~ プロローグ ~ |
闇夜には光が、旅路には道標が。 |
~ 解説 ~ |
このエピソードはアークソサエティ北部のヴァン・ブリーズ地区へ赴き、灯台の装置の試運転に協力するものです。 |
~ ゲームマスターより ~ |
PCの皆さま、PLの皆さま、こんにちは。久木です。 |
◇◆◇ アクションプラン ◇◆◇ |
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試運転を手伝う 魔力を込める 優しく?それとも強く? 加減が難しそう、がんばろう、イダ イダが任せてくれっていうから、最初の数回は任せるけど あんまり仕事しないのも嫌だから、手伝う 一回くらいは役に立ちたい 2人で魔力を込めたらだめかな? ん、言ってみただけ 散策はせず、食事をとってもらう ハンバーガー二つと、あたしはコーラ、イダはお茶 夜空を見ながら静かに語り合う 「イダの家族はどうしてる?」 「あたしの家族は、あたしがいなくても元気にやってる」 「あたしを必要としてくれるのは、今はイダだけ」 「にーちゃんもきっと、それぞれに生きてると思う」 イダの言葉に、頷く 「うん、焦らないで探す。ありがと、イダ」 |
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到着後灯台守に挨拶。 万全の状態で灯台を貴方にお任せできるよう努力します 一晩中装置の傍にいようと思っていたのだけど カロルがさっきから僕の袖を引いてる 「もしかしてここを離れないつもり?」 うん 「すぐに飽きるわ」 指令だよ 「説明にもあったでしょう? 少しなら散策しても構わないって」 でも…… 「いいこと? これはある意味訓練よ」 訓練? 「緊急時にどれだけ速く集合場所に戻れるか。 また、限られた時間内での栄養補給も大切だわ」 そうなの? 「そうよ」 合図にすぐ気づけるよう視界端に灯台確認しながら カロルに付いて林散策 「鳥の声ひとつ。さっき聞こえたの」 二人して耳澄ます 装置へ魔力送る時は少量から徐々に適量へ 呼吸整え調整に気を遣う |
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目的 灯台の装置の試運転に協力する。 会話? マリオス: 灯台装置の試運転に立ち会うなんて、めったにない機会だなあ。 (装置や稼働状況を観察したり、灯台守さんに質問したり…) シルシィ: …(マリオス、楽しそう…)。 (見た目ぼーっと待機。出力低下時にはすぐに魔力供給、なのだがあまり出番が無いのでちょっと退屈) マリオス: …シィ、もしかして眠いのか? ああ、そうだ。間で散策に行ってもいいって話だったから。眠気ざましにいくか? シルシィ: (…眠くはない、けど) ん。 灯台守さん、出力低下したらすぐに呼んで。 (とことこと灯台を出て岬の方へ) マリオス: ほら、シィ、ランタン貸してみろ。 そこに段があるから…。(手を差し出し) |
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・目的 装置の試運転 パートナーとなった喰人、シキがどういう人なのか知る ・試運転 アル:魔力、注げば良いのか……複雑そうに思えたが シキ:ああ、俺らのすることとしては受付の人の説明通りに進むかもな! 効率が落ちてくればその都度供給 もしどちらかが眠ってしまったら、どちらかが起こす 任務に真剣に取り組んでいる為、シキは案外真面目なのかも、と考える ・散策 アル:あんま気にしてなかったが、空も遠くも、悪くない シキ:素直に『キレイ』って言えばいーのに アル:……うるさいな 灯台の目の前まで降りる 休憩中は、思ったことをガンガンぶつけてくるから、オンオフはしっかりしてる? |
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◆試運転 ・自分の魔力で灯台が動いた事に少し感動 わ、わたしなんかの魔力でも…動くんです、ね…。 ◆間に ・自分の事を話してみる あの…瞬さん、少し…お話、しても良いです…か? …わたし、この前終焉の夜明け団を目の前にした時… 正直頭が真っ白になりました。 …止めて下さらなかったら… もっと足でまといに…なってました…。 わたし、終焉の夜明け団に …母さんと父さんを殺されてるんです…五歳の時、でした。 子供の時の記憶だからか…鮮明に覚えていて… 生暖かい血の感触や冷たい体温が忘れられなくて… 彼等を見て誰かが危ないと、つい前に出てしまうんです。 瞬さんはいつも自信づけようとしてくれますよね。 …ありがとうございます、瞬さん。 |
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行動 待機室に引きこもりっぱなしってのも体に良くないし 近くへ散策に行ってもいいか確認してから、ちょっと海でも見に行こうか 「僕、こんなにゆっくり海を見たのは初めてかもしれないなぁ」 ん?僕が生まれた所?あぁ、ルネサンスの北部だね 言ってなかったっけ? 「……多分、聞いたこと、なかったと思う」 最近まで、忙しかったし…あんまり、お互いの事とか話す事ってなかった、かな どうだろう? うーん…話す時間はたくさんあったと思うけど、まあ勉強がね、大変だったよねぇ ……特に僕が。 僕のが年上なのに字も書けないとか、かっこ悪いよね… …ヴォルは、がんばったよ? |
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灯台の光源装置の試運転…これも大事な任務ですよね。 灯台は船に乗る人にとっては大事な目印です。 広い海で迷わないための灯火。 それを灯すお手伝いができるのはちょっと嬉しいですね。 きちんと光源装置が機能できるよう頑張りますね。 …緊張しすぎですか?確かにそうかもしれません。 やっぱりこんな大事な任務が出来るなんて嬉しくて。 夜食のパンとお菓子…あれ?こんなお菓子配給されてましたっけ? えっ?ロメオさんが持ってきたものなんですか?ありがとうございます。 男の人が甘い物をですか?私はいいと思いますよ。 楽しみを共用できるのは嬉しいですから。 ロメオさん一服するって出て行ったきり帰ってきませんねぇ見に行ってみましょうか。 |
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・ツバキ この装置に魔力を送ればいいのね? サザーはやらないでしょうし、ワタシを呼んでくれればいいわ ここはほんと静かね 岬で波の音を聞きながらゆっくりとしたいわ 灯台守さんが呼ぶまで、何もしないだけの時間を過ごそうかしら 寝転がって、届きそうで届かない星に手を伸ばしてみたり、 少しだけ目を瞑ってみたり サザーに言いつけはしてあるから、自由にさせて大丈夫よ ・サザーキア 夜だニャ、ボクの時間だニャー! ツバキには色々言われたからしっかり守るニャ でないとおやつとか猫じゃらしとか禁止になるニャ! いっぱい歩いて回って気になるものを探してみるニャ 何もないならツバキのそばにいるニャ 一人もいいけど、ツバキの隣が落ち着くのニャー |
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~ リザルトノベル ~ |
ヴァン・ブリーズ地区第38番灯台は、岬に立っている背の低い灯台だ。最寄りの町からは徒歩で15分ほどのここが、今回の任務の舞台だ。第38番灯台には灯台守の老人が一人と、教団の『魔術鍛冶屋』から派遣されてきた技師が一人。あなたたちは二人と共に、任務にあたることになっていた。 ●第1夜 『アラシャ・スタールード』 『イダ・グッドバー』 装置のメイン灯が、頼りない光を放ち始めた。灯台守が仮眠中の技師を起こしに行くと、アラシャは任務に備えて装置のマニュアルを再確認する。 「魔力の込め方、加減が難しそう」 「ま、最初は任せてくれよ。そのほうが分かりやすいだろ?」 緊張するアラシャの心を、イダが解きほぐす。すると階下から灯台守と技師が現れた。技師は手早く点検を終えてから、浄化師に作業開始を伝える。イダはそれに応じてゆっくりと魔力を注ぐ。 「こいつはちょっと……難しいな。いい訓練になりそうだ」 明るさを微妙に変える光に手間取りながらも、彼は作業をこなしていった。 「あたしもやる。あんまり仕事しないのも嫌だから」 何度目かの出力低下時にアラシャが言った。イダの予想した通りの展開に、彼は笑顔で場所を譲る。初めは手間取っていたアラシャだったが、メイン灯の光量は順調に安定していった。 「ところで、二人で魔力を込めたら駄目かな」 「二人でか。言われてないし、やめといたほうがいいな」 「ん、言ってみただけ」 今のやり取りを聞かれただろうかと、アラシャは同席の二人を見る。灯台守はじっとメイン灯を見守っており、寝起きの技師はぼんやりと水平線を眺めていた。そのことに、彼女はほっと胸を撫で下ろすのだった。 「イダの家族、どうしてる?」 「元気にしてるみたいだぜ。便りもあるし、俺もしてる」 休憩中、二人は配達された夜食を展望室で食べていた。 「アラシャはどうなんだ? 兄ちゃんがどうとか言ってただろ」 ハンバーガーの包みがかさりと鳴る。アラシャの家族は、彼女なしでも元気にやっているはずだ。それを考えると、星空もどこか寒々しく見える。 「あたしを必要としてくれるのは、今はイダだけ。にーちゃんもきっと、それぞれに生きてると思う」 「そっか。でも、こそばゆいな。俺もアラシャが必要だ」 水筒の茶を一息に飲み干してイダが言うと、アラシャが彼のほうを向く。 「兄ちゃんのほうは、あれだ。見つかったらでいいんじゃないか? 俺たち、まだ浄化師になったばっかだしな」 ――焦らず探せ。言葉の奥からそれを読み取ったアラシャは、表情を緩めて頷く。 「うん。ありがと、イダ」 イダはいつものように爽やかに笑って、フィッシュバーガーを一口齧る。アラシャの手の中にある瓶では、春の夜空を映したコーラの泡がぱちぱちと弾けていた。 ●第2夜 『リームス・カプセラ』 『カロル・アンゼリカ』 「リームス・カプセラ。万全の状態で貴方に灯台をお任せできるよう、努力します」 西日の差す待機室で、リームスは灯台守に挨拶する。あまりにも大人びた言葉に老人は驚くも、すぐに表情を緩めて挨拶を返した。彼には、二人よりも幼い孫が居るらしい。 「ねえリームス。私たち、少年少女に見られているわ」 「そうだね。僕たちは子供のヒューマンによく似てるから」 階段を上りながら嬉しそうに話すカロルに、リームスは至極当然といったふうに答える。彼らはマドールチェの浄化師で、これが初めての任務だった。 「もしかして、一晩中ここを離れないつもり? すぐに飽きてしまうわ」 リームスの袖を引いて、カロルが悪戯っぽく笑う。少しなら散策しても構わないと説明されたこと、そして息抜きもある意味訓練なのだという彼女の主張を、リームスは真面目な顔で受け入れた。 「いいこと、リームス。これは小さな物音を聞き分ける訓練。あなたも耳を澄ましてちょうだい」 小声で囁くと、彼は無言で頷く。カロルは音楽や声など、音に関したものに強い関心を抱く性質がある。 「鳥の声ひとつ。さっき聞こえたの」 灯台付近の林に棲息する、夜行性の鳥。それこそが歌声の主だと灯台守は言っていた。 息を潜めてじっと待つ。波が旋律を奏で、風が葉擦れのコーラスを歌う。 ――その中で、美しい鳥の声がした。 「鳥だ、カロル」 「ええ、ええ! 分かっているわ!」 彼女が音一つで何故こうも嬉しそうにするのか、情緒面の未成熟なリームスにはまだ分からない。だが彼には既に、彼女の瞳や星空を美しいと思える心があった。彼はその光に、見とれていた。 それから二人は灯台へ戻り、本来の任務を遂行する。鳥の姿を探そうとしたとき、リームスがランタンの灯りを目にしたからだ。装置の傍で待っていた技師が、二人で魔力を注ぐよう指示する。まずカロルが、そしてリームスが呼吸を整えて合わせる。微量から少量へ、少量から適量へ。カロルがパートナーの様子を窺うと、彼はまっすぐに装置だけを見ていた。 ――真面目で良い子。でも、私にあまり構わないところは不満だわ。 リームスの真面目な姿に、彼女の悪戯心が再び顔を覗かせる。 二人の浄化師としての人生は始まったばかり。彼らに与えられた運命を、少なくともリームスはまだ知らない。 「すべてすべて――薔薇の下」 誰にも聞こえないよう呟いて、彼女は再び魔力を注ぎ始めた。明け方の空に、白い月がぼんやりと浮かんでいた。 ●第3夜 『シルシィ・アスティリア』 『マリオス・ロゼッティ』 (……マリオス、楽しそう) 椅子に腰かけてシルシィが考える。一見すれば気を抜いて座っているようにしか見えない彼女は、決して油断をしているわけではない。何かあればすぐにでも動けるようにしてあるのだが、とにかく出番が無かった。 「ではここで、魔力を圧縮しているんですね。確かに作りが複雑だ」 指令を受けた時から興味津々だったマリオスは、灯台守や技師に休みなく質問する。設置式の大型魔術道具の、それも試運転に立ち会うなど、滅多にあるものではない。シルシィ自身も興味がないわけでもなかったのだが、ここまで自分の役目が無いとなると退屈だった。 「――ィ、シィ。もしかして眠いのか?」 ゆっくりと目を開けると、マリオスが顔を覗き込んでいた。技師と灯台守も心配そうな顔をしている。 「間に散策に行ってもいいって話だっただろう。今は装置も安定してるみたいだし、眠気覚ましに行くか?」 マリオスに短く答えると、彼女は腰に結わえたランタンを取って階段を下りる。 「灯台守さん、出力が下がったらすぐに呼んで」 老人はこくりと頷いて二人を見送る。時刻は、夜半を回ったばかりだった。 岬の最先端は、灯台の周辺で最も美しい景色の場所。石畳の敷かれた道を通って、欄干の近くまで行こうとした矢先、マリオスが前方に出てシルシィを制止する。 「ほら、シィ。ランタン貸してみろ。段差があるから……」 視線を少し先へ向けると、踝ほどの高さの段差があった。拍子抜けしたような顔で彼女は段差を乗り越える。 石材の欄干に身をもたせ掛け、潮風を胸いっぱいに吸い込むと、波の音と星空に全身を包み込まれるようだった。マリオスもいつの間にか彼女の傍へ歩み寄っており、二人はしばらくの間、空を見て過ごしていた。 「――シィ、合図だ。戻ろう」 「ん、分かった」 老人の振る灯りに気付いた二人は、足早に灯台へ戻る。帰り道では、ランタンを受け取ったマリオスが先導していた。 二人が装置のフロアへ戻ると、技師が手際良く指示を飛ばす。二人が少しずつ魔力を注ぐと、不規則な明滅を繰り返していた光が徐々に安定していく。出力の低下はそれから何度か起こったが、その度に二人は的確に魔力を注いだ。このスムーズな調整には、マリオスが装置の仕組みや構造を理解していたことが大きい。 「消耗は少ないけど、やっぱりちょっと疲れるな」 「……うん、良い訓練になった」 彼女たちが契約したのはかなり前だが、浄化師として活動を始めたのはつい最近のこと。それまでは時々会う程度で、まだ親しいとは言い切れない間柄。だが今回の任務で、互いの距離はほんの少し縮まった。 ヴァン・ブリーズを発つのは明後日の早朝。それまでどこを観光しようかと、白み始めた空を眺めながら少しずつ話し始める二人だった。 ●第4夜 『アルトナ・ディール』 『シキ・ファイネン』 全周をガラス張りにしてあるこのフロアからは、遠くを航行する外輪船の明かりが一つ見えていた。 『ラグナロク』以来、アシッドが多く含まれる外洋を航行する船は少ない。しかしヴァン・ブリーズ地区では、今のような大型の蒸気船や、内海で漁を行う漁船の往来が比較的多かった。外洋を行く蒸気船には歴戦の浄化師が必ず乗船しており、陸上とは比べ物にならない強さのベリアルから船を守るため、命懸けで任務にあたっていた。 「この任務には、仲間の浄化師を守るって目的もあるのか。よし、もっと頑張らないとな!」 技師や灯台守の話を聞いて、作業中のシキが話す。 「……で、今みたいに出力が下がったら、魔力を注げばいいのか。複雑そうな任務に思えたが」 するとアルトナが、灯台守から借りたマニュアルを読みながら答える。 「ああ、俺らのすることとしては、受付の人の説明の通りってわけだ!」 シキは調整に手間取っているものの、教えられた通りの手順を踏むあたり、案外真面目な性格をしているようだった。 二人は魔力の供給を交代で行った。二度目の作業を終えたシキがパートナーの様子を確認すると、彼は慣れない任務で疲れたのか、椅子でうとうとしていた。 「アル、眠いのか? 動力部が安定したから、休憩してくればって技師さんが」 話しかけられて目を覚ましたアルトナは、警戒しながらも提案に乗る。ガラス張りで少し暑いこのフロアを出て、夜風に当たりたかった。 「あんま気にしてなかったが、空も遠くも、悪くない」 灯台の前で、アルトナは星空を見上げる。少し遅れて降りてきたシキは、入り口の扉を閉めてから答えた。 「素直に『キレイ』って言えばいーのに、アル」 「……うるさいな」 「その、適合診断じゃトチっちまったけど、改めて、今後ともよろしくな」 彼の言葉に、アルトナは顔をしかめる。適合診断での「事件」以来、彼は一方的に相棒を警戒していた。悪い男ではないのだろうが、警戒を解くことはできない。彼は思ったことをすぐ言葉にしてはいても、言葉の奥にある感情までは読み取れないことが多かった。それとも彼は、敢えて読み取らせないようにしているのか。 (――いいさ、そのうち分かる) アルトナは踵を返して扉を開ける。分からないことだらけだが、信頼に足る相手ではあるらしい。振り返って見上げた夜空は、宝石を散りばめたように美しかった。他者と接する事をあまり好まないアルトナに目覚めたシキへの純粋な興味に、彼はまだ気付かないでいた。 ●第5夜 『杜郷・唯月(もりさと・いづき)』 『泉世・瞬(みなせ・まどか)』 正午過ぎから降り出した雨は、夜になっても止む気配を見せない。こんな日はトラブルが多いかもしれないと、技師は申し訳なさそうに話していた。瞬は仕事の説明を聞きながら、パートナーの唯月を見遣る。彼女は話を聞いてはいるものの、どうやらあまり頭に入っていないようだった。 (この頃、いづはずっと思い詰めてるみたいだ。今日天気が悪いのも、自分のせいって思ってるみたいだし) 少し前の指令を、彼女はずっと気に病んでいた。だから静かな場所での任務で、彼女に気楽になって貰えたら。そう考えて、瞬はこの指令を受けるよう勧めたのだった。 「わ、わたしなんかの魔力でも、動く……んです、ね」 その日の夜、唯月が見る間に明るさを取り戻したメイン灯を見て言う。彼女は最近自信を失いがちだったが、自分の魔力で装置が動いたことに少し感動しているようだった。 「凄いよいづ、初めてなのにこんなに上手くやるなんてさ!」 いつも以上に褒める瞬に唯月は戸惑うも、ぺこりと頭を下げて再び任務に戻った。 「あの……瞬さん。少し、お話ししても、良いです……か?」 動力部は夜半過ぎにようやく安定した。二人は灯台守の勧めに従い、展望室で休憩を取っていた。 「うん。俺も唯月の話、聞きたい」 瞬は真剣な表情で促す。彼女の重荷を、少しでも取り除きたかった。 「あの時は、正直、頭が真っ白に……なりました」 瞬が止めてくれなければ、あれ以上に足手まといになっていた。彼女は勇気を振り絞り、途切れ途切れに語る。 「……瞬さん。わたし、終焉の夜明け団に、母さんと父さんを殺されてるんです」 幼い彼女の瞳に焼き付いた凄惨な光景。生暖かい血、恐ろしいほど冷たい体温。その記憶こそが、彼女を駆り立てるものの正体だった。 「だから……誰かが危ないと、つい前に出てしまうんです」 打ち明けた彼女の体が、震えていた。 「――凄く怖い目に遭って、それでも一人で凄く凄く、頑張ってきたんだね」 瞬は彼女の両手を優しく、しっかりと握る。自分がここにいると教えるかのように。 「いづ、もっと俺に頼って。これからは俺が隣にいるよ! いづが自信無い時は俺が信じる。いづが道を間違えそうになったら、すぐに手を引っ張ってあげる! だから……ね、いづ。もう一人で、抱え込まなくてもいいんだよ!」 「瞬さんは、いつも自信づけようとしてくれますよね。……ありがとうございます、瞬さん」 「ふふ、どういたしまして。これからもよろしくね、いづ!」 窓を叩いていた雨はいつの間にか止み、雲の切れ間から細い月が顔を出していた。ようやく柔らかくなった唯月の表情を見て、瞬は安堵の溜息をつくのだった。 ●第6夜 『ヴォルフラム・マカミ』 『カグヤ・ミツルギ』 今日の装置は機嫌が良いと、技師が言っていた。一度の作業を終えて待機室で過ごしていたヴォルフラムとカグヤは、ゆったりとした時間を過ごしていた。 「引きこもりっぱなしってのも体に良くないし、散策していいって言われたら、ちょっと海でも見に行こうか」 彼が提案すると、カグヤは無言で本を閉じて下り階段へ向かう。不意を突かれた彼は上のフロアで慌てて確認を取ると、ばたばたと彼女の後を追っていった。 「僕、こんなにゆっくり海を見たのは初めてかもしれないなぁ」 黒い耳を動かしながらヴォルフラムが話すと、カグヤはきょとんとした顔をする。 「僕が生まれた所は、ルネサンスの北部だね。言ってなかったっけ?」 「……多分、聞いたこと、なかったと思う」 最近までは勉強や訓練で忙しくしていたせいか、二人はお互いについてゆっくり話す機会を持っていなかったように思える。十年来のパートナーなのに、不思議なことだった。 「うーん、時間は沢山あったと思うけど、勉強がね。大変だったよねぇ。特に僕が……」 黒い耳がぺたりと寝る。カグヤより年上の彼は、字が書けないことをひどく気にしていた。 「……ううん。ヴォルは、頑張ったよ?」 世辞でも何でもない、心からの称賛。軍事階級にある魔術師の家系に生まれたカグヤは、6歳の頃に喰人だと分かった。診断で候補者を弾き続ける「厄介な子供」だった彼女は、ヴォルフラムと出会って全てが変わる。それから十年が経って、今や彼はかけがえのない存在だ。彼のことを「男性として好きだ」と自覚するほどに。 「これまでは忙しかったけど、これからはヴォルのこと、たくさん知りたい。私の大切な、パートナーなのだから」 だからこれからは、お互いのことを沢山話そう。そう言わなくても伝わることは、よく分かっていた。 8歳の時に教団に連れてこられたヴォルフラムは、適合者が現れず2年もの間放置されていた。祓魔人としても人間としても死にかけていた時に現れたのが、カグヤだ。はち切れんばかりの魔力に意識が朦朧としていたが、あの日の事は十年経った今でも覚えていた。 (それにしても、基本引きこもりなカグちゃんを外に出すために、簡単そうな指令を受けたワケだけど……) 彼女がいつもより生き生きしているような気がして、ヴォルフラムはため息をつく。 (うーん、夜更かし癖つけないようにしないとなぁ。はぁ……) 時刻は真夜中を回ったばかり。今日の任務は、まだまだ長かった。 ●第7夜 『シャルローザ・マリアージュ』 『ロメオ・オクタード』 「灯台の装置の試運転、これも大事な任務ですよね」 日が沈んでまもなくの頃。任務開始を前にしてシャルローザが呟く。灯台の明かりの有無は、船乗りたちの生命に直結するほど重要なものだ。 「目印の明かりを灯すお手伝いができるのは、ちょっと嬉しいですね。きちんと装置が機能するよう、頑張りますね」 彼女は灯台守と技師にぺこりと頭を下げ、準備を始めた。 (お嬢ちゃん、張り切ってるねぇ) ロメオはコートのポケットに手を突っ込んで、少し離れた場所に立っていた。灯台では全フロア禁煙のため、愛煙家の彼は口寂しさを感じていた。 (あんまり緊張しすぎると疲れると思うけど……。まぁ、俺が気を付ければいい話か) 「お嬢ちゃん、緊張してるだろ。ま、とりあえず食べな。甘味は疲れを和らげてくれる、取っておくといいぞ」 動力部が安定したのを確認してから、二人は休憩に入る。疲れが見え始めたシャルローザに、ロメオが夜食のパンと菓子を渡した。 「……そうかもしれません。でもやっぱり、こんな大事な任務ができるなんて嬉しくて」 包みを開けて、菓子を一つ口に放り込む。甘さが疲れた体にじんわりと沁みていく。 「……あれ? こんなお菓子、申請してましたっけ」 「いや、それは俺が持ってきたやつだ。やっぱり変かね、男が甘い物好きなんてのは」 「私はいいと思いますよ。楽しみを共有できるのは嬉しいですから」 あまりにも真っ直ぐな言葉に、ロメオは面食らう。彼から見たシャルローザは、占い師としてやって行けるのかどうかというほどの善良で素直な人間だ。しかし今のように、一言がしっかりしている時がある。 「散歩がてら一服してくる。お嬢ちゃんはもう少し休んでな」 大きく伸びをして、ロメオは階段のほうへ歩いていった。 夜空に散りばめられた無数の星。思い切り煙草を吸って吐き出すと、煙が天の川のように見えた。 「――ん。その足音、お嬢ちゃんか」 「一服するって出て行ったきり帰ってこないので、見にきました」 「すまんな。星を見てたら、思ったより時間食ってたみたいだ」 予想以上の時間、空を眺めていたことに驚く。煙草もついさっきまでは銜えていただけで、吸うことさえも忘れていた。 「見てみなよ、星が綺麗だ」 シャルローザが顔を上げ、感嘆の声を漏らす。街で見るよりずっと眩しい星空が、頭の上に広がっていた。 「これだから、外で吸うのはやめられんね」 灯台の方向から、ランタンの明かりが見えた。 煙草を銜え、ロメオは歩き出す。潮風が、煙をひゅうと流していった。 ●第8夜 『ツバキ・アカツキ』 『サザーキア・スティラ』 「――ここに魔力を送ればいいのね。サザーはやらないでしょうし、ワタシを呼んでくれればいいわ」 説明を聞き終えたツバキは、装置の管理者たちに伝える。振り返って下り階段へ向かうと長い髪がしなやかに揺れ、サザーと呼ばれた猫のライカンスロープの少女は、その動きに釘付けになっていた。 夜も深くなってきた頃、ツバキは灯台を出て岬へ向かった。装置は安定しているようで、まだ一度も呼ばれていない。地面に寝転がると、今にも降り注いできそうな星空が視界いっぱいに広がる。そうしていると、おぼろげに残った「誰か」の記憶が不意に浮かんでくる。 「名前も姿も、どこに居るかも分からないのに、なんでかなぁ」 誰かが心の中に居ること以外の記憶は、欠落していて何一つ分からない。 「逢いたい……。キミに、逢いたいよ……。ほら、ワタシはここに居るから……」 両手を星々へ伸ばす。空はあまりにも高く、手は無数の輝きの一つにさえ届きそうもなかった。 サザーキアは始め、ほんのりと暖かい動力部の傍に陣取っていた。しかし暫くすると飽きたのか、気になるものを探しに待機室へと降りて行った。テーブルに置かれた羽ペンと日誌、壁に掛けられた技師の寝間着と帽子、窓際のソーダの箱。初めての場所で出会う見たことのないものを眺めていると、階上で技師と灯台守が話しているのが聞こえてきた。 元居たフロアに戻ると、装置のメイン灯が明滅を始めていた。屋外に出てツバキを呼ぼうとしたサザーだったが、パートナーの様子を見て屋内へ戻る。 「ツバキは寝てるからボクがやるのニャー、やり方をイチから教えるのニャー! あ、夜はボクの時間だから心配無用ニャ。言われたからにはしっかりやるのニャ!」 でなければ、おやつや猫じゃらしを禁止にされてしまう。真剣そうに言う彼女を、二人の大人は微笑ましく見守っていた。 誰かを探して、意識だけが闇の中を漂っていた時。 よく知っている何かが、ツバキの腹部を揉んだ。 「……ふふ、ちょっと、くすぐった…………」 「あ、起きたニャ」 目を開けると、そこにはサザーが居た。彼女は猫の習性でツバキの腹部を揉んでいた。 「あら、もしかして居眠りしちゃったかしら」 「さっき灯台の人がツバキを呼んでたけど、代わりにやっておいたのニャ!」 「えっ……」 声に気づかないほど深く眠っていたなんて。気が抜けきっていた自分自身にツバキは呆然とする。 「あ、あぁ、そう? ありがとう、サザー」 「一人もいいけど、ツバキの隣が落ち着くのニャー」 動揺に気付かれないよう、彼女の頭を撫でる。撫でられたサザーは、目を細めて嬉しそうにしていた。 ●9日目の昼 三十も半ばを過ぎた技師は、書類にサインしながら調整の完了を灯台守に伝える。彼はこの後、夕方の汽車で早々と首都に戻るのだという。着替えをぎゅうぎゅうに詰めた革のトランクを床に置き、帽子を胸に当てて一礼する彼を、灯台守の老人は入口まで送っていった。 後日、指令掲示板から少し離れた壁に、一通の手紙が掲示されていた。 それは灯台守と彼の幼い孫からの手紙で、整備を手伝ってくれた浄化師たちと技師宛てに送られたもの。綺麗な字と拙い字は、心からの感謝の言葉をそれぞれに綴っていた。
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*** 活躍者 *** |
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該当者なし |
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[8] アルトナ・ディール 2018/04/18-23:28
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[7] ヴォルフラム・マカミ 2018/04/18-21:43
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[6] リームス・カプセラ 2018/04/17-21:02
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[5] シルシィ・アスティリア 2018/04/16-22:48
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[4] アラシャ・スタールード 2018/04/16-19:59
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[3] シャルローザ・マリアージュ 2018/04/16-19:57
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[2] 泉世・瞬 2018/04/16-07:42
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