が進むに連れて涙が滝のように溢れでてくる。 「ワタシだって死ぬのは怖いのよ! でもそうしなければ愛が証明できないと思ってたのに、なのに……」 「ミレさん。もういいです、わかりました、わかりましたからぁ」 木の裏に隠れていたシエラがミレに寄り添う。 シエラの顔も涙で濡れていた。 ディルクは遠巻きにその様子を見ながら、「全く野暮な野郎だ」と呟く。 「ヴァン君も行ってきて良いんだよ」 木の陰からヴァンに向けてアーカシャが言う。 「誰が行くかっ。ガキじゃあるめぇし」 顔をあさっての方向に向けたヴァンの表情は伺えないがきっと泣いているのだろう、そう思ったアーカシャはそっと彼の背中に手を置いた。 「ガキ、泣いてんのか」 「誰が泣くか馬鹿っぐずっ、こっち見んなおっさん」 「ああ分かった。だから、俺のほうも見るなよ、うっ」 茂みに隠れるジャックとローザはお互いの涙を隠しながら共に震えていた。 ひとしきり泣いた後、ミレは顔を上げると何も言わないままでアリシアの手を握った。 言葉こそなかったがそれは肯定と取って良いものだろう。 浄化師達は気が付けば集まっていた。 帰り道、ミレはアリシアとシエラに手を握られて進む。 その表情は人を憎んで出来る笑顔ではなく、人を愛する事で初めて生まれる美しい笑顔であった。 「あれ、何か忘れているような」 クリスが呟く。 「アッハッハッハ!」 不意に茂みの置くからいつか聞いた事のある声が聞こえてきた。 浄化師達八人と一匹は茂みを覗き込む。 「ああ、いいぞ。いいぞぉアリア!」 「ネヴィル! あなたもう魅了受けてないよね! 絶対受けてないよね! んっ、じゃあ何で私ロープで拘束されてんの! いい加減にしなさいよ!」 茂みの奥にはロープで拘束されたアリアがネヴィルに詰め寄られていた。 アリアの頭の上に乗った人形はまるで意思があるように彼女の顔をぺしぺしと叩いている。 アリアは嫌悪感をむき出しにした鋭い目つきをしていた。 この光景を目撃した浄化師達の思いはひとつ。 『良い感じに纏まったかと思ってたのに、何してるんですか!? いやほんとに!』 「ふふふっ」 困惑する浄化師の横でミレが小さく笑った。 その姿はもう半ピクシー半ヤレリーではなく、完全なピクシーへと戻っていた。 浄化師達は顔を見合わせて今すべき事を確認しあう。 そしてミレに合わせて大口を開けて全力で目の前の光景を心の底から笑った。 「何でもいいから早く助けてよ!」
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*** 活躍者 *** |
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該当者なし |
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[9] クリストフ・フォンシラー 2018/04/19-22:12
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[8] ローザ・スターリナ 2018/04/18-22:47 | ||
[7] アーカシャ・リリエンタール 2018/04/18-13:14
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[6] クリストフ・フォンシラー 2018/04/17-22:31 | ||
[5] アリア・セレスティ 2018/04/17-21:33
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[4] アーカシャ・リリエンタール 2018/04/16-20:11
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[3] シエラ・エステス 2018/04/16-18:01
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[2] アリシア・ムーンライト 2018/04/16-00:27
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