~ プロローグ ~ |
1719年12月――教皇国家アークソサエティは、今年もクリスマスムードに包まれています。
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~ 解説 ~ |
現代社会とは、起源などが異なっていますが、基本的なイメージは同様のイベント内容になっています。
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~ ゲームマスターより ~ |
※イベントシチュエーションノベル『聖なる夜は終わらない』の対象エピソードです。 |

◇◆◇ アクションプラン ◇◆◇ |
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寮の自室
カグちゃんと過ごす為の料理とケーキを作る キッチン周り新調したから、色々できるぞ~ ユール・ボードの豚肉料理は実は何でもいい よし、ニホンで貰ったレシピの角煮にしよう 後はミルク粥、ポテトサラダ、サーモンとエビのテリーヌを作って… 扉を叩く音に気付く 「カグちゃん?入って、ご飯もう少し待ってね」 ロールケーキのココア生地をオーブンへ 焼いてる間にバタークリームを作る 「大丈夫、後は装飾のクリーム作るだけだから」 小型のスタンドミキサー買ったから、パータボンブのもったり重たいバタークリーム作っても腕が痛くならない! 「料理?うん、楽しいよ」 カグちゃんに食べて欲しいからね 料理長さんのヘルプは断った 今年こそ幼馴染から恋人になりたい 「君を僕だけのモノにしたい」 キスもしたい それ以上もしたい 「ダメ?」 頬に触れて、そして… 口付け後の第一声がそれかい? まぁ、本当は頂きたいけど多分寮母さんに怒られる 「…今日は我慢しとく」 |
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~ リザルトノベル ~ |
静謐で、美しい夜だった。
クリスマス。とある聖人の誕生祭。そして、人々が等しく幸福を享受する日。形は違えど、穏やかなる想いが、世界を満たす。 時も更け、街からは祝い人達の喧騒も引いていく。灯りの消えたケーキ屋の店先。仄かに灯る、飾り木の光。淡い暖色の中を、白いものが舞う。 雪。 人々が家路につくのを待っていた様に降り出した白片は、ゆっくりと世界を染めていく。 山に。野に。街に。足跡に。今宵までの、不幸、嘆き、悲しみ。それを全て、包み込む様に。 これより先は、安らぎの時間。暖かい暖炉の前で、人々は大切な者との絆を確かめる。贈物に。言葉に。そして、抱きしめる腕に。思い思いの調べを載せて。 それは、ここ薔薇十字教団でも同じ事。日々を戦いに明け暮れる浄化師達にとって、数少ない安らぎの時。彼らのささやかな幸せを、せめても今宵だけは守る為、雪は深々と積もりゆく。 薔薇十字教団の寮の一室。そのキッチンで、『ヴォルフラム・マカミ』は料理に勤しんでいた。 「うん、よしよし。良い感じで煮えてる」 コンロにかけた鍋。クツクツと歌うそれの蓋を開け、火の通り具合を確かめる。中から香るのは、甘味を感じさせる東洋風の香り。見れば、飴色の煮汁の中に浮かぶ豚肉の角切り。作っていたのは、『豚の角煮』 以前、東洋島国ニホンを訪れた際に食して気に入り、レシピを貰ってきたモノ。クリスマスには些か不似合いの様にも見えるが、そう思うが素人の浅はかさ。クリスマスを飾る料理のテーブル。『ユール・ボード』。そのメインは豚肉料理だが、そこに国籍はなかったりする。どの国の、どんな料理を作っても無問題なのだ。 「毎年、同じ趣向じゃ芸がないからね」 等と言いながら、ルンルン気分で料理を仕上げていくヴォルフラム。無理もない。本来、異性の部屋には入室禁止とされている教団寮。それが、このクリスマスの夜に限り、解禁される。もっとも、『節度ある範囲で』と言う制限付きではあるけども。 それでも、大切な想い人と夜を過ごせると言うのは、言葉だけでとても甘い。 これから始まるであろう、至福の時間。想像するだけで蕩けそうになる思考を理性で維持しながら、ヴォルフラムはテキパキと料理を仕上げていく。 「後はミルク粥、ポテトサラダ、サーモンとエビのテリーヌを作って……」 この日の為に新調した、キッチン周り。快適な使い心地も、彼の心を高揚させる。綺麗に盛り付けたサラダをテーブルに置き、次の料理に取り掛かろうとした時。 コンコン。 扉を叩く音に気付いた。 その日は特に物騒な指令もなく、穏やかに時間は過ぎた。神様なんて称える気はないけれど、それでも多少は気を利かせてくれたのかもしれない。 そんな事を考えながら、『カグヤ・ミツルギ』は窓の外を見た。日はすっかり暮れて、世界には夜の帳が満ちている。深々と降る雪の向こう。暖かく灯る、家々の灯り。 その光の中で睦まれる団欒を思い、カグヤは微笑む。家にいた頃は、そんな温もりとは無縁だった。一人で篭る書庫の窓から、遠くの家々の灯りを見つめる。それが、彼女のクリスマスだった。 でも。 それは、遠い昔の事。今の自分には、彼がいる。あの頃の空虚。それを埋めて、有り余る程の温もりを与えてくれる、彼が。 ポーン。ポーン。 時が更ける合図を、時計が告げる。回った針の向きを見て、少し慌てる。 「いけない。急がないと……」 そう独りごちて再開するのは、クリスマス飾りの製作。 蔓木を結って作った、リースの土台。飾るのは、冬の野で採取してきた彩り。イチイの枝。柊の葉と実。そして、帰路に小さなハーブ店で買ったシナモンスティック。実りは豊かに。けれど、派手過ぎず。最後に、純白のリボンを巻いて。 「……出来た」 なかなかの出来栄え。納得した様に、ウンと頷く。 完成したリースは、二つ。彼の部屋の分と、自分の部屋の分。そして……。 指差し確認をしていた手が、止まる。そこに在るのは、赤い実をつけたヤドリギの枝。 本来は、玄関の外に飾る魔除け。だけど、同時にとある『風習』がある。考えた途端、顔がカァッと熱くなる風習。何だか、持って行き辛い。 けれど、今夜は一緒に過ごす約束。破る事は出来ないし、そのつもりもない。それに、飾りはこちらが用意すると言ったのも自分。 しばしの躊躇の後、決心した様に枝を掴んで立ち上がる。 たまには、こんな度胸も必要なのだ。 少し後。主のいなくなった部屋。入り口傍には、リースが一輪。そして、戸の外にはたおやかに揺れるヤドリギ、一本。 「カグちゃん? 入って。ご飯、もう少し待ってね」 たどり着いた彼の部屋。同じ様に飾るヤドリギ。戸を叩くと、そんな声が聞こえた。 ちょっとだけ、心臓が跳ねる。いつもと違う、高揚感。誤魔化す様に、呼びかける。 「ヴォル。リース、持って来たよ」 開ける、戸。フワリと溢れ出る、良い香り。部屋に入ってキッチンを覗くと、奮闘するヴォルフラムの姿。丁度、主役であろうロールケーキの生地をオーブンに入れるところ。色から、『ココアフレーバーかな?』等と推測しながらカウンターに座る。 「ヴォル、何か手伝う?」 声をかけると、こっちを振り向いた。ニッコリと笑いかけながら、ボウルに白身と分けた卵黄を入れる。 「大丈夫。後は装飾のクリーム作るだけだから」 喋りながらも、ヴォルフラムの手は止まらない。最後の仕上げは、バタークリーム。市販だと、固くて舌に重いのも多い。けれど、彼が作るそれは口当たりも軽く、まるで別物。知っているなら、顔が綻ぶのも致し方なし。 「小型のスタンドミキサー買ったから、パータボンブのもったり重たいバタークリーム作っても腕が痛くならない!」 得意げに胸を張るヴォルフラム。何だか、可愛い。 「……ヴォル。料理、楽しい?」 何となくの、問い。 「料理? うん、楽しいよ」 カグちゃんに、食べて欲しいからね。 少しの照れもなく、そんな事を言う。いつもの、彼。いつもの、やり取り。普通の事。でも、今は妙に嬉しい。頬が、火照る程に。 (……少し、変かも……) シャンパンは、まだクーラーの中。酔うには、些か早いのだけど。灯る熱を誤魔化す様に、次の質問を口にする。 「食堂も、忙しそうだったよ。ヴォルくらい上手なら、手伝い頼まれたんじゃ?」 「うん。頼まれた」 間を持たずに返ってきた言葉に、目をパチクリする。 「でも……」 「断ったから」 「どうし……」 紡ぎかけた言葉が、途中で途切れる。ヴォルフラムが、こっちを見ていた。真っ直ぐに見つめる瞳。金と青の視線が、『分からない?』と問う。トクンと心臓が跳ねて、思わず俯く。疼いていた火照りが、熱へと変わる。 しばしの間。視線は逸らしたまま。けれど、感じる。求め続ける、視線。黙っている事が、酷く不誠実な行いに思えた。だから、おずおずと答えを紡ぐ。 不安と。期待と。ほんのちょっとの、自惚れを込めて。 「……私を……優先したの?」 キシリ。 小さく響く、軋む音。 気づくと、いつの間に近づいたものか。エプロンを外したヴォルフラムが、隣に座っていた。顔が、近い。思わず後ずさろうとしたら、ガシッと肩を抱かれた。 優しい。けれど、とても強い力。意思が、伝わる。 ――逃がさない――。 「……正直に、言うよ?」 謳う、声。いつもよりも甘く感じるのは、気の迷いだろうか。 「今年こそ、なりたい。幼馴染から、本当の恋人に」 鼓膜が、揺れる。いや、震えたのは自分自身。 「君を、僕だけのモノにしたい」 注がれる、言の葉。 「キスも、したい」 どんな甘露よりも、甘く。 「それ以上も、したい」 どんな美酒よりも、香しく。 ただただ、思考を犯す。 恋人。 それ以上。 孕む、意味。分からない、筈もない。灯っていた熱が、収まらない。それどころか、どんどん燃え上がる。いっそ窓を開け放って、降りしきる雪を思いっきり頭に被りたい。 けれど、そんな奇行出来る訳もなく。 脳内は混乱の極み。だけど、理解もしている。その奥に、酷く冷静な自分もいる事を。凪いだ心に期待と喜びを抱いて、『それ』に応えようと待つ自分が。 「ダメ?」 確認する様に囁く、声。少し、震えていた。ああ、そうか。彼も、また……。 悟ってしまえば、全ての不安は消え失せる。ゆっくりと頭を振って、広い胸に身を委ねる。 頭上に、ヤドリギの飾りはない。でも、それに何の問題があるだろう。拒む理由なんて、ありはしない。だって、扉を開ける事を望むのは、自身もまた同じだから。 でもやっぱり、恥ずかしいのはどうしようもなくて。 瞳を閉じて、顔を上げる。囁かな、了承の合図。出来るのは、これが精一杯。それでも、重なる心。想いは通じる。感じる、歓喜の気配。大きな手。暖かい、手。頬に触れる。優しく。愛しく。羽化したばかりの蝶を、包む様に。 そして……。 恍惚の時間は、ほんの一時。 唇に触れる感触と、甘い吐息の残り香。惜しむ様に離れるのを待って、目を開ける。ぼやける視界は、滲んだ涙の為か。それとも甘美な熱の為か。潤む陶酔。中心にあるのは、嬉しそうな。けれど、少し照れくさそうな彼の顔。 はあ、と息を吐く。頭が、クラクラする。まるで、微熱に浮かされる様。ポ~っとしていると、心配そうに覗き込まれた。 『大丈夫?』。声が形を成す前に、腕の中にポスンと委ねる。抱きしめられる。心地良い。例え様も、ない程に。 トクトクと鳴る、心臓の音。彼の鼓動も、ちょっと速い。同調するリズム。押し出される様に、まろび出る言の葉。 「ねぇ……」 「何?」 「私、その……ディナーの後に、貴方に食べられるの?」 一瞬、惚けた様に間が空いた。潮が引く様に収まる微熱。代わりに押し寄せる、別の熱。真っ赤に染まる顔。飛び跳ねる様に身を起こすと、アワアワしながら弁解する。 「あ、あのね、ヴォル? 今のはね? あのね? そのね?」 呆気に取られていた彼が、プッと吹き出す。 「口付け後の第一声が、それかい?」 クスクス笑う。何か、妙に余裕。今の今まで、一緒にドキドキしていたくせに。何か癪に障って、プゥとむくれる。文句の一つも言おうとしたけど。 その前に、グイと抱き寄せられた。髪に、唇を寄せる気配。また、動悸がぶり返す。それを知ってか知らずか。彼は言う。 「まぁ、本当は頂きたい所だけど……。多分、それをやっちゃうと……」 言葉が終わる前に、寮の何処からか大きな怒声が飛んできた。よく、知っている声。寮母さんである。大方、何処かのカップルが一線を越えようとした所を摘発されたのだろう。 声の余韻が消えるのを待って、大げさに溜息をつくヴォルフラム。 「あんなふうになるから……」 「………」 「……今日は、我慢しとく」 ちょっとポカンとして、吹き出すカグヤ。ヴォルフラムもまた、一緒に笑う。そんな二人に気を使う様に、オーブンが焼き上がりの合図を控えめに鳴らした。 窓の外。淡い淡い、夜の色。 深々と雪舞う世界に、二人の笑い声は溶けていく。 あえかな安らぎ。 束の間の安息。 明日からはまた、苛烈な戦いの日々が始まる。 でも。 だからこそ。 今はこの穏やかな時間に、詰め込めるだけの祝福を。 そして願わくば、次の世にもこの喜びが継がれん事を。 想いは儚く。けれど、強く。 何処か遠くで、鈴が歌った。
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*** 活躍者 *** |
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