~ プロローグ ~ |
1719年12月――教皇国家アークソサエティは、今年もクリスマスムードに包まれています。
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~ 解説 ~ |
現代社会とは、起源などが異なっていますが、基本的なイメージは同様のイベント内容になっています。
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~ ゲームマスターより ~ |
※イベントシチュエーションノベル『聖なる夜は終わらない』の対象エピソードです。 |
◇◆◇ アクションプラン ◇◆◇ |
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7
何故こういう事になったのか 二人が本気の勝負をしてみたら などと他愛ない話は先日確かにした もしもの話だ しかし今 明かりだけが煌々とした観客のいない夜のコロッセオにヨナと二人 どうやってか許可を取り付けてきたらしい ベ 本当にやるのか ヨ その為にわざわざここに来たんです …それともこのままに帰って 部屋で仲良くケーキでも食べます? 買ってありますよ ベ 俺はそれでも良かったんだが な 言いながらお互い構え 神経を研ぎ澄ます 喰人 以前の試合#85では俺に利があったが 今回は果たして ヨナの脅威はリーチと威力の強さ 相手に近寄らせない この猛攻を潜り抜けどう近接に持っていけるかだ 大技を出させた隙に縮地で一気に間合いを詰めて決める ヨ 与太話だけを理由にこの場を設けた訳じゃない 前から試してみたかった 自身の実力と 喰人さんとの真剣勝負を 近付かれない内に決めたい所ですが当然そうはさせないでしょうね 近接に持ち込まれてからでいい 喰人の隙をどう作るか |
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~ リザルトノベル ~ |
○勝負は不意打ちで
それは気持ちの良い晴れた日のことだった。 「私とベルトルドさんが本気で戦ったら、どちらが勝つでしょう?」 訓練を終えた後の、ちょっとしたお茶会。 茶菓子の代わりに『ヨナ・ミューエ』が、それを話題にしたのは、以前の訓練を思い出してのことかもしれない。 「本気で勝負か……」 即答はせず『ベルトルド・レーヴェ』は黙考する。 しばし時が過ぎ、香りの良いお茶でのどを潤してから、ベルトルドは応えた。 「難しいな。お互い、手の内は知っている。だから、虚を突けた方が勝つかもしれない」 「虚、ですか?」 ベルトルドの言葉を吟味するように繰り返し、ヨナは続けて言った。 「それは、フェイントのような物、ということですか?」 「それもある。正確には、それも含めたものだな」 そこまで言うと、ベルトルドは小さく笑みを浮かべる。 「どうしたんですか?」 「いや、なに。師匠の言葉を思い出しただけだ」 「ベルトルドさんの、お師匠様、ですか?」 興味深げに聞き返すヨナに、ベルトルドは返す。 「ああ。軍師に正道詭道があるように、武術家には虚実あり。虚実入り混ぜ戦うが、武術家の本道なりってな」 「……それは、どういう意味なんでしょう?」 「そうだな……」 説明するために言葉を選び、ベルトルドは応える。 「虚実の実は、日々の鍛錬で身につけた自力。これをそのままぶつけること。自分の力の活かし方だ。 それに対して虚は、相手の力を出させないこと。そのための工夫だな」 「……自分は全力を出せるようにして、相手には力を出させないようにする、ということですか?」 「ああ、そういうことだ。それなら、自分よりも強い相手に勝てるかもしれない。そのための方法が、騙しと不意打ちだ」 「騙しと不意打ち、ですか……」 「そうだ。さっき言ってたフェイントは騙し。これは肉体的な技法が強く出る。それに対して不意打ちは、相手の心理を読む、先読みの技法だ」 「……なるほど、興味深いですね。ベルトルドさんのお師匠様は、それを実践できる達人だったということですか」 「そうだな。実際、この話をされた時に使われたからな」 「どういうことです?」 不思議そうに尋ねるヨナに、ベルトルドは苦笑するように答えた。 「この話を聞かされた時に、今のヨナのように考え込んでしまってな。その隙を突かれて、財布を掏られて花街に逃げられた」 「……それは、その……う~ん」 なんと返せばいいのか悩むヨナに苦笑しながら、ベルトルドはお茶を楽しむ。 その間も悩むように唸っていたヨナは―― 「有効なやり方ではありますね。だとしたら……」 そこまで呟くと、何か思いついたのか表情を明るくした後、うっすらと赤面する。 「どうかしたのか?」 「え、いえっ、なんでもありませんっ」 慌てて返すヨナだった。 そんなことがあった次の日。 夜、ヨナに指定された場所に訪れたベルトルドは、軽く夜空を仰いでいた。 (何故こういう事になったのか) 思い返すまでもない。 先日した、2人が本気の勝負をしてみたら、という他愛のない話。 それは、もしもの話のつもりでいた。 しかし今、明かりだけが煌々とした観客のいない夜のコロッセオに、ヨナとベルトルドは2人きりで居る。 (どうやってか、許可を取り付けてきたらしいな) その実行力には、心から感心する。 とはいえ、さてどうしたものかと思いつつ、ベルトルドは向き合うヨナに問い掛ける。 「本当にやるのか」 「その為に、わざわざここに来たんです」 ヨナの声には意気込みが感じられる。 同時に、ベルトルドの意思を無視している訳でもない。 「……それともこのまま帰って、部屋で仲良くケーキでも食べます? 買ってありますよ」 期待と不安を入り混ぜた眼差しで、ヨナはベルトルドを見詰める。 (まずは突っ走り、そのあとに不安になるのは、ヨナらしいな) 思わず苦笑する。 それはヨナの在り様を肯定する笑み。 感情のままに突き進むヨナに、自分にないものを感じ取り、それを後押ししてやりたいという気持ち。 いつもなら、ヨナの行動をベルトルドが助け支える。 だが今この場で、ヨナの感情をぶつけられているのは自分だ。 なら、取るべき行動はひとつだろう。 「ケーキか。俺はそれでも良かったんだが、な」 そう言いながら、ベルトルドは脱力する。 それは戦いの準備。 ヨナは、ベルトルドの動きを見て、自分も戦いの準備をする。 静かに、体内魔力を活性化。 いつでも攻撃魔術を撃てる準備をしながら間合いを読む。 ゆっくりと距離を取る。 おおよそ、概算で15m。 それがヨナとベルトルドの間合いだ。 (この距離なら、間合いを詰めて攻撃するのに、2手掛かりますね。確実に、私が先に攻撃できる。でも――) ヨナの脳裏に浮かぶのは、以前の訓練での結果。 あの時は、ベルトルドを攻める形での勝負だった。 しかし今日は違う。 狙うは虚を突くこと。 勝負は、それで決まる。 すでに戦いは始まっていた。 それは相手がどう動くかの読み合い。ベルトルドも、ヨナの動きを予想しながら、戦いの手順を組み上げる。 (ヨナの狙いは、後の先か) 武術家として、ベルトルドはヨナの動きを読む。 (ヨナの脅威はリーチと威力の強さ。巧く立ち回られると、近寄ることもできんな。その猛攻を潜り抜け、どう近接に持っていけるかだ。問題は、こちらの動きを読まれることだな) 今まで指令を共にこなす中で、ベルトルドはヨナの動きを見ることなく、放たれる魔術に合わせ動くことが出来るようになっている。 それは共に重ねてきた時間があったればこそだが、それだけに、ヨナもベルトルドの動きは理解している。 (普段と同じ動きなら、千日手になる。時間を掛ければ、ヨナの魔力が切れる方が早いかもしれんが、それはヨナの求める決着ではないだろう) だからこそ、ベルトルドも虚を突くことを狙う。 お互いが戦いの手順を組み上げ終わり、開戦の声を告げたのはベルトルドだった。 「いけるか?」 「いつでも」 ヨナの応えと共に、ベルトルドは疾走した。 獲物を狩る獣の如き速さで、一気に間合いを詰める。 その動きは直線。まっすぐにヨナを目指す。 (来た――!) ベルトルドの動きに合わせ、ヨナはソーンケージを発動。 魔力で形作られた茨が、ベルトルドを絡め取ろうと顕現する。 だが、ベルトルドは居ない。 ヨナがソーンケージを発動するのに合わせ真横に跳躍。 射程圏外に移動すると、即座に間合いを詰めに行く。 その動きに、ヨナは反応する。 エアースラストを発動しベルトルドが回避に動くと、その動きに合わせ距離を取る。 それはまるで、舞踏のように。 お互いを知るからこその美しい攻防。 繰り返す攻防の中で、ヨナは思う。 (前から試してみたかった) それは自分とベルトルドの真剣勝負を求める想い。 (近付かれない内に決めたい所ですが、当然そうはさせないでしょうね。 近接に持ち込まれてからでいい。そこで隙を作ります) 対するベルトルドは勝負に動く。 ヨナがソーンケージを発動させるべく魔力を術式に込める。 まだ距離はある。 そう思った瞬間、間合いを詰められた。 「――っ!」 声を上げる余裕すらない。 瞬きひとつ。 その瞬間に、間合いを詰められた。 (ニホンで稽古をつけて貰った甲斐があった) それはニホンで、師匠の友人だという達人との勝負で得た経験。 あの時の勝負をヨナは見ていない。 だからこそ、その時の動きを真似た今の動きに対応できなかった。 「勝負あったな」 ヨナの右手を掴み、鳩尾に拳を寸止めし、ベルトルドは決着を告げる。 周囲に音は無く、見詰め合う視線は絡み合う。 2人だけの瞬間に、ヨナは応えを返さず、力を抜く。 反射的に支えようとするベルトルドに、ヨナは身体を預け、唇を重ねた。 「――っ!」 虚を突かれ思わず仰け反るベルトルド。 その隙を逃さず、ヨナはエアースラストを放つ。 切り裂く鋭き風はベルトルドに届く寸前、涼風と化し、決着の時を告げた。 「勝負ありましたね」 微笑むヨナに、ベルトルドは視線を逸らせない。 (やられた) ベルトルドは敗北を自覚する。 けれどそれ以上に、今は自分の息の音を煩く感じてしまう。 それは敗北したからか、それとも―― 「……思いのほか、効果がありました」 艶のある笑みを浮かべながら唇を指でなぞるヨナの仕草に、ベルトルドは堪えるように視線を逸らす。 そんなベルトルドに勝利を感じながら、ヨナは遊ぶような声音で言った。 「私相手に詰めが甘いですよ」 「全く、お前という奴は」 差し出されたヨナの手を取り、ベルトルドは息を抜く。 (最初から、勝ち筋は無かったか) ベルトルドは思う。 本来なら、ヨナの手を捕えた瞬間に止めを刺すのが正解だ。 けれどヨナ相手だからそこで止めたのだし、ヨナはそれを見込んだのだろう。 若干釈然としないが、油断したのは自分。ぐうの音も出ない。 軽く、ため息ひとつ。 そんなベルトルドに、ヨナは手を繋いだまま言った。 「実は買ったケーキ、お店につけをお願いしています。ベルトルドさん、払っておいてくださいね」 「そんな約束は……まあケーキで済むなら安いものか」 小さく苦笑して、ベルトルドは頷いた。 そして2人はコロッセオを後にする。 その日、2人で食べたケーキは、とても甘かったという。
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*** 活躍者 *** |
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